弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
       事実及び理由
第一 当事者の求めた判決
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人が平成六年七月二二日付けでした平成五年特許願第二二一三一四号の
特許出願の不受理処分を取り消す。
3 訴訟費用は第一、第二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
 主文と同旨
第二 当事者の主張
 当事者双方の主張は、次のとおり当審における双方の主張を付加するほかは、原
判決「事実及び理由」の「第二 事案の概要」の「二 争いのない事実」及び「三
 争点(本件処分の取消事由の有無)」(原判決三頁三行から二一頁九行まで)に
記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決五頁一〇行目の「特許
査定送達」を「特許査定謄本の送達」と改める。
一 控訴人の主張
1 仮に、原判決が判示したとおり、拒絶理由通知において指定された期間の経過
前に原出願の特許査定謄本を送達することが適法であり、その送達の後は、指定期
間内であってももはや分割出願をすることができないとすれば、送達行為という行
政庁の手続によって、適法に分割出願をすることができる時期が影響を受けること
になり、その時期の終期が出願人の与り知らないところで決定されることを容認す
るに等しい。
 分割出願をする利益は出願人にとって重要な法的利益であり、特に重要な発明に
ついて分割出願制度は発明の保護に大きな役割を果たしていることは周知の事実で
ある。このような法的利益を出願人が実現できる時期、期間が、出願人の与ること
ができない審査官の裁量によって制限されることを容認するのは疑問である。特許
法は、出願人が各種の手続を行うことができる時期、期間を明文をもって厳格に定
めており、手続面での法的安定性が特許法全体を貫く精神であることからすれば、
審査官の手続的な裁量行為によって出願人が本来有する法的利益(分割出願の利
益)を奪うことは、特許法の明文の規定がなければ許されないと解すべきである。
 また、拒絶査定をする場合と特許査定をする場合とを区別し、拒絶査定をする場
合には拒絶理由通知において指定された期間の経過を待たなければならないが、特
許査定をする場合にはその指定期間の経過を待つ必要がないとの考え方は、特許法
の明文に根拠のないことである。なるほど、法五〇条は、拒絶査定をしようとする
場合に履践すべき手続を定めた規定ではあるが、拒絶理由通知のあった後は、拒絶
査定と特許査定のいずれの処分も考えられるのであり、法五〇条が拒絶査定をしよ
うとする場合に履践すべき手続を定めた規定であることをもって、その手続を履践
した後の手続を拒絶査定の場合と特許査定の場合とで区別して論ずる根拠とはなら
ない。
 分割出願制度は補正手続制度とリンクし、機能的に補完し合う関係にある。そう
だとすれば、法五〇条の趣旨及び分割出願制度の立法趣旨は、出願人の分割出頭の
法的利益をも保護するものであり、したがって、単に原出願の手続のみを考慮し
て、指定期間経過前の査定(特許査定又は拒絶査定)が許されるか否かを論ずるの
は誤りである。確かに、原出願の手続のみを考えれば、特許査定は出願人の利益で
あるから、指定期間経過前に特許査定をし、その査定謄本を送達したとしても出願
人に不利益はないといえる。しかし、他方において、出願人は指定期間内に分割出
願をする法的利益を有しているのであり、その利益を審査官の裁量によって奪うこ
とは許されない。
 以上のように、分割出願に係る法四四条の規定は特許査定を遅らせてまで補正及
び分割の機会を保証したものではないとする原判決の判示は何ら根拠がない。
2 本件拒絶理由通知書は、いわゆる手交手続によって控訴人に交付された。出願
公告後、手交手続による拒絶理由通知を経て特許査定がされたケースのうち、指定
期間内に特許査定謄本の送達がされた割合がどの程度であるか、原判決のいうよう
に指定期間六〇日の半ばの三〇日以内に特許査定謄本が発送されることが決して異
例ではないかどうか、控訴人は承知していない。また、原判決の判示によれば、特
許査定謄本の送達がされれば分割出願をする余地がなくなるのであるから、特許査
定謄本の送達の場合と、未だ分割出願をする余地を残す出願公告決定謄本の送達の
場合とを同列に論ずべきでもない。
 出願人に対し、指定期間経過前に早期に特許査定謄本の送達があることを前提と
して、分割出願の準備を期待するのは酷である。
 仮に、審査官が原出願に対し、早期に特許査定をすることを予定していたのであ
れば、拒絶理由通知書の手交に当たって法五〇条の期間を短期に指定しておけば、
何ら問題を生じなかったはずである。
二 被控訴人の主張
1 法一七条一項は、明細書又は図面の補正ができる期間(法四四条一項により、
分割出願のできる期間に当たる。)を特許出願の日から一年三月以内であって、出
願公告をすべき決定の謄本送達前と定めるが、審査官は特許出願について拒絶の理
由を発見しないときは、右法定期間内であっても出願公告の決定をし、その謄本を
出願人に送達した後、出願公告をしなければならない(法五一条一項、二項)。こ
のように、特許出願から一年三月を経過する前に、分割出願をすることができる時
期の終期が、出願人の与り知らない事由により決まることは法の予定するところで
ある。
 また、確かに、分割出願が明細書又は図面についてする補正と同様の働きをして
おり、昭和四五年法律第九一号による改正後の特許法においては、分割出願ができ
る時期を補正と同様としたものであるが、そのことから、直ちに、法五〇条が出願
人に対し、その指定期間内に分割出願をする法的利益を保障したということが帰結
できるわけではない。前記改正後の法が、控訴人の主張するような法的利益の保障
を意図していたのであれば、指定期間内に特許査定をすることを許さない旨の規定
が存在するはずであるが、そのような規定は存在せず、右に述べたとおり、出願人
の与ることのできない審査官の手続的裁量行為によって分割出願できる時期が終了
することが予定されているのであるから、法は、その限度で出願人の分割出願でき
る期間に関する利益を保障しているにすぎない。
2 控訴人は本件手交手続による拒絶理由通知を受けるに際して、本件手交手続後
早期に特許査定がされることを予見できたのであるから、本件分割出願は手交手続
と同時に、遅くとも本件原出願に係る特許査定の謄本の送達前にしなければならな
かったのである。
第三 証拠(省略)
第四 当裁判所の判断
一 当裁判所も、本件原出願について特許査定がされ、その謄本が控訴人に送達さ
れたことにより、特許査定が確定した後にされた本件分割出願は不適法であって、
その瑕疵を補正する余地がないものであり、したがって、本件分割出願を不受理と
した本件処分は適法であって、控訴人の本訴請求は理由がないものと判断する。
 その理由は、当審における控訴人の主張につき次のとおり判断を付加するほか
は、原判決の「事実及び理由」の「第三 争点についての判断」(原判決二一頁一
〇行から四〇頁九行まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、
原判決三二頁四行目の「規定していた」を「規定している」と、四〇頁一行目の
「特許査定」を「特許査定謄本」と各改める。
二 控訴人の主張に対する判断
1 法の規定上、願書に添付した明細書又は図面の補正が可能な時期は、特許査定
が確定するまでに限られるものと解すべきことは原判決説示(原判決二一頁一一行
から三〇頁一行まで)のとおりであるところ、法四四条一項は、「願書に添付した
明細書又は図面について補正をすることができる時又は期間内に限り」分割出願を
することができるものとしているのであるから、分割出願をすることができる時期
も原出願の特許査定が確定するまで、すなわち、出願人に対する特許査定謄本の送
達時までに限られるものと解すべきことは同項の解釈上当然であり、法は、分割出
願という法的利益に対し、時期的な面においては、明細書又は図面についてする補
正と同様の範囲においてのみ、その実現の機会を与えているものと解すべきであ
る。
 一方、法五〇条の定める拒絶理由の通知及び相当の期間を指定して意見書を提出
する機会を与えることが、拒絶査定をしようとする場合に履践すべき手続であり、
したがって、拒絶査定をする場合には、指定期間の経過を待ってこれをすることが
出願人の利益を保護するために必要であるが、特許査定をする場合に、なお指定期
間の経過を待たなければならない理由はなく、指定期間の経過前であっても、特許
査定及びその査定謄本の送達ができるものと解すべきことは、原判決説示(原判決
三二頁一行から三四頁七行まで)のとおりであり、指定期間の経過を待たなければ
特許査定ができないとする規定は法に存在しない。その限りでは、出願人の与り知
らぬ審査官の時期的裁量を伴う手続行為によって、補正及び出願分割の終期が定ま
ることは、法の予定しているところであるといわなければならない。
 控訴人は、分割出願制度は補正手続制度とリンクし、機能的に補完し合う関係に
あり、そうだとすれば、法五〇条の趣旨及び分割出願制度の立法趣旨は、出願人の
分割出願の法的利益をも保護するものであり、したがって、単に原出願の手続のみ
を考慮して、指定期間経過前の査定(特許査定又は拒絶査定)が許されるか否かを
論ずるのは誤りである旨主張する。しかし、前説示から明らかなとおり、法は、将
来分割出願がされることを見越してまで、特許出願につき特許査定をするべき場合
に査定を遅らせることを要求しているものではない。
 控訴人の主張は採用できない。
2 控訴人は、本件のように、いわゆる手交手続によって拒絶理由通知書が控訴人
に交付されたケースにおいて、指定期間内に特許査定謄本の送達がされた割合等を
承知していないとか、特許査定謄本の送達の場合と、未だ分割出願をする余地を残
す出願公告決定謄本の送達の場合とを同列に論ずべきでもないなどとして、出願人
に対し、指定期間経過前に早期に特許査定謄本の送達があることを前提として、分
割出願の準備を期待するのは酷であると主張する。
 しかし、原判決説示(原判決三六頁三行から四〇頁五行まで)のとおり、控訴人
は、本件のように出願公告決定謄本の送達後に、手交手続によって拒絶理由通知を
受けた場合には、事前打ち合せに基づく手続補正書の提出により、拒絶理由が解消
され、指定期間の経過前に特許査定謄本の送達を受けることもありうることは十分
予期していたと推認することができ、これをもって控訴人に酷な措置というに当た
らない。
 控訴人は、審査官が拒絶理由通知書の手交をするに当たって、法五〇条に定める
相当の期間として六〇日を指定したことを非難するが、手交手続は出願人の協力を
得て行われる制度的な運用方法なのであるから、出願人と事前の打ち合せを経てい
たとしても、何らかの理由によって手続補正書の早期提出に齟齬を来す可能性がな
いとはいえず、そうであれば、相当の期間として十分な日数を定めることは出願人
にとって有利な措置であるといえても、これをもって不相当な措置であるとは到底
いうことができない。控訴人において分割出願の可能性を考慮していたのであれ
ば、この期間を利用して最適の手段を採ることができたはずであり、これをしなか
った責を他に転嫁するような控訴人の主張は採用に値しない。
三 以上のとおりであるから、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であっ
て、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき
行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決す
る。
(裁判官 牧野利秋 石原直樹 清水節)

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