弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人土井一夫の上告趣意第一について。
 本件の公判請求書には、被告人Aは外数名と共謀の上昭和二三年一月一七日頃午
后(公判請求書には「午后」と記載されている。「午前」と記載されているものと
しているのは上告趣意書の誤りである)七時頃尼崎市a字bc番地B居宅に強盗の
目的を以て侵入し、という事実が記載されている。これに対して原判決は、被告人
等が共謀の上強盗を企て、C方で集合した上で拳銃を持つて右の日時右の被害者方
前に到り、以て強盗の予備を為した、という事実を認定した。即ち両者における犯
罪の時は全く同じく(論旨には時が異なる、と述べてあるが、それは誤りである)、
犯罪の場所も略ぼ同じい。論旨は、公判請求書には、住居侵入の事実があるのみで
あると述べているが、公訴事実単なる住居侵入ではなくて、「B方居宅に強盗の目
的を以て侵入し」たことである。強盗の目的を以て他人の居宅に侵入することの中
には、当然に強盗の予備も含まれているものと認められる。それ故に原判決が認定
した事実との公訴事実との間には同一性は失われていない。原判決は公訴の提起の
ない事実を認定したものではない。従つてこれを不告不理の原則に違背する判決で
あると主張する論旨は採用しがたい。
 同上第二について。
 なるほど原判決中の「その証拠は原判決に摘示するところとすべて同一であるか
らこゝにこれを引用する」という語句は、稍々正確を欠く憾みがないではない。し
かしそれは、本来ならば第一審判決に摘示した通りの証拠を挙示すべきであるのを、
そのことを省略してそれに代えたものであること明かである。従つて原判決にも、
第一審判決に摘示されたと同様の証拠が挙示されたものと認めることができる。唯
裁判所が異なることの当然の結果として、第一審判決書中、被告人証人等の「当公
廷における供述」とある語句は、「第一審の公判調書中の供述記載」と読み易えら
れなければならない。「供述」と「供述記載」とが同一でないことは所論の通りで
あるが、原判決文を全体の趣旨から右のように解するならば、これを以て所論のよ
うに採証の原則に反し、虚無の証拠を罪証に供した違法あるものとすることはでき
ない。論旨は理由がない。
 同上第三について。
 原判決が証拠として引用しているAに対する司法警察官の聴取書中の同人の供述
記載によれば、被告人Aは、他の三名の者と共謀の上B方で強盗をやる計画で、一
月一七日の晩拳銃を第一審相被告人Dに渡したが、B方の戸があかなかつたのでそ
の晩は見合せ、更らに加勢を頼むつもりでかねて盗人と聞いていたEと相談し、同
人方にいた二人の男と一しよに行くことになつた。一月二一日AはDをE宅に遣し
て「今晩やろう」と言わせ、待ち合わせた上で、AとDと中国人ともう一人の男の
四人で出かけたが、途中でAは拳銃をDに渡してd駅で待つていたというのである。
Aが待つている間に、Dはこの拳銃を持つて他の二名の者と共に九時半頃前記B方
に到り、警察官と称し、そのしるしとして拳銃を示し、家宅捜索をした上、Bを申
詐き、その保管の衣類を交付させて騙取したのである。なるほど、被告人Aが、D
等の財物を掠め取る具体的方法につき細部に亘つてまで明確な認識をもつていたと
いう証拠のないことは所論の通りであるが、その仲間の所為の大体はこれを認識し、
これと通謀し、且つ拳銃貸与によつてこれに協力した事実は証拠によつて明かであ
る。原判決は右のような証拠に基いて、被告人Aが他の者と共同して詐欺罪を犯し
たという事実を認定したのであつて、所論のように証拠に基かずして事実を認定し
たものではない。論旨は理由がない。
 弁護人当別当隆治は上告趣意書を提出しないから、これに対する判断を示すこと
ができない。
 以上の理由により刑訴第四四六条に従い主文の通り判決する。
 この判決は裁判官全員一致の意見によるものである。
 検察官 田中巳代治関与
  昭和二四年一二月二六日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    穂   積   重   遠

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