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令和元年(受)第1055号,第1056号地位確認等請求事件
令和2年10月13日第三小法廷判決
主文
1第1審被告の上告に基づき,原判決を次のとおり変
更する。
第1審判決を次のとおり変更する。
(1)第1審被告は,第1審原告に対し,5万5110
円及びこれに対する平成28年4月29日から支
払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)第1審原告のその余の請求を棄却する。
2第1審原告の上告を棄却する。
3訴訟の総費用は,これを250分し,その1を第1
審被告の負担とし,その余を第1審原告の負担とす
る。
理由
令和元年(受)第1055号上告代理人谷村和治ほかの上告受理申立て理由及び
同第1056号上告代理人鎌田幸夫ほかの上告受理申立て理由(ただし,いずれも
排除されたものを除く。)について
1本件は,第1審被告と期間の定めのある労働契約(以下「有期労働契約」と
いう。)を締結して勤務していた第1審原告が,期間の定めのない労働契約(以下
「無期労働契約」という。)を締結している正職員と第1審原告との間で,賞与,
業務外の疾病(以下「私傷病」という。)による欠勤中の賃金等に相違があったこ
とは労働契約法20条(平成30年法律第71号による改正前のもの。以下同
じ。)に違反するものであったとして,第1審被告に対し,不法行為に基づき,上
記相違に係る賃金に相当する額等の損害賠償を求める事案である。
2原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1)ア第1審被告は,大阪医科大学(以下「本件大学」という。),同大学附
属病院等を運営している学校法人であり,平成28年4月1日,学校法人大阪薬科
大学と合併した(合併前の名称は学校法人大阪医科大学)。
イ第1審原告は,平成25年1月29日,第1審被告との間で契約期間を同年
3月31日までとする有期労働契約を締結し,アルバイト職員として勤務した。そ
の後,第1審原告は,契約期間を1年として上記契約を3度にわたって更新し,平
成28年3月31日をもって退職した。なお,第1審原告は,平成27年3月に適
応障害と診断され,同月9日から上記の退職日まで出勤せず,同年4月から5月に
かけての約1か月間は年次有給休暇を取得した扱いとなり,その後は欠勤扱いとな
った。
(2)ア第1審原告が在籍した当時,第1審被告には,事務系の職員として正職
員,契約職員,アルバイト職員及び嘱託職員が存在したが,このうち無期労働契約
を締結している職員は正職員のみであった。また,正職員と契約職員は月給制,嘱
託職員は月給制又は年俸制であった。これに対し,アルバイト職員は時給制であ
り,このうち正職員と同一の所定労働時間(以下「フルタイム」という。)である
者の数は4割程度であり,短時間勤務の者の方が多かった。平成27年3月時点に
おいて,第1審被告の全職員数は約2600名であり,このうち事務系の職員は,
正職員が約200名,契約職員が約40名,アルバイト職員が約150名,嘱託職
員が10名弱であった。
イ第1審原告が在籍した当時,正職員には,学校法人大阪医科大学就業規則
(以下「正職員就業規則」という。)のほか,就業規則の性質を有する学校法人大
阪医科大学給与規則(以下「正職員給与規則」という。)及び学校法人大阪医科大
学休職規程(以下「正職員休職規程」という。)が適用されていた。これらの規則
等に基づき,正職員には,基本給,賞与,年末年始及び創立記念日の休日における
賃金,年次有給休暇(正職員就業規則の定める日数),夏期特別有給休暇,私傷病
による欠勤中の賃金並びに附属病院の医療費補助措置が支給又は付与されていた。
正職員給与規則上,基本給は,採用時の正職員の職種,年齢,学歴,職歴等をしん
しゃくして決定するものとされ,勤務成績を踏まえ勤務年数に応じて昇給するもの
とされていた。また,賞与に関しては,第1審被告が必要と認めたときに臨時又は
定期の賃金を支給すると定められているのみであった。
上記の当時,アルバイト職員には,学校法人大阪医科大学アルバイト職員就業内
規(以下「アルバイト職員就業内規」という。)が適用されていた。アルバイト職
員就業内規に基づき,アルバイト職員には,時給制による賃金の支給及び労働基準
法所定の年次有給休暇の付与がされていたが,賞与,年末年始及び創立記念日の休
日における賃金,その余の年次有給休暇,夏期特別有給休暇,私傷病による欠勤中
の賃金並びに附属病院の医療費補助措置は支給又は付与されていなかった。アルバ
イト職員就業内規上,賃金は,職種の変更等があった場合に時給単価を変更するも
のとされ,昇給の定めはなかった。
(3)ア正職員は,本件大学や附属病院等のあらゆる業務に携わり,その業務の
内容は,配置先によって異なるものの,総務,学務,病院事務等多岐に及んでい
た。正職員が配置されている部署においては,定型的で簡便な作業等ではない業務
が大半を占め,中には法人全体に影響を及ぼすような重要な施策も含まれ,業務に
伴う責任は大きいものであった。また,正職員就業規則上,正職員は,出向や配置
換え等を命ぜられることがあると定められ,人材の育成や活用を目的とした人事異
動が行われており,平成25年1月から同27年3月までの間においては約30名
の正職員がその対象となっていた。
一方,アルバイト職員は,アルバイト職員就業内規上,雇用期間を1年以内と
し,更新する場合はあるものの,その上限は5年と定められており,その業務の内
容は,定型的で簡便な作業が中心であった。また,アルバイト職員については,ア
ルバイト職員就業内規上,他部門への異動を命ずることがあると定められていた
が,業務の内容を明示して採用されていることもあり,原則として業務命令によっ
て他の部署に配置転換されることはなく,人事異動は例外的かつ個別的な事情によ
るものに限られていた。なお,契約職員は正職員に準ずるものとされ,第1審被告
において,業務の内容の難度や責任の程度は,高いものから順に,正職員,嘱託職
員,契約職員,アルバイト職員とされていた。
イ第1審被告においては,アルバイト職員から契約職員,契約職員から正職員
への試験による登用制度が設けられていた。前者については,アルバイト職員のう
ち,1年以上の勤続年数があり,所属長の推薦を受けた者が受験資格を有するもの
とされ,受験資格を有する者のうち3~5割程度の者が受験していた。平成25年
から同27年までの各年においては16~30名が受験し,うち5~19名が合格
した。また,後者については,平成25年から同27年までの各年において7~1
3名が合格した。
(4)ア本件大学には,診療科を持たない基礎系の教室として,生理学,生化
学,薬理学,病理学等の8教室が設置され,教室事務を担当する職員(以下「教室
事務員」という。)が1,2名ずつ配置されており,平成11年当時,正職員であ
る教室事務員が9名配置されていた。教室事務員については,その業務の内容の過
半が定型的で簡便な作業等であったため,第1審被告は,平成13年頃から正職員
を配置転換するなどしてアルバイト職員に置き換え,同25年4月から同27年3
月までの当時,正職員は4名のみであった。これらの正職員のうち3名は教室事務
員以外の業務に従事したことはなかったところ,正職員が配置されていた教室で
は,学内の英文学術誌の編集事務や広報作業,病理解剖に関する遺族等への対応や
部門間の連携を要する業務又は毒劇物等の試薬の管理業務等が存在しており,第1
審被告が,アルバイト職員ではなく,正職員を配置する必要があると判断していた
ものであった。
イ第1審原告が平成25年1月に締結した有期労働契約では,就業場所は本件
大学薬理学教室,主な業務の内容は薬理学教室内の秘書業務,賃金は時給950円
であった。同契約は,同年4月以降に3度にわたって更新され,その際,時給単価
が若干増額されることがあった。もっとも,具体的な職務の内容に特段の変更はな
く,その業務の内容は,所属する教授や教員,研究補助員のスケジュール管理や日
程調整,電話や来客等の対応,教授の研究発表の際の資料作成や準備,教授が外出
する際の随行,教室内における各種事務(教員の増減員の手続,郵便物の仕分けや
発送,研究補助員の勤務表の作成や提出,給与明細書の配布,駐車券の申請等),
教室の経理,備品管理,清掃やごみの処理,出納の管理等であった。また,第1審
原告の所定労働時間はフルタイムであった。そして,第1審被告は,第1審原告が
多忙であると強調していたことから,第1審原告が欠勤した際の後任として,フル
タイムの職員1名とパートタイムの職員1名を配置したが,恒常的に手が余ってい
る状態が続いたため,1年ほどのうちにフルタイムの職員1名のみを配置すること
とした。
(5)ア第1審原告の平成25年4月から同26年3月までの賃金の平均月額は
14万9170円であり,同期間を全てフルタイムで勤務したとすると,その賃金
は月額15~16万円程度であった。これに対し,平成25年4月に新規採用され
た正職員の初任給は19万2570円であり,第1審原告と同正職員との間におけ
る賃金(基本給)には2割程度の相違があった。
イ第1審被告においては,正職員に対し,年2回の賞与が支給されていた。平
成26年度では,夏期が基本給2.1か月分+2万3000円,冬期が同2.5か
月分+2万4000円,平成22,23及び25年度では,いずれも通年で基本給
4.6か月分の額が支給されており,その支給額は通年で同4.6か月分が一応の
基準となっていた。また,契約職員には正職員の約80%の賞与が支給されてい
た。これに対し,アルバイト職員には賞与は支給されていなかった。なお,アルバ
イト職員である第1審原告に対する年間の支給額は,平成25年4月に新規採用さ
れた正職員の基本給及び賞与の合計額の55%程度の水準であった。
ウ第1審被告においては,正職員が私傷病で欠勤した場合,正職員休職規程に
より,6か月間は給料月額の全額が支払われ,同経過後は休職が命ぜられた上で休
職給として標準給与の2割が支払われていた。これに対し,アルバイト職員には欠
勤中の補償や休職制度は存在しなかった。
3原審は,上記事実関係等の下において,要旨次のとおり判断し,第1審原告
の賞与及び私傷病による欠勤中の賃金に係る損害賠償請求を一部認容した。
(1)第1審被告の正職員に対する賞与は,その支給額が基本給にのみ連動し,
正職員の年齢や成績のほか,第1審被告の業績にも連動していない。そうすると,
上記賞与は,正職員としてその算定期間に在籍し,就労していたことの対価として
の性質を有するから,同期間に在籍し,就労していたフルタイムのアルバイト職員
に対し,賞与を全く支給しないことは不合理である。そして,正職員に対する賞与
には付随的に長期就労への誘因という趣旨が含まれることや,アルバイト職員の功
労は正職員に比して相対的に低いことが否めないことに加え,契約職員には正職員
の約80%の賞与が支給されていることに照らすと,第1審原告につき,平成25
年4月に新規採用された正職員と比較し,その支給基準の60%を下回る部分の相
違は不合理と認められるものに当たる。
(2)第1審被告における私傷病による欠勤中の賃金は,正職員として長期にわ
たり継続して就労したことに対する評価又は将来にわたり継続して就労することに
対する期待から,その生活保障を図る趣旨であると解される。そうすると,フルタ
イムで勤務し契約を更新したアルバイト職員については,職務に対する貢献の度合
いも相応に存し,生活保障の必要があることも否定し難いから,欠勤中の賃金を一
切支給しないことは不合理である。そして,アルバイト職員の契約期間は原則1年
であり,当然に長期雇用が前提とされているものではないことに照らすと,第1審
原告につき,欠勤中の賃金のうち給料1か月分及び休職給2か月分を下回る部分の
相違は不合理と認められるものに当たる。
4しかしながら,原審の上記判断はいずれも是認することができない。その理
由は,次のとおりである。
(1)賞与について
ア労働契約法20条は,有期労働契約を締結した労働者と無期労働契約を締結
した労働者の労働条件の格差が問題となっていたこと等を踏まえ,有期労働契約を
締結した労働者の公正な処遇を図るため,その労働条件につき,期間の定めがある
ことにより不合理なものとすることを禁止したものであり,両者の間の労働条件の
相違が賞与の支給に係るものであったとしても,それが同条にいう不合理と認めら
れるものに当たる場合はあり得るものと考えられる。もっとも,その判断に当たっ
ては,他の労働条件の相違と同様に,当該使用者における賞与の性質やこれを支給
することとされた目的を踏まえて同条所定の諸事情を考慮することにより,当該労
働条件の相違が不合理と評価することができるものであるか否かを検討すべきもの
である。
イ(ア)第1審被告の正職員に対する賞与は,正職員給与規則において必要と認
めたときに支給すると定められているのみであり,基本給とは別に支給される一時
金として,その算定期間における財務状況等を踏まえつつ,その都度,第1審被告
により支給の有無や支給基準が決定されるものである。また,上記賞与は,通年で
基本給の4.6か月分が一応の支給基準となっており,その支給実績に照らすと,
第1審被告の業績に連動するものではなく,算定期間における労務の対価の後払い
や一律の功労報償,将来の労働意欲の向上等の趣旨を含むものと認められる。そし
て,正職員の基本給については,勤務成績を踏まえ勤務年数に応じて昇給するもの
とされており,勤続年数に伴う職務遂行能力の向上に応じた職能給の性格を有する
ものといえる上,おおむね,業務の内容の難度や責任の程度が高く,人材の育成や
活用を目的とした人事異動が行われていたものである。このような正職員の賃金体
系や求められる職務遂行能力及び責任の程度等に照らせば,第1審被告は,正職員
としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から,正職員に
対して賞与を支給することとしたものといえる。
(イ)そして,第1審原告により比較の対象とされた教室事務員である正職員と
アルバイト職員である第1審原告の労働契約法20条所定の「業務の内容及び当該
業務に伴う責任の程度」(以下「職務の内容」という。)をみると,両者の業務の
内容は共通する部分はあるものの,第1審原告の業務は,その具体的な内容や,第
1審原告が欠勤した後の人員の配置に関する事情からすると,相当に軽易であるこ
とがうかがわれるのに対し,教室事務員である正職員は,これに加えて,学内の英
文学術誌の編集事務等,病理解剖に関する遺族等への対応や部門間の連携を要する
業務又は毒劇物等の試薬の管理業務等にも従事する必要があったのであり,両者の
職務の内容に一定の相違があったことは否定できない。また,教室事務員である正
職員については,正職員就業規則上人事異動を命ぜられる可能性があったのに対
し,アルバイト職員については,原則として業務命令によって配置転換されること
はなく,人事異動は例外的かつ個別的な事情により行われていたものであり,両者
の職務の内容及び配置の変更の範囲(以下「変更の範囲」という。)に一定の相違
があったことも否定できない。
さらに,第1審被告においては,全ての正職員が同一の雇用管理の区分に属する
ものとして同一の就業規則等の適用を受けており,その労働条件はこれらの正職員
の職務の内容や変更の範囲等を踏まえて設定されたものといえるところ,第1審被
告は,教室事務員の業務の内容の過半が定型的で簡便な作業等であったため,平成
13年頃から,一定の業務等が存在する教室を除いてアルバイト職員に置き換えて
きたものである。その結果,第1審原告が勤務していた当時,教室事務員である正
職員は,僅か4名にまで減少することとなり,業務の内容の難度や責任の程度が高
く,人事異動も行われていた他の大多数の正職員と比較して極めて少数となってい
たものである。このように,教室事務員である正職員が他の大多数の正職員と職務
の内容及び変更の範囲を異にするに至ったことについては,教室事務員の業務の内
容や第1審被告が行ってきた人員配置の見直し等に起因する事情が存在したものと
いえる。また,アルバイト職員については,契約職員及び正職員へ段階的に職種を
変更するための試験による登用制度が設けられていたものである。これらの事情に
ついては,教室事務員である正職員と第1審原告との労働条件の相違が不合理と認
められるものであるか否かを判断するに当たり,労働契約法20条所定の「その他
の事情」(以下,職務の内容及び変更の範囲と併せて「職務の内容等」という。)
として考慮するのが相当である。
(ウ)そうすると,第1審被告の正職員に対する賞与の性質やこれを支給する目
的を踏まえて,教室事務員である正職員とアルバイト職員の職務の内容等を考慮す
れば,正職員に対する賞与の支給額がおおむね通年で基本給の4.6か月分であ
り,そこに労務の対価の後払いや一律の功労報償の趣旨が含まれることや,正職員
に準ずるものとされる契約職員に対して正職員の約80%に相当する賞与が支給さ
れていたこと,アルバイト職員である第1審原告に対する年間の支給額が平成25
年4月に新規採用された正職員の基本給及び賞与の合計額と比較して55%程度の
水準にとどまることをしんしゃくしても,教室事務員である正職員と第1審原告と
の間に賞与に係る労働条件の相違があることは,不合理であるとまで評価すること
ができるものとはいえない。
ウ以上によれば,本件大学の教室事務員である正職員に対して賞与を支給する
一方で,アルバイト職員である第1審原告に対してこれを支給しないという労働条
件の相違は,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たらないと解す
るのが相当である。
(2)私傷病による欠勤中の賃金について
第1審被告が,正職員休職規程において,私傷病により労務を提供することがで
きない状態にある正職員に対し給料(6か月間)及び休職給(休職期間中において
標準給与の2割)を支給することとしたのは,正職員が長期にわたり継続して就労
し,又は将来にわたって継続して就労することが期待されることに照らし,正職員
の生活保障を図るとともに,その雇用を維持し確保するという目的によるものと解
される。このような第1審被告における私傷病による欠勤中の賃金の性質及びこれ
を支給する目的に照らすと,同賃金は,このような職員の雇用を維持し確保するこ
とを前提とした制度であるといえる。
そして,第1審原告により比較の対象とされた教室事務員である正職員とアルバ
イト職員である第1審原告の職務の内容等をみると,前記(1)のとおり,正職員が
配置されていた教室では病理解剖に関する遺族等への対応や部門間の連携を要する
業務等が存在し,正職員は正職員就業規則上人事異動を命ぜられる可能性があるな
ど,教室事務員である正職員とアルバイト職員との間には職務の内容及び変更の範
囲に一定の相違があったことは否定できない。さらに,教室事務員である正職員
が,極めて少数にとどまり,他の大多数の正職員と職務の内容及び変更の範囲を異
にするに至っていたことについては,教室事務員の業務の内容や人員配置の見直し
等に起因する事情が存在したほか,職種を変更するための試験による登用制度が設
けられていたという事情が存在するものである。
そうすると,このような職務の内容等に係る事情に加えて,アルバイト職員は,
契約期間を1年以内とし,更新される場合はあるものの,長期雇用を前提とした勤
務を予定しているものとはいい難いことにも照らせば,教室事務員であるアルバイ
ト職員は,上記のように雇用を維持し確保することを前提とする制度の趣旨が直ち
に妥当するものとはいえない。また,第1審原告は,勤務開始後2年余りで欠勤扱
いとなり,欠勤期間を含む在籍期間も3年余りにとどまり,その勤続期間が相当の
長期間に及んでいたとはいい難く,第1審原告の有期労働契約が当然に更新され契
約期間が継続する状況にあったことをうかがわせる事情も見当たらない。したがっ
て,教室事務員である正職員と第1審原告との間に私傷病による欠勤中の賃金に係
る労働条件の相違があることは,不合理であると評価することができるものとはい
えない。
以上によれば,本件大学の教室事務員である正職員に対して私傷病による欠勤中
の賃金を支給する一方で,アルバイト職員である第1審原告に対してこれを支給し
ないという労働条件の相違は,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに
当たらないと解するのが相当である。
5以上と異なる原審の前記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令
の違反がある。この点に関する第1審被告の論旨は理由があり,他方,第1審原告
の論旨は理由がなく,第1審原告の賞与及び私傷病による欠勤中の賃金に関する損
害賠償請求は理由がないから棄却すべきである。そして,同請求に関する部分以外
については,第1審原告及び第1審被告の各上告受理申立て理由が上告受理の決定
においてそれぞれ排除された。以上によれば,第1審原告の請求は,夏期特別有給
休暇の日数分の賃金に相当する損害金5万0110円及び弁護士費用相当額500
0円の合計5万5110円並びにこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理
由があるから,これを認容すべきであり,その余は理由がないから棄却すべきであ
る。したがって,原判決中,第1審被告敗訴部分のうち上記の金額を超える部分は
破棄を免れず,第1審被告の上告に基づき,これを主文第1項のとおり変更するこ
ととし,また,第1審原告の上告は棄却すべきである。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官宮崎裕子裁判官戸倉三郎裁判官林景一裁判官
宇賀克也裁判官林道晴)

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