弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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(原文は縦書き。ただし,日時,金額,年齢はアラビア数字に置き換え。)
 主   文
   被告人C及び被告人Dをそれぞれ無期懲役に処する。
   被告人A及び被告人Bをそれぞれ懲役12年に処する。
   被告人4名に対し,未決勾留日数中各520日をそれぞれその刑に算入す
る。
 理   由
(罪となるべき事実)
第一 (強盗傷人)
   被告人4名は,E及びFと共謀の上,G1(当時56歳)が手形金の支払に
応じなかったことから,帰宅するG1らを待ち伏せしてその所有にかかる普通乗用
自動車(トヨタマジェスタ)等を強取しようと企て,平成12年4月4日午前零時
30分ごろ,名古屋市a区b町c丁目d番地e付近路上において,右乗用車を運転
して帰宅したG1が同車から降りるや,同人に対し,被告人Aが,その背後からや
にわに所携の角材で頭部等を数回殴打する暴行を加え,その反抗を抑圧した上,G
1の妻G2ほか1名所有のウォークマン等4点が積載された右乗用車1台(時価合
計約6万3000円相当)を強取し,その際,右暴行により,G1に全治約2週間
を要する頭部挫傷・挫滅創,右前腕打撲等の傷害を負わせた。
第二 被告人4名は,E及びFと共に,帰宅する前記G1らを待ち伏せしてG1ら
から前記乗用車等を強取しようと企てこれを実行するに当たり,右E及びFと共謀
の上,G1と一緒に帰宅するその妻G2らを口封じなどのために自動車内に監禁し
て他所に連行して殺害し,その死体を損壊して遺棄し,さらに,同人らの自宅マン
ション居室から右乗用車の名義変更に必要な物件や金になる物を強取するなどしよ
うとして,前記第一のとおり,右乗用車を強取した際,
 一 (監禁)
   前記第一の日時場所において,G1とともに帰宅して前記第一の乗用車から
降りたG2(当時64歳)及びその妹H(当時59歳)に対し,被告人Cが,G2
に抱きつき,同女が同被告人の手にかみつくなどして抵抗すると,その顔面を手拳
で殴打するなどの暴行を加えた上,同女の上半身を抱きかかえて被告人D運転の普
通乗用自動車の方へ引きずり,被告人Bがこれに加勢して同女の両足を持ち上げる
などして,同女を同車内に押し込み,被告人Dが,G1らが襲われるのを見て立ち
すくんでいたHの腕をつかんで右普通乗用自動車の方へ引っ張って行き,Eがこれ
に加勢して同女の背中を押して,同女を同車内に押し込み,同車を同所から発進さ
せ,愛知県瀬戸市方面へ向けて走行中又は停車中の同車内において,被告人Cが,
G2及びHの各両手
足をガムテープ等で緊縛して愛知県瀬戸市f町e番所在のI内まで連行し,平成1
2年4月4日午前2時30分ごろまでの間,右両名を同車内から脱出できない状態
において不法に監禁した。
 二 (強盗殺人)
   同年4月4日午前2時30分ごろ,前記Iの空き地に駐車中の前記被告人D
が運転していた普通乗用自動車内において,Eが,前記暴行等により反抗を抑圧さ
れた前記Hから同人所有の現金約2万4000円及び商品券2枚(時価合計200
0円相当)を強取し,続いて,同日午前2時40分ごろ,Iの空地において,殺意
をもって,前記G2及びHの両名に対し,被告人C,同D及びEが,用意していた
ドラム缶2個の中にそれぞれG2及びHの両名を押し込み,Eが右両名の身体にガ
ソリン混合油を振りかけた上,各ドラム缶にふたをし,被告人Dが,新聞紙にライ
ターで点火し,これをG2を押し込めたドラム缶の側面下部にある通気口に近づ
け,ドラム缶内のガソリン混合油に引火させて同女の身体に燃え移らせるととも
に,Hを押し込めたドラ
ム缶内のガソリン混合油にも引火させて同女の身体に燃え移らせ,よって,そのこ
ろ,同所において,右両名を焼死させて殺害した。
 三 (死体損壊遺棄)
  1 同年4月4日午前5時ごろ,前記Iの沢地等において,被告人D,E及び
Fらが,チェーンソー等を用いて前記G2の焼死体を切断した上,同所付近に投棄
し,もって同女の死体を損壊して遺棄した。
  2 同日午前6時ごろ,右同所において,被告人C,同D,E及びFが,前同
様の方法で,前記Hの焼死体を切断した上,同所付近に投棄し,もって同女の死体
を損壊して遺棄した。
(証拠の標目)
 省  略
(事実認定の補足説明及び弁護人の主張に対する判断)
 被告人Aの弁護人は,同被告人は,本件各犯行,特に,判示第二の各犯行につい
ては,実行に加わっていないし,被害者G2及び同Hの両名がどのようになるか分
からなかった,また,事前においても,逆らえばE及びFの両名から殺されるとい
う恐怖心に支配されて,被害者G1夫妻の殺害等を強制的に命令されたにすぎない
から,共謀したとはいえない,として,同被告人に強盗殺人等の行為に対する責任
を問うことはできないと主張する。そして,被告人Aも,E及びFから脅迫を受
け,両名の命令に従わなければ殺されるかもしれないという恐怖の中で,両名の命
令により本件犯行に加わったものである旨陳述する。
 被告人Bの弁護人も,同被告人は,判示第二の二,三の各犯行について,被告人
Aの弁護人の主張とほぼ同様の理由により,共同正犯の責任を問うことはできない
と主張する。また,被告人Cの弁護人も,被告人らは,E及びFから命令に従わな
ければ殺すなどと脅されて,その命令に逆らうことのできない状態に置かれ,いわ
ば道具として利用されたものであるから,自由意思による故意,共謀は存在しない
旨主張するとともに,適法行為の期待可能性もない旨主張する。さらに,被告人D
の弁護人は,情状論として,同被告人は,E及びFの両名から,自己だけでなく家
族の生命にまで危害を加えられるように脅されて,本件各犯行に加担したものであ
るから,適法行為の期待可能性が極めて乏しかった旨主張するほか,同被告人に
は,判示第二の二,三
の各犯行について自首が成立する旨主張する。
 そこで,被告人4名(以下「被告人ら」という。)に判示各事実について共同正
犯の責任を認めた理由を補足して説明するとともに,弁護人の主張に対する判断を
示す。
一 本件各犯行に至る経緯,犯行状況,犯行後の被告人らの行動等
  被告人らの当公判廷における各供述,捜査段階における各供述調書ほか前掲関
係証拠によれば,被告人らとE,Fとの関係,本件各犯行に至る経緯,犯行状況,
犯行後の行動等について以下の事実が認められる(なお,被告人Aの弁護人は,被
告人らの捜査段階の各供述調書は,取調官による利益誘導,脅迫,弁護人との接見
妨害等の影響下で作成されたとして,その任意性に疑問を呈するが,被告人らの各
供述調書は,それぞれの当公判廷における供述と対比して事実関係で重要な点に大
きな違いはなく,内容的にも任意性を疑わせるような記載はない。また,被告人A
の供述調書には,EやFに脅されて逆らえなかった旨の供述記載も存するから,こ
れら供述調書は,いずれも任意性を認めることができる。)。
 1 被告人らとF及びEは,愛知県小牧市内の運送会社Lで働いていた同僚であ
った。Fは,Lを退社後,愛知県春日井市g町でMの名称で中古車販売業を営んで
いたが,平成11年9月ごろ,Eに対し,休眠会社を買い取って会社を設立し,商
品を購入して売りさばき,その後に会社を倒産させて商品購入代金の支払を免れる
俗に引き屋と呼ばれる取り込み詐欺をする話を持ちかけた。そして,Eの賛同を得
ると,被告人らに対して,引き屋の仕事で金儲けをする話を持ちかけた。被告人ら
は,F,Eから多額の金が儲かるような話をされ,その甘言に乗って,一緒に仕事
をすることを承諾した。E及びFは,取り込み詐欺の責任が自分たちに及ぶことを
恐れて,自分たちは新会社の役員にはならず,背後から被告人らを指図することに
し,被告人らが新会
社の役員になるように仕向けた。そこで,被告人らのうち,被告人Dを除くその余
の被告人らは,既に債務超過でサラ金などのいわゆるブラックリストに名前が載っ
ていたので,こうしたリストに名前の載っていない被告人Dが新会社の社長にな
り,その余の被告人らが取締役に名を連ねることになった。なお,Fは「J」,E
は「K」という偽名を使って,自分たちの本名が表に出ないようにしていた。そし
て,同年11月,Fが知人から買い取った休眠会社の登記を変更して新会社が設立
され,株式会社N(以下「N」という。)と命名された。しかし,Nは,実績がな
くて信用されず,当初は商品取り込みの失敗が続いた。また,銀行の当座預金口座
開設にも失敗して,資金繰りに窮し,被告人らが借金するなどして金を工面してい
た。
 2 N設立後,次第にE,Fと被告人らとの上下関係が明確になった。すなわ
ち,Fは,かねて元暴力団組員を自称し,義足の右足はヤクザに切られたなどと語
っていて被告人らから一目置かれており,Eも,暴力団に近い実父を持ち,E自身
もかつて暴力団に所属したことがあると言われていた。また,Eは,取り込み詐欺
の経験があるということで,Nの業務について被告人らに指示を与えていた。こう
した事情から,N設立後はF,Eが被告人らの上に立ち,被告人らに何かと指図
し,ときに強く叱責したり,罵倒するようになったが,被告人らは,E,Fを恐れ
て,両名の命令に服従していた。特に,被告人A及び同Dは,前記当座預金口座の
開設に失敗したことから,FとEに強く叱られ,Fから「指を詰めろ」などと脅さ
れた。そして,その後平
成12年1月ごろ,Eの発案で,被告人らは,それぞれNを受取人とする生命保険
(災害死亡の保険金6000万円,その余の死亡保険金5000万円)に加入させ
られ,その後は,E,Fから,何かにつけ「誰が死ぬんだ。死ぬなら事故死だ」な
どと脅されるようになり,両名に対する被告人らの従属は一層強まった。
このようなNの実態に嫌気がさした被告人Aは,平成11年12月ごろから翌12
年1月ごろにかけて2度にわたりNに出社せず実家に身を隠すなどしたが,EとF
が捜しに来て,Nの事業の遂行に努力し違約の場合はいかなる処罰や処分も甘受す
る旨の念書を書かされ,Nに戻った。また,被告人Dは,借金がかさんでその支払
に困るようになり,平成12年1月ごろ形の上で妻と協議離婚したが,更に精神的
に不安定になって,同年2月11日ごろ,睡眠薬による自殺を図ったことがあっ
た。被告人Dは,Nを辞めたい意向を漏らしたことがあったが,EとFから,家族
に危害が及ぶようなことを言われて脅されたり,乱暴されたりして,結局Nの仕事
を続けた。
 3 Eは,平成11年12月上旬ごろ,実父が経営する金融会社Oから,被害者
G1が振り出した額面240万円の不渡手形(以下「本件手形」という。)の取立
てを依頼された。Eは,Fに話して,Nでその取立てをすることにし,被告人Aが
取立ての担当者に決まった。G1は,名古屋市h区のP駅付近に在る喫茶店Qで働
き,名古屋市a区b町のマンションで妻G2及びその妹のHと一緒に暮らしてい
た。G2とHは,Qで働いてG1を助けていた。被告人らは,同月中旬ごろ,Eと
一緒に,Qに出向くなどして,G1と女性2人が乗ったトヨタマジェスタ(以下
「マジェスタ」という。)を追跡したが,G1に接触することはできなかった。そ
こで,E,F及び被告人らは,手を尽くしてG1のマンションを探し出し,その居
室の様子を確認しに出掛
けた。そして,その郵便受けに,G1及びその妻と思われる女性にあてた郵便物の
ほか,G姓以外の女性あての郵便物があるのを見付けた。
 4 E,F,被告人A,同C及び同Dは,平成11年12月13日,G1を名古
屋市内のホテルの喫茶店に呼び出して,本件手形の支払やそれに代わるマジェスタ
の引渡しなどを求めたが,G1は,所有不動産を売却して本件手形金を支払う旨の
念書は作成したものの,それ以上の要求には応じられないとして,かえって開き直
った態度を取った。E及びFは,こうしたG1の態度に憤慨したが,その後の取立
てを担当者の被告人Aに任せた。そして,手形金取立ての件は,しばらく進展しな
かったが,Eは,しばらくしてOから本件手形金の取立てを督促されるに及んで,
被告人Aらに重ねて強くその回収を命じた。しかし,G1とは連絡が取れず,取立
ては一向に進展しなかった。そこで,Eは,被告人らに命じてG1が運転するマジ
ェスタを尾行させ,
その自宅マンション付近にあるマジェスタの駐車場(以下「本件駐車場」とい
う。)を突き止めた。
 5 E及びFは,このように一向に手形金を支払おうとしないG1の態度に怒り
を募らせ,被告人らに対し,その取立てが被告人らの責任であることを強調して,
G1の殺害やマジェスタの強取を言い出すようになった。Eは,被告人らに対し
て,「手形は親父から預かっているものだ。いつまでももたもたしていると,金の
回収は済んでいるのに,勝手に使い込んだと思われてしまう」などと言って,本件
手形金の回収を焦っていたが,平成12年2月上旬ごろ,被告人らに対し,「Gを
さらってこい。夫婦でさらってこい。Gの駐車場は分かっとるから,そこで待ち伏
せして連れてくればいい。G達をさらってきたら,殺してしまえ。燃やして骨をす
り鉢ですって,鶏の餌にすればいい。瀬戸の山奥にいい場所がある。マジェスタも
奪ってこい。マジェス
タを持ってきたら印鑑証明がいる。マジェスタを奪って,名義を変えて,金にす
る」などと申し向け,FもEに同調して,被告人らに対し,「さらってくるのは簡
単だ」などと申し向けた。そして,以前にG1の居室の郵便受けを調べた際,G姓
以外の女性あての郵便物があって,E,F及び被告人らの間で,G1には娘がいて
同居しているかもしれないとの話が出ていたので,Eは,そうした者がマジェスタ
に乗って一緒に帰ってきた場合のことも考えて,被告人らに対し,「3人だったら
3人ともさらえばいい。娘だったら,家の中に入って実印などを持ち出して車の名
義変更ができる。実印があれば権利証でも何でもなんとかなる」などと申し向け
た。このようにして,被告人らは,E及びFから,G1の自宅マンション付近の本
件駐車場で待ち伏せして
,G1夫妻をら致してマジェスタを奪った上,同人らを殺害し,その死体を焼くな
どして処分すること,G1夫妻以外の者がマジェスタに乗って帰宅したら,その者
も同様にら致して殺害し死体を処分すること,そして,G1夫妻の居室に侵入して
実印や金になる物を持ち出し,マジェスタについては名義変更をして売却し,本件
手形金の回収に充てることを指示された。被告人らは,逡巡する気持ちはあった
が,E及びFの両名から,指示に従わないと生命保険金目当てに被告人らを殺害す
ることなどをほのめかされて脅されたりしていたので,両名の指示に従うことを承
諾した。そして,Eに命じられてハンマーやガソリン等を用意した上,ワゴンタイ
プのフォードスペクトロン(以下「スペクトロン」という。)に乗って本件駐車場
に向かい,G1らが帰
宅するのを待ち伏せた。そして,その際,G1が3人で帰ってきたらどうするか,
4人だけでら致できるかなどと話したが,同人らの帰宅前に皆眠ってしまい,この
日の犯行計画は失敗に終わった。そのため,被告人らは,EとFから叱責された。
 6 その後も本件手形金の取立ては進展しなかったので,平成12年4月3日昼
ごろ,Eは実父からこのことを強く叱られた。実父をことのほか畏怖していたE
は,その対応に困惑し,Mの事務所にいたFに電話して話し合い,本件手形金24
0万円のうち,Nの取り分の60万円を差し引いた180万円を早急にOに支払う
必要があるとの認識で一致し,G1夫婦に対する2月の犯行計画を再度実行に移す
ことにした。そして,Fが被告人らに対し,同日午後5時ごろ,M事務所におい
て,その日にG夫婦を殺害することを話した上,「今度はしくじるな。みんな行く
な」などと申し向けて,被告人らに犯行の実行を命じた。被告人らは,Fの話の内
容から,2月に失敗した犯行計画を再度実行に移すことを指示されていることを認
識した。そして,被告人
Dを除くその余の被告人らは,このときも逡巡する気持ちはあったが,やはり生命
保険に加入させられたりしてEとFに対する恐怖心があり,計画を実行することを
承諾した。これに対して,被告人Dは,いったんは「行きたくない」と答えたが,
Fから「お前が行かないなら,ドラム缶を1つ増やさなきゃいかん」などと言わ
れ,Eからは「お前,行かんのか」などと言い寄られたので,結局犯行に加わるこ
とを承諾した。こうして,E,F及び被告人らは,犯行を実行する準備に取りかか
ったが,その状況は,まず,FがEから依頼されてガソリンスタンドにドラム缶を
2個注文した。被告人Cは,Eから指示されてチェーンソーやすり鉢等を購入し
た。被告人Bは,犯行時に着用するための着替えを取りに愛知県春日井市内のNの
事務所に行き,その帰り
にFが注文していたドラム缶2個を受け取り持ち帰った。被告人Aは,燃料のガソ
リン混合油を購入した。Eは,ドラム缶を加工して上部を切り取り,側面に通気口
を作ったほか,チェーンソーの試し切りをした。
 7 同日午後7時30分ごろ,Eは,被告人らの犯行実行の決意を確認するとと
もに,被告人らだけで犯行を実行した形を取らせるため,被告人らに対し,「もう
1回お前ら4人で話をしろ」と命じた。そこで,被告人らは,Mの倉庫で相談し,
Eの意図を察知して,「俺達4人の責任でやりますので,指示を出して下さい」と
申し出た。Eは,満足げにこの申し出を了承し,被告人らに命じて,被告人Cに指
示してMの倉庫から持ち出させた角材2本の手持ち部分にタオルを巻かせるなどし
て,用意した他の道具類と一緒にこの角材をスペクトロンに積み込ませた。そし
て,同日午後8時過ぎごろ,E,F及び被告人らは,スペクトロン及びEの知人の
自動車に分乗してM事務所を出発し,いったん春日井市内のNの事務所に向かっ
た。そして,Eの指示に
より,同事務所から二手に分かれて,E,F及び被告人Bは,同事務所に置いてあ
ったトヨタクラウン(以下「クラウン」という。)に乗り換えてQに行ってG1ら
が出てくるのを見張り,被告人A,同C,同Dの3名は,スペクトロンで本件駐車
場付近へ行って待ち伏せをすることにし,それぞれ出発した。Eは,以前にG1の
居室の郵便受けにG姓以外の女性の郵便物があって,G1に娘がいるのではないか
という話をしていたことから,スペクトロンで本件駐車場付近に向かっていた被告
人Aらに対し,G1の居室にだれかいるか調べるように電話で指示をした。そこ
で,被告人A及び同Cが,本件駐車場付近でスペクトロンから降りて,G1の居室
の様子を見たが,同室は消灯されて誰もいない様子であったので,その旨Eに報告
した。一方,E,F及
び被告人Bは,クラウンでQ付近に到着し,マジェスタを監視した。
 8 翌4日午前零時ごろ,Eは,スペクトロンの被告人Cに対し,駐車場を塞い
でマジェスタを入れないようにしておいて,車から降りて近づいてくるG1を襲う
こと,被告人Dはスペクトロンに残っていて,G1が何か言ってきても話をしない
ことなどを携帯電話で指示し,被告人Cは,被告人A及び同Dにその指示を伝え
た。そこで,被告人C,同A及び同Dの3名は,Eの指示に従って,G1夫婦を襲
ってマジェスタを奪い取ることにし,スペクトロンを本件駐車場前の路上にその入
口を塞ぐように停車させて待機した。
 9 同日午前零時10分ごろ,G1は,Qの店が終わったので,G2とHを乗せ
たマジェスタを運転して自宅へ向かった。クラウンの車内で見張っていたE,F及
び被告人Bは,その状況を見てマジェスタを追跡するとともに,スペクトロンにい
る被告人3名に対し,マジェスタが発進したことを電話で伝えた。その際,Eは,
3人目の女性はQの従業員で途中で降りるかもしれないと軽く考えて,スペクトロ
ンにいた被告人3名に特に3人目の女性がいることを伝えなかった。スペクトロン
にいた被告人A,同C及び同Dの3名はEから電話連絡を受けて,G1夫妻が2人
で戻ってくるものと考えて,被告人AがG1を襲うことにして,角材を持ってスペ
クトロンから降り,本件駐車場向かいの駐車車両の陰に隠れて待ち伏せ,被告人C
がG2を襲うことに
して,スペクトロンに常備してあったレンチを持って車から降り,本件駐車場向か
いの民家のすき間に隠れて待ち伏せた。被告人Dは,スペクトロンの助手席に移動
して待機した。
 10同日午前零時30分ごろ,G1は,マジェスタを運転して本件駐車場付近に
到着したが,駐車場入口前路上にスペクトロンが停車していたので,その前方にマ
ジェスタを停めて,車から降りた。続いて,G2とHがマジェスタから降りた。G
1は,スペクトロンに近づいて,助手席の被告人Dに対し,同車を移動するように
求めてマジェスタに戻り,トランクを開けて荷物を下ろし始めた。G2とHは,G
1の側に立っていた。
   被告人Aは,マジェスタからG1,G2及びHの3人が降りたのを見て多少
のためらいもあったが,もはや計画どおり犯行を実行するほかないものと決意し
て,この3人の動きを注視し,3人がマジェスタの方を向いた姿勢になるのを見届
けると,小走りでG1に近づき,判示第一のとおり,角材でその後頭部を強く殴り
つけるなどした。被告人Aは,G1が襲われたのを見てG2とHが悲鳴を上げたの
を聞いたが,なお逃げるG1を追跡した。被告人Cも,レンチを持って飛び出し,
判示第二の一のとおり,悲鳴を上げているG2に抱きつき,抵抗する同女の顔面を
手拳で殴打するなどした上,その上半身を抱きかかえてスペクトロンの方へ引きず
った。スペクトロンの助手席で状況を見ていた被告人Dは,マジェスタから降りた
女性が2人であるのを
見て,車から降りると,その場に立ちすくんでいたHに近づき,判示第二の一のと
おり,その右腕をつかんで同女をスペクトロンの方へ引っ張って行った。一方,マ
ジェスタを追尾してきたクラウンのE,F及び被告人Bは,少し遅れて本件駐車場
付近に到着したが,被告人AらがG1らに襲いかかろうとしている状況を見て,ク
ラウンから降り,スペクトロンに近寄った。そして,Eは,被告人Dに加勢してH
の背中を押して同女をスペクトロンの2列目の座席に押し込めた。被告人Bは,G
2が足をばたつかせるなどして抵抗しているのを見て,被告人Cに加勢して,G2
の両足を持ち上げ,同女を同車の2列目の座席に押し込めた。その際,被告人B
は,G1やHも襲われ,DがHをスペクトロンに乗せようとしている状況を見た。
そのころ,被告人Aに
襲われたG1は,付近のたばこ店に助けを求めた。被告人Aは,G1を追い掛けた
が見失い,Eと一緒にG1の居宅のあるマンション付近を捜したが,同人を発見す
ることができなかった。
11その後,Fの指示により,被告人Bがマジェスタに乗り込んでこれを奪い,
同車を発進させた。被告人Dは,被告人Cが同乗し,G2及びHを押し込めたスペ
クトロンを発進させた。続いて,Fがクラウンを発進させて,それぞれ現場を離れ
た。一方,G1を追い掛けたEと被告人Aは,徒歩で現場を離れた。その後,Eか
らスペクトロンに乗っていた被告人Cの携帯電話にiへ行くように指示が入ったの
で,スペクトロンを運転していた被告人Dがマジェスタに接近して,マジェスタを
運転していた被告人Bに対して,Eから指示されたことを伝えた。被告人Bは,そ
の際,スペクトロンの後部座席にG2とHが乗せられているのを認めた。さらに,
そのころ,Fとの間でも携帯電話によってiで落ち合うことが連絡された。
 12 こうして,E及び被告人Aは,襲撃現場からそれほど離れていないi西側の
路上でスペクトロン及びマジェスタと落ち合い,スペクトロンの前列助手席に乗り
込んだ。その際,被告人Aは,現場からら致された女性がその後部座席に乗せられ
ているのを知った。その後,スペクトロンの助手席にEと被告人Aの2人が乗るの
は窮屈であったことから,少し移動したi北側の路上で,被告人Aがスペクトロン
から被告人B運転のマジェスタに乗り換えた。被告人Aは,G1に逃げられたもの
の,マジェスタを奪取することに成功したことを知った。被告人Bは,マジェスタ
のガソリンが残り少なくなっていたので,そのことをEに伝えると,Eから,給油
してから瀬戸の自動車学校の前まで来るように指示されたので,Eらが最終的には
2月の計画のときに
指示した瀬戸の山奥にG2とHを連れて行くものと思いながら,先にマジェスタを
発進させた。その後間もなく,F運転のクラウンが同所に到着したので,Eは,ク
ラウンに乗り込み,R自動車学校に向けて出発し,その後を被告人Dが運転するス
ペクトロンが続いた。
 13 被告人Aと同Bの乗ったマジェスタは,近くのガソリンスタンドで給油を終
えて,F,Eらと落ち合うことになっていた瀬戸方面に向かった。被告人Aは被告
人Bから,瀬戸方面に向かうように指示されていることを聞かされた。ところが,
被告人Bが携帯電話をクラウンに忘れてきたため,被告人A及び同Bは,Eら他の
メンバーと互いの居場所の連絡を取り合う手立てをどうするか話しながら走行して
いたところ,同日午前1時17分ごろ,名古屋市a区j地内の交差点で信号待ちで
停車した際,G1からの通報を受けて配備についていた警察官に発見され,職務質
問を受けた。そして,S警察署まで任意同行を求められたが,G2及びHのら致さ
れた後の事情を秘匿したまま,同日午後3時ごろ,G1に対する強盗致傷の容疑で
緊急逮捕された。被
告人A及び同Bは,それぞれ,取調官から追及されたが,当初は,G1に対する貸
金の回収を図るために自分たち2人でG1を襲ってマジェスタを奪った旨供述し
て,共犯者の存在を否認し,G2とHのことも知らない旨嘘を言い通した。
14一方,クラウンとスペクトロンは,同日午前1時30分ごろ,待ち合わせ場
所である愛知県瀬戸市l町地内のR自動車学校前に到着し,マジェスタが来るのを
待った。被告人Cは,Eに命じられて,途中の走行中又は同所に停車後のスペクト
ロンの車内において,H及びG2の両手首をタオルやビニール袋で縛ったり,両足
首をガムテープで縛ったりした。しかし,しばらくしても被告人Aと同Bが来ない
ことから,E,F,被告人C及び同Dは,やむなく4人で犯行を継続することにし
て,Eの道案内で,Eが殺害現場に予定していた瀬戸市内のk方面に向かった。E
とFは,クラウンの車内で話し合って,チェーンソーで死体を切断する際に血が飛
び散るのを防ぐため,G2及びHを生きたまま焼き殺した上,死体をチェーンソー
で切断することにした
。クラウンとスペクトロンは,途中で道を間違え,同日午前2時30分ごろ,同市
f町地内の判示Iに至り停車した。そして,Eが同所を両名の殺害場所にすること
を話し,Fも賛同した。
 15 右Iにおいて,E及びFの指図の下に,E,F,被告人D及び同Cが手分け
して,スペクトロンから2個のドラム缶を下ろしてその場に並べて置いたり,G2
とHの手首をガムテープ等で後ろ手に縛り直したり,口をガムテープで塞いだりし
た。その際,Eは,スペクトロンの車内で,G2とHに身元を尋ねた後,G2から
バッグを奪おうとしたが,同女が本件駐車場付近にバッグを落としてきていたの
で,Hに向かって「そのバッグを貸せ」などと申し向けて,同女から現金や商品券
の入ったハンドバッグを奪い取った。
   そして,Eの指示の下に,E,被告人C及び同Dが更に手分けして,G2と
Hの体を持ち上げて2個のドラム缶の中にそれぞれ運び入れ,同女らの肩を上から
押すなどしてドラム缶の中に座らせた。次いで,Eが,Fからガソリン混合油の缶
を受け取り,G2とHにその頭上からそれぞれガソリン混合油を振りかけた上,2
個のドラム缶のふたを閉め,Hを入れたドラム缶のふたには角材をかませるなどし
て,ふたが開かないようにした。続いて,Fからライターを渡された被告人DがE
が手に持っていた新聞紙に点火しようとしたところ,Eがドラム缶に火を点ける役
目を嫌ったので,Fが被告人Dに対し,ドラム缶に点火することを指示した。そこ
で,同日午前2時40分ごろ,被告人Dが,EとFから新聞紙とライターを受け取
り,ライターで点火
した新聞紙をG2が入ったドラム缶の通気口に近づけると,その火が一瞬にして両
方のドラム缶のガソリン混合油に引火して燃え上がり,判示第二の二のとおり,G
2及びHを殺害した。
 16 その後も,被告人C及び同Dが,EとFの指示で,通気口から木切れなどを
追加してドラム缶を燃やし続けた。EとFは,そのころ,クラウンに乗って,被告
人A及び同Bを捜しに出掛けたが,発見することができずにIの殺害現場に戻っ
た。そして,E,F,被告人C及び同Dにおいて,更にドラム缶を燃やし続けたと
ころ,同日午前5時ごろ,ドラム缶の中に死体の塊や骨が見えたことから,ハンマ
ーやレンチ等をドラム缶に入れて死体の骨を砕くなどした。さらに,Eの指示で,
G2の死体が入ったドラム缶の火を水で消し,被告人Dがドラム缶の中にチェーン
ソーを入れてG2の死体を切断するなどした。そして,Eの指示で,ドラム缶を横
転させて沢地に蹴落とした上,E,F及び被告人Dが沢地に降りて,G2の死体を
更にチェーンソーで切
断したり,その死体の塊を付近にばらまくなどして,判示第二の三の1のとおり,
G2の死体を損壊して遺棄した。引き続き,同日午前6時ごろ,Hの死体が入った
ドラム缶の火を消し,横転させて沢地に蹴落とした上,E,F及び被告人Dが沢地
に降りて,その死体をチェーンソーで切断したり,その死体の塊を付近にばらまく
などして,判示第二の三の2のとおり,Hの死体を損壊して遺棄した。
 17 E,F,被告人C及び同Bは,その後現場を離れたが,その際,E及びF
は,被告人C及び同Dに対し,本件犯行は被告人らだけで敢行したことにしてEや
Fの名前を出さないように口止めした。被告人Cは,名古屋市m区に新設したNの
事務所に戻ったが,同所で警察官に職務質問されて任意同行に応じ,その日のうち
に逮捕された。一方,E,F及び被告人Dは,東京方面に逃亡したが,翌5日に被
告人Dが警察に連絡して逮捕され,同月10日にはE及びFが警察に出頭して逮捕
された。
二 被告人らの共謀と罪責について
 1 被告人A及び同Bは,本件一連の犯行の途中で警察官の検問を受けて逮捕さ
れたため,その後の犯行には加わっていない。また,本件一連の犯行の実行に当た
っては,平成12年2月上旬の犯行計画(以下「2月の犯行計画」という。)の場
合と違って,あらかじめG1夫妻以外の者が一緒に帰宅することを見込んだ犯行の
具体的な話がされていないし,そのための準備もされていない。しかしながら,先
に認定した事実に基づいて検討すると,本件一連の犯行は,2月の犯行計画の失敗
を受けて,その延長線上に計画されたもので,このことは,被告人らも十分認識し
ていたことが認められる。また,本件一連の犯行は,G1から手形金を回収するた
めに企図されたものであるが,直接関わりのないG1の妻G2をも殺害の対象にし
たのは,同女がG1
と一緒に帰宅することから,犯行の発覚を防ぐための口封じと,G1夫婦の居室を
家捜ししてマジェスタの名義変更に必要な物件や金目の物を奪うために邪魔になる
者を排除するためであったと認められるところ,このことは,G1にG2以外の同
居の親族がいてG1夫婦と一緒に帰宅した場合でも変わらないのであって,そうで
あるからこそ,2月の犯行計画の際に,G1夫妻に娘などがいることも想定して,
マジェスタで帰宅する者が3人いれば3人とも襲うことがその計画に盛り込まれた
のである(この点について,被告人Aは,当公判廷(第2回)において,マジェス
タで帰宅する者が3人になっても犯行が取り止めになるとは思わなかったと供述し
ているし,被告人Bも,捜査段階で,本件においても,2月の犯行計画におけるE
及びFの指示とその
ときの勢いなどからHも犯行の対象になったことを供述している。)。これらの事
情を勘案すれば,本件一連の犯行において,被告人らは,E及びFと共に,G1夫
婦が深夜にHと一緒にマジェスタで自宅マンション付近の本件駐車場に帰ってきた
のを認めた上で,敢えて犯行を実行に移したものであるから,2月の犯行計画と同
じように3人目の存在であるHもG2と同様に犯行の対象に含める旨意思を通じて
共謀し,本件一連の犯行に及んだものと認めることができる。
 2 次に,本件一連の犯行において,E,F及び被告人らは,G1を取り逃がし
ているが,E及びFは,その後も事前の計画に従って事を進め,被告人C及び同D
も,EとFの指示に従って行動して,G2とHを殺害するなどしている。そして,
E,F及び被告人らにおいて,G1を取り逃がしたことにより,本件犯行の計画を
変更したり,取り止めにすることを考えたことをうかがわせるような言動は何もし
ていない。加えて,被告人Aは,捜査段階において,2月の犯行計画の際,マジェ
スタから降りてきた人は皆さらえと指示されていたので,本件襲撃現場でも2人の
女性は当然仲間がさらうものと思っていた,i付近でスペクトロンに乗ったとき,
化粧の匂いがして襲撃現場にいた女性をさらってきたことを知った,そのころ,マ
ジェスタを見てその
奪取に成功したことも知った,マジェスタに乗り換えた後,被告人Bから,先行し
たスペクトロンが瀬戸方面に向かっていることを聞かされ,同被告人とスペクトロ
ンに追いつくための連絡方法を話しながら走行していて警察官に職務質問を受けた
が,職務質問を受けることなくEらと一緒に殺害現場に行っていれば,被告人Cや
同Dと同様に2人の女性の殺害にも手を出していたと思う旨供述している(なお,
被告人Aは,当公判廷(第8回)において,「よく考えてみれば,手形を振り出し
た本人(G1の意)がいないのに,女性2人を殺すというのはおかしいと思う」旨
供述しているが,そのように思ったのは捕まってからのことであると供述している
から,マジェスタに乗って瀬戸方面に向かいEらと合流しようとしていたときに
は,被告人Aにおいて
,右公判供述のような疑問は感じていなかったものと認められる。)。また,被告
人Bも,捜査段階及び当公判廷において,職務質問を受けずにそのまま瀬戸の自動
車学校でEらと落ち合っていれば,被告人Cや同Dと同じことをしたと思う旨供述
している。そうすると,E,F及び被告人らのG2及びHに対する前述した共謀の
内容は,G1を取り逃がした後も変わらなかったものと認められる。また,被告人
A及び同Bは,一連の犯行途中で警察官によって職務質問されて逮捕されたが,逮
捕当初は種々弁解して共犯者の存在を否認し,G2とHのことも知らない旨嘘を言
い通したのであるから,E,F,被告人C及び同Dによるその後のG2及びHに対
する本件一連の犯行の実行行為終了時までにこれら共犯者との共謀関係から離脱し
ていないことも明ら
かである。
 3 被告人A,同B及び同Cの弁護人は,それぞれの被告人が,逆らえばE及び
Fの両名から殺されるという恐怖心に支配されて,被害者らの殺害等を強制的に命
令されたにすぎないから,犯行を共謀したとはいえない旨主張するほか,被告人B
の弁護人は,同被告人が犯行の準備行為にのみ参加して実行には加わらなかった判
示第二の二,三の各犯行について,同被告人は従犯の責任を負うにすぎない旨主張
する。しかしながら,前記認定事実及び被告人らの捜査段階の供述等に基づけば,
後に期待可能性に関する主張の判断で述べるように,被告人らは,EとFから脅さ
れてその指示命令に従った側面は否定できないものの,本件一連の犯行に加担する
に当たって,その意思決定の自由が完全に制圧された状態にまでは至っていなかっ
たものと認められる
から,その共謀関係を否定することはできない。また,右に述べたように,被告人
Bについても,本件一連の犯行の共謀関係を否定することができず,共謀関係から
の離脱も認められないから,同被告人は,実行行為に加わらなかった判示第二の
二,三の各犯行についても,共謀共同正犯としての責任を免れない。
4 なお,Eは,Hを殺害した現場で同女からその所有の現金や商品券を強取し
ているところ,本件犯行は,前記認定のとおり,G1から手形金を回収するために
敢行されたもので,マジェスタを奪った上,G1夫婦らを殺害して,その居室を家
捜ししてマジェスタの名義変更に必要な物件や金になる物を奪うことも計画に入っ
ていたものと認められる。こうした計画の下では,殺害の対象とされる者が所持す
る金目の物を奪うことも計画の範囲を超えるものではなく,被告人らにおいても,
このことを予想して犯行に加わったものと認められるから,EがHから奪った金品
についても,被告人らはその責任を免れない。
三 適法行為の期待可能性が存在しないとの主張について
  期待可能性の理論は,犯罪構成要件に該当し,違法性阻却事由の存しない行為
について,責任の阻却を認めるものであるから,その要件も厳格であるべきであ
り,適法行為の期待可能性が存しないとするには,当該行為が心理的に到底抵抗で
きない強制下において行われた場合など,行為者が極限的な事態に置かれて初めて
その適用があるものと解される。
  そこで,本件について検討すると,なるほど,前記一で認定したとおり,被告
人らは,暴力団関係者を自称するE及びFから,威圧的に指図されていた上,Nを
受取人とする生命保険に加入させられ,指示に従わなければ保険金目当てに殺害す
るようなことをほのめかされるなどして脅されていたことが認められる。特に,被
告人Aは,2度にわたりNに出社せず,E及びFの両名から身を隠したものの,捜
しにきた両名に念書を書かされてNに戻っているし,被告人Dは,Nを辞めたい意
向を漏らして,E及びFの両名から家族に危害が及ぶようなことを言われて脅され
たり,乱暴されている。そして,被告人Dの自殺未遂も,E及びFの両名から加え
られた精神的圧迫がその一因になっていることがうかがわれる。被告人C及び同B
も,その立場は被告
人Aや同Dと基本的に異なるところがなく,自らに対するE及びF両名の脅しに加
えて,両名の被告人Aや同Dに対するこうした言動に接して,E及びF両名に対す
る恐怖心を増幅させたものと認められる。そして,被告人らは,E及びFの両名か
ら本件犯行に加わることを求められることになるが,その際も,被告人Dは,いっ
たんは不参加の意思を示しながら,Fから参加しないと自己の身に危険が及ぶかの
ように脅されるなどして,本件犯行に加わることを承諾したものである。こうした
事情によると,被告人らは,本件犯行に加わることを求められた際,E及びF両名
の指示に逆らえば,後に自己若しくは家族の生命等に危害が加えられることになる
かもしれないことを危惧していて,その指示命令を断ることにはかなりの心理的圧
迫を感じていたこと
は否定し得ないところである。
  しかしながら,前記認定の事実経過によれば,被告人らは,その身柄をE及び
F両名の実力支配下に置かれていて,その行動を終始束縛されていたわけではな
く,前段に指摘した事情を考慮しても,本件のような重大な強盗殺人などの犯行に
加担する以外に選択は全く採り得ないというほどに極限的に追い詰められた状態に
置かれていたとまでは認められず,E及びFの下を離脱して犯行に加わらず,身の
危険を感じる事態に直面すれば,事の真相を明らかにして警察の保護を求める行動
に出ることを期待することは可能であったと認められるから,適法行為の期待可能
性が存在しなかったとする弁護人の主張は採ることができない。
四 被告人Dに関する自首の主張について
被告人Dの弁護人は,判示第二の二,三の各犯行について,同被告人に自首が成立
する旨主張するので検討するに,関係証拠によれば,既に認定したように,平成1
2年4月4日午前1時17分ごろ,被告人A及び同Bが警察官の職務質問を受けて
任意同行に応じたこと,その後の同日午前11時30分ごろ,被告人Cが警察官か
ら職務質問を受けて任意同行に応じたこと,被告人Dは,翌4月5日午後6時6分
ごろ,警視庁U警察署において,G1に対する強盗致傷の容疑で通常逮捕され,そ
の日のうちに愛知県S警察署に押送されたこと,被告人A,同B及び同Cの3名
は,被告人Dが逮捕される前は,G1に対する強盗致傷の事実とその現場に居合わ
せた女性2人(G2及びH)をら致した事実について供述するのみで,その女性2
人の行方については知
らない旨供述していたことが認められる。また,被告人Dは,当公判廷(第4回)
において,S警察署に押送された当日の取調べで,当初の2,3時間は被害者殺害
の事実は正直には供述しなかった,しかし,隠し通せないと思って,当日の深夜か
その翌日の未明に女性2人を殺害した事実などを自供した,その時点では,まだ取
調官は女性2人がどうなったかについて分かっていなかった旨供述している。そう
すると,G2及びHの殺害と死体損壊遺棄の犯罪事実については,未だ警察には具
体的に明らかになっていない時点で被告人Dが自白したことがうかがわれる。
しかしながら,関係証拠によると,一方において,被告人Dが右自白をしたとされ
る時点までに,警察は,G1を初め,被告人A,同B及び同Cら関係者の供述によ
って,G2とHが数名の男性によって強制的にら致された事実を把握しており,取
調官は,被告人A,同B及び同Cに対して,G2とHの行方を追及していたことが
認められる。そして,被告人Aの供述調書(乙5)などによると,取調官は,G2
とHの両名がら致された状況やその後の時間の経過などから,両名が監禁された
り,その生命,身体等に危害が及んでいることを具体的に危惧して,同被告人に対
する取調べにおいて,必死に両名のその後の状況を追及している事実も認められ
る。
以上の事情によると,取調官は,被告人Dに対して,G1に対する強盗致傷の事件
で取調べをするに当たって,同被告人が,他の被告人らとともにこれと関連するG
2とHの両名がら致されて行方が分からなくなっている事件に関与していて,場合
によっては両名の生命,身体等に危害を加えたのではないかとの疑いを持って,被
告人Dに対して,両名の行方などを追及したこと,そして,こうした取調べの中で
同被告人が両名の殺害等を自白するに至ったことが推認できる。
このように,自己のある犯罪事実について既に捜査官の取調べを受けている者が,
その取調べの中で,具体的根拠をもってこれと関連する余罪の嫌疑を追及されてそ
の余罪を具体的に自白するに至った場合には,自ら進んで犯罪事実を捜査機関に申
告したものとはいえず,刑法42条1項にいう自首には該当しないというべきであ
る。
(法令の適用)
一 罰条(被告人4名の関係)
判示第一の所為     刑法60条,240条前段
判示第二の一の所為 各被害者毎に刑法60条,220条
判示第二の二の所為 各被害者毎に刑法60条,240条後段
判示第二の三の1の所為 包括して刑法60条,190条
判示第二の三の2の所為 包括して刑法60条,190条
二 科刑上一罪の処理(被告人4名の関係)
判示第二の一につき 刑法54条1項前段,10条(各被害者に対する監禁は1個
の行為が2個の罪名に触れる場合であるから,1罪として犯情の重いG2に対する
監禁罪の刑で処断する。)
判示第二の二につき 刑法54条1項前段,10条(各被害者に対する強盗殺人は
1個の行為が2個の罪名に触れる場合であり,その犯情に軽重はないから,1罪と
して強盗殺人罪の刑で処断する。)
三 刑種の選択(被告人4名の関係)
    判示第一の罪につき有期懲役刑を,判示第二の二の罪
につき無期懲役刑を各選択
四 併合罪の処理(被告人4名の関係)
   刑法45条前段,46条2項本文(判示第二の二の罪
の刑で処断し,他の刑を科さない。)
五 酌量減軽(被告人A及び同Bの関係)
   刑法66条,71条,68条2号
六 未決勾留日数の算入(被告人4名の関係)
   刑法21条
七 訴訟費用(被告人四名の関係)
刑事訴訟法181条1項ただし書(負担させない。)
(量刑の理由)
一 本件は,被告人らが,共犯者のE及びFの主導の下に,被害者G1が振り出し
た額面240万円の不渡手形の手形金を回収するため,乗用車で帰宅するG1夫婦
らを襲ってその乗用車を強取するとともに,その自宅マンションから乗用車の名義
変更に必要な物件や金になる物を持ち出して強取し,その際,犯罪の発覚防止と乗
用車を奪取した後の右強取行為を容易にするため,同夫婦らを他所に連行して殺害
し,その死体を損壊遺棄することを企て,共謀の上,乗用車で帰宅した同夫婦らを
自宅マンション付近の駐車場で待ち伏せし,G1に暴行を加えてその所有の乗用車
等を強取した上,同人には逃げられたものの,同人と一緒に帰宅したその妻である
被害者G2及び同女の妹である被害者Hの両名を自動車に監禁して愛知県瀬戸市内
の山林に連行し,同
所で,被害者Hから金品を強取した上,同女らを生きたままドラム缶に入れ,これ
に点火して焼死させて殺害し,さらに,同女らの死体をチェーンソーなどで切断し
て付近に投棄したという強盗傷人,監禁,強盗殺人,死体損壊遺棄の事案である。
二 本件犯行の経緯,犯行状況等は補足説明と弁護人の主張に対する判断の部分で
詳しく認定したとおりである。振出人である被害者G1が手形金の支払に誠意を見
せないとしてその態度に憤慨したとしても,額面240万円の手形金回収のため,
あらかじめ用意した角材を用いて同人を襲撃して自動車等を強奪しただけでなく,
犯罪発覚防止などのため,手形とは関係がなく,同人と一緒に帰宅したにすぎない
2人の女性をも襲って,同女らを自動車に監禁し,ガムテープ等で緊縛して人気の
ない山林に連行した上,同女らを用意していたドラム缶に押し込め,その頭上から
ガソリン混合油を振りかけた上,生命の危険を察知してガムテープを貼られた口か
ら必死で助けを求めるかのようにうめき声を漏らす同女らに対し,点火した新聞紙
をドラム缶に近づけ
て一瞬のうちに引火させて炎上させ,更に悲惨な叫び声を発する同女らをそのまま
焼死させ,続いて,殺害後も死体の燃焼を続けた上,焼け残った無惨な死体をチェ
ーンソーなどで切断して付近に遺棄した本件一連の犯行は,短絡的で無謀な犯行で
あり,犯行の態様は,誠に残虐非道にして,結果も極めて重大である。被害者G2
は,昭和29年に前夫と婚姻し,長男と二男をもうけたが,その後前夫と離婚し,
昭和62年にG1と婚姻し,Qで働きながら,平穏に暮らしていたものである。ま
た,被害者Hは,G2の異父妹で,昭和35年に内縁の夫との間に長女をもうけた
が,内縁の夫と死別し,その後結婚したこともあるが,夫と死別してからは,Qの
従業員として働き,G1夫婦と同居して,平穏な生活を送っていたものである。こ
うした両名にとって
,突然理不尽にも右のような残虐な方法で殺害されるなどということは夢想だにで
きなかったことであり,両名の受けた苦痛と無念さは筆舌に尽くし難いものがあ
り,もとより遺族の処罰感情は峻厳である。また,本件が凶悪な犯行として社会に
与えた衝撃なども無視することはできない。
  こうした犯行の態様の残虐さ,結果の重大性,被害者側の処罰感情及び本件犯
行が社会に及ぼす影響などの面を重視すれば,本件に関わった被告人らのうち,特
に犯罪の重要な実行行為に終始関与した被告人C及び同Dについては,死刑の選択
も考えられるところではある。
三 しかしながら,死刑は人間の生命そのものを永遠に奪い去る冷厳な極刑であ
り,誠にやむを得ない窮極の刑罰であることに鑑みると,その適用は慎重に行われ
なければならず,もとより,犯行の罪質,動機,態様ことに殺害の手段方法の執よ
う性,残虐性,結果の重大性ことに殺害された被害者の数,遺族の被害感情,社会
的影響などは重視されなければならないが,さらに,被告人の年齢,前科,犯行後
の情状等に加えて,特に共犯事件の場合には,当該被告人が共犯者として犯行に関
わった経緯,共犯者間における立場と実行行為への関わり方なども総合して考慮
し,その上でなお当該被告人の罪責が誠に重大であって,罪刑の均衡の見地からも
一般予防の見地からも極刑が真にやむを得ないと認められる場合に限って,死刑の
選択が許されるものと解
するのが相当である。
四 そこで,更に検討すると,本件においては,次のような事情を指摘することが
できる。
 1 既に認定したとおり,本件一連の犯行は,共犯者のE及びFの両名が計画し
て主導したもので,被告人らが行った犯行の準備行為や実行行為もその主要なもの
は両名の指示命令に基づくものである。被告人らは,甘言をもって両名からNの設
立に参加することを誘われ,N参加後は,両名に利用された面が大きい。もとより
詐欺まがいの商法であることを承知して会社設立に加わった被告人らに責められる
べき点はあるが,被告人らにとって,その参加時には,E及びFが暴力団を自称す
るなどしていて,その悪性はある程度知っていたとしても,その奥に潜む本件のよ
うな凶悪な犯行を計画遂行するほどの凶暴性については知らなかったものといえ
る。そして,N設立後,E及びFの両名は,次第にNをあたかもやくざ組織のよう
にして,被告人らを子
分のごとく支配し,ときに罵倒し,ときに叱責してその指示に従わせるようにな
り,さらに,被告人らをしてNを受取人とする生命保険に加入させた後は,被告人
らに対し,保険金目当てに殺害するようなことをほのめかして威圧し,そのため,
被告人らの両名に対する従属は一層強まることになったのである。そして,こうし
た実態に嫌気がさして,被告人Aが一時身を隠したものの,結局Nに戻ることにな
ったいきさつや,被告人DがNを辞めたい意向を漏らして脅迫されたり,乱暴され
たりした事情は先に認定したとおりである。また,被告人C及び同Bにおいても,
その立場は被告人A及び同Dと基本的には異なるところがなく,自らに対するE及
びF両名の脅しに加えて,両名の被告人A及び同Dに対するこうした仕打ちに接し
て,E及びF両名に対
する恐怖心を増幅させていたものと認められるのである。本件一連の犯行は,こう
した事情の下で,E及びF両名が,逡巡する被告人らを威圧し加担させて遂行した
ものである。既に判断したように,適法行為の期待可能性が存在しないとの弁護人
らの主張は採り得ないが,このような事情は,被告人らの量刑に当たって考慮しな
ければならない。
   なお,この点に関して,検察官は,2月の犯行計画において,被告人らがE
及びFの両名から犯行を指示された際,被害者の殺害や死体損壊遺棄の犯行を含め
てそのすべてをちゅうちょすることなく進んで承諾したかのように主張する。ま
た,検察官は,本件犯行に先立って,Fが被告人らに対して,「今夜Gらを殺る。
今度はしくじるな。これは強制ではない。行きたくない奴は言え」などと言ったこ
とを捉えて,後戻りのための橋を架けたとして,Fにおいて,被告人らが犯行に加
わらないことを積極的に容認していたかのように主張する。同様に,検察官は,E
及びFが被告人らを生命保険に加入させたのは,単に被告人らが取込詐欺に専心す
るように心理的圧力を加えることにあり,そのことは被告人らも了解して任意に保
険契約を締結したもの
であるとして,その後にE及びFが被告人らに対して「誰が死ぬんだ。死ぬなら事
故死だ」などと脅しをかけた事実は被告人らが本件犯行に加担する決意をしたこと
にほとんど影響していないかのように主張する。しかしながら,前記認定の事実経
過並びに被告人らの捜査段階及び公判廷における各供述に照らせば,こうした主張
は採ることのできないものである。そのほか,検察官は,被告人らをE及びFと同
列に並べて,E及びFだけでなく,被告人らの犯行動機が極めて利欲的であるとし
たり,被告人らがG夫妻らに対する殺意を募らせたとの情状論を展開するが,本件
手形金の取立ての件は,Eが実父の経営する金融会社から依頼を受けて持ち込んだ
ものであり,本件一連の犯行は,ことのほか実父を畏怖していたEが,自らの意地
も絡んで,この手形
金回収のため,冷静に判断すれば,俗に言う割に合わず,発覚する危険性も大きい
のに,その責任を被告人らに負わせればよいとの意図の下に,敢えてその実行を決
意し,被告人らを引き入れたということができるから,被告人らの犯行動機が極め
て利欲的であるというのは当たらない。また,G夫妻らに対する殺意を募らせたの
は,E及びFの両名であったというべきであり,被告人らは,既に認定したよう
に,両名に指示命令されて,逡巡しながら犯行に加担するに至ったものである。
2 次に,被告人らの個別の情状について検討する。
  ① 被告人Dは,中学校卒業後,給食会社,飲食店,電装会社などの勤務を経
て,Lにトラック運転手として勤務し,Eを除く共犯者らと知り合った。Lでは夜
間の勤務であったことから,下の子が小学校に入学したのを機に,夜は家にいられ
るように転職することにして,個人企業に勤めて制御板を組み立てる仕事をした
が,妻の借金などで悩むことが多く,ストレスによる軽度のうつ病と診断されたこ
とがある。その後,Fに給料の良い仕事の口利きを頼んでいたところ,同人から誘
われてNに参加した。妻,長男(昭和63年3月生まれ)及び二女(平成2年2月
生まれ)がいるが,後述する事情により,平成12年1月に妻と形の上で協議離婚
し,その後はNの事務所で寝泊まりしていた。
    被告人Dは,N参加時,Fから,新会社の事業について,購入した商品を
売りさばいて6か月後に会社を潰すなどと話されており,同社が危険な商法をする
会社であることを知ったものの,取込詐欺にはならず,個人的負債も残らないこと
などを言葉巧みに説明された上,相当の収入があることも告げられて,その誘いに
乗ることにした。そして,間もなく,Lで働いたことのあるEを紹介され,その後
は,F,Eに甘言をもって相当の出資をさせられ,代表取締役に据えられた。しか
し,Nを興した後は,既に認定したように,次第にF,Eが上位に立ち,運転資金
の工面を命じられて,妻の名前でサラ金から融資を受けたこともあった。また,当
座預金口座の開設に失敗したときは,F及びEから強く叱責され,「指を詰めろ」
などと脅され,その
後,生命保険に加入させられることになった。被告人Dは,E及びF両名の意向に
沿って要領よく行動することができなかったことから,両名からは「ボケ」などと
呼ばれて小馬鹿にされ,他の被告人と比べて,罵倒されたり脅されたりすることが
多かった。そのため,EやFの指示に従わなければ両名から自己若しくは家族の生
命等に危害が加えられるかもしれないという恐怖心が,他の被告人に比べて大きか
ったものである。そして,サラ金などに対する返済が滞るようになったこともあっ
て,平成12年1月ごろ,形の上で妻と協議離婚したし,精神的にも不安定になっ
て,同年2月11日ごろには,睡眠薬による自殺を図ったこともあった。また,N
を辞めたいと漏らしたときには,F及びEから,家族に危害が及ぶようなことを言
われたり,乱暴され
たりした。さらに,Fから本件犯行への参加を求められた際も,被告人らの中で唯
一人,いったんは勇気を出して断ったものの,その後にFから犯行に参加しないと
自己の身に危険が及ぶかのように言われて脅され,結局犯行に加わったものであ
る。被告人Dは,本件一連の犯行において,被害者Hを自動車に連れ込んだり,右
H及び被害者G2の両名が入れられたドラム缶に火の点いた新聞紙を近づけて引火
させるなど,重要な実行行為を担当しているが,既に指摘したように,これらはい
ずれもE及びFの指示に基づくもので,自らが進んで積極的に行ったものとはいえ
ない。そのほか,各死体を燃やしている最中の一見すると犯行に積極的とも取れる
言動についても,いったんは断りながら,結局命じられて女性2人を生きたまま焼
き殺した直後の極限的
な精神状態の下での言動である。
    もとより,被告人Dにおいて,このようにE及びFの両名から脅しなどさ
れて心理的圧迫を受けていたとしても,既に期待可能性の主張に対する判断で説示
したように,本件犯行に加担することを免れる途は残されていたものというべきで
あり,EやFから脅しを受けたりしたことを実弟に相談して警察に届けるように勧
告されたりしたこともあったことを考慮すれば,被告人Dが本件一連の犯行に加担
するに至ったのは,こうした脅しに加えて,自らも詐欺まがいの商法に関係してい
るという後ろめたさもあって,警察に通報することなどの勇気がなく,目先の保身
を優先させたとの非難は免れないところであるが,前段に指摘した事情は,同被告
人のために考慮しなければならない事情である。
    そのほか,被告人Dは,前科がない上,逮捕後いったんは逃走したもの
の,その後警察に出頭して,さほど時間を置かずして本件一連の犯行を自供してい
る。また,資力がなくて金銭的な慰謝の方法を講じることはできないが,被害者や
遺族に謝罪の手紙を送ったり,公判廷で謝罪の言葉を述べるなど,自己の行為を反
省する態度を示している。そして,前妻も被告人を支えることを申し出ている。
  ② 被告人Cは,高等学校卒業後,アルバイト,レンタル会社の営業員などを
経て,Lに勤務し,共犯者らと知り合い,誘われてNに参加した。結婚歴はなく,
Nに加わった後はその事務所で居住していた。被告人Cは,被告人らの中では機転
が利くことから,Nの業務等に関して,他の被告人らよりもE及びFの両名から重
用されていたもので,両名から脅される度合いも他の被告人に比べてその分少なか
ったと認められる。しかしながら,被告人Cにおいても,その立場が他の被告人と
基本的には異なるところがなく,E及びFの両名から生命保険に加入させられて脅
されるなどして本件犯行に加担することを決意するに至ったことは,既に繰り返し
指摘したところである。また,被告人Cは,本件犯行の準備段階で,チェーンソー
など犯行に使用する
道具の購入を任されたほか,E及びFの指示を他の被告人らに伝える役割を果た
し,実行段階ではそのすべてに関わり,特に,被害者G2に暴行を加えて自動車内
にら致したり,車内で同女及び被害者Hをガムテープ等で緊縛し,殺害現場でも,
G2をドラム缶に運び入れるなど,犯行の重要な部分を遂行しているが,これらの
行為も,E及びFの指示命令に基づくものである。検察官は,被告人Cには,E及
びFに対する恐怖感は微塵も存在せず,終始積極的に本件一連の犯行に加わったと
主張するが,こうした情状論は採ることができない。
    被告人Cについても,誘われたとはいえ,詐欺まがいの商法をするNに加
わったことは責められるべきである。また,本件犯行について,これに加担するこ
とを免れる途が残されていたのに,自己の目先の保身などを優先させたとの非難を
免れないことも,被告人Dと同様であるが,前段に指摘した事情は,同被告人のた
めに考慮しなければならない。
    そのほか,被告人Cは,前科がなく,Nに関わるまでは犯罪とは無縁の生
活を送っていたものである。そして,本件で逮捕された後は,当初こそ犯行の全容
を供述しなかったものの,その後は犯罪事実を認め,資力がなくて金銭的な慰謝の
方法を講じることはできないが,被害者や遺族に謝罪の手紙を送り,自己の行為を
反省する態度を示している。そして,実母も被告人を支えることを申し出ている。
③ 被告人Aは,工業高校を卒業後,自動車会社,運送会社,空港のサービス
業の会社などの勤務を経て,Lでトラック運転手として働き,共犯者らと知り合っ
た。Lで勤務していてトラックの物損事故を起こし,その対応に困ったとき,Fに
助けてもらい,その後も世話になったことから,同人を信頼していて,同人から誘
われてNに加わったものである。結婚歴はない。
    被告人Aは,Nにおいて本件手形金の取立て担当者とされており,本件犯
行の実行において,最初に被害者G1を襲って同人を角材で殴打するという重要な
役割を果たしている。また,被告人Aは,被害者G2及びH両名の殺害等の実行行
為には加わらなかったが,それはたまたま殺害現場に向かう途中で警察官に発見さ
れたことによるものであって,自らの意思で本件犯行から離脱したものではない。
そして,警察官に職務質問された際,直ちに真相を供述していれば,右被害者両名
が救助される一縷の望みはあったともいえるが,被告人Aは,任意同行された後
も,しばらくは右両名の行方は知らない旨供述して犯行の真相を語らなかったもの
である。
    他方,被告人Aは,右のようにたまたま警察官に職務質問された事情によ
るものとはいえ,G2及びH両名の殺害とその後の死体損壊遺棄の実行行為には関
与していない。また,既に指摘したように,生命保険に加入させられて,E及びF
から,罵倒されたり,脅迫されるなどしており,そのような状況を嫌って2度にわ
たって両名の下から逃げ出しながら,連れ戻されたこともあり,そのため,両名か
ら危害を加えられるかもしれないという恐怖心があって,本件犯行に加わることを
断ることができなかったものである。犯行に加担することを免れる途が残されてい
たのに,自己の目先の保身などを優先させたとの非難を免れないことは,他の被告
人と同様であるが,こうした事情は量刑上考慮しなければならない。そのほか,被
告人Aには,前科が
ないこと,捜査段階の途中からは犯行を自供していること,そして,被害者や遺族
に謝罪の手紙を送り,公判廷でも謝罪の言葉を述べるなど,自己の行為を反省する
態度を示していること,両親らの努力によって,被害者G1に対して45万円,被
害者Hの遺族に対しては80万円をそれぞれ支払う旨の和解が成立し,内金として
合計60万円支払われていることなどの事情がある。
  ④ 被告人Bは,工業高校卒業後,工業部品の製造会社,T協会,運送会社,
電子部品会社等の勤務を経て,Lでトラック運転手として働き,共犯者らと知り合
い,Nの設立に加わった。昭和53年に結婚して,昭和54年に長女,昭和62年
に二女をもうけたが,平成5年に協議離婚した。2人の子は離婚後しばらく被告人
Bが育てたが,その後,長女は被告人Bの実家の両親が養育し,二女は,離婚した
妻が養育した。被告人Bは,Nに加わった後はその事務所で寝泊まりしていた。
    被告人Bは,本件犯行の際,自動車の運転手役を務めたり,被害者G2を
自動車内にら致するのを手伝うなど,相当の役割を果たしている。また,右G2及
び被害者Hの殺害等の実行行為に加わらなかった事情,警察官に職務質問されてか
ら後の事情なども,被告人Aと同様である。
    他方,被告人Bも,被告人Aと同様の事情によるものであるが,G2及び
H両名の殺害とその各死体の損壊遺棄の実行行為には関与していない。また,生命
保険に加入させられて,E及びFから脅されたり,両名から危害を加えられるかも
しれないという恐怖心があって,本件犯行に加わることを断ることができなかった
ものである。犯行に加担することを免れる途が残されていたのに,自己の目先の保
身などを優先させたとの非難を免れないことは,他の被告人と同様であるが,こう
した点は量刑上考慮しなければならないことなど,その多くの事情が被告人Aと共
通する。そのほか,記録上前科がなく,捜査段階の途中からは犯行を自供し,自己
の行為を反省する態度を示している。
五 結論
  以上に指摘した事情に基づけば,被告人D及び同Cについては,本件一連の犯
行の重要な実行行為に終始関与しており,その罪責は重大であるが,それぞれが犯
行に加わった経緯にはいずれも相当に酌むべき点がある。そして,共犯者間におけ
る立場は,明確に主犯のE及びFに従属しており,それぞれが担当した実行行為
も,そのほとんどが主犯のE及びFの強い指示命令の下に行われている。また,そ
のほかに前述した右被告人両名のために酌むべき諸事情もあるから,右被告人両名
に対しては,極刑が真にやむを得ないと認めることはできず,無期懲役刑が相当で
ある。
  被告人A及び同Bについては,いずれも無期懲役刑を選択した上,酌量減軽し
て,主文の刑を科するのが相当である。
   平成14年2月19日
 名古屋地方裁判所刑事第5部
裁判長裁判官  三宅俊一郎
   裁判官安藤祥一郎
   裁判官戸苅左近

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