弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     昭和二七年一〇月五日執行の茅ケ崎市議会議員補欠選挙の当選の効力に
関する訴願にたいし、被告が同年一二月二一日した裁決中、「本選挙において当選
人を決定することができない」との部分はこれを取消す。
     原告のその余の請求はこれを棄却する。
     訴訟費用は参加によつて生じた部分をも含めてこれを二分して、その一
を原告の負担とし、その余を被告および参加人の負担とする。
         事    実
 第一 当事者双方の申立。
 原告訴訟代理人は、「昭和二七年一〇月五日執行の茅ケ崎市議会議員補欠選挙に
関する訴願にたいし、被告が同年一二月二一日した裁決はこれを取消す、原告を当
選人とする、訴訟費用は被告の負担とする、」との判決を求め、被告訴訟代理人は
請求棄却の判決を求めた。
 第二 請求の原因その他原告の主張。
 一 原告は昭和二七年一〇月五日執行の茅ケ崎市議会議員補欠選挙の選挙会にお
いては四七七二票の有効投票を得たものとして当選人と定まつた。
 二 しかるところ、被告補助参加人A、訴外B、C、D、E、F、G、H、I、
Jは、右選挙における選挙人であつて、茅ケ崎市選挙管理委員会にたいして、原告
の当選の効力について異議の申立をしたが、同選挙管理委員会はこれを棄却する旨
の決定をしたのに、同人らはさらに被告神奈川県選挙管理委員会に訴願をしたとこ
ろ、被告は昭和二七年一二月二一日、「昭和二七年一〇月五日執行の茅ケ崎市議会
議員補欠選挙に関する訴願人らの異議申立について、同月二八日茅ケ崎市選挙管理
委員会のなした決定はこれを取消す、Kの当選は無効とする。本選挙において、当
選人を決定することができない、」と裁決し、同月二六日これを告示した。
 三 右裁決の理由は県選挙管理委員会において、茅ケ崎市選挙管理委員会に保存
される本件選挙の投票の全部を調査したところ、総数一四七四六票で、うち原告の
有効得票は四七五一票、Lの有効得票は四七六七票、Mのそれは三二〇一票、Nの
それは一五一六票、無効投票五一一票、である。ところで、右投票総数は開票録記
載の投票総数より五一票少ないが内一票ははじめから存在しないもので、開票録の
記載の誤であると認められるからよいけれども、その他の五〇票は開票時において
存在していたものと認められるのに、現存せず、したがつてその内容を確認する方
法がない。この五〇票の内容の如何によつて原告の当選となるか、訴外Lの当選と
なるか、が分れるのであるから、当選人を確定できない、というのである。
 四 ところが右裁決はつぎに述べるとおりに不当である。
 (一) 五〇票一束の投票紛失の問題の判定の誤り。
 (イ) 裁決においては本件選挙における投票数は一四七九六票のところ、その
うち五〇票が、開票後被告委員会が訴願にもとずき調査したときまでに、紛失した
と認定されている。しかしすでに開票集計において一票の計算違を認めているので
あつて、五〇票も開票当初から存在しなかつたと考えるのが妥当である。
 (ロ) 仮に紛失したとすれば、それは原告の得票中の五〇票一束であるとみな
ければならない。その内少くとも三〇票の絶対有効な投票があると見るべきであ
る。というのは、補助参加八Aらが開票の際に原告の有効投票となつたことにつ
き、異議を述べている「K様へ」なる記載の投票が混入されている五〇票一束が市
選管の調査においても、県選管の調査においても、発見されないから、右投票をふ
くむ一束が紛失したとみることができるからである。開票の際Aらは、その他に
「<記載内容は末尾1添付>」「K様へ」「中川金次郎」「中川銀次郎」「中川文
さん」と各記載された五票が有効に取扱はれたと異議を述べているが、それらの票
も裁決書中に原告の有効投票あるいは無効投票の取扱例として当然表示されるべき
であるのにそれがなされていないのは、これらの票の混入した五〇票一束が紛失し
た事実を証するものである。
 この五〇票一束が原告の有効投票とすれば、裁決に認められた原告の有効得票の
ほかに、前記「<記載内容は末尾1添付>」等の五票をふくめ、少くとも三〇票の
有効得票があるのであるから、原告が当選者とされる得票数となる。被告は原告の
当選を決定すべきであつたのである。
 (ニ) 投票の有効無効の判定の誤り。
 (イ) 検甲第一三四ないし一四九号「山中」または「ヤマナカ」なる記載の一
六票は原告の有効得票である。裁決においては、山中屋はKの通称化せる屋号であ
るが、この場合であつても、山中屋と記載されたとき、はじめて通称といいうる
が、「山中」は屋号でもなく、候補者の氏名でもない、屋号を通称として認めるこ
とは特に限定された範囲においてのみすべきであり、「山中」を氏名の脱字として
認められないとし、無効としている。
 しかし原告は通称を山中屋または山中というのである。仮に「山中」は原告の通
称として完全なものでないにしても、「山中」または「ヤマナカ」と記載した投票
は原告をスイセンする意思を示すものであることにおいて相違はないから、公職選
挙法第六七条にしたがい有効に取扱うべきである。
 (ロ) 被告は検甲第一五〇号「<記載内容は末尾1添付>や」一票および同第
一五一号「<記載内容は末尾1添付>ヤ」一票をそれぞれ無効とし、その理由とし
て、「<記載内容は末尾1添付>」なる符号はKの屋号として使用されているもの
であるが、投票に記載する場合は、氏名に代る通称としては文字で記載しなければ
ならないことは判例の示すところであり、職業の類として認められるのは、氏名ま
たは名のほかにこれらの職業の類として符号の記載が認められると解すべきである
といつているが、前記の各記載は山中屋と書く意思で書いたものであり、この場合
ヤマナカと通常判読できるのであるから、これを有効と解すべきである。屋号等が
通称化している場合には、ことさらに符号を使用するのでなく、従来使用されてき
たもので読めるものは、有効に解することが公職選挙法第六七条の精神である。
 (ハ) 被告は「代理投票」の記載あるLにたいする三二票(検甲第四五ないし
七六号)、原告にたいする二七票(検乙第一二四ないし一五〇号)の各投票を有効
とし、その理由として、代理投票の印は投票所において代理投票をさせた際、誤つ
て押したものであるが、成規の用紙だから有効であるというのである。
 無記名投票は投票を秘密に行う方法である。投票用紙により何人の投票なるかが
推断できる場合は右原則に反するから無効とすべきである。投票管理者が代理投票
なる印を押した投票用紙はその意味ですでに成規の用紙たるの適格を欠くから、い
ずれも無効票として取扱うべきである。また代理投票、不在者投票は例外の投票方
法であり、これにはそれぞれ厳格な手続が規定されている。この規定に従わない投
票は無効としなければ無記名投票の意義は没却される。
 (ニ) 被告は検甲第一三〇、一三一、一三二号「中山」三票、同第一二九号
「なかやま」一票、「K」と記載し、「中川」の右側にマルをかき加えた一票を無
効票とし、その理由として、「中山」「なかやま」は「中川」の誤記とは認められ
ず、前記のマルは他事記載であると判定しているが、原告は「中山や」ともいい、
「中山」「なかやま」は中川の誤記と解するが正しくマルは意味のない筆勢上の汚
点であり、いずれも有効と解すべきである。
 なお、検甲第一二八号は「なかがわ」の誤記であり、第一五二号は「ヤマナカ
ヤ」の誤記であるから、これらもまた原告の有効投票である。
 (ホ) 被告は、検甲第三八号同三九号同第四〇号同第四一号同第一八号同第一
九号同第二一号同第二二号同第二三号同第四四号同第二四号各一票合計一一票をL
の有効得票とし、その理由として、文字の拙劣もしくは抹消、筆勢の余の記載等
で、他事記載と認めるべきではないというけれども、右はいずれも何人を記載した
か不明または、他事記載あるもので無効である。
 (へ) 被告はLの有効投票として、検甲第四三号「石田カツシサ」同第四二号
「石井勝利」同第三七号「内田勝俊」同第三二号「池田勝利」同第三三号「石田利
男」同第三四号「山田勝利」同第三五号「石田勝彦」同第三六号「石田カツノリ」
同第一四号「石田ノブエキ」各一票をLの誤記として有効としているが右はいずれ
も候補者以外の者を記載したものであり、無効である。
 (ト) 被告は検甲第一一号「「通」運送屋ノ石田君」同第一二号「まるすいじ
だかつとし」同第一三号「日通の石田」同第二六号「「ツ」石田さん」同第二七号
「L」同第二八号「「通」石田」各一票同第三〇、三一号「「ツ」石田」二票同第
二九号「石田「ツ」」一一票をLの有効得票とし、その理由として、「通」、日
通、「ツ」等はLが勤務する日本通運株式会社の標章として通常使用されるもので
あることはひろく知られている。Lが通称として選挙長に「日通の石田」と届出で
あり、公職選挙法第六八条の第一項第五号但書には他事記載として職業の類は許さ
れている。同但書事項については、それが通常使用されているものであれは、文字
以外の符号であつてもさしつかえないことは最近の判例の示すところであるとして
いる。しかし本来職業等は他事記載であり、前記六八条第五号により例外として認
められているに過ぎないから、職業等を文字以外の符号で記載することは他事記載
であり無効と解する。
 (チ) 被告は検甲第二五号「石田親分」をLの有効得票とし、その理由として
親分を敬称と解したが、現在においては、正常な社会においては親分は敬称ではな
いことは明らかであるから、これを有効とした被告の決定は誤りである。
 (リ) また被告がLの有効得票とした検甲第七七ないし第一二七号のうち、第
七八、八四、八八、八九九一、九二、九三、九八、一一二、一一四、一一七、一二
〇、一二七号はいずれも候補者の何人を記載したかを確認しがたいものであり、そ
の他の検甲号は候補者の氏名のほか、他事を記載したものであつて、いずれも無効
である。
 五 被告補助参加人の(イ)ないし(チ)の主張は左記のとおり理由がない。
 (イ) 検乙第二、八、九、一九、二〇、三七、三八、三九、四七、七三、七
四、八九、一〇九、一五一、一五二ないし一五七、一七四、一九六、二二七、二三
一号は原告の氏名を書き損じて訂正したものである、その他被告補助参加人が他事
記載であると主張する検乙号も他事記載ではない。
 (ロ) 検乙第三号は原告の氏名を投票用紙の候補者氏名欄外に記載してあるけ
れども、もちろん有効である。
 (ハ) 検乙第五、八号は書損であり、原告の氏名を判読できる。
 (ニ) 検乙第一七、一八、三四、四一、四三、四五、四六、五〇、八一、八
三、八四、九一、九六、一二二、一五八、一八九、二〇八ないし二一七、二二二、
二二五、二二六号の各投票は、いずれも原告の氏名を判読できるものであり、検乙
第一七五、一七八、一七九、一八一、一八三ないし一八七、一九〇、二二四、二三
〇号は原告の氏名の誤記である。
 (ホ) 検乙第一五九ないし一七三号は原告の氏名を記載したものと判読でき
る。
 (ヘ) 検乙第二二八、二二九号は投票用紙の裏面に原告の氏名を記載したもの
であるけれども、もちろん有効である。
 (ト) Lの有効得票とされた検乙第二三二、二三三ないし二三六号はすべて非
候補者の氏名を記載したものであるから、無効である。
 (チ) 同様に検乙第二三七号は候補者の確認不能である。
 六 以上の次第でLの得票は原告より少ないから原告は本件選挙における当選著
であり、被告のした裁決は失当であるから本訴におよんだ。
 第三 答弁その他被告の主張
 原告主張事実中一、二、三は認める。四(一)、(イ)の事実中、五〇票が開票
当初から存在しないとの事実を否認する。
 四(二)、 (イ)「山中」あるいは「ヤマナカ」と記載された一六票に関する
原告の主張中、「山中」もまた原告の屋号または通称であるとの事実は否認する。
 「山中屋」はKの屋号であり、かつ、選挙運動の際もその通称を使用し、また選
挙長にたいし、通称の届出がされていて、右屋号が通称として一般化している事実
が認められるけれども、「山中」は屋号でもなく、また原告の氏名でもない。屋号
を通称と認めるのは、特に限定された範囲においてのみと解すべきであるから、こ
の例外の場合をさらに拡張して「山中」もまた原告の有効得票となすことはできな
い。
 四(二)、 (ロ)の主張は認めない。「<記載内容は末尾1添付>」なる符号
は原告の屋号を表すものとして使用されるものであるが、氏名に代る通称として投
票に記載する場合には、文字で記載しなければならない。職業の類として認められ
るものは、氏または名のほかにこれらの職業の類として符号の記載が認められると
解すべきである。したがつて前記各票はいずれも無効である。
 四(二)、 (ハ)に問題とされる「代理投票」の記載ある投票用紙による投票
(K二七票、L三二票)は投票所事務従事者が代理投票をさせる際誤つておしたも
のであるが、投票所において交付した成規の用紙たることには疑がないものであ
る。用紙に代理投票の印を押し、または書入れることは適法ではないが、これは投
票事務従事者の過失によるものであつて投票者の全く関知しないところであるか
ら、その責任を投票者に負はしめることは酷である。他に特段の事情の認められな
い限り有効と解すべきである。
 四(二)、 (ニ)の主張は認めない。「中山」三票「なかやま」一票は候補者
の氏名にあらざるものを記載したもので、原告の氏名の誤記とは認められないから
無効であり、「中川」の右側にマルがかいであるのは、明らかに他事記載であるか
ら無効である。
 四(二)、 (ホ)の主張は争う。
 検甲第二二、三八、三九号はいずれも書損を抹消訂正したものであり、同四〇は
「石田」同四一は「キシ田」とかいてあると認めることができ、その他は有意の他
事記載とは認められず、Lの有効得票である。
 四(二)、 (へ)及び四(二)(ト)の主張は争う。ここにあげる投票はすべ
てLの有効得票である。
 四(二)、 (チ)の主張も争う。
 Lは通称として選挙長に「日通の石田」と届出をしていた事実で明らかなごと
く、陸上運送業に従事し多数の人夫を使用している。これら人夫の間においては通
常「親分」なる敬称が使用されているので、右は敬称の記載として、許されている
他事記載である。
 第四 被告の補助参加人(以下単に参加人という)の主張。
 被告が裁決において、原告の有効得票と認定した左記(イ)ないし(ホ)の投票
は左記の理由で無効であり、また裁決で無効投票と認定した左記(ヘ)、(ト)の
投票はつぎの理由で訴外Lの有効得票である。だから、原告は本件選挙における当
選人ではない。
 (イ) 検乙第二、六、七、九、一二ないし一六、一九ないし二四、二八ないし
三三、三五ないし四〇、四四、四七、四八、四九、五一ないし五四、五六ないし六
三、六五ないし八〇、八二、八五ないし九〇、九二ないし九五、九七ないし九九、
一〇一ないし一二一、一二三、一五一ないし一五七、一七四、一七六、一九一ない
し一九九、二〇一ないし二〇六、二〇八ないし二一〇、二一八ないし二二一、二二
三、二二七、二三一号(以上合計一二九票)は他事記載である。
 (ロ) 検乙第三号は投票用紙の候補者氏名記載欄外にKの氏名を記載してあ
る。
 (ハ) 検乙第五、八号の二票は他事記載または非文字記載である。
 検乙第一七、三四、四三、四五、四六、五〇、八一、八三、八四、九一、九六、
一二二、一五八、一七五、一七八、一七九、一八一、一八三ないし一八六、一八
七、一八八、一九〇、二一一ないし二一七、二二二、二二四、三二〇号(以上合計
三五票)はいずれも候補者の確認不能である。
 (ホ) 検乙第一五九ないし一七三号はいずれも非候補者の氏名を記載したもの
である。
 (へ) 検乙第二二八、二二九号は投票用紙の裏面に原告の氏名を記載してあ
る。
 (ト) 検乙第二三二号は「いしだ」と判読できる。
 (チ) 検乙第二三三ないし二三七号は「石田」と判読できる。
 第五 証拠。
 立証として原告訴訟代理人は甲第一号証、第二号証の一ないし一八、第三ないし
第六号証を提出し、証人O、P、Q、R、Sの各証言および検証の結果(第一、二
回)を援用し、乙号各証の成立を認め、
 被告訴訟代理人は、乙第一号証の一、二第二、三号証第四号証の一ないし五を提
出し、証人Pの証言および検証の結果(第一、二回)を援用し、甲号各証の成立を
認め、
 被告補助参加人は、証人Q、Rの各証言を援用した。
         理    由
 第一 原告Kが昭和二七年一〇月五日執行の茅ケ崎市議会議員補欠選挙における
選挙において、四七七二票の得票があつたものとして当選人と決定されたものであ
ること、補助参加人A、訴外B、C、D、E、F、G、H、I、Jは右選挙におけ
る選挙人であつて、茅ケ崎市選挙管理委員会にたいして原告の当選の効力に関する
異議の申立をしたところ、同委員会はこれを棄却する決定をしたこと、同人らはこ
の決定に不服だといつて、被告神奈川県選挙管理委員会にたいして訴願をしたの
で、被告は「昭和二七年一二月二一日昭和二七年一〇月五日執行の茅ケ崎市議会議
員補欠選挙に関する訴願人らの異議申立について同月二八日茅ケ崎市選挙管理委員
会のした決定はこれを取消す。Kの当選は無効とする。本選挙において、当選人を
決定することができない」と裁決し、同月二六日これを告示したこと、右裁決の理
由は、被告神奈川県選挙管理委員会において、当時茅ケ崎市選挙管理委員会保管の
現存全投票を調査した結果、各候補者の有効得票は、原告K四七五一票、L四七六
七票、M三二〇一票、N一五一六票、無効投票五一一票、投票総数一四七四六票で
あり、この投票総数は開票録記載の投票総数より五一票少なく、そのうち一票は開
票録の記載の誤りではじめから存在せず、五〇票は開票時において存在していたも
のである。ところで、現存投票だけからみた原告およびLの有効得票の差は前記の
とおり一六票であるから、右五〇票の内容いかんによつて右両候補者のどちらが最
高得票者であるかが、きまるわけであるが、右五〇票の内容を、わからせること
は、できないことであるから、本件選挙における最高得票者は明かでなく、したが
つて右両候補者のいずれをも当選人と決定することができないという趣旨であるこ
とは、当事者間に争がない。
 第二 本件選挙における投票の総数につき按ずるに、成立に争のない甲第四号証
(開票録)によると、本件選挙の開票録には投票総数一四七九七とあることが認め
られる。ところが、そのうち一票ははじめから存在せず、その限度において開票録
の記載は誤りであることに、当事者双方の弁論の全趣旨にてらし明かである。また
被告が前記裁決をするために調査した際に存在した投票はさらに五〇票だけ開票録
記載の数よりも少く、その後は変動なく、現在投票数は一四七四六であることは本
件当事者間に争のないところである。
 (1) 原告は、右五〇票は、すでに開票当初から存在しなかつたと主張するけ
れども、成立に争のない甲第二号証の一ないし八(投票録)および甲第五号証(投
票に関する調書)によると各投票所における投票者数の合計は一四、七九七であ
り、開票録記載の投票数と一致しているから、開票当初から存在していなかつたこ
とにつき当事者間に争のない一票をのぞいては、右五〇票は開票当時存在し、その
後前述の調査のときまでの間に紛失したものと認めるのが相当である。
 (2) 前記甲第四号証(開票録)によると、開票の際には、各候補者の有効得
票は、原告K四七七二票、L四七六五票、M三二五六票、N一五二一票、無効投票
は合計四八三票と判定されたことが認められるにたいし、成立に争のない乙第三号
証(被告の裁決書)によると、被告が裁決するにあたつて判定したところの各候補
者の有効得票数は、原告四七五一票、L四七六七票、M三二〇一票、N一五一六
票、無効票は五一一票であり、開票の際と裁決の際との有効、無効の投票の増減を
対照してみると、五〇票以上の減少のあつたのはMの得票のみであつて、その他に
は五〇票以上の増減はなく、いわゆる疑義票中被告において宮前のために有効もし
くは無効と判定した数からは、右のように多数の差の生ずるいわれがないことをう
かがうことができる。
 (3) 成立に争のない乙第三号証(裁決書)証人P、O、Q、R、Sの各証言
および検証の結果(第一、二回)を総合すると、昭和二七年一〇月六日の開票当日
において、候補者Lの選挙立会人Qが、その書きとどめた石田の得票数と、開票事
務従事者の中間発表した石田の得票数とに差があるからといつて、投票の再調査を
求めたので、開票管理者小室政吉が原告の有効票と石田の有効票とを調査したとこ
ろ、石田の有効票五〇票束の票箋番号に八九号が二重につけられてあり、それとは
反対に原告の有効投票五〇票束の票箋番号には八九号が欠けており、開票事務従事
者がこれに気付かないで両人の得票数を計算したため、実際の得票より石田につい
ては五〇票少なく、原告については五〇票多く計算したことが判明したので、石田
および原告の得票の計算をやり直した事実のあること、しかし、そのときM、Nの
得票については、かくべつ、このような問題のなかつたこと、その後被告において
訴願審査にあたり、現存全投票について再調査したところ、Mの有効投票五〇票の
票箋番号五四号が欠けていることが発見されたことを、それぞれ認めることができ
る。この事情と前記(2)に説示した事実とを合せてみると、紛失五〇票は、宮前
の得票であると認めるのが相当である。
 (4) 原告は、仮にこの五〇票が紛失したのだとするならば、それは原告の得
票である。開票の際に存した「K様へ」「<記載内容は末尾1添付>」「中川金次
郎」「中川銀次郎」「中川文さん」等記載の有効投票が被告の裁決に現われていな
いから、これらの投票をふくむ原告の得票五〇票一束が紛失したものであると主張
するけれども(事実第二、四(一)(ロ))、後に説明するように、検乙第八七
号、検甲第一五〇、一五一号、検乙第一八五、二二四、一八六号等原告主張の前記
投票にあたると認められる投票が存在するのであるから、原告の主張は明かに誤り
である。
 第三 つぎに、本件当事者間に争のない事実と検証その他証拠調べの結果とにも
とずき、有効無効の争ある投票について、判断する。
 一 原告の有効得票と認めるべきか否かの争あるもの
 (イ) 検甲第一三四ないし一四九号
 これらの票は、いずれも「山中」「ヤマナカ」あるいは「やまなか」と読み得る
記載のされたものである。
 「山中屋」が原告Kの通称化した屋号であり、選挙長にたいしても、この通称の
届出がなされていたことは当事者間に争がない。かゝる通称の届出があつた場合に
おいて、通称を投票用紙に記載するにつき、誤記、脱字その他不完全なところがあ
つたとしても、この記載にして他の候補者の氏名、通称と、少しも混同、誤認を生
ずるおそれがなく、投票者が、その通称を用いる候補者を選挙する意思であること
がうかがわれるとの条件がそなわるかぎり、選挙人の意思は明白であると解すべき
ものである(公職選挙法第六七条参照)。ところで本件選挙における原告以外の他
の候補者の氏名、通称、は「L(通称が、日通の石田であることは原告の明らかに
争はないところである)」「M」「N」であるから、前記一六票は前述の条件をそ
なえているものというべく、原告の有効得票と認めるべきである。
 <要旨第一>(ロ) 検甲第一五〇号「<記載内容は末尾1添付>や」第一五一号
「<記載内容は末尾1添付>ヤ」
 投票用紙に候補者を表示記載するには文字をもつてすべきものである。前記二票
のそれぞれ二個の記載のうち下方にあるのは、それぞれ「や」「ヤ」の文字である
けれども、それぞれ上方の記載は構成部分として「中」という文字をふくむけれと
も、その上にかぶさる山形の折線と一体になつて一個の標章を作つているのであ
る。世間一般に、かような標章をヤマナカと呼びならわしていることは、公知のこ
とであるけれども、それが文字でないことは明かである。この標章とその下に記載
したカナ文字とを合せると、原告を表示しようとしたものと判定し得ないではない
が、右のカナ文字だけからは、そういう判定はできないから、この二票は、結局、
文字による表示と認められず、無効と解すべきものである。
 <要旨第二>(ハ) 投票用紙に「代理投票」との記載ある投票。
 検甲第一二四ないし一五〇号の二七票は、その記載からみると、明かに原告への
投票であると認められるが、用紙そのものは成規のそれであり、ただ代理投票の四
字を刻んだ印を押したり、そうでないのは同文字を手書してある。証人Pの証言に
よると、この「代理投票」の押印または記入は、投票事務になれない投票事務従事
者が代理投票をさせる際、過失により押印または記入したものであつて、これは投
票者にかかわりないことであることが認められるし、かかる記載があるからといつ
て成規の用紙たるを失わない。もとより投票の効力をさまたげる他事記載にはあた
らない。一開票区にたゞ一人の代理投票による投票者がある場合を考えると、代理
投票による場合には用紙に代理投票と記載するとすれば、投票録にたれが代理投票
によつたかを明記する現制度のもとにおいて、投票のヒミツを保ちがたいというこ
とができ、かかる記載をすることは選挙管理者の事務執行として不当であることは
明かであるけれども、かゝる記載あることはその投票を無効とするほどのキズでは
ないと解するのが相当である。これらの二七票はすべて原告の有効得票と解すべき
である。
 (ニ) 検甲第一三〇、一三一、一三二号「中山」、第一二九号「なかやま」と
各記入された票、「K」と記載し、その「中川」の右側に小さいマルを書いた票お
よび、検甲第一二八、一五二号。
 原告の氏名が「K」通称が「山中屋」であること、また、他の候補者のそれらが
「L(日通の石田)」「M」「N」であることは前記のとおりである。ゆえに、
「中山」あるいは「なかやま」は原告以外の他の候補者の氏名および通称のどれに
も類似するところはなく、混同するおそれはない。しかも、この「中山」「なかや
ま」を原告の氏および通称である「中川」「山中屋」とくらべて考えると、その文
字も読み声もよく似ており山中と中山とを、まちがえることは、ずいぶん、ありが
ちのことであるから、「中山」「なかやま」の記載は「中川」または「山中」の誤
記と認めるのが相当である。したがつて、投票者の意思は原告を表示しようとする
ものであることは明白というべきであるから、検甲第一二九ないし一三二号は原告
の有効得票と解すべきである(公職選挙法第六七条参照)。
 「K」の右側にマルを書いた票は、マルの位置形状から考えて有意の他事記載と
認めるべきであるから、この一票は無効と認めるべきである。
 つぎに、検甲第一二八号の記載は「ナガわ」と判読ができ、片カナと平カナを交
えてあるがとにかく原告氏をカナで書こうとして、「カ」か「か」を一字書きおと
しているものと認められる。なおそのほかの記載は明かに書損抹消と認められ、有
意の他事記載とは認められず、この票は有効と解すべきである。
 また検甲第一五二号は「マるナカヤ」と判読できる記載のある票であるが、筆跡
もはなはだ拙いところからみると、ことさらに候補者でない者を記載したとか、じ
ようだんや、からかい気分でしたというようなことではなく、一生懸命に、まじめ
にした投票と認めるのが相当であるから、候補者中のだれかに投じた一票とみるべ
きである。そこで本件選挙の候補者中のだれを表示しようとしたものかと考える
に、各候補者の氏名通称が前にもいつたようであるところがらみて、「山中屋」と
いう通称をもつ原告へ投票しようとする意思をもつてした記載と認めるのが相当で
ある。したがつて、この一票は原告の有効得票に数えるべきである。
 (ホ) 参加人が無効だと主張するものゝうち事実らん第四(イ)において他事
記載があると主張する検乙第二号以下の一二九票は、「T」「U」の文字を書損し
て抹消したもの、平カナまたは片カナでフリガナをつけたもの、氏名または通称の
下に点を打つたもの、氏名の左または右に「山中屋」と書き加えたもの、氏名また
は氏の下に「様」を書き加えたもの、Kの「中」「文」「次」を「小」「交」
「治」と一字ずつ誤記したもの「中川」の下に「(酒屋)」と附記したもの、投票
用紙の裏面の氏名欄内に「V」と書いて抹消し、そのかたわらに、「K」と書いた
もの、「中川山中」と記したもの「中川文次」と書いたもの、「ナカガワ」と片カ
ナで記載した右肩に判読不能の平カナのような記載のあるもの、拙劣ではあるが
「K」と判読できるものであつて、これらはいづれも書損をそのまゝ残し、または
これを抹消したもの、敬語、通称、職業、フリガナを附記したもの、書くときの筆
のはしりでされた記載、誤字(字画が多すぎたり足りなかつたりしている)であつ
て、補助参加人主張のように有意の他事記載とは認められない。すべて原告の有効
得票に数えるべきである。
 同(ロ)の検乙第三号は、参加人のいうとおり、原告の氏名が用紙の候補者氏名
欄の外に記載されであるけれども、成規の用紙である以上、この一事によつて投票
を無効とすべきものではない。原告の有効得票である。
 同(ハ)の検乙第五、八号の二票は文字が拙劣で不正確であるが、原告の氏名を
表示するものと容易に判読でき、他事記載にはあたらない。原告の有効得票と認め
られる。
 同(ニ)記載の検乙第一七号以下三五票は「中川交次郎」「中川分次郎」「やま
なかぶんじろ」「申川文治」「仲川」「中山文治郎」「ナカガわぶんじ」「なかが
はぶんじろう」「なかかわ」「なか」「山中文次郎」「山川文郎」「申川」「田中
文次郎」「中川次郎吉」「山川父冶郎」「ナカハブじロ」「中川キンジロー」「山
中文さん」「中山文郎」「ナカわふ」「中村文次郎」「中山文次郎」「なかが」
「中川ぎんじろー」「ナカハワ」と判読され、いずれも記載の文字が拙劣、不正確
で、誤字、脱字があり、不完全ではあるけれども、本件選挙の全候補者の氏名、通
称が前記のとおりであること(理由第三、一(イ)参照)をシンシヤクすると、原
告の氏名、通称を表示する記載であると判断されるから、原告へ投票する意思が明
白であるということができる。原告の有効得票と解すべきである。
 同(ホ)の検乙第一五九ないし一七三号の一五票は「山中文次郎」「山中文治
郎」「山中ぶんじろ」と記載してあるのであるが本件選挙の全候補者の氏名、通称
が前記のとおりであることを考えて判断すると、これらの投票は原告を表示するも
のと認めるのが相当であつて、原告の有効得票である。
 同(へ)の検乙第二二八、二二九号の二票は成規の投票用紙の裏面の端の方に
「中川文治郎」と記載してあるが、このことは投票の効力をさまたげるものでない
こと説明をまたぬ。原告の有効得票である。
 二 Lの有効得票と認めるべきか否の争あるもの。
 (イ) 原告主張四、(ニ)(ホ)に示された検甲第三八号は「石」「ダ」と明
かに読まれる文字の間に、むりに読めば、井と読めないこともない記載があるが、
よくみるとタテかヨコかどちらかが書損であつて、反対にヨコかタテかがその抹消
であることがうかがわれるから、他事記載ではない。
 同じく検甲第三九号は「石田」と明かに読まれる記載があり、その上方に「み」
と読める記載があり、その記載から「石」の上部へかけて指先をぬらしてこすつた
と認められる汚れがあるが、石の字は汚れのできた後で記載したと認められる。だ
から、みの字をかいて抹消したものであると認めるべきで、他事記載ではない。
 同じく検甲第四〇号には非常に文字にうとい人の書いたものと思われる筆跡で田
の字はまず字形をしているがその上には片かな「ナ」の拙い字で、ガンダレの書き
そこないかとみられるものと片かな「ロ」か漢字「口」とみられるものとが上下に
はなれて記載してあるが、これは、石の字の第一画第二画を上に書きその余の字画
を書くにあたつて実に甚だしく遠隔の場所に筆を下したので、二字のようになつた
もので、石の字をかいたものと判じとることができるから、Lへ投票しようとする
意思の投票と認めることができる。
 同じく検甲第四一号は「<記載内容は末尾1添付>シ田」と記載してあり、これ
は「エシ田」と判読することができ、「イ」と「エ」とを混同することは、関東地
方以北ではよくあることであるから、Lへの投票と認めるべきである。
 同じく検甲第一八号はLと記載し利のツクリである立刀の最後のはねる筆を余り
勢よくやつたので利の字の下辺を通り左の方で上方へはねる線が記されたのである
と認められる。これを有意の他事記載というは失当である。
 同じく検甲第一九号にはLとハツキリ読める記載があり、利の字のツクリに汚損
があるのは書損と認められ、違法な他事記載とは認められない。
 同じく検甲第二一号は「イシダ」とハツキリ読み得る記載があり、タと認められ
る字の下に短い並行線があるが、この投票者は記載自体からみて字をかくことにな
れない人と認められるところがら考えると、これはタの字の第二画の斜線が短かす
ぎたのでそれをおぎなおうとしてかき加えたところあやまつて並行線になつたもの
と認められ、有意の他事記載ではない。
 同じく検甲第二二号には「イシダ」と読める記載があり、シの字の最初の画が二
つかいてあるが、筆跡からみて投票者は文字をかきなれない人と認められるから、
オズオズと、筆をうごかしているうちに、思わず余分な点を打つたものと解せら
れ、タの下部に汚れがあるのは書損を抹消したあとと認められ、有意の他事記載で
はない。
 同じく検甲第三二号には「いした」と読める記載があり、「し」と認められる字
の右側に点があるが、これも余り書字能力すぐれた人の筆跡とは認められないか
ら、不なれな筆のあやまりで思わずつけた点と認められ、有意の他事記載ではな
い。
 同じく検甲第四四号はLと記載した左上に、はなれて、かすかな弧線があるが有
意の他事記載とは認められない。
 同じく検甲第二四号の記載はまずい字ではあるが、とうやら「イダシグカズト」
と判読することができる。
 以上一一票はいずれもLの有効得票と認めるべきである。
 (ロ) 原告主張四(二)(ヘ)に示される検甲第四三号以下九票はすべて原告
主張のとおりに記載されていることは明かであるが、本件選挙の全候補者の氏名通
称が前記のとおりであることから考えると、すべてLの氏名の誤記と認めるのが相
当である。
 <要旨第三>(ハ) 原告主張同(ト)にかかげる検甲第一一号以下九票は原告主
張のとおりの記載であるが、「通」「ツ」は日本通運株式社の標章とし
て使用され、「日通」は日本通運株式会社の略称として使用されていることは公知
の事実であるから当裁判所に顕著である。
 そうして、Lが右会社に勤務し、この職業をとつて通称を「日通の石田」と届出
ていることは当事者双方の弁論の全趣旨から明らかである。ゆえに「日通」と文字
で記載すべきところを「通」または「ツ」と記載しても、それは「日通」と記載し
たのと同様に見るべく、かゝる候補者の氏名または通称以外の、職業の記載は文字
でない符号であつてもさしつかえないものと解すべきであるから、かような記載
が、つけ加えられていても違法な他事記載ではない。これら九票はLの有効得票で
ある。
 (ニ) 原告主張同(チ)に示される検甲第二五号記載の「石田親分」の「親
分」は一種の敬称であること疑のないところであるから、Lの有効得票と解すべき
である。
 (ホ) 原告主張同(リ)にかかげる五一票中検甲第七八、八四、八八、八九、
九一、九二、九八、一一二、一一四、一一七、一二〇、一二七号の各票の記載は文
字が拙劣、不正確で誤字、脱字があるけれども、Lを表示するものと判読し得る。
 同じく検甲第九三号は公職選挙浅施行令所定のイシダに該当する点字で記載して
ある。これが効力をうたがうべき点は認められない。
 同じく検甲第七七、八七号票記載の「様」は敬称であり、その他は書損抹消であ
る。
 検甲第七九、八一、八二、八三、八四、八五、八六、九〇、九四、九五、九六、
九七、九九、一〇〇、一〇一、一〇二、一〇四、一〇五、一〇六、一〇八、一一
〇、一一一、一一六、一一九、一二一、一二二、一二三一二五、一二六号の各票に
は書損抹消あるいは訂正があるだけで、他事記載はない。
 検甲第八〇、一〇三、一〇九、一一三、一一五、一二四の各票はフリガナをつけ
てあるが、これは違法な他事記載ではない。
 検甲第一一八号票の記載中「サレ」とみられる部分は敬称「サン」を記したもの
と認められ、違法な他事記載ではない。
 よつて以上五十一票はすべてLの有効得票と認めるべきである。
 検甲第四五ないし七六号の三二票は明かにLへの投票と認められるが、成規の用
紙に代理投票の四字を刻んだ印を押したり、同文字を手書したりしてあるのであ
る。しかし、かかる記載あることが投票の効力をさまたげないことは、同様の記載
ある原告の得票について前に説示したとおりであるから、Lの有効得票と認めるべ
きである。
 (ト) 参加人がその主張(ト)において有効と主張する検乙第二三二号は「う
ちだ」と拙劣な文字で記載してあるが、本件選挙の候補者氏名通称が前記のとおり
であることから考えると、Lへの投票と解せられ、同人の有効得票と認めるべきで
ある。
 (チ) 参加人主張(チ)にかかげる投票車検乙第二三三号ないし二三六号は
「石井」と記載してあるが、候補者中には「井」の文字を用いる氏名または通称の
者は一人もなく「石」の字のあるのはLのみであるから投票者の意思は「石田」と
記載するつもりであつたところ、「石井」と誤記したものと解するのを相当とし、
右は有効と解すべきである。検乙第二三七号は拙劣な文字で「ふちだかつよし」と
記載していることは判読できるのであるが、右は「いしだかつとし」の誤記と認め
られ、候補者Lに投票したものと判断されるから、以上五票はLの有効得票であ
る。
 第四 結論
 本件弁論の全趣旨にてらすと、本件選挙における現存の投票中、原告の有効得票
として争のないものは四五四〇票訴外Lの有効得票として争のないものは四六五四
票であること、右のほかに、原告または右石田の有効得票であるか否を問題とすべ
き投票は、さきに第三の一および二において効力判定をした投票のほかには、ない
こと明かである。
 そこで原告およびLの得票数を計算してみると、当事者間に争のない原告の有効
得票四五四〇票に、さきに第三の一において、原告の有効得票と認定した二三三票
を加えると本件選挙における原告の有効得票は四七七三票、同じくLの争のない有
効得票四六五四票に、さきに第三の二においてLの有効得票と認定した一一九票を
加えると、Lの有効得票は四七七三票となり、右両候補者の得票は同数であつたの
である。
 本件双方の弁論の全趣旨によると、現存投票中候補者Mの有効得票は三二〇一
票、同Nのそれは一五一六票であること明かである。したがつてさきに認定したと
おり、開票当時存在し、その後紛失した五〇票は宮前の得票であり、かりにこの五
〇票がすべて有効得票であつたとしても原告およびLの各得票に及ばないこと明か
であるから、本件選挙において最多数の投票を得た者は原告およびLの両名であつ
たこと明かである。
 当選人を定めるに当り得票数が同じであるときは、選挙会において、選挙長かく
じで定めるべきこと、公職選挙法第九五条第二項に明かであるから、本件選挙にお
いて選挙長は両候補者について被選挙資格の有無を審査し、どちらにもその欠ける
ところがないと認めるならば、くじで当選人を定めるべきである。
 しかるに、選挙会において、投票の有効無効の判定をあやまつた結果原告をただ
一人の、最多数有効投票を得た者であるとして当選人と定めたのは失当である。し
たがつて、茅ケ崎市選挙管理委員会が、当選の効力に関する異議の申立を棄却する
旨の決定をしたのは失当であり、被告が裁決において右決定を取り消し、原告の当
選は無効である旨宣言したのは、理由を異にするけれども、結局正当である。
 しかし前記説明のように、本件選挙において、当選人を定めることはできないの
ではないのであるから、被告が裁決において、本件選挙においては当選人を定める
ことができないと宣言したことは失当であるといわなければならない。したがつ
て、本件請求中、この宣言の取消を求める部分は理由あるものとして、これを認容
すべきであるが、その余の請求は理由がないものとして棄却すべきである。
 よつて訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八九条第九二条第九四条を適用し
て主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 藤江忠二郎 判事 原宸 判事 浅沼武)

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