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平成23年10月28日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成21年(ワ)第3642号損害賠償請求事件
口頭弁論終結日平成23年8月26日
判決
主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告は,原告に対し,1100万円及びこれに対する平成19年7月29日
から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
2被告は,別紙1記載の内容の謝罪文を,同記載の放送方法により放送せよ。
第2事案の概要
1本件は,いわゆる光市母子殺害事件差戻後控訴審の公判において,弁護人請
求証人として,被告人の精神鑑定を行ったことについて証言した精神科医師で
ある原告が,被告が製作して全国に放送されたテレビ番組の中で,原告の映像
が無断で使用された上,原告の証言の趣旨を歪曲し,原告を誹謗,中傷する報
道がなされたため,原告の社会的評価が低下して名誉が毀損され,原告の肖像
権,パブリシティ権並びに上記映像に関する原告の著作者人格権及び著作権が
侵害されたとして,被告に対し,不法行為に基づき,慰謝料1000万円及び
弁護士費用100万円並びにこれらに対する上記番組の放送日である平成19
年7月29日から支払済みまで年5%の割合による遅延損害金の支払を求める
とともに,民法723条に基づき,別紙1記載の内容及び放送方法による謝罪
文の放送を求めた事案である。
2基礎となる事実(争いのない事実並びに各項末尾掲記の証拠及び弁論の全趣
旨によって容易に認定することができる事実)
(1)当事者等
ア原告は,精神科医師であり,A大学教授である。(甲12)
イ被告は,放送法による一般放送事業,放送番組の企画,制作及び販売等
を目的とする株式会社であり,全国の放送網を通じて,テレビ番組を放送
している。
(2)本件刑事事件について
ア原告は,平成19年1月12日から同年5月20日ころにかけて,広島
高等裁判所平成18年(う)第161号事件(以下「本件刑事事件」とい
う。)の被告人(以下「本件被告人」という。)について,本件被告人の弁
護人ら(以下「本件弁護人ら」という。)からの依頼に基づき,精神鑑定
を行った(以下「本件鑑定」といい,これにより作成された精神鑑定書を
「本件鑑定書」という。)。(甲9)
イ本件刑事事件は,第1審の判決において,犯罪事実の要旨として,当時
18歳の少年であった本件被告人が,白昼,排水管の検査を装って上がり
込んだ被害者方において,当時23歳の主婦(以下「被害者」という。)
を強姦しようとしたところ,激しく抵抗されたため,被害者を殺害した上
で姦淫し,同所において,激しく泣き続ける被害者の当時生後11か月の
長女を殺害し,その後,被害者の財布を窃取したという事実が認定され,
いわゆる「光市母子殺害事件」としてマスコミにより広く報道された事件
の差戻後控訴審である。(甲7,乙1,2)
ウ原告は,平成19年7月26日,本件刑事事件の公判において,弁護人
請求証人として本件鑑定の内容及び結果について証言した(以下「本件証
人尋問」という。)。原告は,本件証人尋問の反対尋問において,検察官か
ら「鑑定書の関係について,若干質問させていただきます。まず,鑑定資
料でございます。先生が挙げておられるのは,第1審,控訴審,上告審判
決,それから第1審,控訴審における被告人質問の公判調書,山口家庭裁
判所の少年審判における被告人の社会記録及び広島拘置所で知り合ったB
の被告人あての書簡,被告人あての被告人の弟の手紙,資料としてそうい
ったものを挙げておられますけれども,この中に,被告人の捜査段階での
警察官,検察官に対する供述調書が含まれていないのはどういうことでし
ょうか。」と質問されたのに対し,「山のようにコピーを渡されたんで,一
言で言って,全部読むのが面倒くさいんで,刑事調書その他についてはぱ
らぱらとしかみてないから省いたということです。」と供述した(以下,
この供述を「本件証言」という。)。(甲8)
(3)本件番組
ア被告は,「The・サンデー」と題するテレビ番組を製作し,自局の放
送エリアで放送する他,系列テレビ局28社に供給しているが,平成19
年7月29日に放送された上記番組(以下「本件番組」という。)の中で,
本件刑事事件に関する報道を行い(以下,本件番組のうち,本件事件に関
して報道された部分を「本件報道」という。),本件番組は,同日,佐賀県,
宮崎県及び沖縄県を除く全国で放送された。
イ本件報道は全体で約18分間あるが,冒頭から約13分間,本件刑事事
件について被告が編集したVTR映像が放送された。そのうち,本件証人
尋問に関する報道は,別紙2記載の内容で約55秒間放送され,その中で,
テレビ局のインタビューに答えている原告の上半身の映像(以下「本件映
像」という。)が,11秒間及び8秒間の2回に分けて使用された。そし
て,上記VTR映像の放送後,出演者であるコメンテーターの1人(以下
「本件コメンテーター」という。)が,「やっぱりA大学のですね,精神鑑
定医がですね,裁判で,山のような,この,鑑定資料のいろいろのコピー
をね,物を,ホント全部読むのがじゃまくさかったと。こういうのはホン
トね,裁判で言ってしまってることがね,そもそもその弁護側がいったい
何をしてるのかと,いうことですよね。」と発言した。(甲1,2)
ウ本件映像は,被告の系列テレビ局である讀賣テレビ放送株式会社(以下
「讀賣テレビ」という。)が,平成12年2月11日ころ,原告に対して
実施したインタビューを撮影して録画し,同日,讀賣テレビが放送したニ
ュース番組において放送されたものである。上記インタビューは,平成1
1年12月に京都市伏見区の小学校で発生した児童刺殺事件(以下「別件
殺人事件」という。)の犯人について,原告が,精神医学的観点から分析
した見解を説明するものであった。(甲12ないし14,19,原告本人,
調査嘱託)
3主たる争点
Ⅰ名誉毀損
(1)社会的評価の低下の有無
(2)違法性阻却事由等
Ⅱ肖像権又はパブリシティ権の侵害
(1)肖像権の侵害による不法行為の成否
(2)パブリシティ権の侵害による不法行為の成否
Ⅲ著作者人格権又は著作権の侵害
Ⅳ損害及びその回復方法
(1)損害
(2)謝罪文放送の要否
4主たる争点に対する当事者の主張
Ⅰ名誉毀損
(1)社会的評価の低下の有無
(原告の主張)
ア原告は,本件鑑定に当たり,本件鑑定書に引用した膨大な鑑定資料を
読み込んだ上で,本件被告人及びその関係者らと面接し,さらに本件被
告人の警察官及び検察官に対する捜査段階の供述調書(以下「供述調書
等」という。)についても必要な限度で精査したが,これらは鑑定資料
としての価値が低いものと考えて重視しなかったため,本件鑑定書での
引用を省略したものであり,本件証言は,原告が山のようなコピーの中
から重要な鑑定資料を選択したという趣旨であった。
これに対し,本件報道は,原告の証言の一部を切り取って,「山のよ
うな鑑定資料のコピーを…,全部読むのは面倒くさかった」,「元少年の
供述調書などを,細かく読んではいないというのだ」とし,原告が読む
べき鑑定資料の一部を読まなかったかのように歪曲して報道した。これ
に加えて,本件報道は,「資料映像」等の注意書きを付すことなく本件
映像を使用して,原告が本件証言に関して被告のインタビューに応じた
かのように放送し,ナレーションに合わせたテロップ文字を用い,原告
役の声優がいかにも投げやりな芝居がかった言い方をして原告の証言を
再現し,サスペンス調の音楽で盛り上げる等,画像構成,テロップ文字,
音楽,ナレーション及び声優という5つのメディア要素による構成,演
出がなされたことにより,視聴者に対し,原告が,鑑定資料を全部読ま
ないで鑑定を行うようないい加減な人物であり,原告の鑑定は信用でき
ないという印象を植え付けるものであって,原告の社会的評価を低下さ
せるものであるということができる。
イまた,本件報道の後半に,本件コメンテーターが,「A大学のですね,
精神鑑定医がですね,裁判で,山のような,この,鑑定資料のいろいろ
のコピーをね,物を,ホント全部読むのがじゃまくさかったと」と発言
したが,これは,原告が鑑定資料をいい加減にしか読んでいないように
揶揄し,ひいては本件鑑定がいい加減なものであるかのように印象づけ
る発言であるから,原告の鑑定の進め方について不当な評価を行い,原
告の社会的評価を低下させるものである。
(被告の主張)
アテレビ放送された報道番組において摘示された事実がどのようなもの
であるかを判断するに際しては,一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕
方を基準として,当該報道番組の全体的な構成,登場人物の発言の内容
や,画面に表示されたフリップやテロップ等の文字情報の内容のほか,
映像の内容,効果音,ナレーション等の映像及び音声に係る情報の内容
並びに放送内容全体から受ける印象等を総合的に考慮して判断すべきも
のとされており(最高裁平成14年(受)第846号同15年10月1
6日第一小法廷判決・民集57巻9号1075頁参照(以下「平成15
年判決」という。),また,ある放送部分が他人の名誉を毀損するか否か
の判断においては,当該放送部分の吟味とともに,その前後の放送内容
をも併せ考慮した上で検討を行う必要がある。
上記基準に則して検討すると,本件報道は,原告が,山のような鑑定
資料のコピーを渡されたが,全部読むのは面倒くさかったので本件被告
人の供述調書等を細かく読んでいない旨を,法廷における証言として述
べた事実を摘示して報道したものであり,本件証言の内容に即したもの
であって,原告の社会的評価を低下させるものではない。
イまた,本件コメンテーターの発言において摘示された事実も,上記の
とおり摘示された事実の一部であり,本件証言の内容に即したものであ
るから,原告の社会的評価を低下させるものではない。
ウなお,原告は,本件報道を契機として多くの誹謗中傷を受けたと供述
しているが,本件番組の放送以前から原告の勤務先の大学には多数の苦
情や嫌がらせが寄せられていたこと,本件番組の放送後も原告が多数の
メディアからコメントを求められ,顔を出してコメントしていること等
からすると,本件報道を原因として原告の社会的評価が低下したとはい
えない。
(2)違法性阻却事由等
(被告の主張)
ア本件報道が原告の社会的評価を低下させる場合でも,①公共の利害に
関する事実について(公共性),②専ら公益を図る目的でなされた場合
(公益性),③摘示された事実の重要な部分が真実であれば(真実性),
違法性が阻却され,また,仮に摘示された事実が真実であると証明され
なくても,被告においてその事実が真実であると信じるについて相当な
理由があれば(真実相当性),故意・過失がなく責任が阻却され,不法
行為は成立しない(最高裁昭和37年(オ)第815号同41年6月2
3日第一小法廷判決・民事判例集20巻5号1118頁(以下「昭和4
1年判決」という。),最高裁昭和56年(オ)第25号同58年10月
20日第一小法廷判決・裁判集民事140号177頁(以下「昭和58
年判決」という。)参照)。
イ①事実の公共性
本件報道における摘示事実は,社会的に大きな問題として関心を集め
ていた本件刑事事件において弁護人請求の証人として精神鑑定を行った
医師・医学者である原告が,法廷において証人として証言した内容に関
するものであり,その内容は公共の利害に関する事実である(刑法第2
30条の2第2項参照)。本件刑事事件においては,被告人の精神能力
が重要な争点とされており,原告が法廷において本件証言を行ったこと
は,犯罪行為に関する裁判の報道という公共の利害に関する事実の報道
と密接に関係し,これと一体となっているものといえるからである。
ウ②目的の公益性
本件報道の内容及び構成等からすれば,被告は,報道機関として,専
ら公益を図る目的で本件報道の放送を行ったといえる。
これに対し,原告は,被告が,本件報道において,原告の証言の趣旨
を歪曲して,原告を誹謗中傷した旨主張する。しかし,一般に,報道に
おいて,紙面上又は時間的制約から,報道対象のうち重要部分に絞り,
一部を切り取って使用することは当然のこととして行われているし,情
報の受け手が再読することができる新聞等と異なり,一方的に進行する
テレビ報道においては,視聴者に分かりやすく伝達するために発言の趣
旨に即して言葉を補うことなども一般に行われているところ,原告は,
実際に法廷において本件報道の内容と重要ないし主要な部分において合
致する内容の証言を行っており,被告が原告の証言の趣旨を意図的に歪
曲した事実はないから,原告の主張は理由がない。
また,被告は,被害者の遺族の希望を汲んで本件被告人に死刑を科す
べきである等の一方的な論調の報道は行っていないし,原告の証言につ
いても,「X教授は,父親からの虐待,母親の自殺が影響し,精神の発
達が極めて遅れているとして,責任能力を疑問視する証言を行った」旨
を報道しており,報道機関として公正中立の立場から報道を行ったこと
は明らかである。
なお,原告が引用する放送倫理・番組向上機構(以下「BPO」とい
う。)の意見は,BPOが本件刑事事件について報道したテレビ番組3
3本について包括的に論評した意見に過ぎないし,当該意見に対して認
識違いであるとの見解も示されているから,本件番組の内容が不公正な
いし不正確であった事実はない。
エ③真実性又は真実相当性
(ア)名誉毀損の主張に対する抗弁としての真実性の要件については,
報道の迅速性の要請と客観的真実把握の困難性等に鑑みて,報道事実
の重要な部分ないし主要な部分について真実性・真実相当性が認めら
れれば足りる(昭和58年判決,福岡高裁昭和59年(ネ)第431
号同60年8月14日判決・判例時報1183号99頁参照)。
そして,報道事実の重要な部分が真実か否かについては,事実審の
口頭弁論終結時を基準とする客観的な判断をすべきであるから,名誉
毀損行為の時点では存在しなかった証拠を考慮することも許されるが,
他方,事実を真実と信ずるについて相当の理由が行為者に認められる
か否かについて判断する際には,名誉毀損行為当時における行為者の
認識内容こそが問題になるため,行為時に存在した資料に基づいて検
討することが必要である(最高裁平成8年(オ)第576号同14年
1月29日第三小法廷判決・裁判集民事205号233頁参照)。
本件証人尋問が行われたのは平成19年7月26日であり,本件番
組が放送されたのはその3日後の同月29日であって,この放送時点
では,本件証人尋問の速記録(甲8)は作成も公開もされておらず,
本件鑑定書(甲9)も公開されていなかったから,本件において,違
法性阻却事由である真実性の判断に際しては,これらの書証も考慮さ
れる必要があるが,責任阻却事由である真実相当性の判断に際しては,
これらの書証を考慮に入れずに判断すべきである。
(イ)本件において真実性又は真実相当性の立証が必要とされるのは,
原告が山のように鑑定資料のコピーを渡されたが,全部読むのは面倒
くさかったので,元少年の供述調書などは細かく読んでいない旨を法
廷証言として述べた事実であり,その重要ないし主要な部分について
真実性又は真実相当性が認められれば足りる。
原告は,本件証人尋問の際,上記2(2)ウ記載の本件証言をしてい
るところ,確かに原告は,「山のようにコピーを渡された」と証言し
ており,「山のような鑑定資料のコピーを貰った」という表現はして
いないが,検察官が本件証言の直前に鑑定資料について質問する旨を
述べたため,被告は,視聴者の理解に資するように,「鑑定資料の」
という文言を補足したものであって,この補足により,本件証言中の
重要ないし主要な部分が歪曲されたということもない。
また,原告が渡された資料の写しは,本件弁護人らが,本件鑑定の
ための資料として原告に渡したものであるし,精神鑑定を行う際に必
要な殺人行為に至る事実関係について正確な事実認定を行うためには,
捜査段階における供述調書を含めて十分に検討する必要がある。現に,
本件刑事事件の判決は,原告が本件被告人の供述調書等を「ぱらぱら
としか見ていない」ため,原告が誤った前提の下に鑑定意見を作成し
た旨判示しており,原告が本件被告人の供述調書等を細かく読んでい
ないことに関する本件報道の指摘は,報道機関として正鵠を射たもの
であった。
したがって,原告が山のように鑑定資料のコピーを渡されたが,全
部読むのは面倒くさかったので,本件被告人の供述調書等は細かく読
んでいない旨を法廷証言として述べたという被告の報道事実は,その
重要ないし主要な部分について,真実性又は少なくとも真実相当性が
認められる。
(ウ)これに対し,原告は,本件証言の趣旨について,鑑定のための資
料を取捨選択するという趣旨であった旨主張している。
しかし,原告本人が,法廷において「全部読むのが面倒くさいんで,
刑事調書その他についてはぱらぱらとしか見てない」と明確に証言し,
「重要な鑑定資料を選択した」とは述べていないから,仮に,本件証
言に関する原告の意図が上記原告主張のとおりであったとしても,被
告が報道機関として報道すべきは原告が実際に法廷において行った証
言の内容であることに変わりはない。
また,原告は,精神鑑定にあたり供述調書等を読むことは重要でな
いとも主張するが,犯行時における犯人の精神状態を正確に把握する
ためには,被告人が行った犯罪行為について正確に把握した上で,そ
の内容を吟味する必要があるから,犯行に至る経緯,動機,犯行前後
の心情等についても言及されている供述調書等を読むことには重要な
意味があって,だからこそ,本件弁護人らも,原告に対し,鑑定のた
めの資料として供述調書等を提供したのであり,原告も,本人尋問に
おいて,捜査段階での供述調書についても十分検討する必要があるこ
とを認めていたものである。
(原告の主張)
ア本件報道の問題点
(ア)日本民間放送連盟(以下「民放連」という。)は,公正,正確,
公平な放送を行うための放送基準を設定しており,同基準は,「犯罪
容疑者の逮捕や尋問の方法,および訴訟の手続きや法廷の場面などを
取り扱う時は,正しく表現するように注意する。」,「犯罪報道にあた
っては,無罪推定の原則を尊重し,被疑者側の主張にも耳を傾ける。
取材される側に一方的な社会制裁を加える報道は避ける。」,「報道に
おける表現は,節度と品位をもって行われなければならない。過度の
演出,センセーショナリズムは,報道活動の公正さに疑念を抱かせ,
市民の信頼を損なう。」と定めている。
(イ)しかしながら,本件刑事事件について報道したテレビ番組のほと
んどが,被害者遺族の発言や心境に同調することに終始し,法廷で何
が審理されているのかを正確に伝えることなく,本件被告人の発言を,
前後関係や真意を無視して意図的に切り取って報道し,その結果,本
件被告人及び本件弁護人らに対するバッシングを煽るニュアンスの強
いものであって,また,本件被告人及び本件弁護人らと被害者遺族と
の主張を対立的に描き,本件被告人が法廷で供述した事実や本件弁護
人らが鑑定結果等に基づき提示した事実を公正かつ正確に報道するこ
となく,ことさらに批判する内容のものであって,これらの問題はB
POの意見書(甲7)においても指摘されていた。
(ウ)本件報道についても,本来,裁判報道は,その事件がなぜ起きた
のか,同じような事件を二度と起こさないために社会として何をすべ
きなのかを問うべきものであるのに,一方的に被害者側に立ち,本件
弁護人らをことさらに批判して,「遺族対弁護人」という構図を作り
上げ,本件被告人が公判で供述していないことをあたかも供述したか
のように報道し,刑事裁判における精神鑑定の重要性や本件鑑定の意
義を理解せず,ことさらに原告による本件鑑定を非難するものであっ
た。
したがって,本件報道は,民放連が定めた上記(ア)記載の放送基準
を逸脱し,報道機関として事実を公正かつ正確に伝えることを放棄し
ており,客観的かつ中立的な報道とはいえないものであった。
イ目的の公益性について
本件報道は,原告に無断で本件映像を使用し,本件証人尋問における
原告の証言の一部を不正確に切り取って,その趣旨を歪曲して報道し,
原告の証言を誹謗中傷して個人攻撃をするものであり,その意図は,視
聴者をして,原告が,鑑定資料を全部読まないで鑑定を行うような人物
であり,原告の鑑定は信用できないとの印象を強く植え付けようとする
ものであるから,専ら公益を図る目的によるものとはいえない。
ウ真実性又は真実相当性について
(ア)本件報道は,証人席に座る原告の後頭部のイラスト画を背景に,
本件証人尋問での原告の証言の一部を不正確に切り取った報道であり,
原告が鑑定資料を選択したという本件証言の趣旨を歪曲して,あたか
も原告が鑑定資料を読まずに鑑定したかのように視聴者に伝えるもの
であり,真実を報道していない。しかも,原告役の声優が,「山のよ
うな『鑑定資料の(この部分は,被告が付加したものである。)』コピ
ーをもらったが,全部読むのは面倒くさかった」といかにも投げやり
な芝居がかった言い方で演出し,同じ文言のテロップ文字を放映し,
さらに,本件映像を使用して原告が被告のインタビューに答えて話し
ているかのごとく報道し,視聴者に対して,原告が資料を読まないで
鑑定をした人物であるとの印象を強く与えるものであって,これらの
事実が真実であり,真実であると信じるにつき相当の理由があるとは
いえない。
(イ)本件刑事事件は,本件被告人の精神的発達の程度が争点となって
いる事件であり,本件証人尋問の重要な部分は本件鑑定における判断
内容であって,原告が鑑定人として何を考察し,鑑定結果は具体的に
どうであったか,その根拠は何であったかを報道することが重要であ
る。
また,原告の鑑定手法は,本件被告人やその関係者らと直接面会し
て聞き取り調査を行い,それを分析することが中心であるし,本件刑
事事件において,犯行に至る経過や動機,犯行態様,犯行時の意識状
況等の重要な部分において,捜査機関側と本件被告人との主張が大き
く食い違っていたため,供述調書等自体の信用性が問題となっていた
から,原告が本件鑑定に当たり供述調書等を重視しなかったのは当然
であることに加え,どのような資料を尊重するかは鑑定人の裁量であ
るから,供述調書等をよく見ていないことのみを大きく取り上げるこ
とが公正な判断とはいえない。
したがって,これらの事実を無視して,原告が供述調書等を読んで
いないことが問題であるかのような曲解のもとに,原告が鑑定資料を
読まないで鑑定したという歪曲した事実を報道している本件報道は,
本件証人尋問の重要又は主要な部分について真実であり,又は真実相
当性がある報道ということはできない。
Ⅱ肖像権又はパブリシティ権の侵害
(1)肖像権の侵害による不法行為の成否
(原告の主張)
ア(ア)最高裁昭和40年(あ)第1187号同44年12月24日大法
廷判決・刑集23巻12号1625頁(以下「昭和44年判決」とい
う。)及び最高裁平成15年(受)第281号同17年11月10日
第一小法廷判決・民集59巻9号2428頁(以下「平成17年判
決」という。)によれば,人は,公法上及び私法上,みだりに自己の
容ぼう・姿態(以下「容ぼう等」という。)を撮影されないこと及び
容ぼう等を撮影された写真をみだりに公表されないことについて法的
権利を有するというべきであるから,原告は,被告に対し,原告の肖
像をみだりに公表されない権利を有している。
(イ)しかるに,本件映像は,別件殺人事件の犯人についての原告の見
解を表明するために撮影されたものであり,原告は,讀賣テレビに対
し,同社が本件映像を撮影,録画及び放映することを承諾したが,そ
の他の会社のテレビ番組において,異なる目的で,音声を使わずに肖
像のみを使用することを承諾したことはないから,被告が本件報道に
おいて本件映像を使用したことは原告の肖像権を侵害する。
イまた,撮影された容ぼう等が,通常公開を欲しないような場合,肖像
権は,プライバシー権の一内容として法的に保護されるところ,本件報
道は原告による本件鑑定の結果の信用性を低下させるものであって,原
告がその肖像の公開を欲するものではないことからすると,被告は原告
の肖像権を侵害したということができる。
(被告の主張)
ア報道機関による報道は,民主主義社会において,国民が国政に関与す
るにつき重要な判断資料を提供し,もって国民の「知る権利」に奉仕す
るものであるから,報道の自由も表現の自由の保障の下にある(最高裁
昭和44年(し)第68号同年11月26日大法廷決定・刑集23巻1
1号1490頁参照)。それゆえ,たとえ報道機関による報道により他
人の肖像権が侵害されたとしても,それが表現の自由の行使として相当
と認められる範囲内においては,違法性を欠き,不法行為は成立しない
と解される。具体的には,報道機関の報道における表現行為が,公共の
利害に関する事実その他社会の正当な関心の対象である事実と密接に関
係するものであり,かつ,その公表内容及び方法がその表現目的に照ら
して相当なものであれば,違法性を欠き,不法行為は成立しないものと
すべきである。
イ(ア)本件映像は,社会的に大きな問題として関心を集めていた本件刑
事事件において弁護人請求の証人として精神鑑定を行った原告が法廷
で行った重要な争点に関する証言について報道するために使用された
ものである。そして,当該証言を行った証人の容ぼう等も,証言の内
容と共に,事件の焦点となっている精神鑑定を行った証人の人物像を
示すものとして,犯罪行為に関する裁判の報道という公共の利害に関
する事実の報道と密接に関係し,これと一体となっているものであり,
社会の正当な関心の対象である事実と密接に関係するものである。
(イ)原告は,本件番組放送前から,精神医学の第一人者として世間に
名が知られ,メディアから多数のインタビューを受け,その顔写真や
映像を一般に公開していたものであり,本件番組報道後も複数のメデ
ィアに顔写真と共にコメントを寄せている。また,本件映像は,讀賣
テレビからのインタビューの申入れに原告が応じ,その許諾の下に撮
影されたものであり,テレビ放送に用いられることが当初から予定さ
れていたものであるから,テレビ番組で放送されることにより,原告
が格別の不快感等を覚えるようなものではない。そして,本件報道は,
原告の本件証人尋問における証言内容をありのままに報道したもので
あり,いたずらに原告を貶める内容ではない。
これらの事実からすると,本件報道における本件映像の公表方法及
び内容は,社会の耳目を集めた殺人事件において重要な争点となって
いる本件被告人の責任能力に係る精神鑑定を行った医師の法廷証言に
関する事実を報道するために使用するという公表の目的に照らして相
当であるということができる。
(ウ)したがって,本件報道における被告による本件映像の使用は,表
現の自由の行使として相当と認められる範囲内にあり,違法性を欠く
から,不法行為を構成するものではない。
ウ(ア)なお,本件映像の撮影者が被告ではなかったことは,本件映像の
元になったインタビューの収録に際して,原告がテレビ放送に用いら
れることを前提として撮影に応じたという事実を左右するものではな
い。また,本件映像は,平成12年2月11日に,被告の系列テレビ
局により全国放送がされたニュース番組の中で放送されたものである
から,本件映像は,単に讀賣テレビの放送エリアだけでなく,被告系
列の各地のテレビ局において放送されることが前提として撮影された
はずであり,原告は,被告を含む全国の系列テレビ局において本件映
像が使用されることを承諾していたか,少なくとも十分に予測するこ
とができたということができる。
(イ)原告は,本件映像を被告が使用することについて原告が承諾して
いないことを問題としているが,上記イ記載の要件が満たされるとき
は,たとえ本人の承諾が得られない場合であっても,違法性が阻却さ
れるものといえる。
エなお,上記のとおり,原告が,従来から精神医学の第一人者として世
間に名が知られ,メディアから多数のインタビューを受け,その顔写真
や映像を一般に公開していたこと,原告は,このような背景の下に,社
会の耳目を集めた重大な事件である本件刑事事件において,重要な争点
である本件被告人の精神能力について鑑定を行った医師にして大学教授
であり,そのことに関して法廷において証人として証言を行った者であ
ること,本件映像は,本件番組において,本件証人尋問の内容について
報道するに際して使用されたものであり,いたずらに原告を貶める目的
で使用されたものではないこと,本件映像は,テレビ放送を前提として,
原告の承諾の下に撮影されたものであり,実際にその後いわゆる全国放
送がされていた映像であること等からすると,被告が本件報道において
本件映像を使用したことは,社会生活上の受忍限度を超えるものという
ことはできないから,この観点からも違法性が阻却され,不法行為は成
立しない。
オ上記(原告の主張)イについて,本件映像は,テレビ放送されること
を前提として,原告の承諾を得て撮影されたインタビュー映像であり,
公開することを前提として撮影されたものであって,実際に,本件番組
の放送以前に全国放送のニュース番組を通じて公開されたものであるか
ら,本件映像は,一般人の感受性を基準として他人への公開を欲しない
ものであるとはいえず,プライバシー侵害に該当しない。
(原告の再反論)
ア原告は,本件映像について,讀賣テレビが当該番組において放送する
ことのみを承諾しており,被告が本件報道において放送することは承諾
していない。被告や讀賣テレビとは異なるあるテレビ局は,原告の承諾
を得て原告の映像を撮影する際,放送年月日,放送番組名及び収録日を
特定して,出演料,リハーサル料,日当宿泊費及び交通費等が支払い,
また,同一番組を再放送するときに備えてリピート料を支払っている。
被告は,讀賣テレビが撮影した本件映像を原告に無断で利用することで,
これらの手間暇や費用の負担を免れている。
また,本件鑑定及び本件証人尋問において,原告が述べた最も重要な
事項は,本件被告人の犯行時の精神状況及び責任能力であり,なぜ本件
被告人の生育歴を調べた上で精神鑑定までする必要があるのか,鑑定人
として何をどのように考察したのか,その鑑定結果及び根拠は何である
のか等の事実が重要である。これに対し,本件報道は,これらの事項に
ほとんど触れずに,原告の証言の信用性を減殺するため,原告が法廷で
述べた証言をあえて切り取って,原告の証言だけでなく本件鑑定の結果
の信用性を貶めるものであるといえる。このような目的の本件報道につ
いて,原告が自己の映像を使用するにつき承諾するはずがないし,原告
は,本件映像を利用されたことについて,格別の不快感を有している。
イ(ア)本件報道は,本件刑事事件の有する背景や社会性について幅広い
意見を採り入れて,同事件の真相に迫ろうとするものではなく,一方
的に被害者側の立場に立ち,本件被告人に有利となりうる原告の証言
及び本件鑑定の結果の信用性を貶める演出を行っている。
(イ)報道の自由が認められて報道機関が保護されるのは,報道機関が
多様な意見や正しい事実を報道することにより,市民に正しい情報が
伝わり,多様な意見を形成するという民主主義原理に基づくものであ
るところ,本件報道は,他局に対する競争意識,弁護団と被害者側と
の対立を面白おかしく描くことによる視聴率至上主義,及び,被害者
側に同調し,弁護団を批判しておけば社会的な批判を受けることがな
いという安易な思惑に基づく集団的過剰同調番組であって,本来の民
主主義形成のための報道の自由とは無縁のものであり,自らの営業成
績向上のための営業の自由の一形態にすぎない報道である。
(ウ)本件報道が,社会的に関心を集める本件刑事事件に関する裁判報
道であり,それゆえに本件被告人の肖像を報道することが公共の利害
に関する報道であるとしても,原告は,本件刑事事件において証人に
なったに過ぎず,証人の人物像が社会的関心を集めたわけではないし,
犯罪行為と関係のない証人の肖像を放送する必要性もないから,本件
報道において本件映像を放送することが公共の利害に関する報道であ
るということはできない。
(エ)さらに,本件報道は,刑事弁護の意味を理解しようともせずに,
被害者の立場に立って本件弁護人らの弁護手法を攻撃するとともに,
誤った認識に基づいて原告の鑑定手法を批判的に報道したものであっ
て,被告が客観的,中立的な立場で報道したものとはいえない。
(オ)これらの事実からすると,被告が本件映像を公表した目的が公正
であり,公表方法が相当であったとはいうことはできない。
ウ上記のとおり,本件映像は,本件証人尋問とは無関係に撮影されたも
のであるにもかかわらず,原告の許可なく本件報道において使用された
ものであるが,本件報道は,原告の鑑定手法を批判してその証言の信用
性を貶める目的でなされたものであるし,本件報道において原告の肖像
を放送する必要性もなかったことから,原告が,本件報道において本件
映像を放送されたことは,受忍限度内のものであるとはいえない。
(2)パブリシティ権の侵害による不法行為の成否
(原告の主張)
ア著名人の氏名及び肖像は顧客吸引力を有しており,経済的価値がある
から,著名人は,肖像の利用に関する本人の財産的利益を保護する権利
としてのパブリシティ権を有する。
そして,著名な大学教員の氏名及び肖像は,大学の提供する教育内容
に関して学生を引きつける宣伝効果が期待されるし,本件映像は,原告
が讀賣テレビから対価を得て精神科医師としての専門知識を提供したも
のであって,被告が本件映像を使用したことにより,本件番組の顧客吸
引力に貢献しているから,原告は,本件映像の利用についてパブリシテ
ィ権を有するというべきである。
イしかるに,原告は,上記(1)(原告の主張)記載のとおり,被告が本
件報道において本件映像を使用することを承諾していなかったから,被
告が本件報道において本件映像を使用したことは,原告のパブリシティ
権を侵害したといえる。
(被告の主張)
ア顧客誘引力の利用とは無関係な肖像の利用についてもパブリシティ権
が及ぶという解釈は,著しく不合理であり相当でないところ,被告は,
報道機関としてニュースを報道するために本件映像を使用したに過ぎず,
原告の顧客吸引力を利用する行為を行った事実はないから,原告の顧客
吸引力の持つ経済的な利益ないし価値を排他的に支配する財産的権利が
侵害されたとはいえず,原告のパブリシティ権の侵害はない。
イまた,本件映像の撮影の際に,読売テレビから原告に対して出演費が
支払われたようであるが,これが原告のパブリシティ権に対する対価と
して支払われた証拠はない。
ウなお,本件報道によって原告のパブリシティ権が侵害されたとしても,
報道機関の有する表現の自由との調整上,上記(1)(被告の主張)記載
の肖像権の場合と同様の基準により,違法性が阻却され,不法行為は成
立しないというべきである。
Ⅲ著作者人格権又は著作権の侵害
(原告の主張)
(1)本件映像は,原告が,別件殺人事件の犯人について,自己の学識,経
験から得た意見を,身体及び言語によって表現しているものであるから,
言語の著作物である講演(著作権法10条1項)に該当する。そして,本
件映像における原告の発言内容と原告の肖像とは不可分一体のものであっ
て,原告がその著作権又は共同著作権を有する。
また,原告は,本件映像を撮影するに当たり,讀賣テレビの担当者との
間で,専門家として述べるべき意見や見解について打合せを行っており,
本件映像の制作,監督,演出を担当し,その全体形成に創作的に寄与した
ということができるから,本件映像につき著作権又は共同著作権を有する。
(2)上記(1)記載のとおり本件映像における原告の発言内容と肖像とは不可
分一体であるところ,被告は,本件報道において,本件映像の音声を削除
し,映像だけを放送するとともに,ナレーションやテロップを用いて原告
が誠実に鑑定を実施しなかったかのように視聴者を誤導し,原著作物とは
全く異なる映像に改変して公表したから,原告の本件映像に対する著作者
人格権としての同一性保持権(同法20条)を侵害したといえる。
(3)また,上記のとおり原告は本件映像について著作権又は共同著作権を
有するところ,被告は原告に無断で本件映像を改変し,本件番組の中で放
送したから,原告の有する公衆送信権(同法23条),複製権(同法21
条),譲渡権(同法26条の2)及び貸与権(26条の3)を侵害した。
(被告の主張)
(1)本件映像は,映画の効果に類似する視聴覚的効果を生じさせる方法で
表現され,かつ,物であるビデオテープに固定されたものであるから,映
画の著作物(著作権法2条3項)に該当する。
そして,本件映像の撮影の際に原告が話したコメントの内容について,
学術の範囲に属する言語著作物として著作権が成立したとしても,映画著
作物と,その中で口述された学術講演等の言語著作物とは,著作権法上,
異なる著作物であるから,仮に,原告が,本件映像内で口述した内容が言
語著作物と認められ,その著作権が原告に帰属するとしても,映画著作物
である本件映像について,原告が当然に著作権を取得するものではない。
(2)ア映画の著作物の場合,その著作者が当然に著作権者になるものでは
ないところ(著作権法29条第1,2項),原告が,本件映像の撮影の
際,予算・スケジュールの管理,インタビュー対象の選定,現場スタッ
フの選定やその統率,収録物の編集作業といった「制作,監督,演出」
等(同法16条本文)に該当する行為を担当した事実があるとは認めら
れないし,原告と讀賣テレビとの間で特段の契約書面が作成されていな
いこと等に照らし,同社の依頼を受けてインタビューに応じたに過ぎな
い原告が,仮にコメント内容について同社と事前に打ち合わせをしてい
たとしても,映画の著作物である本件映像について,著作権を取得した
とはいえない。
イ共同著作が成立するためには,複数の者が共同して創作したものであ
って,各人の寄与を分離して個別的に利用することができないものであ
ることを要する(著作権法2条1項12号)ところ,原告は犯罪心理学
の専門家としてコメントを述べたに留まり,上記ア記載のとおり,映画
著作物である本件映像について,制作,監督,演出,撮影,美術等を担
当した事実も,その映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した事実
もないから,原告が本件映像の創作を讀賣テレビと共同して行った事実
はない。
また,原告が話したコメントの内容について,仮に言語著作物として
著作権が成立したとしても,その著作物は,映画著作物である本件映像
とは異なる著作物であって,原告は,コメント部分を分離して個別に利
用することが可能であるから,本件映像について原告が共同著作者であ
るとはいえない。なお,原告は,本件映像において,原告が自らの身体
及び言語によって表現している旨主張しているが,実際には口頭で伝達
する口述を行っているに過ぎず,原告の主張は事実に反する。
(3)したがって,原告が本件映像の著作者であるとは認められないから,
原告は,本件映像について著作者人格権及び著作権を有しない。
そして,原告が話したコメントの内容について,仮に言語著作物として
原告に著作権が成立したとしても,被告は本件報道において音声を消去し
た本件映像のみを使用しており,当該コメントは利用していないから,原
告の著作権を侵害していない。
Ⅳ損害及びその回復方法
(1)損害
(原告の主張)
ア本件報道は,本件映像を放送したことにより,原告の著作者人格権,
著作権,肖像権及びパブリシティ権を侵害し,真実に反する事実を放送
してことさらに原告を誹謗中傷したことにより,原告の社会的評価を低
下させて原告の名誉を毀損するものであり,原告はこれらにより重大な
精神的苦痛を受けた。さらに,原告は,本件報道をはじめとする本件刑
事事件に関する一連の報道を契機として,多数の抗議や嫌がらせ等の攻
撃を受けることとなった。
したがって,本件報道により原告が被った精神的苦痛を慰謝するため
の慰謝料は,1000万円を下らない。
イ弁護士費用は,100万円が相当である。
(被告の主張)
争う。
(2)謝罪文放送の要否
(原告の主張)
原告が,本件報道によって毀損された名誉を回復するには,別紙1記載
の内容及び放送方法による謝罪文の放送が必要である。
(被告の主張)
民法723条に基づく謝罪広告は,それを命ずることが必要かつ効果的
であり,かつ,判決により強制することが適当である場合に限り認められ
るものであるところ,被告が本件証人尋問の内容に即して本件番組を製作
したこと,及び,本件番組の放送から既に相当の期間が経過し,一般視聴
者の関心が薄れていることからすると,仮に本件報道について名誉毀損が
成立したとしても,謝罪文放送の必要性はない。
第3当裁判所の判断
1名誉毀損(争点Ⅰ)
(1)社会的評価の低下の有無(争点Ⅰ(1))
アテレビジョンで放送された報道番組の内容が人の社会的評価を低下させ
るものであるか否かは,一般視聴者の普通の注意と視聴の仕方を基準とし
て判断すべきであり,その番組によって摘示された事実の内容についても,
一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準として判断すべきである。
そして,テレビジョンで放送される報道番組においては,新聞記事等に
よる報道の場合とは異なり,視聴者は,音声及び映像により間断なく提供
される情報を瞬時に理解することを余儀なくされるのであり,録画等の特
別の方法を講じない限り,提供された情報の意味内容を十分に検討したり,
再確認したりすることができないものであることからすれば,その報道番
組により摘示された事実がどのようなものかという点については,その報
道番組の全体的構成,これに登場した人物の発言内容,画面に表示された
フリップやテロップ等の文字情報の内容を重視すべきことは当然であり,
加えて,映像の内容,効果音,ナレーション等の映像及び音声に係る情報
の内容並びに放送内容全体から受ける印象を総合的に考慮して判断すべき
である(平成15年判決参照)。
イ(ア)これを本件についてみると,上記第2,2(3)イ記載の本件報道の
内容によれば,本件報道は,ナレーション及びテロップ表示により,A
大学の教授である原告の氏名を特定した上で,原告が,本件被告人と接
見し,本件刑事事件において弁護人請求証人として証言した精神科医で
あること,原告が,本件証人尋問において,本件被告人は,父親からの
虐待,母親の自殺が影響し,精神の発達が極めて遅れているとして,責
任能力を疑問視し,当時18歳であった本件被告人の責任を問うのは難
しい旨の証言をしたこと,原告は,しかしながら他方で,山のような鑑
定資料のコピーをもらったが,全部読むのは面倒くさかったとも証言し,
供述調書などを細かく読んではいないと述べたことを,事実として摘示
したものであるということができる。そして,本件コメンテーターは,
これらの事実の摘示を受けて,「A大学のですね,精神鑑定医がですね,
裁判で,山のような,この,鑑定資料のいろいろのコピーをね,物を,
ホント全部読むのがじゃまくさかったと」と発言したものであるが,本
件コメンテーターの上記発言は,新たな事実を摘示するものではないと
いうべきである。
(イ)上記のとおり摘示された各事実について,一般の視聴者の普通の注
意と視聴の仕方を基準として判断すると,原告が,社会の耳目を集めた
本件刑事事件において,本件被告人の精神鑑定という重要な役割を担い
ながら,鑑定資料のコピーを全部読むのが面倒くさかったため,供述調
書等を細かく読んでいなかったというのであるから,本件報道は,視聴
者に対して,本件鑑定が信用できないのみならず,原告自身が無責任な
人物であるという印象を与えるものであって,原告の社会的評価を低下
させるものであるということができる。
ウなお,証拠(甲1)によれば,本件報道のうち,本件映像が使用されて
いる部分は,原告がインタビューに応じて何かを説明する本件映像がスロ
ーモーションにより再生されているが,その際,上記インタビューの際の
音声は放送されず,ナレーションにより原告の属性及び本件証人尋問の内
容について解説されていることが認められ,本件映像は,一般の視聴者の
普通の注意と視聴の仕方を基準とすれば,「資料映像」等の注意書きを付
さなくても,本件証人尋問とは別の機会に撮影された映像であって,原告
がどのような人物であるかを紹介するために用いられたものであることが
容易に理解できるから,原告が本件証人尋問について被告のインタビュー
に応じたかのような誤解を招くものではない。
(2)違法性阻却事由等(争点Ⅰ(2))
ア事実を摘示しての名誉毀損については,その行為が公共の利害に関する
事実にかかり,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあった場合に,摘
示された事実がその重要な部分について真実であることの証明があったと
きには,その行為の違法性が阻却され,また,仮に,その事実が真実であ
ることの証明がないときでも,行為者においてその事実を真実と信ずるに
ついて相当の理由があれば,その故意又は過失は否定される。また,特定
の事実を基礎とする意見ないし論評の表明による名誉毀損については,そ
の行為が公共の利害に関する事実にかかり,かつ,その目的が専ら公益を
図ることにある場合に,その意見ないし論評の前提としている事実が,そ
の重要な部分について真実であることの証明があったときには,その意見
ないし論評の表明が,人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸
脱したものでない限り,その行為の違法性が阻却され,また,その事実が
真実であることの証明がないときでも,行為者においてこれを真実と信じ
たことについて相当の理由があれば,故意又は過失を欠くものとして,結
局,不法行為は成立しないものと解すべきである(昭和41年判決,昭和
58年廷判決,最高裁昭和55年(オ)第1188号同62年4月24日
第二小法廷判決・民集41巻3号490頁,最高裁昭和60年(オ)第1
274号平成元年12月21日第一小法廷判決・民集43巻12号225
2頁,最高裁平成6年(オ)第978号同9年9月9日第三小法廷判決・
民集51巻8号3804頁,最高裁平成15年(受)同1793号,第1
794号同16年7月15日第一小法廷判決・民集58巻5号1615頁
参照)。
イ(ア)これを本件についてみると,本件証人尋問は,社会の耳目を集めた
本件刑事事件において,本件被告人の精神鑑定を行った精神科医師であ
る原告に対する証人尋問であり,本件弁護人らの弁護活動の一環として,
社会的な注目を集めていたといえるから,本件証人尋問に関する事実は,
公共の利害に関する事実であるということができる。
(イ)そして,本件報道は,上記のとおり公共の利害に関する事実である
本件証人尋問の内容について,被告が報道機関として国民の知る権利に
資するために報道したものというべきであって,本件報道の目的は専ら
公益を図ることにあったということができる。
(ウ)そして,本件報道が摘示した事実は上記(1)イ(ア)記載のとおりで
あるところ,証拠(甲8)によれば,原告が,本件証人尋問の主尋問に
おいて,本件被告人は,父親からの暴力,虐待,母親との相互依存関係
及び母親の自殺の3点が大きな要因となって,精神的発達が極めて遅れ
ていること,並びに,本件被告人に18歳以上の者に対するのと同様の
責任を問うことは難しい旨を証言し,さらに,反対尋問で検察官から本
件鑑定書に挙げられた鑑定資料について問われた際に,「山のようにコ
ピーを渡されたんで,一言で言って,全部読むのが面倒くさいんで,刑
事調書その他についてはぱらぱらとしか見てないから省いた」旨の本件
証言を行ったことが認められるから,本件報道が摘示した事実の重要な
部分は,いずれも真実であったということができる。
(エ)したがって,本件報道について違法性が阻却され,名誉毀損による
不法行為は成立しないというべきである。
ウ(ア)これに対し,原告は,①本件報道は,過剰な演出及び歪曲した事実
の報道のもと,被害者遺族の立場にたって,ことさらに本件弁護人らを
批判し,本件鑑定の信用性を貶めるものであるから,専ら公益を図る目
的のものとはいえず,②本件証人尋問の重要な部分は本件鑑定の判断内
容であるし,本件証言の趣旨は,本件鑑定において供述調書等を読むこ
とが重要ではないため原告が鑑定資料の中から重要なものを選択したと
いうものであるから,本件報道は重要な部分が真実であるとはいえない
と主張している。
(イ)この点,証拠(甲7,乙1)によれば,本件報道を含めたテレビ番
組による本件刑事事件に関する報道について,集団的過剰同調,刑事裁
判の前提知識の不足等,報道姿勢に関する問題を指摘する意見がBPO
から提出されたことが認められるが,これはあくまで被告を含む複数の
テレビ局に対し包括的に提起されたBPOの意見であって,これに対す
る反論もなされているところである。また,本件刑事事件は社会の耳目
を集めた裁判であり,本件弁護人らの弁護活動一般はもとより,本件被
告人の精神状態を分析した本件鑑定の持つ重要性に照らせば,これに対
する批判的意見を含めて,その当否を広く国民に問いかけることは報道
機関のあるべき姿であるというべきところ,本件報道は,本件証人尋問
における原告の証言として,原告が,本件被告人は,父親からの虐待,
母親の自殺が影響し,精神の発達が極めて遅れていると供述したことを
も報道しており,必ずしも本件被告人の厳罰だけを求める方向で一方的
な事実を摘示しているわけではないし,本件報道は,本件弁護人らの弁
護手法や本件鑑定の信用性に疑問を呈するものといえるが,原告に対し
てことさらに人身攻撃を及ぼすものとはいえないことに加え,上記イ
(ウ)及び下記(ウ)記載のとおり,本件報道において摘示された事実の重
要部分は真実であったといえるものである。これらの事実からすると,
本件報道が中立性,公正性を欠くものということはできない。
(ウ)次に,事実の真実性又は真実相当性については,名誉毀損が問題と
なった当該表現において摘示された事実の重要な部分が対象とされるべ
きであり,本件においては,本件報道が摘示した上記(1)イ(ア)記載の
各事実のうち重要な部分について真実性又は真実相当性が問題とされる
べきである。これと異なり,本件報道の対象とされた本件証人尋問の重
要部分が何かを問題としている原告の主張は,その前提において失当で
ある。
また,本件証言は,供述調書等について「一言で言って,全部読むの
が面倒くさい」と総括的に表現したものであることに加え,証拠(甲
8)によれば,原告は,本件証人尋問の際,本件証言に引き続き,検察
官からの「そうすると,細かくは検討されていないということですか」
という質問に対し,「はい」と答えており,本件証人尋問において,本
件鑑定の鑑定資料と供述調書等との関係に関する証言はこれらの他に存
在せず,本件弁護人らからの再主尋問においても触れられていないこと
が認められるから,一般人の通常の理解によって,本件証言の趣旨を原
告が主張するように解釈することは困難である。
そして,証拠(甲9,乙2)によれば,本件被告人は,捜査段階の当
初を除き,本件刑事事件の第1審から第1次上告審において公判期日が
指定されるまで,ほぼ一貫して公訴事実を認めていた(以下「旧供述」
という。)にもかかわらず,差戻後控訴審である本件刑事事件において
旧供述を一変させて公訴事実を全面的に争う内容の供述(以下「新供
述」という。)を行ったこと,本件鑑定は,新供述に依拠して犯行時の
本件被告人の精神状態を分析していること,本件刑事事件の判決は,そ
もそも本件被告人の新供述は到底信用できないものとし,本件鑑定につ
いても,供述調書等を検討していないことや新供述を前提としているこ
とから前提事実に誤りがあるものとして排斥していることが認められる。
これらの事実からすると,犯行時の本件被告人の精神状態を分析した本
件鑑定において,旧供述を記載した供述調書等は重要な意味を持つ資料
であったといえるので,原告が供述調書等を細かくは検討していないと
いう事実は,本件鑑定の信用性に影響を与える重要な事実であったとい
うべきであり,この観点からも原告の主張は失当である。
(エ)したがって,上記(ア)記載の原告の主張は,いずれも採用しない。
2肖像権又はパブリシティ権の侵害(争点Ⅱ)
(1)肖像権の侵害による不法行為の成否(争点Ⅱ(1))
ア人は,みだりに自己の容貌等を撮影,公表されないことについて法律上
保護されるべき人格的利益を有しており,それを違法に侵害した行為は不
法行為となるが,ある者の容ぼう等を承諾なく撮影し,又は撮影した容ぼ
う等を承諾なく公表することが不法行為法上違法となるか否かは,被撮影
者の社会的地位,撮影された被撮影者の活動内容,撮影の場所,撮影の目
的,態様,必要性等を総合考慮して,人格的利益の侵害が社会生活上受忍
限度を超えるか否かによって判断すべきである(平成17年判決参照)。
イこれを本件についてみると,証拠(甲1,2,原告本人)によれば,本
件映像は,原告が讀賣テレビのインタビューに応えて説明している姿を原
告の胸の上から顔までが映るように撮影したものであるところ,原告は,
本件映像を讀賣テレビが撮影し,同社のテレビ番組において放送すること
を承諾していたことが認められるが,被告が本件番組において本件映像を
公表することについて,原告が明確な承諾をしていたことを認めるに足る
証拠はない。
他方,証拠(甲1,2,12,13,19,原告本人)によれば,原告
は,本件報道の前後を通じて,精神医学の専門家としてテレビ番組や新聞
等の多数のメディアに意見を寄せて出演していたこと,本件映像はテレビ
番組で放送されることを前提に撮影されたものであり,原告においても当
然にそのことを認識しており,現に少なくとも1度はテレビ番組において
社会一般に公開された映像であることが認められるから,本件映像中の自
己の容ぼう等が公表されることによる原告の人格的利益の侵害の程度は低
いというべきである。これに加えて,上記1(2)記載のとおり,本件証人
尋問に関する事実は,社会の注目を集めた公共の利害に関する事実であり,
そこで証言を行った原告がどのような人物かについても社会の重要な関心
事であったといえるし,本件報道が中立性又は公正性を欠くとはいえず,
本件報道は専ら公益を図る目的で行われたといえることからすると,本件
報道において本件映像を公表されたことによる原告の人格的利益の侵害は,
社会生活上受忍すべき限度を超えるものではなかったというべきであり,
これを違法ということはできない。
ウそして,上記のとおり,本件映像が,テレビ番組で放送されることを前
提に撮影され,現に1度はテレビ番組で放送された映像であること,本件
映像の内容は,テレビ局のインタビューに応じて説明する原告の姿であっ
て,これが公開されることにより特段の不快感を覚えるものではないこと,
原告は,本件番組以前にも多数のメディアに出演し,その容ぼう等を公表
していたこと等からすると,本件映像は,一般人の感受性を基準として他
人への公開を欲しないものであるとはいえず,本件報道はプライバシー侵
害に該当しない。
(2)パブリシティ権の侵害による不法行為の成否(争点Ⅱ(2))
ア人は,その氏名・肖像を自己の意思に反してみだりに使用されない人格
権利を有しており(最高裁昭和58年(オ)第1311号同63年2月1
6日第三小法廷判決・民集42巻2号27頁,昭和44年判決参照),氏
名・肖像の無断の使用は当該個人の人格的価値を侵害することになる。し
たがって,芸能人やスポーツ選手等の著名人も,人格権に基づき,正当な
理由なく,その氏名・肖像を第三者に使用されない権利を有するというこ
とができるが,著名人については,その氏・肖像を,商品の広告に使用し,
商品に付し,更に肖像自体を商品化するなどした場合には,著名人が社会
的に著名な存在であって,また,あこがれの対象となっていることなどに
よる顧客吸引力を有することから,当該商品の売上げに結び付くなど,経
済的利益・価値を生み出すことになるところ,このような経済的利益・価
値もまた,人格権に由来する権利として,当該著名人が排他的に支配する
権利(以下,この意味での権利を「パブリシティ権」という。)であると
いうことができる(知財高裁平成20年(ネ)第10063号同21年8
月27日判決・判例時報2060号137頁参照)。
イこれを本件についてみると,証拠(甲3,10,13)によれば,原告
は,本件映像の撮影を含めて,テレビ局の取材に応じる際には数万円程度
の出演料の支払いを受けていたこと,取材を行うテレビ局によっては,再
放送に備えてリポート料を支払っていたことが認められる。しかし,一般
に,取材対象者には所在目的に応じた知識や経験を備えていることが期待
され,現に取材を行い,その様子を撮影する際には,取材対象者において
相応の労力及び時間が消費されるものであるから,取材対象者にこれらの
知識,経験,労力及び時間に応じた相当の報酬が支払われることが通常想
定されているといえるところ,原告がテレビ局から支払を受けた出演料等
が,上記の意味の報酬にとどまらず,原告が有する顧客吸引力に着目した
パブリシティ権の対価として支払われていたことを認めるに足る証拠はな
いし,その他,原告の氏名・肖像が経済的利益・価値を有することを認め
るに足る的確な証拠はない。
また,本件報道の内容をみても,本件報道は,社会の耳目を集める本件
刑事事件において,本件被告人の精神鑑定を行い,公判において証言した
人物として原告を紹介しており,本件証人尋問の内容を説明するナレーシ
ョンとともに原告の姿を映した本件映像を放送していることからすると,
被告は,上記のとおり本件被告人の精神鑑定を行い,公判において証言し
た原告の容ぼう等を客観的事実として報道するために本件映像を使用した
といえるのであって,被告が,本件映像を放送することにより,原告の氏
名・肖像が有する顧客吸引力を利用したことをうかがわせる事情は認めら
れない。
したがって,被告が本件報道において本件映像を放送したことにより,
原告のパブリシティ権が侵害されたということはできない。
3著作者人格権又は著作権の侵害(争点Ⅲ)
(1)本件映像の著作物性
ア本件映像は,讀賣テレビがニュース番組に使用するために原告をインタ
ビュー取材して録画したものであるから,映画の効果に類似する視覚的又
は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され,かつ,物であるビデオテー
プに固定された著作物であり,映画の著作物に該当する(著作権法2条3
項,10条1項7号)。
イ次に,本件映像のもととなった原告のインタビューでは,原告が,別件
殺人事件の犯人について精神医学の専門家として分析した結果を述べてい
るところ,その内容が原告の思想又は感情を創作的に表現したものであっ
て,学術の範囲に属するものといえるときには,上記インタビューにおい
て原告が口述した内容(以下「本件口述内容」という。)は,言語の著作
物に該当する余地がある(著作権法10条1項1号)。なお,原告は,本
件映像は映像及び音声が不可分一体として言語の著作物となると主張して
いるが,思想又は感情を創作的に表現した著作物として意味を持つのは,
原告が音声により表現した本件口述内容の部分に限られるから,上記原告
の主張は採用しない。
(2)本件映像全体について
証拠(甲19,原告本人)によれば,原告は,本件映像の撮影に当たり,
讀賣テレビの担当者との間で一度ないし複数回の打合せを行ったことが推測
できるが,本件映像において,原告はあくまでインタビュー対象にすぎず,
本件映像の全体的形成に創作的に寄与したということはできないから,映画
の著作物である本件映像全体について,原告が著作者又は共同著作者である
ということはできない。
したがって,原告は,本件映像全体について著作者人格権及び著作権を有
していない。
(3)本件口述内容について
本件口述内容は,上記(1)イ記載のとおり,原告の思想又は感情を表現し
たものとして言語の著作物となる余地があり,その作成過程によっては原告
が著作者又は共同著作者であるということができるが,被告は,本件報道に
おいて,本件映像から音声を切り離し,映像部分のみを使用しているから,
本件口述内容に関する著作権又は著作者人格権を侵害したとはいえない。
4結論
以上によれば,原告の本件各請求は,いずれも理由がないから棄却すること
とし,主文のとおり判決する。
京都地方裁判所第1民事部
裁判長裁判官杉江佳治
裁判官小堀悟
裁判官池上裕康
別紙1
1謝罪文の内容
2011年月日
X様
東京都港区(以下略)
Y株式会社
代表取締役C
謝罪文
Y株式会社が,2007年7月29日放映の番組「The・サンデー」の中
で,光市事件を取り上げた部分において,X氏に関して真実と反した放映を行
いました。このことにより,X氏の名誉を著しく毀損したことを認めて,謝罪
しお詫びいたします。申し訳ありませんでした。
2放送方法
本件の違法行為が行われた番組が存続しているときは,その番組の冒頭部分
において,2週続けて1回ずつ放映する。
本件の違法行為が行われた番組が存続していないときは,当該時間帯に近接
する番組の冒頭部分において,2週続けて1回ずつ放映する。

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