弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     原判決を取り消す。
     被控訴人は控訴人に対し、福岡市a町b番地の一宅地七十三坪九勺(特
別都市計画法による区劃整理後の予定地積四十五坪九合九勺)の宅地上所在の別紙
目録表示の建物を収去して、右土地を明渡し、且つ、金千七百五十円及び昭和三十
年四月一日より前記明渡済に至るまで、一ケ月金三百五十円の割合による金員を支
払え。
     控訴人その余の請求は、これを棄却する。
     訴訟費用は、第一、二審共被控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は、原判決を取り消す、被控訴人は控訴人に対し、主文第二項掲記の
宅地上所在の別紙目録表示の建物を収去して、右土地を明渡し、且つ、昭和二十六
年六月以降右明渡済に至るまで、一ケ月金三百五十円の割合による金員を支払え、
訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする、との判決を求め、被控訴代理人
は、本件控訴を棄却する、控訴費用は控訴人の負担とする、との判決を求めた。
 当事者双方の事実上の主張は、控訴代理人において、控訴人は被控訴人に対し、
本件地上に何時でも取毀しができ、材木が濡れない程度のバラツク建工場を建築す
るという約束で、本件土地を賃貸したものであるところ、被控訴人は、最初約旨の
とおり、工場一棟建坪五七・九六平方米(約一七・四七坪)及び事務所一棟建坪一
六・五六平方米(約五坪)を、いずれも杉皮葺掘立式バラツク建で建築したが、そ
の後昭和二十五年二月頃控訴人の承諾を受けることなく、右バラツク建築の際、被
控訴人に交付した控訴人の承諾書の写を添付して、恰も控訴人の承諾があつたもの
の如く装い、所轄官署の増築許可を得て、従前の事務所を取毀した上、旧バラツク
建工場に接続して、増築面積九七・三九平方米(約二九・六四坪)の木造瓦葺基礎
コンクリート平家建製材所附属作業場、製品置場を増築した。控訴人は、当時家庭
窮迫のための一時の過ちから罪を犯し、服役中の身であつたので、家族親戚の者が
右無断増築中の事実を知り、直ちに控訴人にその旨報告すると共に、被控訴人に対
して工事取止め方を申入れたが、被控訴人は、「一度借りた以上、何を建てようと
勝手だ」と称して、相手にせず、遂に工事を完成してしまつた。控訴人は、釈放
後、被控訴人に対し、屡々その非を責めたが、被控訴人は、非を認めないばかり
か、「借りた以上、三十年間は絶対に出ない」と称して、控訴人の折衝に耳を傾け
ようとはしなかつたのである。控訴人は、本件賃貸借が一時使用の賃貸借であるこ
とを主張しているのであるが、仮にそうでないとしても、以上のように、被控訴人
が材木の濡れない程度の、何時でも取毀しのできるバラツク建とする旨の約旨に違
反して、相当堅固な本建築をなした場合(殊に従前のバラツク建事務所は取毀して
いる)は、借地権の存続期間に著しい差異を来すこと勿論であつて、被控訴人は到
底契約違反の責を免れることはできない。よつて控訴人は、本訴において予備的
に、右契約違反を理由として、本件賃貸借を解除し、右解除に基く賃貸借の終了を
請求原因として、追加主張する、と述べ、被控訴代理人において、控訴人の右主張
事実中被控訴人主張に反する部分は、これを否認する、と述べた外、いずれも原判
決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。
 証拠として、控訴代理人は、甲第一、二号証、第三号証の一乃至四、第四号証の
一乃至六、第五乃至第九号証を提出し、原審証人A、B、当審証人C、D、E、
F、Gの各証言及び原審並びに当審における控訴人各本人尋問の結果並びに当審検
証の結果を援用し、乙第十二、十三、十七号証は不知その余の乙号各証の成立は認
める、と述べ、被控訴代理人は、乙第一号証の一乃至五、第二乃至第十五号証、第
十六号証の一、二、第十七乃至第二十二号証を提出し、原審証人金子花子の証言及
び原審並びに当審における被控訴人各本人尋問の結果(当審第一、二回)並びに原
審検証の結果を援用し、甲第九号証は不知、その余の甲号各証の成立は認める、と
述べた。
         理    由
 控訴人が昭和二十一年六月十五日その所有にかかる本件土地を賃料一ケ月金三百
五十円、毎月末払の約束で、被控訴人に賃貸したこと、及び被控訴人が本件土地を
賃借したのは、本件地上に製材工場を建て、製材業を営むためであつたことは、当
事者間に争がない。
 控訴人は、本件賃貸借は、昭和二十一年六月から昭和二十六年五月末までの五ケ
年を賃貸期間とする一時使用のための賃貸借であり、従つて右昭和二十六年五月末
日の経過により終了した、と主張するのに対し、被控訴人はこれを争うので、ま
す、この点について判断する。
 それぞれ成立に争のない甲第一号証(借地契約書)、第二号証の各記載に、原審
証人A、当審証人E、D、Fの各証言、原審並びに当審における控訴人本人尋問の
結果及び弁論の全趣旨を<要旨第二>綜合すれば、本件土地は、控訴人の先祖代代の
土地で、その地上には、もと控訴人所有の家が四軒建てられて</要旨第二>おり、
控訴人は、内一軒で荒物商を営み、三軒を貸家としていたが、昭和十七年頃控訴人
は営業を止めて現住所に移転し、右一軒も他に賃貸しているうち、戦災のため四軒
共焼失し、その後本件土地は空地となつていたところ、昭和二十一年に至り、訴外
Aを介して被控訴人より、同所で製材業を営むため、本件土地を借受けたい、と懇
請され、控訴人はこれを承諾して、本件土地を賃貸することになつたものであるこ
と、当時控訴人としては、その三男で獣医の資格を有し、控訴人居村において代診
を勤めていた訴外Dが、他日独立開業のため、本件地上に病院の建設を計画してい
た関係上、本件土地を長期にわたつて賃貸することのできない事情にあつたが、右
計画はさし当り具体化する運びにまで達していなかつたため、それまでの期間本件
土地を空地のまま放置しておくわけにもいかないと考え、被控訴人への賃貸に際
し、その期間を当初三ケ年と申出でていたが、被控訴人の希望により、結局昭和二
十一年六月から昭和二十六年五月末までの五ケ年ということに了解ができたこと、
そして控訴人は、右のような事情で、本件土地につき長期の賃貸借をなす意思がな
かつた関係上、本件契約の特約事項として、被控訴人が本件地上に建設しようとす
る建物は、明渡に支障のないよう、製材機械乃至材木が雨に濡れない程度の、しか
も何時でも取り毀し得るバラツク建とすること及び本件土地につき、控訴人におい
て、是非必要を生じたときは、相当期間前に、被控訴人に通知して、本件土地の明
渡を求め得べく、被控訴人はこれに応ずべき旨を約したこと、被控訴人は本件賃貸
借成立後右特約の趣旨に従い、当初本件地上に杉皮葺の簡単なハラツク式建物を建
築して、製材業を始めたが、その後、控訴人は前記三男Dの開業のため、本件土地
の必要が生じたので、約定の賃貸期間満了前の昭和二十五年四月二十日附書面を以
て、被控訴人に対し、建物の収夫並びに土地明渡方を通告したが、被控訴人は現在
に至るまで、控訴人の右要求に応じないものであること、なお、本件土地の賃料
は、控訴人において、前記のとおり、早期の明渡を期待し得る事情にあつたので、
その後の経済事情の変動に拘らず、当初の一ケ月金三百五十円のまま据えお<要旨第
一>かれていたことが認められる。ところで借地法第九条に、「一時使用ノタメ借地
権ヲ設定シタルコト明ナル場合」というのは、賃貸借の目的、動機、建
物の設備、構造その他の事情から、賃貸借を短期間内に限つてな続させる合意があ
つたと認むべき相当の理由がある場合を指すのであつて、本件において、右に現わ
れた諸事実を勘案すれば、本件土地は、一時使用のため、五ケ年の短期間を以て賃
貸されたものと判定するのが相当である。尤も甲第一号証の借地契約書中には、本
件借地期間につき、昭和二十一年六月から昭和二十六年五月末日まで、次回からは
続行五ケ年契約、と記載した文言があるが、前掲証人Aの証言、原審並びに当審に
おける控訴人、被控訴人(一部)各本人尋問の結果によれば、右契約書は、被控訴
人側で作成して、控訴人方に持参したもので、控訴人としては、前記のとおり本件
土地を五ケ年以上も引続き賃貸する意思はなかつたので、右続行五ケ年契約という
文言の削除方を求めたところ、被控訴人において、右は、五ケ年の期間が到来すれ
ば、改めて控訴人と話合の上、更に貸すかどうかを定める趣旨のものに過ぎない、
と釈明したので、右記載はそのままになつたものであることが窺われるのであり、
又成立に争のない甲第六号証の記載及び原審並びに当審における検証の結果に徴す
れば、本件地上の建物の現状は当初のバラツク建と異なり、相当堅固な本建築とな
つていることが認められるけれども、右検証の結果に、それぞれ成立に争のない甲
第三号証の一乃至四、第四号証の一乃至六、乙第一号証の四の各記載及び前掲証人
E、Fの各証言、控訴人本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を綜合すれば、被控訴
人が当初本件地上に建設したのは、前記のように杉皮葺の簡単なバラツク式建物で
あつたが、その後本件土地一帯について、特別都市計画法に基く土地区画整理が施
行されることとなつたので、被控訴人は右整理に伴う右建物の移転改築を機とし、
控訴人に無断で昭和二十五年始め頃より、右建物に増改築を施した結果、同年二、
三月頃には現在の建物を完成するに至つたものでめること、当時控訴人は罪を犯し
て昭和二十四年十月頃以降福岡市藤崎刑務所に在監中であり、家族を通じて右増改
築の事実を知つたが、収容中の身でもあるため、右無断増改築を十分に阻止するこ
ともできないまま打ち過ぎ、昭和二十六年四月釈放後被控訴人に交渉して、その非
を責めたが被控訴人は耳を籍さなかつたものであることがられるのであつて、従つ
て甲第一号証中に前記の文言があり、且つ、本件建物の現状が前記のとおりになつ
ている事実は、本件賃貸借が一時使用のためになされたものであることの前記認定
を妨げるものではない。原審証人金子花子の証言、原審並びに当審における被控訴
人本人尋問の結果(当審第一回)中以上の認定に添わない部分は、たやすく信用し
難く、他に右認定を動かすに足る証拠はない。
 そうだとすれば、本件賃貸借には、借地法第二条乃至第八条の規定の適用はない
ものというべく、従つて本件賃貸借は昭和二十六年五月末日の経過と共に終了した
こと明らかで、爾後被控訴人は控訴人に対し、本件土地を同地上の建物を収去して
明渡す義務があり、且つ昭和二十六年六月より右明渡済に至るまで、一ヶ月金三百
五十円の割合による約定賃料相当額の損害金を支払わねばならない。尤もそれぞれ
成立に争のない乙第五乃至第十号証第二十二号証の各記載によれば、被控訴人か昭
和二十六年六月以降昭和二十八年四月まで及び昭和二十八年十月以降昭和三十年三
月までの相当賃料として、毎月金三百五十円の割合による金員を控訴人に対する弁
済のため供託していることが認められるので、結局被控訴人が控訴人に支払うべき
損害金は、昭和二十八年五月以降同年九月までの五ケ月分合計金千七百五十円及び
昭和三十年四月一日以降前記明渡済に至るまで毎月金三百五十円の割合による金員
となるわけである。
 よつて控訴人の本訴請求は、その余の争点について判断するまでもなく、右説明
の限度において、正当としてこれを認容し、その他は失当として棄却すべきである
から、右請求を全部排斥した原判決を取り消すべきものとし、民事訴訟法第三百八
十六条、第九十六条、第八十九条、第九十二条を適用して、主文のとおり判決す
る。
 (裁判長判事 野田三夫 判事 川井立夫 判事 天野清治)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛