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主文
1社会保険庁長官が原告に対し平成17年4月28日付けでした,平成8
年12月13日から平成14年11月までの期間について障害基礎年金及
び障害厚生年金を支給しない旨の処分のうち,平成10年1月31日から
平成14年11月までの期間について不支給とした部分を取り消す。
2社会保険庁長官は,原告に対し,平成10年2月から平成14年11月
までの期間について,障害等級2級の障害基礎年金及び障害厚生年金を支
給せよ。
3本件訴えのうち,社会保険庁長官が原告に対し平成8年12月13日か
ら平成10年1月までの期間について障害等級2級の障害基礎年金及び障
害厚生年金を支給する処分をすべき旨を命ずることを求める訴えを却下す
る。
4原告のその余の請求を棄却する。
5訴訟費用はこれを5分し,うち1を原告の負担とし,その余を被告の負
担とする。
事実及び理由
第1請求
1社会保険庁長官が原告に対し平成17年4月28日付けでした,平成8年1
2月13日から平成14年11月までの期間について障害基礎年金及び障害厚
生年金を支給しない旨の処分を取り消す。
2社会保険庁長官は,原告に対し,上記期間について,障害等級2級の障害基
礎年金及び障害厚生年金を支給せよ。
第2事案の概要
本件は,原告が,社会保険庁長官に対し,第3腰椎不安定症,頸椎骨軟骨症
及び胸椎々間板障害(以下,まとめて「本件各傷病」ということがある)に。
より障害の状態にあるとして,障害基礎年金及び障害厚生年金(以下,まとめ
て「障害給付」という)の裁定請求をしたところ,社会保険庁長官は,上記。
裁定請求をした日を受給権発生日とする障害等級2級に該当する障害給付の支
給を認める旨の裁定をしたものの,上記裁定請求をした日より前の期間につい
ては障害給付を支給しない旨の処分をしたため,原告が,この判断に誤りがあ
る旨主張して,この不支給処分の取消しを求めるとともに,不支給となった期
間について障害等級2級の障害給付を支給する旨の処分の義務づけを求めた事
案である。
1争いのない事実
(1)原告は,社会保険庁長官に対し,平成14年11月29日(以下「本,
件裁定請求日」ということがある,本件各傷病により障害の状態にある。)
として,障害給付の裁定請求をした(以下「本件裁定請求」という。。)
(2)原告は,本件裁定請求において,本件各傷病の初診日を当初平成8年1
0月1日としていたが,後に同年7月31日とする旨訂正した。
,,,(3)社会保険庁長官は本件裁定請求を受け平成15年7月10日付けで
本件各傷病につき,受給権の発生日を本件裁定請求日とし,障害の程度を障
害等級3級と認定した上で,原告に対し,事後重症による障害厚生年金(後
記2(1))を支給する旨の裁定をした。
(4)原告は,社会保険庁長官の上記(3)の処分を不服として,平成15年9月
19日,静岡社会保険事務局社会保険審査官に対し審査請求をしたところ,
同審査官は,平成16年1月29日付けで,上記審査請求を棄却する旨の決
定をした。
(5)原告は,平成16年2月4日,同審査官の上記(4)の決定を不服として,
社会保険審査会に対し,口頭で再審査請求をした上,同年4月5日付けで再
審査請求書を提出した。
(6)社会保険庁長官は,平成17年4月28日付けで,原告の裁定請求日に
おける障害の程度が障害等級2級であったと認め,上記(3)の処分を取り消
し,事後重症による障害給付を支給する旨の裁定をした。この支給裁定は,
受給権の発生年月を平成14年11月としており,原告に対し,平成8年1
2月13日から平成14年11月までの期間について障害給付を支給しない
旨の処分(以下「本件処分」という)を含むものである。。
(7)社会保険審査会は,原告の再審査請求(上記(5))に対し,社会保険庁長
官がした上記(6)の処分の内容を踏まえ,平成17年5月31日付けで,原
告の裁定請求のうち,本件裁定請求日を受給権発生日として障害等級2級の
障害給付の支給を求める部分については,上記(6)前段のとおり,既に支給
する旨の裁定がされているから,請求の利益を欠くとして却下し,平成14
年11月より前の期間について障害等級2級の障害給付の支給を求める部分
,,については原告の障害の程度を判断するに足りる資料の提出がないとして
これを棄却する旨の裁決をした。
2法令の定め等
(1)障害給付の受給類型
障害給付は,障害の状態となった時期の違い等により,障害認定日による
(,),障害基礎年金・障害厚生年金国民年金法30条厚生年金保険法47条
事後重症による障害基礎年金・障害厚生年金(国民年金法30条の2,厚生
年金保険法47条の2及び基準障害による障害基礎年金・障害厚生年金国)(
民年金法30条の3,厚生年金保険法47条の3)等に分類される。
このうち,障害認定日による障害基礎年金・障害厚生年金とは,疾病にか
かり,又は負傷し,かつ,その傷病に係る初診日において国民年金,厚生年
金保険の被保険者であった者が,障害認定日において障害等級に該当する程
度の障害の状態にある場合に,障害基礎年金・障害厚生年金が支給される制
度である。
また,事後重症による障害基礎年金・障害厚生年金とは,疾病にかかり,
又は負傷し,かつ,その傷病に係る初診日において被保険者であった者であ
,(,って障害認定日において障害等級障害基礎年金においては1級又は2級
障害厚生年金においては1級ないし3級)に該当する程度の障害の状態にな
かった者が,同日後65歳に達する日の前日までの間に障害の程度が増進し
て上記程度の障害の状態に至ったときに,その期間内に障害基礎年金又は障
害厚生年金の支給を請求することにより,これが支給される制度である。事
後重症による障害基礎年金・障害厚生年金は,請求を行った日に受給権が発
生し,その翌月から支給が開始される。
本件において,社会保険庁長官が原告に対し支給したのは事後重症による
障害基礎年金・障害厚生年金である(上記1(3),(6))のに対し,原告は,
障害認定日による障害基礎年金・障害厚生年金の支給を求めている。
(2)受給権の発生要件
上記の障害給付を受給するためには,原則として,①疾病にかかり,又は
負傷し,その疾病又は負傷及びこれらに起因する疾病(傷病)につき初めて
医師又は歯科医師の診察を受けた日(初診日)において,国民年金又は厚生
年金保険の被保険者であること,②障害認定日に一定の障害の状態(国民年
金法30条2項により障害基礎年金においては1級又は2級,厚生年金法4
7条2項により障害厚生年金においては1級ないし3級に該当する程度の障
害の状態をいい,障害基礎年金については国民年金法施行令4条の6,同別
表が,障害厚生年金については厚生年金保険法施行令3条の8,同別表第一
がそれぞれの内容を具体的に定めている)にあること,③一定の保険料納。
付要件を満たしていることの要件を満たさなければならない。
そして「障害認定日(上記②)とは,初診日から起算して1年6月を,」
経過した日,又はその期間内にその傷病が治った日(その症状が固定し治療
の効果が期待できない状態に至った日を含む)とされている(国民年金法。
30条1項本文,厚生年金保険法47条1項本文。)
なお,年金給付の支給は,これを支給すべき事由が生じた日の属する月の
翌月から始めることとされている(国民年金法18条1項,厚生年金保険法
36条1項。)
(3)障害の等級及び認定のための資料
ア障害の等級(甲30)
障害給付の要件としては,障害認定日に一定の障害にあることが必要で
ある(上記(2)②。そして,障害の等級は,障害基礎年金については1)
級又は2級,障害厚生年金については1級ないし3級に分類されていると
ころ,2級の障害の程度は,身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必
要とする病状が,日常生活が著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい
制限を加えることを必要とする程度のものとされている。また,日常生活
が著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要と
する程度とは,必ずしも他人の助けを借りる必要はないが,日常生活は極
めて困難で,労働により収入を得ることができない程度のものを指すと説
明されている。
,,そして障害等級2級に該当する体幹及び脊柱の機能の障害については
国民年金法施行令4条の6及び厚生年金保険法施行令3条の8によって,
具体的に,次のとおり定められている。
①体幹の機能に歩くことができない程度の障害を有するもの(国民年金
法施行令別表2級14号)
②身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が前各号と
同程度以上と認められる状態であって,日常生活が著しい制限を受ける
か又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの国,(
民年金法施行令別表2級15号)
イ認定のための資料(甲30,乙13)
上記の障害等級に該当するか否かを明らかにするための資料として厚,「
生年金保険及び船員保険の障害年金の廃疾認定日の変更等に伴う事務の取
扱いについて(昭和52年7月15日庁業発第844号)は,障害給付」
の裁定請求書に,初診日から1年6月を経過した日における廃疾の状態を
明らかにする診断書を添付させるものとし,この診断書は,原則として,
初診日から1年6月を経過した日以後3月以内の現症が記載されたものを
いう旨定めている。
そして,障害の程度の認定は,診断書及びX線フィルム等添付資料によ
り行うが,提出された診断書等のみでは認定が困難な場合等には,再診断
を求め,又は療養の経過,日常生活状況の調査,検診,その他所要の調査
等を実施するなどして具体的かつ客観的な情報を収集した上で認定を行う
ものとされている。
3本件の争点
本件において,原告の初診日が平成8年7月31日であることについては当
事者間に争いがないから,障害認定日は,同日から起算して1年6月を経過し
た日(平成10年1月31日,又はその期間内にその傷病が治った日(その)
症状が固定し治療の効果が期待できない状態に至った日を含む)があるとき。
はその日となる。そして,社会保険庁長官は,原告の本件各傷病は平成10年
1月31日までに治った(又はその症状が固定した)とは認められず,かつ,
同日における原告の障害を判断するに足りる医学的証拠はないから,原告が求
める平成8年12月13日以降の障害給付を支給することはできないものの,
本件裁定請求日における原告の障害の状態は障害等級2級に該当する旨認める
ことができるとして,事後重症による障害給付を内容とする本件処分をしたも
のである(上記1(3),(6)。原告はこれに対し,平成8年12月13日に原)
告の症状は固定したから,この日を障害認定日にすべきであり,また,平成1
0年1月31日における障害及び程度は,直近の資料等から十分に推測できる
と主張した。
そこで,本件の争点は,次の2点である(なお,原告の障害給付の支給に関
するその余の要件は上記3(2)のとおりであるところ,本件においては,その
余の要件の充足に関しては争われていない。。)
(1)争点1
本件における障害認定日はいつか。すなわち,原告が主張するように平成
8年12月13日に原告の症状が固定したといえるか。
(2)争点2
原告の症状が固定したとは認められないとしても,障害認定日である平成
10年1月31日の時点で原告の傷病を障害等級2級に該当すると認めるこ
とができるか。
4争点に関する当事者の主張
(1)争点1について
(原告の主張)
ア原告は,平成5年9月ころ空手の練習中にけがをし,脊柱全体及び頭部
に激しい痛みを覚えた。そして,原告は,腰部の症状が増悪したため,平
,。,成8年7月31日に初診を受け第3腰椎不安定症と診断された原告は
平成8年10月8日,紹介されたA病院において手術を受けた後,同年1
1月25日に退院し,同年12月13日に症状が固定した。
その後,原告の頸部及び頭部の症状が悪化し,背部の症状も併発し,平
成9年2月15日に受診したところ,頸椎骨軟骨症と診断され,同年4月
,,。21日に頸椎を手術して同年5月14日に退院し同日症状が固定した
もっとも,この時点では背部の症状は特段診断の対象とされていない。
そして,原告は,その後も辛い背部の症状を有しており,これによって
日常生活に著しい影響を受けていたが,平成14年2月ころから背部の症
状が悪化したため,同年4月14日に受診したところ,胸椎々間板障害と
診断され,同月5月15日及び30日に2回の手術を受けた後,同年6月
30日に退院し,同年9月18日に症状が固定した。
イこのように,原告の傷病はいずれも脊柱に起因するものではあっても,
同一の部位に生じたものではないし,上記アのとおり,原告に対する各診
断は各部位の症状が悪化したことに伴って順次下されたものであり,手術
等を経て,それぞれ別個に症状固定による治癒に至ったものであるから,
前後の傷病の間に相当因果関係はなく,同一の傷病として取り扱うべきで
はない。原告の第3腰椎不安定症は平成8年12月13日に症状固定に至
,。っているのであるから原告の障害認定日は平成8年12月13日である
ウそして,社会保険庁長官は,原告に対し,本件裁定請求日である平成1
4年11月29日における症状が障害等級2級に該当する旨判断し,事後
重症による障害給付を支給する旨の裁定をしているが(上記1(6),原)
,,告は障害認定日と扱われるべき平成8年12月13日の時点においても
本件裁定請求日と同程度の障害を有していたのであるから,原告に対して
は,障害認定日である平成8年12月13日から障害等級2級の障害給付
が支給されるべきであり,本件処分は違法である。
(被告の主張)
ア原告が本件裁定請求に当たり記載した各傷病(第3腰椎不安定症,頸椎
骨軟骨症及び胸椎々間板障害)は,いずれも,脊椎の一部(腰椎,頸椎又
は胸椎)において椎間板が不安定となるなど,極めて類似した脊椎の状態
を,状況に応じて別々に言い表したものにすぎない。そして,原告の各傷
病は,原告が空手を練習している間に上体を激しくねじったことにより脊
椎が圧迫されて生じたものであり,これ以外に各傷病の原因が存すること
はうかがわれないのであるから,本件各傷病は,いずれも原告の空手練習
中のけがに起因する一連の傷病と評価すべきであって,原告が主張するよ
うに,個別傷病ごとに分析してそれぞれの症状固定時期を判断することは
相当ではない。
イそして,かかる原告の一連の傷病については,胸椎々間板障害に対する
手術(後側方胸椎固定術)が平成14年5月15日及び同月30日に行わ
れており,少なくとも平成14年5月までには順次症状の改善に向けた積
極的な治療が行われていたから,症状が固定したとは認められない。
したがって,本件各傷病の初診日から起算して1年6月を経過した日で
ある平成10年1月31日までに本件各傷病が治ったと認めることはでき
ず,結局,同日が本件各傷病の障害認定日となるというべきである。すな
わち,原告が主張するように,平成8年12月13日を症状固定日と認め
ることはできないから,原告の主張は失当である。
(2)争点2について
(原告の主張)
原告の本件各傷病は,外傷から生じた神経症状を伴う椎間板症であって,
脊柱全体にわたって生じたものであり,外的要因によって変動することはな
いから,平成10年1月31日における原告の障害の状態及び程度は,平成
9年5月14日の段階における原告の現症を記載した診断書(甲9)によっ
て十分推認することが可能である。そして,上記診断書には,原告の日常生
活活動能力が甚だしく,あらゆる面でかなり不自由であり,労働能力はない
ことや,原告の体幹支持機能が著しく破綻していたことが記載されているの
,,,,であるから原告は平成10年1月31日においても上記診断書と同様
障害等級2級に相当する障害を負っていたというべきである。
(被告の主張)
ア社会保険実務上,障害給付の裁定請求書には障害認定日における障害の
状態を明らかにする診断書を添付することが要求されており,この診断書
は,原則として,初診日から1年6月を経過した日以後3月以内の現症が
記載されているものをいうとされている。ところが,本件各傷病の障害認
定日である平成10年1月31日時点における障害の程度については,こ
れを明らかにする診断書が提出されていないし,比較的近似した時点(平
成9年12月27日)における診断書(乙9)についても,原告の障害の
程度を判断するために必須である「⑫脊椎の障害」等の各欄の記載が全く
ないため,これによって原告の障害の程度を判断することはできない上,
他にこれを判断する医学的証拠も存しない。したがって,障害認定日(平
成10年1月31日)における原告の障害の程度は不明であるといわざる
を得ず,そのため,原告は同日からの障害給付の受給権を有するとは認め
られない。
イ原告は,平成10年1月31日における原告の障害の状態及び程度は,
平成9年5月14日の段階における原告の現症を記載した診断書(甲9)
によって十分推認することが可能である旨主張する。
しかしながら,原告の椎間板症による各疼痛は,当該患者の生活習慣,
季節,天候等様々な要因の影響を受けて,短期的・長期的に変動し続ける
ものであり,自覚症状に基づく患者の主観面に大きく左右される性質のも
のであるから,常に同程度の痛みが継続するものではない。そして,原告
が根拠とする各診断書は,いずれも,術後に作成されたものであって,自
覚症状である疼痛が上記の各要因による影響を特に受けやすい時期に作成
されたものであるから,本件において原告が提出した各診断書を根拠とし
て,原告の障害認定日における障害の状態及び程度を判断することはでき
ない。
また,原告が提出した診断書からうかがわれる原告の障害の状態及び程
度をみると,原告は,各部位の椎体間固定術を受けるたびに当該各部位の
症状が改善するものの,その後に別の部位(頸部又は背部)の症状が悪化
し,当該部位について手術を受けるということを繰り返しているから,原
告が提出した診断書によっても,現に,原告の障害の状態及び程度が変動
を繰り返しているというべきである。
そして,原告は,平成9年4月21日に頸部の手術を受けた後,腰痛及
び頸部痛が軽快し,背部痛も平成14年2月に増悪するまでは落ち着いた
状態にあったことや,頸部手術により原告の頸部痛が改善し,その後に頸
部について追加手術を受けていないにもかかわらず,平成14年9月18
日の時点ではその可動域が複数の運動において参考可動域以上にまで改善
していること等に照らすと,平成10年1月31日(障害認定日)におい
ても,平成9年5月14日時点における状態よりも相当程度改善していた
ことが推測されるし,上記障害認定日の後に生じた背部痛について,平成
14年に受けた手術によっても上記背部痛が増悪するより前の状態にまで
回復していない可能性があることからすれば,上記障害認定日時点におけ
る原告の障害の状態及び程度は,平成14年9月18日の時点より相当程
度良好であった可能性もある。
これらの事情に照らすと,平成10年1月31日の障害認定日当時にお
ける原告の障害の状態及び程度は不明であったというほかないから,原告
が同日からの障害給付の受給権を有するとは認められない。
ウ他方,障害認定日より後の時点における原告の障害の程度については,
平成14年9月18日時点における現症が記載された診断書(甲10)に
よりこれを判断することができ,これによれば,原告の障害の程度は,障
害等級2級と認められる。そのため,社会保険庁長官は,本件裁定請求日
(同年11月29日)を受給権発生日とする,事後重症による障害基礎年
金及び障害厚生年金を支給する旨の裁定をしたのであって,本件処分は適
法である。
第3争点に対する判断
1前提事実
当事者間に争いのない事実に,証拠(各項に掲記のもの)及び弁論の全趣旨
を総合すると,本件各傷病に関する経過等について,次の事実を認めることが
できる。
,,,(1)原告は平成5年9月ころ空手の練習中に上体を激しくねじったため
腰部をはじめとして,脊柱全体や,頭部にまで激しい痛みが生じた。
(2)原告は,自宅で湿布をしたり,接骨院で治療を受けるなどしていたが,
次第に腰部,背部,頸部,頭部の痛みが悪化したため,衣類を自分で脱ぎ着
することができなかったり,痛みや疲労で仕事(自営業)にも差し支えが生
じるようになった。そのため,原告は,平成8年7月31日,B病院(以下
「B病院」という)を受診した後,主治医の紹介を受けて,同年10月1。
日,A病院を受診した(甲2,3,9,21,乙4,11)。
(3)原告は,A病院医師C(以下「C医師」という)による診察の結果,。
第3/4腰椎々体間に不安定性があるため,腰痛及び運動機能障害が認めら
れ,頸部,頭部及び背部にも絶えず激痛が認められるとして,腰部の症状に
ついて第3腰椎不安定症と診断された。このため,原告は,平成8年10月
8日,同病院において手術(腰椎後方進入腰椎々体間固定術)を受け,同年
11月25日に退院した(甲4,7,8,18,21,乙11)。
(4)A病院医師D(以下「D医師」という)が作成した平成14年11月。
27日付けの診断書には,平成8年12月13日における原告の障害の状態
について,次のように記載されている(以下「平成8年診断書」という。。)
(甲8)
ア脊柱の障害(脊柱の可動域)
部位運動の種類前屈後屈右側屈左側屈右廻旋左廻旋
頸部自動的やや減やや減やや減やや減やや減やや減
他動的やや減やや減やや減やや減やや減やや減
胸腰部自動的著減消失著減著減著減著減
他動的半減著減半減半減半減半減
なお,随伴する臨床症状として「頸椎骨軟骨症で頚随圧迫による激痛,
が頸部と頭部に生じている」と記載されている。
イ日常生活動作の障害の程度
日常生活動作の障害の程度を「一人でうまくできる「一人でできて」,
もやや不自由「一人でできるが非常に不自由」及び「一人では全くで」,
きない」の4段階に評価すると,つまむ(両手,握る(両手,タオル))
を絞る(両手,ひもを結ぶ(両手,さじで食事をする(両手,顔に手)))
のひらをつける(両手)各動作は「一人でうまくできる,用便の処置を」
,,,,,,する上衣の着脱ズボンの着脱片足で立つ座る深くおじぎをする
歩く,立ち上がる,階段を登る,階段を降りる各動作は「一人でできるが
非常に不自由,靴下を履く動作は「一人では全くできない」と記載され」
ている。
,,「」また平衡機能については閉眼での起立・立位保持の状態は不安定
であり,開眼での直線の10メートル歩行の状態は「多少転倒しそうにな
ったりよろめいたりするがどうにか歩き通す」と記載されている。
ウその他の精神・身体の障害の状態
「特に背部に数10キロの鉛を背負っているようなかなり重苦しい荷重感
を絶えず受けているので,上体を起こしていること自体困難で,次第にグ
ロッキー状態に陥り,一日の大半を寝ている。寝ているときでも仰向けは
苦しく,うつ伏せが楽な状態である。頸部と頭部に耐え難い痛みと運動機
能障害が生じている」。
エ日常生活活動能力及び労働能力
「原告は,その日常生活能力が脊柱の支持機能障害が甚だしく,あらゆる
面でかなり不自由であり,また労働能力はない」。
(5)原告は,上記(3)の手術によって腰部の疼痛が改善されたものの,平成8
年12月13日の診断の結果,頸部,頭部及び背部の激しい痛みはなお残っ
ていた。そして,原告は,この症状に改善がみられなかったことから,再び
同病院を受診し,平成9年4月14日,原告の頸部から頭部の疼痛について
頸椎骨軟骨症と診断され,同月21日,同病院において手術(頸椎前方固定
術)を受け,同年5月14日に退院した(甲7ないし9,19,21,乙。
11)
(6)D医師が作成した平成14年11月27日付けの診断書には,原告の平
成9年5月14日における原告の障害の状態について,次のように記載され
ている(以下「平成9年診断書」という(甲9)。)。
ア脊柱の障害(脊柱の可動域)
部位運動の種類前屈後屈右側屈左側屈右廻旋左廻旋
頸部自動的半減著減半減半減半減半減
他動的やや減半減やや減やや減やや減やや減
胸腰部自動的著減消失著減著減著減著減
他動的半減著減半減半減半減半減
なお,随伴する臨床症状については「神経症状なし」と記載されてい,
る。
イ日常生活動作の障害の程度
つまむ(両手,握る(両手,タオルを絞る(両手,ひもを結ぶ(両)))
手,さじで食事をする(両手,顔に手のひらをつける(両手)各動作))
が「一人でうまくできる,用便の処置をする動作については「一人で」,
できてもやや不自由,上衣の着脱,ズボンの着脱,片足で立つ,座る,」
深くおじぎをする,歩く,立ち上がる,階段を登る,階段を降りる各動作
は「一人でできるが非常に不自由,靴下を履く動作は「一人では全くで」
きない」と記載されている。これらの点は,用便の処置について,改善が
見られるものの,その余は平成8年12月13日の状態と同じである。
,,「」また平衡機能については閉眼での起立・立位保持の状態は不安定
であり,開眼での直線の10メートル歩行の状態は「多少転倒しそうにな
」。,ったりよろめいたりするがどうにか歩き通すと記載されているこれは
平成8年12月13日の状態と同じである。
ウその他の精神・身体の障害の状態
「特に背部に数10キロの鉛を背負っているようなかなり重苦しい荷重
感を絶えず受けているので上体を起こしていること自体困難で次第にグロ
ッキー状態に陥り,一日の大半を寝ている。ねているときでもうつ伏せで
ないと苦しい。頸部と腰部に固定した耐え難い痛みと運動機能障害が生じ
ている」。
エ日常生活活動及び労働能力等
「日常生活能力は脊柱の支持機能障害が甚だしく,あらゆる面でかなり
不自由である。労働能力はない」。
,,,(7)原告は平成10年12月11日背部痛を訴えてE病院で診察を受け
胸椎々間板症及び変形性胸椎症と診断され,平成11年1月7日まで通院し
ている。また,平成14年2月ころから原告の背部等の疼痛が強くなったた
め,原告は,同年4月16日,B病院を受診し,同病院に出向していたC医
師によって,胸椎々間板障害(胸椎6/7間の不安定椎)と診断され,同年
,()。5月15日及び30日の2度にわたり手術後側方脊椎固定術を受けた
(甲5,6,9,10,20,21)
(8)C医師が作成した平成14年9月18日付け診断書(以下「平成14年
診断書」という)には,同日における原告の障害の状態について,次のよ。
うに記載されている(甲10)。
ア脊柱の障害
部位運動の種類前屈後屈右側屈左側屈右廻旋左廻旋
頸部自動的453030506070
他動的453030506070
胸腰部自動的303020204545
他動的303020204545
なお,随伴する臨床症状については「神経症状なし」と記載されてい,
る。
イ日常生活動作の障害の程度
つまむ,握る,タオルを絞る,ひもを結ぶ,さじで食事をする,顔に手
のひらをつける各動作が両手とも「一人でうまくできる,用便の処置を」
する動作については「一人でできてもやや不自由」とされており,上衣,
の着脱(両手,片足で立つ,屋内を歩く,立ち上がる各動作は「一人),
でできてもやや不自由,ズボンの着脱,座る,深くおじぎをする,屋外」
を歩く各動作は「一人でできるが非常に不自由,靴下を履く動作は「一」
人では全くできない」と記載されている。用便の処置をする動作は平成9
年5月14日の状況と同じであり,上着の着脱(両手,片足で立つ,屋)
内を歩く,立ち上がるの各動作は平成8年12月13日及び平成9年5月
14日より改善され,その余は,平成8年12月13日及び平成9年5月
14日の状況と変わりがない。
,,「」また平衡機能については閉眼での起立・立位保持の状態は不安定
であり,開眼での直線の10メートル歩行の状態は「多少転倒しそうにな
」,,ったりよろめいたりするがどうにか歩き通すと記載されておりこれは
平成8年12月13日及び平成9年5月14日の状況と同様である。
ウその他の精神・身体の障害の状態
「特に脊柱の支持機能障害は大きく,上体を起こしている時間が少しで
も長くなると背骨全体にかなりの荷重感を受け,その場でベッドへ寝て休
まずにはいられない程の疲労困ぱい状況におちいる」。
エ日常生活活動能力及び労働能力
「日常生活能力は全般にわたり不自由である。労働能力はない」。
,,(9)社会保険庁長官はC医師作成の平成14年診断書の記載内容を踏まえ
本件裁定請求日における原告の本件各傷病が国民年金法施行令別表が定める
障害等級2級の程度に該当すると認定するに至ったとして,平成17年4月
28日付けで,原告に対し本件裁定請求日を受給権発生日とする障害等級2
級の障害給付を支給する旨の処分をした(甲2)。
2争点1について
(1)前記認定の事実によれば,原告は,平成5年9月ころ空手の練習中に負
ったけがを直接の原因として,腰部を中心として,頭部に至る部位に激しい
痛みが生じるようになり,平成8年7月31日の初診日の段階においても,
腰部痛のほかに,背部,頸部,頭部の痛みを訴えていたのであるから,原告
の疼痛は,上記初診日の段階から,腰部のみならず頭部に至るまでの各部位
に生じていたと認められる。この点について,原告は,初診日ではあくまで
腰部の診断のみが行われていたのであって,その他の傷病に関する診断はな
かった旨主張するようであるが,原告が当初診察を受けたF医師が発行した
受診状況等証明書(甲3)には,原告が平成8年7月31日にB病院を受診
するまでの間,上記けがにより腰痛,首・頭部痛,背部痛を繰り返していた
旨明確に記載されており,原告自身も,審査請求及び再審査請求段階におい
ては,初診日の段階から本件各傷病が併発していたことを前提として主張し
ていたのであって(審査請求について乙3・4丁,再審査請求について乙6
・2丁左,この点についての原告の主張は採用できない。)
そして,前記認定の事実によれば,原告は,まず直接の傷害を負ったと解
される腰部痛について第3腰椎不安定症と診断されて平成8年10月8日に
手術を受け(上記(3),次に頸部から頭部の疼痛が顕著になると,同傷病)
について頸椎骨軟骨症と診断されて平成9年4月21日に手術を受け(上記
(4),更に,原告の背部の疼痛が顕著になると,同傷病について胸椎々間)
,(),板障害と診断され平成14年5月に手術を受けたものであって上記(5)
平成14年5月に至るまでの間,原告が訴える症状に応じて,それぞれ診察
及び手術が行われてきたところ,原告がこうした各種の症状を訴えるに至っ
たのは,原告が平成5年9月ころ空手の練習中に負ったけがのほか,本件全
証拠を精査しても,上記受傷原因のほか,原告の腰部(上記(3),頸部及)
び頭部(上記(4))及び背部(上記(5))の各症状ごとに別個の原因が存する
ことをうかがわせるに足りる資料は見当たらず,医学的にも,脊柱は頸椎,
胸椎,腰椎等により構成され,その運動機能は脊椎骨及び椎間板等によって
維持されており,椎間板等に障害があると脊柱の運動機能障害が生じるとこ
ろ,第3腰椎不安定症,頸椎骨軟骨症及び胸椎々間板障害は,いずれも,脊
椎の一部において椎間板が不安定になる等の原因により生じた脊柱の運動機
能障害を,病変が生じた部位等に応じて言い表したものであって,全体とし
て脊柱の障害に随伴するものと認められるのであるから(甲30,乙4,1
1,結局,原告が訴える各種症状は,いずれも,原告が平成5年9月ころ)
負ったけがに起因する一連の症状とみるべきである。
そして,第2の3(2)のとおり,障害認定の基準日となるべき「障害認定
日」は,初診日から起算して1年6月を経過した日,又はその期間内にその
傷病が治った日(その症状が固定し治療の効果が期待できない状態に至った
日を含む)とされており,本件において,上記「初診日から起算して1年。
6月を経過した日」が平成10年1月31日であることは当事者間に争いが
ないところ,上記認定の事実によれば,この時点では,原告は未だ背部痛に
ついて経過観察とされており,平成14年5月の手術によって初めて当該背
部痛の問題が解決したのであるから,上記平成10年1月31日までの期間
内に原告の脊柱に由来する本件各傷病が治ったとか,その症状が固定し治療
の効果の期待できない状態に至ったと評価することは困難というほかない。
そうすると,本件における障害認定日は「初診日から起算して1年6月を
経過した日」である平成10年1月31日というべきであり,原告が主張す
る平成8年12月13日を障害認定日と認めることはできないから,原告の
主張は理由がない。
(2)たしかに,原告が指摘するように,C医師作成の「各傷病の症状固定に
よる治癒証明書(甲7)及びD医師作成の「二傷病の症状固定による治癒」
証明書(甲15)には,いずれも,原告の腰部症状を第3腰椎不安定症と」
診断し,その第3腰椎不安定証は,手術加治療の後平成8年12月13日に
症状が固定した旨の記載がある。
しかしながら,C医師及びD医師は,第3腰椎不安定症のみならず頸椎骨
軟骨症及び胸椎々間板障害もまた,空手の練習中に起きたけがによって発生
したものと診断しているところ(甲8ないし10,甲7及び甲14には,)
,,第3腰椎不安定症の症状固定の記載に続けて頸椎骨軟骨症は手術加療の後
平成9年5月14日に症状が固定したこと,さらに甲7には,胸椎々間板障
害については,2回の手術加療の後,平成14年9月18日に症状が固定し
たことがそれぞれ記載されているのであって,甲7及び甲15に,第3腰椎
不安定症の症状固定時期が平成8年12月13日と記載されているからとい
って,空手の練習中に起きたけがによる障害がすべて平成8年12月13日
に症状固定になったと認めることはできない。
また,原告は,本件各傷害の原因は必ずしも平成5年9月ころ空手の練習
中に原告が負ったけがによるものと断定できないから,本件各傷病が一連の
傷病ということはできない旨主張し,原告が受診したA病院の診療録には,
原告が15歳当時柔道をしている途中,逆エビ体操中腰背部で「ボキッ」と
いう音がして,以来腰部痛が生じるようになった旨の記載が存する(甲17
・9頁,甲18。)
,,,,しかしながら前記のとおりD医師及びC医師は本件各傷病の原因は
平成5年9月ころに発生した原告の空手の練習中に起きたけがによる旨診断
しているところ,同医師らが作成した診断書(甲8ないし甲10)には,原
告が指摘する上記柔道練習中のけがは全く指摘されておらず,また,原告自
身も,本件裁定申請に当たり作成して提出した「病歴・就労状況等申立書」
(),,乙11において発病したときの状態と発病から初診までの状態に関し
「空手の練習中,上体を激しくねじってしまい,腰部にボキッというにぶい
音が発生し,腰部をはじめ,背部,頸部,頭部まで激しい痛みが生じた」と
説明しており,原告自身も,本件裁定請求時においては,本件各傷病の原因
として上記受傷を想定していたと認められるのであって,本件各傷病の主原
,,因は平成5年9月に原告が負った脊柱へのけがと認めるのが相当であって
甲17,18の上記記載から,本件各傷病が一連の傷病ではないと推認する
ことは到底できない。
3争点2について
(1)このように,原告の障害認定日を平成8年12月13日と認めることは
できないから,同日の段階における傷病が障害等級2級に該当することを前
提とする本件処分の取消請求は理由がないが,原告の初診日から1年6月を
経過した平成10年1月31日を障害認定日とする障害給付が認められる可
能性のあることは被告も認めるところであって,仮に,平成10年1月31
日の段階で本件各傷病が障害等級2級に該当すると認められる場合には,本
件処分は,平成10年2月分以降の障害給付を認めなかった点において,一
部違法とならざるを得ない。
そこで,平成10年1月31日において原告の傷病が障害等級2級に該当
すると認められるか否かについて判断する。
(2)障害等級2級に該当する体幹及び脊柱の機能の障害については,国民年
金法施行令4条の6及び厚生年金保険法施行令3条の8によって,①体幹の
機能に歩くことができない程度の障害を有するもの(国民年金法施行令別表
2級14号)か,②身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病
状が前各号と同程度以上と認められる状態であって,日常生活が著しい制限
を受けるか,又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のも
(),の国民年金法施行令別表2級15号がこれに該当する旨定められており
本件では,原告が上記②に該当するか否かが争われている。
,(),,そして証拠甲30及び弁論の全趣旨によれば脊柱の機能障害には
荷重機能障害,すなわち脊柱の支持機能の障害と運動機能障害があり,障害
認定の実務上,荷重機能障害は日常生活及び労働に及ぼす影響が大きいので
重視する必要があるとされていることが認められる。
(3)そして,原告の平成10年1月31日の時点における傷病の程度を検討
するに,社会保険庁長官は,原告に対し,平成14年診断書に記載された原
告の現症を踏まえ,本件各傷病が2級の障害に該当する旨判断し,本件裁定
請求日を起算日とする2級の障害給付をする旨裁定したものであるところ
(上記第3の1(9),平成14年診断書においては,原告の脊柱の支持機)
能障害に関する記載として「特に脊柱の支持機能障害は大きく,上体を起,
こしている時間が少しでも長くなると背骨全体にかなりの荷重感を受け,そ
の場でベッドへ寝て休まずにはいられない程の疲労困ぱい状況に陥る」旨の
記載がある。この脊柱の支持機能障害に関する平成8年診断書及び平成9年
診断書の各記載をみると,いずれの診断書においても,D医師によって,同
機能障害が甚だしく,日常生活労働能力はあらゆる面で不自由であり,労働
能力はない旨診断されているのであるから,原告の脊柱支持機能障害につい
ては,平成8年診断書,平成9年診断書及び平成14年診断書が作成された
各時点において,同機能が大きく失われていたとする点においてほぼ一貫し
ていたということができる。
のみならず,原告の運動機能障害に関する平成14年診断書の記載内容を
平成8年診断書及び平成9年診断書と対比すると,上記1認定の事実によれ
ば,原告の日常生活における動作のうち,ズボンの着脱,座る,深くおじぎ
,「」,,をする屋外を歩く各動作が一人でできるが非常に不自由であり特に
靴下を履く動作は「一人では全くできない」とされている点は,平成8年診
断書から平成14年診断書に至るまでの間何ら変わりがないのであるから,
平成8年診断書,平成9年診断書及び平成14年診断書に記載された原告の
運動機能障害は,脊柱の支持機能障害と同様,全体として,その機能が大き
く失われていたという点においてほぼ一貫しているというべきである。
そして,原告は,その陳述書において,平成10年1月31日ころの原告
の状態について,胴体を支えていること自体が苦痛であり,時間が少しでも
長くなると段々とグロッキー状態(胴体がふらつく)に陥り,3人がけの長
いソファーやベッドで寝なければならない状態であって,一日の大半を寝て
過ごしていた旨述べているところ(甲50,この供述記載は,上記の各診)
断書における原告の脊柱支持機能障害及び運動機能障害に関する診断とよく
符合するものであり,自らの状態に関する説明として自然なものと理解する
ことができるから,十分信用することができるというべきである。
以上を総合すると,原告の平成10年1月31日の時点における傷病の程
度は,上記の各診断書が作成された段階と同様,原告の脊柱支持機能及び運
動機能が大きく失われており,一日の大半を寝て過ごすことを余儀なくされ
た状態であったと認められる。
(4)そして,C医師は,平成14年診断書において,原告の上記脊柱支持機
能障害及び運動機能障害の内容,程度を踏まえ,原告の日常生活能力が全般
にわたり不自由であり,また労働能力がない旨診断し,社会保険庁長官は,
この診断を踏まえ,原告の傷病の程度が障害等級2級に該当する旨判断した
と認められるところ,原告の日常生活能力が全般にわたり不自由であり,ま
た労働能力がないとする点においても,平成8年診断書及び平成9年診断書
は平成14年診断書とその趣旨を同じくするのであるから,原告の本件各傷
病の程度は,平成14年診断書が作成される前の段階である平成10年1月
31日の時点でも,障害等級2級に該当することが推認され,他にこれを覆
すに足りる資料はない。
(5)被告は,初診日から1年6月を経過した平成10年1月31日の時点以
後3月以内の現症が記載された診断書が提出されていないし,比較的近似し
た時点(平成9年12月27日)に作成された診断書(乙9)にも障害の程
度を判断するための記載が全くないことを根拠として,原告の平成10年1
月31日の時点における障害の程度は不明である旨主張する。
しかしながら,本件においては,上記のとおり,平成8年診断書,平成9
年診断書及び平成14年診断書の各記載を照合して検討すると,原告の平成
10年1月31日の時点における障害の程度を推認することができるという
べきであって,初診日から1年6月を経過した平成10年1月31日の時点
以後3月以内の現症が記載された診断書が提出されていないこと自体は,原
告の上記障害の程度を認定することに何ら妨げになるものではないし,被告
が指摘する,平成9年12月27日付け診断書(乙9)に傷害の程度を認定
するため必要な記載が欠けている点についても,同診断書自体によって平成
10年1月31日の時点における原告の障害の程度を認定するわけではない
以上,上記認定を左右するものではなく,被告の上記主張はいずれも理由が
ない。
(6)また,被告は,①一般的に椎間板症による痛みは季節等により常に変動
し,一定しないものであること,②原告が,各部位の椎体間固定術を受ける
たびに当該各部位の症状が改善されるものの,その後に別の部位(頸部又は
背部)の症状が悪化し,当該部位について手術を受けることを繰り返してお
り,その障害の状態及び程度は変動を繰り返していること,③原告の症状が
改善されたことを推測させる事情が存することを挙げて,平成10年1月3
1日の段階における原告の傷病の程度は不明であって,これを本件裁定請求
日における傷病の程度と同視することはできない旨主張し,これに沿う証拠
(乙14)もある。
しかしながら,上記のとおり,本件において原告の傷病の程度が障害等級
2級に該当するかどうかは,身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要
とする病状が,体幹の機能に歩くことができない程度の障害があるか,それ
,,と同程度以上と認められる状態であって日常生活が著しい制限を受けるか
又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のものであると評
価することができるかどうかによって判断されるのであるから,仮に乙14
において指摘されているように,椎間板症に由来する原告の痛みが変動し,
一定しないことがあったとしても,それによって日常生活への制限の程度が
大幅に軽減されて著しい程度ではなくなるなどの影響が生じない限りは,上
記判断に影響を及ぼすものではない。
そして,本件においては,上記のとおり,原告が平成5年9月ころ負った
けがに起因する一連の症状としての原告の本件各傷病が全体として障害等級
2級に該当するか否かが問題となっていることを考慮すると,原告の一連の
症状のうちある特定の症状や,日常生活の動作等を取り出して,原告の障害
の程度を判断することは相当ではなく,あくまで,原告の脊柱支持機能及び
,,運動機能に関する障害の有無及びその程度を中心としてその症状を全体的
総合的に評価すべきである。そうすると,上記1認定の事実によれば,平成
8年診断書,平成9年診断書及び平成14年診断書から認められる原告の症
状について,子細に見れば,被告が指摘するように,疼痛の部位やその程度
に差異があったり,日常生活動作について一部改善された項目があることが
認められるものの,全体としてみれば,原告は,そのような事情を踏まえて
もなお,平成8年診断書,平成9年診断書及び平成14年診断書のいずれに
おいても,その脊柱支持機能及び運動機能が大きく失われており,原告の日
常生活能力が全般にわたり不自由であり,また労働能力がない旨診断されて
いるのであり,他に平成10年1月31日ころに原告がこのような状態では
なかったことを窺わせる具体的事情は認めがたいのであるから,被告が指摘
する上記の各事情は,原告の本件各傷病の程度が,平成10年1月31日の
,。時点でも障害等級2級に該当する旨の上記推認の妨げとなるものではない
したがって,被告の上記主張は理由がない。
4小括
そうすると,原告の傷病の程度は,障害認定日である平成10年1月31日
において障害等級2級に該当すると認められるところ,本件処分は,この点を
看過し,同日から平成14年11月までの期間について障害等級2級の障害給
付を不支給とした点において,違法というべきである。そして,年金給付の支
給は,これを支給すべき事由が生じた日の属する月の翌月から始めることとさ
れているから(国民年金法18条1項,厚生年金保険法36条1項,原告に)
対しては,上記障害認定日の翌月である平成10年2月から平成14年11月
までの障害等級2級の障害給付が支給されるべきことになる。
第4結論
以上によれば,①本件処分の取消請求のうち,原告に対し平成10年1月3
1日から平成14年11月までの期間について障害等級2級の障害給付を不支
給とした部分については,理由があるのに対し,その余の期間については理由
がなく,また,②原告の義務づけの訴えのうち,社会保険庁長官に対し平成1
0年2月から平成14年11月までの期間において原告に障害等級2級の障害
給付を支給することを求める義務付けの訴えは理由があるのに対し,その余の
期間における上記障害給付の支給を求める義務づけの訴えは,当該期間に関す
る本件処分の取消請求に理由がない以上,不適法な訴えといわざるを得ないか
ら(行政事件訴訟法37条の3第1項2号,これを却下することとし,訴訟)
費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,64条本文を適
用して,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第3部
裁判長裁判官定塚誠
裁判官中山雅之
裁判官進藤壮一郎

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