弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人上村進、同青柳盛雄、同上田誠吉の上告理由第一について。
 所論は、本件在日朝鮮人連盟に解散の理由がないとし、もつて、本件接収の違法、
無効を主張するにあるけれども、原審は、本件解散命令および財産接収は、原判示
の如き権限を有する連合国最高司令官の要求に基づいてなされたものであり、右は
憲法の規定に照らしてその効力を問題とする余地は全くないと判断しており、その
判断は是認できるから、論旨は、採用できない。
 同第二について。
 所論一は、本件接収の根拠となつた所論ポッダム緊急勅令(昭和二〇年勅令第五
四二号「ポツダム宣言ノ受諾ニ伴ヒ発スル命令ニ関スル件」)の違憲と無効を理由
として、もつて本件接収の無効を主張し、所論二は、本件接収が憲法二一条が保障
する結社の自由を侵犯する団体等規正令および結社の財産的基礎を侵奪する解散団
体の財産の管理及び処分等に関する政令の如き違憲、無効の法規に基づくものであ
るから無効であるとし、所論三は、本件接収が憲法二九条一項の財産権の保障に違
背する故に無効であるとし、所論四は、団体等規正令、解散団体の財産の管理及び
処分等に関する政令、および右政令に基づく本件解散、団体指定、財産接収の処分
が憲法三一条の正当手続の保障に違反し無効であると主張し、所論五は、基本的人
権に関する規定については、原判決の如き占領法規超憲論の生ずる余地はない旨主
張するにある。
 しかしながら、右勅令第五四二号は、日本国憲法にかかわりなく憲法外において
法的効力があり、団体等規正令および解散団体の財産の管理及び処分等に関する政
令は、この勅令に基づく政令であり、その内容が、占領目的達成のため在日朝鮮人
連盟を解散せしむべき旨の連合国最高司令官の指令および昭和二三年三月一日付日
本政府宛覚書「解散団体所属財産の処分に関する件」の要求を逸脱したものではな
いから、それが憲法に違反するものであると否とを問わず、その効力を有するもの
となすべきである(当裁判所大法廷判決昭和二四年(れ)第六八五号同二八年四月
八日言渡、刑集七巻四号七七五頁参照)。したがつて、所論各処分が超憲法的権力
の作用として行われたとする原判決の判断は正当であつて、基本的人権に関する法
規であるからといつて、別異に結論しなければならないものではない。
 論旨は、すべて、採用できない。
 同第三について。
 所論は、本件接収は、陸戦ノ法規慣例ニ関スルヘーク条約の条規およびポツダム
宣言に違反し、無効であると主張するにある。
 しかしながら、ポツダム宣言を受諾した日本国としては、前示指令および覚書の
効力の有無を審査し判断する立場にない。所論は、その審査判断をなしうることを
前提とするものであつて、前提において既に失当である。
 論旨は、すべて、採用できない。
 同第四について。
 所論一中には、本件処分の憲法、国際法違反の主張もあるが、該主張の採用でき
ないことは、前述のとおりであり、右主張を前提とする所論は、前提において既に
失当である。
 次に所論には、本件建物の所有権は占領軍の施策の一として占領期間中に限り信
託的に一時国庫に帰属していたにすぎないものであつて、占領の終了と同時に原所
有者の権利は復活する関係にあり、国は本件建物の処分権能をもつていなかつたに
もかかわらず、ほしいままにこれを処分したのであるから、国に不法行為責任があ
るとの主張がある。しかしながら、所論不法行為に基づく上告人の請求については、
第一審で請求棄却の判決がなされているところ、上告人はこの点の附帯控訴をしな
かつたのであるから、既に原審で審理判断の対象とされていない。右所論は、ひつ
きょう、原判決に影響を及ぼさないものである。
 所論二は、いわゆる戦後復権の原則に基づく補償を云為するにあるが、右原則の
適用を請求原因とする上告人の請求はすべて、第一審判決において請求棄却となつ
ているところ、この点についても、上告人は附帯控訴をしなかつたため、原審で審
理判断の対象とされていないのであるから、右所論も、前同様、原判決に影響を及
ぼさないものである。
 所論三は、講和成立の現在としては、憲法二九条三項を実定的根拠規定として本
件接収処分に対する正当な補償が与えられねばならないと主張するにあるが、この
主張は本件接収処分が公用徴収に属することを前提とするものであるところ、団体
等規正令および解散団体の財産の管理及び処分等に関する政令は、団体等規正令第
二条に定める団体を消滅せしめてその活動を禁圧するためにその財産をも没収する
趣旨であると認められ、これに基づく本件接収は、本件建物を公共のために用いる
目的で行われたものでないのであるから公用徴収に当らない、とした原判決の判断
は、正当として是認できる。論旨は、前提において既に失当である。
 所論四は、本件処分によつて日本政府が不当利得をした旨主張するにある。
 しかしながら、前段説明の趣旨により、それは、法令に基づきなされたものであ
ることが明白であるから、結局、原判決がこれを不当利得に当らないとした判断は、
正当として是認できる。
 所論五は、日本国との平和条約第一九条(d)項との関係を云為するにあるけれ
ども、それが原判決に影響を及ぼさないものであることは、既に説明したところに
より諒解すべきである。
 論旨は、すべて、採用できない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致で、主文のと
おり判決する。
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    石   坂   修   一
            裁判官    山   田   作 之 助
            裁判官    横   田   正   俊
            裁判官    草   鹿   浅 之 介
            裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    石   田   和   外
            裁判官    柏   原   語   六
            裁判官    田   中   二   郎
            裁判官    松   田   二   郎
            裁判官    岩   田       誠

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