弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

       主   文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
       事   実
第一 当事者双方の求める裁判
一 原告ら
1 被告静内郵便局長が原告a、同b、同c、同dに対してなした昭和四三年一月
一三日付戒告の懲戒処分はこれを取消す。
2 被告国は、原告eに対し金五万円、同aに対し金一〇万〇、一二九円、同fに
対し金五万〇、一三四円、同gに対し金五万〇、一一六円、同bに対し金一〇万
〇、一四八円、同cに対し金一〇万〇、一三四円、同dに対し金一〇万〇、一一二
円の金員をそれぞれ支払え。
3 訴訟費用は被告らの連帯負担とする。
4 第2項につき、仮執行宣言
二 被告ら
主文と同旨
第二 当事者双方の主張
一 原告ら(請求の原因)
(一) 原告らはいずれも昭和四二年二月一日以前から、郵政省職員であつて静内
郵便局に勤務するものである。
(二)1 被告静内郵便局長は、原告らがそれぞれ勤務を欠如しかつ時間外労働を
拒否したことを事由として、昭和四三年一月一三日付で原告a、同b、同c、同d
に対しては戒告、同e、同f、同gに対しては訓告の処分をなした。
2 然しながら、原告らにはいずれも処分事由に当る事実は存在しない。
3 しかして、原告らは、このようないわれなき懲戒処分等をうけたことにより相
当の精神的損害をうけたことは明らかであるから、被告国は右戒告処分をうけた原
告ら四名に対しそれぞれ金一〇万円、右訓告をうけたその余の原告らに対し各金五
万円の慰謝料の支払義務がある。
(三) 又被告国は、昭和四二年一二月二四日に支払うべき賃金につき、右(二)
の勤務欠如を事由として、原告aに対しては一二九円、同fに対しては一三四円、
同gに対しては一一六円、同bに対しては一四八円、同cに対しては一三四円、同
dに対しては一一二円をそれぞれ支払わなかつた。
(四) よつて原告a、同b、同c、同dは、被告静内郵便局長に対し右戒告処分
の取消を、原告全員は被告国に対し、前記慰謝料および支給されなかつた賃金の支
払を各求める。(ただし原告eについては賃金の支払は求めない。)
二 被告ら(請求の原因に対する認否)
1 (一)、(二)の1、(三)の事実は認める。
2 (二)の2、3、の事実は争う。
三 被告ら(抗弁)
1 原告らは、別表記載のとおり、勤務時間(自午前七時二五分至午後三時三〇
分)中に退庁し、もつて以後の勤務を欠如した。
2 原告らは、次のとおり静内郵便局管理者から出された超過勤務命令を拒否し
た。
イ 訴外h局長代理は、原告aが昭和四二年一一月一三日配達すべき郵便物中三〇
通の持戻りがあつたため、同日午後三時一〇分ころ静内郵便局郵便外勤室において
原告aに対し、口頭で「すぐ超過勤務で完配してくれるよう」命じたが、同原告は
これを拒否した。
ロ 同h局長代理は原告e、同a、同g、同b、同dが昭和四二年一一月一四日配
達すべき郵便物中、原告eにおいては、一三通、同aにおいては三三通、同gにお
いては三七通、同bにおいては六八通、同dにおいては七六通の各持戻りがあつた
ため、同日午後三時一五分ころ前同所において、同原告らに対し前同様口頭で超過
勤務を命じたが、同原告らはいずれも右命令を拒否した。
ハ 訴外h、i両局長代理は、昭和四二年一一月二二日の一号便で配達すべき郵便
物中、市内全区にわたり相当の未配達郵便物があることを調査により発見したの
で、前記i局長代理は同日午前一一時一七分ころ前同所において、市内一区担当の
訴外j、同二区担当の原告b、同三区担当の原告c、同四区担当の原告f、同五区
担当の原告dの名前を順次呼び確認のうえ、口頭で「一号便の持戻りは二号便に組
込み、正規の勤務時間内に完配できない場合は、二時間の範囲内の超過勤務により
配達するよう」命じたものの、原告fにおいては一五九通、同bにおいては六一
通、同cにおいては五一通、同dにおいては四九通の持戻りがあつたため、前記i
局長代理は更に同日午後三時一〇分ころ前同所で口頭で「超過勤務により完配する
よう」再度にわたり命じたが、同原告らはこれを拒否した。
3 以上のような原告らの非違行為のうち、原告a、同b、同c、同dらの行為に
ついては、いずれも国家公務員法第八二条一、二、三号に規定する懲戒理由に該当
するから、勤務欠如回数、時間、命令拒否回数等を考慮し、被告静内郵便局長は本
件戒告処分をし、又その余の原告らの行為についてはいずれも前記原告らの非違程
度よりも軽徴であることを考慮し、被告静内郵便局長は郵政部内職員訓告規程(昭
和二五年七月二五日公達八三号)に基き、本件訓告をなしたものである。なお原告
fの昭和四二年一一月四日、同一〇日における勤務欠如は訓告理由としてはいな
い。
4 また別表のような勤務欠如がなされたので、被告国は原告eを除くその余の原
告に対し、原告ら主張の賃金額を支払わなかつたものである。
5 以上のとおりであつて被告らの本件各処分は適法であり、何ら違法な点は存し
ない。
四 原告ら(抗弁に対する認否)
1イ 第1項の事実中、被告ら主張の各日に被告ら主張の各原告が退庁したことお
よび昭和四二年一一月四日、同月七日、同月一〇日の退庁時刻が被告ら主張のとお
りであることは認める。その余の事実は否認する。昭和四二年一一月一二日、同月
一九日に被告ら主張の各原告が退庁したのは午後三時二〇分ころである。また原告
らの勤務時間(原告らが拘束される時間)が午後三時三〇分までであるとの点は争
う。
ロ 原告らの実質的労働時間は午前七時二五分から午後三時一七分までであり、午
後三時一七分以降午後三時三〇分までは休息時間であつてしかも勤務を要しないか
ら原告らの右退庁以後勤務欠如があつたとすることはできない。即ち、
(一) 原告らの勤務時間終了前の一三分間は協約上の特例休息であつて勤務を要
しないものである。
(1) 郵政省と全逓信労働組合(以下全逓という)との間の「勤務時間および週
休日に関する協約」(昭和三三年四月一五日締結)の第二条二項は、「休息時間は
原則として勤務四時間に一五分を勤務の途中に設ける。」と定め、さらに「同協約
覚書別表第二」(昭和三三年四月一五日締結)は、「勤務時間が六時間をこえ八時
間以内の場合においては、所定の休息時間もしくは特例による休息時間のうち一五
分を勤務時間の終に置くことができる。」としている。
(2) 原告らの労働時間は拘束八時間五分、休憩四五分であるから、前記協約第
二条二項により休息時間は二八分となる。
240分(4時間)÷485分(8時間5分)-45分×15分=275分
(3) 原告らは配達業務に従事するものであるから、その性質からいつて仕事の
途中で休息をとることができないため、前記協約覚書に基き、午前中は休憩時間の
前に一五分の、午後は勤務時間の終りに一三分の休息をとることとした。
(4) 原告らの労働時間は従前いずれも午前七時二五分から午後三時三〇分まで
であつたところ、前記協約覚書締結により、休息中一三分を勤務時間の終りに置い
たのであるから、結局その実質的労働時間は午前七時二五分から午後三時一七分ま
でとなり、同時刻以降午後三時三〇分までは休息時間となつたのである。
(二) しかして静内郵便局においては、一〇年以上にわたる職場慣行により、右
休息時間中勤務時間の終りに置かれた分に相当する時間は庁内において休息するこ
とに代えて早帰りしていたものであり、原告らが拘束されるのは午後三時一七分ま
でであつたのである。
2イ 第2項イの事実中、昭和四二年一一月一三日訴外h局長代理が原告aに対し
て口頭で超過勤務を命じたこと、当日同原告には持戻り郵便物があつたことは認め
るが、その余の事実は否認する。原告aが超過勤務命令を受けたのは午後三時二〇
分ころである。
 第2項ロの事実中、昭和四二年一一月一四日前記h局長代理が口頭により原告
e、同a、同g、同b、同dに対し超過勤務を命じたことおよび同原告らに持戻り
郵便物があつたことは認めるが、その余の事実は否認する。
 第2項ハの事実中、昭和四二年一一月二二日訴外i局長代理が原告f、同b、同
c、同dに対し口頭で超過勤務を命じたことおよび当日同原告らに持戻り郵便物が
あつたことは認めるが、その余の事実は否認する。前記i局長代理が同原告らに対
し超過勤務を命じた時刻は午後三時二〇分ころである。
ロ 超過勤務命令の違法性について
(一) 原告らに残業義務を命ずる根拠はない。すなわち確かに静内郵便局と全逓
日胆地方支部長との間に「時間外労働および休日労働に関する協定」(いわゆる三
六協定)が、また郵政省と全逓との間に「時間外労働および休日労働に関する協
約」が、さらに八時間を越えて超過勤務を命ずることができる旨の就業規則も定め
られてはいたけれども、右協定、協約、就業規則からは直接に残業義務は生じない
ものといわなければならない。
(1) 労働基準法(以下労基法という)三二条は、八時間労働制が全産業を通じ
ての労働時間の最低基準であることを認めている。
 八時間を超えて労働させることは原則として犯罪行為であつて、六か月以下の懲
役または五千円以下の罰金に処せられることになつている(労基法一一九条一
号)。したがつて八時間労働制を刑罰をもつて強制しようとするのが法の建前であ
り、またILO第一号条約(労働時間制)および同第一一六号(労働時間の短縮に
関する勧告)にみられるように国際的労働常識でもある。そうであるから労基法三
六条は使用者の利益のために例外的に残業を認める可能性を与えたにすぎず、本来
残業は可罰的違法行為なのだという大原則をいかなる場合にも見失つてはならない
のである。このような労基法の構造からみると、三六協定は労基法違反による処罰
の解除条件としての公法上の効果をもたらすにすぎず、残業義務という民事上の効
果は全くでてこないとみるのが相当である。
(2) また労働契約中に残業規定が定められていたとしても、八時間を超過する
残業義務を内容とする労働契約は労基法で定める基準に達しない労働条件を定める
ものであるから無効であることは当然である(同法一三条)。仮に三六協定の締結
と届出を条件として効力を生ずる旨の特約があつても、労働者の自由意思が反映し
がたい個別契約に労基法違反の性質をもつ特約を肯定できないし、また三六協定に
労基法違反の無効な特約を有効化できる効力をも認めることはできない。
(3) 就業規則において残業義務を一般的に定めた場合でも基本的には右の労働
契約の場合と同様である。使用者が事実上一方的に制定変更できる就業規則におい
て八時間をこえる残業義務を定めても、その規定自体が労基法の最低基準を下廻る
無効の規定である(同法九二条)。また、三六協定によつてかかる無効の規定が有
効な私法上の効果を帯有するに至るとみるのも困難である(公法と私法との混
同)。
(4) 更に労働協約で残業義務を定めていたとしても、やはり労基法以下の労働
条件を定めることは協約の本質に背離するのみならず労基法違反で無効である。協
約の意義は労基法の定める最低労働条件をうわまわるものを組合の力で確保するこ
とにあり、協約の規範的効力は個々の労働契約の内容を団結の力によつて限界づけ
ようとするもので組合員の意思と利益に合致することを前提とするが、三六協定な
いし残業規定は法律上義務づけられていない残業義務を認めるもので組合員の利益
と意思に必ずしも合致しないばかりか、組合といえども組合員の自由意思に根拠を
おかず医学的かつ心理的にも不健全なことが立証されている長時間労働を組合員に
義務づけたり強制したりすることは不当である。
(5) 以上のとおりであつて、刑罰をもつて強行している労基法の八時間労働制
の立法趣旨(労働者の保護、長時間労働からの解放)に照して、前記のいずれの形
式をとつても個々の労働者の自由意思に基かないで民事上の残業義務を認めること
は法律上困難であり、したがつて労働者に対し残業義務が発生するのは、使用者か
ら具体的な日時、場所などを指定して時間外労働をしてもらいたいとの申し入れに
対し、個々の労働者が自由な意思で合意した場合に限るのである。
(二) 仮に前記主張が認められないとしても、本件各超勤命令は昭和三四年一二
月二一日締結の「時間外労働および休日労働に関する協約」第三条二項に違反し無
効である。右協約第三条一項によれば「郵政省の各機関が時間外労働をさせようと
するときはあらかじめ本人に通知する。」とあり、その第三条二項によれば「前項
の通知は原則として時間外労働については四時間前とする。」とある。しかるに本
件各超勤命令は、時間外労働開始時間の直前になされたものであり、右第三条二項
に反する。
(三) さらに前記協約の運用に関して、静内郵便局においては労使の交渉の結
果、時間外労働の命令をなす場合には、事前に「超過勤務・夜間・祝日勤務の命令
簿・整理簿」と題する書類中、承認印という部分に命令を受けた本人の承認印を押
捺することになつていた。しかるに被告ら主張の各原告は、右約定に基き前記命令
簿に印を押すことを要求したにもかかわらず拒否されたものであり、右約定に違反
する超過勤務命令は無効である。
3 第3ないし5項は争う。
五 被告ら(原告らの積極主張に対する反論)
1 いわゆる特例休息について
イ 原告らが主張するとおり、「勤務時間および週休日に関する協約付属覚書別表
第二」では「所属長が業務の運営上支障がないと認めた場合に限り、所定の休息時
間もしくは特例による休息時間のうち一五分を勤務時間の終に置くことができ
る。」と定められている。
 しかし、右のような休息時間は、所属長の作成する服務表(郵政省就業規則第五
八条、前掲付属覚書一八項)により所属職員に周知するものであるところ、静内郵
便局における服務表(昭和四二年九月五日作成)では、午後の休息時間を勤務時間
中に設ける旨定めており、「勤務時間の終りにおく」旨の定めはない。そしてこの
服務表では、原告らに対する終業時刻を午後三時三〇分と定めているのであるか
ら、原告らがこの終業時刻以前に無断退庁したことが勤務欠如にあたることは明ら
かである。
ロ 静内局において原告らのように配達業務に従事する職員は配達途次に随時休息
をとつているのが実情である。しかも前記のとおり同局では休息時間を勤務時間の
終りにおくという就業規則(服務表)の定めもなかつたのであるから、原告らが恣
意的に退庁時間を早めることは違法であるにもかかわらず、同局ではこのような事
態がままみられた。このような事態は、原告ら所属組合員の恣意により、使用者側
の意思を全く無視して一方的になされてきたもので、労使双方の意思に合致する正
常な労働慣行といえるものでは決してなく、速かにこの違法状態を終熄させること
が職場秩序の回復のため必要とされていたのである。
ハ なお、仮に休息時間が勤務時間の終りにおかれていた場合(この場合の休息を
特例休息という)を想定しても、その休息時間の始期が退庁時刻となることはあり
得ず、あくまでも職場における休息がなされるべきであり、その休息時間内に職務
を行う必要が生じれば、就労しなければならない。即ち休息時間は、職場における
拘束時間なのであつて、就労義務から解放された退庁時間とは異なるのであり、こ
の点からみても休息時間即退庁時間とする原告らの主張は失当である。
2 超勤命令について
イ 原告らの時間外労働義務は、時間外労働協約および郵政省就業規則に基き発生
するものである。
(一) 時間外労働協約
(1) 郵政本省は、時間外労働につき、全逓中央本部との間において「時間外労
働および休日労働に関する協約」(いわゆる中央協約であり、労基法三六条に基く
協定ではない。)を締結しているところ、右協約第二条一項で「郵政省はやむを得
ない場合に限り、職員に時間外労働または休日労働をさせることができる。」と規
定している。そして、右協約のこの規定は、その文言に徴しても、使用者たる郵政
省に時間外労働を命じうる権限を付与したものであり、反面、職員の時間外労働義
務を規定したものというべきである。
 郵政省における労働協約は、労働条件の基準を定めたものであるが、それは同時
に労働条件そのものを定めたものである。ちなみに、例を勤務時間にとれば、職員
に適用される勤務時間の長さ、勤務の種類、始業終業時刻等は、職員の勤務する局
所別、職種別、担務別に規定されており、まさに労働条件そのものとして規定され
ているのである。
したがつて、このような労働協約の規定によつて、ただちに職員について所属長の
時間外勤務命令に従うべき義務が生ずるものといわなければならない。
 なお、いわゆる中央協約の締結のみでは労基法上の刑事免責の効果を生じないた
め、全国に点在する郵便局を一事業所として(ただし、特定郵便局については数局
ないし一〇数局を一単位としている。)、全逓の協定締結単位である支部(本件紛
争当時は、北海道のみは分会とされていた。)との間においていわゆる三六協定を
締結していることはいうまでもない。
(2) 前記協約第四条一項は、時間外労働の通知を受けた職員又は全逓の機関は
これに対して異議の申立を行うことができる旨を定め、これが可能な場合を具体的
に列挙しているが、その事由は極めて狭く限定されている。また、その第四条二項
は、この異議申立のあつた場合は、郵政省および全逓双方の機関において協議し、
善処するものとすると定めている。
 この異議申立の制度は、職員はこの協約又は就業規則によつて時間外労働命令に
従う義務があることを前提とするものであることは明白である。なぜならば、もし
も職員が時間外命令に従う義務はなく、時間外労働はその職員の同意がなければ命
じ得ないとするならば、時間外労働をしたくない職員は同意を与えなければよいの
であつて、異議申立というような特別の制度を設ける必要性は全くないからであ
る。
 時間外労働義務が命令によつて発生するからこそ、そのような義務を課すことが
明らかに相当でない場合(右協約第四条一項は、職員が自己の血族等を看護する必
要のあるとき、職員の健康状態が時間外労働の実施に困難なとき等を定めてい
る。)には、異議申立という手続により右の義務を免除することを認めたのであ
る。
 また同様に、右協約第二条が、時間外労働は「やむを得ない事由のある場合に限
り」させることができるとしているのも、職員は右に述べた同協約第四条に定める
場合を除いては、時間外命令には従う義務があるからこそこれを発し得る場合を明
確にしているのである。
 このように協約全体の趣旨からみても、右時間外労働協約が締結されている場合
は職員には時間外労働の義務が存することが明らかとなる。
 したがつて、右協約第四条一項の事由に該当しないのにもかかわらず、恣意的に
時間外勤務命令を拒否することは許されないというべきである。
(二) 郵政省就業規則
郵政省就業規則第六六条は時間外労働に関し、次のように定めている。
第六六条 職員は次の各号の一に該当する場合においては、それぞれ当該各号の規
定するところにより、週休日に勤務を命ぜられ、又は時間外勤務を命じられること
があるものとする。
一 労基法第三六条の規定による協定を締結したとき当該協定の定めるところによ
る。
二 省略
 そして、一般に就業規則は当該事業場においては法的規範としての性格を認めら
れるに至つているが、これは右就業規則についても例外ではない。
 すなわち、使用者に就業規則の作成義務を課した労基法第八九条は、労働時間、
賃金等の基本的労働条件については、これを就業規則の絶対的必要記載事項として
おり、これら基本的労働条件に関する就業規則の定めは、それが法令および労働協
約に牴触しない限り、当該労働者が右労働条件に合意したか否かにかかわりなく、
労働条件として個々の労働者に適用されることは、同法第九三条が労働条件を定め
た就業規則に直律的効力を認めていることからも明らかである。
 また最高裁も、就業規則の法的性格について「就業規則は、当該事業場内での社
会規範たるにとどまらず、法的規範としての性質を認められるに至つているものと
解すべきであるから、当該事業場の労働者は、就業規則の存在および内容を現実に
知つていると否とにかかわらず、また、これに対して個別に同意を与えたかどうか
を問わず、当然にその適用を受けるものというべきである。」(大法廷昭和四三年
一二月二五日判決、民集二二巻一三号三、四五九頁)として、その法規範性を肯認
しているのである。
 したがつて、就業規則の法的性格が右に述べたものである以上、就業規則もまた
時間外労働の義務を定めたものであるというべきであるから、この点に関する原告
らの主張も失当である。(同旨判決、横浜地裁川崎支部昭和四五年一二月二八日、
福岡高裁昭和四〇年一一月一日、広島高裁昭和四八年七月二〇日)
ロ 「時間外労働および休日労働に関する協約」によつて時間外労働をさせる場合
は、原則として四時間前に本人に通知すべきものであるが、時間外労働をさせるべ
き緊急の事態が発生したようなときは、四時間前に通知することが不可能であり、
前記協約もこのような異例の場合にまで、四時間前の通知を要求する趣旨でないこ
とは明らかである。
 本件において四時間前という原則によらず、原告らに超過勤務を命じたのは、い
ずれも当日完配し得べき量の郵便物を配達しに行つたのにかかわらず、帰局の際相
当数持戻るという予測しえない事態が生じたためであつたから、前記協約の趣旨に
反するものではない。
ハ 次に時間外勤務命令は、命令権者からの告知を相手方に了知せしめれば足りる
ものであつて、特段の要式行為ではないから、告知方法が口頭又は書面のいずれに
よるかを問わない。そして該命令が相手方に了知されれば、相手方はこれに服する
義務を負うのであり、相手方において該命令に同意するとか、承認するとかの意思
表示の後に服従義務が発生するのではないのである。
 原告らの主張する超過勤務命令簿に、本人の印を押捺させるのは、右の承認等を
求める趣旨ではなく、超過勤務手当を支給する際、超過勤務に従事した事蹟を保存
するための事務処理に過ぎない。また静内郵便局において、超過勤務を命ずる際、
本人の承認を必要とするような特段の約定も、慣行も存在しない。
六 原告ら(再抗弁)
1 訴外i局長代理が昭和四二年一一月二二日午後三時二〇分ころ発した超過勤務
命令はその後同訴外人により撤回されているものである。
2 被告静内郵便局長がなした本件各戒告、訓告処分は懲戒権の濫用である。
イ 特例休息制度の制定経緯、とくに勤務時間協約の締結時において郵政省がいわ
ゆるはみだしの一五分につき将来とも従来の実態通りに実施することを約束してい
た事情、静内郵便局においては少くとも本件が発生するまで一〇年以上にわたり早
帰りをしてきた実績、昭和四二年郵政省発行の書籍において同省が自認していると
おり、この件については種々の問題があり、労使間では未だ結着がついておらずい
ずれにしても将来労使の交渉で妥協をつけなければならないとされていたことなど
の諸事情を総合すれば、利害の対立する一方が他方に対して自己の見解を固執して
一方的に不利益を加えることは信義則上許されず、ひいては権利の濫用であるとい
わざるをえない。
ロ 一定の要件のもとで時間外労働義務があるかどうかについては諸説があり判例
においても確定したものが未だ存在しない事情、残業は八時間労働制の例外的な措
置であつて時間短縮がさけばれている今日の状況ではますます労働者の健康を守る
必要性が認められること、労働者の保護を強化する政策的な見地などを総合すれ
ば、労働者の残業拒否を理由に懲戒処分をすることは懲戒権者の裁量権を逸脱した
ものである。
七 被告ら(再抗弁に対する認否)
1 第1項の事実は否認する。
2 第2項は争う。
第三 証拠関係(省略)
       理   由
一 請求の原因(一)、(二)の1、(三)の事実は当事者間に争いがない。
二 抗弁1について
1イ 昭和四二年一一月四日原告e、同a、同f、同c、同dが午後三時二〇分こ
ろに、同月七日原告e、同a、同b、同dが午後三時一七分に、原告gが午後三時
二五分に、同月一〇日原告f、同g、同b、同dが午後三時二五分に、それぞれ静
内郵便局から退庁したことは当事者間に争いがない。
ロ 同月一二日の退庁時刻について
 証人hの証言によつて成立を認める乙第二二号証の一一および証人kの証言によ
つて成立を認める乙第二四号証の三によれば、同日原告eを除くその余の原告ら
が、午後三時一五分に静内郵便局から退庁したことが認められ、原告eを除くその
余の原告らの本人尋問の結果中、右認定に反する部分はこれを措信せず、他に右認
定を妨げるに足りる証拠はない。
ハ 同月一九日の退庁時刻について
 証人lの証言によつて成立を認める乙第二三号証の三および証人hの証言によつ
て成立を認める乙第二二号証の一四によれば、同日原告a、同g、同b、同c、同
dが午後三時一五分に静内郵便局から退庁したことが認められ、原告a、同g、同
c、同dの原告本人尋問の結果中、右認定に反する部分はこれを措信せず、他に右
認定を妨げる証拠はない。
2 ところで被告らは、午後三時三〇分までは勤務時間であつてそれ以前に退庁す
るときは勤務欠如となる旨主張し、それに対し原告らは午後三時一七分以後は特例
休息時間であつてしかも勤務を要しないと主張するのでこの点につき判断する。
イ 原告らの始業時間が午前七時二五分であること、原告らの労働時間が一日につ
き拘束八時間五分であることについては原告らが自から主張するところであつて当
事者間に争いがない。したがつて原告らの終業時間は午後三時三〇分であるものと
いうべきである。
ロ ところで、原告らは勤務時間終了前の一三分間は協約上の特例休息であつて勤
務を要しないと主張する。
 証人m、同n、同oの各証言(証人n、同oについては後記の信用できない部分
を除く)、その成立に争いがない甲第五号証の二および五、第七号証の二、第一二
号証、第一三号証、乙第一号証、第四四号証の三、第四八号証の三、原本の存在と
その成立に争いがない甲第七号号証の三、乙第三二ないし四二号証、第四三号証の
二、原本の存在には争いがなく証人nの証言によつて成立を認める甲第六号証を総
合すれば以下の事実が認められる。
(一) 昭和二八年一月一日以前における郵政職員の勤務、休憩、休息の各時間に
ついては次のとおりの定めがあつた。
(1) 給与法第一四条において、「職員の勤務時間は休憩時間を除き、一週につ
いて四〇時間を下らず、四八時間をこえない範囲で人事院規則又は人事院の承認を
得て各庁の長が定める。」旨規定されていた。
(2) さらにこれを受けて人事院の承認を得たうえ昭和二五年一〇月九日郵給第
四六六号「服務時間実施要綱」が制定されたが、それによれば官庁執務時間服務
(昭和二四年一月一日総理庁令第一号第一項による服務をいう)については、日曜
日は勤務を要しない日とされ、月曜日から金曜日までは午前八時三〇分から午後五
時まで(但しその間に三〇分の休憩時間を置く)、土曜日は午前八時三〇分から午
後零時三〇分までが勤務時間とされ(したがつて労働時間は一日八時間、一週四四
時間と定められていたわけである。)、休息時間については勤務四時間の中に一五
分とされ、さらに休憩時間については毎四時間の所定勤務の後に三〇分とされてい
た。
(二) しかるところ、昭和二七年七月にいたり、公共企業体等労働関係法(以
下、公労法という。)が改正され、昭和二八年一月一日郵政職員にも公労法ひいて
は労基法が適用されることとなつたため、従前の法律の適用が除外され労働条件に
つき疑義が生じた結果、郵政省と全逓とは昭和二八年一月一日いわゆる暫定協約を
締結し、その第一条において「従前の法律の適用を除外された労働条件は、昭和二
七年一二月三一日において適用されていた法令の規定する取扱いおよび従前の慣行
による。但し職員の労働条件に関する協約等が締結されたときはその定めるところ
による。」と定め、第二条において「この協約は暫定的なものであるから、郵政省
および全逓は、職員の労働条件の改善を図る目的で誠意をもつて速かに労働協約締
結のために交渉を行う。」旨定めた。
 従つて、右暫定協約の締結により終業時刻がどのようになつたかとの点について
は、①昭和二七年一二月三一日において適用されていた法令の規定する取扱いおよ
び従前の慣行に従うのであるから終業時刻も従前どおり平日は午後五時、土曜日は
午後零時三〇分であるとする考え方と、②労基法の適用の結果、休憩時間は勤務途
中に四五分を設けることとされ、かつ勤務時間についても従前と同様なのであるか
ら平日の終業時刻は一五分延長され午後五時一五分になるとする考え方がありうる
わけであるが、本件全証拠によるも当時勤務時間の短縮がなされたことは認められ
ず、しかも右暫定協約を締結せざるを得なかつたのはまさに労基法(その三四条一
項により休憩時間が四五分となり、従前の三〇分より一五分延長された)が適用さ
れたためであることをあわせ考慮すれば右②の考え方を取つたものと見るのが相当
である。
 なお証人nは、右暫定協約締結の際、休息時間を勤務時間の終りにつけることに
より労使間で従前と同様の時間に退庁できるとの約束ができていた旨証言するが、
休息時間を勤務時間の終りに置くという便法が取り上げられたのは後記認定のとお
り昭和二八年六月一日付で制定された郵政省就業規則に伴う指導通達が初めてであ
ること、なされたと称する右約束について書面が作成されている様子も認められな
いこと、前記暫定協約が勤務時間の短縮について何ら触れていないことなどを考慮
すれば、右の証言はとうてい措信できない。
(三) その後郵政省は、労基法に基づき就業規則を制定することとしたが、制定
前にこれを全逓に提示して意見を求めたところ、全逓は昭和二八年五月二九日付全
逓総第六二一号をもつて郵政省に対し意見を表明し、同時に「勤務時間に関する協
約案」を添付して勤務時間に対する考え方を明らかにした。右協約案によれば、①
一日の勤務時間が四時間を超える場合は三〇分の休憩時間を勤務の途中に設ける
(第三条)、②勤務時間四時間につき一五分以上の割合で勤務時間の一部を休憩時
間とする(第四条)、③職員の勤務は日勤々務と交替性勤務の二種類とする(第五
条)、④日勤々務者の拘束時間は平日は午前八時三〇分から午後五時までの八時間
三〇分、土曜日は午前八時三〇分から午後零時三〇分までの四時間とする(第六
条)というものであつた。(ところで右④の要求はいわゆる日勤々務者に関するも
のであり、交替性勤務についてその要求がなかつたことは③の要求と比較して明ら
かである。)
 郵政省は昭和二八年六月一日に前記全逓の意見を徴したうえ就業規則を制定した
が、それによれば勤務時間は一日八時間、一週四四時間、休憩時間は勤務途中に四
五分、休息時間は勤務四時間につき一五分とされたが、右休息時間については、能
率を維持し且つ保健と安全のため勤務中に設けられる時間であつて、勤務時間に含
まれるものと規定された。そして右就業規則は昭和二九年二月一日から施行される
こととなつた。
 それに対し全逓は、昭和二八年八月一七日付で郵政省に対し要求書を提出し、そ
のうち勤務時間等に関しては前記協約案と同旨の要求をなしたが、それに対し郵政
省は同年一〇月五日付で勤務時間等に関しては右就業規則に定めるとおりに実施す
る旨を主張した。
 ところで同年一二月五日、郵政省は右就業規則の取扱いにつき、同月二八日付郵
人管第四二九号をもつて同規則の解釈、運用についての指導通達を発出したが、休
息時間関係については「休息時間(特例による休息時間を含む)の割り振りについ
ては、所属長が実情に応じて定めることとする。但しこの通達に定めるもののほか
勤務時間の始又は終においてはならない。」、「一般の特例 勤務時間が六時間を
こえ八時間以内の場合においては、所属長が業務の運営上支障がないと認めた場合
に限り、所定の休息時間もしくは特例による休息時間のうち一五分を勤務時間の終
りに置くことができる。」と指導し、運用の如何によつては午後五時で退庁できる
ようにして、退庁時刻に関する前記全逓の意見を容れようとしたのであつた。これ
が本件で問題となつているいわゆる特例休息と呼ばれるものである。
(四) しかしながら全逓は、勤務時間および退庁時刻等に関する右就業規則の規
定に同意せず、日勤々務者の退庁時刻を労基法適用前と同様午後五時としようと
し、労基法の規定も考慮したうえ、従来午前八時三〇分から午後五時までの拘束八
時間三〇分のうち休憩時間を三〇分、休息時間を三〇分とすることを主張していた
のを、拘束八時間三〇分のうち休憩時間四五分、休息時間三〇分を置くことを主張
した。(これは実働時間の短縮を意味することに他ならない。)
 右の要求については労使間で交渉が行なわれたが合意に至らず、結局全逓は昭和
二九年五月二八日に至り公共企業体等中央調停委員会に調停を申請し、同年九月一
日同調停委員会から調停案が提示されたが労使ともにこれを受諾しなかつたため調
停は不調に終り、やむなく全逓は同年一〇月五日公共企業体等仲裁委員会に対し仲
裁の申請を行つたが、仲裁申請事項には休息時間の問題を含めず拘束八時間三〇分
の中に休憩時間四五分を置くことを右申請事項としたものであつた。しかし右仲裁
委員会は昭和三〇年四月一六日付をもつて、就業規則において休憩時間を従前の三
〇分から四五分に延長したことにより生ずる一日の拘束時間八時間四五分は現行ど
おりとするとの仲裁をなし、これにより右の労使紛争は一応の終結をみるに至つ
た。(なお拘束八時間三〇分の中で休憩時間四五分を置けとの主張が日勤々務者を
対象としたことは前記調停申請の際提出された調停申請書記載の申請事項(五)、
(六)、(八)を比較検討すれば明らかである。)
 ところで現実の問題としては、前記調停申請前の昭和二九年五月六日に開催され
た郵政省と全逓との交渉において、全逓側が一日拘束八時間三〇分の中で休憩四五
分、休息三〇分を与えるべきであると主張したのに対し、省側が「(就業規則の中
では一日拘束八時間四五分の中で休憩四五分、休息三〇分を与えるように規定して
いるが)、実際は午後の休息を勤務時間の終りにつけているので五時に帰つている
ではないか」と答えているとおり、日勤々務者については一般的に前記特例休息が
とられており、その特例休息がとられている場合には右の休息時間の開始とともに
退庁することが許され、かつ超過勤務による残業手当等についても、右休息時間の
開始時刻から計算する取り扱いがなされていたのであつた。
(五) その後郵政省と全逓は前記暫定協約の趣旨に従い、労働条件に関する労働
協約を締結すべく交渉を続けることになつたが、昭和三二年一二月五日の団体交渉
において日勤々務の始終時刻につき「従来の実態どおりでゆく」との妥結がなさ
れ、それを受けて昭和三三年四月一五日「勤務時間および週休日等に関する協約」
および「同付属覚書」が締結され、次のように定められた
(休息時間)
第二条一項……勤務時間中には、職員の能率を維持し、かつ保健と安全のため、勤
務中に休息する時間(以下「休息時間」という。)を設ける。
二項、休息時間は、原則として、勤務四時間中に一五分を勤務の途中に設ける。
(以下省略)
(別表第二)休息時間の特例
一、一般の特例
 勤務時間が六時間をこえ八時間以内の場合においては、所属長が業務の運営上支
障がないと認めた場合に限り、所定の休息時間もしくは特例による休息時間のう
ち、一五分を勤務時間の終りに置くことができる。(但書省略)
 ところで、右の「実態どおりゆく」とは、一般的に特例休息制度が普及し、実際
の運用(右特例休息制度の活用)によつて一日の拘束時間が八時間三〇分とされて
いることから、今後もそのような取り扱いをしようということに他ならない。
 以上のとおり認められ、右認定に反する証人n、同oの証言の各一部はこれを措
信せず、他に右認定を妨げるに足りる証拠はない。
ハ 以上のとおりであるとすれば、原告ら主張のように特例休息時間が存在すると
いうだけで、郵政省側がいわゆる「はみだしの一五分」に関し、無条件で退庁を認
めていたとすることはできず、各事業場においてはたして右の特例休息が具体的に
設けられていたか否かについて考察しなければならない。そこで本件紛争当時の静
内郵便局についてみるに、証人lの証言によれば、右の特例休息を設けるか否かは
静内郵便局の所属長たる局長がいわゆる服務表を作成する際、休息時間のとり方を
記載することによつて明示することとなつていたことが認められるところ、同証人
の証言によつて成立を認める乙第一三号証およびその成立に争いがない第三〇号証
の二によれば(右乙第一三号証は昭和四二年九月一二日から同年一一月四日まで、
右乙第三〇号証の二はそれ以後に適用された服務表である。)、原告らに対し許さ
れていた休息時間は、勤務の途中に手すき時間を利用して二八分とされていたこと
が認められ、右認定に反する証拠はなく、右の特例休息制度が設けられていたと認
めることはできない。
 以上のとおりであつて、本件においては特例休息制度が設けられていなかつたの
であるから勤務時間の終りに休息時間をとることは許されず、原告らの拘束時間は
原則どおり午後三時三〇分までであるといわざるを得ないので、前記原告らの主張
はその理由がない。
二 次に原告らは、一〇年以上にわたつて早帰りの慣行が定着し原告らはそれに従
つたにすぎないと主張し、証人p、同q、原告eを除くその余の原告らは、いずれ
も右主張に副う供述をするが、証人lの証言および弁論の全趣旨によつて成立を認
める乙第一一号証の一、二、八、一〇を総合すれば、昭和四一年一〇月l局長が静
内郵便局に赴任して以来、同局職員の中には勤務時間を守らないものが一部みうけ
られたので業務打合会などにおいて時間厳守を強く命じていたことが認められる
他、原告eの本人尋問の結果中には本件紛争当時に限つて一五分の早帰りをしてい
たように認められる部分もあることにてらせば、前記証人p、同qおよび原告eを
除くその余の各原告本人尋問の結果はにわかに措信できず、他に右主張を認めるに
足る証拠はない。
三 抗弁2および再抗弁1について
1イ 昭和四二年一一月一三日について
 証人hの証言および同証人の証言によつて成立を認める乙第二二号証の一二、証
人kの証言によつて成立を認める乙第二五号証の六、証人lの証言、原告aの本人
尋問の結果(但し後記の信用できない部分を除く)を総合すれば、抗弁2のイの事
実が認められ、右認定に反する原告aの本人尋問の結果は措信しえず、他に右認定
を妨げる証拠はない。
 なお昭和四二年一一月一三日訴外h局長代理が原告aに対して口頭で超過勤務を
命じたこと、当日同原告に持戻り郵便物があつたことは当事者間に争いがない。
ロ 昭和四二年一一月一四日について
 証人hの証言および同証人の証言によつて成立を認める乙第二二号証の一三、証
人rの証言によつて成立を認める乙第二五号証の七、証人lの証言、原告e、同
a、同g、同b、同dの各本人尋問の結果(各原告の本人尋問の結果についてはい
ずれも後記の信用できない部分を除く)を総合すれば、抗弁2のロの事実が認めら
れ、右認定に反する原告e、同a、同g、同b、同dの各原告本人尋問の結果は措
信しえず、他に右認定を妨げる証拠はない。
 なお昭和四二年一一月一四日、訴外h局長代理が口頭により、原告e、同a、同
g、同b、同dの各原告に対し超過勤務を命じたことおよび同原告らに持戻り郵便
物があつたことは当事者間に争いがない。
ハ 昭和四二年一一月二二日について
 証人hの証言によつて成立を認める乙第二二号証の一五および一六、証人rの証
言によつて成立を認める乙第二五号証の八、原告b、同c、同f、同dの各本人尋
問の結果(各原告の本人尋問の結果についてはいずれも後記の信用できない部分を
除く)を総合すれば以下の事実が認められる。
 訴外i局長代理は、昭和四二年一一月二二日午前一一時一七分ころ、静内郵便局
郵便外勤室において調査の結果同日の一号便で配達すべき郵便物中市内全区にわた
り相当の未配達郵便物があることを発見し、市内一区担当の訴外j、同二区担当の
原告b、同三区担当の原告c、同四区担当の原告f、同五区担当の原告dに対し、
「一号便の持戻りは二号便に組込み、正規の勤務時間内に完配できない場合は、二
時間の範囲内の超過勤務により配達するよう」命じたが、原告fにおいては一五九
通、同bにおいては六一通、同cにおいては五一通、同dにおいては四九通の持戻
りがあつたため、午後三時一〇分すぎころ、前同所において、前記原告四名に対し
口頭で前同様超過勤務により配達を完了するように命じたところ、同原告らは口々
に「命令簿に判を押さないと超勤しない」旨申し立てたので、同局長代理は、「命
令は口頭でも文書と何ら変わるものではない。重ねて超勤を命ずる。応じなければ
処分されることがある」と述べて再度超過勤務を命じた。それに対し原告cは「超
勤するから命令簿を出してくれ」と申し向けたところ、同局長代理は「命令簿は関
係ない。超勤しなさい。」と重ねて命じ、同原告がこれに応じなかつたところ、同
局長代理は更に「こんなこととやかくいうのであればしなくてもよいから帰りなさ
い。」と述べた。そこで同原告らは事故郵便物の処理をすませた後午後三時三〇分
ころ同局を退庁した。
 以上の事実が認められ、右認定に反する原告b、同c、同f、同dの各本人尋問
の結果は措信しえず、他に右認定を妨げる証拠はない。
 なお訴外i局長代理が、原告f、同b、同c、同dに対し口頭で超過勤務を命じ
たことおよび当日同原告らに持戻り郵便物があつたことは当事者間に争いがない。
 ところで原告らは、訴外i局長代理が発した右超過勤務命令はその後同人が撤回
したと主張し、前記認定の事実によれば、同局長代理が「こんなこととやかくいう
のであればしなくてもよいから帰りなさい。」と述べたことも認められるが、右発
言のなされた経緯は前記認定のとおりであり、右に照らせば同訴外人の前記発言は
超勤拒否に対する単なる感情の表白にすぎないものと認められるから、未だ撤回の
意思表示とは認めることはできず、他に原告らの主張事実を確認しうる資料はな
い。
2 ところで被告らは時間外労働義務はこれを内容とする労働協約および就業規則
に基き使用者の指示命令のあるときはこれによつて生じるものと主張し、これに対
し原告らは、右労働協約、就業規則は無効であり、時間外労働義務は、労働者のそ
の都度の承諾によつてのみ生ずるものであると主張するのでこの点につき判断す
る。
イ 本件各原告が郵政職員であり、郵政職員については、昭和二八年一月一日から
労基法が適用されていることは前示のとおりである。ところで、右労基法は労働者
の最低労働条件を定めたものであり、労基法により定められた労働条件よりも不利
な労働条件を労働者に課することは原則として許されないものといわなければなら
ない。
ロ さて労基法は労働者の労働時間に関し、その三二条一項で一日八時間、一週四
八時間をこえる労働をさせることを禁じているから、郵政職員に対して一日八時
間、一週四八時間以上の労働を課する如き労働契約は労基法に反するものというこ
とができる。このことは労働者がその自由な意思に基いてなしたものとしても同様
であり、又使用者からのその都度の申込につきこれに承諾したものとしても同様で
あるといわなければならない。
 しかしながら、労働時間に関しては労基法自身がその三六条において一日八時
間、一週四八時間を超えて労働がなされる場合のあることを予想しているところで
あり、従つて、労基法の趣旨からして、かかる労働条件につき、労働組合が使用者
と対等の立場に立ち、かつ自由な意思によつて使用者と協約を締結した場合には、
それが合理的な内容のものであるかぎり、たとえ労基法に牴触する協約であつたと
しても直ちに無効とはいえないと解するのが相当である。
 しかし、右のように労基法と異なる定めをした労働協約が無効ではないとして
も、右協約からただちに労働者が時間外労働義務を負担するにいたるか否かは別問
題である。
 けだし、労働組合は時間外労働の条件については使用者との団体交渉により労働
協約を締結することはでき、その効果としてそれが各個の労働者に対しても規範的
効力を及ぼすものというべきではあるが、それは労働条件といういわば労働義務の
枠組を設定するに止り、それ以上に各個の労働者に時間外労働をなすべき義務自体
をも負担させるものではないというのが相当であるからである。従つて、各個の労
働者が時間外労働義務を負担するにいたる根拠は、あくまで、その意思表示にある
ものというべきであり、しかるときは右労働協約の存在を前提とし、これに副う就
業規則および労働契約の存するときは、ここにはじめて各個の労働者は時間外労働
義務を負担するにいたるものということができ、しかして必ずしもその都度の合意
による必要はないものと解するのが相当である。
ハ ところで前掲甲第五号証の二およびその成立に争いがない同号証の三によれ
ば、郵政省と全逓は昭和三三年四月一五日前示のとおり「勤務時間および週休日等
に関する協約」を締結し、勤務時間について一日八時間、一週四四時間とすること
の合意がなされたが、さらに翌昭和三四年一二月二一日「時間外労働および休日労
働に関する協約」(以下時間外協約という)を締結し、前記「勤務時間および週休
日等に関する協約」に定める時間をこえて就労する場合の原則について合意がなさ
れ、その第二条に「甲(郵政省)は、やむを得ない事由のある場合に限り、職員に
時間外労働または休日労働をさせることができる。」旨、第三条において「甲の各
機関が、前条により時間外労働または休日労働をさせようとするときは、あらかじ
め本人に通知する。前項の通知は原則として時間外労働については四時間前、休日
労働については前日の正午までにこれを行う。」旨、さらに第四条には「前条によ
り時間外労働または休日労働の通知を受けた職員に左の事由があるときは、本人ま
たは甲の機関に対応する乙(全逓信労働組合)の機関は異議の申立を行うことがで
きる。(異議事由については省略)」旨の各規定が設けられるに至つたことが認め
られ、右認定を妨げる証拠はない。
 そこで前示観点からすれば、前記時間外協約は一応労働組合対郵政省という対等
の立場で締結されたものであり、かつ右協約を締結することが労働組合に強制され
ていたわけではなく、しかも右時間外協約は郵便事業の特殊性により時間外労働が
必要かつ不可欠であることを考慮し、やむを得ない場合に限りこれを認めるもので
あつて合理的な合意であることは明らかであるので、たとえ労働時間について労基
法に牴触する部分があつたとしてもこれを直ちに無効と解さなければならないもの
ではない。
 更に成立に争いのない乙第四七号証の一ないし四によれば、昭和三六年二月二〇
日郵政省就業規則が定められ、そこにおいて右協約に副う旨の規定が設けられてあ
ることが認められる。そしてなお、その成立に争いがない乙第二〇号証によれば、
昭和四二年一一月一三日静内郵便局長lと全逓日胆地方支部長sとの間で「時間外
労働および休日労働に関する協定」(いわゆる三六協定)が締結され、そこにおい
て殊に、「被告静内郵便局長は、郵便の業務が著しくふくそうして利用者に不便を
与えると認められるときおよびその他急速に処理を要する業務の渋滞を防止するた
めやむを得ないとき等特定の場合には、所属職員に労基法第三二条もしくは第四〇
条に定める労働時間を延長することができることおよび右時間外労働を命じ得る時
間数は昭和四二年一一月一三日から同年一一月三〇日までの間において一日二時
間、期間中一五時間とする」旨の規定が設けられていることが認められ、右認定を
妨げる証拠はない。
 しかして原告らが右労働協約および就業規則と異る労働締結を結んだ証左はな
く、弁論の全趣旨によれば、かえつて原告らは右就業規則のもとでこれを容認して
就労していたことが認められる。そして、本件各超勤命令が出されたのは、前記認
定のとおり被告ら主張の各原告が多数の郵便物を持戻つたためであり、これは前記
時間外協約第二条にいうやむを得ない場合(同条二項一号によれば郵便、為替、貯
金、保険、年金、電信および電話の各業務がふくそうして利用者に不便を与えると
認められるときはやむを得ない場合に該当する。)であるということができる。
 また本件各超過勤務命令のうち昭和四二年一一月二二日以外の命令は就労時間の
四時間前に通知がなされなかつたことは前記認定のとおりであるが、前記時間外協
約第三条においても通知時間に関しては原則を定めたものであり、あらかじめ予測
しえない事態が生じたような場合にまで右原則を貫く必要はないものと解すべきと
ころ、前記各超過勤務命令がなされるに至つた経緯については前記認定のとおりで
あり、使用者側があらかじめ予測することは不可能であつたと認められるので、そ
のような場合にまで就労四時間前の通知を必要と解するのは不合理であり、右各命
令が就労四時間前になされなかつたとしても、適法と解すべきである。
 以上の事実に基けば、本件各超勤命令は適法なものであり、原告らはこれにより
時間外労働義務を負うにいたつたものといわなければならない。
ニ さらに原告らは、静内郵便局においては労使交渉の結果時間外労働命令を発す
る場合は、事前に「超勤々務・夜間祝日勤務の命令簿・整理簿」と題する書類中の
承認印欄に命令を受けた本人の承認印を押捺することになつていたと主張するが、
右労使交渉がなされたことや、右原告ら主張の約定がなされたことを認めるに足る
証拠はなく、かえつて証人kは、原告ら主張の約定など存在していなかつた旨を証
言するところである。
 またその成立に争いがない乙第一八号証の二によれば、郵政省は昭和三九年六月
二五日付人事局長通達(郵給第三四二号)により、時間外勤務命令を発した場合は
その都度勤務時間管理員に対し超過勤務命令簿にその月日・時間数を記入するよう
命じていたことが認められ、各原告らが、その原告本人尋問の結果中において前記
命令簿・整理簿に時間外労働を命じられたものが承認印を押していたことを供述し
ていても、それは前記通達に基づいてなされていたものと認めるのが相当であり、
前記原告らの主張はその理由がない。
四 処分の適法性について
 以上の次第であつて、原告らには被告ら主張の勤務欠如および超過勤務命令違反
の事実があるから、被告静内郵便局長が勤務欠如回数・時間・命令拒否回数等を考
慮したうえ、原告a、同b、同c、同dに対して右各原告らの前記認定の各行為が
いずれも国家公務員法第八二条各号に該当するものとして戒告処分に付し、またそ
の余の原告に対して前記各原告らの非違行為よりもその非違程度が軽微であるとし
て郵政部内職員訓告規程(その成立に争いがない乙第二一号証の二)に定める訓告
をなしたことは適法であり、何らの違法もないといわざるを得ない。(なお原告f
につき、昭和四二年一一月四日、同月一〇日における勤務欠如が訓告理由とされて
いないことは被告らの主張するところである。)
 なお原告らは懲戒権の濫用を主張するが、各原告について前記認定のとおりの非
違行為が認められ、かつその処分内容も戒告処分や何ら不利益な取扱いを受けない
訓告処分であつて、処分自体著しく重いとは認められないのであるから、たとえ原
告ら主張の各事情を考慮したとしても所論の濫用があつたと認めることはできな
い。(原告ら主張の事情のうち、静内郵便局において一〇年以上にわたつて早帰り
の慣行があつたとの点は前記のとおりこれを認めることはできず、またなるほど前
掲甲第七号証の二によれば、特例休息を含む勤務時間一般の問題について全逓側と
交渉してきた郵政省職員訴外m自身、その著書「勤務時間規程解説」の中で「どう
も甚だあいまいな取り扱いであるが、最近この問題をもつと明らかにしようという
動きがあるようでもあり、早晩、はつきりした取り扱いが定めなければならないも
のと考える。」旨著述していることが認められるけれども、仔細に右の文章を検討
すれば、「この問題」とは一般の特例制度が設けられている場合休息時間の開始と
同時に退庁することができるか否かという問題をさしているのであつて、原告ら主
張のように当該事業所において特例休息制度が具体的に設けられていると否とにか
かわらず退庁することができるか否かの問題について論じたものではないことが認
められるから、右の事情を懲戒権の濫用の判断にあたつて考慮する必要はない。)
五 結語
 以上のとおりであつて原告らに対してなされた各戒告、訓告処分はいずれも適法
であり、勤務欠如をした原告らは労務を提供しないのであるから、原告らに対し賃
金を支払うべきいわれはなく(支払われなかつた賃金額の算出については原告らは
明らかに争わない。)、また原告らに対して慰謝料を支払う理由もないというべき
である。
 よつて原告らの本訴請求はすべてその理由がないので棄却することとし、訴訟費
用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条、第九三条を適用し
て、主文のとおり判決する。
(裁判官 磯部喬 太田豊 末永進)
<18717-001>

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛