弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件抗告を却下する。
         理    由
 一、 本件抗告の要旨は、抗告会社たる合資会社伊藤金物店は、無限責任社員
A・有限責任社員抗告人B・有限責任社員CことCの三名から成るものであるが、
Aは昭和二十九年七月一日死亡により退社したので、抗告会社は無限責任社員の全
員が退社した結果となつて即日解散した。そこで抗告人Bは有限責任社員Cに対
し、会社継続の同意を求めたが、同人はこれに同意せず、かえつて会社の解散登記
申請をなしたいとの希望を述べた結果商法第一四七条第九五条の規定により右不同
意の日である昭和二九年一二月二四日退社したものとみなされたので、Bは、新た
にDを無限責任社員に加入させ出資全額を出資させ、同年一二月二五日熊本地方法
務局免田出張所に合資会社継続の登記申請をなしたところ、同出張所は昭和三〇年
一月一四日申請却下の決定をなした(疏第一号証参照)ので、抗告会社は右却下決
定取消等の訴訟を熊本地方裁判所に提起し(疏第二号参照)、同裁判所の注意によ
り熊本地方法務局長に異議の申立をなした(疏第三号参照)。以上のように、抗告
会社は昭和二九年七月一日一旦法定の解散をしたが疏第二・三号証のようにこれを
継続する必要があり、内部関係においては既に適法に会社を継続しているので、有
限責任社員Cに対しては、会社の継続をもつて対抗しうるものといわなければなら
ない。他方抗告会社はいまだ解散登記を経了せず現に熊本地方裁判所に解散登記手
続履行請求の訴訟が継続中である(疏第四号証の一・二参照)から、原審が昭和三
〇年三月九日附で抗告会社の清算人として弁護士那須六平を選任したのは違法であ
る。よつてその選任決定を取り消すとの裁判を求めるというのであつて、疏第一号
証から第五号証(四号証は一・二)を提出した。
 二、 しかしながら法は会社清算の適正及び迅速を期するため、会社の清算を裁
判所の監督に属せしめ(非訟事件手続法第一三六条の二・第一三五条の二五参
照)、その監督の徹底と清算の迅速処理を図るため清算人の選任(又は解任)の裁
判に対しては不服を申し立てることを禁じている(同法第一三七条)。けだし裁判
所が適法正当と認めてなした清算人選任の決定に対し不服の申立を許せば、清算事
務の渋滞をきたすことは明らかであつて、法の所期する目的にもとるからである。
もつとも裁判所のなす選任決定も時にあるいは不当なものがないとは限らないの
で、同法第一九条第一項は当該選任決定をなした裁判所に職権によるその取消・変
更の裁判をなし得る途を開くと共に、重大なる事由あるときは利害関係人に清算人
を解任する裁判を請求し得る権限を認めている(商法第一三二条第二項)ので、清
算人選任の決定に対し不服の申立を許さないからといつて、不当に利害関係人の権
利を制限するものとはいえないのである。すなわち、本件抗告は非訟事件手続法第
一三七条の規定に違反する不適法な抗告であるから、これを却下すべきである。
(少しく附言すれば、記録によると合資会社伊藤金物店は抗告人ら主張のように、
三名の社員ら成る合資会社で定款に基き無限責任社員Aと有限責任社員Cの両名に
おいて会社業務を執行していたところ、Aは昭和二九年七月一日死亡したので、同
会社は商法第一六二条第一項本文の規定により解散したため、Cにおいて法定清算
人となつた(商法第一六四条参照)のであるが同人は抗告人Bの申請により熊本地
方裁判所人吉支部の昭和三〇年二月三日附仮処分決定によつて業務の執行を禁止さ
れたため、清算人の職務を行うとができなくなり、他に法定または選任の清算人が
ないので、利害関係人たるCの請求により原裁判所は弁護士那杉<要旨第一>六平を
前記会社の清算人に選任したことが明らかである。しかして裁判所が合資会社の清
算人を選任し得る場合は法定されていて(商法第一四七条により準用さ
れる第一二二条・第一三八条・第一四〇条・一四二条・一三八条・第一四一条・一
四二条・一三八条)前段説示のように無限責任社員の全員が退社したことによつて
会社が解散し、同法第一六四条の規定による清算人が存在せず又はその職務を行い
得ない場合には非訟事件手続法第一三六条の二・第一三五条の二五・商法第一四七
条・第一二二条・第一三八条等の規定に照らし、利害関係人は裁判所に清算人の選
人を請求し得るものと解せねばならない。従つて本件において原審が利害関係人C
の請求により清算人を選任したのは相当である。しかるに抗告人らは、BがCに
し会社継続の同意を求めたのに対し同意を拒んだので同人は商法第九
五条の規定に準じ不同意を表示した昭和二九年一二日二四日退社したものとみなさ
れたので、BはDを無限責任社員に加入させて会社を継続させたと主張するのであ
るが、本件において見るように無限責任社員の全員が退社したため合資会社解散の
効果を生じた場合に会社を継続するには残存有限責任社員の一致をもつてなすこと
が必要であつて(商法第一六二条参照)、この場合同法第一四七条による第九五条
第一項は準用されないものと解すべきである。けだし第九五条は、存立時期の満了
その他定款に定めた事由の発生とか総社員の同意という共に各社員が解散に同意
し、あるいは予めこれに同意したものと認められてもやむを得ないとすべき場合、
すなわち各社員は残余財産の分配をもつて足ることに同意し、またはこれに満足す
べき場合であるから、会社企業の維持尊重の立場から法は会社継続に同意しない社
員に退社を擬制して持分の払戻請求権を与えたのであるのに対し、第一六二条第一
項の場合は、異種社員の退社という残存社員にとつては通常予見しない、また残存
社員の意思とかかわりのない事由(第八四条・第八五条・第九一条参照、第八五条
一・二項と残存社の一致による同条六号の場合は例外)によつて解散の効果をきた
すのであるから、もし、この場合にも第九五条第一項が準用されるとの見解をとれ
ば、会社継続に同意しない残存社員は退社員(異種社員でしかもその退社によつて
解散が招来されたのである)と等しく退社したものとみなされるという甚だしく不
合理な結果をきたすのであつてわが国法の解釈として採用し難い見解といわなけれ
ばならない。なおDが抗告会社の無限責任社員たる資格を有しないことは以上の説
示に徴し明らかであろう。
 よつて主文の通り決定する。
 (裁判長判事 桑原国朝 判事 二階信一 判事 秦亘)

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