弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1被告Y及び被告Zは,原告Aに対し,連帯して金552万212
5円及びこれに対する平成16年2月25日から支払済みまで年5分
の割合による金員を支払え。
2被告Y及び被告Zは,原告Bに対し,連帯して金236万935
6円及びこれに対する平成16年2月25日から支払済みまで年5分
の割合による金員を支払え。
3被告Y及び被告Zは,原告Cに対し,連帯して金236万935
6円及びこれに対する平成16年2月25日から支払済みまで年5分
の割合による金員を支払え。
4被告Y及び被告Zは,原告Dに対し,連帯して金236万935
6円及びこれに対する平成16年2月25日から支払済みまで年5分
の割合による金員を支払え。
5被告Y及び被告Zは,原告Eに対し,連帯して金236万935
6円及びこれに対する平成16年2月25日から支払済みまで年5分
の割合による金員を支払え。
6原告らの被告Y及び被告Zに対するその余の請求をいずれも棄却す
る。
7原告らの被告Xに対する請求をいずれも棄却する。
8訴訟費用はこれを3分し,その1を被告Y及び被告Zの負担とし,
その余を原告らの負担とする。
9この判決は,第1項ないし第5項に限り,仮に執行することができ
る。
事実及び理由
第1請求
1主位的請求
(1)被告らは,原告Aに対し,連帯して2541万2103円及びこれに対す
る平成16年2月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)被告らは,原告Bに対し,連帯して635万3025円及びこれに対する
平成16年2月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3)被告らは,原告Cに対し,連帯して635万3025円及びこれに対する
平成16年2月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4)被告らは,原告Dに対し,連帯して635万3025円及びこれに対する
平成16年2月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(5)被告らは,原告Eに対し,連帯して635万3025円及びこれに対する
平成16年2月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2予備的請求
(1)被告らは,原告Aに対し,連帯して1114万8782円及びこれに対す
る平成16年2月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)被告らは,原告Bに対し,連帯して278万7195円及びこれに対する
平成16年2月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3)被告らは,原告Cに対し,連帯して278万7195円及びこれに対する
平成16年2月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4)被告らは,原告Dに対し,連帯して278万7195円及びこれに対する
平成16年2月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(5)被告らは,原告Eに対し,連帯して278万7195円及びこれに対する
平成16年2月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
Fは,普通自動二輪車(以下「原告車両」という。)を運転していたところ,
被告Xの蹴ったサッカーボールの影響で転倒し(以下「本件事故」という。)
て負傷し,その後死亡した。
本件は,Fの相続人である,原告A,原告B,原告C,原告D及び原告E
(以下,原告ら5名を併せて,「原告ら」という。)が,主位的請求として本
件事故によってFが死亡したことを理由とし,予備的請求として本件事故によ
ってFに後遺障害が残存したことを理由として,被告X,被告Xの父親である
被告Y及び被告Xの母親である被告Z(以下被告Yと併せて「被告両親」とい
い,被告ら3名を併せて,「被告ら」という。)に対し民法709条に基づき,
又は,被告両親に対し,民法714条1項に基づき,損害の賠償を請求する事
案である。なお,被告Xがサッカーボールを蹴った場所が小学校の校庭であっ
たため,同小学校を設置・管理するW市が,被告らに補助参加している。
1前提事実
前提となる争いのない事実等(証拠を掲記したもの以外は,各当事者間に争
いがないか,又は弁論の全趣旨により容易に認められる。以下「本件前提事
実」という。)は,以下のとおりである。
(1)当事者
Fは,大正7年3月14日生まれの男性であり,本件事故時85歳であっ
た。原告Aは,Fの妻であり,原告B,原告C,原告D及び原告E(以下,
原告B以下4名を併せて「原告子ら」という。)は,Fの子である。
被告Xは,平成4年3月3日生まれの男子であり,本件事故当時11歳で
あった。被告Yは被告Xの父親であり,被告Zは被告Xの母親である。
(2)本件事故の発生(甲1及び弁論の全趣旨)
ア発生日時平成16年2月25日午後5時16分ころ
イ発生現場愛媛県W市a町bc番地(本件事故発生当時の住居表示は,
愛媛県R郡a町大字bc番地である。以下「本件事故現場」と
いう。)
ウ原告車両普通自動二輪車(a町d)
運転者F
エ事故態様被告Xが,本件事故現場付近のa小学校(当時はa町立)の
校庭(以下「本件校庭」という。)でサッカーのフリーキック
の練習をしていたところ,同被告の蹴ったサッカーボールが校
庭から本件事故現場に飛び出し,折から同所を走行してきた原
告車両に当たるかその走行に影響を及ぼし,原告車両が転倒し
た。
(3)Fの傷害及び治療経過
Fは,本件事故後,左脛・腓骨骨折,左手関節打撲,皮膚剥離創及び左膝
擦過傷を負ったと診断され,以下のとおりの入院治療を受けた(甲2,5,
7,8。枝番号を含む。以下同じ。)。
アS病院
平成16年2月25日から同年7月22日まで
なお,Fは,この間,U病院において,治療を受けている。
イT病院
平成16年7月22日から平成17年7月10日まで
(4)Fの死亡
Fは,T病院に入院中であった平成17年7月10日,誤嚥性肺炎を原因
として死亡した。
2争点
(1)事故態様及び被告らの責任の有無
(原告らの主張)
ア主位的主張
(ア)被告Xの責任
道路に近い校庭でフリーキックの練習をすれば,ボールの蹴り方次第
で,ボールが校庭から道路に飛び出し,道路を走行中の単車に衝突し,
単車を転倒させて運転者を負傷させる危険性のあることが通常予見で
きるから,同練習をする者は当然,この危険を予見し,結果を回避す
べき義務を負う。
ところが,被告Xは,上記義務を怠り,漫然とサッカーボールを蹴っ
て道路に飛び出させた過失により,本件事故を発生させた。
被告Xは,事故当時11歳11か月余りの少年であり,その行為の責
任を弁識するに足りる能力(事理弁識能力)を十分に有している。
したがって,被告Xは,本件事故によりFに生じた損害につき,民法
709条の不法行為責任に基づく損害賠償責任を負う。
(イ)被告両親の不法行為責任
被告Xは,本件事故当時小学校5年生であり,被告Xの養育監護を行
う被告両親の教育,しつけ等に強く影響を受けていたことは明らかで
あり,被告両親が,被告Xに対して,サッカーボールを蹴る際にはボ
ールが道路に飛び出さないよう気をつけなければならない等の教育,
しつけを行っていれば,本件事故の発生は防止できたはずである。
このように,被告両親の監督義務違反と被告Xの不法行為により生じ
た結果との間には,相当因果関係を認めることができるから,被告両
親には,本件事故によりFについて生じた損害につき,民法709条
に基づく不法行為が成立する。
(ウ)そして,被告両親の不法行為は,被告Xの不法行為と共同のもの(民
法719条1項前段)であるから,被告らは,連帯して損害賠償責任
を負う。
イ予備的主張(被告両親の監督責任)
仮に,被告Xに責任能力が認められない場合でも,被告両親は,同Xを
監督すべき法定の義務があるものとして,同Xの不法行為により生じたF
の損害につき,民法714条1項の監督者責任に基づく損害賠償責任を負
う。
そして,被告両親は,共同して親権を行使する以上,親権の内容をなす
監督教育義務もまた共同して負担する。
したがって,被告両親は,共同の監督者責任違反をしたものとして,連
帯して損害賠償責任を負う(民法719条1項前段)。
(被告らの主張)
ア主位的主張に対し
(ア)違法性の不存在
被告Xら子供が本件校庭で興じていたサッカーボールを用いた遊びは,
格別危険なものではなく,日常,校庭でのこの程度の遊びは当然許容さ
れるべきものである。本件では,たまたま被告Xが普通に蹴ったサッカ
ーボールが校庭外に飛び出してしまったものであるから,法の許容限度
内で許された危険と解すべきであり,違法性はない。
(イ)監督義務の不存在
被告両親には,被告Xに対して,このようにボール遊びが許されてい
る校庭でのボール遊びまでしないように事細かに監督すべき義務はない
から,被告両親に監督義務違反はない。
イ予備的主張に対し
上記ア(イ)と同旨である。
(補助参加人の主張)
ア本件事故発生当時,本件校庭は,補助参加人とは全く無関係の少年
野球チームが,補助参加人の許可を受けて使用しており,被告Xら少
年の動静を監視するなどの管理監督責任を負っていたのは,当該少年
野球チームであり,補助参加人ではない。したがって,補助参加人は,
本件事故につき,何ら責任を負わない。
イ生徒が放課後に校庭で遊ぶことは,それ自体,何ら危険な行為では
なく,これを禁止する理由もない。したがって,被告Xが,本件校庭
でサッカーボールを蹴るなどしていたとしても,補助参加人に対し,
事細かく注意を促すべき義務が課される理由はなく,そのような監視
行為を期待することは不合理というべきである。
(2)本件事故とFの死亡との間の相当因果関係の有無(主位的請求)
(原告らの主張)
アFは,本件事故により転倒した結果,右側頭部に強い衝撃を受け,これ
を原因とする急性硬膜下血腫を発症したため,同人の脳が損傷して痴呆症
状が発現した。そして,Fは,脳の損傷が原因となって,仮性球麻痺が生
じ,これを原因とする嚥下障害により,誤嚥性肺炎を引き起こした結果,
死亡した。
イまた,Fは,本件事故により,左脛・腓骨骨折の傷害を負ったが,骨癒
合が遷延したため,ほぼ寝たきり状態となった。そのため,Fは,合併症
を引き起こしやすい状況になり,死亡するに至った。
(被告らの主張)
Fが,本件事故によって頭部外傷を負ったとの事実,Fに急性硬膜下血腫
が発症したとの事実及びFに本件事故を原因とする脳の損傷により痴呆症状
が発現したとの事実は,いずれも否認する。本件事故発生後,Fは頭部の外
傷について申告していない。また,Fには慢性硬膜下血腫が認められたに過
ぎず,痴呆症状は,受傷前には潜在していた認知症が,入院という環境の変
化によって顕在化したものである。
Fの死亡と,本件事故との間には,相当因果関係は認められない。
(3)Fに残存する後遺障害の程度(予備的請求)
(原告らの主張)
Fの症状は,平成16年7月24日に固定したが,本件事故の結果,脛骨
及び腓骨の両方に仮(偽)関節を残す後遺障害が残存した。Fの後遺障害は,
後遺障害等級7級10号に該当する。
(被告らの主張)
争う。Fには,原告らが主張するような後遺障害は残存していない。
(4)損害
(原告らの主張)
ア主位的請求に基づく損害
(ア)治療費88万6929円
(イ)入院雑費65万2600円
Fは,平成17年7月10日に死亡するまでの間,502日にわたる
入院治療を余儀なくされた。したがって,日額1300円を前提とす
る入院雑費が認められるべきである。
(ウ)付添看護費301万2000円
原告Aは,Fの入院中,毎日同人の付添看護を行っていた。
したがって,日額6000円を前提とする付添看護費が認められるべ
きである。
(エ)付添人交通費43万1720円
日額860円を前提とする,入院期間全日にわたる交通費である。
(オ)葬儀費用150万円
(カ)休業損害534万7193円
Fは,本件事故前心身共に良好な状態であり,なお就労可能性があっ
たから,平成15年賃金センサスを前提に入院期間の休業損害が認め
られるべきである。
(計算式)
388万7900円(平成15年賃金センサス男性労働者・学歴計)
÷365日×502日=534万7193円
(キ)死亡逸失利益529万3764円
Fの死亡逸失利益は,死亡時の平均余命の2分の1である3年間及び
生活費控除率50パーセントを前提に認められるべきである。
(計算式)
388万7900円×2.7232(死亡時の平均余命の半分である
3年に相当するライプニッツ係数)×(1-0.5)=529万37
64円
(ク)入院慰謝料408万円
(ケ)死亡慰謝料2500万円
(コ)弁護士費用462万円
イ予備的請求に基づく損害
(ア)治療費35万9389円
S病院の治療費29万0439円,U病院の治療費3万0970円及
びT病院におけるFの治療費3万7980円の合計額である。
(イ)入院雑費19万6300円
日額1300円及び症状固定日である平成16年7月24日までの入
院期間151日を前提とする入院雑費である。
(ウ)付添看護費90万6000円
原告Aは,Fの入院中,毎日同人の付添看護を行っていた。
したがって,日額6000円を前提とする症状固定日までの付添看護
費が認められるべきである。
(エ)付添人交通費12万9860円
(オ)後遺障害逸失利益592万9016円
Fには,後遺障害等級7級10号に相当する後遺障害が残存した。F
の症状固定時の年齢は86歳であるが,本件事故前は,心身共に良好
な状態であり,なお就労可能性はあったから,症状固定時の平成15
年賃金センサスを前提に,後遺障害逸失利益が認められるべきである。
(計算式)
388万7900円(平成15年賃金センサス男性労働者・学歴計)
×56パーセント(7級に相当する労働能力喪失率)×2.7232
(症状固定時の平均余命の半分である3年に相当するライプニッツ係
数)=592万9016円
(カ)入院慰謝料245万円
(キ)後遺障害慰謝料1030万円
(ク)弁護士費用202万7000円
ウ既払金の填補について
争う。
(被告らの主張)
ア主位的請求に基づく損害について
弁護士費用は不知。その余は,否認ないし争う。
イ予備的請求に基づく損害について
(ア)治療費は認める。
(イ)入院雑費,付添看護費,付添人交通費及び弁護士費用は不知。
(ウ)後遺障害逸失利益,入院慰謝料及び後遺障害慰謝料については,そも
そもFに後遺障害が残存したとの事実自体争う。また,Fは,症状固
定時には他疾患により寝たきりであり,その後1年を経過して死亡し
たことからすれば,労働能力喪失期間が3年間であるとすることはで
きない。
ウ既払金の填補について
原告Aは,361万5299円の恩給を受領し,又は受領することが確
定している。したがって,原告Aが相続した逸失利益に相当する賠償金及
び恩給額については,損益相殺がされるべきである。
第3争点に対する判断
1争点(1)(事故態様及び被告らの責任の有無)について
(1)本件前提事実,証拠(甲1,乙1ないし3,原告D本人)及び弁論の全趣
旨によれば,以下の事実が認められる。
ア被告Xは,平成4年3月3日生まれの男性であり,本件事故当時11歳
11か月であった。Fは,大正7年3月14日生まれの男性であり,本件
事故当時85歳11か月であった。
イ被告Xは,平成16年2月25日午後5時ころ,W市立(本件事故当時
はa町立)a小学校の校庭(本件校庭)において,友人達とともにサッカ
ーボールを用いて,ゴールに向かってフリーキックの練習をしていた。
ウFは,原告車両に乗車して,本件校庭の南側の溝を隔てた場所にある東
西方向に通じる道路(以下「本件道路」という。)上を東から西に向けて
走行していた。
エ被告Xらがフリーキックの練習をしていたゴールは,本件道路に比較的
近い場所に,道路と並行して位置しており,同被告らは,本件道路側に向
かって,フリーキックの練習を行っていた。
オ被告Xが,平成16年2月25日午後5時16分ころに蹴ったボールが,
本件校庭内から門扉を超えて本件道路上に飛び出した。そのため,折から
本件道路の門扉付近を走行していたFが,ボールを避けようとしてハンド
ル操作を誤るなどして,本件道路上に転倒した。
(2)以上認定の事実によれば,本件事故当時,被告Xがフリーキックの練習を
行っていた場所と位置は,ボールの蹴り方次第では,ボールが本件校庭内か
らこれに接する本件道路上まで飛び出し,同道路を通行する二輪車等の車両
に直接当て,又はこれを回避するために車両に急制動等の急な運転動作を余
儀なくさせることによって,これを転倒させる等の事故を発生させる危険性
があり,このような危険性を予見することは,十分に可能であったといえる。
したがって,このような場所では,そもそもボールを本件道路に向けて蹴
るなどの行為を行うべきではなかったにもかかわらず,被告Xは,漫然と,
ボールを本件道路に向けて蹴ったため,当該ボールを本件校庭内から本件道
路上に飛び出させたのであるから,このことにつき,過失があるというべき
である。
(3)しかしながら,被告Xは,本件事故当時11歳の小学生であったから,
未だ,自己の行為の結果,どのような法的責任が発生するかを認識する能力
(責任能力)がなかったといえる。
したがって,本件事故によりFに生じた損害については,被告Xは民法7
12条により賠償責任を負わず,親権者として同被告を監督すべき義務を負
っていた被告両親が,民法714条1項により賠償責任を負うというべきで
ある。
2争点(2)(本件事故とFの死亡との間の相当因果関係の有無・主位的請
求)について
(1)本件前提事実,証拠(甲2,3,7ないし9,28,原告D本人)及
び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
アFの本件事故当時の生活状況
Fは,本件事故当時は,愛媛県R郡(現W市)a町be番地の自宅で原
告Aとともに生活し,家の裏の畑で野菜を育てたり,山でみかんを育てた
りしており,移動の際には普通自動二輪車である原告車両を運転しており,
約2週間後には,満86歳を迎えるところであった。
イS病院における治療状況
(ア)Fは,本件事故の当日である平成16年2月25日,S病院に救急
車で搬送された。Fには,左下腿に擦過傷や腫脹があり,左手に皮膚
剥離創が認められたので,左手関節及び左下腿についてX線検査が行
われたところ,左脛・腓骨骨折が認められたため,オルソグラスによ
る固定が行われた。また,Fには,上記のほか,左下顎にも傷があっ
たが,これに対しては,消毒のみが行われた。
S病院では,Fは,本件事故によって,左脛・腓骨骨折,左手関節
打撲,皮膚剥離創,左膝擦過傷の傷害を負ったと診断され,これらの
傷害の治療のため,平成16年2月25日から同年7月22日までの
149日間,同病院に入院した。また,Fはこの間,同年2月26日,
同年3月3日,同月17日,同年4月7日,同月28日及び同年5月
26日の6日間は,U病院整形外科で検査及び加療を受けた。
(イ)Fには,高血圧症等の既往症があり,血液凝固を抑制する作用等の
ある薬剤の投与を受けていたが,Fの入院当日に作成された「入院
時・日常生活自立度および褥瘡状況把握シート」(甲7:6頁)では,
「障害自立度(寝たきり度判定)」及び「痴呆性自立度(痴呆度判
定)」ともに「正常」の欄に○がつけられており,「看護必要度」は,
「1度(日常生活で自立,食餌療法のみ実施)」の欄に○が付されて
いた。また,Fには,S病院に入院中に,意識レベルの低下は認めら
れなかった。
(ウ)Fは,入院翌日の平成16年2月26日午前中に,U病院整形外科
において実施された左下腿の検査の結果,左脛・腓骨の骨折部位の位
置異常が比較的少ないとして,副子固定・荷重禁とする保存的療法が
行われることになった。
(エ)Fは,入院翌日の平成16年2月26日午後9時10分ころには,
足の痛みを訴えるなどしていたが,翌27日午前0時10分ころには
不眠を訴え,同日午前2時02分ころには,オーバーテーブルを押し
ながら廊下を徘徊する等の,夜間せん妄の症状がみられ,同日朝にも,
「痛みはあるけどせわないです」などと支離滅裂な話をする等の症状
がみられた(甲7:110頁)。そのため,S病院の担当医師(以下
「S病院担当医師」という。)は,痴呆(認知症)が思ったよりも強
いとして,Fの家族に対し,Fには痴呆症状の悪化があり,転倒事故
などが起きる可能性が高い旨の説明を行った。
S病院担当医師が同日にFの頭部CT検査を実施したところ,同人
には,本件事故以前からのものと考えられる右慢性硬膜下水腫(血
腫)が存在しており,その内部に高密度な部位があって出血の可能性
があることが判明した(甲7:14頁)。ただし,当時のFの意識レ
ベルは清明で,神経学的な異常所見はみられず,Fの右硬膜下血腫の
量はわずかであり,脳の正中構造の変位も認められず,右側脳室は,
頭頂の一部においてわずかな圧排がみられるのみであった。もっとも,
S病院担当医師は,Fが既往症の治療のために本件事故前に投与を受
けていた薬剤の影響を考慮し,一両日中に症状が悪化するようであれ
ば,水腫・血腫の除去手術が必要になる場合もあると考えていた。
当時のFの両側の大脳半球は,ともに,高齢化によるものとみられ
る脳溝と側脳室の拡大が明瞭で,全般的な脳萎縮が存在していた(乙
12)。
(オ)Fには,その後も徘徊や不穏状態等の症状がみられたものの,平成
16年3月1日に実施された頭部CT検査では,硬膜下血腫の状態に
はほぼ変化がみられなかったことから,血腫の除去を行うことなく,
そのまま経過観察をすることとなった。また,Fは,同月1日からベ
ッドサイドでのリハビリが一旦中止されていたが,同月5日以降には,
再開された。その後,Fの頭部CT検査結果には,特段の変化がなく,
同月15日以降は,リハビリ室でのリハビリが開始された。
(カ)Fの骨折部位は,骨折から3か月余が経過した時点でも仮骨形成が
不良で,平成16年5月29日からは,超音波骨折治療器による治療
が行われるようになり,リハビリは平行棒内で立位をとる程度であっ
た。
(キ)Fの症状は,平成16年6月10日ころまでは安定しており,食事
も摂取できていた。
しかしながら,Fは,平成16年6月11日,突然めまいや嘔気等
の体調不良を訴え,その後,嚥下困難,嗄声,吃逆等の症状がみられ
るようになり,喀痰量も多くなって食事の摂取ができなくなった。そ
のため,Fは,リハビリが中止され,同月24日から,マーゲンチュ
ーブが挿入され,経鼻栄養が開始された。そして,Fは,たびたび嘔
吐したり,マーゲンチューブの自己抜去を繰り返したことから,同年
7月初旬ころから,末梢維持点滴が実施され,口腔内マッサージや嚥
下訓練が開始された。
(ク)この当時,Fの骨折部位の仮骨形成は,依然不良であったものの,
リハビリが中止され,歩行することがなくなったことから,同月11
日,ギブスシーネが除去された。
また,この時点で,Fの頭部CT検査及び胸部CT検査上は,特に
異常な所見はみられなかった。
Fは,妻である原告Aへの依存心が強い状態であり,同原告が日中,
付添をしていると症状も安定し,活気もみられる状態であった。
(ケ)Fは,三男である原告Dの希望により,同原告の居住地である大阪
で治療を受けることになり,平成16年7月22日,T病院に転院し
た。
ウT病院における治療状況
(ア)Fは,平成16年7月22日,T病院循環器内科に入院した。入院時
の傷病名としては,左脛骨骨折のほか,慢性硬膜下血腫,痴呆,嚥下
障害等も含まれていた。
Fは,同月23日,嚥下困難等について,同病院耳鼻咽喉科で診察
を受けた結果,右声帯中等度麻痺による嗄声,喉頭蓋・下咽頭収縮筋
可動不良で仮性球麻痺の状態であり,今後の回復の見込みは少なく,
食事は誤嚥のおそれがあるので,早期に経鼻栄養等を行う必要がある
旨の診断を受けた。
(イ)Fは,平成16年7月24日,左脛・腓骨骨折について,T病院整
形外科において診察を受けた結果,症状固定との診断を受けた(当時
86歳)。Fの症状は,この時点ではX線検査上,骨折線がはっきり
見えている状態で,仮骨形成も多くない状態であったが,下肢の筋力
はある状態であったため,骨折の治癒を待つことなく移動訓練等のリ
ハビリを再開することになった。
(ウ)その後,Fに対しては,嚥下困難に対するリハビリや筋力増強訓練等
のリハビリが行われたが,平成16年12月半ばころ以降,Fは,倦
怠感を訴えるようになった。
(エ)Fには,夜間不穏な状況が認められることがあったものの,その症状
は安定してきており,平成16年11月1日には,原告Aに対し,担
当医師から,退院に向けての話がされ,平成17年1月20日には,
退院待ちの状況となり,Fは,同年2月6日に退院した。
(オ)Fは,平成17年2月15日,前日からの倦怠感を訴え,T病院に
来院し,同月19日,再度入院した。もっとも,その後Fの容体は,
平成17年3月末ころには安定し,退院が検討されていた。
(カ)Fには,平成17年4月9日に右上肢の脱力がみられ,頭部MRI
検査の結果,左頭頂葉に脳梗塞を発症していることが判明し,そのま
ま同病院での入院治療が続けられた。この間,Fには,原告Aへの依
存心の強い状態が継続した。
(キ)その後,Fは頻繁に発熱を繰り返すようになり,誤嚥性肺炎と診断さ
れ,抗生剤の投与が行われたが,徐々に全身状態が悪化し,同年7月
10日午前8時35分に死亡するに至った。
(2)以上認定の事実に基づき,争点(2)について判断する。
ア上記認定事実によれば,Fは,(i)本件事故以前は,自宅で妻と2人
で生活し,野菜やみかんを作り,移動の際には,自動二輪車を運転してい
たものであって,日常生活自立度や痴呆症自立度などは正常とされていた
こと,(ii)本件事故によって,頭部に衝撃があったとは解されないが,
左脛・腓骨骨折等の傷害を負い,その治療のために副子固定,荷重禁とす
る保存的療法がとられ,入院したこと,(iii)入院日の翌日深夜から翌
々日朝にかけて,オーバーテーブルを押しながら廊下を徘徊するなどの痴
呆症状がみられたこと,(iv)入院日の翌々日に実施された頭部CT検査
の結果,本件事故以前からのものとみられる右慢性硬膜下水腫(血腫)及
び高齢化によるものとみられる明瞭な脳溝と側脳室の拡大,全般的な脳萎
縮の存在が確認されたこと,(v)その後,骨折部位の仮骨形成が進まず,
治療が遷延化する中で,嚥下障害等が生じ,いわゆる寝たきりの状態とな
ったこと,(vi)上記嚥下障害は,仮性球麻痺によるものと診断されたこ
と,(vii)痴呆症の症状は,上記(iii)以降も引き続きみられ,平成1
6年7月22日の転院の時点で痴呆との診断を受けていること,(viii)
その後,誤嚥性肺炎を繰り返した結果,全身状態を悪化させて死亡したこ
となどの事情があったといえる。また,証拠(乙9)によれば,仮性球麻
痺は,延髄に病変がなく,皮質中枢や核上路の上部運動ニューロンを含む
脳病変が,多発性,両側性に及んで進行性球麻痺に類似した症状を呈する
ものであり,球麻痺よりも高齢者に多く,性格の変化や知能低下がみられ
る疾病であると認められる。
そうすると,Fは,仮性球麻痺による嚥下障害が発症し,それにより誤
嚥性肺炎を繰り返し,死亡するに至ったと認められるが,本件事故により
直接的に頭部に衝撃を受けて脳病変が発生又は増悪し,これが仮性球麻痺
による嚥下障害の発症原因となったとまでは認められない。
イしかしながら,Fは前記のとおり,本件事故前は,自宅で農作業等をし
て生活を送っていたが,本件事故後は,入院して長期臥床を余儀なくされ,
移動や刺激の少ない生活を送るようになったものであって,生活状況が一
変したといえること,そして,本件事故後は,同事故前にはなかった痴呆
や嚥下障害の症状が生じるようになったこと(痴呆は本件事故の翌日,嚥
下障害は本件事故の約4か月後に生じた)ものである。これらに照らせば,
Fは,本件事故によって頭部に衝撃を受けた事実は認められないものの,
本件事故による他の部位の受傷,事故直後の処置,その後の入院生活とい
う,激変した環境が契機となって,Fが従前有していた脳病変(右慢性硬
膜下血腫及び脳萎縮等)が進行,増悪して仮性球麻痺の症状が発生する機
序をとった可能性を否定することはできない。これらによれば,本件事故
とFの死亡との間には,因果関係が存在するというべきである。
ウもっとも,Fの仮性球麻痺については,本件事故による長期入院等が発
症の契機として寄与したといえることは上記のとおりであるが,根本的に
は,本件事故当時,既に85歳と高齢であったFが有していた素因ないし
既往症である脳病変(右慢性硬膜下血腫及び脳萎縮等)の進行・増悪によ
り発症したものとみるのが相当であり,両者の寄与度を比較すると,後者
の方が前者よりも重いというべきである。
以上に照らせば,Fの損害については,損害の公平な分担の見地から,
民法722条の規定を類推適用して,Fの上記素因ないし既往症を斟酌し
て,治療関係費の一部を除き,その6割を減額することが相当である。
(3)原告らは,Fが本件事故により転倒し,右側頭部に強い衝撃を受け,これ
を原因とする急性硬膜下血腫を発症したため,同人の脳が損傷して仮性球麻
痺が生じ,これを原因とする嚥下障害により,誤嚥性肺炎を引き起こした結
果,Fは死亡した旨主張し,証拠(甲23ないし25,28,原告D本人)
中には,これに沿う部分がある。
しかしながら,上記認定の事実関係に照らせば,本件事故後,Fには意識
レベルの低下は一切認められていない上,Fが本件事故によって,頭部を打
撲したことを認めるに足りる証拠はなく,本件事故前から存在した右慢性硬
膜下血腫の容量が増大するなどしたことを認めるに足りる証拠もない。また,
高齢者においては,従前から脳萎縮等の症状があっても,日常生活を行って
いる限りでは認知症は緩やかに進行することから,その症状が顕在化してい
なかったにもかかわらず,入院等の生活環境の激変により認知症を顕在化さ
せること自体,経験則上少なからず見受けられるところである。以上のよう
な諸事情に照らせば,Fの症状が,頭部打撲による急性硬膜下血腫に起因す
るものであると認めることはできない。
なお,原告らは,FがT病院に転院した直後に,同病院の看護師から,S
病院のサマリーに,Fが頭を打ったときに出血し,その血の塊が神経に影響
して今の嚥下障害の状態になったとの記載があるとの説明を受けており,こ
のことからも,同人が頭部を打撲したことは明らかである旨主張し,証拠
(甲28,原告D本人)中には,これに沿う部分がある。しかしながら,S
病院の診療録はもとより,その他本件全証拠によっても,そのような記載を
的確に認めることはできないから,上記証拠は,にわかに信用することがで
きず,他に原告らの上記主張を認めるに足る証拠はない。
また,原告らは,Fが本件事故で急性硬膜下血腫による脳損傷を受け,脳
血管症を発症し,これに起因する仮性球麻痺による誤嚥性肺炎によって死亡
したとして,同主張を立証するために鑑定の申立てをしている。しかしなが
ら,その内容は,一般的な医学的知見の有無を確認しようとするものか,す
でに原告ら提出の意見書において立証済みの事実の確認等を求めるものであ
り,当裁判所において,上記のとおり判断が可能である以上,上記鑑定を採
用する必要性は認められないというべきである。
(4)他方,被告らは,本件事故と,Fの死亡との因果関係は認められない旨主
張し,これに沿う医師の意見書(乙10ないし13)を提出する。
しかしながら,上記意見書は,外傷による急性頭蓋内血腫の存在を否定し,
これによる死亡の事実は認められない旨を指摘するものに過ぎず,上記
(1)及び(2)の認定を覆すには足りず,他に同認定事実を左右するに足
りる証拠はない。
3争点(3)(Fに残存する後遺障害の程度・予備的請求)について
(1)原告らは,予備的請求として,Fには脛骨及び腓骨の両方に仮(偽)関節
を残す後遺障害が残存した旨主張する。そして,上記2(1)認定のとおり,
本件事故によるFの骨折部位は,骨折から3か月余が経過した時点でも仮骨
形成が不良であり,平成16年7月24日には,X線検査上,骨折線がはっ
きり見えている状態で,仮骨形成も多くない状態であり,症状固定との診断
を受けたものである。そして,証拠(甲30)によれば,原告Dが加入する
傷害保険の保険会社は,Fの傷害を原因とする保険金の算定に当たり,同原
告に対し,後遺障害として左足の偽関節を認定する予定であるとの連絡をし
た事実が認められる。
(2)しかしながら,Fの脛骨及び腓骨の両方に仮(偽)関節が残存しているこ
とを直接裏付ける証拠はなく,むしろ,証拠(甲3)によれば,症状固定時
の他覚症状及び検査結果では,下肢の自動運動は可能であり,膝関節の可動
域制限は認められず,レントゲン写真上骨折部は確認できるものの,異常可
動性や圧痛はなく,骨折は治癒しているとされたことが認められる。
(3)以上によれば,上記(1)認定の事実もこれをもって,原告らの主張を裏
付けるには足りず,他に原告ら主張の事実を認めるに足りる証拠はない。
4争点(4)(損害)について
(1)治療費57万0405円
Fの治療費が,S病院につき29万0439円,U病院につき3万097
0円,T病院につきFの症状が固定した平成16年7月24日までで3万7
980円であることは,いずれも当事者間に争いがない。なお,T病院につ
いては,甲第6号証の1には,請求期間として平成16年7月31日までと
の記載があるが,被告らも,Fの負傷に伴う治療費として原告らが請求する
金額を争っていないことからすれば,上記認定の治療費である3万7980
円は,Fの症状が固定した平成16年7月24日までの治療費として算定す
ることが相当である。
また,証拠(甲6の1ないし16)によれば,Fの症状固定日以降のT病
院における治療費は,52万7540円であることが認められるところ,同
病院において行われた治療は,その大半が仮性球麻痺に起因するものと考え
られる嚥下困難及びこれに伴う症状に関するものであることからすれば,上
記2において認定したとおり,6割の素因減額をするのが相当であるから,
本件事故と相当因果関係が認められる治療費の額は,21万1016円とい
うべきである。
したがって,Fの治療費にかかる損害額の合計は,57万0405円とな
る。
(2)入院雑費37万2580円
1日当たりの入院雑費の額は1300円とするのが相当である。そして,
Fが症状固定の診断を受けた平成16年7月24日までの151日間は,そ
のすべて(19万6300円)が,本件事故と相当因果関係のある入院雑費
であるというべきである。また,上記入院の経過に照らせば,その後の平成
17年7月10日までの339日間分(平成17年2月7日から同月18日
までの退院期間を除いた入院日数である。)の入院雑費については,上記の
とおり素因減額をした後である4割(以下の各損害についても同様)に当た
る17万6280円をもって,本件事故と相当因果関係のある入院雑費であ
ると認めるべきである。
したがって,Fの入院雑費にかかる損害額の合計は,37万2580円と
なる。
(3)付添看護費85万9800円
上記2認定の事実及び証拠(原告D本人)によれば,原告Aは,Fの入院
中,連日病院に看病のために通っていたところ,Fは,本件事故当時まもな
く満86歳と高齢であり,本件事故による傷害によって歩行することが困難
になったが,入院期間中を通じて妻である原告Aに対する依存心が強い状態
にあり,同原告が日中付添をしていると症状が安定し,活気もみられる状態
であった事実が認められる。これによれば,Fの症状固定日までの入院期間
(151日)については,1日あたり3000円の限度で,その後の入院期
間(339日)については,1日3000円を前提にその4割の限度で,本
件事故と相当因果関係のある付添看護費として認めるのが相当である。
したがって,本件事故と相当因果関係のある付添看護費は,85万980
0円となる。
(4)付添人交通費認められない。
上記付添人看護費に含まれるというべきである。
(5)葬儀費用60万円
Fの葬儀費用としては,150万円が相当であるところ,その4割に当た
る60万円が本件事故と相当因果関係ある葬儀費用というべきである。
(6)休業損害認められない。
前記1で認定したとおり,Fは,本件事故当時約86歳であり,みかんな
どは作っていたものの,稼働とまで評価できるようなものではなかったと認
められる。以上によれば,Fについては,休業損害を認めることはできない。
(7)死亡逸失利益137万2064円
証拠(甲21の1ないし3,甲22)によれば,Fは,年額163万70
00円の老齢厚生年金(逸失利益性がないと解される加算金を除く。),年
額10万1800円の通算老齢年金に加え,年額67万9600円の旧軍人
普通恩給の支給を受けており,その合計金額は,241万8400円であっ
たことが認められる。また,死亡時87歳4か月であったFと同年齢の男性
の平均余命が約4年であることについては,当裁判所に顕著な事実である。
そして,Fの収入が年金以外にはなかったと考えられることは,上述のとお
りである。これらを総合すれば,生活費控除率は6割とするのが相当である。
そうすると,上記によって算出されるFの死亡による逸失利益のうち,4割
に相当する部分のみを,本件事故と相当因果関係ある逸失利益として認める
ことが相当である。
以上によれば,本件事故と相当因果関係のあるFの死亡による逸失利益
(民法722条の類推適用による減額後のもの)は,次のとおり137万2
064円(1円未満切り捨て。以下同じ。)となる。
(計算式)241万8400円×(1-0.6)×3.5459(4年間
に相当するライプニッツ係数)×0.4=137万2064円
(8)入院慰謝料350万円
上記のとおり,Fは,本件事故によって入院治療を余儀なくされたところ,
同人の症状固定日までの入院期間は151日であり,その後の入院期間は3
39日である事実が認められる。そして,上記のとおり,症状固定後の入院
治療については,6割の素因減額をするのが相当であること及び本件に現れ
た全事情を勘案すれば,入院慰謝料は,350万円が相当である。
(9)死亡慰謝料1000万円
Fの年齢,本件事故の状況,受傷状況,その後死亡に至るまでの治療経緯,
その他本件に現れた諸般の事情に鑑みれば,Fの死亡慰謝料は,1000万
円が相当である。
(10)弁護士費用及び原告らの相続額
上記(1)ないし(9)の合計額は,1727万4849円となると
ころ,原告らの相続分によれば,原告Aの相続額は,863万7424
円であり,原告子らの相続額は,それぞれ215万9356円となる。
そして,証拠(乙16)及び弁論の全趣旨によれば,原告Aは,平成
17年11月から平成23年4月までの間に合計361万5299円の
恩給(扶助料)を受領した事実が認められるから,同額を原告Aの相続
額から控除すべきである。そうすると,原告Aの残損害額は,502万
2125円となる。
以上の原告らの各損害額を前提とすれば,原告Aの弁護士費用は50
万円が,原告子らの弁護士費用は,21万円が相当であり,原告Aの残
損害額は,552万2125円となり,原告子らの残損害額は,それぞ
れ236万9356円となる。
5結論
以上によれば,原告らの請求は,(i)被告両親に対し,民法714条1項
に基づき,原告Aにつき連帯して552万2125円及びこれに対する不法
行為の日である平成16年2月25日から支払済みまで民法所定年5分の割合
による遅延損害金の支払を,原告子らについては,それぞれ連帯して236
万9356円及びこれに対する前同様の遅延損害金の支払を求める範囲でい
ずれも理由があるからこれを認容し,その余の請求についてはいずれも理由が
ないから棄却し,(ii)被告Xに対する請求はいずれも理由がないから棄却
することとする。
よって,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第15民事部
裁判官新田和憲
裁判官宮﨑朋紀
裁判長裁判官田中敦は,転補につき,署名押印することができない。
裁判官新田和憲

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