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平成26年7月2日判決言渡
平成26年(行コ)第74号保険医療機関指定取消相当処分取消請求控訴事件
主文
1本件控訴を棄却する。
2控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2関東信越厚生局長が控訴人に対し平成24年5月1日付けでした,控訴人が
開設しその後廃止の届出をした診療所である「A」に係る保険医療機関の指
定(関厚発0501第49号)につき取消相当の取扱いとした旨の通知を取
り消す。
第2事案の概要(略語は新たに定義しない限り原判決の例による。以下本判決
において同じ。)
1控訴人は,「A」(本件医療機関)を医療法1条の5第2項に規定された診
療所として開設し,厚生労働大臣から権限の委任を受けた新潟社会保険事務局長か
ら平成15年10月20日付けで保険医療機関の指定(関厚発0501第49号。
本件指定)を受けたが,平成24年2月17日,厚生労働大臣から権限の委任を受
けた関東信越厚生局長から,取消年月日を同年3月1日として健康保険法80条1
項の規定に基づき本件指定を取り消す旨の処分(本件指定取消処分)を受け,本件
指定取消処分の発効前である同年2月28日に,医療法9条1項に基づき,同月2
9日をもって本件医療機関を廃止する旨の届出をした。そこで,関東信越厚生局長
は,同年5月1日付けで,控訴人に対し,「元保険医療機関等に対する保険医療機
関等の指定の取消相当及び元保険医等に対する保険医等の登録の取消相当の取扱い
について」(平成21年4月13日付け保医発第0413001号各地方厚生
(支)局企画調整課長・医療指導課長宛て厚生労働省保険局医療課長通知。平成2
1年医療課長通知)に従い,「本件指定につき取消相当の取扱いとした旨の通知」
(本件通知)をした。
本件は,控訴人が,本件通知は行訴法3条2項の「行政処分」に該当するとした
上で,その取消しを求めた事案であり,被控訴人は,本件通知は処分に該当せず,
本件訴えは不適法であると主張した。そこで,原審は口頭弁論を終結して適法性に
関する中間の争いについて判断することとした(適法と判断する場合は中間判決と
なり,不適法と判断する場合は終局判決となる。)。
2原審は,①本件通知は,通達に基づくもので,法令に基づく行為ではない,
②平成21年医療課長通知は行政上の取扱いの指針にすぎず,再度の保険医療機関
の指定の申請をした際に法律上当然に指定が拒否されるという関係が導かれるもの
ではないから,本件通知は抗告訴訟の対象となる処分には該当しないとして,控訴
人の本件訴えを却下した。
当裁判所も,控訴人の本件訴えは,不適法として却下すべきものと判断した。
3関係法令等の定め,前提事実,中間の争いに係る争点及びこれに関する当事
者の主張の要点は,原判決11頁11行目の「保健医療機関」を「保険医療機関」
と改め,後記4のとおり当審における当事者の補足的主張を加えるほかは,原判決
の「事実及び理由」の「第2事案の概要等」2~4(原判決3頁4行目~12頁
20行目。別紙を含む。)に記載のとおりであるから,これを引用する。
4当審における当事者の補足的主張
1〔控訴人〕
(1)最高裁判所昭和39年10月29日第一小法廷判決(民集18巻8号18
09頁)は,抗告訴訟の対象である「処分」と認められる前提として「法令に基づ
く」ことを要求しているが,これは行政行為がいわゆる公定力を有するところ,
「法令に基づく」行為に限定することで,事実的行為等を除外し,法的効果を有す
る行為に限定する趣旨である。そのため,処分性を判断するに当たっては,当該行
為が,形式的に法令に基づいているかを検討するのではなく,法的効果を有するか
否かという実質的な判断が必要となる。
健康保険法65条3項は,同条1項の保険医療機関の申請があった場合に,保険
医療機関に指定しない事由を定めており,同条3項6号は「前各号のほか,当該申
請に係る病院若しくは診療所又は薬局が,保険医療機関又は保険薬局として著しく
不適当と認められるものであるとき」と定めており,いわゆる「処分逃れ」として
取消処分後効力発生前に医療法9条に基づく廃止届を提出した場合は,現に取消処
分の効力が発生しない以上,健康保険法65条3項1号~5号に該当しないため,
同項6号で対処することになる。
そして,取消相当の通知は,健康保険法65条3項6号に該当することを外部に
明らかにするものであるといえ,実質的には同法65条3項6号を根拠にするもの
である。したがって,本件通知は,「法令に基づく」ものというべきである。
(2)1度保険医療機関の指定の取消処分を受けた者が,廃止届を提出し,処分
から5年経過しない段階で再度保険医療機関の指定の申請をする場合,取消処分の
効果,ひいては健康保険法の趣旨を没却する潜脱的行為であるから,指定されない
処分になるといえる。
健康保険法65条3項は同項各号のいずれかに該当するときは保険医療機関の指
定を「しないことができる」と規定し,条文上,同項各号に該当する場合であって
もなお指定される場合があることを想定しているが,それは,例外的な特段の事情
があり得る可能性を排除しきれないというにすぎず,保険医療機関の指定の申請を
した場合に,再度保険医療機関としての指定がされる可能性が相当程度残っている
わけではない。
また,健康保険法67条は保険医療機関の指定をしないこととするときは,地方
社会保険医療協議会の議を経なければならないと規定するが,諮問機関の答申には
拘束力はないから,諮問手続の存在をもって,指定しないという当初の結論に強い
影響があるとはいい難い。
そうすると,健康保険法65条3項各号に該当すると,法律上当然に指定が拒否
されるという関係がないということはできないのである。
(3)最高裁判所平成17年10月25日第三小法廷判決(裁判集民事218号
91頁)が指摘するように,国民皆保険制度が適用されている我が国において,健
康保険等を利用しないで受診する者はほとんどなく,保険医療機関の指定を受けな
いで診療行為を行う病院がほとんど存在しないことは公知の事実であり,取消処分
を受け,医療法9条に基づく廃止届をしたとしても,現実的に収入がなく生活する
ことが極めて困難であるから,再度保険医療機関の申請をせざるを得ず,再度申請
しても原則として指定されないこととなるのは明らかである。
すなわち,取消相当の通知は,通知を受けた者を,再度申請したとしても,5年
を経過していなければ,保険医療機関の指定を受けることができないという法的地
位に立つことを余儀なくさせるもので,実質的には取消処分と同等の効果をもたら
すといえる。
(4)さらに,段階的な行政行為が予定されている場合,ある行為から最終的な
行為に至ることは,判例上「相当程度の確実さ」という程度の可能性があれば足り,
「法律上当然に」という強い結合関係が認められる必要はない。
再度申請した場合に,原則として健康保険法63条3項6号に該当するとして指
定されないのであるから,「相当程度の確実さ」をもって,指定されないことにな
るといえる。
(5)本件通知は,健康保険法を根拠とするものであり,また,取消処分と同等
の効果をもたらすものであるから,「処分」に該当することは明らかである。
2〔被控訴人〕
(1)保険医療機関の取消処分の効力発生前に当該保険医療機関が廃止された後,
元保険医療機関が再度保険医療機関の指定申請をして,いわゆる「処分逃れ」とな
るような事態が生じた際における処理等について明示的に定めた規定は,関係法令
中に見当たらない。
平成21年医療課長通知は,健康保険法65条3項6号に規定する保険医療機
関の指定を拒否することができる事由に該当するときの判断についてのいわゆる行
政上の取扱いの指針を示したにとどまるものであり,本件通知は,本件医療機関が
取消相当の取扱いを受けたこと及びそのような取扱いを受けた時期を明らかにする
ための運用上の対応にすぎない。
取消相当の通知は,法令上の根拠に基づくものとはいえず,講学上の通達に当た
る平成21年医療課長通知を根拠にするものというほかなく,取消相当とされたこ
とが明らかにされた場合に,再度の指定許可申請が拒否されたとしても,あくまで
も健康保険法65条3項6号等のそのものの効果として拒否されたものにすぎない。
(2)健康保険法67条の「地方社会保険医療協議会の議を経なければならな
い」との規定は,「諮問」とは異なり,行政庁は地方社会保険医療協議会の議決に
従わなければならないことを意味する。これは,厚生労働大臣,あるいは厚生労働
大臣から権限の委任を受けた地方厚生局長の恣意により拒否または病床が制限され
るおそれの生ずるのを防止するためであり,地方社会保険医療協議会の議決に反し
た処分又は議決を求めないでした処分は無効と解されている。
(3)医療機関を廃止した場合は,当該医療機関自体が存在しなくなるから,医
療法9条に基づく廃止届をした保険医療機関が再度保険医療機関の指定申請をする
ことは,保険医療機関の指定の仕組みにおいて予定されていないというべきである。
実際,関東信越厚生局において,自ら医療機関を廃止し,取消相当の通知を受けた
後に再度保険医療機関の指定申請をした例はない。
本件通知は,直接,名宛人の権利義務を形成し又はその範囲を確定するとの効果
を有しているとは認められない。
(4)したがって,「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に当たら
ず,本件訴えは不適法である。
第3当裁判所の判断
1当裁判所の判断は,次のとおり改めるほかは,原判決の「事実及び理由」の
「第3当裁判所の判断」1~3(原判決12頁22行目~17頁11行目。別紙
を含む。)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1)原判決15頁2行目の「そして」~15行目末尾までを改行した上,次の
とおり改める。
1「(4)証拠(乙2)によれば,行政処分を行う前(処分後発効前を含むと解さ
れる。以下同じ。)に保険医療機関等が指定の辞退届を提出している場合
や,保険医等が登録の抹消申出書を提出している場合は,行政処分が行え
ないため(処分後発効前の場合は処分が効力を生じないため),健康保険
法82条2項による保険医療機関等に対する指定の取消し及び保険医等に
対する登録の取消しを行う際の地方社会保険医療協議会に対する諮問は行
わず,「取消処分相当」とする行政上の事務的な対応をすることとして取
り扱ってきたこと,しかし,①再度,元保険医療機関等からの指定及び元
保険医等からの登録の申請が行われた場合に,指定及び登録の拒否を行う
根拠が必ずしも明確でないとの指摘を受ける可能性があること,②実際に
指定・登録の取消しを行った場合と比べ,行政庁としての判断が,客観
的・専門的な観点から,妥当・適正であったことが担保されていないとの
指摘を受ける可能性があること,③「取消処分相当」とした事例について
公表していないことから,結果として処分逃れを容認したのではないかと
の指摘を受けることも考えられることから,平成21年医療課長通知によ
って,地方厚生局として「取消相当」である旨の意思決定を行った上,速
やかに元保険医療機関等及び元保険医等に対し,「取消相当」の取扱いと
した旨の通知を行うこと,「取消相当」となった日から5年を経過するま
での間に,再指定又は再登録の申請等があった場合は,健康保険法65条
3項6号又は71条2項4号に該当するものとして取扱うことなどをする
こととしたことが認められる。これによると,従前から,行政処分を行う
前に保険医療機関等が指定の辞退届を提出している場合等には,地方厚生
局において「取消処分相当」とし,再度の指定申請の際には健康保険法6
5条3項6号に該当するものとする行政上の事務的な取扱いをしてきてい
たものであって,平成21年医療課長通知によって,その内部的な意思決
定を元保険医療機関等及び元保険医等に通知することにしたにすぎない。
そうすると,本件通知は,単に地方厚生局内部における健康保険法65
条3項6号の運用についての内部的な意思決定を通知するものにすぎず,
しかも,その内部的意思決定は処分行政庁が行ったものでもないから,本
件通知を取り消しても,上記規定の運用についての内部的意思決定は影響
を受けず,本件通知の取消しによっては何の法的効果も生じないというべ
きである。
したがって,本件通知が抗告訴訟の対象となる処分には該当しないこと
は明らかである。」
(2)原判決15頁16行目の「3この点,」を次のとおり改める。
1「3仮に,本件通知を取り消すことによって,関東信越厚生局内部における健康
保険法65条3項6号の運用についての内部的意思決定に何らかの影響を与
えることがあるとしても,以下のとおり,本件通知を抗告訴訟の対象となる
処分に該当するということはできない。
(1)」
(3)原判決16頁2行目の「保健医療機関」を「保険医療機関」に改める。
(4)原判決16頁20行目~17頁11行目までを次のとおり改める。
1「(2)最高裁平成17年判決の事案における医療法30条の7の規定による勧
告は,高齢化社会の到来と国民医療費の増大を背景に,医療費増大の抑制
を実際上の目的の1つとし,各都道府県が地域医療計画を策定できるよう
にしたこととの関連で,その地域医療計画を実現するためのものであり,
医療法上の行政指導として定められたものであるが,健康保険法の保険医
療機関の指定の申請がなされたときに,特段の事情がない限り,指定拒否
処分がなされるという仕組みの中で,事実上病院開設を断念せざるを得な
くするという不利益が生じるものであった。
これに対し,本件通知は,医療法上の規定とは直接関係なく,健康保険
法上の診療報酬の不正等を防止するための運営上の措置であり,本来であ
れば,診療報酬の不正等を行った保険医療機関の指定を取り消すところ,
その取消し前に,医療法上の廃止届がなされ,取消しの対象がなくなった
場合においても,上記目的を達成することができるようにするための地方
厚生局の内部的意思決定を通知するものであり,廃止届を提出した元保険
医療機関が将来再度の保険医療機関の指定を申請してきたときの取扱いの
障害をあらかじめ取り除いておくというものにすぎず,行政指導でないこ
とはもちろんのこと,将来確実に保険医療機関の指定の申請があることを
前提としているものでもない。したがって,本件通知は,医療法及び健康
保険法上の複数の行為が相互に組み合わされた一定の仕組みによって,何
らかの不利益が生じるという事態を生じさせるものではない。
2(3)また,最高裁平成17年判決の事例の場合,後の保険医療機関の指定拒
否処分の効力を争うとしたら,相当高額の費用を掛けて病院の建物や医療
設備を整え,医師や看護師を雇うなどしなければならず,巨額の投資をし
た上でないと争えないのであるから,保険医療機関の指定を申請する者の
事実上の不利益は極めて大きい。
これに対し,本件の場合,後の保険医療機関の指定拒否処分の効力を争
う上で,新たに相当の費用を掛ける必要性はなく,再度の保険医療機関の
指定の申請をすればよいだけであり,保険医療機関の指定を申請する者に
最高裁平成17年判決の事例のような特別な不利益が生じることもない。
3(4)以上によれば,本件の場合は,本件通知の段階において,健康保険法6
5条3項各号に規定する事由の存否を争わせなければならない必要性もな
いというべきであり,最高裁平成17年判決とは事案を異にするというべ
きである。
以上によると,本件通知を抗告訴訟の対象となる処分ということはでき
ない。」
2控訴人は,当審においても原審と同様の主張をするが,当審における補足的
主張も含めて,これに理由がないことは,原判決(前記1のとおり改めた後のも
の)の説示するとおりである。
第4結論
よって,原判決は相当であるから,本件控訴を棄却することとし,主文のとおり
判決する。
東京高等裁判所第1民事部
裁判長裁判官福田剛久
裁判官塩田直也
裁判官石橋俊一

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