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H15.5.8 松山地方裁判所平成11年(ワ)第452号損害賠償請求事件
平成11年(ワ)第452号 損害賠償請求事件
判決
主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 被告は原告らに対し,それぞれ100万円を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
第2 事案の概要
   本件は,原告共栄海運株式会社(以下「原告共栄海運」という。)及び原告興進海
運株式会社(以下「原告興進海運」という。また,原告共栄海運及び原告興進海運
を「原告ら2社」という。)が,法人税の確定申告に当たり所得金額を脱漏していた
ので修正申告の手続をしようと今治税務署に相談し,同署職員からいわゆる税務
調査を受けて資料を提出したところ,その資料を基に法人税法違反による臨検・捜
索・差押許可状が交付され,臨検・捜索・差押を受けたことから,上記手続が憲法3
8条,35条,31条,法人税法156条等に違反するとして,国家賠償法1条に基づ
き,原告共栄海運及びその代表取締役である原告A並びに原告興進海運及びそ
の代表取締役である原告B(以下A及びBを「Aら」という。)が,被告国に対し,それ
ぞれ100万円の損害賠償を支払うよう求めた事案である。
第3 前提事実(証拠を挙げていないものは当事者間に争いがない。なお,以下,単に
月日のみを記す場合は平成6年とする。)
 1 当事者等
   原告ら2社は,いずれも肩書所在地に本店事務所(以下「原告事務所」という。)を
置き,砂利採取等を業とする株式会社である。Aは原告共栄海運の代表取締役で
あり,Bは原告興進海運の代表取締役である〔なお,平成6年ころの原告興進海運
の代表取締役はCであった(甲15)。〕。
   原告共栄海運は平成2年2月1日から平成3年1月31日までの事業年度(以下「平
成3年1月期」という。事業年度については,同様に,年度末の年月をもって特定し
て表示する。)及び平成4年1月期につき,原告興進海運は平成2年7月期,平成3
年7月期及び平成4年7月期につき,法人税の確定申告にあたり,いずれも所得金
額を脱漏していた。
 2 今治税務署による税務調査等
  (1) 原告ら2社についての今治税務署への相談
    4月11日,D税理士は,今治税務署にE副署長を訪ねて面談し,一事業年度約5
000万円の売上げ除外をしている会社があること,その会社から修正申告をし
たいとの相談を受けていること,その会社は原告ら2社のことであることを告げ
た。
  (2) 税務調査
    4月12日午前,今治税務署のE副署長,F統括国税調査官及びG統括国税調査
官は,H上席国税調査官及びI国税調査官(以下「H調査官ら」という。)に原告ら
2社の税務調査を指示した。同日昼ころ,E副署長は,D税理士に対し,職員を
原告ら2社に行かせた旨電話で連絡し,同日午後1時30分ころ,H調査官らが
原告事務所を訪れた。D税理士も,Aらから預かっていた,原告ら2社に係る売
上除外の売上帳,手形帳,請求書のほか,売上除外金額の集計表を持参して
原告事務所を訪れ,H調査官らに対し,これらを示した。H調査官らはAらに対
し,売上を除外した方法,売上除外代金の決済方法,売上除外金の所在,使途
及び修正申告をしようとした動機などについて質問した。Aらは,H調査官らの質
問に答え,またその求めに応じ,預金メモ等を示した。
    H調査官らは,原告ら2社について,①総勘定元帳6冊(原告興進海運の平成2
年7月期,同3年7月期,同4年7月期の3冊,原告共栄海運の平成2年1月期,
同3年1月期,同4年1月期の3冊。),②請求書4冊,③売上帳2冊,④手形帳1
冊の各原本を預かって,預かり証(甲11)を作成した。また,⑤除外金額集計表
(交付されたものが原本か写しか争いがある。),⑥預金メモ5枚(交付されたも
のが原本か写しか争いがある。),⑦各預金通帳の1頁目見開き部分の写しの
交付を受けた(①ないし⑦をあわせて,以下「本件資料」という。)。
    H調査官らは,午後3時30分ころ調査を終了し,午後4時過ぎころ,本件資料を
今治税務署に持ち帰った(以上の一連の調査を,以下「本件税務調査」とい
う。)。
  (3) F統括官による高松国税局調査査察部への連絡
    H調査官らは,今治税務署に戻った後,F統括官に対し,原告ら2社が売上を除
外していること,売上除外方法,除外した資金の行方,脱税の動機等の調査結
果を報告した。
    F統括官は,H調査官らから報告を受けた後,高松国税局調査査察部(以下「調
査査察部」という。)査察第1部門のJ総括主査に対し,脱税している原告ら2社
の法人名,脱税金額,関係する金融機関,原告ら2社が修正申告したいと言っ
ている旨を連絡し,また,本件資料のうち,⑤除外金額集計表,⑥預金メモ5枚,
⑦各預金通帳の1頁目見開き部分の写しを,それぞれファックスで送付した。
 3 調査査察部による犯則調査
  (1) 調査嘱託
    調査査察部は,3月23日付で,広島国税局調査査察部長に対し,原告興進海運
を犯則嫌疑者,防府税務署を調査先として,K及び谷口ビル株式会社の課税事
績等の収集を嘱託し,4月7日,その回報を受けた(回報書は4月5日付。乙7,
10。)。
    また,3月24日付で,同じく広島国税局調査査察部長に対し,原告共栄海運を犯
則嫌疑者,広島南税務署を調査先として,宮崎汽船有限会社の直近4年分の確
定申告書外の徴求等を嘱託し,4月8日,その回報を受けた(回報書は4月6日
付。乙8,11。)。
    そして,3月23日付で,東京国税局査察部長に対し,原告興進海運を犯則嫌疑
者,横浜市中区役所を調査先として,Aらの娘L及びその夫Mの住民票の徴求
及び課税事績の収集を嘱託し,4月1日,その回報を受けた(回報書は3月30
日付。乙9,12。)。
  (2) N査察官による調査
    4月12日,調査査察部職員であるN査察官は,今治市役所においてA及びCの
住民票を,波方町役場においてA及びCの戸籍謄本を,松山地方法務局今治支
局において,原告ら2社の商業登記簿謄本を入手した(甲15,55ないし60。こ
れらの書類をあわせて,以下「Aの住民票等」という。)。
  (3) 臨検・捜索・差押許可状交付請求
    4月13日,調査査察部は,原告興進海運を嫌疑者として,臨検場所を原告事務
所,各金融機関とし,高松簡易裁判所に対し,臨検・捜索・差押許可状交付請求
を行い(以下「本件許可状請求」という。),同日,同許可状の交付を受けた(甲1
5参照)。嫌疑事実は,平成3年7月期につき,隠ぺい所得額が6873万円,ほ
脱税額が2577万3000円,平成4年7月期につき,隠ぺい所得額が1億3014
万2000円,ほ脱税額が4880万3000円,平成5年7月期につき,隠ぺい所得
額が6143万1000円,ほ脱税額が2303万7000円とされた(甲16)。
    また,本件許可状請求の際,調査査察部は,F統括官からファックスで送付された
資料のうち,⑥預金メモ5枚のうちの1枚を,波方町農業協同組合を臨検場所と
することの疎明資料として用いた。
  (4) 臨検・捜索・差押
    調査査察部は,4月14日午前9時ころから原告事務所などで臨検・捜索・差押を
行った。なお,本件資料のうち①ないし④については,原告事務所において,い
ったん今治税務署から原告ら2社に返却されたうえで,調査査察部により押収さ
れた。
 4 本件訴訟に至るまで
  (1)平成7年5月22日,今治税務署長は原告ら2社に対して重加算税等の賦課決定
処分をし,同年7月6日,原告ら2社及びAは,法人税法違反被告事件(以下「刑
事事件」という。)について起訴された。
  (2)なお,平成7年10月9日付で,原告ら2社は,国税不服審判所長に対する審査請
求書を作成し,同月12日,これを提出した。審査請求の理由として「請求人の信
頼を保護せずに当該職員はその決定的資料を国税局調査査察部に渡し,その
後犯則調査に移行したことは,信義則違反であり,税務署員の権限の逸脱であ
り,更に国税犯則取締法に規定する犯則調査手続上違法な行為である。」と記
載されている(乙1,2参照)。
  (3)また,平成8年9月5日には,刑事事件においてF統括官の証人尋問が終了し(甲
5の2参照),同年10月17日には,同じく調査査察部査察第1部門O主査の証
人尋問が終了した(甲28参照)。
  (4)平成11年6月22日,原告らは,本件訴えを提起した。
第4 争点
 1 各公務員の行為の違法性の有無
  (1) 原告らの主張
   ア 税務調査と犯則調査を峻別する法理
    (ア)法人税法等に基づく調査,すなわち税務調査と,国税犯則取締法に基づく
犯則事件の調査,すなわち犯則調査とは,調査の目的,手続,組織上の権
限を異にし,前者は純然たる行政手続であるのに対し,後者は実質的に刑
事手続に近い性格を持つから,両者は厳格に区別して行使されるべきであ
り,犯則事実発見の手段として税務調査を利用したり,逆に租税の賦課,
徴収のために犯則調査権限を行使することは許されない。税務調査の結
果を直ちに犯則調査に利用することは,法人税法156条等の禁止するとこ
ろであるし,刑事制裁を背景とする税務調査への応答義務を課しつつ(法
人税法162条2号),その結果を犯則調査に直ちに利用することは,令状
なくして犯則事実の証拠資料を強制的に収集することを認めることになり,
憲法31条,35条,38条に違反する。
      特に,本件においては,重加算税が課されないための要件である自主的修正
申告書の提出(国税通則法65条5項,68条1項かっこ書き参照。これらの
規定を,以下「重加算税免除規定」ということがある。)を納税者側が表明
し,その表明を受ける形で初めて所轄税務署の調査が開始されたという特
殊性がある。このような場合,所轄税務署は,修正申告書の提出を待たず,
上記表明が真摯なものであるかどうかを確認するために質問検査権を行使
することができるが,それは,あくまで重加算税免除規定の適用の可否を検
討するために,その限りで行使されなければならず,調査の過程で収集され
た情報や資料の中に犯則事実の嫌疑にかかわるものが含まれていた場合
でも,これを犯則事件担当の部門である調査査察部に通報したり,資料を提
供することは絶対に許されない。そのようなことを許すならば,重加算税免
除規定の適用を求めて自主的修正申告をしようとする納税者はなくなり同規
定を無意味にしてしまうのみならず,同規定の適用の可否を検討するため
認められたに過ぎない質問検査権を犯則調査のために利用することを認め
る結果となるからである。
  しかも,重加算税免除規定の適用を検討するための質問検査は,一般の
質問検査とは異なり,直接には更正処分を目的とするものではないし,犯
則事実そのものの調査と密接にかかわることが避けられないという特徴が
ある。したがって,そのような質問検査の結果を犯則調査に利用することを
許容すれば,質問検査の応答義務違反という刑事制裁を背景に不利益な
供述を強要し,あるいは令状なくして犯則事実の証拠資料を強制的に収集
することを認めることとなり,一般の質問検査と比べ,憲法31条,38条,3
5条に反する程度がいっそう強いことになる。
(イ) 税務職員が調査査察部へ通報することは,公務員の守秘義務違反の罪
をも構成する違法行為である。税務職員は,国家公務員として一般的な守
秘義務を課せられており(国家公務員法100条1項),さらに各租税法は守
秘義務違反の行為に対して刑罰を加重する(法人税法163条等)。守秘義
務の結果として,税務職員は納税者の秘密を,公務員であると私人であると
を問わず,他の者に漏らしてはならないのである。
   イ しかるに,F統括官及び調査査察部職員は,以下のとおり,違法行為を行った。
    (ア) F統括官がH調査官らをして質問検査権を行使させた行為
      F統括官は,D税理士がE副署長に対して修正申告の決意を表明してきたこと
を知った際,それまで今治税務署は原告ら2社に対する税務調査をしてお
らず,その予定もなかったのに,大型の脱税事案であることから,質問検査
により得られる資料・情報を調査査察部に提供し,同部による犯則調査を
有利に進めることに協力するため,4月12日,H調査官らをして質問検査
権を行使させ,罪証隠滅を防止する目的で本件資料を預からせたものであ
り,この行為は,憲法35条,38条,法人税法156条に違反する。
    (イ) F統括官が,質問検査の結果入手した本件資料・情報を調査査察部に提供
した行為
      F統括官は,H調査官らから報告を受けた後,その内容を調査査察部のJ総括
主査に連絡するとともに,預かった本件資料について調査査察部で検討す
る機会を与えた(F統括官は,質問検査の結果を情報として連絡した事実
と,本件資料のうち⑤ないし⑦を調査査察部にファックス送信した事実のみ
を自認しているが,実際には上記資料のみにとどまらず,本件資料すべて
について,何らかの方法により調査査察部が検討する機会を与えていたも
のである。また,F統括官が初めて調査査察部に連絡をしたのがH調査官
らの報告の後ということも考え難く,H調査官らを原告事務所に行かせる前
の段階で,調査査察部と連絡をとりあっていた可能性が濃厚である。)。
      また,F統括官は,調査査察部に対して,原告ら2社が過去に売上除外などを
手段とする多額の不正計算をしており,そのことを自ら認めた上で修正申
告の意思表明を所轄税務署にしてきたこと,現在修正申告書提出の準備
中であることなどの情報の提供をした。これを受けて,調査査察部は,予定
になかったのに4月13日の本件許可状請求と翌14日の強制調査を決定
した。原告ら2社が強制調査よりも早く修正申告書を提出してしまった場合
は,適正な納税が納税者自身によって自主的に実現されたことになり,査
察調査の目的に照らし,あえて犯則調査をさらにすすめるだけの必要性が
ないとされるのが査察実務の運用だからである。この点で,F統括官の情
報提供の役割は重要であった。
      なお,F統括官からの連絡があった時点で,調査査察部は原告ら2社の登記
簿謄本や役員の戸籍謄本,住民票すら入手しておらず,また,船舶や不動
産など原告ら2社の保有資産の調査もしていなかったから,犯則嫌疑を裏
付ける資料は収集されておらず,上記許可状の嫌疑事実を構成し,疎明す
る資料は存在しなかったものである。
      以上のとおり,F統括官が調査査察部に本件資料・情報を提供した行為は,憲
法35条,38条,法人税法156条に違反するものであり,かつ,その守秘
義務(法人税法163条)に反するものである。
    (ウ) 調査査察部職員が,F統括官から提供された本件資料・情報を本件許可状
請求に用いた行為
      F統括官による調査査察部への本件資料・情報の提供は,前記のとおり憲法
31条,35条,38条,法人税法156条,163条に違反するところ,調査査
察部の職員としては,同資料や情報を,いかなる態様であれ,原告ら2社に
対する犯則調査をすすめるための資料として利用することは,許されないも
のである。しかるに,調査査察部職員は,前記の資料・情報を利用して,修
正申告書の提出がある前に強制調査を実施することを決定し,また本件許
可状請求を行ったのであり,これが違法であることは明らかである。
  (2) 被告の主張
   ア 税務調査と犯則調査を峻別する法理
     一般に,税務調査と犯則調査は,調査の目的,手続,組織上の権限を異にして
おり,更正処分等を行うために国税犯則取締法上の調査権限を用いたり,逆
に,犯則事実の発見のために税務調査を行うことは許されない(法人税法15
6条等)。しかし,適正な税務調査により犯則事件が探知された場合にこれを
端緒として犯則調査が開始されることは何ら憲法35条,38条1項に違反しな
い。
   イ そして,以下のとおり,F統括官及び調査査察部職員の行為には,何ら違法な
点はない。
    (ア) F統括官がH調査官らをして質問検査権を行使させた行為
      本件税務調査が開始されたのは,4月11日のD税理士の説明内容によって,
初めて法人税等の調査の必要があると判断したことによるものである。本件
税務調査の前に,F統括官ら調査担当者と調査査察部職員との間で,本件
税務調査又は犯則調査(内偵調査)に関する連絡はなかったし,F統括官が
当初から犯則調査に協力する目的で本件税務調査を行った事実はない。本
件税務調査において収集した資料も,あくまで法人税等の調査に必要なも
のであった。調査査察部の強制調査が開始された場合に備え,原告らの罪
証隠滅を防止する目的で収集したものではない。
      4月11日におけるD税理士のE副署長に対する説明は,原告ら2社から修正
申告書の提出について相談を受けたという表明に留まり,修正申告の内容
については何らの資料提示もなく,概略的な数字を述べただけで具体性に
欠けるものであった。したがって,同月12日に実施した本件税務調査は,原
告らが主張するような重加算税免除規定の適用の可否を判断するために行
われたものではなく,D税理士の説明から,原告ら2社に多額の申告漏れが
想定されたため,その申告内容を早急に確認すべく実行されたものであっ
て,本件税務調査における質問検査権の行使に違法な点はない。
    (イ) F統括官が,質問検査の結果入手した資料・情報を調査査察部に提供した
行為
      F統括官が,H調査官らから報告を受けた後,J総括主査に電話し,ファックス
で資料を送付したのは,本件税務調査に際して大規模な脱税をうかがわせ
る事実を発見したことから,調査査察部に対して,その旨の情報を提供する
必要があると判断したことによる。脱税行為は適切な課税を妨げ,租税負担
の公平を著しく侵害するものであるから,税務調査に際して脱税となる事実
を発見した場合,調査査察部に通報するのは当然の義務であり,F統括官
は通報等を行うべき立場にあった。このような場合,守秘義務違反の問題は
生じないというべきである。
      なお,本件においては,後述のとおりF統括官がJ総括主査に連絡をした時点
で,既に調査査察部が原告ら2社について犯則調査のための内偵を行って
おり,強制調査の準備を進めていたものであるが,F統括官はそのことを知
らなかった。
    (ウ) 調査査察部職員が,F統括官から提供された資料・情報を本件許可状請求
に用いた行為
      調査査察部は,2月ころから,原告ら2社について脱税容疑で内偵調査をして
いたところ,4月12日夕刻のF統括官の連絡を受けたものであり,前記内偵
調査により得ていた資料と本件税務調査により入手された資料から速やか
に強制調査に着手する必要があると判断して本件許可状請求に至ったので
あって,その行為に何ら違法な点はない。原告らは,調査査察部が予定に
なかった強制調査に着手したのは修正申告を阻止するためであったと主張
するが,そのような事実はない(なお,前記F統括官からの連絡より以前に
調査査察部と今治税務署との間で本件に関する連絡がされたことはなかっ
た。)。また,今治税務署から提供を受けた資料は,その一部を一箇所に対
する本件許可状請求の疎明資料として使用したに過ぎないのであって,調
査査察部は,前記内偵調査により原告興進海運の法人税の脱漏について
隠ぺい所得額を把握し,本件許可状請求をするに足りる疎明資料を収集し
終えていたものである。
 2 各公務員の故意・過失の有無
  (1) 原告らの主張
    F統括官,調査査察部の職員はいずれも前記の各行為が違憲,違法であることを
認識していた。もしくは認識することが可能であった。
  (2) 被告の主張
    仮にF統括官,調査査察部の職員の行為が違法であると評価される場合であっ
ても,前記1(2)で述べたところに照らすと,各人において故意又は過失がないこ
とは明らかである。
 3 損害
  (1) 原告らの主張
    憲法35条,38条,法人税法156条は,課税行政手続と犯則調査手続の峻別・
分離を通じて適正手続を保障し,納税者が質問検査手続において罰則規定の
制裁を背景として答弁や検査を義務づけられ,これに応じた結果を犯則調査の
ために流用されない権利を保護し,法人税法163条も同様に,納税者が質問検
査に応じて答弁し,検査に応じた結果を課税行政手続以外に漏泄されない権利
ないし利益を保護する規定である。納税者は質問検査手続において課税当局
がそれらの規定を遵守することを当然に期待するのであって,原告らが今治税
務署による質問検査権の行使に対して誠実に応答し,すべての証拠資料をすす
んで提供したのは,それがあくまで重加算税免除規定の要件の審査など課税調
査に必要な限りにおいて利用されるに留まり,自らの刑事責任追及に結びつく
犯則調査手続にそのまま提供されることはないと信頼しているからこそであり,
この利益は憲法上の保護にまで高められている納税者の重大な権利,利益で
ある。F統括官と調査査察部職員による前記行為により,原告らの前記権利,利
益は侵害され,甚大な損害(原告ら2社の場合は無形損害,Aらは精神的損
害。)を被った。その損害額はいずれも100万円が相当である。
  (2) 被告の主張
原告らの主張は争う。
    Aらは,本件税務調査の際,H調査官らに本件資料を提供した時点では,刑事責
任を追及されるおそれが全くなくなったとまで認識していたものではないから,原
告らが主張するような信頼に対する侵害があったとは認められない。
    仮に,Aらが刑事責任を追及されるおそれがないと認識し,又は期待していたとし
ても,それは根拠のない事実上のものに過ぎず,法的保護に値するものではな
いから,いずれにしても,原告らに損害は発生していない。
 4 消滅時効の成否
  (1) 被告の主張
    原告らは,国税不服審判所長に対する平成7年10月9日付審査請求において,
本件訴訟におけるのと同様の主張を行っている。
    したがって,遅くとも原告らが審査請求書を作成した平成7年10月9日の時点に
おいては,原告らのいう本件損害を知っていたということができるから,原告らの
主張する違法な事実に係る損害賠償請求権は,そのときから3年を経過した平
成10年10月9日をもって,時効により消滅している。被告は本訴においてこれ
を援用する。
    なお,原告らは,刑事事件におけるF統括官やO主査の証人尋問によってはじめ
て違法行為があることが判明したかのように主張するが,同人らの証言は違法
を認めたものでも,違法があったと誤解させるようなものでもなく,同証言によっ
て違法が明らかとなったといえるものではない。
  (2) 原告らの主張
   ア F統括官がH調査官らをして質問検査権を行使させた行為について
     この行為は,F統括官が犯則調査に協力する目的を有していたこと,調査査察
部と連絡を取った上で質問検査権を行使したこと等が明らかになってはじめ
て違法といえるところ,平成7年10月9日の審査請求書作成の時点ではこれ
らは何ら判明しておらず,刑事事件におけるF統括官の証人尋問において,こ
れらの一部がはじめて明らかになったに過ぎない。したがって,消滅時効の起
算日を問題にするのならば,F統括官の証人尋問が終了した平成8年9月5
日以降とすべきである。
   イ F統括官が,質問検査の結果入手した本件資料・情報を調査査察部に提供した
行為について
     審査請求書作成時点では,この行為がなされたことは推測の域に留まり,ま
た,資料提供をした時期,その方法,提供した資料・情報の範囲などの具体
的事情は全く不明であった。今治税務署長も原告ら主張事実を否認し(甲1,
3),裁決書でも情報提供,資料提供の事実は認定されていなかった(甲2,
4)。ア同様,F統括官の証人尋問によって,はじめて具体的,合理的根拠をも
って加害行為の存在の一部を認識できたものであり,消滅時効の起算日を問
題にするのならば,F統括官の証人尋問が終了した平成8年9月5日以降とす
べきである。
   ウ 調査査察部職員が,F統括官から提供された本件資料・情報を本件許可状請
求に用いた行為について
     この行為は,審査請求書作成の時点では全く明らかになっておらず,刑事事件
におけるO主査の尋問がなされて,はじめてこの事実が判明したものである。
よって,消滅時効の起算日を問題にするのならば,O主査の証人尋問が終了
した平成8年10月17日以降とすべきである。
第5 当裁判所の判断
 1 争点1(各公務員の行為の違法性の有無)について
  (1) 認定事実
    前提事実に加えて,証拠(各項目ごとに記載したもの)及び弁論の全趣旨によれ
ば,以下の事実が認められる。
   ア 原告ら2社につき,修正申告の相談に至る経緯(甲35ないし38,72,乙4,B
本人)
     原告ら2社の売上除外金を定期預金にするなどして管理してきたBは,脱税に
ついて新聞報道等があるたびに不安になっていたが,2月ころ,上記定期預
金のうち,愛媛銀行今治支店に同原告の姪P名義でしていた定期預金が満期
となったことから,書換えのために同支店に赴いたところ,同支店職員から,
高松国税局が来ているので,今は書換えなどはしない方がよいと言われた。
     Aらは,原告ら2社が高松国税局の調査対象になっているかも知れないと不安
になり,3月ころ伊予銀行波止浜支店にも問い合わせたところ,原告ら2社が
対象ではないと思うが調査はあった旨回答を受けた。さらに,4月6日には,
高松国税局の査察が原告興進海運ともう1社を調べている旨の匿名の手紙
を受け取った(乙18の1ないし18の3)ことから,4月7日,AらはD税理士に
相談した。Aは,D税理士に,自首する方法はないかを尋ねたところ,同人か
ら修正申告をする方法があると聞いたため,修正申告をすれば,重加算税の
賦課を免れることができるかもしれないし,法人税のほ脱についても,罪が軽
くなるか,罪を問われなくなるかもしれないなどと考えて,修正申告をすること
にし,4月9日にはD税理士にその旨依頼をした。
     これを受けて,D税理士は,4月11日午前11時30分ころ,今治税務署のE副
署長を訪ね,前提事実2(1)の話をした。
   イ 税務調査の実施(甲5の1,5の2,33ないし38,72,乙3の1,3の2,4)
     E副署長は,4月12日午前9時ころ,F統括官及びG統括官と協議し,事実の確
認などのために税務調査を実施し,今治税務署職員を原告ら2社の本店事務
所に行かせることにした。同日昼ころ,F統括官とG統括官は,H調査官らに原
告ら2社に対する税務調査を指示した。
     そして,D税理士立会いの下で本件税務調査が実施された(前提事実2(2)参
照)。H調査官らはAらに対して供述や書類の提出を執拗に求めたことはなく,
Aらは,H調査官らの質問に対して率直に答え,隠すことなく説明し,帳簿類等
についても提出を拒んだことはなかった。なお,H調査官らは,本件資料のう
ち,①ないし④はいずれも原本を預かったことから預かり証を作成したが,⑤
ないし⑦については,いずれも原本の写し(コピー)をもらい受けたため,預か
り証には記載しなかった。
   ウ 調査査察部による調査(甲5の1,5の2,27ないし32,乙5,6,14ないし1
6。ただし,下記認定に反する部分を除く。)
    (ア) 調査査察部では,2月ころから原告ら2社を対象として,愛媛銀行今治支店
など,相当数の金融機関の調査を行っていたが,3月22日には,原告ら2
社に対する内てい立件決議をし(甲25,26),その後も内偵調査により資
料を収集していた。
      こうして収集した資料に基づき,調査査察部は,原告ら2社ないし原告興進海
運を嫌疑者とする臨検・捜索・差押を,4月下旬ころに実施する予定で準備
を進めていた。
    (イ) ところが,4月11日から12日午前中ころまでの間に,今治税務署から調査
査察部に対して,原告ら2社に関する修正申告の相談があった旨の連絡が
あった。調査査察部は,この連絡を受けて,原告ら2社について罪証隠滅
のおそれがあるものと判断し,急遽,臨検・捜索・差押の実施を早め,早急
に本件許可状請求をすることとした。そして,N査察官を今治市方面に派遣
し,本件許可状請求のため,4月12日付でAの住民票等を入手した(前提
事実3(2)参照)。
    (ウ) また,調査査察部は,4月12日夕方本件資料のうちの⑤ないし⑦について
今治税務署からファックス送信を受け(前提事実2(3)参照),これらをAの住
民票等とともに本件許可状請求の疎明資料として使用した。
      なお,調査査察部は,本件資料のうち,①ないし④についても今治税務署が
預かっていることは聞いたが,これらの内容については検討する機会はな
く,本件許可状請求の資料とすることもなかった。
  (2) 上記認定事実に関する原告らの主張について
   ア 原告らは,「3月22日付け内てい立件決議書(甲25,26)は後日作成されたも
のであり,同日の内てい立件決議はなかった。4月11日ないし12日の段階で
は,調査査察部は原告ら2社を嫌疑者とする臨検・捜索・差押に必要な資料
は全く収集できていなかった。本件税務調査により今治税務署に持ち帰られ
た本件資料のうち,⑤ないし⑦が利用されただけでなく,①ないし④について
も調査査察部が内容を検討し,当該資料及びこれらに基づいて急遽金融機
関等から取り寄せられた資料が主な疎明資料とされて,本件許可状請求が行
われた。」と主張する。
   イ しかし,まず,高松国税局調査査察部長の作成に係る調査嘱託書(乙7ないし
9)及びこれに対する広島国税局調査査察部長等の作成に係る調査回報書
(乙10ないし12)の各日付に照らすと,3月22日に内てい立件決議があった
ことが優に認められる。また,2月ころから3月ころにかけ,愛媛銀行今治支
店,伊予銀行波止浜支店から,Aらが査察が動いているとの情報を得ている
ことや,同内容の匿名の手紙がAらに対して送付されていること(第5の1(1)
ア)などからしても,2月ころから原告ら2社を嫌疑者として調査査察部による
内偵調査が行われていたことは明らかである。
     ところで,本件許可状請求における嫌疑事実は,隠ぺい所得額・ほ脱税額とも
に大きく,複数事業年度にわたるものであり,また,臨検場所も少なくとも10
か所以上に及んでいることが明らかであるから,その嫌疑事実や臨検場所の
特定等には相当の時間が必要であると認められるし,請求に必要な疎明資
料も相当の分量になるものと推測される。しかるに,前提事実2,3のとおり,
本件税務調査の結果,H調査官らにより今治税務署に本件資料が持ち帰ら
れたのが4月12日午後4時ころであり,翌13日には本件許可状請求がなさ
れていることからすると,原告ら主張のように,調査査察部が本件資料の①な
いし④の内容を検討し,急遽金融機関等から疎明に必要な資料を取り寄せて
嫌疑事実を構成した上でその疎明資料を作成できたものとは時間的にみて考
え難く,すでに入手していた資料に基づいて本件許可状請求をしたものと推
認するのが相当である。
     そして,今治税務署に持ち帰られた本件資料のうち①ないし④については,前
記のとおり検討する時間的な余裕が乏しいと認められること,本件資料は売
掛金発生時を基準にして記載されたものである(甲14,21,22,B本人)の
に対し,本件許可状請求における嫌疑事実の隠ぺい所得額は,実際に売上
除外分の手形等が換金され現金化された時点を捉えて認定した額で算定し
たものであること(甲21,弁論の全趣旨)などに照らすと,これらの資料を調
査査察部において検討する機会はもたれなかったものと認めるのが相当であ
る。
     前記のとおり,調査査察部は,内偵調査の段階において,各種金融機関に対す
る調査を行っていたものと認められ,原告興進海運あるいは関係者名義の普
通預金元帳等を入手していたことが認められるから,これに基づいてその入
金額を精査し,本件許可状請求における嫌疑事実の概要を把握することは十
分に可能であったというべきである。原告らは,愛媛銀行今治支店の原告興
進海運名義及びB名義の各普通預金口座(甲18参照)への手形による入金
の中には,集中取立手形入金の方法が用いられたため振出人が不明で,入
金者が特定できないものが多数あり,しかも隠ぺい所得の疎明に当たり現金
入金分と利息を特に除外していることに照らすと,原告らが今治税務署に提
出した本件資料すべてを疎明資料として利用することなしに本件許可状請求
ができたとは考えられないと主張する。しかし,これらはいずれも売上除外金
を入金するための簿外の預金口座であり(B本人,弁論の全趣旨),さらに,
手形による入金である以上,一応は原告興進海運の取引関係に基づく入金
であると考えることができるから,本件許可状請求の段階では,当該入金者を
厳密に特定できなくとも差し支えはないものというべきである。また,原告ら提
出の資料をすべて利用しても,本件許可状請求における隠ぺい所得金額を
計算できるとは直ちに認め難い。
   ウ 以上によれば,この点の原告ら主張には理由がない。
  (3) 上記認定事実に関する被告の主張について
   ア 他方,被告は,「今治税務署から調査査察部に対して連絡があったのは,4月1
2日午後6時ころ,F統括官がJ総括主査に連絡をしたのが最初である。N査
察官は4月下旬に予定されていた本件許可状請求に備えて,Aの住民票等を
入手するために4月11日朝から今治に赴いたものである。また,本件資料の
うちファックス送信された⑤ないし⑦については,⑥預金メモ5枚のうちの1枚
(5枚目)を,波方町農業協同組合を臨検場所とすることの疎明に用いたのみ
で,その他の資料については使用していない。」と主張する。
   イ しかし,前提事実3(2)のとおり,N査察官は,4月12日,今治市役所等に直接
赴いて,Aの住民票等を入手していたことが明らかであるところ,①前日であ
る4月11日に,今治税務署にD税理士が修正申告の相談をしていること,②
Aの住民票等は,いずれも送付嘱託によることなく,窓口での交付請求により
取得されており,至急入手する必要があったと解されること,③N査察官が入
手した住民票等が,翌13日の本件許可状請求に疎明資料として用いられて
いることなどに照らすと,N査察官の行動は,今治税務署からの連絡を受けて
のものであったと推認するのが自然である。これを前提とすれば,今治税務
署(具体的な職員名は不詳)から調査査察部にはじめて連絡があったのは,4
月12日午後6時ころなどではなく,4月11日から遅くとも12日午前中ころま
での間であったと推認するのが相当である。
     また,本件資料のうち⑥預金メモ5枚のうちの3枚目(甲12の3参照)には,今
治市農業協同組合のQ及びR名義の口座が記載されているが,これら名義人
と原告らとの関係はもちろん,調査査察部においてどのようにして当該口座の
存在を調査したかも不明といわざるを得ないから,当該部分も疎明資料として
用いられた蓋然性が高いというべきである。そうとすれば,甲27(O主査の刑
事事件証人調書),28(同),31(調査査察部査察第1部門総括査察官Sの
刑事事件証人調書),32(同)のうち,ファックス送信された⑤ないし⑦の一部
のみしか用いていないとする部分は信用できず,結局,⑤ないし⑦はすべて
本件許可状請求の疎明資料に用いられたものと推認するのが相当である。
     被告は,前記のとおり当裁判所の認定事実とは異なる主張をし,前掲書証のほ
か,甲5の1(F統括官の刑事事件証人調書),5の2(同),29(J総括主査の
刑事事件証人調書),30(同),乙5(F統括官の別件行政事件証人調書),1
6(N査察官の別件行政事件証人調書)もこれに沿ったものである。しかし,こ
れらはいずれも本件税務調査又は本件犯則調査に関わった利害関係人の供
述を内容とするものであるから,その信用性判断は慎重になされねばならな
い。そして,これら供述部分を裏付けるに足りる客観的資料はなく,合理的な
説明もなされたとはいえないばかりか,かえって,前記のとおりこれら供述部
分とは必ずしも整合しない事実関係が認められるのであるから,採用すること
ができない(なお,J総括主査は,一般に査察では住民票や戸籍については
送付嘱託はせず,査察官が市役所等へ交付要求に行く旨供述しているが(甲
29),そのような運用がなされているとの裏付けはない。)。
   ウ よって,かかる被告の主張も理由がない。
  (4) 違法性について
   ア 法人税法156条について
    (ア) 犯則調査は,犯則事件の証憑を収集して,犯則事実の有無や犯則者を確
定するために認められた,いわば刑事手続に準ずる手続である。
      これに対し,税務署職員が法人税に関する調査のために行う質問検査権(法
人税法153条ないし155条)の行使を中心とする税務調査は,租税の公
平かつ確実な賦課徴収という行政目的をもって,課税要件事実を認定し,
課税処分を行うために認められた純然たる行政手続である。
      このように,両者はその目的,手続等を異にしており,しかも質問検査権につ
いては,これに応じない者に対しては,罰則の適用をも伴うものであるから
(同法162条2号),かかる行政目的を逸脱して,同法所定の調査の場合と
全くその目的性格を異にする犯則調査のための手段として,若しくは犯罪
捜査を有利に行おうとして質問検査権を行使し,調査に藉口して証拠資料
を収集することは,憲法35条,38条の法意に照らし,許されないものとい
わなければならない。法人税法156条は,この法理を明確化したものと解
される。
      もっとも,法人税法156条の趣旨がこのようなものであるならば,税務調査中
に犯則事件が探知された場合に,これが端緒となって収税官吏による犯則
事件としての調査に移行することをも禁ずる趣旨のものとは解されない(最
高裁昭和51年7月9日判決・裁判集刑事201号137頁参照)。また,税務
調査によって得られた資料あるいは情報を,犯則調査のために用いること
自体は禁止されていないというべきである。
    (イ) そこで,本件税務調査が法人税法156条に違反するものであったか否かに
つき検討する。前記認定事実のとおり,本件税務調査に先立つ4月11日な
いし12日の段階で,今治税務署から調査査察部に対し,原告ら2社に関す
る修正申告の相談があった旨の連絡がなされていること,その上で,F統括
官がH調査官らに本件税務調査を実施させていること,F統括官は,本件
税務調査の直後,調査査察部のJ総括主査に対し,上記調査で得た資料
の一部・情報を提供し,調査査察部はこれを本件許可状請求の疎明資料と
して利用したことが認められる。これら一連の事実に照らせば,今治税務署
職員(少なくともF統括官)は,本件税務調査を行うに当たり,これによって
得られる資料・情報を調査査察部に提供し,本件犯則調査のために用いさ
せることを予定していたものと推認するのが相当である。そうとすれば,本
件税務調査は,当初から本件犯則調査のための手段として用いられたとい
うほかはなく,法人税法156条に違反するものであったといわざるを得な
い。
   イ 上記のとおり,本件では法人税法156条に違反する行為があったものと認めら
れるが,国家賠償請求においては,法令に違反する行為の有無のみならず,
侵害行為の態様,被侵害利益の種類,内容等の具体的事情に照らして,実
質的な法益侵害があったか否かという観点から違法性の有無の判断をしなけ
ればならない。
     そこで,以下,原告らが違法性ありと主張するF統括官及び調査査察部職員の
行為について,具体的に検討する。
    (ア) F統括官がH調査官らをして質問検査権を行使させた行為について
     a D税理士のE副署長に対する相談の内容は前提事実2(1)のとおりであって,
原告ら2社の売上除外金額は多額であった一方,修正申告をしようとす
る動機,経緯等は不明であったことからすると,今治税務署において,原
告ら2社に対する税務調査を行う必要性は高かったものというべきであ
る。
     b また,H調査官らによる本件税務調査手続,特に質問検査権の行使は,D税
理士が立ち会う中で,質問や検査の強要がなされることもなく,Aらの任
意の協力によって進行したものであり(第5の1(1)イ),法人税法156条
に違反する点を除けば,適法かつ適切な方法で実施されたものと認めら
れる。Aらは,自らがした不利益陳述や,H調査官らに提出した本件資料
が,場合によっては原告ら2社やAの刑事責任追及のために用いられる
かもしれないことを十分に認識しながらも,うまくいけばその罪を問われ
なくなるかも知れないなどと考えていたものであり(第5の1(1)ア),かよう
な思惑をもって,H調査官らによる質問検査権行使にも任意に供述し,
本件資料についても任意に提出したものというべきである。そうすると,
本件税務調査における質問検査権の行使によって,Aらの黙秘権が実
質的に侵害されたとは認め難いし,上記質問検査権の行使に令状主義
の潜脱があったということもできない。
     c なお,原告らは,納税者が重加算税免除規定の適用を求めて税務署に相談
した場合(前提事実2(1)をいうものと解される。)には,税務調査の範囲
が限定されるべきであると主張するが,当該相談は事実上のものでしか
なく,税務調査の範囲を限定するような法的効果が生じるものではない。
    (イ) F統括官が,質問検査の結果入手した本件資料・情報を調査査察部に提供
した行為について
     a 前記のとおり,本件税務調査は法人税法156条に違反するものであったと
認められるから,F統括官がこれによって入手した本件資料・情報を調査
査察部に提供した行為も,同条違反となるといわざるを得ない。
しかしながら,(ア)で説示したように,本件税務調査は,法人税法156条に違
反する点を除けば,適法かつ適切な方法で実施されたものであって,A
らの黙秘権が実質的に侵害され,あるいは令状主義の潜脱があったと
は認められないから,このような税務調査により得られた本件資料・情報
を調査査察部に提供する行為は,特段原告らの権利を侵害するもので
はないというべきである。
     b 原告らは,本件資料・情報の提供行為が公務員の守秘義務に違反する旨主
張する。しかし,公務員には犯罪があると思料するときには告発が義務
づけられていること(刑事訴訟法239条2項),告発により犯人の処罰を
求めることについての公益上の要請が強い場合もあることなどからすれ
ば,本件のような場合には,守秘義務違反は問題とならないものという
べきである。
    (ウ) 調査査察部職員が,F統括官から提供された本件資料・情報を本件許可状
請求に用いた行為について
前記説示のとおり,本件税務調査により得られた本件資料・情報を調査査察部
に提供する行為は,特段原告らの権利を侵害するものではないこと,税務
調査によって得られた資料・情報を犯則調査において用いること自体は,
法人税法156条により一般的に禁止されたものではないと解されることに
照らすと,調査査察部職員が,F統括官から提供された本件資料・情報を
本件許可状請求に用いた行為は実質的に原告らの権利を侵害するもので
はないというべきである。
   ウ 以上説示したところによれば,F統括官及び調査査察部職員の各行為は,実質
的に原告らの権利を侵害しているとはいえず,法益侵害は認められないか
ら,国家賠償法1条にいう違法があったとすることはできない。
 2 結論
   以上の次第で,その余の争点について検討するまでもなく,原告らの請求は理由
がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
松山地方裁判所民事第2部
裁判長裁判官   坂倉充信
裁判官   大嶺 崇
    裁判官中山雅之は,転補のため署名,押印することができない。
裁判長裁判官   坂倉充信

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