弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
一 原告の主位的請求をいずれも棄却する。
二1 被告は、その販売する家庭用テレビゲーム機ネオジオ用コントローラーに、
別紙商品表示目録(一)ないし(四)記載の各表示を使用し、又はこれを使用した
家庭用テレビゲーム機ネオジオ用コントローラーを販売してはならない。
2 被告は、前号のコントローラーの容器箱、包装紙又はその広告に別紙商品表示
目録(一)ないし(四)記載の各表示を使用してはならない。
3 原告の予備的請求にかかる差止請求中、その余の部分を棄却する。
三 被告は原告に対し、金一億二一八〇万円及び内金四〇六〇万円に対する平成六
年一月五日から、内金三一八七万一〇〇〇円に対する同年四月一九日から、内金四
九三二万九〇〇〇円に対する平成七年三月二四日から、それぞれ支払済みまで年五
分の割合による金員を支払え。
四 被告の反訴請求を棄却する。
五 訴訟費用は、本訴反訴を通じてこれを五分し、その一を原告の、その余を被告
の各負担とする。
六 この判決の第三項は、仮に執行することができる。
       事実及び理由
第一 請求の趣旨
一 本訴
(主位的請求)
1 被告は、別紙物件目録記載の商品を販売してはならない。
2 被告は、別紙物件目録記載の商品及び同商品の製造の用に供する金型、同商品
を構成する部品である基板、レバー、ボタン、一五本ピンコネクター、ボディーを
廃棄せよ。
3 被告は原告に対し、金一億二一八〇万円及び内金四〇六〇万円に対する平成六
年一月五日(訴状送達の日の翌日)から、内金三一八七万一〇〇〇円に対する同年
四月一九日(同月四日付訴えの変更申立書送達の日の翌日)から、内金四九三二万
九〇〇〇円に対する平成七年三月二四日(同月二三日付訴えの変更申立書送達の日
の翌日)から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
4 仮執行の宣言
(予備的請求)
1 被告は、その販売する家庭用テレビゲーム機ネオジオ用コントローラーに、
「NEO」又は「ネオ」の表示を使用し、又はこれを使用した家庭用テレビゲーム
機ネオジオ用コントローラーを販売してはならない。
2 被告は、前項のコントローラーの容器箱、包装紙又はその広告に「NEO」又
は「ネオ」の表示を使用してはならない。
3 主文第三項と同旨
4 仮執行の宣言
二 反訴
1 原告は被告に対し、金一億二七四八万二三二〇円及び内金一億二二二六万八四
四〇円に対する平成六年二月九日(反訴状送達の日の翌日)から、内金五二一万三
八八〇円に対する同年四月一四日(同月一九日付訴えの追加的変更申立書送達の日
の翌日)から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 仮執行の宣言
第二 事案の概要
一 原告の本訴請求は、昭和五三年七月二二日に設立された電子技術応用ゲーム機
のハード及びソフトウエアの研究、開発、製造、販売を主たる業務とする株式会社
で、平成二年三月から(甲六三、証人【A】)家庭用テレビゲーム機「ネオジオ
(NEO・GEO)」(検甲一。本体とコントローラーからなるもの。以下「本件
ゲーム機」という)及び業務用テレビゲーム機「ネオジオ(NEO・GEO)」を
製造、販売している(争いがない)原告が、平成五年一二月一七日から本件ゲーム
機本体にのみ接続可能な専用コントローラー(別紙物件目録一記載のもの。以下
「被告製品(一)」という)に「ファイティングスティックNEO(Fighti
ng Stick NEO)」という表示を使用して販売し、平成六年一二月二八
日からその新製品として同様に本件ゲーム機本体にのみ接続可能な専用コントロー
ラー(別紙物件目録二記載のもの。以下「被告製品(二)」という)に「ファイテ
ィングスティックNEOⅡ(Fighting Stick NEOⅡ)」という
表示を使用して販売している(争いがない)被告に対し、次の各請求をするもので
ある(主位的請求(一)ないし(三)は選択的併合)。
1 主体的請求
(一) 映画の著作物の著作権に基づく請求
 本件ゲーム機と「餓狼伝説」「餓狼伝説2」「餓狼伝説スペシャル」「サムライ
スピリッツ」「龍虎の拳」等(甲七)本件ゲーム機によってのみ映し出すことので
きる専用の各種ゲームソフトウエア(以下「本件ゲームソフトウエア」という)に
よって受像機に映し出される影像の動的変化(動画)又はこれと音声によって表現
されるものは、著作権法一〇条一項七号の映画の著作物に該当するところ、本件ゲ
ーム機本体に接続されるコントローラーである被告製品(一)及び被告製品(二)
(以下、合わせて単に「被告製品」という)を使用して影像の動的変化を映し出す
ことは、映画の著作物の上映(同法二六条一項)に当たり、被告が被告製品を製
造、販売することは自ら右映画の著作物を上映したものと評価されるから、原告の
専有する上映権を侵害するものであると主張して、同法一一二条一項、二項に基づ
き、被告製品の販売の差止め並びに被告製品及びその製造に供する金型、各部品の
廃棄を求めるとともに、著作権侵害の不法行為に基づき損害賠償を請求する。
(二) 著作者人格権(同一性保持権)に基づく請求
 本件ゲームソフトウエアはプログラムの著作物(著作権法一〇条一項九号)とし
て、その上映による影像及び影像の動的変化は映画の著作物(同項七号)として、
それぞれ保護されるから、その著作者である原告は、本件ゲームソフトウエア並び
にその上映による影像及び影像の動的変化について同一性を保持する権利(同法二
〇条一項)を有するところ、被告は、被告製品にいわゆる連射機能を付加している
ことにより、右同一性保持権を侵害しているものであると主張して、同法一一二条
一項、二項に基づき、被告製品の販売の差止め並びに被告製品及びその製造に供す
る金型、各部品の廃棄を求めるとともに、著作者人格権侵害の不法行為に基づき損
害賠償を請求する。
(三) 不正競争防止法二条一項一号に基づく請求
 本件ゲーム機によってのみ映し出すことのできる本件ゲームソフトウエアの特徴
的なキャラクターを主体とする各種影像とゲームの進行に応じたこれら影像の変化
の態様は、本件ゲーム機、
ひいては原告が別売りしている対戦モード(二人のプレイヤーが対戦することによ
り格闘競技が楽しめるもの)用コントローラー(本件ゲーム機本体とセットになっ
ているものと同一の商品。以下「原告製品」という)が原告の商品であることを示
す自他商品識別機能及び出所表示機能を有する商品表示に該当し、遅くとも平成四
年一二月中にはテレビゲームのユーザー及び取引者の間でいわゆる周知性を取得し
たところ、被告製品を本件ゲーム機本体に接続して受像機に映し出される各種影像
とこれら影像の変化の態様は、原告製品を本件ゲーム機本体に接続して受像機に映
し出されるものと同一であるから、被告が被告製品を販売する行為は、原告の商品
であるかのように混同を生じさせるものであり、不正競争防止法二条一項一号の不
正競争行為に該当すると主張して、同法三条一項、二項に基づき、被告製品の販売
の差止め並びに被告製品及びその製造に供する金型、各部品の廃棄を求めるととも
に、同法四条に基づき損害賠償を請求する。
2 予備的請求(不正競争防止法二条一項一号)
 原告が本件ゲーム機及び別売りの原告製品に使用している「ネオジオ」又は「N
EO・GEO」という商品表示は、遅くとも平成四年中には、原告の製造、販売す
る本件ゲーム機及び原告製品が原告の商品であることを示す商品表示としてテレビ
ゲームのユーザー及び取引者の間で周知性を取得したところ、被告が本件ゲーム機
本体にのみ接続可能な被告製品(一)に「ファイティングスティックNEO(Fi
ghting Stick NEO)」という表示を、被告製品(二)に「ファイ
ティングスティックNEOⅡ(Fighting Stick NEOⅡ)」とい
う表示を使用して販売する行為は、原告の商品であるかのように混同を生じさせる
ものであり、不正競争防止法二条一項一号の不正競争行為に該当すると主張して、
同法三条一項に基づき、被告製品についての「NEO」又は「ネオ」の表示の使用
及びこれを使用した被告製品の販売の差止め並びに被告製品の容器箱、包装紙、広
告についての「NEO」又は「ネオ」の表示の使用の差止めを求めるとともに、
同法四条に基づき損害賠償を請求する。
二 被告の反訴請求は、原告の本訴請求にかかる訴えの提起・維持及びこれを本案
とする被告製品の販売の停止等を求める仮処分の申立て(当庁平成五年(ヨ)第四
一〇五号)は、いわゆる不当訴訟として被告に対する不法行為を構成し、また、本
訴における原告の主張は被告の名誉を毀損するものであると主張して、民法七〇九
条に基づき損害賠償を請求するものである。
三 基礎となる事実
1 本件ゲーム機は、前記のとおり本体とコントローラーによって構成され、その
本体に別売りの本件ゲーム機専用の本件ゲームソフトウエアのカセットを差し込
み、かつ、本体を家庭用テレビ等の受像機に接続することによって、ゲーム機とし
て使用できることになる。
 本件ゲーム機本体及びコントローラー(原告製品)並びに本件ゲームソフトウエ
アのそれぞれの意義、機能は次のとおりである(甲二、六一、弁論の全趣旨)。
(一) 本件ゲーム機本体
 本件ゲーム機本体は、コンピュータのCPU(Central Process
ing Unit 中央演算処理装置)を内蔵しており、プレイヤーがコントロー
ラーを操作することにより発せられるゲーム操作情報(電気信号)及びそのゲーム
操作情報に対応して本件ゲームソフトウエアから発せられるゲーム情報(電気信
号)をCPUが読み取り、これを高速で合成処理して、ビデオ回路を通じて影像信
号を、音声回路を通じて音声信号を受像機に出力し、もって受像機の画面上に映し
出される影像を変化させ、併せてスピーカーから音声を発生させる。
(二) コントローラー(原告製品)
 コントローラーは、本件ゲーム機本体の端末と電気的に接続されていて、電気信
号により、ゲーム操作情報を本件ゲーム機本体にあるコンピュータのCPUに入力
する機器である。
(三) 本件ゲームソフトウエア
 本件ゲームソフトウエアは、ゲームカセット内に収納されていて、プログラムメ
モリーに、各テレビゲームのキャラクターや背景の形・色の影像情報、効果音やB
GMの楽器音の音声情報、及びキャラクターをどの場面でどのように動かし、
影像に合わせてどのような音楽を発生させるかを指示し、またゲームプレイヤーの
コントローラー操作に対応してゲームストーリーを変化させる多数多種の命令情報
を記憶しており、右影像情報、音声情報及び命令情報を本件ゲーム機本体に指示す
るものであって、テレビゲームのあらゆる情報は、すべて本件ゲームソフトウエア
に規定され蓄積されている。
 プレイヤーが本件ゲームソフトウエアの収納されているゲームカセットを本件ゲ
ーム機本体に差し込みスイッチボタンを押すと、当該テレビゲームのデモンストレ
ーション画像が画面上に規則的に繰り返し映し出される。そして、コントローラー
のスタートボタンを押すと、本件ゲームソフトウエアに規定、蓄積された情報の範
囲内で、影像が変化し、ゲームストーリーが展開していく。
 本件ゲームソフトウエアのうち平成三年一二月発売の「餓狼伝説」は、いわゆる
格闘ゲームの一種であるが、「マーシャルアーツ」(格闘技の一流派)の達人「テ
リー・ボガード」ら三人の主人公キャラクター及び対戦相手キャラクターを設定
し、右主人公キャラクターが史上最強の武闘会「キング・オブ・ファイターズ」に
出場し、「必殺技」及び「超必殺技」を駆使して対戦相手キャラクターである七人
の格闘家との格闘を勝ち抜き、最後に仇敵「ギース・ハワード」との宿命の戦いに
挑むというストーリー展開のものであり、平成四年一二月(甲三二)及び平成五年
七月(甲三〇)にはテレビアニメ化されてフジテレビ系で全国放映された。
2 被告は、平成五年一二月一七日から「ファイティングスティックNEO(Fi
ghting Stick NEO)」という表示を使用した被告製品(一)を二
万個販売し、平成六年三月八日にこれを追加販売し(その個数については争いがあ
り、原告は二万個と主張し、被告は九九〇〇個と主張する)、また、平成六年一二
月二八日から「ファイティングスティックNEOⅡ(Fighting Stic
k NEOⅡ)」という表示を使用した被告製品(二)を二万四三〇〇個販売した
(平成六年三月八日の被告製品(一)の追加販売数を除き、争いがない。但し、
平成五年一二月一七日からの被告製品(一)の販売数については、自白の撤回の問
題がある)。
四 争点
1 被告が被告製品を製造、販売することは、本件ゲームソフトウエアに蓄積され
た情報に従って本件ゲーム機により受像機に映し出される影像の動的変化又はこれ
と音声によって表現されるものの上映に該当し、原告の専有する上映権を侵害する
ものであるか(本訴主位的請求の映画の著作物の著作権に基づく請求)。
2 被告製品にいわゆる連射機能を付加していることは、本件ゲームソフトウエア
並びにその上映による影像及びその動的変化について原告が有する同一性保持権を
侵害するものであるか(同じく著作者人格権〔同一性保持権〕に基づく請求)。
3 本件ゲーム機によって受像機に映し出される本件ゲームソフトウエアのキャラ
クターを主体とする各種影像とゲームの進行に応じたこれら影像の変化の態様は、
本件ゲーム機ないし原告製品が原告の商品であることを示す商品表示として周知性
を取得したものであり、被告が被告製品を販売する行為は、原告の商品であるかの
ように混同を生じさせるものであるか(同じく不正競争防止法二条一項一号に基づ
く請求)。
4 本件ゲーム機及び原告製品に使用された「ネオジオ」又は「NEO・GEO」
という商品表示は、原告の商品表示として周知性を取得したものであり、被告が被
告製品(一)に「ファイティングスティックNEO(Fighting Stic
k NEO)」という表示を、被告製品(二)に「ファイティングスティックNE
OⅡ(Fighting Stick NEOⅡ)という表示を使用して販売する
行為は、原告の商品であるかのように混同を生じさせるものであるか(本訴予備的
請求〔不正競争防止法二条一項一号に基づく請求〕)。
5 右1ないし4のいずれかにより、被告が損害賠償義務を負うとした場合に、原
告に対し賠償すべき損害の額。
6 原告の被告に対する本訴請求にかかる訴えの提起・維持及びこれを本案とする
仮処分の申立ては、いわゆる不当訴訟として不法行為を構成し、また、本訴におけ
る原告の主張は被告の名誉を毀損するものであるか(反訴請求)。
7 右6により原告が損害賠償義務を負うとした場合に、被告に対し賠償すべき損
害の額。
第三 争点に関する当事者の主張
一 争点1(被告が被告製品を製造、販売することは、本件ゲームソフトウエアに
蓄積された情報に従って本件ゲーム機により受像機に映し出される影像の動的変化
又はこれと音声によって表現されるものの上映に該当し、原告の専有する上映権を
侵害するものであるか)について
【原告の主張】
 原告が本件ゲーム機専用に創作し、著作権を有する本件ゲームソフトウエアに蓄
積された情報に従って、本件ゲーム機により受像機に映し出される影像の動的変化
又はこれと音声によって表現されるものは、後記1のとおり映画の著作物(著作権
法一〇条一項七号)に該当するから、原告は、その上映権(同法二六条一項)を専
有するところ、被告は、2のとおり、本件ゲーム機専用のコントローラーである被
告製品を製造、販売することにより、被告製品を購入したユーザーを被告の手足又
は道具として利用して、右映画の著作物を上映しているものであるから、原告の上
映権を侵害するものである。
1 本件ゲームソフトウエアのプログラムが著作権法によって保護される著作物で
あることは明らかであるが、本件ゲームソフトウエアに蓄積された情報に従って、
本件ゲーム機により受像機に映し出される影像の動的変化又はこれと音声によって
表現されるものは、本件ゲームソフトウエアとは別に、映画の著作物(著作権法一
〇条一項七号)に該当し、著作権法による保護を受ける(いわゆる「パックマン事
件」に関する東京地裁昭和五九年九月二八日判決・判例時報一一二九号一二〇頁、
判例タイムズ五三四号二四六頁。以下「パックマン事件判決」という)。
 すなわち、右影像の動的変化又はこれと音声によって表現されるものは、映画の
著作物として認められるための次の各要件を充足している。
(一) 表現方法
 本件ゲームソフトウエアは、本件ゲーム機を操作することによって、テレビの受
像機の画面上に影像が動きをもって見えるという効果を生じさせるものであって、
「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され」て
いる。
(二) 存在形式
 映画の著作物は、「物に固定されている」ことが必要であるところ、本件ゲーム
ソフトウエアに蓄積された情報に従って本件ゲーム機により受像機に映し出される
影像及びその動的変化は、すべてゲームカセット内のプログラムメモリーに電気的
に記憶・蓄積され、固定されている。プレイヤーによるコントローラーのレバー及
びボタン操作により受像機の画面上に映し出される影像にいかなる変化が生じてゲ
ームストーリーが展開してゆくか、それに連動していかなる音声が発せられるか
は、すべて情報としてプログラムメモリーに規定され蓄積されたところによるので
あって(したがって、プレイヤーが本件ゲームソフトウエアのプログラムから独立
して絵柄、文字等をコントローラーの操作により新たに描くことは不可能であ
る)、理論上はプレイヤーが全く同一のレバー及びボタン操作を行えば、受像機の
画面上に映し出される影像の変化も全く同一であるから、その意味で本件ゲームソ
フトウエアの情報に従って受像機に映し出される各テレビゲーム固有の影像及びそ
の動的変化は同一性を保って存続し、かつ、再現可能な状態でプログラムメモリー
に固定されている。
(三) 内容
 「餓狼伝説」等の本件ゲームソフトウエアには、それぞれに特有のキャラクター
(登場人物など)、キャラクターの影像の変化及びそれに連動して発せられる音に
関する情報が収納されており、コントローラーから入力されるゲーム操作情報とそ
れに対応して本件ゲームソフトウエアのプログラムから発せられるゲーム情報が本
件ゲーム機の本体に内蔵されたCPUにより合成処理され、もって受像機に映し出
される影像が変化しゲームストーリーが展開していくのであるから、かかる影像及
び音声によって表現されるものは、本件ゲームソフトウエアのそれぞれに特有のも
のであり、知的文化的精神活動の所産として産み出されたものである。
 なお、本件ゲームソフトウエアは多種類に及び(甲七)、その全部が被告製品の
操作により上映可能であるため、
「映画の著作物」を一種類に特定できないが、被告製品を接続した本件ゲーム機に
より上映できるのは本件ゲームソフトウエアに明確かつ限定的に特定され、しかも
被告製品を購入したユーザーは、本件ゲームソフトウエアのいずれかを例外なく上
映するのであるから、映画の著作物を一種類に特定できなくても、被告による上映
権侵害を認定する上で全く問題とならない。
2 被告は、右1のとおり映画の著作物たる、本件ゲームソフトウエアに蓄積され
た情報に従って本件ゲーム機により受像機に映し出される影像の動的変化又はこれ
と音声によって表現されるものの上映に必要不可欠な機器たるコントローラーとし
て、原告製品の情報入力システムを盗用し同一の情報入力システムを持つ複製品た
る被告製品を不特定多数のユーザーに製造、販売することにより、これを購入した
ユーザーを手足ないし道具として利用して右映画の著作物を上映せしめているので
あるから、ユーザーではなく被告が、上映の主体すなわち上映権(著作権法二六
条)の侵害行為者である。
(一) コントローラー(原告製品)は、受像機に映し出される影像及びその動的
変化の上映には必要不可欠の機器である。
(1) 本件ゲーム機を実行してテレビゲームを行う場合、受像機に映し出される
影像及びその動的変化との関連において、コントローラー(原告製品)は以下の役
割を果たしている。
① コントローラーのレバーは、プレイヤーの選択したキャラクターを受像機の画
面上においてレバーを倒した方向(上下左右)に移動させる機能等を持っており、
四つのゲーム操作用ボタンは、各ボタン別にキャラクターに所定の行動を起こさせ
る機能等を持っている。
② コントローラーの入力操作により本件ゲーム機の本体に電気信号が入力される
と、CPUがこれを読み取り、そのゲーム操作情報に対応したゲーム情報、すなわ
ちプレイヤーの選択したキャラクター及び相手キャラクターを移動・行動させた
り、場面及び背景を変化させる情報等が本件ゲームソフトウエアから発せられ、こ
れらの全情報をCPUが合成処理して最終的に受像機の画面上の影像を変化させ
る。このように、
プレイヤーがコントローラーを操作していかなる入力信号をどのようなタイミング
で送るかにより、本件ゲームソフトウエアから発せられるゲーム情報が決定されて
影像が変化しゲームストーリーが展開する仕組みになっており、その意味で、コン
トローラーは受像機の画面上に映し出される影像の変化とゲームストーリーの展開
を決定づける条件入力機能を果たすものということができる。そのため、前記のと
おり理論上はプレイヤーが全く同一のコントローラー操作を行えば、受像機の画面
上に映し出される影像の変化も全く同一となる。
③ 対戦モード用コントローラー(原告製品)を本件ゲーム機本体に追加して接続
し、ゲーム開始時に対戦モードにしておくことにより、二人のプレイヤーによるテ
レビゲームのプレイが可能である。この場合、二人のプレイヤーの操作するコント
ローラーが発する電気信号はCPUによりそれぞれ独立して読み取られ、それぞれ
のプレイヤーが選択したキャラクターが移動・行動したり、場面及び背景が変化す
る情報等が本件ゲームソフトウエアのプログラムから発せられ、これらの全情報を
CPUが合成処理して最終的に受像機に映し出される影像を変化させる。
 したがって、影像の動的変化は、すべて本件ゲームソフトウエアに規定されてい
るとはいえ、コントローラーは、対戦モード用の原告製品を含め、これをプレイヤ
ーが操作して入力信号を送ることで有限な影像の動的変化のうちの一つの影像の動
的変化を決定づける機能を果たしており、受像機に映し出される影像及びその動的
変化の上映には必要不可欠の機器ということができる。
(2) 被告はコントローラーをもって本件ゲーム機本体から全く独立した周辺機
器にすぎない旨主張する。しかし、そもそもテレビゲーム機のシステムをどのよう
な回路構成にし、どのような信号をどのような形態で入出力する仕様とするかは、
ハードウエアの設計いかんによるのであって、かかる回路構成等が全体として一つ
のシステムを構築しているのであり、情報入力回路部分もそのシステムの構成部分
にすぎない。ただ、本件ゲーム機においては、
テレビゲームをする上での操作性の観点から、情報入力回路の部分を他の回路から
分離してコントローラーという別個の機器とし、コネクターにより本件ゲーム機本
体の回路に接続してそのハードウエアのシステムを完結するという設計にしている
のである。したがって、本件ゲーム機の専用コントローラー(原告製品)は本件ゲ
ームソフトウエアを上映する本件ゲーム機のハードウエアの基本的な構成部分であ
り、本件ゲーム機本体から完全に独立した周辺機器というようなものではない。
(3) また、被告は、原告の主張する右「システム」の意味を単に本件ゲーム機
本体、コントローラー及び本件ゲームソフトウエアによって構成されていることと
曲解して、右システムそれ自体は顕著な事実であるとか、コントローラー自体に新
規性はないと主張するが、右の三つからなる構成にすることのみがシステムではな
く、本件ゲームソフトウエアにいかなる情報をどのように蓄積させるか、本件ゲー
ム機本体及びコントローラーをどのような回路構成等にすることによりいかに効率
的な情報の入出力及び合成処理を可能とするかが正にシステムの中核をなすのであ
るから、被告の主張は誤りである。
 被告は、コントローラーは単なるスイッチであるとも主張するが、コントローラ
ーが単にスイッチの機能を有するにとどまらないことは、以上に述べたところから
明らかである。
(4) 更に、被告は、それがなければ動画を上映できないという意味における機
能的一体性という点では、テレビこそ不可欠なものであり機能的一体性を有するも
のであるとして、被告製品の製造販売が著作権侵害になるならテレビの製造販売も
著作権侵害になるはずである旨主張するかのようであるが、テレビは、その入力信
号の種類、形態及び入出力端子部分が統一的に規格化され、かつ一般的に周知とな
っており、その入出力端子にはすべてのゲーム機メーカーのテレビゲーム機のみな
らず、オーディオ機器一般が接続できる上、それ自体で一つの完結したシステムを
形成した独立の機器であるのに対し、後記のとおり、
専用コントローラーを含む本件ゲーム機のハードシステムは一般的・統一的に規格
化されておらず、被告製品は本件ゲーム機本体にのみ接続・対応することを目的と
して、原告製品の情報入力システムを盗用して製造されているため、現に本件ゲー
ム機本体以外には接続・対応できないものであるから、テレビの製造販売は著作権
侵害にならないが、被告製品の製造販売は著作権侵害になるのである。
(二) テレビゲーム機は、ゲーム機メーカー各社がそれぞれ独自に開発、設計し
ており、そのハードウエア及びソフトウエアは、一般的・統一的に規格化されてい
ない。そのため、原告が開発、設計した本件ゲーム機本体に接続できるコントロー
ラーは、本件ゲーム機本体のために原告が開発、設計した専用コントローラーだけ
であり、他のゲーム機メーカーのコントローラーを本件ゲーム機本体に、また原告
の専用コントローラーを他のゲーム機メーカーのテレビゲーム機にそれぞれ接続す
ることはできず、仮に接続できたとしても正常な入力動作は不可能である。しかる
に、被告は、以下のとおり、原告製品の情報入力システムを盗用することにより、
同一の情報入力システムを持つ複製品たる被告製品を製造、販売しているものであ
る。
(1) 原告が本件ゲーム機本体及びコントローラーの回路構成等の仕様を公開し
ていないにもかかわらず、被告製品は、本件ゲーム機専用に製造されたコントロー
ラーであり、他のゲーム機メーカーのゲーム機には接続することができず、仮に接
続できたとしても正常な入力動作は不可能なものである。
(2) 被告製品が原告製品の複製品であることは、被告製品の回路図(甲一一)
を原告製品の回路図(甲一二)と比較することによっても明らかである。
 まず、本件ゲーム機本体との接続部である一五本ピンの端子(コネクター)をは
じめ、連射機能を果たす回路部分を除いたその余の回路は、被告製品内部に三個の
コネクターが使用されている以外は全く同一である。右被告製品内部の三個のコネ
クターは、単に回路をつなぐものにすぎず、また、連射機能を果たす回路は、
ゲーム操作用の四個のボタンのうち一個をプレイヤーが規則的に繰り返し押すこと
により本件ゲーム機本体に規則的に同一の電気信号を入力する代わりに、連射ボタ
ンを押してターボ状態(乙一〇の6)にすることにより右操作を行ったのと同様の
電気信号を本件ゲーム機本体に入力できるというものにすぎず、右コネクターと連
射機能用回路は単に原告製品の回路に付加されているにすぎないから、原告製品の
回路と被告製品の回路の同一性を何ら損なうものではない。
 更に、原告製品の回路図の(A)の部分は、コントローラーの認識信号の発信回
路であり、本件ゲーム機の開発当初、このコントローラー認識信号をゲーム機本体
に帰すことにより原告製品が接続されていることを本件ゲーム機本体が認識できる
ようにするために設けられた回路であるが、右認識信号が送られなくても原告製品
が接続されているものと本件ゲーム機本体が判断するようにその仕様を変更したた
め、現在は全く不必要な回路になっている。それにもかかわらず、被告製品中にも
同じ発信回路が存在することは、被告が右発信回路の必要性について特段の考慮を
払うことなく、原告製品の回路構成等を模倣して被告製品を製造したことを示す動
かし難い証拠である。原告製品のコネクターにおける所定の機能を持つ一五本のピ
ンの配置の仕方についても、一五階乗すなわち一兆三〇七六億七四三六万八〇〇〇
とおりもあるから、被告製品のコネクターにおける各ピンの配置が原告製品のコネ
クターにおける各ピンの配置と全く同一になる確率は、被告が意図的に原告製品の
情報入力システムを盗用しない限り、殆どゼロに等しいところ、両者のピン配置は
全く同一である。
(三) 映画の著作物たる本件ゲームソフトウエアに蓄積された情報に従って本件
ゲーム機により受像機に映し出される影像の動的変化又はこれと音声によって表現
されるものの上映の主体すなわち上映権の侵害行為者は、ユーザーではなく被告で
ある。
(1) 被告が被告製品を製造、販売するについて意図したところは、被告製品の
購入者等がユーザーとなって、被告製品を本件ゲーム機本体に接続して操作(使
用)し、
他のプレイヤーとともに「餓狼伝説2」等の本件ゲームソフトウエアの対戦モード
プレイをすることであり、一方、被告製品を購入するユーザーは、被告製品をもっ
ぱら本件ゲーム機本体に接続して使用することによって他のプレイヤーとともに本
件ゲームソフトウエアの対戦モードプレイをするという動機づけのもとに購入する
のであるから、かかるユーザーに対する被告製品の販売は、必然的にユーザーが被
告製品を本件ゲーム機本体に接続して使用し、他のプレイヤーとともに本件ゲーム
ソフトウエアの対戦モードプレイをするという結果をもたらすのである。したがっ
て、被告製品の購入者による本件ゲームソフトウエアの上映は、被告製品の製造販
売行為と映画の著作物の上映という著作権侵害の結果を結びつける単なる因果の流
れにすぎないということができるから、このような必然的因果の流れを前提とし
て、不特定多数のユーザーをして本件ゲームソフトウエアの対戦モードをプレイで
きるようにする目的で被告製品を製造、販売する行為は、当然に不特定多数のユー
ザーによる被告製品を使用しての映画の著作物の上映という著作権侵害の結果を惹
起せしめる行為であり、かかる行為は、法的には正に被告による著作権侵害行為と
評価することができる。
 そして、本件ゲーム機を使用して本件ゲームソフトウエアの対戦モードをプレイ
する二人は、同時に対戦モードのゲームストーリーの展開を楽しむ観衆に該当する
ので、被告は、二人の観衆たるプレイヤーのうち一人を手足ないし道具として使用
し、もって被告製品を実行して本件ゲームソフトウエア(対戦モード)を公に上映
した、と評価されるものである。なお、現実には二人のプレイヤーのうち一人が被
告製品を使用するにすぎないが、ハードシステムの盗用は、その対象が全部である
か一部(必要不可欠な部分)であるかによって差異を生じないと解すべきであるか
ら、一人のプレイヤーによる被告製品の使用は、他のプレイヤーによる原告製品の
操作と相まって、本件ゲーム機によりテレビに対戦モードの動きのある影像を映し
出したこととなり、このような行為を促えて、
法的には被告による本件ゲームソフトウエア(対戦モード)の上映と評価すること
ができるのである。
 ここで、本件ゲームソフトウエア(対戦モード)の上映に供された被告製品は、
対価をもって購われたものであり、その対価は、被告製品なくしては対戦モードの
プレイができないため、観衆が本件ゲームソフトウエアの対戦モードのゲームスト
ーリーの展開を楽しむために支払う料金の一括前払いに該当するから、右上映行為
が著作権法三八条一項にいう「営利を目的としない」上映に当たらないことは明ら
かである。
(2) 仮に、被告製品を購入したユーザーが本件ゲームソフトウエアの上映の主
体であるとしても、被告もユーザーとともに上映の主体というべきである。すなわ
ち、一般のビデオソフトウエアのようにどのビデオ機器メーカーの機器によっても
上映できるものとは異なり、ユーザーによる本件ゲームソフトウエアの上映には、
本件ゲーム機本体及びコントローラー(原告製品)の製造販売が必要である。その
ため、原告製品のコピー商品である被告製品を購入したユーザーも、例外なく本件
ゲームソフトウエアを上映するという必然的因果関係があるから、ユーザーが現実
の上映者であるとしても、不特定多数のユーザーをして被告製品を使用して本件ゲ
ームソフトウエアを上映せしめる意図のもとに、受像機に映し出される影像及びそ
の動的変化の上映に不可欠な被告製品を製造、販売する被告もまた、同時にユーザ
ーを手足ないし道具として本件ゲームソフトウエアを上映しているというべきであ
る。
 この場合、被告製品を操作して本件ゲームソフトウエアを上映する各ユーザーに
ついては、公に上映しているわけではないから上映権の侵害とはならないが、これ
に対し、被告については、不特定多数のユーザーを手足ないし道具として本件ゲー
ムソフトウエアを上映せしめ、もってその不特定多数のユーザーに見聞きさせてい
るのであるから、被告が上映権の侵害行為者であるとすることに何ら問題はない。
(四) パックマン事件判決は、ビデオゲームのゲーム内容を表現するプログラム
自体を言語の著作物とみることとは別に、
ソースプログラムを記号語で書き、これを二進数の電気信号を発する形(機械語)
にしたオブジェクトプログラムに転換してROMに収納し、これをコンピュータの
CPUで読み取らせることにより、ビデオゲーム機によるアウトプットとして受像
機上に表現される影像の動的変化又はこれと音声(音楽及び効果音)によって表現
されているもの(のゲームストーリーの展開)を「映画の著作物」と認定した上、
ビデオゲーム「パックマン」の無断複製ビデオゲーム機を設置し、「パックマン」
を上映することが「パックマン」の上映権を侵害する不法行為に当たるとしたもの
であり、その意義は、①「パックマン」の影像それ自体の映画の著作物の著作権
(上映権)に基づき上映権侵害に対処できるので、不正競争防止法二条一項一号に
いう商品表示として保護する場合と異なり、影像自体の周知性を要件としない、②
「パックマン」の上映は、ビデオゲーム機のROMに収納されたプログラムをビデ
オゲーム機の実行により受像機上に影像をアウトプットすることであるから、ハー
ドウエアであるビデオゲーム機自体が無断複製品であれば、その実行が無断上映に
該当することになり、ROMに収納されたプログラムまでが「パックマン」の無断
複製品(いわゆる海賊版)であることを要しない、とした点にある。
 ただ、パックマン事件判決は、顧客が「パックマン」の無断複製ビデオゲーム機
を使用して動きのある影像を映し出す行為について、使用された無断複製ビデオゲ
ーム機は、いかなる部分が再製されたものであるのか、全体が再製されたものであ
るのか、また、どのような方法により再製されたものであるかについては一切触れ
ていない。しかし、ビデオゲーム機は、ソフトウエア及びハードウエアのシステム
として構成されており、ソフトウエアシステムのみならずハードウエアシステムも
各メーカーが独自に開発、設計したものであって、ビデオゲーム機の無断複製品と
は、ハードウエアシステムを盗用したものに外ならないから、パックマン事件判決
は、ハードウエアシステムを盗用したビデオゲーム機による上映を無断上映と断じ
たものである。
 そうすると、
本件において、本件ゲーム機本体に、専用コントローラー(原告製品)の外に、対
戦モード用の原告製品の代わりに被告製品を接続し、ユーザーと他のプレイヤーの
二人がテレビ画面上のプレイ画像の移動影像及び固定影像の変化を見ながら、ユー
ザーが被告製品を、他のプレイヤーが原告製品をそれぞれ操作して特定の影像をコ
ントロールし、両影像の変化が表現しまたデモンストレーション画像が表現する対
戦モードのゲームストーリーの展開に参加して楽しむことについても、二人のプレ
イヤーによる対戦モードの本件ゲーム機の使用には対戦モード用のコントローラー
(被告製品)が必要不可欠であり、しかも被告製品は原告の開発、設計した専用コ
ントローラー(原告製品)の情報入力システムを盗用した模倣商品であるから、か
かる被告製品の操作による本件ゲーム機の使用は、顧客とユーザーの違いを考慮に
入れないとすれば、ハードシステムの盗用の点でパックマン事件判決の事案におけ
る「パックマン」の無断複製ゲーム機の使用と同視することができる。
 仮に、パックマン事件判決がハードウエアシステムを盗用したビデオゲーム機に
よる上映が問題になった事案ではなく、無断複製のゲームソフトウエア(海賊版)
の上映が問題になった事案に関するものであるとしても、「パックマン」の著作権
者の許諾なくして「パックマン」を上映する場合に該当するから、その上映権を侵
害するものと目されるのである。
【被告の主張】
1 本件ゲームソフトウエアに蓄積された情報に従って本件ゲーム機により受像機
に映し出される映像の動的変化又はこれと音声によって表現されるものが映画の著
作物に当たるかどうかは不知。
2 仮に原告主張のように映画の著作物に当たるとしても、以下のとおり、被告が
本件ゲーム機専用のコントローラーである被告製品を製造、販売することは、右映
画の著作物について原告の有する著作権を侵害したことにはならないことが明らか
である。
(一)(1) 原告は、コントローラーのレバー及びボタンは受像機の画面上にお
いてキャラクターを移動、行動させる機能等を持っている旨主張するが、キャラク
ターを移動、
行動させるものは、本件ゲームソフトウエアであってコントローラーではない。コ
ントローラーは、単に本件ゲームソフトウエアに規定された情報に従ってキャラク
ターを移動させるきっかけを与えるための信号を本件ゲームソフトウエアに入力す
る道具(いわばスイッチの集合体)にすぎない。
 すなわち、原告も主張するように(【原告の主張】1(二))、プレイヤーによ
るコントローラーのレバー及びボタン操作により受像機の画面上に映し出される影
像にいかなる変化が生じてゲームストーリーが展開してゆくか等は、すべて情報と
してプログラムメモリーに規定され蓄積されたところによるのであって、プレイヤ
ーが本件ゲームソフトウエアのプログラムから独立して絵柄、文字等をコントロー
ラーの操作により新たに描くことは不可能である。あくまでも本件ゲームソフトウ
エアに規定、蓄積された情報の範囲内で、影像が変化し、ゲームストーリーが展開
していくのである。
(2) 原告は、本件ゲーム機本体、コントローラー及び本件ゲームソフトウエア
による「システム」なるものを考え、右「システム」については他の製造販売業者
の参入を全く認めないとするかのようである。しかし、右の三つにより構成される
「システム」それ自体は顕著な事実であって、同業他社のテレビゲーム機にも同様
の「システム」が利用されているから、右「システム」自体は、原告が排他的な権
利を持つものとして保護の対象となるべきものではない。
 本件ゲーム機本体及び本件ゲームソフトウエアが著作権法によって保護されるか
否かはともかく、それらと全く独立した、本件ゲーム機本体の周辺機器というべき
ハードウエアとしてのコントローラーは、元来コンピュータを作動させるために開
発、製造、販売されてきた単なるスイッチであり、それ自体に新規性はなく、これ
について特許権等の工業所有権又は著作権が成立しない以上、第三者の参入は自由
であり、被告がコントローラーを製造、販売しても、原則として何ら法律上の問題
は生じない。また、コントローラーは、このようにコンピュータ用に開発されたも
のであるから、
本件ゲーム機本体への接続部分を換えれば他のいくつかのゲームソフトウエアの動
画でも上映することができる。したがって、本件ゲーム機本体に接続できるコント
ローラーは、本件ゲーム機本体のために原告が開発、設計した専用コントローラー
だけであるとする原告の主張は、誤りである。
 原告の主張は、何ら根拠を示すことなく、いうところの「ハードウエアシステ
ム」や「情報入力システム」なるものが、法律上当然に保護されるとするかのよう
な主張に帰するものである。
(3)原告は、コントローラーが動画の上映に必要不可欠の機器であるとして、コ
ントローラーと本件ゲーム機本体との一体性を強調する。確かに、コントローラー
もスイッチと同様の機能を果たすものであるから、いかなる電気製品もそのスイッ
チを入れなければ作動しないという意味では、受像機に動画を上映するために不可
欠のものということができる。しかし、それがなければ動画を上映できないという
意味における機能的一体性という点では、受像機たるテレビこそ、不可欠なもので
あり機能的一体性を有するものといわなければならない。ところが、原告といえど
も、テレビについてはその製造業者に対して著作権侵害であるなどと主張しないも
のと思われる。なお、コントローラーが構造的にも物理的にも本件ゲーム機本体と
一体性を有しないことは明らかである。
(二)(1) 原告は、被告製品は原告製品の複製品である旨主張するが、被告製
品は、連射機能という原告製品にはない機能を有しているから、複製品であるとい
うことはできない。仮にその一部に類似性が認められるとしても、原告主張の「回
路」には新規性も創作性もなく、それを法的に保護して原告に独占的な使用権のよ
うなものを認めるだけの価値はない。
(2) 被告製品において採用した一五本ピンのコネクターは、昔から任天堂によ
って使用されているものである。被告製品における原告主張の(A)の回路につい
ては、多種のコントローラーから当該ゲーム機本体に適合するコントローラーを識
別できるという実益があり、更に、
被告の生産した多数のコントローラーの品質を検査する際に工程の一部を省略で
き、時間を半分ぐらい節約できるという実益がある。
 また、原告は、一五本のピンの配置の仕方が一五階乗とおりあるにもかかわら
ず、被告製品と原告製品のピン配置は全く同一である旨主張するが、一五本のピン
の殆どどれを選んでも同様の機能を実現できる場合に、その中のどれを選ぶかは、
特別の意味を持たない。原告製品の回路配置に特別の意味はなく、原告製品と同一
の効果を得るためには原告製品の回路配置が必然的なものというわけではなく、単
に回路をつないだだけであって、そこには著作権法で保護すべき何らの創作性もな
い。
(三) 被告製品を使用して本件ゲームソフトウエアに規定された情報をアウトプ
ットした動的な影像をテレビの画面上に上映する主体は、あくまでユーザーであ
る。
(1) 被告製品を購入して、原告の商品である本件ゲームソフトウエア及び本件
ゲーム機本体を使用するユーザーは、本件ゲームソフトウエア及び本件ゲーム機本
体を購入した者である。したがって、右ユーザーは、購入した本件ゲームソフトウ
エア及び本件ゲーム機本体を使用して、本件ゲームソフトウエアに規定された情報
をアウトプットした動的な影像をテレビの画面上に上映する権原を有しているか
ら、右ユーザーによる右影像の上映は、それが個人的使用の範囲にとどまる限り、
右影像についての原告の上映権を侵害することにはならない。それ故、右ユーザー
が右影像を上映する際に、コントローラーとして原告製品ではなく被告製品を使用
したとしても、右ユーザーが上映権を有している以上、それが個人使用の範囲にと
どまる限り、原告の上映権を侵害することにはならない。
 右ユーザーを被告の「手足」ないし「道具」と抽象化できないことは明らかであ
る。
(2) 原告は、被告製品購入の対価は、観衆が本件ゲームソフトウエアの対戦モ
ードのゲームストーリーの展開を楽しむために支払う料金の一括前払いに該当する
旨主張するが、被告製品購入の対価は、あくまで被告製品に対する対価であって、
原告主張のような料金の一括前払いではない。被告は、
被告製品を販売したからといって、本件ゲームソフトウエアのテレビゲームを楽し
んだユーザーから原告主張の料金(いわゆるロイヤリティー)を受領する権原はな
く、現に受領していない。
(四) パックマン事件判決は、以下のとおり本件と事案を異にするものであり、
本件には射程が及ばない。
 まず、パックマン事件判決は、ゲームソフトウエアに関するものであって、本件
のような周辺機器であるコントローラーに関するものではない。
 また、パックマン事件は、業務用のビデオゲーム機が問題になったものであり、
ゲームソフトウエアのカセットに該当する基板もコントローラーもモニターテレビ
もそのゲーム機の中に収納されているのに対し、本件は家庭用テレビゲーム機器が
問題となっているものであり、構造的にも物理的にもコントローラーとゲーム機本
体とは分離され、それぞれ独立の機器である。
 更に、パックマン事件においては、不特定多数の顧客がコインを投入してパック
マンのビデオゲームの影像を楽しむことはゲームソフトウエアの上映権を有しない
者が影像を楽しむことなのであり、店舗経営者が右ビデオゲームの影像を右顧客ら
に楽しませることも上映権を有しない者の行為であるのに対し、本件においては、
原告の製造、販売した本件ゲームソフトウエア及び本件ゲーム機本体を購入した消
費者が個人使用の範囲で本件ゲームソフトウエア及び本件ゲーム機本体を使用して
その影像を上映し、楽しむのであって、まさに上映権者が右影像の上映を行ってい
るのである。
二 争点2(被告製品にいわゆる連射機能を付加していることは、本件ゲームソフ
トウエア並びにその上映による影像及びその動的変化について原告が有する同一性
保持権を侵害するものであるか)について
【原告の主張】
 本件ゲームソフトウエアはプログラムの著作物(著作権法一〇条一項九号)とし
て、その上映による影像及び影像の動的変化は映画の著作物(同項七号)として、
それぞれ保護されるから、その著作者である原告は、本件ゲームソフトウエア並び
にその上映による影像及び影像の動的変化について同一性を保持する権利を有し、
原告の意に反して右著作物の改変を受けないものとされている(同法二〇条一項)
ところ、以下のとおり、被告が原告製品の機能、回路構成等を含めたシステムを模
倣した上にいわゆる連射機能を付加した被告製品をユーザーに販売し、購入したユ
ーザーをして被告製品により本件ゲームソフトウエアを上映させる行為は、本件ゲ
ームソフトウエア並びにその上映による影像及び影像の動的変化(著作物)につい
て原告が有する同一性保持権を侵害するものである。
1 テレビゲームにおける影像の変化及びゲームストーリーの展開は、ゲームソフ
トウエアのプログラムに規定されているゲーム情報に基づくが、そのキャラクター
を移動、行動させるゲーム情報は、プレイヤーがコントローラーのレバー及び四個
のボタンを操作していかなる入力信号をどのようなタイミングで送るかにより決定
されるゲーム操作情報に基づいて、ゲームソフトウエアのプログラムから発せられ
る。
 原告は、本件ゲーム機及び専用のゲームソフトウエアである本件ゲームソフトウ
エアの双方を開発、設計し、双方の内容及び機能を熟知しているメリットを最大限
生かし、コントローラーの機能を視野に入れて本件ゲームソフトウエアを開発、設
計している。すなわち、原告は、本件ゲーム機のコントローラーとしては原告製品
が使用されることを前提にして、テレビゲームの内容ないし難度を設定し、各ユー
ザーが最適のテレビゲームを楽しめるよう調整して開発、設計しているのである。
こうしたテレビゲームの内容及び難度は、本件ゲームソフトウエアの開発設計者で
ある原告の思想及び感情を表現したものに外ならない。
 例えば、本件ゲームソフトウエアである「餓狼伝説シリーズ」や「龍虎の拳シリ
ーズ」等には、キャラクターの移動、行動において「必殺技」「超必殺技」(原告
は、「必殺技」はオープンにしているが、「超必殺技」は「裏技」としてオープン
にしていない)と称する攻撃手段が組み込まれているが、これらの「必殺技」「超
必殺技」は、コントローラー(原告製品)の特定のボタンを一定時間押し続けるこ
とによりオンが継続する状態になり、
本件ゲーム機本体中のCPUの情報の中にパワー(ゲーム操作情報の一種)が蓄積
された時に、原告製品のレバーとボタンの操作の組合せによりインプットされるゲ
ーム情報に基づくものであり、このような攻撃手段の変化のあるゲーム情報は、テ
レビゲームのおもしろさを倍加させているのである。
2 ところが、被告製品にはレバー及び四個のボタンの外に「ターボスイッチ」が
設置されているため、このターボスイッチをオンにすれば、四個のボタンのうちの
一個のボタンを規則的に反復して押した場合と同様の動作をするので、プレイヤー
は一個のボタンを繰り返して押す労力が省かれる。しかし、その反面、ボタンが反
復して押され、オンとオフが繰り返される状態(ターボ状態)になっているので、
一定時間ボタンが押し続けられオンが継続する状態になることがなく、本件ゲーム
機本体に情報としてのパワーが蓄積されることがない。したがって、本来ならばレ
バーとボタンの操作の組合せにより本件ゲームソフトウエアのプログラムに規定さ
れたパワー時のゲーム情報に基づき繰り出されるはずの「必殺技」「超必殺技」の
攻撃手段が、被告製品では繰り出されることがない。もちろん、ターボスイッチを
使用すれば、四個のゲーム操作ボタンを押すタイミングの妙によりテレビゲームを
楽しむというようなことは求むべくもない(甲三三参照)。
 このように、被告製品の連射機能を使用することは、本件ゲームソフトウエアの
開発設計において原告の意図した内容ないし難度を下げ、あるいは人気ゲームソフ
トウエア「餓狼伝説シリーズ」「龍虎の拳シリーズ」等における「必殺技」の攻撃
手段を繰り出すことをできなくし、四個のゲーム操作ボタンを押すタイミングの妙
によるテレビゲームとしての興味を削ぐなど本件ゲームソフトウエアのおもしろさ
を左右する重要な要素に影響を与え、本件ゲームソフトウエアのプログラムに込め
られた原告の思想及び感情を原告の意に反して改変してしまうものであるから、被
告が連射機能を付加した被告製品をユーザーに販売し、ユーザーをしてその連射機
能用ボタンを操作させ、
本件ゲームソフトウエアを上映させる行為(ユーザーは被告の手足又は道具であ
り、被告の上映行為と評価される)は、本件ゲームソフトウエアの開発設計におい
て原告の意図した内容ないし難度、ひいては本件ゲームソフトウエアに込められた
原告の思想及び感情を被告が原告の意に反して改変し、同一性保持権を侵害する行
為である。
【被告の主張】
 本件ゲームソフトウエアについては同一性保持権は認められず、また、これが認
められるとしても、被告製品の連射機能を使用することは、本件ゲームソフトウエ
アやその上映による影像及び影像の動的変化を改変するものではないから、同一性
保持権の侵害とはならない。なお、被告が本件ゲームソフトウエアの上映の主体で
ないことは、前記一【被告の主張】2(三)のとおりである。
1 著作物についての同一性保持権は著作者人格権の一つであって、著作者の思
想、感情がより強く表現されるいわゆる文化財について認められるものであり、著
作者の人格的利益を保護しようとするものである。これに対し、不断の進歩、改変
が期待されるいわゆる産業財としてのプログラムには、著作者人格権を認める必然
性はなく、適当でもない(著作権法二〇条二項三、四号参照)。
 したがって、本件ゲームソフトウエアについて同一性保持権を認めるべきではな
い。原告は、コントローラーの機能を視野に入れて本件ゲームソフトウエアを開
発、設計していると主張し、あたかもハードウエア自体も同一性保持権によって保
護されると主張するかのようであるが、ハードウエアが著作権法によって保護され
ることはない。
2(一) 被告製品における連射機能は、原告主張のとおり、ゲーム操作用の四個
のボタンのうち一個をプレイヤーが規則的に繰り返し押すことにより本件ゲーム機
本体に規則的に同一の電気信号を入力する代わりに、連射ボタンを押してターボ状
態にすることにより右操作を行ったのと同様の電気信号を本件ゲーム機本体に入力
でき(前記一【原告の主張】2(二)(2))、プレイヤーは一個のボタンを繰り
返して押す労力が省かれる(二【原告の主張】2)というものにすぎない。
プレイヤーが連射ボタンを押すのとゲーム操作用ボタンを押すのとでは、画像の動
く速度に差が生じるが、その差のとおりに画像が動くのは、結局、本件ゲームソフ
トウエアのプログラムに規定された情報の範囲で本件ゲームソフトウエアのプログ
ラムに従って画像が動いているからである。換言すれば、本件ゲームソフトウエア
は、コントローラーから送られる電気信号の時間的間隔が短縮されると、それに応
じて画面上のキャラクター等の動きが速くなるようにプログラムが制作されている
ところ、連射ボタンを押せば、本件ゲーム機本体に送られる電気信号の時間的間隔
が短縮されるので、それに対応して本件ゲームソフトウエアのプログラムに規定さ
れた情報に従って画面上のキャラクター等が速く動くのである。
 したがって、連射機能を使用したからといって、本件ゲームソフトウエアとかけ
離れた結果が発生しているわけではなく、まさに原告の期待したとおりの結果が発
生しているのであって、本件ゲームソフトウエアを改変したことにはならない。
 被告が被告製品に連射機能を付加したのは、ゲームソフトメーカーが技能レベル
の高い少数のユーザーの期待に応えて次第に高度な内容のゲームソフトウエアを供
給するようになり、技能レベルの低い一般のユーザーはこのような高度な内容のゲ
ームソフトウエアについていけなくなったため、技能レベルの低い一般のユーザー
でも連射機能を使用することにより本来なら到底クリアーできないような難度の高
いゲームを自分のレベルに合わせて楽しむことができるようにすることを狙ったも
のであって、ゲームソフトウエアの種類によって連射機能を使用した方が有利な場
合とそうでない場合があり、これを使用するか否かはユーザーの選択に委ねられて
いるものである。
(二) 原告は、被告製品の連射機能を使用することによって「必殺技」の攻撃手
段を繰り出すことをできなくすることが、本件ゲームソフトウエアを改変したこと
になる旨主張するが、「必殺技」「超必殺技」は、原告主張のようにコントローラ
ーの特定のボタンを一定時間押し続けることによりオンが継続する状態になり、
本件ゲーム機本体中のCPUの情報の中にパワーが蓄積されることによって可能と
なるように、本件ゲームソフトウエアのプログラムに規定されているものであると
ころ、連射機能はこれまた原告主張のとおりオンとオフが繰り返されるターボ状態
を作り出すものであるから、連射機能を使用することによって「必殺技」「超必殺
技」の攻撃手段を繰り出せなくなることは、単にプログラムの規定に従っているに
すぎず、何ら本件ゲームソフトウエアのプログラムを改変しているものではない。
 また、原告は、連射機能を使用することによって四個のゲーム操作ボタンを押す
タイミングの妙によるテレビゲームとしての興味を削ぐ旨主張するが、これは、ハ
ードウエアとしてのコントローラーの問題であって、原告主張の著作物たる本件ゲ
ームソフトウエアについての同一性保持権とは関係がない。
 しかも、連射機能は、これを使用するか否かはユーザーの選択に委ねられている
のであるから、「必殺技」「超必殺技」を繰り出したいのであれば、また、原告主
張の四個のゲーム操作ボタンを押すタイミングの妙によるテレビゲームとしての面
白さを味わいたいのであれば、連射機能のスイッチを押さなければよいのである。
三 争点3(本件ゲーム機によって受像機に映し出される本件ゲームソフトウエア
のキャラクターを主体とする各種影像とゲームの進行に応じたこれら影像の変化の
態様は、本件ゲーム機ないし原告製品が原告の商品であることを示す商品表示とし
て周知性を取得したものであり、被告が被告製品を販売する行為は、原告の商品で
あるかのように混同を生じさせるものであるか)について
【原告の主張】
 本件ゲーム機によってのみ映し出すことのできる本件ゲームソフトウエアの特徴
的なキャラクターを主体とする各種影像とゲームの進行に応じたこれら影像の変化
の態様は、本件ゲーム機ないし原告製品が原告の商品であることを示す強い自他商
品識別機能及び出所表示機能を有する商品表示に該当し、「餓狼伝説シリーズ」等
の本件ゲームソフトウエアが爆発的な人気を博して驚異的に売上げを伸ばし、
これに随伴して本件ゲーム機もその売上げを伸ばしたことなどにより、平成四年一
二月中にはテレビゲームのユーザー及び取引者の間で周知性を取得したところ、被
告製品を本件ゲーム機本体に接続して受像機に映し出される各種影像とこれら影像
の変化の態様は、原告製品を本件ゲーム機本体に接続して受像機に映し出されるも
のと同一であるから、被告が被告製品を販売する行為は、原告の商品であるかのよ
うに混同を生じさせるものであり、不正競争防止法二条一項一号の不正競争行為に
該当するというべきである。
1 商品表示
(一) 不正競争防止法二条一項一号にいう「商品等表示」は、人の業務に係る商
品又は営業について自他識別機能又は出所表示機能を果たすものであるから、同号
に例示された氏名、商号、商標等だけでなく、要するに商品又は営業について自他
を識別し、出所を表示するものであれば、商品等表示になりうる。
 家庭用テレビゲーム及び業務用ビデオゲームにおいては、ゲームソフトウエアの
プログラムに従って受像機に映し出される影像によって展開されるゲームのおもし
ろさが、ゲーム機関係の商品の生命ないし核心をなしていることは、ゲーム業界に
おける常識である。したがって、ユーザーは、一般に、商品名以上にテレビ(ビデ
オ)ゲームにおける各種影像とゲームの進行に応じたこれら影像の変化の態様によ
って商品を識別しているという実態が存在する。
(二) 本件ゲーム機ないし原告製品についても、以下のとおり、本件ゲーム機に
よってのみ映し出すことのできる本件ゲームソフトウエアの特徴的なキャラクター
を主体とする各種影像とゲームの進行に応じたこれら影像の変化の態様が、最も強
い自他商品識別機能及び出所表示機能を有する商品表示に該当するものである。
(1) まず、本件ゲームソフトウエアの冒頭にも画面表示される「NEO・GE
O」という商品名を付した本件ゲーム機は、家庭用でありながら業務用並みの最大
容量三三〇メガのテレビゲームソフトウエアにも対応でき、画像及び音響の迫力と
リアリティにおいて業務用と同等であるという、
従来のテレビゲーム機にはない新規かつ画期的な能力及び特徴を有するものとして
広くユーザーに知られているから、右「NEO・GEO」という商品名が自他商品
識別機能及び出所表示機能を有していることは明らかである。
(2) しかし、前記(一)のとおり、テレビゲームの生命ないし核心は、正にゲ
ームソフトウエアのプログラムに従って受像機に映し出される各種影像とゲームの
進行に応じたこれら影像の変化の態様にこそあるのであり、ゲームソフトウエアが
あくまでも主であって、これを上映するためのハードウエアは従たる存在にすぎな
い。このことは、本件ゲームソフトウエアの売上高が大幅に伸びるとそれに随伴し
て上映機器としての本件ゲーム機の売上高も大幅に伸びるという密接な関連性が認
められることから明らかであり、そのため、原告は本件ゲーム機関係の広告宣伝費
の大半を「餓狼伝説シリーズ」等の本件ゲームソフトウエアの広告宣伝に費やして
おり、ハードウエアである本件ゲーム機だけを単独で広告宣伝することはほとんど
ない。ユーザーも、「NEO・GEO」の一構成商品である「餓狼伝説シリーズ」
等業務用並みの人気ゲームソフトウエアである本件ゲームソフトウエアを家庭で楽
しみたいと思って、これらを上映できる唯一の機器として本件ゲーム機を購入する
のである。
(3) そして、原告によるテレビ、新聞、雑誌等を通じての本件ゲームソフトウ
エアの全国的な広告宣伝及び人気ゲームソフトウエアのテレビアニメ化とその全国
放映等により、本件ゲームソフトウエアの特徴的なキャラクターを主体とする各種
影像とゲームの進行に応じたこれら影像の変化の態様が、強い自他商品識別機能及
び出所表示機能を取得するに至ったのであり、本件ゲーム機は、本件ゲームソフト
ウエアを上映できる唯一の機器であるとして、人気ゲームソフトウエアの強い自他
識別機能及び出所表示機能と一体となって全国的に周知となったものである。
 更に、本件ゲーム機は、本件ゲームソフトウエア、本体及びコントローラーの三
つで構成されるものとして宣伝、販売されており、
いずれか一つでも欠くと遊戯上全く意味をなさないという不可分一体の関係にあ
り、また、本件ゲームソフトウエアの特徴的なキャラクターを主体とする各種影像
とゲームの進行に応じたこれら影像の変化の態様を上映できる唯一かつ不可欠の機
器であり、しかも右の三つが相互補完的に使用されることから、本件ゲームソフト
ウエアの特徴的なキャラクターを主体とする各種影像とゲームの進行に応じたこれ
ら影像の変化の態様及びその上映における右の三つの相互補完的な使用形態と遊戯
方法が、本件ゲーム機の生命ともいうべき重要な構成要素であるということがで
き、本件ゲーム機本体に接続して使用する原告製品についても、かかる構成要素に
よってその個別性が識別され、原告の商品であることが表示されているのである。
換言すれば、ユーザーは、本件ゲーム機が本件ゲームソフトウエア、本体及びコン
トローラーの三構成で成り立っているとの認識の下に、最も強い自他商品識別機能
及び出所表示機能を有する人気ゲームソフトウエアの影像を介して、原告製品はこ
れを本件ゲーム機本体に接続してその人気テレビゲームをする(影像と音声による
ゲーム展開を楽しむ)ための機器としてもっぱら認識しているのである。
 なお、本件ゲーム機に使用される本件ゲームソフトウエアは一種類だけではな
く、「餓狼伝説」や「餓狼伝説2」等複数存在するが、ユーザー等の需要者は、右
各人気ゲームソフトウエアが本件ゲーム機によってのみ遊戯できることを認識して
いるから、複数の人気ゲームソフトウエアの各種影像とその変化の態様がすべて本
件ゲーム機ないし原告製品の商品表示となるのであって、ゲームソフトウエアの影
像が一種類であるか複数であるかは商品表示性の判断に何ら影響を及ぼさない。
(4) 被告は、本件ゲームソフトウエアの特徴的なキャラクターを主体とする各
種影像とゲームの進行に応じたこれら影像の動的変化の態様によって識別され又は
出所が表示されるのは、本件ゲームソフトウエアそのものにとどまる旨主張する。
 しかし、本件ゲームソフトウエアの各種影像とその変化の態様は、
本件ゲームソフトウエアのみでは映し出すことができず、本件ゲームソフトウエア
のゲーム情報を読み取りテレビに出力するハードウエアが必要不可欠であり、この
ように本件ゲームソフトウエアとハードウエアが一体となって初めて各種影像とそ
の変化の態様をテレビに映し出すことができるのであるから、本件ゲームソフトウ
エアの各種影像とその変化の態様は、本件ゲームソフトウエア自体だけではなく、
本件ゲーム機本体及びコントローラー(原告製品)を含むすべてについて原告の商
品であることを表示するものということができる。
2 周知性
(一) 平成二年当時、任天堂の家庭用ファミコン等家庭用テレビゲーム機のゲー
ムソフトウエアの容量は一般に数メガにすぎず、画像及び音響の迫力とリアリティ
は業務用ビデオゲーム機に及ぶべくもなかった。原告は、右の状況に着目し、ゲー
ム場でのビデオゲーム感覚を家庭でも楽しめることをコンセプトに、前記のとおり
家庭用でありながら業務用並みの最大容量三三〇メガのゲームソフトウエアにも対
応でき、画像及び音響の迫力とリアリティにおいて業務用と同等である本件ゲーム
機を開発し、平成二年三月頃から日本全国及び海外で販売を開始した。本件ゲーム
機は、その迫力とリアリティが従来の家庭用テレビゲーム機の常識を覆すものとし
て極めて新規かつ特殊なものであったため、業界の内外の注目を集め、原告も本件
ゲーム機について継続的な宣伝広告を行った(甲二八ないし三二)。
(二) そして、原告が本件ゲーム機の高性能を十分に生かせるような「格闘技シ
リーズ」等、特にユーザーの爆発的な人気を得た「餓狼伝説シリーズ」「龍虎の拳
シリーズ」等の本件ゲームソフトウエアを発売するとともに、平成四年九月頃から
本件ゲーム機も急激に売上げを伸ばし、国内販売のみで同年一〇月が約一〇〇〇
個、一一月が約二三〇〇個、一二月が約四一〇〇個というように倍々の売上げを記
録した(甲一)。本件ゲーム機の迫力とリアリティが従来の家庭用テレビゲームの
様相を一変させるとの高い評価を業界の内外で受け、専門誌、一般誌、新聞等で盛
んに取り上げられ、
極めて好意的に紹介されるとともに(甲四の1ないし4、二三ないし二七)、原告
自身も、より積極的にテレビ、雑誌により本件ゲーム機及び本件ゲームソフトウエ
アの宣伝活動を展開した。
 こうして、本件ゲーム機は、「餓狼伝説シリーズ」「龍虎の拳シリーズ」の爆発
的人気と相まって更に売上げを伸ばし、平成五年三月には一万七六六〇個(売上額
五億二三三二万七五三七円)、被告が被告製品を発売する直前である同年一〇月に
は二万三五〇九個(同六億九二七二万九六六四円)、一一月には二万三九三四個
(同七億〇三八五万六一四〇円)、一二月には二万八〇四一個(同八億二四九六万
八三九二円)という驚異的な売上げを記録した。
 更に、人気ゲームソフトウエアの一つである「餓狼伝説2」の周知性は、警察及
び検察庁という公的機関によっても承認されるところとなり(甲二三、二四、三七
ないし三九)、一般新聞紙(甲二七、四〇ないし四二)においても端的に報道され
ている。
(三) 以上のとおり、遅くとも平成四年一二月中には、本件ゲームソフトウエア
の影像とゲームの進行に応じたこれら影像の変化の態様は、本件ゲームソフトウエ
アの上映における本件ゲーム機との相互補完的な使用形態と遊戯方法及び「ネオジ
オ」又は「NEO・GEO」という商品表示とともに、本件ゲーム機ないし原告製
品が原告の商品であることを示す商品表示としてユーザー及び取引者の間で広く知
られるに至った。
(四) なお、原告は、本件ゲームソフトウエアのうち数種をスーパーファミコン
用等のゲームソフトウエアに移植することを許諾したが、それは、右のとおり影像
とその変化が本件ゲーム機ないし原告製品が原告の商品であることを示す商品表示
として周知性を確立した後に、その人気に着目した訴外タカラ等から要請を受け、
相当な対価の支払を受けてそのテレビゲーム機用のゲームソフトウエアに「餓狼伝
説シリーズ」「龍虎の拳」「サムライスピリッツ」を移植することを許諾したもの
であり、その結果、スーパーファミコン等他社のテレビゲーム機によっても右「餓
狼伝説シリーズ」等の上映が可能になったというにすぎないから、
既に確立された本件ゲーム機ないし原告製品についての周知性は何ら損なわれるも
のではない。
3 混同を生じさせる行為
(一) 不正競争防止法二条一項一号の「他人の商品・・・と混同を生じさせる行
為」とは、同一又は類似の商品表示を使用した結果、ある商品と周知商品表示を使
用した商品との間で混同を生じさせる行為又は商品の出所の混同を生じさせる行為
のことであり、商品の出所の混同については、出所が同一と思わしめる混同(狭義
の混同)だけでなく、ある商品の出所と周知商品表示を使用した商品の出所との間
に営業上の系列関係、取引関係その他両者間に何らかの関係が存すると思わしめる
混同(広義の混同)が認められれば足りるのであり、ここにいう混同とは、現実に
混同が生じている必要はなく混同のおそれがあることで足り、そして、この混同の
おそれの判断についていえば、一般的に、原告と被告の商品が同じ種類のものであ
ればあるほど、また、両者の商品表示の類似性が高ければ高いほど、更に、原告の
商品表示が特徴的で周知性が高いほど混同のおそれは強くなるのである。
(二) 次の(1)ないし(10)のような事実によれば、被告が被告製品を販売
する行為は、被告製品を原告の商品であるかのようにユーザー及び取引者に混同を
生じさせるものであることが明らかである。
(1) 本件ゲーム機は、本件ゲームソフトウエア、本体及びコントローラーの三
つで構成されており、いずれか一つでも欠くと遊戯上全く意味をなさないという不
可分一体の関係(相互補完的な使用形態)にある。
(2) 原告製品と被告製品は、単に原告の製造にかかる本件ゲーム機のコントロ
ーラーであるということで同種の機器であるというにとどまらず、本件ゲーム機本
体に接続してのみ使用できるだけであり、他社製のゲーム機には使用できないとい
う意味で用途が全く同一である。その意味で、被告製品は、本件ゲーム機本体がな
ければ何の役にも立たず、いうなれば対戦モード用としての原告製品の代わりに購
入される代替品にすぎない。現に、ユーザー及び取引者は、被告製品を本件ゲーム
機専用の商品として購入しあるいは取り扱っている。
(3) 被告製品は、原告製品の回路構成等の情報入力システムを盗用して製造さ
れたものであり、連射機能部分を除けば、回路構成等の構造が原告製品と同一であ
る。
(4) 原告製品と被告製品において、影像の動的変化を生じさせるためのゲーム
操作用のレバー一個とボタン四個のそれぞれが持つ機能・役割及び配置は同一であ
る。したがって、ユーザーは、被告製品の右レバー一個とボタン四個を原告製品と
同様に操作することにより、原告製品によって生じる人気ゲームソフトウエアの影
像の動的変化と全く同じ影像の動的変化を生じさせることができる。
(5) テレビゲームにおいては、ゲームソフトウエアのプログラムに従って受像
機に映し出される影像によって展開されるゲームのおもしろさこそが生命であり、
ユーザーは、一般に、商品名以上にその影像とゲームの進行に応じたこれら影像の
変化の態様によって、ゲームソフトウエアだけでなく、これを上映するためのハー
ドウエアについても、その商品の個別性を識別している。
(6) 「餓狼伝説シリーズ」「龍虎の拳シリーズ」等の本件ゲームソフトウエア
は、家庭用でありながら画像及び音響の迫力とリアリティにおいて業務用のビデオ
ゲームソフトウエアと同等であるという新規かつ画期的な特徴があり、また、テレ
ビアニメ化され全国放映されるなどユーザーの間で広く知られている。
(7) 「餓狼伝説シリーズ」等の本件ゲームソフトウエアが人気を得るのと連動
して、本件ゲーム機の売上げが急増している。
(8) 被告製品を購入するユーザーは、本件ゲームソフトウエア及び本件ゲーム
機に加えて対戦モード用コントローラーとして購入した被告製品を、本件ゲーム機
本体に接続して人気テレビゲームを行うのであって、すなわち、被告製品を、本件
ゲーム機本体に接続して影像及び音声によって展開される右人気テレビゲームを楽
しむための機器として認識している。
(9) 本件ゲーム機ないし原告製品については、
本件ゲームソフトウエアの特徴的なキャラクターを主体とする各種影像とゲームの
進行に応じたこれら影像の変化の態様及びその上映における本件ゲームソフトウエ
ア、本体及びコントローラーの相互補完的な使用形態と遊戯方法が、最も強い周知
性のある商品表示に当たるところ、被告製品を本件ゲーム機本体に接続して受像機
に映し出される各種影像とこれら影像の変化の態様等は、右本件ゲーム機ないし原
告製品のものと同一である。
(10) 「ファイティングスティックNEO」なる名称の被告製品は、もともと
「ファイティングスティックNEO・GEO」という名称により、その出所が原告
製品の出所と同一であるかのようにユーザー及び取引者に混同を生じさせることを
前提とするものであったところ、現に、被告製品は販売店において「NEO・GE
O」専用コーナーにおいて売られている。
4 「スペース・インベーダー事件判決」、「ワールド・インベーダー事件判決」
との対比
(一) 東京地裁昭和五七年九月二七日判決・無体集一四巻三号五九三頁(以下
「スペース・インベーダー事件判決」という)及び大阪地裁昭和五八年三月三〇日
判決・判例タイムズ四九五号一九六頁(以下「ワールド・インベーダー事件判決」
という)は、テレビ型ゲームマシンの受像機に映し出される「インベーダーを主体
とする各種影像とゲームの進行に応じたこれら影像の変化の態様」はそれ自体商品
の出所を表示することを目的とするものではないが、取引上第二次的に商品出所表
示機能を備えるに至ったものであると認定した上で、各事件における原告商品と被
告商品のそれぞれの商品名及び形状が明らかに異なるにもかかわらず、これを全く
問題にすることなく、右「インベーダーを主体とする各種影像とゲームの進行に応
じたこれら影像の変化の態様」が同一ないし基本的に同一であるとして、各事件に
おける被告の行為を商品の混同を生じさせる行為であると認めたものである。
(二) 本件ゲーム機についても、右各判決の事案同様、
「餓狼伝説シリーズ」等の人気ゲームソフトウエアの周知性故に本件ゲーム機によ
ってのみ上映できるこれら本件ゲームソフトウエアの特徴的なキャラクターを主体
とする各種影像とゲームの進行に応じたこれら影像の変化の態様が最も強い自他商
品識別機能及び出所表示機能を有する商品表示に該当するところ、前記3(二)
(8)のとおり被告製品を購入するユーザーは被告製品を、本件ゲーム機本体に接
続して影像及び音声によって展開される右人気テレビゲームを楽しむための機器と
して認識しているから、被告は、原告が時間、費用、労力を費やして築き上げた本
件ゲーム機の商品表示の有する顧客吸引力を、原告製品の代替品にすぎない被告製
品を製造、販売することによって一部横取りしているのであり、正に不正競争行為
に当たることは明らかである。
(三) 本件事案とスペース・インベーダー事件判決及びワールド・インベーダー
事件判決の事案との相違点は、右両事件においては、ソフトとハードが一体となっ
て一個の機器となっているのに対し、本件事案においては、本件ゲームソフトウエ
ア、本体及びコントローラーの三つで構成されている点のみである。
 しかし、本件ゲーム機における本件ゲームソフトウエア、本体及びコントローラ
ーは機能的には不可分一体となっており、右のように三個の機器の構成としたの
は、もっぱら家庭における遊戯上の便宜であるにすぎず、そのコントローラーの機
能・役割は、ゲームソフトウエア、本体及びコントローラーが一個の機器となって
いる業務用ビデオゲーム機におけるコントローラー部分と全く同一である。しか
も、右(二)のとおり本件ゲーム機によってのみ上映できる本件ゲームソフトウエ
アの特徴的なキャラクターを主体とする各種影像とゲームの進行に応じたこれら影
像の変化の態様が最も強い自他商品識別機能及び出所表示機能を有しており、か
つ、ユーザーは、被告製品を、本件ゲーム機本体に接続して影像及び音声によって
展開される人気テレビゲームを楽しむための機器として認識しているから、コント
ローラーがゲーム機本体及びゲームソフトウエアと物理的に一体となっているか否
かは、
本件ゲーム機のコントローラーについての自他商品識別ないし出所の表示に何ら影
響を与えるものではない。
 したがって、本件事案とスペース・インベーダー事件判決及びワールド・インベ
ーダー事件判決の事案とは、不正競争防止法適用の観点からみる限り全く同一であ
る。
5 「実用新案出願中」の表示
 被告は、原告は原告製品について実用新案登録出願をしていないにもかかわら
ず、原告製品を国内販売するのに使用していた包装箱に「実用新案出願中」なる文
字を記載していると主張するが、原告は、本件ゲーム機に関していくつかの実用新
案登録出願をしているのであり、それを本件ゲーム機を入れる包装箱に表示したに
すぎない。
【被告の主張】
1 商品表示
(一) 原告は、家庭用テレビゲーム及び業務用ビデオゲームにおいては、ユーザ
ーは受像機に映し出される影像によって商品を識別している旨主張するが、右影像
によって識別され又は出所が表示されるのは、右影像がアウトプットされる源とな
っている商品としてのゲームソフトウエアにとどまるのである。原告が「ゲームの
おもしろさがゲーム機関係の商品の生命ないし核心をなしている」という場合の
「商品」も、やはりゲームソフトウエアを意味すると考えられる。原告が「ゲーム
ソフトウエアがあくまでも主であって、これを上映するためのハードウエアは従た
る存在にすぎない」と主張している(1(二)(2))ことからも、原告がいかに
ゲームソフトウエアを重視し、ハードウエアを軽視しているかが理解できるととも
に、ゲームソフトウエアの自他商品識別機能又は出所表示機能が定まればハードウ
エアの右各機能はこれに従属して必然的に定まるとの発想を原告が有していること
が理解できるのである。
(二) 原告がいう「本件ゲームソフトウエアの特徴的なキャラクターを主体とす
る各種影像とゲームの進行に応じたこれら影像の変化の態様」についても、これに
よって自他商品識別機能及び出所表示機能を取得しているのは、本件ゲームソフト
ウエアであって、これを上映するために使用する本件ゲーム機ではない。
 原告は、
本件ゲームソフトウエアを上映できる唯一の機器が本件ゲーム機であるというだけ
で、本件ゲームソフトウエアについての右自他商品識別機能及び出所表示機能を本
件ゲーム機、更には周辺機器たるコントローラー(原告製品)にまで及ぼそうとす
るが、論理必然的な帰結ではない(このことは、「NEO・GEO」という商品名
についても同様である)。現在のところは本件ゲームソフトウエアを上映すること
のできるゲーム機本体としては本件ゲーム機本体しかないと仮定しても、そのうち
に本件ゲームソフトウエアを上映できる他の機器が出現することは予想できるとこ
ろであり、資本主義社会における自由競争市場においては、独占的な利潤を一社が
単独で享受しうる状態は長く続くものではなく、やがて第三者の参入によって消滅
していかざるをえないのであって、それが自由市場経済の鉄則であり、消費者にと
っても利益となるのである。原告がただ一社で独占的な利益を享受できるような状
態を自然なものと考えているとすれば、そこに原告の考え方の基本的な誤りがある
といわざるをえない。現に、本件ゲームソフトウエアの一部(人気ゲームソフトウ
エア)は、スーパーファミコン等他社のゲーム機でも上映することができるのであ
る。
 本件ゲーム機が本件ゲームソフトウエア、本体及びコントローラーの三つで構成
されるものとして宣伝、販売されているとしても、それは単に原告の都合にすぎな
い。原告は、右構成のうちの一つでも欠くと遊戯上全く意味をなさないという不可
分一体の関係にあるとも主張するが、「遊戯上」、「不可分一体」の意味が不明確
である。遊戯上全く意味をなさないという観点からいえば、受像機たるテレビこそ
まさにそうである。原告がいくら右の三つが不可分一体であると強調しても、ユー
ザーは、不可分一体とは思わないからこそ、被告製品を購入して、本件ゲームソフ
トウエア及び本件ゲーム機本体と一緒に使用してゲームを楽しんでいるのである。
 更に、原告は、本件ゲームソフトウエア、
本体及びコントローラーの三つの相互補完的な使用形態と遊戯方法も本件ゲーム機
の生命ともいうべき重要な構成要素であると主張するが、意味不明である。
2 周知性
 本件ゲームソフトウエアの影像とゲームの進行に応じたこれら影像の変化の態様
は、本件ゲームソフトウエアの上映における本件ゲーム機との相互補完的な使用形
態と遊戯方法及び「ネオジオ」又は「NEO・GEO」という商品表示とともにユ
ーザー及び取引者の間で広く知られるに至ったとの主張は争う。
 原告のいう相互補完的な使用形態と遊戯方法の意味は明確でないが、本件ゲーム
ソフトウエア、本件ゲーム機本体及びコントローラーを使用してテレビゲームを楽
しむという意味であるとすれば、かかるゲームの楽しみ方は他のメーカーのテレビ
ゲーム機においても同じである。本件ゲームソフトウエアの周知性とハードウエア
としてのコントローラーの周知性とは全く別のものである。
3 混同を生じさせる行為
(一) 不正競争防止法二条一項一号にいう「混同」とは、現実に混同が生じてい
る必要はなく混同のおそれがあることで足りるとしても、単に抽象的な危険がある
だけでは足りず、具体的危険がなければならない。そして、混同の有無は、当該表
示の方法、態様等諸般の事情に照らし、取引界の実情及び一般消費者の判断を基準
にして具体的に決すべきであり、その判断に当たって基準となる注意力は、その商
品の取引の実情の下における平均的な需要者又は取引者の注意力であるとされてい
る。
(二) 原告は、被告製品の販売が原告の商品であるかのように混同を生じさせる
事情として【原告の主張】3(二)(1)ないし(10)のとおり主張するが、以
下のとおり、これらはいずれも混同を生じさせる根拠となるものではない。
(1) 本件ゲーム機が本件ゲームソフトウエア、本体及びコントローラーの三つ
で構成されていることについては、原告の都合によって右の三つがたまたまセット
として販売されているだけであって、実際上もコントローラーは別売りされてお
り、不可分一体の関係にあるとはいえない。
コントローラー(原告製品)がなくても被告製品があればゲームを楽しむことがで
きるのであるから、「いずれか一つでも欠くと遊戯上全く意味をなさない」という
ことはない。
(2) 被告製品が原告製品の代替品にすぎないとしても、代替品の製造販売自体
は本来自由であり、何ら問題ではない。
(3) 被告製品は、連射機能という原告製品にはない機能を有しているから、複
製品であるということはできない(前記一【被告の主張】2(二)(1))。
(4) 被告製品におけるゲーム操作用のレバー一個とボタン四個の機能・役割が
原告製品におけるそれと同一であることは、被告製品が原告製品の代替品としての
機能を果たすものである以上当然のことである。配置は、同一とはいえない。な
お、原告製品の形態自体が出所表示の機能を備えるに至ったとはいえない。
(5) 原告は、ユーザーはゲームソフトウエアのプログラムに従って受像機に映
し出される影像とその変化の態様によって、ゲームソフトウエアだけでなくこれを
上映するためのハードウエアについてもその商品の個別性を識別している旨主張す
るが、影像とその変化の態様により個別性を認識されるのは商品としてのゲームソ
フトウエアであって、これによって何故、ハードウエアについてもその個別性が認
識されるのか明確ではない。ハードウエアは、あくまでもハードウエアによってそ
の個別性が認識されるというのが自然なのである。
(6) 原告の主張するところは、本件ゲームソフトウエアに関するものである。
(7) 右(6)と同様である。
(8) 原告の主張するところはそのとおりである。
(9) 原告の主張するところは不明確で理解できない。
(10) 「ファイティングスティック」というのは、被告の商品として周辺機器
業界では周知のものであり、「ファイティングスティック」という商標があればそ
れが被告の商品であることがユーザー及び取引者に容易に分かることであるから、
「混同を生じさせることを前提とするものであった」というのは、全くの誤りであ
る。被告製品をどのコーナーで販売するかは販売店が決めることであって、
被告がとやかく言われる問題ではない。また、仮に「NEO・GEO」専用コーナ
ーで売られているとしても、被告製品が原告製品の代替品である以上当然のことで
ある。
4 スペース・インベーダー事件判決、ワールド・インベーダー事件判決との対比
 両判決の事案は、ビデオゲーム機メーカー同士の争いであり、両社ともにゲーム
機本体及びそれに使用するゲームソフトウエアに基づく影像を保有しているのであ
り、かかるゲームソフトウエアを各受像機に映し出して表現された影像とその変化
の態様の同一性を問題にしているのである。これに対し、本件は、影像の同一性に
ついて争うべき複数のゲームソフトウエア及びこれを制作した複数のメーカーは存
在せず、ただ、本件ゲーム機の周辺機器であるコントローラーを製造するメーカー
が存在するにすぎないから、事案を異にするものである。
5 「実用新案出願中」の表示
 原告は、コントローラー(原告製品)について実用新案登録出願をしていないに
もかかわらず、原告製品を国内販売するのに使用していた包装箱(乙一〇の3)
に、「実用新案出願中」なる文字を記載している。かかる虚偽の表示をして原告製
品を販売している原告には、被告製品の販売行為に対して不正競争防止法による保
護を主張して差止めや損害賠償を求める資格のないことが明らかである。
四 争点4(本件ゲーム機及び原告製品に使用された「ネオジオ」又は「NEO・
GEO」という商品表示は、原告の商品表示として周知性を取得したものであり、
被告が被告製品(一)に「ファイティングスティックNEO(Fighting 
Stick NEO)」という表示を、被告製品(二)に「ファイティングスティ
ックNEOⅡ(Fighting Stick NEOⅡ)」という表示を使用し
て販売する行為は、原告の商品であるかのように混同を生じさせるものであるか)
について
【原告の主張】
 原告が本件ゲーム機及び原告製品に使用している「ネオジオ」又は「NEO・G
EO」という商品表示は、遅くとも平成四年一二月中には原告の製造、
販売する本件ゲーム機及び原告製品が原告の商品であることを示す商品表示として
テレビゲームのユーザー及び取引者の間で広く知られるに至ったところ、被告が被
告製品(一)に「ファイティングスティックNEO(Fighting Stic
k NEO)」という表示を、被告製品(二)に「ファイティングスティックNE
OⅡ(Fighting Stick NEOⅡ)」という表示を使用して販売す
る行為は、原告の商品であるかのように混同を生じさせるものである。
1 「ネオジオ」又は「NEO・GEO」という商品表示を使用した本件ゲーム機
は、前記三【原告の主張】2(一)ないし(三)記載のとおり、画像及び音響の迫
力とリアリティが従来の家庭用テレビゲーム機の常識を覆すものとして極めて新規
かつ特殊なものであったため、業界の内外の注目を集め、原告も本件ゲーム機につ
いて継続的な宣伝広告を行い、「餓狼伝説シリーズ」「龍虎の拳シリーズ」等の本
件ゲームソフトウエアが爆発的人気を得たことと相まって更に売上げを伸ばし、専
門誌、一般誌、新聞等で盛んに取り上げられるなどした結果、右「ネオジオ」又は
「NEO・GEO」という商品表示は、遅くとも平成四年一二月中には、本件ゲー
ム機ないし原告製品(及び本件ゲームソフトウエア)が原告の商品であることを示
す商品表示として、ユーザー及び取引者の間で広く知られるに至った(甲二七、四
一、四二の各新聞記事からも明らかである)。
 被告は、「ネオジオ」又は「NEO・GEO」の知名度は、せいぜい本件ゲーム
機本体の商品名としての知名度にとどまる旨主張するが、本件ゲーム機の専用コン
トローラー(原告製品)自体の名称も「NEO・GEO」なのである(甲六、検甲
三)。
2 被告は、被告製品に「ファイティングスティックNEO」及び「ファイティン
グスティックNEOⅡ」という表示を使用していることにより、ユーザー及び取引
者に原告の商品であるかのように混同を生じさせるものである。
 被告は、被告製品の発売に先立つ平成五年一〇月二一日、原告に対し、販売価格
の一・五%のロイヤリティを支払うとの条件で、
「NEO・GEO」の名称を使用して本件ゲーム機専用のコントローラーを製造、
販売することの許諾を求めてきたのであり、右コントローラーの名称を「ファイテ
ィングスティックNEO・GEO」とする予定とのことであったが、原告がこれを
拒絶したところ、被告は、右名称から「GEO」だけを外した「ファイティングス
ティックNEO」という表示を使用し、原告の同年一二月一三日到達の書面(甲五
二の1)による警告を無視して被告製品(一)の発売を強行したものである。この
ことは、被告が当初から被告製品(一)に一般名詞の接頭語としての「NEO」な
る名称を使用しようとしたのではなく、原告の許諾が得られなかったために「NE
O・GEO」から「GEO」を外したにすぎず、被告が類似の名称を用いる意思を
有していたことを示すものであり、もともと「ファイティングスティックNEO・
GEO」という名称によりその出所が原告製品の出所と同一であるかのようにユー
ザー及び取引者に混同を生じさせることを前提とするものであったことが明らかで
ある。
 被告製品は、現に、販売店において「NEO・GEO」専用コーナーにおいて売
られており、また、被告が任天堂やセガのコントローラーを製造、販売するについ
ては、一般にゲーム機メーカーにロイヤリティを支払うという取引関係にある事実
が存在するから、「ファイティングスティックNEO」及び「ファイティングステ
ィックNEOⅡ」という表示の使用により、ユーザー及び取引者に少なくともその
出所が原告との間の取引上の緊密な活動に基づくものとの混同を生じさせるもので
あることは明らかである。
【被告の主張】
1 「ネオジオ」又は「NEO・GEO」が本件ゲーム機の商品名であるとして
も、その知名度は、せいぜい本件ゲーム機本体の商品名としての知名度にとどまる
ものと思われる。「ネオジオ」又は「NEO・GEO」という商品名によって、コ
ントローラーについてまで原告の独占的権利を認めるべき理由はない。
2 テレビゲーム機本体に適合する周辺機器を製造、販売することは、他人の工業
所有権により禁止される場合を除いて本来自由であり、
したがって、本件ゲーム機本体に適合する周辺機器であるコントローラーを製造、
販売することも、工業所有権により禁止されるものは何もないので、自由であるこ
とが原則である。この場合、右周辺機器には当然のことながらその対象となるゲー
ム機本体が存在するのであり、右周辺機器には、その対象となりこれと適合するゲ
ーム機本体が明確に表示されなければ、消費者はその周辺機器がどのゲーム機本体
に適合するか分からないから、特定のゲーム機本体の使用に適合することを示す表
示、すなわち用途表示が不可欠である。他人の登録商標を使用する場合であって
も、登録商標を自己の商品の商標として使用するのではなく、当該商品の使用マニ
ュアルやパッケージ等に「○○○○用」(○○○○は登録商標)というように用途
表示として記載するのであれば、商標法によって禁止されることはなく、また、少
なくともゲーム機業界においては不正競争防止法に違反することもないと解されて
いる。仮に用途表示を不正競争防止法によって禁止することになれば、右のとおり
本来周辺機器の製造販売は自由であるにもかかわらず、用途表示のない周辺機器は
実際上販売できないから、事実上右周辺機器の製造販売を禁止するのと同様の効果
を生じることとなり、右周辺機器の製造販売を自由にすることによって技術革新を
促進し併せて消費者にその利益を享受させようとする不正競争防止法の趣旨にも反
することになる。まして、他人の登録商標そのものではなく、その一部又は略称を
用途表示として使用する場合は、なおさら許容されることになる。
 被告が使用している「ファイティングスティックNEO」又は「ファイティング
スティックNEOⅡ」という表示は、被告製品が本件ゲーム機本体に適合するもの
であることを示す用途表示であって、被告製品の商標として使用しているものでは
なく、かつ、「NEO・GEO」そのものではなく、その一部であるから、かかる
表示を付して被告製品を販売することは、何ら不正競争防止法二条一項一号の不正
競争に該当するものではない。
 平成五年一〇月二一日における被告の原告に対する申込みは、
原告に対して「NEO・GEO」なるロゴを被告製品(一)につけて販売させてほ
しい旨申し込んだものにすぎない。
3 しかも、「ファイティングスティックNEO」又は「ファイティングスティッ
クNEOⅡ」という表示は、「NEO・GEO」という表示と類似せず、混同を生
じない。
(一) 被告製品(一)及びそのパッケージにおいては、「ファイティングスティ
ックNEO」又は「Fighting Stick NEO」のうち、「ファイテ
ィングスティック」又は「Fighting Stick」の部分と「NEO」の
部分は別の行に分けて二段に記載されており、字体及び文字の大きさも異なってい
る。これを客観的に観察すれば、「ファイティングスティック(Fighting
 Stick)」と「NEO」とは同価値ではなく、「ファイティングスティック
(Fighting Stick)」が主であり、かつ、被告製品の基本商標であ
って、「NEO」は用途表示としての機能を持たせつつ付加されたものであるとい
うことができる。文字数や音節数を比べても、「ファイテングスティック(Fig
hting Stick)」の方が「NEO」よりも多いので、被告製品を識別す
るためには前者が要部として重視されることが理解できる。
 しかして、右要部たる「ファイティングスティック(Fighting Sti
ck)」は、「ネオジオ」又は「NEO・GEO」とは外観、称呼、観念いずれか
らみても類似しないことが明らかである。
(二) そもそも「NEO」は、単に「新」という意味の接頭辞にすぎず、それ自
体から直ちに「NEO・GEO」を想起させるものではなく、「NEO」を含む登
録商標は、被告の知りえた限りでも原告・被告の属する業界の商標分類第二四類だ
けでも二〇件に及ぶのであるから、「ファイティングスティックNEO(Figh
ting Stick NEO)」という表示から「NEO」なる部分を特に取り
出し、
その前についている「ファイティングスティック(Fighting Stic
k)」という部分を故意に脱落させて「ネオジオ」又は「NEO・GEO」と混同
を生じさせるとするのは全く根拠がない。
(三) 「ファイティングスティック」は、被告が平成四年七月三一日にスーパー
ファミコンに対応するコントローラーを「ファイティングスティック」の名称で発
売して以来、「ファイティングスティックPC」(平成五年六月一六日)、「ファ
イティングスティックマルチ」(平成五年九月三〇日)、「ファイティングスティ
ックNEO」(平成五年一二月一七日)、「ファイティングスティックNEOⅡ」
(平成六年一二月二八日)、「ファイティングスティックDUAL」(平成六年一
一月一九日)、「ファイティングスティックPS」(平成六年一二月一〇日)、
「ファイティングスティックSS」(平成六年一二月二二日)、「ファイティング
スティックDUAL PLUS」(平成七年二月九日)というように「ファイティ
ングスティック」シリーズとして販売し続けてきたものであって、「ファイティン
グスティック(Fighting Stick)」という商標は、被告の商品表示
としてゲーム機業界及び顧客層の間で周知であるから、原告の商品であるとの混同
は生じない。
(四) 更に、被告製品は、原告製品と具体的に次の点で異なるものであり、実
際、ユーザーは、ユーザーの間でそのコントローラーが品質、操作性、デザインな
どの点で優秀であることが周知の事実である被告の製造、販売したコントローラー
であると認識して被告製品を購入するのであって、被告製品を原告の製造、販売し
たコントローラーであると誤認混同して購入するわけではない。
(1) 製品自体の相違(乙七)
 外観について、被告製品は、スティック部分に凹凸がなく、セレクトボタン及び
スタートボタンが赤く、トリガーボタンがグレーであり、表面に「HORI」及び
「Fighting Stick NEO」の表示があるのに対し、原告製品は、
スティック部分に凹部があり、
セレクトボタン及びスタートボタン並びにトリガーボタンがいずれもダークグレー
であり、表面に「SNK」及び「NEO・GEO」の表示がある。
 重さは、被告製品が約一三〇〇gであるのに対し、原告製品は約七五〇gであ
り、大きさも、被告製品の方が一回り大きい。この点は、対戦用コントローラーと
しては決定的な相違点であり、操作の安定性という観点から、原告製品より被告製
品の方が優れていることはユーザーには周知の事実である。
 被告製品には連射機能があるのに対し、原告製品にはない。
(2) パッケージの相違
 被告製品のパッケージは、ゲーム機器においてはパッケージが販売戦略上重要で
あることをよく理解して作成されていて優れており、パッケージの重要性について
考慮が払われていない貧弱なデザインの原告製品のパッケージとは、記載された文
字、色及びデザイン等において顕著な相違があり、一見して見分けられる。一般に
ゲーム機器の販売店では、周辺機器は各メーカーの商品が別段の規則性もなく上段
又は下段にまとめて置かれているのが実情であるが、それでも、被告製品と原告製
品とは、右のとおりパッケージが全く異なるため、混同されることはない。
五 争点5(右1ないし4のいずれかにより被告が損害賠償義務を負うとした場合
に、原告に対し賠償すべき損害の額)について
【原告の主張】
1 被告は、被告製品(一)の販売に先立って、原告から前記平成五年一二月一三
日到達の警告書により被告製品(一)の販売の中止及び廃棄を求められたにもかか
わらず、その警告を無視して被告製品(一)の販売を強行し、原告の営業上の利益
を侵害したものであるから、被告には被告製品の販売につき少なくとも過失があ
る。
2(一) 被告は、平成五年一二月、被告製品(一)を一個当たり三九四四円で合
計二万個販売し、一個当たり二〇三〇円の利益を得た(このことは、反訴に関する
後記七【被告の主張】1(一)において被告自ら主張するところである)。
 したがって、被告が右の被告製品(一)の販売によって得た利益は合計四〇六〇
万円である。
(二)(1) 被告は、平成六年三月、
被告製品(一)を一個当たり三九四四円で合計二万個追加販売した。
 被告は、右追加販売数は九九〇〇個である旨主張するが、右(一)の第一次製造
販売数が二万個であったこと、被告は、反訴に関する後記七【被告の主張】1
(一)において、被告の生産計画によれば被告は被告製品(一)二万個の製造を一
〇日間で完了し、その二万個の販売を次の一五日間で完了する予定であったと主張
していることから、被告による被告製品(一)の製造販売は二万個を一回当たりの
単位としていたものと認められるから、右追加販売数も二万個であった蓋然性が高
い。
 また、被告は、平成八年一月二二日、裁判所から、損害の計算をするため必要な
書類として総勘定元帳、売掛台帳、買掛台帳、売上元帳、仕入元帳及び売上伝票を
提出するよう命じられたのに、正当な理由なく応じなかったから、文書不提出によ
る効果として、民訴法三一六条の適用により、原告の証明主題、すなわち被告が被
告製品(一)を二万個販売したことによって四〇六〇万円の利益を得たという事実
が真実であると認められるというべきである。
 仮に右主張が認められないとしても、原告は、裁判所が提出を命じた総勘定元
帳、売掛台帳、売上元帳及び売上伝票には被告製品(一)の販売数が二万個である
旨の記載があると主張するものであるところ、当該文書の記載内容に関する右原告
の主張が民訴法三一六条によって真実と認められるべきである。
(2) そして、被告は、被告製品(一)の一個当たりの利益が二〇三〇円である
ことを自認しているから、被告が被告製品(一)を二万個追加販売したことによっ
て得た利益は合計四〇六〇万円である。
(三) 被告は、平成六年一二月、被告製品(一)と全く同一の回路構成であり、
わずかにボディやボタンの色を変えただけの被告製品(二)を合計二万四三〇〇個
製造、販売した。
 被告製品(二)は、右のとおり実質的に被告製品(一)と同一のコントローラー
であり、小売価格も六八〇〇円と同一であるから、一個当たりの利益の額も被告製
品(一)と同額である蓋然性が高い。原告は、この点に関し、裁判所が提出を命じ
た前記各文書において、
被告製品(二)の一個当たりの利益の額が二〇三〇円であること、及び(これが被
告製品(一)の利益額と同額であることを裏付ける)仕入材料等の製造コスト及び
製品出荷価格等に関して被告製品(一)と被告製品(二)との間で差異が認められ
ない記載があると主張するものであるところ、かかる原告の主張自体が民訴法三一
六条によって真実と認められるべきである。
 したがって、被告製品(二)の一個当たりの利益も二〇三〇円であり、被告が被
告製品(二)を二万四三〇〇個販売したことによって得た利益は合計四九三二万九
〇〇〇円である。
(四) 以上によれば、被告は、被告製品(一)及び被告製品(二)の製造販売に
より右(一)ないし(三)の合計一億三〇五二万九〇〇〇円の利益を得たものであ
り、これは原告が被告の行為によって被った損害の額と推定されるが、原告は、本
訴においてそのうちの一億二一八〇万円を請求するものである。
【被告の主張】
1 被告は、被告製品(一)を平成五年一二月一七日に一万九九〇〇個、平成六年
三月八日に九九〇〇個、被告製品(二)を平成六年一二月二八日に二万四三〇〇個
それぞれ販売した。その小売価格は、いずれも六八〇〇円である。
2 原告の損害のついてのその余の主張は、すべて争う。
六 争点6(原告の被告に対する本訴請求にかかる訴えの提起・維持及びこれを本
案とする仮処分の申立ては、いわゆる不当訴訟として不法行為を構成し、また、本
訴における原告の主張は被告の名誉を毀損するものであるか)について
【被告の主張】
1 原告は、平成五年一二月二〇日、被告製品販売の差止め等及び損害賠償を求め
る本訴請求にかかる訴えを提起するとともにこれを本案とする仮処分を申し立てた
が、その提起・
維持は、前記一ないし四における【被告の主張】のとおり何ら法律上の根拠がない
のに、原告においてその慎重な検討を怠った過失のある不当訴訟として不法行為を
構成するから、
原告は、民法七〇九条に基づき被告に対しこれによって生じた損害を賠償すべき責
任がある。
(一) 原告は、ソフトウエアとハードウエア、文化財と産業財との差異を全く認
識せず、また、
本件事案とパックパン事件判決等の事案とではその基礎事実が異なるにもかかわら
ず、目に付いた裁判例を強引に本件事案に当てはめようとし、更に、論理の前提と
なるコントローラーの定義についてさえ杜撰なものを設定したため、不合理な点や
矛盾点が噴出したものである。
 連射機能についていえば、テレビゲーム機用のコントローラーに連射機能やスロ
ー機能を付加することは、業界及びユーザーの間では常識化し許容されていたので
あるから、このような取引社会の通念と逆行するような主張、行動をあえてとる以
上、十分な理論的根拠を持ち、それを裏付ける証拠資料を持たなければ軽々しく本
訴請求にかかる訴え等に及ぶというような行動はとれないはずである。
 しかるに、原告は、十分な理論的根拠も証拠資料も持つことなく、慎重な検討を
経ないで本訴請求にかかる訴え等の提起・申立てに及んだものであって、不当訴訟
というべきである。
(二) 仮に本訴請求にかかる訴えの提起・申立ての当時はそのことに気付かなか
ったとしても、裁判所から四回に及ぶ文書による求釈明を受けた後も原告は本訴請
求にかかる訴え等を維持し続けたのであるから、その維持につき過失がある。
(三) 更に、原告は、平成六年四月四日付訴えの変更申立書により本訴請求の請
求の趣旨を拡張したが、その追加した請求原因は、被告が同年三月八日に被告製品
(一)を二万個追加販売したというものであり、相変わらず全く事実調査をしない
まま、被告が被告製品(一)を二万個も追加販売したと過大な主張をしているか
ら、本訴請求にかかる訴えは、なおさら不当訴訟であることが明らかである。
2 原告は、平成六年三月一五日の第二回口頭弁論期日で陳述した同月一四日付第
一準備書面において、被告は「原告製品のシステムを盗用」した、というように
「盗用」という語を前後一一回にわたって使用している(前記一【原告の主張】2
(二)参照)。
 原告の主張する「システム」が著作権法により保護されるべき創作性のないもの
であることは前記のとおりであるが、それはさておき、「盗用」という語の意味は
「盗んで用いること」であると解され、
「盗む」とは、「横領」と異なり、相手方の占有を侵奪することを意味するから、
原告は、被告が原告の占有を侵奪したことを公然と表明したことになる。しかる
に、被告は、原告の占有下にある「システム」を侵奪し、これを被告の占有下にお
いたことはないから、原告の主張は事実無根であり、被告に対する名誉毀損になる
ことは明らかである。
 仮に、「盗用」という語に占有侵奪という意味がないとしても、「盗用」という
語は、「盗聴」あるいは「盗作」等と同じように反社会的で否定的価値判断を含ん
だ語であることは否定できないから、かかる反社会的な行為を被告が行ったという
ことを公然と摘示することは、被告の名誉を毀損する行為であるというべきであ
る。
【原告の主張】
 被告の主張は争う。
 原告による本訴請求にかかる訴え等の提起・維持には、何ら違法性及び故意・過
失がなく、被告主張の損害との因果関係もない。
七 争点7(右6により原告が損害賠償義務を負うとした場合に、被告に対し賠償
すべき損害の額)について
【被告の主張】
 被告は、原告の本訴請求にかかる訴え等の提起・維持及び名誉毀損の不法行為に
より合計一億二七四八万二三二〇円の損害を被った。
1 本訴請求にかかる訴え等の提起・維持による分 一億一七六三万七三二〇円
(一) 被告は、平成五年一二月一七日に被告製品(一)二万個の販売を開始し、
更に、同年一二月末から翌平成六年一月初旬にかけて被告製品(一)を一万個販売
することを予定し、既に部品の調達を完了し、いつでもこれを完成品に仕上げて販
売できる体勢を整えていた。右平成五年一二月一七日販売開始の被告製品(一)の
二万個は一二月中にその販売を完了し、問屋からの追加注文が届いたりしていたか
ら、本訴請求にかかる訴え等の提起がなかったならば、被告は、右一万個分の部品
を被告製品(一)(完成品)に仕上げ、その販売を完了していたことが明らかであ
る。被告の生産計画によれば、被告は、被告製品(一)二万個の製造を一〇日間で
完了し、その二万個の販売を次の一五日間で完了する予定であったから、
平成五年一二月末から平成六年二月八日までの間を概算して四二日とすると、被告
製品(一)を五万六〇〇〇個販売することが可能であったことになる。
 被告製品(一)の一個当たりのメーカー出荷価格は三九四四円であり、そのうち
被告が得られる利益は二〇三〇円であるから、被告が右期間中に被告製品(一)を
五万六〇〇〇個販売していたとすれば、被告は、これにより一億一三六八万円の純
利益が得られたはずである。
 しかるに、原告が平成五年一二月二〇日、本訴請求にかかる訴え等を提起、申し
立て、その頃訴状及び仮処分申立書の副本が被告に送達されたため、被告は、被告
製品(一)の製造販売を停止せざるをえなくなり、右得られるはずであった利益を
喪失し、これと同額の損害を被った。
(二) 被告が本訴請求にかかる訴え等に応訴するについて支出した費用として、
次の合計三九五万七三二〇円を支出し、同額の損害を被った。
(1) 日弁連報酬規定により当初の本訴請求額六八〇〇万円を基準にして算定し
た着手金の標準額三五六万五〇〇〇円
(2) 交通費三九万二三二〇円(東京・大阪間の新幹線グリーン料金四往復分三
万六〇六〇円×四=一四万四二四〇円〔訴訟代理人分〕及び横浜・大阪間の新幹線
グリーン料金延べ七人分三万五四四〇円×七=二四万八〇八〇円〔被告分〕)
2 前記六【被告の主張】2の原告の名誉毀損による分 五〇〇万円
3 反訴請求のための弁護士費用 四八四万五〇〇〇円(右1及び2の合計額は一
億二二六三万七三二〇円であるところ、日弁連報酬規定により一億円を基準にして
算定した着手金の標準額)
第四 争点に対する判断
一 争点1(被告が被告製品を製造、販売することは、本件ゲームソフトウエアに
蓄積された情報に従って本件ゲーム機により受像機に映し出される影像の動的変化
又はこれと音声によって表現されるものの上映に該当し、原告の専有する上映権を
侵害するものであるか)について
1 まず、本件ゲームソフトウエアが映画の著作物に該当するか否かについて検討
する。
 前記第二(事案の概要)の三(基礎となる事実)1によれば、本件ゲームソフト
ウエアは、
ゲームカセット内に収納されていて、プログラムメモリーに、各テレビゲームのキ
ャラクターや背景の形・色の影像情報、効果音やBGMの楽器音の音声情報、及び
キャラクターをどの場面でどのように動かし、影像に合わせてどのような音楽を発
生させるかを指示し、またゲームプレイヤーのコントローラー操作に対応してゲー
ムストーリーを変化させる多数多種の命令情報を記憶しており、右影像情報、音声
情報及び命令情報を本件ゲーム機本体に指示するものであり、プレイヤーがコント
ローラーを操作することにより発せられるゲーム操作情報(電気信号)及びそのゲ
ーム操作情報に対応して本件ゲームソフトウエアから発せられるゲーム情報(電気
信号)を本件ゲーム機本体内のCPUが読み取り、これを高速で合成処理して、ビ
デオ回路を通じて影像信号を、音声回路を通じて音声信号を受像機に出力し、もっ
て受像機の画面上に映し出される影像を変化させ、併せてスピーカーから音声を発
生させるというものである。
 しかして、著作権法にいう映画の著作物(一〇条一項七号)は、本来の意味にお
ける「映画」だけでなく、「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じ
させる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物」(同法二条三項)を含
むところ、本件ゲームソフトウエアと本件ゲーム機を使用することにより音声を伴
って受像機に映し出される影像は、本来の意味における「映画」ではないが、音声
を伴って影像が動きをもって見えるという視聴覚的効果を有しており、また、右影
像の動的変化及び音声は、すべて本件ゲームソフトウエアに規定されているところ
によるのであり、これから離れて別の影像や音声を出力することは不可能であるか
ら、ゲームカセット内のプログラムメモリー内に電気信号として取り出せる形で固
定されているというべきである。このように本件ゲームソフトウエアにより受像機
に映し出される影像の内容についていえば、たとえば「餓狼伝説」は、前記第二の
三1(三)によれば、いわゆる格闘ゲームの一種であり、
マーシャルアーツ(格闘技の一流派)の達人「テリー・ボガード」ら三人の主人公
キャラクター及び対戦相手キャラクターを設定し、右主人公キャラクターが史上最
強の武闘会「キング・オブ・ファイター」に出場し、「必殺技」及び「超必殺技」
を駆使して対戦相手キャラクターである七人の格闘家との格闘を勝ち抜き、最後に
仇敵「ギース・ハワード」との宿命の戦いに挑むというストーリー展開のものであ
って、平成四年一二月及び平成五年七月にはテレビアニメ化されて全国放映された
というのであるから、著作者の知的文化的精神活動の所産として産み出されたもの
というべきであり、弁論の全趣旨によれば、その他の本件ゲームソフトウエアの内
容も同様に著作者の知的文化的精神活動の所産として産み出されたものと認められ
る。
 したがって、本件ゲームソフトウエアに蓄積された情報に従って本件ゲーム機に
より受像機に映し出される影像の動的変化又はこれと音声によって表現されるもの
は、そのそれぞれがいずれも映画の著作物として認められるための前記法律上の要
件を満たしており、映画の著作物に該当するというべきである。
 そして、証拠(甲六一、検甲五の2・5・8)及び弁論の全趣旨によれば、本件
ゲームソフトウエアは、原告の発意に基づきその従業員が職務上作成したものであ
って、原告の著作名義の下に公表したものであることが認められるから(著作権法
一五条)、原告がその著作者であるというべきである。したがって、原告は、映画
の著作物の著作者として、その著作物を公に上映する権利を専有することが明らか
である(同法二六条一項)。
2 原告は、被告は右のとおり映画の著作物たる、本件ゲームソフトウエアに蓄積
された情報に従って本件ゲーム機により受像機に映し出される影像の動的変化又は
これと音声によって表現されるものの上映に必要不可欠な機器たるコントローラー
として、原告製品の情報入力システムを盗用し同一の情報入力システムを持つ複製
品たる被告製品を不特定多数のユーザーに製造、販売することにより、
これを購入したユーザーを手足ないし道具として利用して右映画の著作物を上映せ
しめているのであるから、ユーザーではなく被告が上映の主体すなわち上映権の侵
害行為者である旨主張するところ、右原告の主張は、被告において被告製品を製
造、販売する行為がすなわち映画の著作物である本件ゲームソフトウエアを上映す
る行為に当たるとの趣旨であると解されるので、以下この点について検討する。
(一) 本件ゲームソフトウエアの上映に際しコントローラーの果たす役割につい
てみるに、前記1の事実及び甲第六一号証によれば、本件ゲームソフトウエアの各
プログラムをプログラムメモリー内に固定したゲームカセットを本件ゲーム機本体
に差し込みそのスイッチボタンを押すと、当該テレビゲームのデモンストレーショ
ン画像が規則的に繰り返し映し出されるが、コントローラーを本件ゲーム機本体に
ある端末と電気的に接続し、そのスタートボタンを押すとゲームが開始し、レバ
ー、ボタンを操作すると本件ゲーム機本体にゲーム操作情報が電気信号として入力
され、右ゲーム操作情報及びこれに対応して本件ゲームソフトウエアから発せられ
るゲーム情報を本件ゲーム機本体内のCPUが読み取り、これを高速で合成処理し
て、受像機の画面上に影像の動的変化として出力する、というものである。
 右のとおり、コントローラーは、そのスタートボタンを押すことによりゲームを
開始させ、レバー、ボタンを操作することにより、本体のCPUを通じて本件ゲー
ムソフトウエアからキャラクターに特定の動作をさせる等のゲーム情報を出させる
機能を有するゲーム操作情報を本件ゲーム機本体に電気信号として入力するもので
あって、受像機の画面上に映し出される影像の動的変化ないしゲームの展開を決定
づけるものであり、その意味では、本件ゲームソフトウエアを上映するのに必要不
可欠の機器ということができる(但し、前記のとおりデモンストレーション画像の
上映のためにはコントローラーは不要であるが、デモンストレーション画像の上映
だけではテレビゲームとしての意味がない)。
(二) このように、コントローラーは、
本件ゲーム機本体を使用して本件ゲームソフトウエアを上映するのに必要不可欠な
機器といえるのであるが、問題は、このようなコントローラーである被告製品を製
造、販売する被告の行為をもって、それ自体映画の著作物としての本件ゲームソフ
トウエアを上映する行為と同視できるか否かである。
(1) 被告製品を製造、販売する被告の行為は、行為自体を自然的に観察する限
り、あくまでも被告製品を製造、販売する行為であって、その行為の性質上、直ち
に本件ゲームソフトウエアの上映行為といえないことは明らかである。
 そして、甲第六一号証及び弁論の全趣旨によれば、本件ゲーム機は家庭用テレビ
ゲーム機であって、ユーザーが、本体とコントローラー(原告製品と同じもの)が
セットとして販売されている本件ゲーム機を購入し、これとは別に本件ゲームソフ
トウエアのうちの一種類又は数種類を購入してこれらを自宅等に持ち帰り、自ら本
件ゲーム機本体をテレビに接続した上その端末にコントローラーを接続し、本件ゲ
ーム機本体に本件ゲームソフトウエア(ゲームカセット)を差し込み、本体のスイ
ッチを押すなどの操作をして初めて、テレビの画面上に影像が映し出されるもので
あること、被告製品は、主に右コントローラーに加えて対戦モード用に(ときとし
て右コントローラーが壊れた場合の補充用に)用意されている原告製品の代替品と
して販売され、購入されるものであり、本件ゲームソフトウエアを上映するための
手順、作業も右と同様であって、すべてユーザーによってなされるものであること
が認められる。すなわち、上映行為それ自体はもちろん、本件ゲーム機本体をテレ
ビに接続した上その端末に被告製品を接続し、本件ゲーム機本体に本件ゲームソフ
トウエア(ゲームカセット)を差し込むというような上映のための準備作業もすべ
てユーザーによって行われ、その過程に被告の行為が介在する余地のないことが認
められる。したがって、本件ゲームソフトウエアの上映については、被告が直接こ
れに関与することはなく、形式上も実質上もユーザーによって行われているものと
みるほかはない。
(2) 原告は、
被告は被告製品を不特定多数のユーザーに製造、販売することにより、これを購入
したユーザーを手足ないし道具として利用して右映画の著作物たる本件ゲームソフ
トウエアを上映せしめている旨主張するのであるが、被告がユーザーを手足ないし
道具として利用して本件ゲームソフトウエアを上映せしめているものとして、被告
自ら本件ゲームソフトウエアを上映しているのと同視できるためには、単に被告製
品を購入したユーザーがその購入目的からして必然的に被告製品を使用して本件ゲ
ームソフトウエアを上映するに至ることが明らかであるというだけでは足りず、被
告において、被告製品をユーザーに販売した後も、ユーザーが被告製品を使用して
本件ゲームソフトウエアを上映することについて何らかの管理・支配を及ぼしてい
ること、及び被告が被告製品を販売する目的がユーザーをして本件ゲームソフトウ
エアを上映させることそれ自体により利益を得ることにあることが必要であると解
するのが相当である。
 しかして、被告製品を購入したユーザーは、これを被告の管理・支配の全く及ば
ない自宅等に持ち帰り、被告の意思に関わりなくユーザー自身の自由意思をもって
被告製品を本件ゲーム機本体に接続して本件ゲームソフトウエアを上映するのであ
って、本件全証拠によるも、ユーザーが被告製品を使用して本件ゲームソフトウエ
アを上映することについて被告が何らかの管理・支配を及ぼしていることは認めら
れない。
 また、被告が被告製品を販売する目的がユーザーをして本件ゲームソフトウエア
を上映させることそれ自体により利益を得ることにあることも、これを認めるに足
りる証拠はない。原告は、被告製品を購入する対価は、観衆たるユーザーが本件ゲ
ームソフトウエアの対戦モードのゲームストーリーの展開を楽しむために支払う料
金の一括前払いに該当する(から、「営利を目的としない」上映には当たらない)
旨主張するが、被告製品の価格は本件ゲームソフトウエアの上映の対価そのもので
ある、あるいはこれが被告製品の価格のうちに含まれていると認めるに足りる証拠
はなく、かえって、ユーザーが被告製品を購入する時点では、
既に購入済みの本件ゲームソフトウエアがある場合の当該ゲームソフトウエアを除
き、本件ゲームソフトウエアのうちどのゲームソフトウエアを購入し、これを上映
するかは具体的に確定しておらず、将来原告によって販売されることあるべき本件
ゲームソフトウエアの種類も確定していないといわざるをえないから、被告がその
価格に本件ゲームソフトウエアの上映の対価を含ましめることは不可能というべき
であり、また、被告製品を販売した後は、被告製品を使用して本件ゲームソフトウ
エアの上映がどの程度なされるかは、今後の被告製品の販売数量の見通しに関する
資料にはなるとしても、原則として被告に何らの利害関係ももたらさないものと考
えられるから、被告製品の価格について、製造原価その他の必要経費に適当な利潤
を上乗せした金額のほかに、本件ゲームソフトウエアの上映の対価が加算されてい
るということはできない。
 被告は、被告製品の購入者による本件ゲームソフトウエアの上映は、被告製品の
製造販売行為と映画の著作物の上映という著作権侵害の結果を結びつける単なる因
果の流れにすぎないということができるから、このような必然的因果の流れを前提
として、不特定多数のユーザーをして本件ゲームソフトウエアの対戦モードをプレ
イできるようにする目的で被告製品を製造、販売する行為は、当然に不特定多数の
ユーザーによる被告製品を使用しての映画の著作物の上映という著作権侵害の結果
を惹起せしめる行為であり、かかる行為は、法的には正に被告による著作権侵害行
為と評価することができると主張するが、以上の説示に照らして採用することがで
きない。
(3) 以上によれば、被告製品がもっぱら本件ゲーム機本体にのみ使用できるこ
と、被告製品が本件ゲームソフトウエアの上映に必要不可欠な機器であることを考
慮しても、被告製品を製造、販売する被告の行為をもって、本件ゲームソフトウエ
アを上映する行為と同視することはできないといわなければならない。
(4) 被告は、仮に被告製品を購入したユーザーが本件ゲームソフトウエアの上
映の主体であるとしても、
被告もユーザーとともに上映の主体というべきであると主張するが、被告を右上映
の主体とみることができないことは、前記説示から明らかである。
(三) なお、原告は、パックマン事件判決について、ハードウエアシステムを盗
用したビデオゲーム機による上映を無断上映と断じたものであるとした上で、二人
のプレイヤーによる対戦モードの本件ゲーム機の使用には対戦モード用のコントロ
ーラー(被告製品)が必要不可欠であり、しかも被告製品は原告の開発、設計した
専用コントローラー(原告製品)の情報入力システムを盗用した模倣商品であるか
ら、かかる被告製品の操作による本件ゲーム機の使用は、顧客とユーザーの違いを
考慮に入れないとすれば、ハードシステムの盗用の点でパックマン事件判決の事案
における「パックマン」の無断複製ゲーム機の使用と同視することができる旨主張
する。
 本件ゲームソフトウエアを上映するためには本件ゲーム機本体に接続が可能なコ
ントローラーが必要不可欠であるとしても、コントローラーは、一種の電気信号に
よる情報入力機器であって、その情報入力システムをどのように構成するかは、機
械工学ないし情報工学上の技術的思想に外ならず、右のような技術的思想は、特許
権等の工業所有権がない以上、何人も自由に実施することができるのであるから、
原告がコントローラー(原告製品)について特許権等の工業所有権を有することに
ついて何らの主張立証のない本件においては、原告が本件ゲーム機本体にのみ使用
できるコントローラーないしは原告製品と同じ情報入力システムないし回路構成を
有するコントローラーの製造販売を独占できると解すべき根拠はないというべきで
ある。甲第一一ないし第一三、第六一、第六三号証及び証人【A】の証言によれ
ば、被告製品の回路構成は、連射機能に関わる部分を除き原告製品の回路構成と全
く同じであることが認められ、被告において被告製品を開発、製造するに際し、原
告製品の情報入力システムないし回路構成を模倣したことが窺われるが、
右のとおり原告において原告製品と同じ情報入力システムないし回路構成を有する
コントローラーの製造販売を独占できると解すべき根拠がない以上、これを模倣し
たコントローラーである被告製品を製造、販売することは、商道徳上の問題は別と
して、違法とはいえない。原告は、コントローラーは本件ゲームソフトウエアを上
映する本件ゲーム機のハードウエアの基本的な構成部分であり、本件ゲーム機本体
から完全に独立した周辺機器というようなものではないとか、本件ゲーム機本体及
びコントローラーをどのような回路構成等にすることによりいかに効率的な情報の
入出力及び合成処理を可能とするかが正にシステムの中核をなすなどと主張する
が、右主張が本件ゲーム機本体及びコントローラーからなる回路構成等を模倣する
ことそれ自体が違法であるとの趣旨であるとすれば、右と同様の理由により失当と
いわざるをえない。
 パックマン事件判決は、いわゆるハードウエアのみではなくソフトウエアをも無
断複製した事案についてのものと解され、ハードウエアたるコントローラーのみを
模倣することにより上映権の侵害を認めたものとはいえず、また、家庭用のテレビ
ゲーム機ではなく、無断複製品たる業務用ビデオゲーム機を喫茶店に設置して「パ
ックマン」を上映していた経営者について上映権の侵害を認めたものであるから、
本件とは事案を異にするという外はない。
3 したがって、原告の本訴主位的請求中、右上映権の侵害を理由とする差止等の
請求及び損害賠償請求は理由がないといわなければならない。
二 争点2(被告製品にいわゆる連射機能を付加していることは、本件ゲームソフ
トウエア並びにその上映による影像及びその動的変化について原告が有する同一性
保持権を侵害するものであるか)について
1 証拠(甲八の1ないし7、三三、六一、六四、検甲七の1ないし4、証人
【A】、同【B】)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(一) 被告製品には、原告製品と同様、キャラクターを前後左右に動かしたり、
何らかの行動を起こさせたりするために必要なレバー(被告製品における名称は
「ジョイスティック」)一本及びゲーム操作用ボタン(被告製品における名称は
「トリガーボタン」)四個が設置されているが、その外に、原告製品にはない連射
機能を発揮する「ターボスイッチ」と称するスイッチが設置されている。
(二) 本件ゲーム機本体のCPUは、一定時間毎(通常は六〇分の一秒毎)にコ
ントローラーから発せられる電気信号の値(オンかオフか)をサンプリング(読込
み)して本件ゲームソフトウエアにその命令を伝達して作動させるものであるが、
レバー及びボタンの操作によりコントローラーから発せられる電気信号の値の読込
みの方法には、次の三種類がある(甲六四)。
(1) コントローラーから発せられる電気信号の値をそのまま読み込むもので、
レバー等をオンにし続けている限り、これをオンと認識する読込方法。レバーによ
るキャラクターの移動等に使用される。
(2) コントローラーから発せられる電気信号の値がオフからオンに変わった瞬
間だけオンと認識する読込方法(例えばレバー等を一〇秒間オンにし続けても、こ
れをオンにした最初の瞬間だけオンと認識する)。ボタンによる攻撃等に使用され
る。
(3)レバー等が一定時間以上押し続けられたときにはじめてオンと認識する読込
方法。ボタンを押し続けたことによるパワー(気力)の増加や、同じボタンによる
攻撃の大小の使分け(ボタンが一定時間以上押されていればより大きな攻撃ができ
る)に使用される。
(三) 被告製品に付加されている連射機能は、右(二)(2)の読込方法に対応
するものであって、ボタンと発振回路の組合せにより、ボタンが押されている間
は、コントローラーからオンとオフの電気信号を高速かつ規則的に反復して出力す
るものである。プレイヤーがターボスイッチを使わずにコントローラーのボタンの
オンとオフの操作を反復する場合、熟練したプレイヤーであっても、特別の道具を
用いない限り一秒間当たりせいぜい約一八回の割合でしかボタンを押せないのに対
し、ターボスイッチをオンにしてボタンを押し続ければ、
ボタンを一秒間当たり約二二回の割合で規則的に反復して押すのと同じ電気信号を
本件ゲーム機本体内のCPUに入力することになる(甲六四)。
(四) そのため、ターボスイッチをオンにして連射機能を使用することにより、
本件ゲームソフトウエアを受像機に映し出した影像に次のような影響を及ぼすこと
になる(甲三三)。
(1) 本件ゲームソフトウエアのうちシューティングゲーム(「ゴーストパイロ
ット」「ASO2」「ラストリゾート」「アンドロデュノス」「ビューポイン
ト」)、シューティングゲームの要素をもったキャラクターゲーム(「サイバーリ
ップ」「ニンジャコンバット」「エイトマン」「ニンジャコマンドー」)又はアク
ションゲーム(「バーニングファイト」「戦国伝承」「戦国伝承2」「マジシャン
ロード」「ミューティションネイション」)については、ボタン操作による発射速
度(連射速度)が速いほどゲームクリアが容易であるところ、ボタン操作に習熟せ
ず、したがって自力では発射速度を速くすることができない初心者であっても、タ
ーボスイッチをオンにするだけで自動的に高速の連射が行われるので、比較的容易
にゲームクリアをすることができ、右各ゲームの難度が下がる結果になる。
(2) 対戦格闘ゲーム(「餓狼伝説」「餓狼伝説2」「餓狼伝説スペシャル」
「龍虎の拳」「龍虎の拳2」「ワールドヒーローズ」「ワールドヒーローズ2」
「ファイアースープレックス」「サムライスピリッツ」)については、右(1)と
同様の理由により、右各ゲームの難度が下がる結果になる。
 また、右各ゲームにおいては、いわゆる「必殺技」という攻撃手段が用意されて
いるが、右「必殺技」を繰り出すためには、レバーとボタンの操作を比較的複雑に
組み合わせることが必要であるところ、被告製品における連射機能を使用すると、
前記のとおりボタンを一秒間当たり約二二回の割合で規則的に反復して押すのと同
じ電気信号を出力することになるため、右のようなレバーとボタンの操作の組合せ
による「必殺技」を繰り出すことが困難になる。
(3) また、
「ニンジャコンバット」「スーパースパイ」「サッカーブロール」「ラストリゾー
ト」「龍虎の拳」「龍虎の拳2」「ビューポイント」という各ゲームについては、
コントローラーのボタンを押し続けてパワーを溜めること(前記(二)(3)の読
込方法)により特殊攻撃を繰り出すことができるところ、被告製品における連射機
能を使用すると、前記のとおりボタンを一秒間当たり約二二回の割合で規則的に反
復して押すのと同じ電気信号を出力することになるため、ボタンを押し続けてパワ
ーを溜めることによって繰り出すことのできる特殊攻撃を繰り出すことができなく
なる。
(五) 連射機能の付いたコントローラーは、昭和五八年頃からファミコン用の別
売りのコントローラーとして発売されている。
2 原告は、被告製品の連射機能を使用することは、本件ゲームソフトウエアの開
発設計において原告の意図した内容ないし難度を下げ、あるいは人気ゲームソフト
ウエア「餓狼伝説シリーズ」「龍虎の拳シリーズ」等における「必殺技」の攻撃手
段を繰り出すことをできなくし、四個のゲーム操作ボタンを押すタイミングの妙に
よるテレビゲームとしての興味を削ぐなど本件ゲームソフトウエアのおもしろさを
左右する重要な要素に影響を与え、本件ゲームソフトウエアのプログラムに込めら
れた原告の思想及び感情を原告の意に反して改変してしまうものであるから、被告
が連射機能を付加した被告製品をユーザーに販売し、ユーザーをしてその連射機能
用ボタンを操作させ、本件ゲームソフトウエアを上映させる行為(ユーザーは被告
の手足又は道具であり、被告の上映行為と評価される)は、本件ゲームソフトウエ
アの開発設計において原告の意図した内容ないし難度、ひいては本件ゲームソフト
ウエアに込められた原告の思想及び感情を被告が原告の意に反して改変し、本件ゲ
ームソフトウエア並びにその上映による影像及び影像の動的変化について原告が有
する同一性保持権を侵害するものである旨主張するので、検討する。
(一)前記1(三)認定のとおり、被告製品に付加されている連射機能は、同
(二)(2)の読込方法に対応するものであり、
ボタンと発振回路の組合せにより、ボタンが押されている間、コントローラーから
オンとオフの電気信号を高速かつ規則的に反復して出力するものであって、ターボ
スイッチをオンにしてボタンを押し続ければボタンを一秒間当たり約二二回の割合
で規則的に反復して押すのと同じ電気信号を本件ゲーム機本体内のCPUに入力す
ることになるから、受像機の画面上には、ボタンを一秒間当たり約二二回の割合で
規則的に反復して押した場合と同じ影像が映し出される結果になる。
 このように、被告製品における連射機能は、コントローラーからオンとオフの電
気信号を高速かつ規則的に反復して本件ゲーム機本体内のCPUに入力するものに
すぎず、右のように入力されたゲーム操作情報に基づき、本件ゲームソフトウエア
に蓄積された情報に従った影像が受像機の画面上に映し出されるにすぎないから、
本件ゲームソフトウエアのプログラム自体には何らの改変も加えるものでないこと
が明らかである。
 そして、本件ゲームソフトウエアのプログラム及びその上映により受像機の画面
上に映し出される影像は、個々のプレイヤーの熟練度、好み、操作の仕方等により
きわめて多種多様な変化ないしストーリー展開を予定しているものであることが明
らかであって、各テレビゲームをする際の具体的な影像の変化ないしストーリー展
開は、もっぱら本件ゲームソフトウエアを購入し、プレイをするユーザーにおい
て、コントローラーのレバー、ボタンを操作していかなる方法、タイミングで電気
信号を発するかに委ねられているというべきであるが、被告製品における連射機能
が本件ゲームソフトウエアのプログラム自体に何らの改変も加えるものでない以
上、連射機能を使用した場合でも、その影像の変化ないしストーリー展開は、本来
本件ゲームソフトウエアが予定していた範囲内のものといわなければならない。
 もっとも、被告製品に付加されている連射機能は、ボタンを一秒間当たり約二二
回の割合で規則的に反復して押すのと同じ電気信号を出力するものであるところ、
熟練したプレイヤーでも、
特別の道具を用いない限りこのような時間的間隔で規則的に反復してボタンを押す
ことは不可能であるとしても、このことは右のとおりユーザーに委ねられたコント
ローラーからの電気信号(ゲーム操作情報)の入力の仕方の問題にすぎず、このこ
とと本件ゲームソフトウエアのプログラム及びその上映により受像機に映し出され
る影像自体の改変の問題とは直接関係がないというべきである。
(二) 原告は、被告製品の連射機能を使用することが本件ゲームソフトウエアの
プログラムに込められた原告の思想及び感情を原告の意に反して改変してしまうも
のであるとする理由として、本件ゲームソフトウエアの開発設計において原告の意
図した内容ないし難度を下げるものである旨主張する。確かに前記1(四)(1)
のとおり、同記載の各ゲームにおいてはその連射速度がゲームクリアの成否に大き
な影響を与えるものであるから、連射機能の使用によりゲームクリアが簡単にな
り、その意味で難度が下がることは明らかである。しかしながら、前記説示のとお
り、各テレビゲームをする際の具体的な影像の変化ないしストーリー展開は、もっ
ぱらユーザーにおいて、コントローラーのレバー、ボタンを操作していかなる方
法、タイミングで電気信号を発するかに委ねられているというべきであって、ユー
ザーがその任意の選択により被告製品の連射機能を使用し、結果的に本件ゲームソ
フトウエアの難度を下げるような操作をすることも、本来本件ゲームソフトウエア
が予定していた影像の変化ないしストーリー展開の範囲を出ないというべきであ
る。
 原告は、また、被告製品の連射機能を使用することは、人気ゲームソフトウエア
「餓狼伝説シリーズ」「龍虎の拳シリーズ」等における「必殺技」の攻撃手段を繰
り出すことをできなくし、四個のゲーム操作ボタンを押すタイミングの妙によるテ
レビゲームとしての興味を削ぐなど本件ゲームソフトウエアのおもしろさを左右す
る重要な要素に影響を与える旨主張する。確かに前記1(四)の(2)及び(3)
のとおり、被告製品における連射機能を使用すれば、
「必殺技」あるいは特殊攻撃を繰り出すことが困難あるいは不可能になるが、本件
ゲームソフトウエアを使用したゲームの一場面において「必殺技」等を繰り出すか
どうかは、正にその時点におけるプレイヤーの判断に委ねられているものであり、
連射機能を使用したために右「必殺技」等を繰り出せなくなることは、プレイヤー
がそのような選択をした結果にすぎず、プレイヤーが「必殺技」等を繰り出したい
と考えれば、連射機能をオフにすることによりいつでも「必殺技」等を繰り出すこ
とができるのであるから、本来本件ゲームソフトウエアが予定していた影像の変化
ないしストーリー展開の範囲内でプレイヤーの選択に委ねられたところといわざる
をえない。
3 以上のとおり、被告製品の連射機能を使用することは、本件ゲームソフトウエ
アのプログラムに込められた原告の思想及び感情を原告の意に反して改変するもの
とはいえないから、被告が連射機能を付加した被告製品をユーザーに販売する行為
は、本件ゲームソフトウエア並びにその上映による影像及びその動的変化について
原告が専有する同一性保持権を侵害するものとはいえない。
 したがって、原告の本訴主位的請求中、右同一性保持権の侵害を理由とする差止
等の請求及び損害賠償請求も理由がないといわなければならない。
三 争点3(本件ゲーム機によって受像機に映し出される本件ゲームソフトウエア
のキャラクターを主体とする各種影像とゲームの進行に応じたこれら影像の変化の
態様は、本件ゲーム機ないし原告製品が原告の商品であることを示す商品表示とし
て周知性を取得したものであり、被告が被告製品を販売する行為は、原告の商品で
あるかのように混同を生じさせるものであるか)について
1 まず、本件ゲーム機によって受像機に映し出される本件ゲームソフトウエアの
キャラクターを主体とする各種影像とゲームの進行に応じたこれら影像の変化の態
様は、本件ゲーム機ないし原告製品が原告の商品であることを示す商品表示に該当
するか否かについて検討する。
 前記第二の三1のとおり、本件ゲーム機は、本体とコントローラーによって構成
され、
その本体に別売りの本件ゲームソフトウエアのカセットを差し込み、かつ、本体を
家庭用テレビ等の受像機に接続することによってゲーム機として使用できるもので
あるが、本件ゲームソフトウエアは、ゲームカセット内に収納されていて、プログ
ラムメモリーに、各テレビゲームのキャラクターや背景の形・色の影像情報、効果
音やBGMの楽器音の音声情報、及びキャラクターをどの場面でどのように動か
し、影像に合わせてどのような音楽を発生させるかを指示し、またゲームプレイヤ
ーのコントローラー操作に対応してゲームのストーリーを変化させる多数多種の命
令情報を記憶しており、右影像情報、音声情報及び命令情報を本件ゲーム機本体に
指示するものであって、テレビゲームのあらゆる情報は、すべて本件ゲームソフト
ウエアに規定され蓄積されているものであり、また、コントローラーは、本件ゲー
ム機本体の端末と電気的に接続されていて、電気信号によりゲーム操作情報を本件
ゲーム機本体にあるコンピュータのCPUに入力する機器であり、プレイヤーがコ
ントローラーを操作することにより発せられるゲーム操作情報及びこれに対応して
本件ゲームソフトウエアから発せられるゲーム情報をCPUが読み取り、これを高
速で合成処理して、ビデオ回路を通じて影像信号を、音声回路を通じて音声信号を
受像機に出力し、もって受像機の画面上に映し出される影像を変化させ、併せてス
ピーカーから音声を発生させるものである。
 したがって、本件ゲーム機によって受像機に映し出される本件ゲームソフトウエ
アのキャラクターを主体とする各種影像とゲームの進行に応じたこれら影像の変化
の態様は、本件ゲームソフトウエアに蓄積された影像情報、音声情報及び命令情報
によって規定されるものであるから、本件ゲームソフトウエアの種類が異なれば当
然に異なることになり、コントローラーは、ゲーム操作情報を本件ゲーム機本体に
入力して本件ゲームソフトウエアから発せられるゲーム情報の範囲内においてキャ
ラクターの動きや背景等に変化をもたらすにすぎないものであって、
本件ゲームソフトウエアのキャラクターを主体とする各種影像とゲームの進行に応
じたこれら影像の変化の態様は、当該ゲームソフトウエア自体の商品表示となりう
る余地はあるとしても、本件ゲーム機ないし原告製品が原告の商品であることを示
す商品表示とはなりえないといわざるをえない。本件ゲームソフトウエアが本件ゲ
ーム機によってのみ上映することができ、他社のゲーム機によっては上映できない
ものであるとしても、本件ゲームソフトウエア全体の種類は極めて多く(甲七)、
キャラクターを主体とする各種影像とその変化の態様は個々のゲームソフトウエア
毎にそれぞれ異なるものであるから、本件ゲームソフトウエアに含まれる個々のゲ
ームソフトウエアの個々の各種影像とその変化の態様のすべてをもって本件ゲーム
機ないし原告製品が原告の商品であることを示す商品表示として統一的に把握する
ことはできない。
2(一) 原告は、原告によるテレビ、新聞、雑誌等を通じての本件ゲームソフト
ウエアの全国的な広告宣伝及び人気ゲームソフトウエアのテレビアニメ化とその全
国放映等により、本件ゲームソフトウエアの特徴的なキャラクターを主体とする各
種影像とゲームの進行に応じたこれら影像の変化の態様が、強い自他商品識別機能
及び出所表示機能を取得するに至ったのであり、本件ゲーム機は、本件ゲームソフ
トウエアを上映できる唯一の機器であるとして、人気ゲームソフトウエアの強い自
他商品識別機能及び出所表示機能と一体となって全国的に周知となった旨主張する
が、右広告宣伝活動等により本件ゲームソフトウエアのキャラクターを主体とする
各種影像とゲームの進行に応じたこれら影像の変化の態様が強い自他商品識別機能
及び出所表示機能を取得するに至ったとしても、本件ゲームソフトウエアに含まれ
る個々のゲームソフトウエアについていえることであって、コントローラーである
原告製品についてまで、右各種影像及びその変化の態様が自他商品識別機能及び出
所表示機能を取得したものとはいえない。
(二) また、原告は、
本件ゲームソフトウエアの特徴的なキャラクターを主体とする各種影像とゲームの
進行に応じたこれら影像の変化の態様及びその上映における本件ゲームソフトウエ
ア、本件ゲーム機本体及びコントローラー(原告製品)の相互補完的な使用形態と
遊戯方法という、本件ゲーム機の生命ともいうべき重要な構成要素によって、本件
ゲーム機本体に接続して使用する原告製品についてもその個別性が識別され、原告
の商品であることが表示されている旨主張するが、弁論の全趣旨によれば、家庭用
ゲーム機がゲームソフトウエア、ゲーム機本体及びコントローラーで構成されるこ
とは他社のゲーム機においてもみられる一般的な構成であることが認められ、かか
る構成自体に本件ゲーム機特有の特徴があるわけではなく、本件ゲームソフトウエ
ア、本件ゲーム機本体及びコントローラー(原告製品)の相互補完的な使用形態と
遊戯方法なるものが、原告製品について原告の商品であることを識別する標識にな
るといえないことは明らかである。
(三) なお、原告は、テレビ型ゲームマシン(業務用ビデオゲーム機)の受像機
に映し出されるインベーダーを主体とする各種影像とゲームの進行に応じたこれら
影像の変化の態様が第二次的に商品出所表示機能を備えるに至ったと認定したスペ
ース・インベーダー事件判決及びワールド・インベーダー事件判決を挙げ、本件事
案と右両判決の事案とは、不正競争防止法適用の観点からみる限り全く同一である
旨主張する。
 しかしながら、甲第一五、第一六号証によれば、右両判決は、ゲームソフトウエ
ア、ゲーム機本体及びコントローラーが一個の機器を構成し、一体として取引の対
象となる「テーブル型」あるいは「アップライト型」の業務用ビデオゲーム機に関
する事案であるところ、本件ゲームソフトウエア、本件ゲーム機本体及びコントロ
ーラーは、それぞれ独立の機器として構成されたものであり、本件ゲーム機本体及
びコントローラーはセットで販売されるものの、本件ゲームソフトウエアは常に別
売りで販売されており、対戦用コントローラーである原告製品も単体で販売されて
いるから、
スペース・インベーダー事件判決及びワールド・インベーダー事件判決とは事案を
異にするというべきである。
 原告は、本件ゲーム機における本件ゲームソフトウエア、本体及びコントローラ
ーは機能的には不可分一体となっており、右のように三個の機器の構成としたの
は、もっぱら家庭における遊戯上の便宜であるにすぎず、そのコントローラーの機
能・役割は、ゲームソフトウエア、本体及びコントローラーが一個の機器となって
いる業務用ビデオゲーム機におけるコントローラー部分と全く同一であるなどとし
て、コントローラーがゲーム機本体及びゲームソフトウエアと物理的に一体となっ
ているか否かは、本件ゲーム機のコントローラーについての自他商品識別ないし出
所の表示に何ら影響を与えるものではない旨主張するが、本件ゲームソフトウエア
のキャラクターを主体とする各種影像とゲームの進行に応じたこれら影像の変化の
態様がその商品表示となりうる本件ゲームソフトウエアは、本件ゲーム機ないし原
告製品とは常に別個に取引の対象とされているところ、右商品表示が本件ゲーム機
ないし原告製品についても商品表示となるか否かについては、本件ゲームソフトウ
エアと本件ゲーム機ないし原告製品とが機能的に不可分一体であるか否かではな
く、これらが一個の機器を構成し一体として取引されるものであるか否かという点
がより重要な要素であると考えられるから、スペース・インベーダー事件判決及び
ワールド・インベーダー事件判決は、本件の参考にはならないというべきである。
3 以上のとおり、本件ゲームソフトウエアのキャラクターを主体とする各種影像
とゲームの進行に応じたこれら影像の変化の態様は、本件ゲーム機ないし原告製品
が原告の商品であることを示す商品表示としての機能を取得したものとはいえない
から、その余の点について判断するまでもなく、原告の本訴主位的請求中、不正競
争防止法二条一項一号に基づく差止等の請求及び損害賠償請求も理由がないといわ
なければならない。
四 争点4(本件ゲーム機及び原告製品に使用された「ネオジオ」又は「NEO・
GEO」という商品表示は、
原告の商品表示として周知性を取得したものであり、被告が被告製品(一)に「フ
ァイティングスティックNEO(Fighting Stick NEO)」とい
う表示を、被告製品(二)に「ファイティングスティックNEOⅡ(Fighti
ng Stick NEOⅡ)」という表示を使用して販売する行為は、原告の商
品であるかのように混同を生じさせるものであるか)について
1 まず、「ネオジオ」又は「NEO・GEO」という商品表示の周知性について
検討するに、証拠(甲四の1ないし4、六、七、二〇、二一、二二の1ないし8、
二三、二四、二六ないし三二、三五ないし四二、五〇、五一、五五の1ないし5、
五六の1ないし5、五七ないし六一、検甲一ないし三、五の1・4・7、乙一〇の
1ないし4、三四、証人【A】)及び弁論の全趣旨によれば、次の(一)ないし
(六)の各事実が認められる。
(一) 原告は、平成二年三月頃から「ネオジオ」又は「NEO・GEO」という
商品名の業務用ビデオゲーム機及び本件ゲーム機(家庭用テレビゲーム機)を開
発・製造し、その販売を開始した。本件ゲーム機は、基板(マイクロ・コンピュー
タシステムを利用した影像・音声再生装置の回路基板)ごとに一つのゲームが作ら
れていた業務用ビデオゲーム機とは異なり、ゲームソフトウエアプログラムを収納
固定するプログラムメモリーをゲームカセットとして分離し、ゲームカセットを取
り替えることにより多種類のゲームを楽しむことができるようにしたものであり、
また、当時の家庭用テレビゲーム機のゲームソフトウエアの容量が二メガないし四
メガであったのに対し、これを大きく超える最大容量三三〇メガのゲームソフトウ
エアに対応でき、かつ、高速CPUを搭載した高性能のゲーム機であった。そのた
め、本件ゲーム機は業界及びユーザーの注目を集め、原告も原告の主力商品として
継続的に宣伝広告を行った。
(二) 本件ゲーム機本体(検甲一)及びコントローラー(検甲三)には、直接、
「NEO・GEO」という商品表示が上面手前側中央に大きく表示されているほ
か、その包装箱(乙三四)の上面、背面、
両側面及び取出口の面には、「NEO」と「GEO」が二段に表示されており、本
件ゲーム機専用の対戦用コントローラーとして単体で販売されている原告製品は、
右の本件ゲーム機本体とセットで販売されているコントローラーと同一の商品であ
り、それ故直接「NEO・GEO」という商品表示が上面手前側中央に大きく表示
されているほか、その包装箱(乙一〇の2ないし4)の上面及び四側面には「NE
O・GEO」という商品表示が大きく表示されており、その上と下にやや小さくそ
れぞれ「SNK」「コントローラー」と表示されている。
 また、本件ゲームソフトウエアのゲームカセットを本件ゲーム機本体に差し込
み、スイッチを入れたときのゲームタイトル画面に先立つ冒頭の画面(検甲五の
1・4・7)では、画面やや上部中央に「NEO・GEO」という商品表示が大き
い文字で表われ、その下にこれよりかなり小さい文字で三段に「MAX 330 
MEGA」「PRO―GEAR SPEC」「SNK」と表われる。
(三) 本件ゲーム機は、発売当初、前記のような高性能を十分に生かすことので
きるゲームソフトウエアが開発されていなかったこともあって、その売上げは必ず
しも好調でなかったが、平成三年一二月二〇日、原告が本件ゲーム機専用のゲーム
ソフトウエアである格闘ゲームソフトウエア「餓狼伝説」を発売するに及んで(業
務用ビデオゲーム機としては同年一一月に発売した)、後記のとおり急速に売上げ
を伸ばすことになった。
 「餓狼伝説」は、前記第二の三1(三)のとおりのストーリー性を備えたゲーム
ソフトウエアであり、発売当初からテレビゲームユーザーに好評をもって迎えら
れ、いわゆるヒット作品となった(発売月の平成三年一二月一か月間で四六四七
本、発売後四か月間で一万〇四四〇本、平成六年三月までの合計で二一万〇二四三
本)。更にその後、原告は、平成四年一二月に「龍虎の拳」、平成五年三月に「餓
狼伝説2」、同年八月に「サムライスピリッツ」、同年一二月に「餓狼伝説スペシ
ャル」というように、ゲーム容量が一〇〇メガを超えるゲームソフトウエアをたて
続けに発売したが、これらは、
人気ランキングで上位を占め、慢性的な品切れ状態になるほどの売上げをあげた
(「龍虎の拳」は、発売月の平成四年一二月一か月間で一万八一一六本、発売後四
か月間で二万七二三四本〔小売価格にして約七億六二〇〇万円〕、平成六年三月ま
での合計で二万八九九九本。「餓狼伝説2」は、発売月の平成五年三月一か月間で
四万六三六六本、発売後五か月間で五万六四六八本〔小売価格にして約一六億
円〕、平成六年三月までの合計で五万九五一一本。「サムライスピリッツ」は、発
売月の同年八月一か月間で一万九七五一本、発売後五か月間で八万八一〇三本〔小
売価格にして約二五億円〕、平成六年三月までの合計で九万〇七一八本。「餓狼伝
説スペシャル」は、発売月の平成五年一二月の一か月間で一〇万五八九四本、平成
六年までの合計で一三万四五七一本)。
 そして、本件ゲーム機は、本件ゲームソフトウエアを上映できる唯一のゲーム機
として、その画質及び音声の迫真性、リアルさ等によって盛んに一般誌及び専門誌
に取り上げられるようになり(後記(六)参照)、併せて原告による継続的な宣伝
広告活動により、本件ゲーム機及び対戦用コントローラーとして単体で販売されて
いる原告製品の販売数量も、本件ゲームソフトウエアの販売数量の増大に伴って飛
躍的に増大した。すなわち、本件ゲーム機及び原告製品の販売数は、「餓狼伝説」
が発売される前の平成三年一〇月、一一月には、本件ゲーム機がそれぞれ一七六
個、一一六個であり、原告製品がそれぞれ三七五個、三二八個であったところ、
「餓狼伝説」が発売された同年一二月には、本件ゲーム機が一三〇五個、原告製品
が一五三六個に増加し、その後、「龍虎の拳」が発売された平成四年一二月には、
本件ゲーム機が前月比一八〇〇個増の四〇九二個、原告製品が前月比二六四九個増
の三八九九個に、「餓狼伝説2」が発売された平成五年三月には、本件ゲーム機が
前月比七七五八個増の一万七六六〇個、原告製品が前月比三二五五個増の一万一九
二二個に、「サムライスピリッツ」が発売された同年八月には、本件ゲーム機が前
月比三二九八個増の八〇一八個、
原告製品が一八四九個増の五七九七個にそれぞれ増加し、更に同年一一月までの
間、本件ゲーム機は九月一万四八〇〇個、一〇月二万三五〇九個、一一月二万三九
二九個、原告製品は九月九六六九個、一〇月一万三七六〇個、一一月一万七三〇五
個というように、継続して順調にその売上げを伸ばした。そして、「餓狼伝説スペ
シャル」が発売された同年一二月には、本件ゲーム機は前月比四四七二個増の二万
八四〇一個に増加したが、原告製品は一三八二個減少して一万五九二三個となっ
た。平成三年一二月から平成六年三月までの間の販売数の合計は、本件ゲーム機が
一九万一三八二個、原告製品が一四万七六三八個である。
(四) 原告が本件ゲーム機等の宣伝広告(具体的にはテレビのスポンサー番組に
よる広告及びスポット広告、漫画誌及び業界誌による広告)のために支出した費用
は、平成元年九月期(昭和六三年一〇月から平成元年九月までの事業年度をいう。
以下同様)一億〇八七三万六五六五円、平成二年九月期五億二九九六万二九六〇
円、平成三年九月期二億九八三〇万〇五八四円、平成四年九月期一二億六三八六万
五四四九円、平成五年九月期一八億二三〇二万二〇〇〇円であり、平成五年一〇月
から一二月までは、各月それぞれ一億九〇七七万一六七六円、一億六一〇二万〇四
九一円、一億九九六一万七二二六円の合計五億五一四〇万九三九三円である。
(五) 「餓狼伝説」は、平成四年一二月に同名のままテレビアニメ化され、「餓
狼伝説2」は平成五年七月に「バトルファイターズ餓狼伝説2」としてテレビアニ
メ化され、スペシャルテレビ番組としてフジテレビ系で全国放映され、いずれも一
五%前後の視聴率を上げ、平成六年夏には、アニメーション映画化され劇場公開さ
れた(右劇場公開を報ずる平成六年六月二三日付産経新聞夕刊の記事には、「餓狼
伝説」は全国で五〇〇万人の熱狂的なファンをもつといわれるヒット商品との記載
がある)。また、「龍虎の拳」は、平成五年一二月「バトルスピリッツ龍虎の拳」
としてテレビアニメ化され、同じくフジテレビ系で全国放映された。
 平成五年一一月には、
「餓狼伝説2」の登場人物を印刷した子供向け遊戯用キャラクターカードを原告に
無断で製造、販売していた業者が、不正競争防止法違反の疑いで警察に逮捕され
た。
 本件ゲーム機(本体とコントローラー)は、平成四年一〇月一日付で通商産業大
臣から同年度グッドデザイン賞を受賞している(甲三五)。
 また、「餓狼伝説」、「龍虎の拳」、「餓狼伝説スペシャル」、「サムライスピ
リッツ」は、セガや任天堂等の他社からそのテレビゲーム機(メガドライブやスー
パーファミコン)で使用できるゲームソフトウエアに移植することの許諾を求めら
れ、原告はこれを許諾した。この関係で、「ファミコン通信」平成五年五月七日・
一四日号(甲五五の1~5)には、「徹底攻略餓狼伝説」「なんと、あの格闘アク
ション巨編『餓狼伝説』メガドライブ版を徹底攻略だっ!」「ネオジオ版の感動が
再び!」「この餓狼伝説はネオジオから移植された、対戦型の格闘アクションゲー
ム」、「特報龍虎の拳」「ネオジオの普及台数をいっきに増やしたといわれる格闘
アクションゲーム『龍虎の拳』」「ネオジオの大ヒット作が移植」との記事が掲載
されており、「電撃スーパーファミコン」平成六年七月一五日号(甲五六の1~
5)には、「オレたちを熱くさせた、NEO・GEOの爆発ヒット格闘ゲーム餓狼
伝説スペシャルとサムライスピリッツ。あの狼が、あの侍が、そっくりSFCに移
植されて、まもなくわれわれの前に登場するのだ!」との記事が掲載されている。
(六) 本件ゲーム機の宣伝広告及び一般誌等による本件ゲーム機の紹介記事は、
すべて本件ゲーム機ないし原告製品について「NEO・GEO」又は「ネオジオ」
の商品名を表示してなされている。
 例えば、雑誌「mono」平成四年八月一六日・九月二日号(甲四の2)には、
「100メガゲーム維新、ついに始まる!」との見出しのもとに、「NEO・GE
O」という商品表示を表示した本件ゲーム機(本体とコントローラー)の写真が掲
載され、「かつてない100メガの大容量ゲームが、この夏、ついにNEO・GE
Oネオジオからリリースされる。」との記載があり、
雑誌「日経トレンディ」平成四年一月号(甲四の4)には、「それでもゲームが面
白い。」との見出しのもとに、「NEO・GEO」という商品表示を表示した本件
ゲーム機の写真が掲載され、「ビジネスピープルの感性にたえる、ド迫力エンタテ
インメントツール〈NEOGEO〉の高性能とは!」との記載があり、「ファミコ
ン通信」平成六年一月七日・一四日号(甲三六)には、「比類なきNEOGEO 
MAX330MEGA」との見出しのもとに本件ゲーム機及び本件ゲームソフトウ
エアの紹介記事がある。
 以上の(一)ないし(六)の事実によれば、本件ゲーム機は、その専用ゲームソ
フトウエアである「餓狼伝説」等の本件ゲームソフトウエアが人気を博して売上げ
を伸ばすのに伴って著しく売上げを伸ばし、その間、本件ゲームソフトウエアの人
気及び本件ゲーム機自体の高性能さ(最大容量三三〇メガのゲームソフトウエアに
対応でき、高速CPUを搭載していること)が専門誌、一般誌等に紹介され、ある
いは原告により継続的に本件ゲームソフトウエア及び本件ゲーム機の宣伝広告活動
がされたものであり、本件ゲーム機ないし原告製品自体及びその包装箱には「ネオ
ジオ」又は「NEO・GEO」という商品表示が大きく表示されているだけでな
く、右専門誌等での紹介や宣伝広告活動に当たって、当初から一貫して本件ゲーム
機ないし原告製品の商品表示として右「ネオジオ」又は「NEO・GEO」という
商品表示が使用されてきたものであるから、右商品表示は、本件ゲーム機ないし原
告製品の商品表示として、遅くとも「龍虎の拳」が発売されるとともに「餓狼伝
説」がテレビアニメ化され、続いて「餓狼伝説2」が発売された平成五年三月頃に
は需要者の間に広く知れわたったものというべきである。被告は、「ネオジオ」又
は「NEO・GEO」が本件ゲーム機の商品名であるとしても、その知名度はせい
ぜい本件ゲーム機本体の商品名としての知名度にとどまるものと思われると主張す
るが、原告製品は、本件ゲーム機本体とセットで販売されているコントローラーと
同一商品であり、これをただ別売りしているにすぎないものであり、したがって、
それ自体に「NEO・GEO」という商品表示が大きく表示されているだけでな
く、その包装箱にも「NEO・GEO」という商品表示が大きく表示されているの
であるから、「ネオジオ」又は「NEO・GEO」という商品表示は、本件ゲーム
機(本体とコントローラー)だけでなく原告製品についても、原告の商品であるこ
とを示す商品表示として同時に周知性を取得したことが明らかである。
 なお、前記(五)のとおり、本件ゲームソフトウエアのうち「餓狼伝説」「龍虎
の拳」「餓狼伝説スペシャル」「サムライスピリッツ」は、セガや任天堂等の他社
製のテレビゲーム機(メガドライブやスーパーファミコン)で使用できるゲームソ
フトウエアに移植されていることが認められるが、右移植に関する記事が掲載され
た雑誌の発行年月日に徴すれば、右移植が行われたのは、「ネオジオ」又は「NE
O・GEO」という商品表示が本件ゲーム機ないし原告製品の商品表示として周知
性を取得した平成五年三月頃より後のことと認められ、しかも、右各雑誌には「餓
狼伝説」等のゲームソフトウエアが「ネオジオ」から「メガドライブ」や「スーパ
ーファミコン」に移植されたものであることが明記されているから、右移植の事実
は、「ネオジオ」又は「NEO・GEO」という商品表示が原告の商品表示として
周知性を取得したとの前記認定の妨げとなるものではない。むしろ、セガや任天堂
が原告に移植の許諾を求めたことは、「餓狼伝説」等の人気の高さを物語り、ひい
ては右商品表示の周知性を裏付けるものというべきである。
2(一)(1) 被告が平成五年一二月一七日から販売を開始した被告製品(一)
についてみるに、甲第八号証の1ないし7、検甲第四号証、乙第一〇号証の5ない
し8によれば、被告製品(一)自体及びその包装箱には、次の表示がされているこ
とが認められる。
 被告製品(一)の上面は、黒地で、中央やや左寄りに別紙商品表示目録(一)記
載の態様で「Fighting Stick」「NEO」と二段に表示され、左上
隅にやや小さく「HORI」と表示されている。
 包装箱の上面は、
上から約五分の一の幅で別紙商品表示目録(二)記載の態様で、「ファイティング
スティック」「NEO」と二段に、左側にやや小さく「FIGHTING STI
CK NEO」と表示され、その下約五分の四の幅のところに被告製品(一)の上
面を真上から撮影した写真が掲載されており、その写真には、右の被告製品(一)
上面の表示がそのまま表われている。そして、四つの側面にも、右と同様に別紙商
品表示目録(二)記載の態様で「ファイティングスティック」「NEO」、「FI
GHTING STICK NEO」と表示されている。
(2) 被告が平成六年一二月二八日から販売を開始した被告製品(二)について
みるに、検甲第七号証の1ないし8、検甲第八号証の2・3によれば、被告製品
(二)自体及びその包装箱には、次の表示がされていることが認められる。
 被告製品(二)の上面は、黒地で、中央やや左寄りに別紙商品表示目録(三)記
載の態様で「Fighting Stick」「NEOⅡ」と二段に表示され、左
上隅にやや小さく「HORI」と表示されている。
 包装箱の上面は、被告製品(二)を手前側の右斜め上方から撮影した写真がほぼ
いっぱいに大きく掲載され、その写真には、右の被告製品(二)上面の表示がその
まま表われており、下から約三分の一の幅で左寄りに別紙商品表示目録(四)記載
の態様で、「Fighting」「Stick」と二段に、その右横に二段分の高
さで「NEOⅡ」、その下に小さく横書きで「ファイティングスティックネオⅡ」
と表示されており、右上隅にやや小さく「HORI」と表示されている。そして、
四つの側面にも、右と同様に別紙商品表示目録(四)記載の態様で「Fighti
ng」「Stick」、「NEOⅡ」、「ファイティングスティックネオⅡ」と表
示されている。
(二) 右(一)認定によれば、被告は、「ファイティングスティックNEO(F
ighting Stick NEO)」及び「ファイティングスティックNEO
Ⅱ(Fighting Stick NEOⅡ)」という表示を、全体として被告
製品の商品主体の識別機能を発揮させる態様で、
すなわち商品表示として使用していることが明らかである。
 被告は、被告が使用している「ファイティングスティックNEO(Fighti
ng Stick NEO)」又は「ファイティングスティックNEOⅡ(Fig
hting Stick NEOⅡ)」という表示は、被告製品が本件ゲーム機本
体に適合するものであることを示す用途表示であって、被告製品の商標として使用
しているものではなく、かつ、「NEO・GEO」そのものではなく、その一部で
あるから、かかる表示を付して被告製品を販売することは、何ら不正競争防止法二
条一項一号の不正競争に該当するものではない旨主張する。右表示中の「NEO」
は、「NEO・GEO」を意味するものであるところ(証人【B】)、被告製品が
本件ゲーム機本体を対象機種とするものであることからすれば、本件ゲーム機本体
に適合するものであることを示す用途表示としての態様で「NEO・GEO」の表
示を使用することは許されると解する余地があるとしても、被告による「ファイテ
ィングスティックNEO(Fighting Stick NEO)」及び「ファ
イティングスティックNEOⅡ(Fighting Stick NEOⅡ)」と
いう表示の使用態様は、前記の別紙商品表示目録(一)ないし(四)記載のとおり
であり、その使用態様に照らせば、到底用途表示ということはできず、「NEO」
という部分を含めた全体が一体として被告製品の商品主体を表示する機能を有する
ものといわなければならない。
(三) そして、前記1のとおり、「ネオジオ」又は「NEO・GEO」の商品表
示は、本件ゲーム機ないし原告製品の商品表示として遅くとも平成五年三月頃には
需要者の間に広く知れわたっていたことに照らせば、被告が被告製品(一)に「フ
ァイティングスティックNEO(Fighting Stick NEO)」とい
う表示を、被告製品(二)に「ファイティングスティックNEOⅡ(Fighti
ng Stick NEOⅡ)」という表示を前記の態様で使用して販売すること
は、被告製品が原告の商品であるかのように混同を生じさせるものといわなければ
ならない。
(四) 被告は、「ファイティングスティックNEO(Fighting Sti
ck NEO)」又は「ファイティングスティックNEOⅡ(Fighting 
Stick NEOⅡ)」という表示は、「NEO・GEO」という表示と類似せ
ず、混同を生じない旨主張し、その理由として以下のとおり主張するが、いずれも
失当というほかない。
(1) まず、被告は、「ファイティングスティックNEO(Fighting 
Stick NEO)」と「NEO」とは同価値ではなく、「ファイティングステ
ィック(Fighting Stick)」が主であり、かつ、被告製品の基本商
標であって、「NEO」は用途表示としての機能を持たせつつ付加されたものであ
り、文字数や音節数を比べても、「ファイティングスティック(Fighting
 Stick)」の方が「NEO」よりも多いので、被告製品を識別するためには
前者が要部として重視されることが理解できると主張するが、その使用態様から
「NEO」が用途表示とはいえないことは前記のとおりであり、「ファイティング
スティック(Fighting Stick)」よりも「NEO」又は「NEO
Ⅱ」の方が目立つように表示されているのであり、需要者の目を惹くものといわな
ければならない。
(2) 被告は、そもそも「NEO」は、単に「新」という意味の接頭辞にすぎ
ず、それ自体から直ちに「NEO・GEO」を想起させるものではなく、「NE
O」を含む登録商標は、被告の知りえた限りでも原告・被告の属する業界の商標分
類第二四類だけでも二〇件に及ぶのであるから、「ファイティングスティックNE
O(Fighting Stick NEO)」という表示から「NEO」なる部
分を特に取り出し、その前についている「ファイティングスティック(Fight
ing Stick)」という部分を故意に脱落させて「ネオジオ」又は「NE
O・GEO」と混同を生じさせるとするのは全く根拠がないと主張する。
 しかし、「NEO」という語は本来は「新」という意味の接頭辞にすぎず、「N
EO」を含む登録商標が第二四類に多数登録されているとしても、
テレビゲーム機に関しては「NEO・GEO」といえば原告の本件ゲーム機ないし
原告製品を指すことが周知になっていたのであり、それ故「NEO」というだけで
「NEO・GEO」すなわち本件ゲーム機ないし原告製品を指すものであると認識
されているのである(被告の取締役技術部長である証人【B】も、前示のとおり、
「NEO・GEO」を意味するものであることを認めているし、そもそも「NE
O」は用途表示として付加されたとの前記(1)の被告の主張とも矛盾する)。
(3) 被告は、「ファイティングスティック」は、被告が平成四年七月三一日に
スーパーファミコンに対応するコントローラーを「ファイティングスティック」の
名称で発売して以来、「ファイティングスティックPC」(平成五年六月一六
日)、「ファイティングスティックマルチ」(平成五年九月三〇日)、「ファイテ
ィングスティックNEO」(平成五年一二月一七日)、「ファイティングスティッ
クNEOⅡ」(平成六年一二月二八日)、「ファイティングスティックDUAL」
(平成六年一一月一九日)、「ファイティングスティックPS」(平成六年一二月
一〇日)、「ファイティングスティックSS」(平成六年一二月二二日)、「ファ
イティングスティックDUAL PLUS」(平成七年二月九日)というように
「ファイティングスティック」シリーズとして販売し続けてきたものであって、
「ファイティングスティック(Fighting Stick)」という商標は、
被告の商品表示としてゲーム機業界及び顧客層の間で周知であるから、原告の商品
であるとの混同は生じないと主張するが、仮に右のとおり被告が他社製のゲーム機
本体に対応するコントローラーを「ファイティングスティック」シリーズとして販
売し続けてきたとしても、被告製品のような別売り(単体)のコントローラーを購
入する需要者にとってはいかなるゲーム機本体に対応するものであるかが一番の関
心事であり、「ネオジオ」又は「NEO・GEO」という商品表示が本件ゲーム機
ないし原告製品の商品表示として周知性を取得している状況において、
前記のとおり「ファイティングスティック(Fighting Stick)」よ
りも「NEO」又は「NEOⅡ」の方が目立つように表示されているのであるか
ら、需要者は、被告の製造、販売するコントローラーに一般的に表示されている
「ファイティングスティック(Fighting Stick)」の部分よりも、
「ネオジオ」又は「NEO・GEO」という商品表示の一部をそのまま採用した
「ネオ」又は「NEO」の部分に着目するものというべきである。
(4) 更に被告は、被告製品と原告製品の具体的な相違点を種々挙げた上、実
際、ユーザーは、ユーザーの間でそのコントローラーが品質、操作性、デザインな
どの点で優秀であることが周知の事実である被告の製造、販売したコントローラー
であると認識して被告製品を購入するのであって、被告製品を原告の製造、販売し
たコントローラーであると誤認混同して購入するわけではないと主張するが(第三
の四【被告の主張】3(四))、製品にその主張のような違いがあるとしても、前
示のような商品表示の類似性に基づく混同を妨げるものとはいえない。
(五) 以上のとおり、「ファイティングスティックNEO(Fighting 
Stick NEO)」及び「ファイティングスティックNEOⅡ(Fighti
ng Stick NEOⅡ)」という表示を前記の態様で使用した被告製品を販
売する行為は、原告の商品であるかのように混同を生じさせる行為として不正競争
防止法二条一項一号所定の不正競争に該当するものというべきであり、これにより
原告が営業上の利益を侵害されていることが明らかであるから、原告は被告に対
し、同法三条に基づき、その販売する被告製品に、別紙商品表示目録(一)ないし
(四)記載の各表示を使用し、又はこれを使用した被告製品を販売すること及び被
告製品の容器箱、包装紙又はその広告に別紙商品表示目録(一)ないし(四)記載
の各表示を使用することの停止を求めることができるというべきである。但し、原
告の本訴予備的請求にかかる差止請求中、右記載の態様以外での「ネオ」又は「N
EO」の表示の使用の停止を求める部分は、
理由がないというべきである。
 また、弁論の全趣旨によれば、右不正競争行為につき被告には少なくとも過失の
あることが明らかであるから、原告は被告に対し、同法四条に基づきその損害の賠
償を求めることができるというべきである。
 なお、被告は、原告はコントローラー(原告製品)について実用新案登録出願を
していないにもかかわらず、原告製品を国内販売するのに使用していた包装箱(乙
一〇の3)に、「実用新案出願中」なる文字を記載しており、かかる虚偽の表示を
して原告製品を販売している原告には、被告製品の販売行為に対して不正競争防止
法による保護を主張して差止めや損害賠償を求める資格はないと主張するところ
(第三の三【被告の主張】5)、原告が本件ゲーム機における対戦用コントローラ
ーとしての原告製品自体について実用新案登録出願をしていると認めるに足りる証
拠はないにもかかわらず(証人【A】は、コントローラーについて特許あるいは実
用新案登録の出願をしている旨証言するが、乙第二〇号証の1ないし4、第二一号
証の1ないし10に照らし、採用できない)、乙第一〇号証の3によれば、原告
は、原告製品の国内販売用の包装箱の側面に「実用新案出願中」という表示を印刷
している事実が認められるが、検甲第一、第三号証及び弁論の全趣旨によれば、本
件ゲーム機(本体及びコントローラー)を販売するための包装箱にはそのような
「実用新案出願中」という表示は印刷されていないことが認められ、前認定の事実
関係に照らし、右原告製品の国内販売用の包装箱の側面における「実用新案出願
中」という表示の故に「ネオジオ」又は「NEO・GEO」という商品表示が周知
性を取得したという因果関係にないことが明らかであるから、右「実用新案出願
中」の表示を印刷したことは、それ自体相当ではないものの、だからといって原告
が不正競争防止法による保護を受ける資格がないとまでいうことはできない。
五 争点5(被告が損害賠償義務を負うとした場合に、原告に対し賠償すべき損害
の額)について
1 被告が平成五年一二月に被告製品(一)を一個当たり三九四四円で合計二万個
販売し、
一個当たり二〇三〇円の利益を得たことは、反訴に関する前記第三の七【被告の主
張】1(一)において被告自ら主張するところであり、原告は右主張を援用したも
のであるから、右事実は当事者間に争いがないことになる(販売個数二万個につい
ては、平成六年一月二一日付答弁書でも自白している)。もっとも、被告は、その
後被告製品(一)の販売個数は一万九九〇〇個である旨その主張を変更したので
(被告の平成八年一一月五日付準備書面)、販売個数一〇〇個について自白を撤回
したことになるが、被告は、右自白が真実に反し、かつ錯誤に基づくものであると
の主張、立証をしないから、右自白の撤回は無効である。したがって、被告が右平
成五年一二月の被告製品(一)の販売によって得た利益は、合計四〇六〇万円であ
ることが明らかである。
2 被告が平成六年三月に被告製品(一)を追加販売したことは当事者間に争いが
ない。
 その販売個数については、被告は九九〇〇個であると主張するのに対し、原告
は、平成六年四月四日付訴えの変更申立書により、被告は平成六年三月一四日頃に
被告製品(一)を合計二万個製造、販売したものであると主張し、その後も右主張
を維持しながら、商標法三九条、特許法一〇五条の類推適用に基づき、被告の不正
競争による原告の損害の計算をするため必要な書類として、平成五年一〇月一日以
降現在に至るまでの被告製品(一)及び被告製品(二)について記載のある被告の
総勘定元帳等の帳簿書類の提出命令を求めた(平成七年(モ)第七四八四号文書提
出命令申立事件)ものであるから、右文書提出命令の申立ては、右帳簿書類に右主
張どおりの記載があることを黙示的に主張したものというべきである。しかるとこ
ろ、被告は、当裁判所が平成八年一月二二日付で総勘定元帳、売掛台帳、買掛台
帳、売上元帳、仕入元帳及び売上伝票の提出を命じたにもかかわらず、正当な理由
なくこれに応じなかったことは訴訟上明らかであるから、平成五年一二月の被告製
品(一)の販売個数が二万個であったこと、その他反訴に関する前記第三の七【被
告の主張】1(一)の主張に照らし、
右文書提出命令の対象となった書類に関する原告の主張、すなわち、被告が平成六
年三月に製造、販売した被告製品(一)の個数が合計二万個であったとの事実を真
実と認めるのが相当である。
 そして、右平成六年三月販売の被告製品(一)の販売単価及び一個当たりの利益
の額は、直接これを立証するような証拠はないが、右被告製品(一)は、平成五年
一二月に販売した被告製品(一)と全く同一の製品であり、小売価格も同じ六八〇
〇円であることは被告の認めるところであるから、平成五年一二月の場合と同様、
その販売単価は三九四四円であり、一個当たりの利益の額は二〇三〇円と推認さ
れ、これに反する証拠はない。
 したがって、被告が右被告製品(一)の追加販売によって得た利益は、合計四〇
六〇万円であると認められる。
3 被告が平成六年一二月に被告製品(二)を合計二万四三〇〇個販売したこと
は、当事者間に争いがない。被告製品(二)は、実質的に被告製品(一)と同一の
コントローラーであり、小売価格も同じ六八〇〇円であることは被告の認めるとこ
ろであるから、特段の事情の認められない本件においては、その一個当たりの利益
の額も被告製品(一)と同額の二〇三〇円と推認され、これに反する証拠はない。
 したがって、被告が右被告製品(二)の販売によって得た利益は、合計四九三二
万九〇〇〇円であると認められる。
4 以上のとおり、被告は、被告製品の販売により合計一億三〇五二万九〇〇〇円
の利益を得たものであるから、不正競争防止法五条一項により、右の額は被告の不
正競争により原告の被った損害の額と推定される。
 したがって、原告の予備的請求中、被告に対し、右損害額の内金として一億二一
八〇万円の支払を求める損害賠償請求は理由があるというべきである。
六 争点6(原告の被告に対する本訴請求にかかる訴えの提起・維持及びこれを本
案とする仮処分の申立ては、いわゆる不当訴訟として被告に対する不法行為を構成
し、また、本訴における原告の主張は被告の名誉を毀損するものであるか)につい

1 被告は、まず、本訴請求にかかる訴え等の提起・維持は、
何ら法律上の根拠がないのに原告においてその慎重な検討を怠った過失のある不当
訴訟として不法行為を構成すると主張する。
 民事訴訟を提起した者が敗訴の確定判決を受けた場合において、右訴えの提起が
相手方に対する不法行為を構成するのは、当該訴訟において提訴者の主張した権利
又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くものである上、提訴者がそのことを知り
ながら又は通常人であれば容易にそのことを知りえたといえるのにあえて訴えを提
起したなど、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認
められるときに限られるものと解するのが相当である(最高裁昭和六三年一月二六
日第三小法延判決・民集四二巻一号一頁参照)。
 これを本件についてみるに、本訴請求のうち、主位的請求にかかる映画の著作物
の著作権に基づく請求、著作者人格権(同一性保持権)に基づく請求及び不正競争
防止法二条一項一号に基づく請求は、前示のとおり結局理由がないものとして棄却
すべきものではあるが、被告が原告の製造、販売する本件ゲーム機本体にのみ接続
可能なコントローラーであって連射機能を付加した被告製品を原告の了解を得るこ
となく製造、販売している事実自体は争いがなく、被告による右被告製品の販売行
為が映画の著作物についての上映権の侵害行為となり、本件ゲームソフトウエア並
びにその上映による影像及び影像の動的変化について原告が有する同一性保持権を
侵害するものであり、あるいは、本件ゲーム機によって映し出すことのできる本件
ゲームソフトウエアのキャラクターを主体とする各種影像とゲームの進行に応じた
これら影像の動的変化の態様は本件ゲーム機ないし原告製品が原告の商品であるこ
とを示す商品表示に該当するという原告の法律上の主張については、結果的に当裁
判所の採用しないところではあるものの、一応一つの見解としては成り立ちうるも
のであって、理由のないことが誰の目から見ても明らかであるとまではいえず、本
件全証拠によるも、提訴者である原告において右法律上の主張が理由のないことを
知っていたとも、通常人であれば容易にそのことを知りえたとも認められず、
本件訴訟の全過程をみても本訴請求にかかる訴え等の提起・維持が裁判制度の趣旨
目的に照らして著しく相当性を欠くとはいえないことが明らかであるから、被告に
対する不法行為を構成しないというべきである。加えて、当裁判所が原告の予備的
請求を一部認容すべきものと判断したように、原告の本訴請求も、その請求の趣
旨、原因いかんによっては理由があることになるのであるから、なおさら不法行為
を構成しないといわなければならない。
2 また、被告は、原告は平成六年三月一五日の第二回口頭弁論期日で陳述した同
月一四日付第一準備書面において、被告は「原告製品のシステムを盗用」した、と
いうように「盗用」という語を前後一一回にわたって使用しているが、「盗用」と
いう語の意味は「盗んで用いること」であると解され、「盗む」とは、「横領」と
異なり、相手方の占有を侵奪することを意味するから、原告は、被告が原告の占有
を侵奪したことを公然と表明したことになるところ、被告は原告の占有下にある
「システム」を侵奪し、これを被告の占有下においたことはないから、原告の主張
は事実無根であり、被告に対する名誉毀損になることは明らかであり、仮に、「盗
用」という語に占有侵奪という意味がないとしても、「盗用」という語は、「盗
聴」あるいは「盗作」等と同じように反社会的で否定的価値判断を含んだ語である
ことは否定できないから、かかる反社会的な行為を被告が行ったということを公然
と摘示することは、被告の名誉を毀損する行為であるというべきである旨主張す
る。
 訴訟において自己の請求の事実的、法律的根拠を基礎づけるための主張内容を準
備書面に記載し、これを公開の口頭弁論期日において陳述することは、正当な訴訟
活動であり、訴訟活動としての性質上右記載内容又は陳述内容がときとして相手方
を批判、非難するようなものであったとしても、それが本来の訴訟遂行目的とは離
れてもっぱら相手方に対し損害を被らせることを意図してされた場合や、その態様
が正当な訴訟活動から著しく逸脱したものではない限り、正当な訴訟活動として是
認されるべきであると解するのが相当である。
 これを本件についてみると、もともと「盗用」という語は、必ずしも相手方の占
有を侵奪することを意味するものではなく、むしろ、「デザインの盗用」「論文の
盗用」などというように、他人の抽象的な表現物を無断で使用することを意味する
ものであり、被告が原告製品のシステムを「盗用」したとの文言を使用した準備書
面に記載された原告の主張の趣旨に照らしても、それは、被告の主張するように被
告が原告の占有を侵奪したことを公然と表明したというものではなく、単に被告が
原告製品のシステムを「模倣」したという趣旨の主張と解すべきことは明らかであ
り、前示のとおり被告製品の回路構成は連射機能に関わる部分を除き原告製品の回
路構成と全く同じであるから、「模倣」と表現してもあながち不当とはいえない。
したがって、「盗用」という文言自体は、やや不適当といえなくもないが、本来の
訴訟遂行目的とは離れてもっぱら相手方に対し損害を被らせることを意図したもの
とも、その態様が正当な訴訟活動から著しく逸脱したものともいえないことが明ら
かであるから、被告の名誉を毀損する不法行為を構成するということはできない。
3 以上によれば、被告の原告に対する反訴請求は、理由がないというべきであ
る。
第五 結論
 よって、原告の本訴主位的請求をいずれも棄却することとし、予備的請求のう
ち、差止請求は主文第二項1及び2の限度で認容し、その余は棄却し、損害賠償請
求を認容することとし、被告の反訴請求を棄却することとし、主文のとおり判決す
る。
(裁判官 水野武 田中俊次 小出啓子)
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