弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 一 上告代理人鈴木竹雄、同長谷部茂吉、同青山義武、同春田政義、同田代有嗣
の上告理由第一点について
 所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯する
に足り、右事実関係の下においては、被上告人の本件訴訟の提起が権利の濫用に当
たるものではないとした原審の判断は、正当として是認することができる。原判決
に所論の違法はない。論旨は、原審の認定しない事実を交え、独自の見解に立って
原判決を非難するものにすぎず、採用することができない。
 二 同第二点について
 甲株式会社が同社のすべての発行済み株式を有する乙株式会社の株式を取得する
ことは、商法(昭和五六年法律第七四号による改正前のもの)二一〇条に定める除
外事由のある場合又はそれが無償によるものであるなど特段の事情のある場合を除
き、同条により許されないものと解すべきである。けだし、このような甲株式会社
による乙株式会社の株式の取得は、乙株式会社が自社の株式を取得する場合と同様
の弊害を生じるおそれがある上、このような株式の取得を禁止しないと、同条の規
制が右の関係にある甲株式会社を利用することにより潜脱されるおそれがあるから
である。
 これと同旨の見解に立って、本件株式の取得が同条に違反するとした原審の判断
は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。
 三 同第三点及び第四点について
 1 原審の適法に確定した事実関係の要旨は、(一) D鉱山株式会社(以下「D
鉱山」という。)は、昭和五〇年当時、E株式会社(以下「E」という。)のすべ
ての発行済み株式を有していた、(二) D鉱山は、同年一二月三日、Eに対して、
Fの有するD鉱山株式一五五〇万株(以下「本件株式」という。)を同人の要求す
る価格で買い取った上、D鉱山の関連会社にFからの買入れ価格よりも低い価格で
売り渡すことを指示した、(三) Eは、右指示に従い、同月二五日、Fとの間で、
本件株式について代金を八二億一五〇〇万円とする売買契約を締結し、契約と同時
に株券の引渡しを受け、昭和五一年一一月三〇日までに代金全額を支払い、同年一
月から三月にかけて、本件株式を複数のD鉱山の関連会社に対して代金合計四六億
六三四〇万円で売り渡した、というのである。
 2 以上の事実関係によれば、Eの資産は、本件株式の買入価格八二億一五〇〇
万円と売渡価格四六億六三四〇万円との差額に相当する三五億五一六〇万円減少し
ているのであるから、他に特段の主張立証のない本件においては、Eの全株式を有
するD鉱山は同額に相当する資産の減少を来しこれと同額の損害を受けたものとい
うべきである。また、D鉱山の受けた右損害とEが本件株式を取得したこととの間
に相当因果関係があることも明らかである。したがって、本件株式の取得によりD
鉱山が三五億五一六〇万円の損害を受けたとする原審の判断は、結論において是認
することができる。論旨は、独自の見解に立って原判決を非難するものにすぎず、
採用することができない。
 四 同第五点について
 所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯する
に足り、右事実関係の下においては、上告人らの主張する利益は本件株式の取得と
の間に相当因果関係がないからD鉱山の損害から控除すべきでないとした原審の判
断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はない。論旨は、独
自の見解に立って原判決を非難するものにすぎず、採用することができない。
 五 上告人Aの上告理由について
 原審の適法に確定した事実関係の下においては、所論の点に関する原審の判断は、
正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、独自の見
解に立って原判決を非難するものにすぎず、採用することができない。
 六 よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致
の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    味   村       治
            裁判官    大   堀   誠   一
            裁判官    小   野   幹   雄
            裁判官    三   好       達
            裁判官    大   白       勝

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