弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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            主         文
      本件控訴を棄却する。
            理         由
1 本件控訴の趣意は,弁護人手島俊彦(主任)及び同佐々木浩史作成の控訴趣
意書及び控訴趣意補充書に,これに対する答弁は,検察官小野公夫作成の平成1
5年7月31日付け及び同年8月4日付け答弁書にそれぞれ記載されているとお
りであるから,これらを引用する。
  論旨は,要するに,量刑不当の主張であって,被告人を死刑に処した原判決
の量刑は,死刑の選択は真にやむを得ないと認められる場合にのみなされ,謙抑
的であらねばならないという根本を逸脱したもので,重過ぎて不当であり,被告
人に対しては,最長の有期懲役又は無期懲役にとどめるのが相当である,という
のである。
  そこで記録を調査し,当審における事実取調べの結果を併せて検討する。
2 本件は,平成11年11月に無期懲役刑の仮出獄を許された被告人が,平成
13年3月ころ,知人を介して被害者と知り合った後,借金返済に困っていた同
女から哀願されて金銭を貸し付けた上,情交関係も持つようになり,同女に対す
る好意に加え,身体に障害を有する同女への同情心や,頼りがいのある男と思わ
れたいとの見栄等から,その後も同女から頼まれるたびに手持金のほか,知人や
消費者金融業者から借り入れた金銭で貸付けを続けていたものの,同女が貸付金
の返済をほとんどしないまま次々に借入の申込みをしてくることから,同年8月
9日,岡山市a町内の当時の被告人方において,同女にこれ以上貸付けをする意
思のないことを告げ,貸付金の清算を求めたところ,同女との間で口論となり,
同女から,「金の都合がつかないところにいてもしょうがないから帰る。」「返
さないとは言ってない。」などと言われ,それまでにない開き直った態度をとら
れたことから,これに激高し,同日午前9時20分ころ,上記被告人方台所にお
いて,被害者(当時57歳)に対し,殺意をもって,その頸部を両手で絞め付け
るなどして,同女を頸部圧迫により窒息死させ(原判示第1),同日午前11時
10分ころ,犯行の発覚を免れるため,同女の死体を普通乗用自動車後部トラン
クに積んで同所から同市b町内のA川東岸まで運んだ上,これを同所の竹藪内に
投棄した(原判示第2)という殺人及び死体遺棄の事案である。
  本件の罪質,結果がまことに重大であることはいうまでもない上,遺族に対
する慰謝の措置は何ら講じられておらず,遺族の被害感情は峻烈であって,社会
に与えた影響も甚大である。本件の動機は,貸付金の清算を求めたところ,被害
者から開き直った態度をとられたことに激高したというものであり,被害者の身
勝手で不誠実な態度が影響しているとはいえ,単に暴行を加えるにとどまらず,
とっさに殺意を生じて殺害にまで至っていることを考慮すると,あまりにも短絡
的であって,人命軽視の態度は甚だしく,同情の余地に乏しい。殺害の手段方法
は,帰ろうとする被害者の背後から,突然その頸部を両手で絞め付けた上,逃げ
ようとする同女の頸部にたまたま手近にあった電気ポットのコードを巻き付けて
緊縛し,さらに,必死に抵抗しながら苦しみもがいて転倒した同女の身体上に馬
乗りになり,その頸部を両手で絞め付けて息の根を止めたというもので,強固な
確定的殺意に基づく執拗かつ残忍なものであって,殺害後,犯跡を隠蔽するため
遺体を人目につかない河川沿いの竹藪内に投棄し,逃走するなどして腐敗するが
ままにしていた点も併せ考慮すると,非情な犯行というほかはない。加えて,被
告人は,約2年の間に別の機会に2度にわたり,交際していた女性2名を殺害
し,各遺体を山中の川原に遺棄し,その後両事件が発覚して殺人及び死体遺棄各
2件を含む罪により起訴され,昭和55年3月に無期懲役刑に処せられ,19年
余りにわたって服役しながら,仮出獄を許された後,約1年9か月で再び本件の
ような凶悪かつ重大な犯行に及んでおり,この点において,本件は極めて特異か
つ悪質である。特に,前件の殺人及び死体遺棄各2件は,いずれも本件同様,被
告人が,金銭をつぎ込んで交際していた女性から露骨に変心の態度をとられたこ
とに激高し,頸部を絞め付け,あるいは棒で殴打するなどして殺害したものであ
り,親密な関係にあった女性から上記のような態度をとられるや激高し,単に暴
行を加えるだけでなく,相手が抵抗力のない女性であるにもかかわらず,殺害す
るまで犯行の手を緩めず,しかも殺害後,犯跡を隠蔽するため遺体を人目につか
ない場所に遺棄したという点で,本件とは極めて顕著な類似性が認められる。そ
れだけに,前刑の仮出獄後,比較的短期間のうちに本件各犯行に及んだ被告人の
反社会性,犯罪性は甚だ根深く,それぞれの犯行の経緯や動機に多少の差があ
り,前件から長期間を経ているとはいえ,別々の機会に3名の尊い人命を甚だ残
酷な方法で奪い,死体を遺棄した被告人の刑責は,到底許されざるものがあると
いわなければならない。したがって,以上の諸点を総合すると,本件で殺害され
た被害者は1名であるが,被告人の罪責は極めて重大であって,被告人のために
酌量すべき格別の事情がない限り,死刑の選択をするほかないものといわざるを
得ない。
  所論は,被告人のために酌量すべき事情として,(1) 本件は,激情に基づ
く偶発的犯行で,計画性はなく,保険金を得るため等の金銭欲や性的欲求といっ
た悪質な利己的利益を目的ないし動機とするものでもないこと,(2) 被害者
は,金銭関係に極めてルーズであった上,実際には被告人を嫌いながら,表面上
は好意を持っているかのように装い,性的関係にまで誘惑し,利用価値がないと
分かると突然態度を豹変させて,被告人の人格,プライドを傷つけており,被害
者にも相当大きな落ち度があること,(3) 被告人は,仮出獄を許されるまでの
服役中,一切トラブルを起こしたことのない模範囚であった上,仮出獄後も自ら
稼働して収入を得,慎ましいながらも経済的に自立した生活を送っていたもの
で,犯罪傾向が顕著であるとはいえず,また,不自然な弁解をせず,本件を真摯
に反省,悔悟していることなどの事情があるとし,その上で,(4) 本件は,い
わゆる永山事件に関する最高裁昭和58年7月8日第2小法廷判決(以下「昭和
58年判決」という。)以後,累次の最高裁判決で示されてきた死刑適用の判断
基準に照らし,死刑の選択をすべき事案には当たらない旨主張する。
  まず,(1)の点についてみると,本件が激情に基づく犯行であって,保険金
等の金銭を得たり,性的欲求を満たすなどの目的の下,事前に被害者の殺害を計
画していたものでないことは,所論指摘のとおりである。しかしながら,偶発的
犯行であるとの点については,被告人は,犯行直前ころに,被害者から新たな借
入申込みを受けたのに対し,被害者と結婚することにすれば名古屋にいる叔母か
ら金銭を調達できるだろうなどと嘘を重ねた結果,犯行前日,被害者及びその友
人らと共に名古屋へ行くことになり,その際,上記嘘を取り繕うため,知人に依
頼して,被告人の叔母が100万円を銀行振込した芝居までさせた上,被害者に
対し,翌日上記100万円を貸すので,一人で被告人方へ来るように申し向ける
など,被害者に過度の期待を抱かせる言動を繰り返していたのであり,犯行当
日,被告人が被害者に対し,いきなり上記100万円が振り込まれたというのは
嘘で,貸すことはできない,これまでの貸金も清算してほしいなどと告げれば,
被害者との間で激しい口論等となることは,被告人としても十分予期し得たとこ
ろであって,前件の各犯行時,似たような経過の下,被告人が,真実ないし本心
を吐露したところ,それまで親密な関係にあった女性から露骨に変心の態度をと
られたことに激高し,各女性の殺害に及んでいたことを考え併せると,本件は,
被害者との激しい衝突を容易に予見できた事案であって,犯行時の一局面のみを
とらえ,偶発的犯行としての側面を強調して評価することは必ずしも当を得な
い。次に,(2)の点についてみると,確かに,被害者は,過去に2回も破産宣告
を受けながら,被告人と知り合った当初から,パチンコ等の遊興費やそれまでの
借金の返済資金を得たいがために,被告人に積極的に接近して借金を申し込み,
その好意を利用し情交関係まで持って金銭を借り続け,被告人が手持金を使い果
たしたことを知った後も,被告人名義で消費者金融業者から借金して貸してほし
いなどと金の無心を続けた結果,本件当時,被告人に対する約185万円の借金
を含め,合計1192万円余りの借財を抱えていたもので,その経済観念は甚だ
ルーズである上,以上のような経過にもかかわらず,被害者は,本件時,借金の
清算を求める被告人に対し,全く誠意を見せず,開き直った態度をとり,被告人
の怒りを招いたものであって,被害者にも相当の落ち度があると認められる。し
かしながら,原判決も説示するとおり,被告人は,被害者との交際を始めた後,
同女が借金まみれで,貸し付けた金銭を返済できる見込みがないことに気づき,
いったんは同女と縁を切ろうとしたこともあったのに,同女との情交関係への未
練や,身体障害を有する同女への同情心,さらには頼りがいのある男と思われた
いとの見栄等から,その後も同女からの借金申入れを断り切れず,敢えて金銭を
貸し続けていたのであって,ここにおいても,交際中の女性との金銭トラブルに
からんで重大な犯罪を犯したという前件の教訓を,全く無視した被告人の行動に
は強い非難が可能であるといわなければならず,被害者に上記のような落ち度が
あったことを前提としても,本件の場合,それが被告人の刑責をさほど軽減する
ものとは考えられない。さらに,(3)の点についてみると,被告人は,仮出獄を
許されるまでの19年余りの服役中,規律違反は皆無で,15年間無事故(規律
違反なし)の表彰を受けるなど,いわゆる模範囚であったこと,仮出獄後の平成
12年3月ころ,前記被告人方に住居を借り,新聞配達や清掃業に従事して収入
を得,特に遊興に耽ることもなく,経済的に自立した生活を送っていたことが認
められるけれども,結局において,被告人が無期懲役刑の仮出獄後,約1年9か
月という短期間のうちに,前件と極めて顕著な類似性が認められる重大な本件各
犯行に及んでいることに徴すると,前記のとおり,被告人の反社会性,犯罪性に
は甚だ強固なものがあるといわざるを得ず,また,被告人が本件で逮捕された
後,ことさら不自然な弁解はせず,反省の態度を示していることは,所論指摘の
とおりであるが,過去に2名の女性を殺害するなどして無期懲役刑に処せられ,
その贖罪に努めるべき被告人が,仮出獄後約1年9か月で再び被害女性の一命を
奪うという,いわば取り返しのつかない凶悪かつ重大な犯行に及んだのであるか
ら,その反省は遅きに失したともいうことができ,本件で被告人の反省状況を大
きく評価することは相当でない。進んで,(4)の点について検討するに,弁護人
らは,昭和58年判決以後,無期懲役刑の仮出獄中に殺人等の凶悪事犯を犯し,
当審においてその判決写しが提出された事案18件(未確定分を含む。)を比較
検討すると,検察官が死刑を求刑した12件については,昭和58年判決が示し
た基準に照らし,極刑もやむを得ないと考えられるが,検察官が無期懲役又は有
期懲役を求刑し,無期懲役刑又は有期懲役刑とされた残り6件との対比におい
て,被告人を死刑に処することは明らかに刑の均衡を失する旨主張する。しかし
ながら,上記6件の判決写し等によれば,それらはいずれも,被害者1名を殺害
した殺人あるいは強盗殺人等の罪による無期懲役刑の仮出獄中,再び1名を殺害
した単純殺人を主要な罪名とする事案であって,その中には本件のように,被害
者2名を殺害した殺人等の罪による無期懲役刑の仮出獄中,再び1名を殺害し,
前件を通じた殺害被害者が3名となる事案は存せず,むしろ,前件を通じた殺害
被害者が3名となる事案4件は,未確定分を含めすべて,検察官の求刑どおり死
刑が選択されている。そして,上記4件がいずれも,被害者1名を殺害した殺人
あるいは強盗殺人等の罪による無期懲役刑の仮出獄中,更に2名を殺害した事案
であるのに対し,本件は,前者が2名で,後者が1名であるという点で違いがあ
るけれども,最も尊重されるべき人の命を3度にわたり抹殺してしまったという
点で,その責任には共通するものがあるというべきであり,しかも前述のよう
に,前件と本件との間には極めて顕著な類似性が認められるのであるから,被告
人の刑責は,あまりにも重いと断ぜざるを得ず,同種事案との比較検討を加えて
も,被告人につき,死刑の選択を避け得るほどに決定的な事情は見出し難い。
  以上のとおりであって,所論指摘の事情を含め,被告人のために斟酌すべき
一切の事情を十分考慮しても,被告人を死刑に処した原判決の量刑は,まことに
やむを得ないところであって,当裁判所もこれを是認するほかはない。
  論旨は理由がない。
3 よって,刑訴法396条により本件控訴を棄却し,当審における訴訟費用
は,同法181条1項ただし書を適用してこれを被告人に負担させないことと
し,主文のとおり判決する。
  平成16年2月25日
   広島高等裁判所岡山支部第1部
       裁判長裁判官   安   原       浩
          裁判官   石   原   稚   也
          裁判官   吉   井   広   幸

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