弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     1、 昭和二十七年五月九日言渡にかかる原判決中、被告人A1に対し
有罪の言渡をした部分及び被告人A2、同A3、同A4、同A5、同A6、同A
7、同A8、同A9、同A10、同A11、同A12、同A13、同A14、同A
15、同A16、同A17、同A18に関する部分並びに同年七月七日言渡にかか
る被告人A19に対する原判決を破棄する。
     2、 被告人A2、同A3、同A17にそれぞれ懲役十年に処する。
     3、 被告人A19を懲役九年に処する。
     4、 被告人A1を懲役八年に処する。
     5、 被告人A11を懲役七年に処する。
     6、 被告人A4、同A5、同A7をそれぞれ懲役五年に処する。
     7、 被告人A6、同A8、同A9をそれぞれ懲役四年六月に処する。
     8、 被告人A10を懲役四年に処する。
     9、 被告人A12、同A15をそれぞれ懲役三年に処する。
     10、 被告人A13を懲役二年六月に処する。
     11、 被告人A16、同A18をそれぞれ懲役二年に処する。
     12、 被告人A14を懲役一年六月に処する。
     13、 原審における未決勾留日数中、被告人A3、同A2、同A1に
対しそれぞれ九十日を、被告人A14に対し六十日を、被告人A17に対し二百五
十日をそれぞれ右本刑に算入する。
     14、 但し被告人A16、同A18に附し、この裁判確定の日から三
年間、それぞれ右刑の執行を猶予する。
     15、 押収にかかる刷版機一台(当裁判所昭和二十七年押第一一八〇
号の一四〇)、ローラー機一台(同押号の一四一)、木製機械台一台(同押号の一
四二)及び偽造千円日本銀行券四千六百十枚(内三千二百三枚(同押号の一四七及
び一五一)は被告人A19より、内千四百七枚(同押号の三、三〇乃至三六、四
一、四七、四九乃至五七、六六乃至一三二)は全被告人より)はいずれもこれを没
収する。
     16、 原審における訴訟費用中、国選弁護人山田重次に支給した分は
被告人A14の、国選弁護人藤田馨に支給した分は被告人A9、同A1の、証人B
に支給した分は被告人A17の、証人Cに支給した分は被告人A3、同A18、同
A15の、証人Dに支給した分は被告人A13、原審相被告人Eの、証人Fに支給
した分は被告人A3の、証人Gに支給した分は被告人A4の、証人Hに支給した分
は被告人A8の、証人I、同Jに支給した分は被告人A9の、証人Kに支給した分
は被告人A14、証人Lに支給した分は被告人A6、証人Mに支給した分は被告人
A2の、証人Nに支給した分は被告人A12の、証人Oに支給した分は被告人A1
6の、証人P、同Qに支給した分は被告人A18の、証人Rに支給した分は被告人
A7の、証人Sに支給した分は被告人A5の、鑑定人Tに支給した分は被告人A1
の、国選弁護人矢崎勘七、証人Uに支給した分は被告人A19のそれぞれ負担とす
る。
     17、 当審における訴訟費用中、国選弁護人堀嘉一に支給した分は被
告人A6の、国選弁護人岡義順に支給した分は被吉人A9、同A11の、国選弁護
人三浦斧吉に支給した分は被告人A12の、国選弁護人上川重徳に支給した分は被
告人A15の、国選弁護人向山義雅に支給した分は被告人A17の、証人H、同
V、同Wに支給した分は被告人A8の、証人Xに支給した分は被告人A16の、証
人Yに支給した分は被告人A1のそれぞれ負担とする。
         理    由
 本件各控訴の趣意は、被告人A1の弁護人坂本英雄、被告人A2、同A16の弁
護人帯野喜一郎、被告人A2の弁護人上原秋三、被告人A4の弁護人坂本英雄、被
告人A5、同A12の弁護人古屋福丘、被告人A6の弁護人沖田誠、被告人A7の
弁護人青柳孝、被告人A8の弁護人三木義久、同堀内清寿(連名)、被告人A9の
弁護人笠井寿太郎、被告人A10の弁護人古明地為重、被告人A13の弁護人古明
地為重、同佐藤久四郎、被告人A14の弁護人山田要次、被告人A15の弁護人藤
田馨、被告人A16の弁護人大塚喜一郎、同平岩新吾(連名)、被告人A18の弁
護人青柳孝、被告人A8、同A13、同A14を除くその余の被告人十六名の弁護
人布施辰治及び被告人A10、同A16の弁護人森長英三郎(連名)、並びに被告
人A2、同A4、同A5、同A6、同A9、同A16、同A17、同A19ことA
19各本人提出の控訴趣意書に記載されたとおりであるから、いずれもこれをここ
に引用する。これに対する当裁判所の判断は以下のとおりである。
 二十 被告人A15の弁護人藤田馨の控訴趣意について
 一乃至四(事実誤認及び理由のくいちがい)について、
 よつてまず、原判決の被告人A15に対する通貨偽造被告事件に関する犯罪事実
認定の当否を検討するに、原判決は同被告人は行使の目的を以て被告人A3、同A
2等と共謀の上千円札の偽造を完成したものと認定判示し、これを通貨偽造罪の共
同正犯に問擬しているのであるところ、一件記録に徴すると、被告人A15は昭和
二十五年五月上旬頃被告人A11から被告人A3、同A2に紹介され、その際同人
等から千円札を偽造するにつき刷版を作る必要があるから、真正の千円札を写真撮
影し、その拡大原画を製作して貰いたい旨の依頼を受け、同人等が行使の目的を以
て千円札偽造を共謀している情を知り乍ら直ちにこれを承諾し、その頃右A2の依
頼を受け写真器及び附属薬品等を買い整え、同人等の指示に従い原判示被告人A2
方居宅で新しい千円札を復写撮影した上、分色引伸をなし、同年八月中千円札の表
三枚、裏二枚の分色拡大原画を製作し、その後仕事場を原判示被告人A15方に移
し、右原画の修正に従事し、同年九月頃一応依頼を受けた仕事をなし終えて右原画
五枚を偽造の一味である被告人A11に引き渡したが、その後は被告人A3からそ
の他被告人A18を除く原判示第一の被告人等が右被告人A15から受け取つた右
原画を基礎として諸般の工程を進め、原判示第一のとおり千円札の偽造を完成した
もので、被告人A15は前記のとおり原画を引き渡してからは、右の被告人等とは
交渉を断ち、その後の偽造工程には全く関係せず、要するに被告人A2等からの依
頼を受け、偽造の準備行為としての拡大原画の作成に当つたものであることが認め
られるのであつて、いまだ被告人A2等と共謀の上本件通貨を偽造したものとは認
められない。して見ると、被告人A15は被告人A2等の本件通貨偽造の遂行を容
易ならしめてこれを幇助したものにほかならず、従つて通貨偽造の従犯の責を負う
に止まるものと認めるべきであるから、原判決が前記のとおり被告人A15を通貨
偽造罪の共同正犯に問擬したのは結局事実を誤認したもので、且つその誤認は判決
に影響を及ぼすこと明らかであるといわなければならない。もつとも論旨はこの点
について、被告人A15のした所為は原画の作成で通貨偽造の準備行為に過ぎず、
いまだ実行に着手したものでない、しかもその準備行為も技術が拙劣なため失敗に
終つたので、同被告人は偽造の実行着手前に自己の意思に基き、これを中止し、他
の共犯者等の承認を得て、機械、原版等を被告人A2等に返してしまつたものであ
るから、他の共犯者等の偽造行為について何ら刑責を負うべきものではない旨主張
するから按ずるに、被告人A15は被告人A3、同A2等の依頼に応し分色拡大原
画五枚を製作し、修正の上これを同被告人等に交付し、同被告人等の原判示第一の
通貨偽造の基礎とさせ、その犯罪の遂行を容易ならしめて、これを幇助したもので
あることは前記認定のとおりであつて記録を調査しても技術拙劣のため失敗に終つ
たものとは認められない。記<要旨>録を調査してもこの認定に所論のような事実の
誤認があるとは認められない。しかるところ、いやしくも他人が成る犯罪を
企図していることを知り乍ら、その犯罪の遂行を容易ならしめて、これを幇助した
ものは、その他人がその犯罪を実行したときは、正犯を幇助したものとして、従犯
の責を免れることができないものであり、その幇助行為のなされた時期はその他人
が犯罪の決意をした後である限り、いまだ実行に着手せず、準備の段階にある間で
あると、既に準備の段階を終え実行に着手した後であることを問はないものと解す
べきものであるから、幇助行為がなされた後において、幇助者においてその他人と
の関係を断ち、同人もこれを容認したとしても従犯の責を免れることができないこ
とはいうまでもないところである。なおまた、通貨偽造準備罪は、犯人が準備行為
を進めて偽造実行の段階に達したときは、もはや通貨偽造罪に吸収されて独立の犯
罪ではなくなるのであるから、通貨偽造の準備行為の段階においてこれを幇助した
ものも、右準備行為が正犯者によつて進められ通貨偽造の実行の段階に達したとき
は、通貨偽造の幇助者としての責任を負うべきものと解せられるから、これに対し
通貨偽造準備罪の規定を準用する余地はない。それ故右被告人A15が準備行為を
して被告人A2等の通貨偽造の犯行を容易ならしめてこれを幇助したこと前記認定
のとおりである以上、右被告人A15が右通貨偽造の従犯の責を負うべきことは勿
論である。従つてこの点に関する前記主張は採用することができない。
 しかしながらこれを要するに原判決の被告人A15に対する前記犯罪事実の認定
には前記のとおり事実の誤認があり、且つその誤認は判決に影響を及ぼすこと明ら
かであるから、結局事実誤認の論旨は理由がある。原判決はこの点において尓余の
論旨につき判断するまでもなく破棄を免れない。
 (その他の判決理由は省略する。)
 (裁判長判事 谷中董 判事 荒川省三 判事 中浜辰男)

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