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裁判例


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主文
1原判決を取り消す。
2本件訴えを却下する。
3訴訟費用は,第1,2審とも,控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2処分行政庁が控訴人に対して平成17年3月31日付けでした同年4月8日
から同年5月7日までの業務停止処分を取り消す。
第2事案の概要
1本件は,平成17年3月31日,処分行政庁から,行政書士法14条に基づ
き同年4月8日から同年5月7日まで業務の停止を命ずる旨の処分以下本,(「
」。),。件処分というを受けた控訴人が本件処分の取消しを求める事件である
原判決は,本件訴えの利益を肯定した上,本件処分は適法であるとして控訴
人の請求を棄却したため,控訴人が,本件処分の適法性を肯定した原審の判断
を争って控訴した。
2事案の概要の詳細は,原判決「事実及び理由」欄の「第2事案の概要」に
記載のとおりであるから,これを引用する。
第3当裁判所の判断
1職権をもって判断するに,当裁判所は,本件訴えは,訴えの利益を欠き,こ
れを却下すべきものと判断する。その理由は,以下のとおりである。
2本件処分は,平成17年4月8日から同年5月7日までの期間に限り,控訴
人の業務の停止を命ずるものであり,上記期間経過後においても,本件処分が
されたことを理由として,控訴人が法律上の不利益を受けており,本件処分が
,,取り消されることによって上記不利益を除去することができるのでなければ
上記期間が経過したことが明らかな現時点においては,その取消しを求める訴
えの利益は消滅したものというほかはない。
この点につき,控訴人は,本件処分を受けたことにより申請取次行政書士と
しての資格を失うという不利益を受けていると主張する。
出入国管理及び難民認定法,出入国管理及び難民認定法施行規則によれば,
行政書士で所属する行政書士会を経由してその所在地を管轄する地方入国管理
局長に届け出た者は,申請者本人等に代わって,在留資格認定証明書の交付,
資格外活動の許可,在留資格の変更許可,在留期間の更新許可等の申請書及び
必要書類の提出を行うことができるものとされているところ(以下,上記業務
を「申請取次業務」という,証拠(乙2,原審における調査嘱託の結果)。)
及び弁論の全趣旨によれば,①日本行政書士会連合会申請取次行政書士管理
委員会は,申請取次行政書士の届出等の運用に関し「申請取次事務処理の手,
引き(以下「手引き」という)を作成しており,これによれば,申請取次」。
行政書士の新規届出を希望する会員は,日本行政書士会連合会申請取次行政書
士管理委員会の指定する行政書士申請取次事務研修会を受講し,事務研修会修
了証を取得し,これを提出することを求めるものとし,申請取次行政書士が業
務停止の懲戒処分を受けた場合には,申請取次行政書士の届出を了した者に管
轄の地方入国管理局長から交付されている届出済証明書を,所属する単位会を
通じて地方入国管理局長に返還しなければならないが,同処分を受けた申請取
次行政書士が,行政書士の業務を行うことができるようになったときは,改め
て申請取次行政書士の新規届出の手続を行えることとすることなどが定められ
ていること,②控訴人は,本件処分当時,申請取次行政書士の届出を了して
いたが,手引きに定められたところに従い,届出済証明書を所属する単位会を
通じて,管轄の地方入国管理局長に返還していること,③したがって,手引
きに定められたところによれば,控訴人が,申請取次行政書士としての業務を
行おうとすれば,改めて,新規届出を要することが認められる。しかし,手引
きに定められた上記①の取扱いは,法令上の根拠を有するものではなく,手引
きは,日本行政書士会連合会が,申請取次行政書士の届出に関し,自主的に定
める内部的取扱要領とみるよりほかはなく,業務停止処分を受けた申請取次行
政書士が,届出済証明書を返還しなければならないこととされているのも,申
請取次行政書士が業務停止処分を受けたにもかかわらず,既に交付を受けてい
る届出済証明書を利用して,申請取次業務を行うことがないようにするための
事実上の措置であって,業務停止処分の法的効果として,届出済証明書の返還
義務が生ずるとか,届出によって得られた申請取次行政書士としての法的地位
を喪失することになると解することはできない。のみならず,本件処分が取り
消されたからといって,届出済証明書を返還している控訴人が,新規届出をす
るまでもなく,申請取次業務を行うことができるようになると解する法的根拠
もない。以上のように,本件処分がされたため,控訴人は,手引きに定められ
たところに従い届出済証明書を返還したため,事実上,申請取次業務を行うこ
とができない状態となってはいるもの,それが,本件処分の法的効果であると
解することはできないし,また,本件処分が取り消されたからといって,控訴
人が申請取次業務を行うことができるようになると解することもできないので
あるから,控訴人が主張するように,申請取次行政書士としての資格を回復す
る点に,本件処分の取消しを求める訴えの利益を見出すことはできない。
そして,業務停止期間の経過によって本件処分の効果が失われても,本件処
分を受けたことを理由に法令上不利益な取扱いがされるなどの事情は認め難い
し,本件処分によって傷つけられた名誉,信用等の回復を求めるなど,本件処
分の事実上の効果の除去を図る点に,本件処分の取消しを求める訴えの利益を
肯定することもできない。その他,本件記録を精査しても,既に業務停止期間
が経過した後において,本件処分の取消しを求める訴えの利益を肯定すべき事
情は見出し得ない。
3以上によれば,これと結論を異にする原判決は失当であるから,これを取り
消し,本件訴えを却下することとして,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第5民事部
裁判長裁判官小林克已
裁判官綿引万里子
裁判官孝橋宏は,転補のため署名押印することができない。
裁判長裁判官小林克已
(原裁判等の表示)
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
処分行政庁が平成17年3月31日付けで原告に対してした同年4月8日か
ら同年5月7日までの業務停止処分を取り消す。
第2事案の概要
,,(「」本件は行政書士である原告が処分行政庁の行った行政書士法以下法
という)14条に基づく平成17年3月31日付けの原告に対する同年4月。
8日から同年5月7日までの業務停止処分(以下「本件処分」という)が違法。
であるとして,本件処分の取消しを請求した事案である。
1関係法令
(1)法14条は,行政書士が,法若しくはこれに基づく命令,規則その他都
道府県知事の処分に違反したとき又は行政書士たるにふさわしくない重大な
非行があったときは,都道府県知事は,当該行政書士に対し,同条各号に掲
げる処分をすることができると規定し,同条2号として「1年以内の業務,
の停止」を掲げている。
(2)行政書士の業務について,法1条の2第1項は,他人の依頼を受け報酬
を得て官公署に提出する書類その他権利義務又は事実証明に関する書類実,(
地調査に基づく図面類を含む)を作成することを業とすることと規定し,。
法1条の3は,法1条の2に規定する業務のほか,他人の依頼を受け報酬を
得て,法1条の3各号に掲げる事務を業とすることができると規定し,各号
に次の各事務を掲げている。
「1前条の規定により行政書士が作成することができる官公署に提出する
書類を官公署に提出する手続について代理すること。
2前条の規定により行政書士が作成することができる契約その他に関す
る書類を代理人として作成すること。
3前条の規定により行政書士が作成することができる書類の作成につい
て相談に応ずること」。
(3)法10条は,行政書士の責務として,行政書士は,誠実にその業務を行
なうとともに,行政書士の信用又は品位を害するような行為をしてはならな
いと規定する。
(4)行政書士法施行規則(以下「規則」という)10条は,行政書士は,。
依頼人から報酬を受けたときは,日本行政書士会連合会の定める様式により
正副2通の領収証を作成し,正本は,これに記名し職印を押して当該依頼人
,,。に交付し副本は作成の日から5年間保存しなければならないと規定する
2前提事実(証拠等の記載のない事実は,当事者間に争いがないか,明らかに
争わない事実である)。
(1)当事者等
原告は,千葉県行政書士会(以下「県行政書士会」という)に所属する。
行政書士であり,処分行政庁は,法14条に基づき,行政書士の懲戒処分を
行う行政庁である。
(2)県行政書士会は,平成16年12月21日付けで,処分行政庁に対し,
原告が,住民票等の交付のみを請け負うことを広告する内容の電子メールを
複数の事務所に送信するとともに,実際に,職務上請求書を100件程度使
用しており,法10条及び規則6条1項,2項に違反する旨の内容の会員の
法令等違反報告書を提出した(乙4。)
(3)県行政書士会は,平成16年12月21日付けで,処分行政庁に対し,
県行政書士会は原告に対し同月1日から平成17年11月30日までの1年
間の会員の権利の停止処分をしたので,処分行政庁としても原告に対し必要
な措置をとるよう要求する旨の内容の法14条の3第1項の措置要求書を提
出した(乙5。)
(4)その後,処分行政庁は,法14条の3第2項の調査(以下「本件調査」
という)を行った(乙7。。)
,(「」(5)被告は平成17年3月31日付け懲戒処分通知書以下本件通知書
という)をもって,原告に対し,法14条に基づき,処分の理由を次のと。
おりとして,業務の停止期間を同年4月8日から同年5月7日までとする行
政書士の業務の停止を命ずる懲戒処分(本件処分)をした(甲1。)
1−1被処分者は「御社の業務で戸籍や住民票が必要なとき,弊社にお,
任せいただければ,1通3000円(速達料金は別)で請け負わせていた
。」。だきますなる内容を記載したメールを複数の調査会社に対し送信した
1−2また,自らが顧問となっていた調査会社2社から相談を受けること
も業としていたが,当該相談内容が,戸籍謄本等のみの取得依頼の態様で
あったものについても,職務上請求書を使用して戸籍謄本等を請求し,交
付を受け,当該戸籍謄本等に記載された情報を上記2社に伝えるなどして
いた。
以上の戸籍謄本等のみの請求代行を宣伝し,または,戸籍謄本等のみの
取得依頼の態様に基づき,職務上請求書を使用して戸籍謄本等を請求した
ことは法1条の2及び法1条の3に規定する業務の範囲に含まれないもの
である。
このことは,法10条違反である。
2事件簿と領収書の照合により,領収書を発行せずに報酬を受けていた事
実があった。
このことは,規則10条違反である。
(6)原告は,平成17年8月5日,本件処分の取消しを求めて,本件訴えを
提起した(記録上明らかな事実。)
3争点
(1)訴えの利益の有無(争点1)
(2)処分の理由に該当する事実の存否(争点2)
(3)処分の理由となった行為が特定されているか否か(争点3)
(4)裁量逸脱の有無(争点4)
(5)その他の違法事由の有無(争点5)
4争点に関する当事者の主張
(1)争点1について
(原告)
ア行政書士については,その使命及び職責からする人格評価の維持が実定
法上の要請である点において,そうでない者との間に著しい差があり,業
務停止処分により原告が被った名誉,信用などに対する損害を「法律上の
不利益」に当たらないとするのは妥当でない。
,,,イ制裁的処分を受けた場合期間の経過によってその効果が失われても
その処分を受けたという事実が前歴として存在する限り,将来同種の処分
において法廷の加重原因として考慮されるならば,その限りにおいて処分
の効果が残存する。
ウ法14条による懲戒は,①戒告,②1年以内の業務の停止,③業
務の禁止の3種とされるところ,戒告にはその性質上期間を付する余地は
なく,これについて適法な取消訴訟を提起していれば訴えの利益が否定さ
れることはないのに対し,業務停止についてはその期間が経過したとの理
由で訴えの利益が否定されるのであれば,戒告より重い業務停止の懲戒処
分について取消訴訟による救済が著しく制限され,裁判を受ける権利(憲
法32条)を侵害する。
エ原告は,申請取次行政書士としての資格を取得していたが,業務停止処
分により,申請取次行政書士としての資格を失うという不利益を受けてい
る。
申請取次行政書士の届出をするにあたり,日本行政書士連合会申請取次
行政書士会管理委員会の指定する行政書士申請取次事務研修会を受講し,
研修会修了証を取得する必要があるが,この研修は年に数回しかなく,届
出をするための要件として厳格であり,申請取次制度の講学上の性格は特
許又は許可に当たる。
(被告)
ア本件訴えは,本件処分の業務停止期間が経過した後に提起されたもので
あり,本件処分の内容である業務停止の効果は,上記所定の期間の経過に
より既に消滅している。
イ行政書士法には,懲戒処分が一種の前科として将来の処分における法定
加重事由となるとの規定は全く存在しない。
ウ名誉・信用等の人格的利益に対する侵害は懲戒処分を受けたことから派
生する事実上の不利益にすぎず,法律上の利益ではない。
エ原告は,業務停止期間満了により業務を正常になし得る者であるから,
業務停止の効果としての直接かつ確定的な不利益が,業務停止期間満了後
も何らかの具体的な法律関係に現に残存している者ではないので,原告は
法律上の利益を有する者とはいえない。
オ申請取次行政書士が業務停止処分を受けた場合は,遅滞なく届出済証明
書を所属する単位会を通じて管轄の地方入国管理局長に返還しなくてはな
らないが,業務停止期間満了により行政書士の業務を行うことができるこ
ととなったときは,改めて申請取次行政書士を希望する新規届出の手続を
行うことができ,それによって申請取次行政書士となれる。申請取次行政
書士は,許可制でなく,届出制であり,業務停止処分を受けた場合でも,
上記のとおり新規届出の手続をすることができるのであるから,原告に救
済すべき法律上の利益はない。
(2)争点2について
(被告)
原告は,住民票等の交付のみを請け負うことを広告する内容の電子メール
を複数の調査会社に送信し,原告が戸籍謄本等のみの請求業務を1通300
0円(プラス速達料700円)で請け負うことを広告宣伝した。そして,実
際に,原告は,平成15年3月20日から平成16年2月7日までの約10
か月間に職務上請求書を460枚使用して戸籍謄本,住民票等の取得業務を
行っており,原告は戸籍謄本等のみの取得依頼により職務上請求書を使用し
て戸籍謄本等を入手する業務を行っていたというべきである。
また,本件調査の際に原告から提出された事件簿(以下「本件事件簿」と
いう)には原告が受託した事件として91件の事件が記載されているが,。
領収証はわずか20枚しか発行されておらず,領収証の作成,保存を求める
規則10条に違反する。
(原告)
原告は,戸籍謄本等のみの請求代行を宣伝し,戸籍謄本等のみの取得依頼
の態様に基づき職務上請求書を使用して戸籍謄本等を請求したことはない。
(3)争点3について
(原告)
本件通知書の処分の理由の記載は抽象的であり,被告は,具体的に問題の
ある原告の職務上請求書使用行為を特定せずに本件処分をなしている。
また,上記事実を裏付ける証拠資料等も明示されなければならないにもか
かわらず,そのような証拠資料を明示していない。
したがって,本件処分の理由は著しく不備であり形式上の瑕疵により行政
手続法14条1項本文に反し,本件処分は違法である。
さらに,本件聴聞に当たって,不利益処分の原因となる事実の通知が行わ
れていないといえるので,行政手続法15条1項に違反し,また,不利益処
分の原因となる事実を聴聞の期日において説明がされていないことになり,
同法20条1項に違反し,本件処分は違法である。
(被告)
本件処分が,原告が戸籍謄本等のみの取得依頼に基づき職務上請求書を使
用して戸籍謄本等を入手し,これを調査会社に伝えていたという事実及び原
告が領収証を発行せずに報酬を受けていた事実に基因したものであること
は,本件通知書の記載自体から明らかであって,本件処分の基因事実につい
て,原告が具体的に知り得る程度に特定して摘示されている。
原告が職務上請求書を不適正に使用していたことが明白であるような本件
処分のような事案についてまで,個別の非行事実を具体的に摘示しなければ
ならないとするなら,それは明らかに背理である。
,(「」。),また本件処分に先立つ聴聞以下本件聴聞というの通知書には
不利益処分の原因となる事実について,戸籍や住民票の取得を1通3000
円で請け負う旨を内容とするメールを複数の調査会社に送信した旨,相談内
容が戸籍謄本等のみの取得依頼の態様であったものについても,職務上請求
書を使用して戸籍謄本等を請求し,交付を受け,当該戸籍謄本等に記載され
た情報を調査会社に伝えるなどしていた旨,事件簿の日付欄には「依頼を,
受けた年月日」が記載されておらず,当該欄には「報酬を受けた年月日」が
記載されていたこと並びに事件簿と領収証の照合により,領収証を発行せず
に報酬を受けていた事実があったと明記されており,これらが「不利益処分
の原因となる事実」の記載として不十分であるなどということはない。
なお,原告は,不利益処分の原因となる事実を聴聞の期日において説明さ
れていないことになるなどとも主張するが,原告は,本件聴聞の期日に出頭
していないのであるから,原告の主張は主張自体失当である。
(4)争点4について
(原告)
仮に,本件処分の理由が存在するとしても,本件処分は不当に重いもので
裁量を逸脱した違法なものである。
(被告)
原告が約10か月間に460枚もの職務上請求書を使用し,少なくともそ
のうち100件程度については戸籍謄本等のみの取得依頼に基づくものであ
ったこと,また,原告は91件の事件の依頼に対してわずか20枚しか領収
証を発行していないことという本件事案の法令違反の重大さに鑑みれば,本
件処分の業務停止期間が長過ぎて違法であるなどと評価される余地は全くな
い。
(5)争点5について
(原告)
ア行政手続法12条違反
被告は,処分行政庁が本件処分をするに当たり,過去に処分を受けた行
政書士のリストを原告に対して示したにすぎず,処分基準を定めていない
といえるから,行政手続法12条に違反し,本件処分は違法である。
イ公告による原告の名誉及び信用の毀損
被告は,本件処分後,平成18年4月30日ころまで,千葉県のホーム
,,ページにおいて本件処分を公告したが本件処分は業務停止1か月であり
1年以上公告する理由はなく,理由なく公告されることによって原告の名
,。誉及び信用が毀損されたから本件処分は瑕疵ある処分であり違法となる
ウ県行政書士会の綱紀委員会及び理事会の手続の違法及び県行政書士会の
措置要求に基づく本件処分の違法性
,,被告は県行政書士会からの措置要求に基づき本件処分を行っているが
同措置要求は,憲法31条の適正手続の理念に反する違法な県行政書士会
の綱紀委員会及び理事会の手続を経てなされたものであり,県行政書士会
からの違法な措置要求に基づいてなされた本件処分は違法である。
エ憲法38条1項違反
,,,憲法38条1項による保障は刑事手続においてばかりでなく実質上
刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結びつく作用を一般的に有す
る手続には,ひとしく及ぶものというべきである。
そして,本件処分の処分の理由の事実の存否を明らかにする手続は,実
質上,刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結びつく作用を一般的
に有する手続といえる。
そうすると,原告は,同項により,自己に不利益な供述を強要されない
のであるから,自己に不利益な証拠提出も認められないはずであるから,
本件調査において原告が被告に提出した職務上請求書(乙9(枝番を含
む。以下「本件職務上請求書」という)及び領収証控え(乙10(枝。)。
番を含む。以下「本件領収証」という)を原告に不利益な証拠として。)。
用いることはできず,それらを根拠にする不利益処分は理由がないので,
本件処分は違法である。
オ憲法38条3項違反
本件職務上請求書及び本件領収証が原告にとって自白と同一視される場
合それらは証拠となり得ず,それらを根拠にする不利益処分は理由がない
ので,本件処分は違法である。
カ憲法22条1項違反
被告は職務上請求書の不適正使用を特定していないから,本件処分は,
処分の理由もなく一定の期間,行政書士としての職務を行うことができな
くするものとして,憲法22条1項で保障される営業の自由を侵害するも
のであり,違憲である。
また,仮に原告の行為が法に反するというのであれば,法1条の2及び
1条の3が不明確で,通常の判断能力を有する一般人である原告の理解に
おいて,具体的場合に当該行為がその範囲内かどうかの判断を可能ならし
めるような基準が読みとれないから,法は憲法22条1項に違反し,違憲
であり,被告は,違憲な法に基づき,原告に対し不利益処分をすることが
できない。
(被告)
ア行政手続法12条違反の主張について
行政手続法12条1項は,訓示規定とされているものであり,本件では
処分の基準は定められていないが,処分の基準を定めるか否かは被告の合
理的裁量に委ねられているものである。そして,本件処分は行政書士の非
行についてこれを戒めるためのものであり,その懲戒の対象となる非行の
程度,態様は様々であるから,一律の基準を定めることは要しないもので
ある。
イ千葉県報のホームページ上の掲載
被告においては,電子県庁の推進の一環として,平成14年4月からす
べての千葉県報を千葉県のホームページ上で公開しており,平成17年4
月からは,各県報の掲載された日の属する月を含め13月間としたので,
本件処分について掲載された平成17年4月8日付け千葉県報(以下「本
件県報」という)も,同月から平成18年4月30日まで千葉県のホー。
ムページ上で公開されている。
千葉県報は,千葉県の公報として発行されているもので,被告の出先機
関である各県民センター,千葉県文書館,各県立図書館等において何人も
いつでも閲覧及び謄写が可能なものであるから,被告が本件県報を千葉県
のホームページ上で13か月公開したことが違法であるなどということは
あり得ない。
ウ県行政書士会の綱紀委員会及び理事会の手続の違法及び県行政書士会の
措置要求に基づく本件処分の違法性の主張について
本件処分は,県行政書士会の措置要求があったことを理由としてのもの
ではなく,同措置要求は,本件調査の契機にすぎない。本件処分は,被告
の本件調査により,処分の理由となった事実が判明したことによるもので
あるから,原告の主張は,主張の前提を誤るものであって,主張自体失当
である。
エ原告のその余の主張については争う。
第3当裁判所の判断
1争点1について
(1)我が国に在留する外国人は,在留資格の変更,在留期間の更新等の各種
申請を行おうとする場合,原則として,自ら地方入国管理局等に出頭して,
申請書類を提出しなければならないこととされている(出入国管理及び難民
認定法施行規則(以下「入管法施行規則」という)19条1項等)が,入。
管法施行規則19条3項2号は,地方入国管理局長において相当と認める場
合には,外国人は地方入国管理局への出頭が免除され,この場合における当
該外国人に代わって申請書類の提出等の手続を行うことができる者として,
行政書士で所属する行政書士会を経由してその所在地を管轄する地方入国管
理局長に届け出たものを掲げている(以下この申請書類の提出等の手続を行
うことができる行政書士を「申請取次行政書士」という。。)
なお,平成17年1月31日に施行された平成16年法務省令第85号に
よる改正前の入管法施行規則19条3項は,上記の申請書類の提出等の手続
を行うことができる行政書士を,行政書士で地方入国管理局長が適当と認め
るものと規定していた。
(2)そして,各項掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,申請取次行政書士
の届出に関する行政書士会における手続等に関し,次の事実が認められる。
ア(ア)行政書士が,申請取次行政書士になるために所属する行政書士会を
経由して届出をするためには,日本行政書士会連合会申請取次行政書士
管理委員会の指定する行政書士申請取次事務研修会を受講し,事務研修
会修了証を取得し,研修受講後1年以内に,所属する単位会に事務研修
会修了証の写しその他の必要書類を提出する必要がある(乙2,17の
1。)
(イ)行政書士からの届出を受けた地方入国管理局長は,所属の行政書士
会を通じて届出済証明書を交付する。届出済証明書の有効期間は,証明
書発行の日の3年後の当月末である。
(乙2)
イ申請取次行政書士が法14条により業務の停止処分を受けた場合には,
当該行政書士は,届出済証明書を所属する行政書士会を通じて管轄の地方
入国管理局長に返還しなければならない。法14条により業務の停止処分
を受けた行政書士が,行政書士の業務を行うことができることとなったと
きは,申請取次行政書士となるためには,改めて前記ア(ア)の届出の手続
を行う必要がある。
(乙2,17の1)
ウ原告は,平成16年法務省令第85号により入管法施行規則19条3項
が改正される前の平成16年4月5日に申請取次行政書士となり,現在の
届出済証明書に相当する申請取次者証明書の交付を受けたが,これを本件
処分後に返還しており,現在は申請取次行政書士ではない(乙2,17の
1ないし3。)
原告の申請取次者証明書の有効期間は,平成19年4月5日までであっ
た(乙17の3。)
(3)前記(2)の事実によれば,原告は,本件処分を受けたことにより,申請取
次行政書士として,外国人に代わって地方入国管理局に対する各種申請を行
う業務ができなくなったものであるから,原告は,本件処分の取消しを求め
るにつき法律上の利益を有する者といえる。
この点,被告は,申請取次行政書士は,許可制でなく,届出制であり,業
務停止処分を受けた場合でも,新規届出の手続をすることができるから,原
告に救済すべき法律上の利益はないと主張するが,新規届出に当たっては,
単に届出をすれば申請取次行政書士になれるという制度にはなっておらず,
届出について,入管法施行規則19条3項2号により所属する行政書士会を
経由しなければならないこととされ行政書士会における手続として前記(2),
ア(ア)の手続を経ることを要し,行政書士申請取次事務研修会を受講しなけ
ればならないとされているのであるから,被告の主張を採用することはでき
ない。
したがって,本件訴えは,訴えの利益があるというべきである。
2争点2について
(1)各項掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
2−1原告は「御社の業務で戸籍や住民票が必要なとき,弊社にお任せ,
いただければ,1通3000円(速達料金700円は別)で請け負わせて
。」(,いただきますという内容のメールを複数の調査会社に送信した乙6
7,14。)
2−2本件事件簿(乙8)には,原告が平成15年1月30日から平成1
6年9月10日までに依頼を受けた事件として,91件の事件について,
それぞれ依頼を受けた年月日件名報酬額依頼者が記載されている乙,,,(
8。)
2−3本件職務上請求書は,原告が平成15年3月20日から平成16年
2月7日までに住民票の写しや戸籍の謄抄本等の取得に使用したもので,
総数460枚にわたり,使用目的・提出欄には「所在確認の為「不法,」,
行為に基づく損害賠償等準備」などの記載が多数存在する(乙9(枝番を
含む。。))
2−4本件領収証は,総数20枚で,平成15年3月から平成16年11
月10日までの日付が記載されている(乙10(枝番を含む。。))
(2)2−1(ア)前記(1)の事実によれば,原告は,あたかも戸籍や住民票の取
得のみの依頼であっても依頼を受けるかのような内容のメールを複数の
調査会社に送信していること,本件職務上請求書の使用目的欄の記載に
は「所在確認の為」等行政書士の職務に関して職務上請求書を利用した
ものでないことが窺われる記載が多数存在すること,本件事件簿上,原
告は,平成15年1月30日から平成16年9月10日までの間に,9
1件の事件しか受任していないにもかかわらず,平成15年3月20日
から平成16年2月7日までに460枚もの職務上請求書を使用して住
民票の写しや戸籍の謄抄本等の取得をしていることが認められ,これら
に照らすと,本件職務上請求書のうちの多くは,原告が,法1条の2,
法1条の3に規定されている行政書士の業務と関わりなく住民票の写し
や戸籍の謄抄本等の取得の依頼を受け,それらの取得のために利用され
たものと推認できる。
したがって,前記第2の2(5)の処分の理由の1−1及び1−2の事
実があったと認められる。
そして,これらの原告の行為は,行政書士の責務として,誠実に業務
を遂行するとともに,行政書士の信用又は品位を害するような行為をし
てはならないとしている法10条に違反するものである。
(イ)この点,原告は,戸籍謄本等のみの請求代行を宣伝したことはない
と主張するが本件聴聞の期日の出頭に代えて提出した原告の陳述書乙,(
14)では,原告自身,前記(1)アのメール送信の事実を認めている。
そして,同陳述書においては,連絡をとった会社には,必ず戸籍謄本等
取得のみを業務とするものでないこと及び戸籍謄本等を必要とする理由
を必ず確認することを伝えたという原告の陳述があるが,本件職務上請
求書の利用態様に照らして信用することができず,また,戸籍謄本等を
必要とする理由を必ず確認することを伝えたとする点は,仮にこのよう
な確認をしたとしても,それによって直ちに戸籍謄本等の取得が行政書
士の業務に関するものになるものではない。
また,原告は,戸籍謄本等のみの取得依頼の態様に基づき職務上請求
書を使用して戸籍謄本等を請求したことはないと主張し,前記原告の陳
述書(乙14)には,書類作成又は書類作成の相談に職務上必要である
範囲で使用したものとの原告の陳述があるが,本件事件簿(乙8)によ
れば,同事件簿上,原告が前記(1)アのメールで戸籍や住民票の一通の
取得費用3000円に速達料金700円を加えた,3700円又はその
倍数に相当する報酬額が記載された事件が39件もあると認められるこ
と及び本件職務上請求書の利用態様に照らして信用することができな
い。
以上のとおり,原告の主張はいずれも採用することができない。
2−2前記(1)の事実によれば,本件事件簿上,原告は,平成15年1月
30日から平成16年9月10日までの間に,91件の事件を受任したこ
ととされ,それぞれについて報酬額が記載されているにもかかわらず,本
件領収証はわずか20枚しかないのであるから,領収証を発行せずに報酬
を受けていた事実があったと認められ,規則10条違反であり,前記第2
の2(5)の処分の理由の2の事実があったと認められる。
2−3以上によれば,処分の理由に該当する事実があったと認められる。
3争点3について
本件処分の処分の理由においては,原告は,戸籍謄本等のみの取得依頼の態
様に基づき,職務上請求書を使用して戸籍謄本等を請求した,また,領収証を
発行せず報酬を受けていたとされているものの,これらの行為がいつなされた
のかなどについては特定されていない。
不利益処分に当たって処分の理由を記載することが要求される趣旨について
は,処分の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与えることも含まれる
ことからすると,処分の理由となった事実は,対象となる行為の日時が特定で
きない場合でも期間を限定するなどできる限り特定されるべきであって,本件
処分の処分の理由は,特定が十分とはいえない面もある。しかしながら,本件
処分の処分の理由がこのような記載となったのは,処分の理由となる行為が多
数に及ぶところにも原因があるといえることに加えて,原告は,本件調査にお
いて,本件事件簿,本件職務上請求書,本件領収証を提出しており,本件処分
の理由となった行為が,これらの提出書類に係るものであることは原告におい
て理解可能であったこと,また,原告の不服申立てという点においても,上記
提出書類を作成したのは原告であり,原告においてこれらの書類に基づいて反
論することは十分に可能であったことから,本件処分の処分の理由の記載が行
政手続法14条1項に反して違法とまでいうことはできない。
また,証拠(乙13)によれば,被告は,原告に対して,平成17年3月1
日付けで,不利益処分の原因となる事実として,本件処分の処分の理由と同旨
の事実が記載された聴聞通知書を送付していると認められ,前記のとおり本件
処分の処分の理由の記載が行政手続法14条1項に反するといえない以上,本
件聴聞の通知が同法15条1項に反するということもできない。
なお,原告は,行政手続法20条1項違反も主張するが,弁論の全趣旨によ
れば,原告は本件聴聞の期日に出頭していないと認められ,同項の期日に出頭
した者に対する説明義務違反が問題となる余地はないから,原告の主張はその
前提を欠くものとして失当である。
4争点4について
原告は,本件処分は不当に重いもので裁量を逸脱した違法なものであると主
張するが,本件処分の処分の理由となった行為は,継続的に多数回にわたって
行われており,法令違反の重大さ,行政書士の職務の信頼に与える影響の大き
さなどに鑑みれば,期間30日間の行政書士の業務の停止という本件処分は,
被告の裁量の範囲内のものといえるから,原告の主張は失当である。
5争点5について
,,,原告は処分基準の制定公開を定める行政手続法12条違反を主張するが
処分基準を公にすることが困難な場合やそれによって弊害が生ずる場合もある
ことなどから同条は訓示規定となっており,処分基準を定めていないからとい
って,同条違反の問題は生じないから,原告の主張はその前提を欠くものとし
て失当である。
また,原告は,本件処分がホームページ上で公開されたことによって原告の
名誉及び信用が毀損されたとして,本件処分が瑕疵ある処分として違法である
と主張するが,法上公告が義務付けられている場合に,公告をした媒体をホー
ムページに掲載することが処分の瑕疵になり得るとはいえない上,そもそもそ
のような処分後の事情が処分の適法性の判断に影響を与えるものではないか
ら,原告の主張は失当である。
さらに,原告は,県行政書士会の手続及び措置要求の違法を主張するが,本
件処分は本件調査に基づき被告の処分として行われたものであり,仮に県行政
書士会の行為に違法性があったとしても,その違法性を承継するものではない
から,原告の主張を採用することはできない。
また,原告は,憲法38条1項及び3項違反を主張するが,本件職務上請求
書及び本件領収証は,いずれも原告の職務上作成された書類であって,原告の
供述ではないから,原告の主張は失当である。この点,原告は,憲法38条1
項により,自己に不利益な供述を強要されないのであるから,自己に不利益な
証拠提出も認められないはずであると主張するが,独自の見解であって採用す
ることができない。
原告は,本件処分に処分の理由がなく,法1条の2及び1条の3の規定が不
明確であることを前提として,憲法22条1項違反の主張をする。しかし,前
記2によれば,本件処分の処分の理由がないとはいえず,また,法1条の2及
び1条の3が,行政書士の職務の範囲を定める規定として,不明確であるとい
うことはできず,本件処分の処分の理由となった行為がこれらの規定による職
務の範囲に含まれないことの判断は可能であるから,原告の憲法22条1項違
反の主張は,その前提を欠くものとして失当である。
6結論
以上によれば,原告の請求は理由がないから棄却することとして,主文のと
おり判決する。
千葉地方裁判所民事第3部
裁判長裁判官堀内明
裁判官阪本勝
裁判官佐々木清一

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