弁護士法人ITJ法律事務所

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主文
原判決のうち,上告人敗訴部分を破棄する。
前項の部分につき,被上告人の控訴を棄却する。
控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。
理由
上告代理人平出晋一ほかの上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除
く。)について
1本件は,建物についての担保不動産収益執行の開始決定に伴い管理人に選任
された被上告人が,上記建物の一部を賃料月額700万円(ほかに消費税相当額3
5万円)で賃借している上告人に対し,平成18年7月分から平成19年3月分ま
での9か月分の賃料合計6300万円及び平成18年7月分の賃料700万円に対
する遅延損害金の支払を求める事案である。上告人は,上記賃貸借に係る保証金返
還債権を自働債権とする相殺の抗弁を主張するなどして,被上告人の請求を争って
いる。
2原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1)第1審判決別紙物件目録記載2の建物(以下「本件建物」という。)の過
半数の共有持分を有するA株式会社(以下「A」という。)は,平成9年11月2
0日,上告人との間で,本件建物の1区画を次の約定で上告人に賃貸する契約を締
結し,同区画を上告人に引き渡した。
ア期間20年間
イ賃料月額700万円(ほかに消費税相当額35万円)
毎月末日までに翌月分を支払う。
ウ保証金3億1500万円(以下「本件保証金」という。)
賃貸開始日から10年が経過した後である11年目から10年間に
わたり均等に分割して返還する。
エ敷金1億3500万円
上記区画の明渡し時に返還する。
(2)Aは,上記契約の締結に際し,上告人から,本件保証金及び敷金として合
計4億5000万円を受領した。
(3)Aは,平成10年2月27日,本件建物の他の共有持分権者と共に,Bの
ために,本件建物につき,債務者をA,債権額を5億5000万円とする抵当権
(以下「本件抵当権」という。)を設定し,その旨の登記をした。
(4)Aは,平成11年6月22日,上告人との間で,Aが他の債権者から仮差
押え,仮処分,強制執行,競売又は滞納処分による差押えを受けたときは,本件保
証金等の返還につき当然に期限の利益を喪失する旨合意した。
(5)Aは,平成18年2月14日,本件建物の同社持分につき甲府市から滞納
処分による差押えを受けたことにより,本件保証金の返還につき期限の利益を喪失
した。
(6)本件建物については,平成18年5月19日,本件抵当権に基づく担保不
動産収益執行の開始決定(以下「本件開始決定」という。)があり,被上告人がそ
の管理人に選任され,同月23日,本件開始決定に基づく差押えの登記がされ,そ
のころ,上告人に対する本件開始決定の送達がされた。
(7)上告人は,平成18年7月から平成19年2月までの間,毎月末日まで
に,各翌月分である平成18年8月分から平成19年3月分までの8か月分の賃料
の一部弁済として各367万5000円の合計2940万円(消費税相当額140
万円を含む額)を被上告人に支払った(以下,これらの弁済を「本件弁済」と総称
する。)。
(8)上告人は,Aに対し,平成18年7月5日,本件保証金返還残債権2億9
295万円を自働債権とし,平成18年7月分の賃料債権735万円(消費税相当
額35万円を含む額)を受働債権として,対当額で相殺する旨の意思表示をし,さ
らに,平成19年4月2日,本件保証金返還残債権2億8560万円を自働債権と
し,平成18年8月分から平成19年3月分までの8か月分の賃料残債権各367
万5000円の合計2940万円(消費税相当額140万円を含む額)を受働債権
として,対当額で相殺する旨の意思表示をした(以下,これらの相殺を「本件相
殺」と総称し,その受働債権とされた賃料債権を「本件賃料債権」と総称す
る。)。
3原審は,上記事実関係の下において,次のとおり判断して,平成18年7月
分の賃料700万円(以下,いずれも消費税相当額を含まない額である。)及び平
成18年8月分から平成19年3月分までの8か月分の賃料の本件弁済後の残額2
800万円の合計3500万円並びに平成18年7月分の賃料700万円に対する
遅延損害金の支払を求める限度で被上告人の請求を認容した。
(1)本件相殺の自働債権とされた本件保証金返還残債権はAに対するものであ
るのに対し,本件開始決定の効力が生じた後に発生した支分債権である本件賃料債
権は,その管理収益権を有する管理人である被上告人に帰属するものであって,民
法505条1項所定の相殺適状にあったとはいえないから,本件相殺は効力を生じ
ない。
(2)仮にそうでないとしても,本件相殺の意思表示の相手方となるのは本件賃
料債権について管理収益権を有する被上告人のみであり,管理収益権を有しないA
に対する相殺の意思表示をもって民法506条1項所定の相手方に対する意思表示
があったとはいえないから,本件相殺は効力を生じない。
4しかしながら,原審の上記判断はいずれも是認することができない。その理
由は,次のとおりである。
(1)担保不動産収益執行は,担保不動産から生ずる賃料等の収益を被担保債権
の優先弁済に充てることを目的として設けられた不動産担保権の実行手続の一つで
あり,執行裁判所が,担保不動産収益執行の開始決定により担保不動産を差し押さ
えて所有者から管理収益権を奪い,これを執行裁判所の選任した管理人にゆだねる
ことをその内容としている(民事執行法188条,93条1項,95条1項)。管
理人が担保不動産の管理収益権を取得するため,担保不動産の収益に係る給付の目
的物は,所有者ではなく管理人が受領権限を有することになり,本件のように担保
不動産の所有者が賃貸借契約を締結していた場合は,賃借人は,所有者ではなく管
理人に対して賃料を支払う義務を負うことになるが(同法188条,93条1
項),このような規律がされたのは,担保不動産から生ずる収益を確実に被担保債
権の優先弁済に充てるためであり,管理人に担保不動産の処分権限まで与えるもの
ではない(同法188条,95条2項)。
このような担保不動産収益執行の趣旨及び管理人の権限にかんがみると,管理人
が取得するのは,賃料債権等の担保不動産の収益に係る給付を求める権利(以下
「賃料債権等」という。)自体ではなく,その権利を行使する権限にとどまり,賃
料債権等は,担保不動産収益執行の開始決定が効力を生じた後も,所有者に帰属し
ているものと解するのが相当であり,このことは,担保不動産収益執行の開始決定
が効力を生じた後に弁済期の到来する賃料債権等についても変わるところはない。
そうすると,担保不動産収益執行の開始決定の効力が生じた後も,担保不動産の
所有者は賃料債権等を受働債権とする相殺の意思表示を受領する資格を失うもので
はないというべきであるから(最高裁昭和37年(オ)第743号同40年7月2
0日第三小法廷判決・裁判集民事79号893頁参照),本件において,本件建物
の共有持分権者であり賃貸人であるAは,本件開始決定の効力が生じた後も,本件
賃料債権の債権者として本件相殺の意思表示を受領する資格を有していたというべ
きである。
(2)そこで,次に,抵当権に基づく担保不動産収益執行の開始決定の効力が生
じた後において,担保不動産の賃借人が,抵当権設定登記の前に取得した賃貸人に
対する債権を自働債権とし,賃料債権を受働債権とする相殺をもって管理人に対抗
することができるかという点について検討する。被担保債権について不履行があっ
たときは抵当権の効力は担保不動産の収益に及ぶが,そのことは抵当権設定登記に
よって公示されていると解される。そうすると,賃借人が抵当権設定登記の前に取
得した賃貸人に対する債権については,賃料債権と相殺することに対する賃借人の
期待が抵当権の効力に優先して保護されるべきであるから(最高裁平成11年
(受)第1345号同13年3月13日第三小法廷判決・民集55巻2号363頁
参照),担保不動産の賃借人は,抵当権に基づく担保不動産収益執行の開始決定の
効力が生じた後においても,抵当権設定登記の前に取得した賃貸人に対する債権を
自働債権とし,賃料債権を受働債権とする相殺をもって管理人に対抗することがで
きるというべきである。本件において,上告人は,Aに対する本件保証金返還債権
を本件抵当権設定登記の前に取得したものであり,本件相殺の意思表示がされた時
点で自働債権である上告人のAに対する本件保証金返還残債権と受働債権であるA
の上告人に対する本件賃料債権は相殺適状にあったものであるから,上告人は本件
相殺をもって管理人である被上告人に対抗することができるというべきである。
(3)以上によれば,被上告人の請求に係る平成18年7月分から平成19年3
月分までの9か月分の賃料債権6300万円は,本件弁済によりその一部が消滅
し,その残額3500万円は本件相殺により本件保証金返還残債権と対当額で消滅
したことになる。
5以上と異なる原審の判断には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反
がある。論旨は理由があり,原判決のうち上告人敗訴部分は破棄を免れない。そし
て,被上告人の請求を棄却した第1審判決は結論において正当であるから,上記部
分につき被上告人の控訴を棄却することとする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官今井功裁判官中川了滋裁判官古田佑紀裁判官
竹内行夫)

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