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平成9年(ワ)第710号 組合員による損害賠償代表訴訟請求事件
平成10年(ワ)第775号 損害賠償代表訴訟請求事件
判          決
主          文
1 被告らは,連帯して,松山市三津浜漁業協同組合に対し,金1億4692万円及
びこれに対する平成7年8月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を
支払え。
 2 原告らのその余の請求を棄却する。
 3 訴訟費用はこれを5分し,その1を原告らの負担とし,その余を被告らの負担と
する。
事実及び理由
第1章 当事者の申立て
 第1 原告ら
 1 被告らは,連帯して,松山市三津浜漁業協同組合に対し,金1億7531万6000
円及びこれに対する平成7年8月11日から支払済みまで年5分の割合による金
員を支払え。
 2 訴訟費用は被告らの負担とする。
 3 仮執行宣言
第2 被告ら
 1 原告らの請求をいずれも棄却する。
 2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第2章 事案の概要等
第1 事案の概要
本件は,松山市三津浜漁業協同組合が松山港港湾整備事業(愛媛県FAZ整
備事業)に伴う漁業権の消滅補償として愛媛県から交付を受けた漁業補償金の
うち,合計1億7531万6000円が正組合員としての資格要件を充足していない
14名に対して不正に配分されたとして,組合員である原告らが,理事であった
被告らの善管注意義務ないし忠実義務違反を主張して,水産業協同組合法44
条,商法267条に基づき,代表訴訟により損害賠償を求めた事案である。
第2 争点の前提となる事実(証拠を摘示した以外は争いのない事実)
 1 当事者
(1) 松山市三津浜漁業協同組合(以下「三津浜漁協」という。)は,水産業協同
組合法(以下「水協法」という。)に基づき設立された漁業協同組合である。
(2) 原告Aは平成2年1月10日に,原告B,原告Cは平成7年3月20日に,原告
D,原告Eは昭和44年3月7日に,原告Fは昭和62年7月21日に,それぞれ
三津浜漁協に加入し,引き続いて組合員である者である(甲37,乙9,原告
D,原告B,原告A,弁論の全趣旨)。
(3)ア 被告Gは,昭和61年5月31日から平成8年6月30日までの間,三津浜
漁協の代表理事組合長の職にあった者である(甲23,乙13)。
 イ 被告Hは,昭和61年5月31日から平成8年6月30日までの間,三津浜漁
協の専務理事の職にあった者である(甲23,乙14)。
 ウ 被告Iは,昭和61年9月30日から平成7年7月13日までの間,三津浜漁
協の理事の職にあり,平成8年7月2日から三津浜漁協の代表理事組合長
の職にある者である(甲11の3,23,乙12,15,16,弁論の全趣旨)。
2 組合員資格
(1) 水協法18条に基づく組合定款8条によれば,「この組合の地区内に住所を
有し,かつ,1年を通じて90日をこえて漁業を営みまたはこれに従事する漁
民」(1項1号)は正組合員になることができるとされ,「この組合の地区内に住
所を有する漁民で,1項1号に掲げる以外のもの」,「この組合の地区内に住
所を有しない漁民で,その営みまたは従事する漁業の根拠地がこの組合の
地区内にあるもの」は准組合員になることができるとされており,他方,水協
法27条,組合定款14条によれば,「組合員たる資格の喪失」が法定脱退事
由とされている(甲35)。
(2) なお,水協法10条によれば,「漁業」とは,水産動植物の採捕又は養殖の
事業をいい,「漁民」とは,漁業を営む個人又は漁業を営む者のために水産
動植物の採捕若くは養殖に従事する個人をいうとされている。
3 組合員の加入状況
(1) 三津浜漁協は,旧名称を三津浜町漁業協同組合といい,松山市漁業協同
組合が3組合(三津浜町漁業協同組合,松山市高浜漁業協同組合及び松山
市漁業協同組合)に組織分裂したことによって昭和44年3月15日に法人とし
て成立したものであり,分裂当時,漁業を生業とする20名程度の組合員によ
って構成されていた(甲11の3,乙10,弁論の全趣旨)。
(2) 上記分裂の結果,松山市漁業協同組合が単独で有していた共同漁業権伊
共第83号が三津浜町漁業協同組合,松山市漁業協同組合及び松山市今出
漁業協同組合の共有となり,伊共第84号が松山市今出漁業協同組合の単
有となったが,昭和45年ころ以降,組合間において,共同漁業権の帰属,公
共事業等の実施に伴う漁業補償金の配分等の問題が持ち上がるようになり,
関係者の間においては,各組合の組合員数や保有する漁船数の多寡により
漁業権帰属の軽重を問い,漁業補償金配分の基準にすべきであるという考え
方が支配するようになった(甲14,乙10,弁論の全趣旨)。
(3) 三津浜漁協では,上記のような背景のもと,歴代の組合長等において,共
同漁業権の帰属や漁業補償金の配分について少しでも有利な方向に向かう
よう組合員数や漁船数の増加獲得を目指し,漁業を営んでいない遊漁者等で
あっても,その者が船を所有するなどの事情があれば,組合加入を働きかけ
るようになり,その成果もあって,原告Dが組合長であった昭和52年から昭和
61年5月までの間,J,K,Lを含む正組合員7名,准組合員10名程度が新た
に三津浜漁協に加入し,被告Gが組合長であった昭和61年5月31日以降,
M,N,O,P,Q,R,S,T,U,Vを含む正組合員23名,准組合員7名程度が
新たに三津浜漁協に加入し,平成7年7月31日当時,組合員名簿上,正組合
員50名,准組合員17名の組合員が存在することになった(甲28,29,37,
乙9,10,弁論の全趣旨)。
4 FAZ漁業補償金
 (1) 愛媛県は,平成7年5月19日,三津浜漁協,松山市漁業協同組合,松山市
今出漁業協同組合との間で,運輸省第三港湾建設局及び愛媛県が施行する
松山港港湾整備事業(愛媛県FAZ整備事業)に伴う漁業権の消滅(共同漁業
権伊共第83号及び伊共第84号の一部放棄等)についての補償金(以下「FA
Z漁業補償金」という。)として28億5000万円を支払う旨の漁業補償契約を
締結した(乙2,弁論の全趣旨)。
(2) FAZ漁業補償金は,上記3組合による交渉の結果,7億0200万円が三津
浜漁協に配分されることになり,平成7年5月31日,その配分がなされた。
5 本件配分決議
(1) 三津浜漁協では,平成6年12月16日,臨時総会が開催され,FAZ漁業補
償金に関し,配分委員会(以下「本件配分委員会」という。)を設置して配分基
準案を作成すること,原告A,原告E,被告Iを含む7名を配分委員とすること
などが異議なく承認された(乙3,弁論の全趣旨)。
(2)ア 三津浜漁協では,平成6年12月19日以降,11回にわたって本件配分委
員会(被告Iは配分委員長,原告Aは配分副委員長)が開催され,平成7年
7月20日,同委員会において,被告Iの原案を基礎として作成された配分
基準案(以下「本件配分基準案」という。)が最終決定された(甲41,乙5の
1,原告A,弁論の全趣旨)。
イ 本件配分基準案においては,①配分対象額が6億9500万円,②配分対
象組合員が松山市a,b地区の正・准組合員,③配分基準日が平成6年12
月31日(以下「本件配分基準日」という。)現在の組合員,④配分対象者が
正組合員43名,准組合員15名,その他6名(平成6年12月31日以降正
組合員加入者5名,他合意配分1名)とされており,⑤各正組合員に対する
配分については,646万5000円を「正組合員均等割」とし,「正組合員に
なって10年以上で漁業による生活依存度の高い者」(100パーセント・18
53万5000円)を基準として,正組合員としての年数の長短及び漁業によ
る生活依存度の高低に応じて90,70,50,35,25パーセントの「正組合
員年数割」を加算する方法によって算出することとされた(乙7の2)。
ウ なお,被告Iは,かねてから理事の職にあって,三津浜漁協が前記3(3)の
ような方針を採っていたことを認識しており,本件配分委員会においては,
組合員名簿に記載されている正組合員は配分対象者である旨の主張を,
理事の在職期間中(平成7年7月13日まで)から行っていた(甲13,14,3
2の1・2,41,乙5の1,弁論の全趣旨)。
(3)ア 三津浜漁協では,平成7年7月29日,理事会が開催され(被告G及び被
告Hは出席),第1号議案「FAZ漁業補償金配分基準案等の承認につい
て」(本件配分基準案)が上程され,臨時総会を開催することが異議なく承
認された(乙7の1)。
イ なお,被告Gは,かねてから代表理事組合長の職にあり,被告Hは,かね
てから専務理事の職にあって,三津浜漁協が前記3(3)のような方針を採っ
ていたことを認識していた(甲24,28,弁論の全趣旨)。
(4)ア 三津浜漁協では,平成7年8月10日,臨時総会が開催され,第1号議案
「FAZ漁業補償金配分基準案等の承認について」(本件配分基準案)が正
組合員50名中,賛成41名,反対9名により承認(以下「本件配分決議」と
いう。)された(乙8の1~3)。
イ なお,原告Aは,平成7年7月13日から三津浜漁協の理事の職にあり,本
件配分決議当時も理事の職にあった(乙8の1,12,16)。
6 本件受領者に対する配分
 三津浜漁協は,本件配分決議に基づき,配分対象者に対して本件配分基準案
に従った配分を行ったが,そのうち本件訴訟で問題とされている14名(以下「本
件受領者」という。)に対する具体的配分金額(合計1億7531万6000円)等は
次のとおりである。
(1) M
ア Mは,昭和61年9月19日に三津浜漁協に加入し,本件配分決議に基づ
き,「正組合員になって3年以上10年未満で漁業による生活依存度のやや
高い者」として1593万円の配分を受けた(甲37,乙8の1~3,9,弁論の
全趣旨)。
イ Mは,①運送会社の役員等をしていて漁業を営んではおらず,また,実際
には組合定款の定める地区外に居住しており(甲37,乙9,10,原告B,
弁論の全趣旨),②本件配分基準日ないし本件配分決議当時,正組合員と
しての資格要件を充足していなかった(この点については争いがない)。そ
して,三津浜漁協を原告とする当庁平成10年(ワ)第336-1号配当金返
還請求事件(以下「別件1配当金返還請求事件」という。)の被告として,配
分を受けた1593万円の返還を求められている(顕著な事実)。
(2) J
ア Jは,昭和54年5月7日に三津浜漁協に加入し,正組合員として扱われて
きた者であり,本件配分決議に基づき,「合意配分」として319万8000円
の配分を受けた(甲37,乙8の1~3,9,弁論の全趣旨)。
イ Jは,①自動車修理会社の役員等をしていて漁業を営んではおらず,ま
た,実際には組合定款の定める地区外に居住しており(乙10,原告B,弁
論の全趣旨),②本件配分基準日ないし本件配分決議当時,正組合員とし
ての資格要件を充足していなかった(争いがない)。そして,別件1配当金
返還請求事件の被告として,配分を受けた319万8000円の返還を求めら
れている(顕著な事実)。
(3) K
ア Kは,昭和57年9月16日に三津浜漁協に加入し,本件配分決議に基づ
き,「正組合員になって3年以上10年未満であるが漁業による生活依存度
の低い者」として1315万円の配分を受けた(甲37,乙8の1~3,9,弁論
の全趣旨)。
イ Kは,①水産物加工会社の役員等をしていて漁業を営んではおらず,ま
た,実際には組合定款の定める地区外に居住しており(乙10,原告B,弁
論の全趣旨),②本件配分基準日ないし本件配分決議当時,正組合員とし
ての資格要件を充足していなかった(争いがない)。そして,別件1配当金
返還請求事件の被告として,配分を受けた1315万円の返還を求められて
いる(顕著な事実)。
(4) L
ア Lは,昭和60年10月4日に三津浜漁協に加入し,本件配分決議に基づ
き,「正組合員になって3年以上10年未満であるが漁業による生活依存度
の低い者」として1315万円の配分を受けた(甲37,乙8の1~3,9,弁論
の全趣旨)。
イ Lは,①自動車修理会社の役員等をしていて漁業を営んではおらず,ま
た,実際には組合定款の定める地区外に居住しており(甲37,乙9,10,
原告B,弁論の全趣旨),②本件配分基準日ないし本件配分決議当時,正
組合員としての資格要件を充足していなかった(争いがない)。そして,別件
1配当金返還請求事件の被告として,配分を受けた1315万円の返還を求
められている(顕著な事実)。
(5) N
ア Nは,平成4年1月10日に三津浜漁協に加入し,本件配分決議に基づ
き,「正組合員になって3年以上10年未満であるが漁業による生活依存度
の低い者」として1315万円の配分を受けた(甲37,乙8の1~3,9,弁論
の全趣旨)。
イ Nは,①家具製造販売会社の役員等をしていて漁業を営んではおらず,ま
た,実際には組合定款の定める地区外に居住しており(甲5の3,乙10,原
告B,弁論の全趣旨),②本件配分基準日ないし本件配分決議当時,正組
合員としての資格要件を充足していなかった(争いがない)。そして,別件1
配当金返還請求事件の被告として,配分を受けた1315万円の返還を求
められている(顕著な事実)。
(6) O
ア Oは,平成6年11月1日に三津浜漁協に加入し,本件配分決議に基づ
き,「正組合員になって3年以上10年未満であるが漁業による生活依存度
の低い者」として1315万円の配分を受けた(甲37,乙8の1~3,9,弁論
の全趣旨)。
イ Oは,①運送会社の役員等をしていて漁業を営んではおらず,また,実際
には組合定款の定める地区外に居住しており(甲5の3,37,乙9,10,原
告B,弁論の全趣旨),②本件配分基準日ないし本件配分決議当時,正組
合員としての資格要件を充足していなかった(争いがない)。そして,別件1
配当金返還請求事件の被告として,配分を受けた1315万円の返還を求
められている(顕著な事実)。
(7) P 
ア Pは,平成2年10月3日に三津浜漁協に加入し,本件配分決議に基づ
き,「正組合員になって3年以上10年未満であるが漁業による生活依存度
の低い者」として1315万円の配分を受けた(甲37,乙8の1~3,9,弁論
の全趣旨)。
イ Pは,①プロパンガスの販売等を行っていて漁業を営んではおらず,また,
実際には組合定款の定める地区外に居住しており(甲5の2,乙10,原告
B,弁論の全趣旨),②本件配分基準日ないし本件配分決議当時,正組合
員としての資格要件を充足していなかった(争いがない)。そして,別件1配
当金返還請求事件の被告として,配分を受けた1315万円の返還を求めら
れている(顕著な事実)。
(8) Q
ア Qは,平成4年4月28日に三津浜漁協に加入し,本件配分決議に基づ
き,「正組合員になって3年以上10年未満であるが漁業による生活依存度
の低い者」として1315万円の配分を受けた(甲37,乙8の1~3,9,弁論
の全趣旨)。
イ Qは,①工業会社の経営等をしていて漁業を営んではおらず,また,実際
には組合定款の定める地区外に居住しており(甲37,乙9,10,原告B,
弁論の全趣旨),②本件配分基準日ないし本件配分決議当時,正組合員と
しての資格要件を充足していなかった(争いがない)。そして,別件1配当金
返還請求事件の被告として,配分を受けた1315万円の返還を求められて
いる(顕著な事実)。
(9) R
ア Rは,平成2年4月25日に三津浜漁協に加入し,本件配分決議に基づ
き,「正組合員になって3年以上10年未満であるが漁業による生活依存度
の最も低い者」として1129万6000円の配分を受けた(甲37,乙8の1~
3,9,弁論の全趣旨)。
イ Rは,①船舶の修理販売等を行っていて漁業を営んではおらず,また,実
際には組合定款の定める地区外に居住しており(甲37,乙9,10,原告
B,弁論の全趣旨),②本件配分基準日ないし本件配分決議当時,正組合
員としての資格要件を充足していなかった(争いがない)。そして,別件1配
当金返還請求事件の被告として,配分を受けた1129万6000円の返還を
求められている(顕著な事実)。
(10) S
ア Sは,平成元年8月10日に三津浜漁協に加入し,本件配分決議に基づ
き,「正組合員になって3年以上10年未満であるが漁業による生活依存度
の最も低い者」として1129万6000円の配分を受けた(甲37,乙8の1~
3,9,弁論の全趣旨)。
イ Sは,①マリーナの経営等をしており(乙10,原告B,弁論の全趣旨),②
本件配分基準日ないし本件配分決議当時,正組合員としての資格要件を
充足していなかった(争いがない)。そして,三津浜漁協を原告とする当庁
平成10年(ワ)第336号配当金返還請求事件(以下「別件2配当金返還請
求事件」という。)の被告として,配分を受けた1129万6000円の返還を求
められている(顕著な事実)。
(11) T
ア Tは,平成7年1月8日に三津浜漁協に加入し,本件配分決議に基づき,
「平成6年12月31日以降正組合員加入者」として319万8000円の配分
を受けた(乙8の1~3,9,弁論の全趣旨)。
イ Tは,①釣り道具店の経営等をしていて漁業を営んではおらず,また,実
際には組合定款の定める地区外に居住しており(乙10,原告B,弁論の全
趣旨),②本件配分決議当時,正組合員としての資格要件を充足していな
かった(争いがない)。そして,その後,配分を受けた319万8000円を三
津浜漁協に返還するため供託を行い,三津浜漁協はこれを受領している
(弁論の全趣旨)。
(12) U 
ア Uは,被告Iの甥であり,平成6年1月8日に三津浜漁協に加入し,本件配
分決議に基づき,「正組合員になって1年以上3年未満であるが漁業による
生活依存度の高い者」として1315万円の配分を受けた(甲15,37,乙8
の1~3,9,弁論の全趣旨)。
イ Uは,①三津浜漁協加入当時,組合定款の定める地区内に実際には居
住しておらず(甲4の3,13ないし19,22),②本件配分基準日ないし本件
配分決議当時,正組合員としての資格要件を充足していなかった(争いが
ない)。
(13) V 
ア Vは,被告Gの甥であり,平成3年4月20日に三津浜漁協に加入し,本件
配分決議に基づき,「正組合員になって1年以上3年未満であるが漁業に
よる生活依存度の高い者」として1315万円の配分を受けた(甲34,37,
乙8の1~3,9,弁論の全趣旨)。
イ Vは,①漁業を営んではおらず,また,実際には組合定款の定める地区外
に居住しており(甲37,乙9,原告B,弁論の全趣旨),②本件配分基準日
ないし本件配分決議当時,正組合員としての資格要件を充足していなかっ
た(争いがない)。
(14) 被告I
 被告Iは,昭和50年12月26日に三津浜漁協に加入し,本件配分決議に基
づき,「正組合員になって10年以上で漁業による生活依存度の高い者」とし
て2519万8000円の配分を受けた(甲37,乙8の1~3,9,弁論の全趣
旨)。
7 本件受領者に対する配分にかかわる刑事事件の存在等
  ア 被告Iは,Uに対する配分にかかわる電磁的公正証書原本不実記録,不実
記録電磁的公正証書原本供用,公正証書原本不実記載,同行使被告事
件(当庁平成8年(わ)第272号)について,平成9年8月22日,有罪判決を
受けた(甲4の1~3,弁論の全趣旨)。
  イ ①被告G,被告Hは,M,K,L,N,O,P,R等に対する配分にかかわる公
正証書原本不実記載,同行使,電磁的公正証書原本不実記録,不実記録
電磁的公正証書原本供用各被告事件(当庁平成8年(わ)第221号,第24
9号,第273号,同9年(わ)第93号,第97号,第98号)について,平成10
年9月21日,有罪判決を受け(甲5の1~3,顕著な事実),②M,K,L,
N,O,P,Rも,公正証書原本不実記載等の被疑事実により取調べを受
け,松山地方裁判所において,有罪判決を受けている(甲34,原告B,顕
著な事実)。
8 三津浜漁協に対する訴え提起の請求
(1) 原告らは,平成9年9月8日到達の書面により,三津浜漁協に対し,被告Iを
除く本件受領者13名に対する配分に関して,被告らの責任を追及する訴え
の提起を請求した(甲3の1・2)。
(2) 原告らは,平成10年8月21日到達の書面により,三津浜漁協に対し,被告
Iに対する配分に関して,被告らの責任を追及する訴えの提起を請求した(甲
12の1,12の2の1・2)。
9 本件代表訴訟の提起
(1) 原告らは,平成9年10月14日,被告Iを除く本件受領者13名に対する配分
に関して,平成9年(ワ)第710号事件を提起した。
(2) 原告らは,平成10年9月28日,被告Iに対する配分に関して,平成10年
(ワ)第775事件を提起した。
10 原告A,原告Fを被告とする別件配当金返還請求事件の存在
  原告Aは,正組合員としての資格要件を充足していないとして,三津浜漁協を原
告とする当庁平成10年(ワ)第476号配当金返還請求事件(以下「別件3配当金
返還請求事件」という。)の被告とされ,原告Fも,同様に別件2配当金返還請求
事件の被告とされ,それぞれ本件配分決議に基づき配分を受けた配分金(原告
Aについては一部)の返還を求められている(顕著な事実)。
第3 主要な争点
1 被告Iの正組合員としての資格要件充足の有無
2 三津浜漁協の損害発生の有無,被告らの善管注意義務ないし忠実義務違反
の有無
3 本訴請求の信義則違反ないし権利濫用の有無
第3章 争点に対する判断
 第1 被告Iの正組合員としての資格要件充足の有無
1 原告らは,被告Iは「ローラーごち網漁業を営む漁民」として組合員資格を得て
いるようであるが,ごち網漁業は「当該漁業ごと」「船舶ごと」に知事の許可を受
けなければ営むことができないものであるから(漁業法65条1項,水産資源保
護法4条1項,愛媛県漁業調整規則7条),「船舶」を持たず,当該「ごち網漁業」
の許可も受けないまま違法操業をしてきた被告Iは正組合員としての資格要件を
充足していないというべきであり,被告Iに対する配分は違法無効なものである
旨主張する。
2 証拠(甲32,乙12,認定事実末尾に摘示)及び弁論の全趣旨によれば,以下
の事実が認められる。
 (1) 被告Iは,昭和11年2月23日,松山市cにおいて出生し,中学校卒業後,家
業である漁業を手伝い,興居島漁業協同組合(当時)の組合員となり,昭和3
0年ころ以降,ごち網漁業を営んでいたが,昭和43年ころから昭和49年ころ
までの間は,砂利採取運搬業を営み,漁業から離れていた(甲13)。
 (2) 被告Iは,昭和50年12月26日,三津浜漁協に加入し,正組合員となった
(甲13,37,乙9)。
 (3) 被告Iは,昭和50年ころ以降,専ら「一そうローラーごち網」を行うことによっ
て生計を立てており,平成8年ころまでの間,多い時で年収3000万円,少な
い時で1700万円程度の漁獲があったが,他方,その間,愛媛県漁業調整規
則違反(禁止区域内操業等)により,7回検挙されている(甲13)。
 (4) 被告Iは,昭和51年5月28日,愛媛県漁業調整規則7条1項に基づき,所有
する「旭丸」について,「一そうローラーごち網」漁業の愛媛県知事の漁業許可
を受け(有効期間昭和54年5月27日まで),その後,更新等により,昭和54
年5月30日(有効期間昭和57年5月29日まで),昭和57年9月6日(有効期
間昭和60年9月5日まで),昭和60年9月12日(有効期間昭和63年9月11
日まで),昭和63年11月7日(有効期間昭和66年11月6日まで)に,それぞ
れ同様の許可を受け,平成3年2月6日には,妻のWが「譲受」を変更事由と
して同様の許可(有効期限平成6年2月5日まで)を受けたが,平成5年12月
24日には,再び被告Iが「譲受」を変更事由として同様の許可(有効期間平成
8年12月23日まで)を受けている(甲9,11の1,14,43)。
3 検討
  被告Iは,本件配分基準日ないし本件配分決議当時,漁業を営んでいたことが
認められ(当時,所有する「旭丸」について,「一そうローラーごち網」漁業の知事
の許可を受けていたことも認められる。),年間90日を超えて漁業を営んでいな
かったことを認めるに足りる的確な証拠もないから,正組合員としての資格要件
を充足していなかったということはできず,被告Iに対する配分が違法無効である
ということはできない。
したがって,被告Iに関する原告らの主張を採用することはできない。
第2 三津浜漁協の損害発生の有無,被告らの善管注意義務ないし忠実義務違反の
有無
1 原告らは,被告らは,本件受領者らが正組合員としての資格要件を充足してい
ないにもかかわらず組合員名簿に正組合員として登載されていることを利用して
不正に配分を受けようとしていることを知りながら配分を推進し実行したもので
あり,理事としての善管注意義務ないし忠実義務に違反して本件受領者に対す
る不正配分相当額の損害を三津浜漁協に与えたのであるから,三津浜漁協に
対し,連帯して,1億7531万6000円の損害を賠償する責任がある旨主張す
る。
2 検討
 (1) 三津浜漁協の損害発生の有無
ア 漁業協同組合がその有する漁業権を放棄した場合に漁業権消滅の対価
として支払われる補償金は,法人としての漁業協同組合に帰属するものと
いうべきであるが,現実に漁業を営むことができなくなることによって損失を
被る組合員に配分されるべきものであるところ(最高裁昭和60年(オ)第78
1号・平成元年7月13日第一小法廷判決・民集43巻7号866頁参照),被
告Iを除く本件受領者に対する配分(合計1億5011万8000円)は,水協
法・組合定款の定める正組合員としての資格要件を充足していない者に対
する配分であることが認められるから,漁業権消滅補償金の性質をないが
しろにする反社会的行為として,民法90条の公序良俗に反し無効であると
いうべきである。
  そして,三津浜漁協は,上記の1億5011万8000円のうち,現時点にお
いて,Tから319万8000円の返還を受けただけで,それ以外の者からの
返還を受けていないことが認められるから,被告Iを除く本件受領者に対す
る配分により,1億4692万円の損害を被ったというべきである(三津浜漁
協にとって,被告Iを除く本件受領者に対して合計1億4692万円の不当利
得返還請求権を有していることと,現実に1億4692万円を所持しているこ
ととは同視することができない。)。
イ 被告らは,漁業権消滅補償金は終局的には組合員に配分されるべきもの
であるから三津浜漁協には損害が発生していない旨主張するが,上記のよ
うに漁業権消滅補償金は組合員の有する収益権の喪失を補償する目的で
支払われるものであり,FAZ漁業補償金の帰属主体である三津浜漁協に
とって,収益権を喪失する組合員の利益のために管理処分すべき財産が
目的外で処分されている以上,損害が発生していることは否定できないと
いうべきである(三津浜漁協としては,被告Iを除く本件受領者から配分金
の返還がなされ,ないしは被告らから損害賠償がなされた場合,上記のよ
うな漁業権消滅補償金の性質からして,現実に漁業を営むことができなくな
って損失を被った組合員に対して再配分を行うことが予定されているという
べきであるが,その手続は総会の特別決議によって行われるべきものであ
り(上記最判参照),現時点において具体的な配分金の支払義務を負って
いるわけではない。)。
 (2) 被告らの善管注意義務ないし忠実義務違反の有無
  ア 被告G及び被告Hについて
被告G及び被告Hは,本件配分基準案に従った配分を行えば,水協法・
組合定款の定める正組合員としての資格要件を充足していない者(被告Iを
除く本件受領者を含む。)に対しても配分がなされることを認識した上で,本
件配分基準案を提出する臨時総会の招集を決定する理事会(平成7年7月
29日開催)に出席し,これに異議をとどめなかったことが認められるから,
被告Iを除く本件受領者に対する配分に関し,故意又は過失により,理事と
しての善管注意義務(水協法44条,商法254条3項,民法644条)ないし
忠実義務(水協法37条)に違反して,三津浜漁協に損害を与えたというべ
きである。
 イ 被告Iについて
被告Iは,上記アの理事会開催当時には理事の職にはなかったものの,
本件配分基準案の作成に関与した者であり,組合員名簿に記載されてい
る正組合員全員に対して配分を行えば,水協法・組合定款の定める正組合
員としての資格要件を充足していない者(被告Iを除く本件受領者を含む。)
に対しても配分がなされることを認識した上で,理事の在職期間中(平成7
年7月13日まで),本件配分委員会において,配分委員長として,組合員
名簿に記載されている正組合員全員に対する配分を推進するなどしてお
り,三津浜漁協に損害が発生することを阻止しなかったばかりか,かえって
損害発生の原因となるべき行為を積極的に推進していたことが認められる
から,被告Iを除く本件受領者に対する配分に関し,故意又は過失により,
理事としての善管注意義務ないし忠実義務に違反して,三津浜漁協に損害
を与えたというべきである。
ウ 被告らは,本件受領者に対する配分は本件配分決議に基づいて行われ
たものであり,理事としては総会の決議がなされた以上これに従わざるを
得ないのであるから,被告らが三津浜漁協に対して責任を負うことはない
旨主張するが,理事には,法令・定款に違反する内容の総会決議がなされ
る前に,これを未然に防止することが期待されていると考えられ,他方,本
件代表訴訟の提起があり,組合員全員の同意による責任の免除(水協法3
7条,商法266条5項)はなされていないのであるから,本件配分決議が存
在するからといって被告らの責任が否定されることはないというべきであ
る。
第3 本訴請求の信義則違反ないし権利濫用の有無
1 被告らは,①原告Aや原告Eは,本件配分委員会の副委員長ないし委員とし
て,本件配分基準案の最終決定に参加し同意していること,②原告Aは,本件配
分決議当時,三津浜漁協の理事の職にもあったこと,③原告Aや原告Fは,別件
2,3各配当金返還請求事件において,三津浜漁協から配分金の返還を請求さ
れていることなどの事情を挙げ,本訴請求は信義則に反し権利の濫用である旨
主張する。
2 検討
 (1) 本訴請求は,組合員の代表訴訟として行われているものであるところ,組合
員の代表訴訟は,個々の組合員に対し,組合の有する権利を組合のために
行使することを認め,組合の利益の回復,ひいては組合員の利益の回復を図
るための制度であり,それ自体,これを提起する組合員に直接の財産的利益
をもたらす性質のものではないから,代表訴訟による請求を一般条項により
排斥すべきか否かの判断は慎重になされなければならないのであって,当該
代表訴訟による請求が,組合員たる地位と離れた不当な個人的利益を獲得
する意図に基づくものであるとか,組合ないし理事に対する不当な嫌がらせを
主眼としたものであるなどの特段の事情のある場合に限り,これを排斥する
のが相当である。
 (2) これを本件についてみると,本訴請求は,原告Aや原告Fを被告とする別件
2,3各配当金返還請求事件の存在等からして,三津浜漁協における組合員
間の派閥争いが反映していることがうかがえられなくはないものの,本件代表
訴訟自体が別件2,3各配当金返還請求事件に直接的な影響を与えるもので
はなく(もとより,本件全証拠によるも,原告らについて,三津浜漁協ないし被
告らから金銭を喝取するなどの意図を見出すことはできない。),公正かつ適
正な配分がなされるための財産的基礎を確実にするという本件代表訴訟によ
ってもたらされる機能に照らすと,組合員たる地位と離れた不当な個人的利
益を獲得する意図に基づくものであるということはできず,本件代表訴訟によ
って追及しようとする被告らの違法行為の時期・内容,損害賠償額等にかん
がみると,組合ないし理事に対する不当な嫌がらせを主眼としたものであるな
どということもできない(なお,原告Aも,本件配分決議当時,三津浜漁協の理
事の職にあったが,原告Aの理事としての損害賠償責任の有無と被告らの損
害賠償責任の有無とは別個の問題であり,本訴請求を排斥すべき理由には
ならない。)。
 (3) したがって,本訴請求を一般条項によって排斥することは相当ではなく,この
点に関する被告らの主張を採用することはできない。
第4 小括
 以上の検討によれば,被告らは,被告Iを除く本件受領者に対する配分に関
し,理事としての善管注意義務ないし忠実義務に違反し,三津浜漁協に1億46
92万円の損害を与えたものとして,三津浜漁協に対し,連帯して,1億4692万
円の損害を賠償する義務を負うというべきである。
第4章 結論
よって,原告らの本訴請求は,被告らが三津浜漁協に対して連帯して1億46
92万円及びこれに対する損害賠償債務が発生した後である平成7年8月11日
から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理
由があるからこれを認容し,その余は理由がないからこれを棄却し,仮執行の宣
言は相当でないからこれを付さないこととして,主文のとおり判決する。
松山地方裁判所民事第2部
裁判長裁判官   豊   永   多   門
裁判官   中   山   雅   之
裁判官   末   弘   陽   一

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