弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     本件各控訴を棄却する。
         理    由
 被告人両名の弁護人上村進の控訴趣意、被告人Aの弁護人藤井英男と右弁護人上
村進との共同の控訴趣意及び被告人A本人の控訴趣意はいずれも別紙記載のとおり
で、これに対し次のように判断する。
 上村弁護人の控訴趣意第一点並びに藤井、上村両弁護人共同の控訴趣意第一点の
一及び第二点について。
 論旨は、要するに、日本国内において日本国民一般の間に流通するものでなけれ
ば刑法第百四十九条第一項にいわゆる「内国ニ流通スル外国ノ紙幣」であるとはい
えない、主張するのである(上村弁護人は、さらに、日本国民一般に対して強制通
用力のあるものでなければならないと主張している。)そして、原判決の引用する
行政協定及び諸法令の規定並びに原審証人Bの供述を綜合すれば、本件の合衆国軍
票は、アメリカ合衆国軍隊、その構成員、軍属、家族、軍人用販売機関、軍事郵便
局、軍用銀行施設その他同国によつて特に認められた者が日本国内におけるその相
互間の物品の売買その他の内部取引に伴う支払の方法として、また軍事郵便局又は
軍用銀行施設を通じての外国向送金のため等に使用することを認められているもの
であるが、これら以外の者すなわち一般日本国民の間においては、その流通のみな
らずこれを所持することすら禁止されていることが認められる。従つて、それは日
本国民の間において強制通用力をもつものでないことはいうまでもない。しかしな
がら、刑法第百四十九条第一項にいう「内国ニ流通スル」とは、内国において強制
通用力を有することを意味するものではなく、事実上内国に流通することを指すも
のと解すべきであるから(同法第百四十八条第一項が「通用ノ」という語を用いて
いるのに対し、右の第百四十九条第一項が「流通スル」という異なつた語を使用し
ていることに注意すべきである。)、それが日本国民に対して強制通用力を有しな
いという一事からは軍票が刑法第百四十九条第一項所定の紙幣でないということは
いえないのである。そこで、次に、右の軍票は日本国民の間に事実上流通している
ものであるかどうかについて考えてみるとそれが国民間に一般に流通しているとい
えないことは公知の事実だといつてよいし、かりにそれがごく一部の限られた日本
人間に流通している事実はあるとしても、それは前に述べたように法によつて禁止
された流通であるから、この事実をとらえて右の軍票が「内国ニ流通スル紙幣」だ
とすることは無理であると考える。なんとなれば、通貨偽造罪に関する刑法の規定
が保護しようとしている法益は、取引手段として経済生活の基本をなすところの通
貨の真正に対する一般の信用であると考うべきであるから、法がその流通を禁止し
ている貨幣のごときは当然その規定の対象から除外されているといわなければなら
ないのであつて、もしこれを反対に解するならば、法は一方においてその流通を禁
止しながら、他方においてその公の信用を保護するという明らかに矛盾した現象を
認めなければならないこととなるからである。それゆえ、もし前記刑法第百四十九
条第一項にいわゆる「内国ニ流通スル」を「内国に在る日本人間に流通する」の意
に解しようとするならば、本件の軍票を同項所定の紙幣にあたるとすることは困難
だといわざるをえない。しかしながら、ひるがえつて刑法第百四十九条の規定を見
るのに、同条第一項にいう「流通」を広く日本国全体にわたる流通と解しなければ
ならぬ根拠もなければ、その流通が日本国民間における流通でなければならないと
狭く限定すべき理由も別段存しない。論旨は「内国」とは単なる地域を意味するも
のではなく、人的要素をも包含した概念だと主張するけれども、同条にいう「内
国」とは刑法第一条にいう「日本国内」と同意義にこれを解すべきものであつて、
要するに地域的な日本国領<要旨第一>土を指す以上に特別の意味をもつものではな
いと考えなければならない。しかるに、すでに述べたように、本件の軍
票は、日本人間においては流通を禁止されているけれども、日本国内に在る合衆国
軍隊その他の者の間においては貨幣としての強制通用力を有し、かつ現に流通して
いるのである。としてみれば、その流通の範囲が人的に限定されており、また地域
的にも制限されているとしても、いやしくも日本国領土内に合法的に流通している
事実がある以上、やはりそれは前記法条にいう「内国ニ流通スル外国ノ紙幣」に該
当するといわざるをえないのである。
 もつとも、現行刑法制定当時においては、日本国内に外国の軍隊が駐留して本件
軍票のようなものを使用するがごときことはあるいは予想しなかつたところである
かもしれない。しかし、たとえ当時予想しなかつた事態であるとしても、その事態
が法のあらかじめ規定するところに合致する以上は、やはりその法の適用を免れな
いというべきである。従つて、原裁判所が本件の軍票を「内国ニ流通スル外国ノ紙
幣」であるとして刑法第百四十九条第一項を適用したのは正当であつて(最高裁判
所昭和二六年(あ)第二七三七号同二八年五月二五日第二小法廷決定参照)、そこ
に事実の誤認もなければ法令の適用の誤があるともいえない。論旨は、本件につい
てはむしろ「外国に於て流通する貨幣紙幣銀行券証券偽造変造及び模造に関する法
律」(明治三八年法律第六六号)を適用すべきだとも主張するが、同法律において
は外国においてのみ流通する金銀貨紙幣その他のものだけしかその対象にならない
ので、あるから、本件軍票が同法律の適用を受くべきものでないことは明白であ
る。これを要するに論旨は理由がないといわなければならない。
 上村弁護人の控訴趣意第二点及び藤井、上村両弁護人共同の控訴趣意第一点の
二、三について。
 上村弁護人の論旨の前段は、本件軍票は一般日本国民にとつてはその所持を禁止
されているのであるから法律的には全然存在しない空なるものであつて、従つてこ
れを偽造するというのは法律上不能犯だというのである。しかしながら、一般に不
能犯というのは、結果が現に発生しなかつた場合において、その結果の癸生が元来
不能だと考えられたときのことであるから、本件を不能犯の観念をもつて論ずるの
は用語としてあたらない。むしろ論旨の真意とするところは、右の軍票は一艘国民
に対し所持すら禁ぜられているものであるから刑法第百四十九条第一項の対象とは
ならない、というにあるものと解せられるのであるが、この主張の採用できないこ
とはすでに説明したとおりである。次に、論旨は、本件において作成されたものは
真正の軍票との相似性が低く、従つて被告人らの所為はむしろ模造だというべきで
あつて到底偽造という程度には達しないと主張<要旨第二>する。しかしながら、押
収にかかる被告人ら作成の物品を同じく押収にかかる真正の軍票と対比して検して
ると、少くとも一般人をして真正の軍票であると誤信せしめる程度に
相似していることは明らかであつて、かくのごとく一般人をして真正のものと誤信
させる程度のものを製出した以上、たとえその道の専門家が見ればその真正ならざ
ることを容易に発見しうるとしても、その行為は偽造というに妨げないから、この
点の主張も採用することができない。論旨は理由がない。
 上村弁護人の控訴趣意第三点について。
 <要旨第三>通貨偽造罪における「行使ノ目的」とは、その偽造等にかかる通貨を
真正なものとして流通に置く目的をいうのであるが、それは、偽造者自
らがこれを流通に置くと他人を介して流通に置くとを問わないと解すべきである。
しかるに、本件についてこれを見ると、原判決の判示するところによれば、被告人
らはその偽造した軍票を他に売却するつもりであつたというのであつて、これはを
造軍票を真正なものとして円と両替することを意味するものと解せられるから、そ
のこと自体行使に該当することといわなければならないし、かりに直接にはその偽
造であることの情を明かして他人に交付するにしても、その偽造軍票がその者の手
を経ていずれは真正なものとして転輾流通することはみやすい道理であつて、また
そのように流通されるのでなければ被告人らの意図するようにこれを売却すること
もできない筈であるからいずれにせよ被告人らに行使の目的があつたと見るべきこ
とは明らかである。論旨は、被告人らはこの偽造軍票を商品として売却しようとし
たもので、通貨として流通に置く意思はなかつたように主張するけれども、原判決
挙示の証拠によれば、これを真正の通貨として流通に置く意思であつたことは明ら
かであり、一件記録を精査検討しても所論のよりな事実は認めることができない。
論旨は理由がない。
 (その余の判決理由は省略する。)
 (裁判長判事 大塚今比古 判事 河原徳治 判事 中野次雄)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛