弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
     原判決を取消す。
     被控訴人の請求を棄却する。
     訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
     被控訴人は控訴人に対し原判決の仮執行により得た金一八五、〇九〇円
を支払え。
         事    実
 控訴人は主文同旨の判決及び被控訴人が仮執行により得た金一八五、〇九〇円の
返還を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。当事者双方の主張及び証拠の関
係は次のとおりである。
 第一、被控訴人の主張
 一、 請求原因
 (イ) 訴外Aは衣料品の製造販売を業とする商人(以下A商店という)である
が、昭和三三年五月二二日から同年九月一日までの間控訴人に対し各種既製服を代
金合計二三五、〇九〇円で売渡したが、控訴人はそのうち同年一二月三日金三万
円、昭和三四年六月二六日金二万円を支払つたので、A商店は控訴人に対し残代金
として金一八五、〇九〇円の債権を有していたところ、A商店は昭和三四年一一月
二四日右債権を被控訴人に譲渡し、同月二五日控訴人に対しその旨の通知をした。
 (ロ) よつて被控訴人は控訴人に対し、右金一八五、〇九〇円及び訴状送達の
翌日である昭和三五年二月二〇日から完済まで年六分の割合による遅延損害金の支
払を求める。
 二、 抗弁に対する認否
 (イ) 後記第二の二の(イ)の主張事実は否認する。A商店が金一〇万円を受
領したこと及びA商店が訴外B商店から金一〇四、〇〇〇円相当の商品を代物弁済
として受領したことはあるが、右はいずれも控訴会社設立前に存在した訴外丸光C
株式会社から、同会社がA商店に対し負担していた金八〇三、〇二八円の債務の内
払として受領したものである。
 (ロ) 後記第二の二の(ロ)主張事実は否認する。
 第二、控訴人の主張
 一、 請求原因に対する答弁
前記第一の一の(イ)の主張事実は認める。
 二、 抗弁
 (イ) 控訴人は昭和三三年一月二七日A商店に対し、同人との取引につき控訴
人が将来負担することあるべき売掛代金債務の支払を保証する趣旨で金一〇万円を
預けたほか、控訴人が訴外B商店に対して有していた債権の取立をA商店の店員D
に依頼し、金一〇四、〇〇〇円相当の商品を代物弁済として受領したがこれもまた
前記一〇万円と同様の趣旨でそのままA商店に預けておいたところ、同年九月中頃
両者の取引は中止となつたので、控訴人は右取引保証金合計二〇四、〇〇〇円の返
還請求権を自動債権として昭和三八年一月二二日の本件口頭弁論期日において本件
債務と対当額で相殺した。
 (ロ) 本訴は被控訴人がA商店から取立委任を受けて債権譲渡の形式を採つた
ものであり、しかも訴訟行為をなさしめることを主たる目的とする信託譲渡である
から信託法第一一条により無効である。
 第三、証拠関係
 一、 被控訴人は甲第一ないし第四号証、第五号証の一ないし四、第六号証、第
七号証の一、二、第八ないし第一二号証を提出し、証人D、同A(いずれも原審及
び当審)の各証言を援用し、乙第一号証、第四ないし第六号証の成立は認めるが、
乙第二号証の成立は知らない、乙第三号証の用紙がA商店のものであることは認め
るが成立は知らないと述べた。
 二、 控訴人は乙第一ないし第六号証を提出し、証人E(原審及び当審)の証言
を援用し、甲第一、二号証、第六号証、第七号証の一、二、第一二号証の成立は知
らないがその余の甲号各証の成立を認めると述べた。
 三、 当裁判所は職権で被控訴本人の尋問をした。
         理    由
 一、 前記事実欄第一の一の(イ)の請求原因事実は当事者間に争がない。
 二、 よつて前記事実欄第二の二の(イ)の抗弁事実について判断する。
 まず控訴人の主張に沿う証拠としては乙第二、三号証及び証人Eの証言(原審及
び当審)が存するけれども、右証拠は後に判断する理由によつてその記載及び供述
を直ちに信用することはできないし、右証拠を除いては他に控訴人主張事実を認定
するに足る証拠はない。かえつて証人Dの証言(原審)によつて真正に成立したも
のと認める甲第六号証、第七号証の一、二、成立に争のない甲第八ないし第一一号
証、証人Aの証言(当審)によつて真正に成立したものと認める甲第一二号証、証
人D、同Aの各証言(いずれも原審及び当審)並びに被控訴本人の供述及び証人E
の証言(原審及び当審、ただし左記事実認定に反する点を除く)に弁論の全趣旨を
綜合すると、A商店は昭和三〇年一一月頃から、訴外Eが実質的な経営者である訴
外株式会社品沢商店と取引があり、各種既製服を売渡して来たが、昭和三一年六月
頃には右会社の経営は行きづまり、当時金二五二、九六〇円の売掛代金債権が残つ
ていたが、右Eから新しく訴外C商事株式会社を設立して旧債を支払うから右新会
社と取引して貰いたい旨の要望を容れて爾来訴外C商事株式会社と数ケ月間取引を
継続して来たが、右訴外会社も経営不振となり、昭和三二年五月頃右会社の債務の
整理をした際金一八六、六六〇円の売掛代金債権が残つていたが、更に右Eから新
しく訴外丸光C株式会社を設立して旧債を支払うから右新会社と取引して貰いたい
旨の要望を容れて爾来訴外丸光C株式会社と取引継続して来たが、右訴外会社も経
営不振となり、それまでに旧債一八六、六六〇円は回収していたけれども、昭和三
二年一二月一二日頃右訴外会社の債務の整理をしたころは金八八七、九三八円の売
掛代金債権が残つていたこと、そこで右Eは昭和三三年一月三〇日新しく控訴会社
を設立し、A商店に対し旧債を支払うから右新会社と取引して貰いたい旨要望し、
A商店も旧債を回収することを目的としてこれを承諾し、そのころ右EとA商店間
において、右旧債の処理としてこれね先立つて昭和三二年一月五日頃訴外丸光C株
式会社が訴外B商店から返品として受領すべき金一〇四、〇〇〇円相当の商品を直
接A商店が受領していたものを右旧債の代物弁済としてその内入とし、また同年一
二月三一日訴外丸光C株式会社から会社債務の整理として返品のあつた金六六、四
三〇円相当の商品及び金一八、四八〇円相当の商品を旧債の代物弁済としてその内
入とし、さらに昭和三三年一月二三日頃右Eから受領した現金一〇万円を旧債の内
入として受領し、以上内入金合計二八八、九一〇円を旧債金八八七、九三八円から
控除した残額五九九、〇二八円につき右Eは支払期日を同年六月一五日、同月三〇
日、七月三一日、以下一ケ月毎にずらした手形七通額面合計五九九、〇二八円を振
出してA商店に交付し、よつてA商店は同年五月二二日以降控訴会社と取引を始め
るに至つたことが認められ、以上の認定事実によればA商店が受領した現金一〇万
円及び金一〇四、〇〇〇円相当の商品の代物弁済はA商店の訴外丸光C株式会社に
対する旧債権の内入として授受されたことが明らかである。もつとも乙第二号証に
は昭和三二年一二月一二日C商事株式会社及び丸光C株式会社の債権者会議が開か
れ、丸光C株式会社が在庫商品を債権の一割と評価して各債権者に配分したときは
残余の九割は切りすて放棄することを決議した旨の記載があるけれども、右の記載
は債権者会議の決議書及び出席者の署名押印にひきつづき議事録として作成された
部分に記載があるのみで、決議書自体には右債権の放棄に関するなんらの記載がな
いこと及び右会社に出席したA商店の店員である証人Dの証言(当審)によれば、
右決議書を作成し署名押印したときは後の議事録の記載はなかつたことが窺われる
ことに徴し、乙第二号証中右議事録部分は信用しがたく、また乙第三号証は昭和三
三年一月二七日付でA商店が受領した金一〇万円の領収証であるが、右領収証には
「但保証金として預りました」と記載され、宛名も「品沢産業」と記載されている
けれども、証人Aの証言(当審)によれば右の記載は前記Eから他の債権者に対す
る関係上右のように記載して貰いたい旨の依頼に基き記載したにすぎないことが窺
われるので、乙第二号証の右記載をもつて控訴人主張のように金一〇万円の授受が
控訴会社からの保証金としてなされたことを認めるに足らず、最後に証人Eの証言
(原審及び当審)中控訴人の主張事実に沿う部分は以上認定の事実に徴し措信しが
たい。結局控訴人の相殺の抗弁は自動債権の発生につき証明がないので、爾余の点
を判断するまでもなく理由がない。
三、 次に前記事実欄第二の二の(ロ)の抗弁事実について判断する。
 <要旨>控訴人はA商店の被控訴人に対する債権譲渡は訴訟行為をなさしめること
を主たる目的とする信託譲渡であると主張し、被控訴人は極力これを否認す
る。そこで証拠を検討するに、(1)A商店の店員である証人Dの証言(当審)に
よれば、被控訴人はA商店の顧問であり、同商店は従来法律的に処理の困難な事件
は被控訴人に依頼しており、本件訴訟もこの意味において依頼したものであること
が認められ、右認定に抵触する被控訴本人の供述は措信しがたく、(2)A商店と
被控訴人との間の債権譲渡契約証書(甲第二号証)によれば、右両者間の契約はA
商店が被控訴人に対し、A商店の控訴会社に対する本件債権金一八五、〇九〇円、
E個人に対する債権金六四九、三七八円、株式会社品沢商店に対する債権金二八
五、一一〇円合計金一、一一九、五七八円を金五〇万円で売渡し、A商店は右債務
者の資力を担保し、被控訴人が債務者に対して強制執行までして取立てた金額が右
売買代金に達しなかつたときは、A商店は被控訴人に不足額を直ちに支払うことを
内容とするものであつて、右契約は被控訴人が訴訟行為をなすことを当然に予期し
たものであることが窺われるし、かつ右甲第二号証と証人Dの証言(当審)とを綜
合するときは、右債権譲渡契約の実質は単純な債権譲渡契約ではなくて債権の取立
委任契約であることが認められる。右認定に抵触する被控訴本人の供述は措信しが
たい。(3)また被控訴人が弁護士でないにも拘らず訴訟資料の提出、認否、証人
尋問の技術等法廷における訴訟活動に極めて練達していることは本件訴訟を通じて
当裁判所に顕著な事実であり、ことに昭和三四年一一月二四日本件債権の譲渡を受
け、翌二五日A商店よりその旨控訴人に通知し(以上の事実は当事者間に争がな
い)、同月二八日控訴人に対し催告状を発し(成立に争のない甲第四号証)、同年
一二月七日仮差押決定を得(成立に争のない乙第四号証)、翌八日右決定を執行し
て現金一八五、〇九〇円を差押え(成立に争のない乙第五号証)、ひきつづき昭和
三五年一月一一日函館地方裁判所に本訴を提起し、昭和三六年七月三一日被控訴人
勝訴の仮執行宣言付判決があり、同年八月一八日その判決正本の送達を受けるや
(以上は当裁判所に顕著)、同年一〇月一〇日仮執行宣言に基き前記仮差押金一八
五、〇九〇円を受領する(成立に争のない乙第六号証)等極めて迅速巧妙に訴訟を
自ら遂行しているのであつて、以上(1)ないし(3)の事実を綜合するときは、
本件債権譲渡はA商店が訴訟行為に堪能な被控訴人に訴訟行為をなさしめることを
主たる目的として信託的に譲渡したものと認めるのが相当であり、A商店において
弁護士に本件債権の取立訴訟を委任するならば格別右の如き債権譲渡は信託法第一
一条に違反し無効としなければならない。この点に関する控訴人の抗弁は理由があ
る。
 四、 されば、被控訴人の本訴請求はこの点において失当であるから民事訴訟法
第三八六条によりこれを認容した原判決を取消し、被控訴人の請求を棄却し、訴訟
費用は同法第九六条第八九条により第一、二審とも被控訴人の負担とし、なお被控
訴人は原判決の仮執行宣言に基きすでに執行により金一八五、〇九〇円を得ている
ので、同法第一九八条第二項により被控訴人に対し右金額を控訴人に支払うことを
命ずることとし、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 羽生田利朝 裁判官 船田三雄 裁判官 輪湖公寛)

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