弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人岩佐善巳、同玉田勝也、同島田清次郎、同由良卓郎、同武田正彦、同
天野登喜治、同村角善高、同服部幹雄、同小村和年の上告理由第一点について
一 本件記録によれば、被上告人らの本件訴えは、昭和五八年五月二七日に上告人
が動力炉・核燃料開発事業団に対してした高速増殖炉「もんじゅ」(以下「本件原
子炉」という。)に係る原子炉設置許可処分(以下「本件設置許可処分」という。)
には重大かつ明白な瑕疵があるとして、その無効確認を求める、というものである。
  論旨は、本件原子炉から半径二〇キロメートルの範囲内に住居を有する被上告
人らが、本件設置許可処分の無効確認を求めるにつき、行政事件訴訟法三六条所定
の「法律上の利益を有する者」に該当するとして原告適格を肯定した原審の判断に
は、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(以下「規制法」とい
う。)二四条一項四号、行政事件訴訟法三六条の解釈適用の誤り、審理不尽、理由
不備の違法がある、というのである。
二 そこで、以下、右主張について検討する。
  行政事件訴訟法九条は、取消訴訟の原告適格について規定するが、同条にいう
当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは、当該処分によ
り自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるお
それのある者をいうのであり、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体
的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人
の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、
かかる利益も右にいう法律上保護された利益に当たり、当該処分によりこれを侵害
され又は必然的に侵害されるおそれのある者は、当該処分の取消訴訟における原告
適格を有するものというべきである(最高裁昭和四九年(行ツ)第九九号同五三年
三月一四日第三小法廷判決・民集三二巻二号二一一頁、最高裁昭和五二年(行ツ)
第五六号同五七年九月九日第一小法廷判決・民集三六巻九号一六七九頁、最高裁昭
和五七年(行ツ)第四六号平成元年二月一七日第二小法廷判決・民集四三巻二号五
六頁参照)。そして、当該行政法規が、不特定多数者の具体的利益をそれが帰属す
る個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むか否かは、当該行
政法規の趣旨・目的、当該行政法規が当該処分を通して保護しようとしている利益
の内容・性質等を考慮して判断すべきである。
  行政事件訴訟法三六条は、無効等確認の訴えの原告適格について規定するが、
同条にいう当該処分の無効等の確認を求めるにつき「法律上の利益を有する者」の
意義についても、右の取消訴訟の原告適格の場合と同義に解するのが相当である。
  以下、右のような見地に立って、規制法二三条、二四条に基づく原子炉設置許
可処分につき、原子炉施設の周辺に居住する者が、その無効確認を訴求する法律上
の利益を有するか否かを検討する。
  規制法は、原子力基本法の精神にのっとり、核原料物質、核燃料物質及び原子
炉の利用が平和の目的に限られ、かつ、これらの利用が計画的に行われることを確
保するとともに、これらによる災害を防止し、及び核燃料物質を防護して、公共の
安全を図るために、製錬、加工、再処理及び廃棄の事業並びに原子炉の設置及び運
転等に関する必要な規制等を行うことなどを目的として制定されたものである(一
条)。規制法二三条一項に基づく原子炉の設置の許可申請は、同項各号所定の原子
炉の区分に応じ、主務大臣に対して行われるが、主務大臣は、右許可申請が同法二
四条一項各号に適合していると認めるときでなければ許可をしてはならず、また、
右許可をする場合においては、あらかじめ、同項一号、二号及び三号(経理的基礎
に係る部分に限る。)に規定する基準の適用については原子力委員会、同項三号(
技術的能力に係る部分に限る。)及び四号に規定する基準の適用については、核燃
料物質及び原子炉に関する安全の確保のための規制等を所管事項とする原子力安全
委員会の意見を聴き、これを十分に尊重してしなければならないものとされている
(二四条)。同法二四条一項各号所定の許可基準のうち、三号(技術的能力に係る
部分に限る。)は、当該申請者が原子炉を設置するために必要な技術的能力及びそ
の運転を適確に遂行するに足りる技術的能力を有するか否かにつき、また、四号は、
当該申請に係る原子炉施設の位置、構造及び設備が核燃料物質(使用済燃料を含む。)、
核燃料物質によって汚染された物(原子核分裂生成物を含む。)又は原子炉による
災害の防止上支障がないものであるか否かにつき、審査を行うべきものと定めてい
る。原子炉設置許可の基準として、右の三号(技術的能力に係る部分に限る。)及
び四号が設けられた趣旨は、原子炉が、原子核分裂の過程において高エネルギーを
放出するウラン等の核燃料物質を燃料として使用する装置であり、その稼働により、
内部に多量の人体に有害な放射性物質を発生させるものであって、原子炉を設置し
ようとする者が原子炉の設置、運転につき所定の技術的能力を欠くとき、又は原子
炉施設の安全性が確保されないときは、当該原子炉施設の従業員やその周辺住民等
の生命、身体に重大な危害を及ぼし、周辺の環境を放射能によって汚染するなど、
深刻な災害を引き起こすおそれがあることにかんがみ、右災害が万が一にも起こら
ないようにするため、原子炉設置許可の段階で、原子炉を設置しようとする者の右
技術的能力の有無及び申請に係る原子炉施設の位置、構造及び設備の安全性につき
十分な審査をし、右の者において所定の技術的能力があり、かつ、原子炉施設の位
置、構造及び設備が右災害の防止上支障がないものであると認められる場合でない
限り、主務大臣は原子炉設置許可処分をしてはならないとした点にある。そして、
同法二四条一項三号所定の技術的能力の有無及び四号所定の安全性に関する各審査
に過誤、欠落があった場合には重大な原子炉事故が起こる可能性があり、事故が起
こったときは、原子炉施設に近い住民ほど被害を受ける蓋然性が高く、しかも、そ
の被害の程度はより直接的かつ重大なものとなるのであって、特に、原子炉施設の
近くに居住する者はその生命、身体等に直接的かつ重大な被害を受けるものと想定
されるのであり、右各号は、このような原子炉の事故等がもたらす災害による被害
の性質を考慮した上で、右技術的能力及び安全性に関する基準を定めているものと
解される。右の三号(技術的能力に係る部分に限る。)及び四号の設けられた趣旨、
右各号が考慮している被害の性質等にかんがみると、右各号は、単に公衆の生命、
身体の安全、環境上の利益を一般的公益として保護しようとするにとどまらず、原
子炉施設周辺に居住し、右事故等がもたらす災害により直接的かつ重大な被害を受
けることが想定される範囲の住民の生命、身体の安全等を個々人の個別的利益とし
ても保護すべきものとする趣旨を含むと解するのが相当である。
  そして、当該住民の居住する地域が、前記の原子炉事故等による災害により直
接的かつ重大な被害を受けるものと想定される地域であるか否かについては、当該
原子炉の種類、構造、規模等の当該原子炉に関する具体的な諸条件を考慮に入れた
上で、当該住民の居住する地域と原子炉の位置との距離関係を中心として、社会通
念に照らし、合理的に判断すべきものである。
  以上説示した見地に立って本件をみるのに、被上告人らは本件原子炉から約一
一キロメートルないし約一五キロメートルの範囲内の地域に居住していること、本
件原子炉は研究開発段階にある原子炉である高速増殖炉であり(規制法二三条一項
四号、同法施行令六条の二第一項一号、動力炉・核燃料開発事業団法二条一項参照)、
その電気出力は二八万キロワットであって、炉心の燃料としてはウランとプルトニ
ウムの混合酸化物が用いられ、炉心内において毒性の強いプルトニウムの増殖が行
われるものであることが記録上明らかであって、かかる事実に照らすと、被上告人
らは、いずれも本件原子炉の設置許可の際に行われる規制法二四条一項三号所定の
技術的能力の有無及び四号所定の安全性に関する各審査に過誤、欠落がある場合に
起こり得る事故等による災害により直接的かつ重大な被害を受けるものと想定され
る地域内に居住する者というべきであるから、本件設置許可処分の無効確認を求め
る本訴請求において、行政事件訴訟法三六条所定の「法律上の利益を有する者」に
該当するものと認めるのが相当である。これと同旨の原審の判断は、正当として是
認することができ、原判決に所論の違法はない。また、右原審の判断は、所論引用
の前掲最高裁平成元年二月一七日第二小法廷判決に抵触するものではない。論旨は、
採用することができない。
 同第二点について
一 論旨は、被上告人らが本件原子炉施設の設置者である動力炉・核燃料開発事業
団に対し、人格権等に基づき本件原子炉の建設ないし運転の差止めを求める民事訴
訟が、行政事件訴訟法三六条所定の「当該処分若しくは裁決の存否又はその効力の
有無を前提とする現在の法律関係に関する訴え」に該当せず、また、右民事差止訴
訟によって目的を達することができないとして、本件無効確認訴訟が同条所定の要
件を具備したものと判断した原判決には、同条の解釈適用の誤りがある、というの
である。
二 そこで、以下、右主張について検討する。
 行政事件訴訟法三六条によれば、処分の無効確認の訴えは、当該処分に続く処分
により損害を受けるおそれのある者その他当該処分の無効確認を求めるにつき法律
上の利益を有する者で、当該処分の効力の有無を前提とする現在の法律関係に関す
る訴えによって目的を達することができないものに限り、提起することができると
定められている。処分の無効確認訴訟を提起し得るための要件の一つである、右の
当該処分の効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによって目的を達
することができない場合とは、当該処分に基づいて生ずる法律関係に関し、処分の
無効を前提とする当事者訴訟又は民事訴訟によっては、その処分のため被っている
不利益を排除することができない場合はもとより、当該処分に起因する紛争を解決
するための争訟形態として、当該処分の無効を前提とする当事者訴訟又は民事訴訟
との比較において、当該処分の無効確認を求める訴えのほうがより直截的で適切な
争訟形態であるとみるべき場合をも意味するものと解するのが相当である(最高裁
昭和三九年(行ツ)第九五号同四五年一一月六日第二小法廷判決・民集二四巻一二
号一七二一頁、最高裁昭和五七年(行ツ)第九七号同六二年四月一七日第二小法廷
判決・民集四一巻三号二八六頁参照)。
 本件についてこれをみるのに、被上告人らは本件原子炉施設の設置者である動力
炉・核燃料開発事業団に対し、人格権等に基づき本件原子炉の建設ないし運転の差
止めを求める民事訴訟を提起しているが、右民事訴訟は、行政事件訴訟法三六条に
いう当該処分の効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えに該当するも
のとみることはできず、また、本件無効確認訴訟と比較して、本件設置許可処分に
起因する本件紛争を解決するための争訟形態としてより直截的で適切なものである
ともいえないから、被上告人らにおいて右民事訴訟の提起が可能であって現にこれ
を提起していることは、本件無効確認訴訟が同条所定の前記要件を欠くことの根拠
とはなり得ない。また、他に本件無効確認訴訟が右要件を欠くものと解すべき事情
もうかがわれない。これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、
原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。
  よって、行政事件訴訟法七条、民訴法三九六条、三八四条、九五条、八九条に
従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    貞   家   克   己
            裁判官    坂   上   壽   夫
            裁判官    園   部   逸   夫
            裁判官    佐   藤   庄 市 郎
            裁判官    可   部   恒   雄

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