弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 上告人らの上告理由第一点について。
 所論はまず、原判決が本件破産会社が昭和二九年四月頃からその支払を停止し、
同年六月頃より操業をやめたとの事実を認定しながら、合理的に推認せしめるに十
分な説示なく、また納得し得るに足る十分な根拠を示すことなく、右破産会社およ
び被上告人らにおいて、本件土地所有権移転行為によつて破産会社の一般債権者を
害する意思のなかつた旨を判示しているのは、審理不尽、理由不備の違法があると
いうのである。しかし、原判決は、本件破産会社が固定資産等を所有してはいても、
その運転資金が殆んどなく、被上告人ら債権者に対する債務の支払をすることがで
きなかつたが、大口債権者である株式会社D洋紙店が右破産会社の要請に応じ、破
産会社に相当の援助をすることを了承し、また債権者E某に対してもその関係工場
を担保として提供したので、被上告人ら債権者が本件土地の所有権を取得すること
によりその債務が消滅すれば、残る小口債権者に対する支払は必ずしも困難ではな
く、従つて、破産会社の再建、操業再開も必ずしも不可能ではなく、破産会社の首
脳部はその操業再開の可能を信じ、その方針で努力していたし、被上告人らにおい
ても破産会社が操業再開に至るべきことを信じていたのであつて、いずれも本件各
土地所有権移転によつて破産会社の一般債権者を害する意思がなかつた旨を認定、
判示しており、右原判決の判断は挙示の証拠により是認し得ないわけではなく、そ
の経過に所論の違法は認められない。この点に対する論旨は、ひつきよう原審の適
法にした証拠の取捨判断、事実の認定を非難するに帰し、採るを得ない。
 次に、所論は判例違反をいうのである。しかし、原判決が適法に判示するところ
によると、F製紙株式会社は昭和三二年一二月二五日破産宣告を受けたこと、同会
社は被上告人らに対し、同会社の負担する債務の代物弁済として本件(イ)ないし
(へ)の各土地を昭和三〇年三月五日から同年五月二四日までの間にそれぞれ譲渡
しかつ売買による所有権移転登記をしたこと、被上告人B薬品株式会社は昭和三一
年一一月五日、同会社の債務のために訴外G物産株式会社に対し本件(イ)土地に
ついて根抵当権の設定契約をし、同日その旨の登記をしたというのである。しから
ば、本件否認の対象となる前記各代物弁済契約もしくは根抵当権設定契約またはこ
れらの行為についての登記は、いずれもF製紙株式会社が破産宣告を受けた昭和三
二年一二月二五日から一年前にされたものであるから、右破産会社の破産管財人ら
は、破産法八四条の規定により、前記各行為に対し同法七二条二号の規定による否
認権を行使することは許されず、同条項に基づく上告人らの主張自体失当といわな
ければならない。従つて、前記原審の確定した事実関係の下においては、原判決が
破産法七二条二号に基づく否認権を行使する旨の所論の主張に対し判断を加えなか
つたからといつて、これを非難する論旨は、結局判決に影響のないことの昭和四〇
年四月二二日判決昭和三七年(オ)第一二六二号明らかな主張たるに帰し、採用の
限りでない。
 同第二点について。
 所論は、原判決が本件土地の所有権移転行為が他の債権者を害することを知つて
なしたと認めがたいと判示したことは経験則違反であると主張し、これを前提とし
判例違反をいうものである。しかし、原判決の右の判示が是認し得るところであり、
その間所論の違法の認められないことは、論旨第一点前段に対する説示において述
べたとおりであり、所論は結局原判示に副わない事実関係を前提とする主張であつ
て、採るを得ない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、
主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    松   田   二   郎
            裁判官    岩   田       誠

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