弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

       主   文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
       事実及び理由
第1 当事者の求めた判決
1 原告
 特許庁が、平成3年審判第24207号事件について、平成8年8月2日にした
審決を取り消す。
 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
 主文と同旨。
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
 被告は、別紙1のとおり、「TEX」と「SIM」の欧文字をハイフンを介して
「TEX-SIM」と横書きしてなり、第11類「電子応用機械器具(医療機械器
具に属するものを除く。)その他本類に属する商品」(平成3年政令第299号に
よる改正前の商標法施行令の区分による、以下同じ。)を指定商品とする登録第2
318074号商標(昭和61年6月19日登録出願、平成3年6月28日設定登
録、以下「本件商標」という。)の商標権者である。
 原告は、被告を被請求人として、本件商標につき登録無効の審判の請求をした。
 特許庁は、同請求を平成3年審判第24207号事件として審理したうえ、平成
8年8月2日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本
は、同年8月21日、原告に送達された。
2 審決の理由の要旨
 審判は、別添審決書写し記載のとおり、本件商標と、「テック」の片仮名文字を
ゴシック体にて横書きしてなり、指定商品を第11類「電気機械器具、電気通信機
械器具、電子応用機械器具(医療機械器具に属するものを除く。)電気材料」とす
る請求人(注、原告)の有する登録第1240435号商標(昭和44年6月10
日登録出願、昭和51年12月13日設定登録、昭和61年11月13日存続期間
の更新登録。以下「引用商標」という。別紙2のとおり。)とは、その外観、称呼
及び観念のいずれの点からみるも互いに紛れるおそれのない非類似の商標と認めら
れ、本件商標は、商標法4条1項11号の規定に違反して登録されたものとは認め
られないから、同法46条の規定により無効とすることはできないとした。
第3 原告主張の審決取消事由の要点
 審決は、第1に、商取引の実際において発生する本件商標の称呼の認定を誤ると
ともに、第2に、本件商標と引用商標の称呼の類否判断を誤ったものであるから、
違法として取り消されなければならない。
1 本件商標から生ずる称呼
(1)本件商標は、以下に述べるとおり、その全体的称呼「テクスシム」又は「テ
ックスシム」だけでなく、一般になじみやすく、称呼上も簡便な「TEX」の部分
より、「テックス」の称呼が生じるとみなければならない。
①  本件商標は、「TEX」と「SIM」とをハイフンで結合させた態様であっ
て、視覚的にも「TEX」と「SIM」が分離している。このような場合、簡易迅
速を尊ぶ現実の取引社会においては、最も目につく前半部のみを称呼し、後半部を
省略して称呼しないことが実情である。本件商標が、取引において一体不可分のも
のとして称呼されることを期待するのであれば、「TEXSIM」のように外観上
も一体不可分にするはずである。
②  本件商標は、特定の観念を有するものとして知られ親しまれているものでは
なく、一種の造語であるから、その全体から直ちに特定の観念が認定されるもので
はなく、全体を一体不可分の商標として把握しなければならない必然性はない。し
たがって、その一部が省略されやすいことも、経験則上認められるところである。
③  本件商標から生ずる全体称呼「テックスシム」は、冗長であり、また、第3
音目の「ス」(su)と第4音目の「シ」(shi)は、いずれも舌端を前硬口蓋
に寄せて発する無声摩擦子音(s)を帯有しており、他の音との結合の中で連続し
て発声するには非常に発音しにくく、聴取し難い。このような商標に接した取引者
や需要者が、後半部分の「シム」を省略して前半部分の「テックス」とのみ称呼す
ることは、容易に考えられるところである。
④  本件商標のようなハイフンで結合された商標は、シリーズものに採択される
ことが多く、本件商標においても、代表的出所標識は「TEX」の部分であり、
「SIM」の部分は、「TEX」商標で総称される商品群のうちの特定の1つを仕
分ける記号と同種のように認識する需要者・取引者もいると思われる。
(2)特許庁の審決においても、本件商標と同じくハイフンで結合された商標につ
いて、全体的称呼よりも、親しみやすく、称呼上も簡便な部分より称呼が生ずると
の経験則をもとに、類似と判断する事例は数多い(甲第8~第27号証参照)。
2 称呼類否の判断
(1)以上のことから明らかなように、本件商標は、前半部の「TEX」の部分よ
り「テックス」の称呼を生じ、引用商標からは「テック」の称呼が生じるものであ
るから、両商標が称呼において類似するか否かは、「テックス」と「テック」とを
比較・判断しなければならない。
 ところが、審決は、「TEX」の部分から「テックス」の称呼が生じることを仮
定的に認めながら、引用商標につき、「請求人(注、原告)の名称の略称としてこ
の種業界において知られていることから、『テック株式会社』を観念若しくは前記
外来語辞典によれば『テック(tech)』は『technical cente
rの略、自動車、オートバイの技術練習場』を意味するものであることから、『テ
ック』は『自動車、オートバイの技術練習場』を観念するもの」(審決書13頁1
4行~14頁1行)との認定を前提とし、「本件商標構成中の前半部分の『TE
X』は、・・・『糸の太さの単位』、又は、『パルプを押し固めて作った板、天
井、壁などに使う建材』である『テックス』(tex)に通ずるものとして知られ
ているところより、該文字部分に相応して、『テックス』の称呼及び前記観念を生
じるものであり、他方、引用商標は、「テック」の称呼及び前記観念を生じるもの
であり、両者は、語尾における『ス』の音の有無を有するものであり、両者外来語
として知られ、親しまれたものであるところ、構成音が促音を含む3音と2音とい
う短い音により構成されているものであり、語尾音の『ス』の音の有無の差は、観
念の相違をあわせ考慮すれば、両者をそれぞれ一連に『テックス』、『テック』と
称呼してもその音調を異にし、互いに紛れるおそれはないものといわざるを得な
い」(審決書14頁13行~15頁9行)と述べ、「テックス」と「テック」とが
称呼において類似するか否かの判断において、それぞれから生ずる観念の相違を判
断材料としている。このような判断によると、称呼が類似していても、観念が異な
れば非類似との結論が導かれることとなるから、審決は、称呼の類否判断の方法を
誤ったものといわなければならない。
 なお、審決の上記観念の認定中、引用商標から、業界において著名な原告会社の
観念が生ずることは認めるが、「自動車、オートバイの技術練習場」との観念が生
ずること、本件商標中の「TEX」の部分から「糸の太さの単位」又は「パルプを
押し固めて作った板、天井、壁などに使う建材」との観念が生ずることは、いずれ
も争う。
(2)「テックス」と「テック」とが、称呼において類似と判断されるべきこと
は、次の理由による。
 すなわち、「テックス」と「テック」とを比べてみると、語尾音「ス」の有無に
差異があるにすぎない。しかも、この差異音「ス」は無声摩擦音であって聴取し難
く、特に、その前音である「ク」が明瞭な破裂音であり、促音に続いて発音される
ため、強く響いて耳に残り易いことから、語尾音「ス」が全体称呼に与える影響は
小さいものと考えられる。
 特許庁の審決においても、上記と同様の判断が繰り返されている(甲第28~第
38号証参照)。
(3)原告は、「テックス」の称呼を生ずる第三者の出願に係る商標「TECS」
が出願公告された(商公昭60-17561号、甲第39号証)ので、これに対し
引用商標と類似するから拒絶されるべきである旨主張して、商標登録異議申立てを
したところ、特許庁は、「・・・両称呼は共に『テック』を共通にし、僅かに語尾
における『ス』音の有無に差異あるにすぎず、かかる音は、弱音にしてしかも語の
末尾音でもあることと関連して、前音に吸収されるが如く発音され、明確に聴別し
難いことから、本願および引用の両商標を一連に称呼するときは、称呼上、彼此相
紛れるおそれのある類似の商標であり、かつ、互いに指定商品も抵触するものであ
る。」との理由で、異議申立ての理由があると決定している(甲第40号証)。
 また、登録第2711615号商標「テックス」(甲第41号証)及び登録第2
711616号商標「TECS」(甲第42号証)は、いずれも引用商標の連合商
標として登録されており(甲第43、第44号証)、この場合においても特許庁
は、「テック」と「テックス」とを類似の商標と判断しているのである。
第4 被告の反論の要点
 審決の認定判断は正当であって、原告主張の審決取消事由は理由がない。
1 原告の主張1について
(1)本件商標からは、審決が説示するとおり、全体として「テクスシム」又は
「テックスシム」の称呼のみが発生するというべきであり、原告の、前半の「TE
X」のみが分離されて称呼されるとする主張は、以下に述べるとおり理由がない。
① 商標は、その態様全体から生ずる称呼音が最も自然であるところ、本件商標
は、「TEX」と「SIM」とがハイフンで結合された態様からなり、その態様全
体が商標としての機能を果たすのであるから、その称呼音も、全体として「テクス
シム」又は「テックスシム」のみが発生するというべきである。原告の主張するよ
うに、ハイフンで結合された商標について、前半部のみを分離して称呼すべき理由
はない。
② 本件商標が、全体として特定の観念を有するものでないことは認めるが、本件
商標は、ハイフンで結分されたことにより、外観上、特定の称呼を備えた1つの文
字群として認識できるのであるから、観念の有無にかかわらず全体を一体不可分の
商標と考えるべきである。
③ 本件商標から生ずる称呼の「テクスシム」又は「テックスシム」が、冗長であ
るとする根拠はない。例えば、一般に著名な商標「パナソニックス」は、冗長だと
して略称されることはないと思われる。
④ ハイフンで結合された商標はシリーズものに採択されることが多いとする主張
には、根拠がない。例えば、原告が引用する審決(甲第8~第27号証)に記載さ
れたハイフンで結合された商標は、すべてシリーズものとなるわけではない。
(2)原告が引用する審決(甲第8~第27号証)は、商標類否の判断を示したに
すぎず、前半部と後半部がハイフンで結合された態様からなる商標について、常に
他方が省略されて一方が用いられるという主張を裏付けるものではない。
2 同2について
(1)以上のとおり、本件商標からは、「テクスシム」又は「テックスシム」の称
呼のみが発生するというべきであるから、両商標が類似するか否かは、これらの称
呼と引用商標の称呼「テック」とを比較すべきであり、両者が類似しないことは明
らかである。
 原告のように、「テックス」と「テック」との称呼音を比較することは意味がな
く、審決は、本件商標から「テックス」の称呼が生じることを仮定的に述べている
にすぎない。
(2)なお、特許庁の審決には、原告の主張と異なり、語尾音「ス」が全体称呼に
与える影響を重視した事例も多い(乙第1~第9号証参照)。
第5 証拠(省略)
第6 当裁判所の判断
1 審決の理由中、本件商標と引用商標の各構成及び指定商品の認定、両商標がそ
の外観において明確に区別できるものであること、本件商標は造語であって特定の
観念を生じないが、引用商標からは業界で著名な原告会社の観念を生じ(その他に
「自動車、オートバイの技術練習場」との観念が生ずることには争いがある。)、
本件商標から「テクスシム」又は「テックスシム」の称呼が生じ、引用商標の称呼
が「テック」であることは、いずれも当事者間に争いがない。
2 本件商標「TEX-SIM」は、別紙1のとおり、「TEX」と「SIM」の
欧文字がハイフンにより結合されて一体として横書きされ、その前半部と後半部
は、いずれも同書体の3文字の欧文字により構成される比較的短いものであり、ど
ちらか一方が強調されることなく左右がバランスよく配置されており、その外観
上、「TEX」の部分が特に強調される態様のものではないと認められる。また、
その商標全体から自然に生ずる称呼である「テクスシム」又は「テックスシム」
は、5音又は促音を含めても6音により構成され、いずれも特に冗長であったり発
音が困難であるとは認められない。
 以上のように、本件商標は、全体として統一のとれたバランスのよい比較的短い
ものであり、その全体から生ずる称呼は冗長なものではないから、これに接する一
般の需要者・取引者は、その商標全体を一連のものとして称呼するものが自然なこ
とであると認められる。
 原告は、本件商標のようなハイフンで結合された商標は、シリーズものに採択さ
れることが多いと主張するが、このことが取引社会一般ないしは本件商標の指定商
品である第11類「電子応用機械器具(医療機械器具に属するものを除く。)その
他本類に属する商品」及びその類似の商品の取引社会における慣行と認めるに足り
る証拠はなく、また、前示本件商標の構成からみて、「TEX」の部分がハイフン
で結合された本件商標の構成における前半部分であることから直ちに、後半部分で
ある「SIM」よりも重要視される部分と一概にいうこともできず、その他本件全
証拠によっても、本件商標において「TEX」の部分のみが強調されて独立した称
呼を生ずるような特段の事情を認めることはできない。したがって、本件商標にお
ける代表的出所標識は「TEX」の部分であるとの原告の主張は採用できない。
 そうすると、本件商標からは、「テクスシム」又は「テックスシム」の称呼のみ
が生ずるものであって、これが講成音数を異にする引用商標の称呼「テック」と相
違することは明らかであって、本件商標から「テックス」の称呼が生ずることを前
提とした原告の主張は理由がない。しかも、前示のとおり、本件商標と引用商標が
外観において明確に区別されること、本件商標から特定の観念が生じない以上本件
商標と引用商標とが観念において同一又は類似するといえないことを併せ考慮する
と、本件商標と引用商標とは、その全体的観察において、互いに紛れるおそれのな
い非類似の商標というべきである。
 したがって、本件商標は、商標法4条1項11号の規定に違反してなされたもの
ではないから、同法46条の規定により無効とすることはできないとした審決の判
断(審決書15頁13~16行)は正当であって、他の審決を取り消すべき瑕疵は
ない。
3 よって、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費
用の負担につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとお
り判決する。
(裁判官 牧野利秋 石原直樹 清水節)
<33533-001>
<33533-002>

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛