弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役参月に処する。
     この裁判確定の日から参年間右刑の執行を猶予する。
     訴訟費用は全部被告人の負担とする。
         理    由
 本件控訴の趣旨は横浜地方検察庁検察官検事田中良人名義の控訴趣意書と題する
書面に記載されたとおりであるから。ここにこれを引用し、これに対し次のように
判断する。
 所論により本件記録を調査し、本件の事実関係につき検討するに、押収にかかる
証明願一通再交付申請理由書二通及び登録証明書引替申請書二通(昭和二八年押第
七〇五号の一乃至三)及び原審における証人A、B並びに被告人の各供述、検察官
並びに司法警察員に対する被告人の各供述調書の記載を綜合すれば、被告人は昭和
二十二年外国人登録令による登録が初めて施行された際、当時朝鮮に引揚げていた
弟C、D等が再び日本内地に来る場合を予想し、いずれも被告人自身の写真を添え
て、被告人の本名であるE名義の外F、Gの名義を以て合計三通の登録証明書の交
付を受け、同年末頃弟Cが内地に帰来した際G名義の登録証明書を同人に与え、次
いで昭和二十五年前記登録証明書の有効期間満了による再交付が行われた際、又も
被告人自身の写真を添えてE及びF名義の二通の登録証明書の交付を受けていたの
であるが、昭和二十七年六月頃被告人の弟Dが内地に密航し下関において逮捕され
た際、Eの名義を冒用して被告人に便りを寄せたので、被告人は前記E名義の登録
証明書を持つて大村収容所に行き、右証明書を弟の登録証明書であるといつて、D
の釈放方を劃策したが、同人が既に密航を自白していた為その目的を達せず、その
上E名義の前記登録証明書を没収されるに至つた。その後昭和二十七年九月乃至十
月亘り、外国人登録法施行による新登録証明書の交付が行われることになつたの
で、被告人は前記F名義の登録証明書に自己の写真(眼鏡をかけたもの)を添え同
年十月二十三日頃横浜市港北区長に対し同名義による自己の登録証明書の交付申請
をなし、その頃右証明書の交付を受けた上、更にE名義の登録証明書をも再交付を
受けようと企て、同月二十六日頃横浜市神奈川警察署に右証明書の紛失届を提出
し、同月二十八日頃その証明書の交付を受けた上、同日頃前記区役所において当該
係員に同区長宛の紛失届、同証明書並びこ自己の写真(眼鏡をかけていないもの)
を添えて前同名義による自己の登録証明書の交付を請求したが、Eの原簿は大村収
容所から送還通知により既に閉鎖されていたため当該係員に怪まれてその目的を達
しなかつたものであることが認められる。 以上の事実に徴するときは、被告人
は、昭和二十二年外国人登録令による登録施行当時より自己の本名たるE名義の外
F等の名義を以て登録証明書の重複交付を受けていたのを奇貨とし昭和二十七年九
月より十月に亘り施行された新登録証明書の交付に当り、F名義による自己の登録
を申請し、その登録証明書の<要旨第一>交付を受けた後更に前記の如く自己の本名
であるE名義による登録を申請したものであつて、この様に本名又は本
名以外の氏名を以て登録を申請したものが更に右と異る本名その他の氏名を以て重
ねて自己の登録を申請した場合においても外国人登録法第十一条第五項により準用
される同法第三条第六項にいわゆる重ねて申<要旨第二>請をした場合に該当するも
のと解するのが相当であつて、右申請の一方又は双方が同法第十八条第一項第二
にいわゆる虚偽の申請にあたるか否かは本条の犯罪の成否に消長を及
ぼすものではないと云うべきである。(又同条にいわゆる重ねて申請をするとは本
件のように申請書類を当該係員に提出するを以て足りそれが適法な書類として受理
せられなかつた場合でも申請をした場合こ該当すると解するのが相当である)。
 しかるに原審は右条項は同一人が自己名義で重ねて申請することを禁ずる趣旨で
あつて、本件のように同一人が異つた名義で申請をした場合は右条項に該当しない
との見解の下に本件について無罪の言渡をしたのは法令の解釈適用を誤つたもので
あつて、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、検察官の本件控訴
は理由があり、原判決は破棄を免れない。
 よつて刑事訴訟法第三百九十七条第四百条但書により原判決を破棄し、当裁判所
において更に判決をすることとする。
 案ずるに被告人は朝鮮人で外国人登録法所定の外国人に該当するものであるが、
昭和二十七年十月二十三日頃横浜市港北区長に対しF名義の旧外国人登録証明書を
返納し、同名義による自己の登録証明書の交付の申請をしたのにかかわらず、同月
二十八日頃更に同区長に対しE名義の旧登録証明書の紛失届を添えて重ねて同名義
による自己の登録証明書の交付の申請をしたものであつて、右事実は前掲各証拠を
綜合してこれを認定する。
 法律に照らすと被告人の所為は外国人登録法第十八条第一項第四号第十一条第五
項第三条第六項同法附則第八項に該当するので、所定刑中懲役刑を選択しその刑期
範囲内で被告人を懲役三月に処し諸般の情状に鑑み刑法第二十五条を適用してこの
裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予すべく、訴訟費用の負担につき刑事訴訟
法第百八十一条第一項本文を適用し、主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 谷中董 判事 荒川省三 判事 脇田忠)

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