弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告理由第一点について。
 原判決は、本件代金額の協定に関する約定は、時価そのものによつて代金を決定
するというのではなく、時価を標準として被上告人、上告人双方協議の上決定する
という趣旨であり、従つて右売買契約はその内容の最も主要な代金額につき当事者
の協議がととのわない以上(本件で協議がととのわなかつたことは当事者間に争が
ない。その代金の定めがなかつたと同様の結果となり売買契約としての効力を生じ
なかつたものである、と判示している。そしてなお原判決は、第一審判決の理由を
引用しており、第一審判決の理由においては、昭和二五年一一月上旬の木炭卸売業
者の時価による購入価格(東京都内各駅レール渡価格)により代金を決定するとい
うのではなくして、右価格を標準として被上告人、上告人折衝の上決定するのであ
つて、右時価から直ちに代金を決定することを得ず、もし双方の主張(もちろん時
価を標準として)が一致をみない以上、本件契約代金は決定し得ないものである趣
旨のことが認められる、と判示している。さらに第一審判決の理由においては、「
そうとすれば、本件契約は、その代金について結局において確定し又は確定し得べ
き約定がなかつたというの外なく、したがつて右契約は代金の決定につき原被告間
に協議が調わない以上は、未だに売買契約としては成立していないものと言わざる
を得ない」と判示している。
 原判決は、本件契約の趣旨をかように解し、当事者間に協議が調わない以上は、
未だ売買契約として成立していないものと判断しているから、本件売買契約が有効
に成立していることを前提とする所論は拒否せられていることは明らかであつて、
この点について判断の遺脱があるものということはできない。殊に原判決は後半に
おいて、所論の点につき、被上告人が価格協定に応じなかつたからとて、これを理
由として売買契約の無効を主張し、手附金の返還を求める被上告人の請求を信義誠
実の原則に反し許すべからざるものとするのは当を得ない主張である、と判断し、
その理由を示しているのであるから、上告人の抗弁は全体として排斥されているこ
とは明らかである。それ故、判断遺脱の所論は理由がなく、従つて違憲の主張は前
提を欠き上告理由としては不適法である。
 同第三点は、判例違反をいうが、原判決は被上告人が「本件手附金を放棄したと
の事実はこれを認めることのできるなんらの証拠もない」と判示しているだけで、
所論のように、「手附金の放棄には必ず明示の意思表示を要するが如く説明し」た
ものではないから、原判決は引用の大審院判例に違反するとの論旨は採ることをえ
ない。
 その余の論旨はすべて「最高裁判所における民事上告事件の審判の特例に関する
法律」(昭和二五年五月四日法律一三八号)一号ないし三号のいずれにも該当せず、
又同法にいわゆる「法令の解釈に関する重要な主張を含む」ものと認められない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    真   野       毅
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    下 飯 坂   潤   夫

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