弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
原判決を破棄する。
被上告人の控訴を棄却する。
控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。
理由
上告代理人太田真美の上告受理申立て理由について
1本件は,平成19年8月29日に破産手続開始の決定を受けたA(以下「破
産会社」という。)の従業員らの同年7月分の給料債権(以下「本件給料債権」と
いう。)を同社のために弁済した上告人が,上記従業員らに代位して,同社の破産
管財人である被上告人に対し,破産手続によらないで,本件給料債権の支払を求め
る事案である。
2原審は,次のとおり判断し,上告人の請求を認容した第1審判決を取り消し
て,本件訴えを却下した。
(1)破産法149条1項所定の使用人の給料の請求権は,労働者の当面の生活
維持のために必要不可欠のものであって確実に弁済されるのが望ましいことから,
労働債権の保護という政策目的に基づき創設された財団債権であり,これが代位弁
済された場合,上記政策目的は達成されたことになる。弁済による代位により上記
請求権を取得した者が破産手続によらないで上記請求権を行使することができると
解することは,上記政策目的を超えて他の破産債権者に不利益を及ぼすことにな
り,相当でない。
(2)そもそも,弁済による代位により代位弁済者が取得する債権者の債務者に
対する債権(以下「原債権」という。)は,代位弁済者が債務者に対して取得する
求償権を確保することを目的として存在する付従的な性質を有し,求償権の存在,
その債権額と離れ,これと独立してその行使が認められるものではなく,求償権の
限度でのみその効力が認められるものである。そうすると,原債権によって確保さ
れるべき求償権が破産債権(破産法2条5項)にすぎない場合には,求償権に対し
付従性を有する原債権についても,求償権の限度でのみ効力を認めれば足り,破産
手続によらなければ,これを行使することはできない。
(3)したがって,上告人は,破産手続によらなければ,本件給料債権を行使す
ることができないというべきである。
3しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
弁済による代位の制度は,代位弁済者が債務者に対して取得する求償権を確保す
るために,法の規定により弁済によって消滅すべきはずの原債権及びその担保権を
代位弁済者に移転させ,代位弁済者がその求償権の範囲内で原債権及びその担保権
を行使することを認める制度であり(最高裁昭和55年(オ)第351号同59年
5月29日第三小法廷判決・民集38巻7号885頁,同昭和58年(オ)第88
1号同61年2月20日第一小法廷判決・民集40巻1号43頁参照),原債権を
求償権を確保するための一種の担保として機能させることをその趣旨とするもので
ある。この制度趣旨に鑑みれば,求償権を実体法上行使し得る限り,これを確保す
るために原債権を行使することができ,求償権の行使が倒産手続による制約を受け
るとしても,当該手続における原債権の行使自体が制約されていない以上,原債権
の行使が求償権と同様の制約を受けるものではないと解するのが相当である。そう
であれば,弁済による代位により財団債権を取得した者は,同人が破産者に対して
取得した求償権が破産債権にすぎない場合であっても,破産手続によらないで上記
財団債権を行使することができるというべきである。このように解したとしても,
他の破産債権者は,もともと原債権者による上記財団債権の行使を甘受せざるを得
ない立場にあったのであるから,不当に不利益を被るということはできない。以上
のことは,上記財団債権が労働債権であるとしても何ら異なるものではない。
したがって,上告人は,破産手続によらないで本件給料債権を行使することがで
きるというべきである。
4以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違
反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,原審の適法に確
定した事実関係によれば,上告人は,破産会社から破産手続開始前に委託を受けて
いたことから,平成19年8月21日,破産会社のために,本件給料債権合計23
7万7280円を弁済し,これと同時に従業員らの承諾を得て,従業員らに代位し
て本件給料債権の支払を求めているというのである。そうすると,上告人の請求に
は理由があり,第1審判決は結論において是認することができるから,被上告人の
控訴を棄却すべきである。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官田原睦
夫の補足意見がある。
裁判官田原睦夫の補足意見は,次のとおりである。
私は,法廷意見に与するものであるが,代位弁済に基づく求償権及び原債権と倒
産手続との関係について,従前下級審の裁判例が岐れ,また,学説においても種々
の見解が主張されていることに鑑み,以下のとおり補足意見を述べる。
1代位弁済に基づく求償権と原債権との関係に関する従前の判例法理について
債権が第三者により代位弁済がなされた場合に代位弁済者が取得する求償権と原
債権との関係については,法廷意見が引用する2件の判例によって,①弁済による
代位の制度は,代位弁済者が債務者に対して取得する求償権を確保するために,弁
済によって消滅するはずの原債権及びその担保権を法の規定により代位弁済者に移
転させるものであり,②代位弁済者に移転した原債権及びその担保権は,求償権を
確保することを目的とする附従的性質を有する,との判例法理が確立された。
本件に関する求償権及び原債権と倒産手続との関係についての見解の対立は,上
記判例法理をいかに解するかに関連するものであるので,法廷意見を支持する立場
から,上記の判例法理に関して私の理解するところを以下に述べる。
(1)「求償権を確保するため」の意義について
判例法理のいう「求償権を確保するため」の意義について,学説上種々の見解が
説かれているが,私は,法廷意見が述べるように,原債権を「求償権を確保するた
め」の一種の担保として機能させることを意味すると解するのが相当であると考え
る。
代位弁済者の「求償権を確保するため」とは,「求償権の回収を確実ならしめる
ため」を意味するものと解されるのであり,その実質は,原債権を求償権者に法律
上当然に移転させることによって,原債権をして求償権に対する担保的機能を果た
させようとするものであると言える。
その担保的機能としてどのような内容を有しているかについて,上記判例法理を
踏まえた上で,原債権の保証や時効と求償権との関係等個別の論点について論じら
れてきた支配的見解を基に考察すると,原債権の移転による担保的機能とは,求償
権確保のために原債権が譲渡担保の目的として求償権者に移転したのと同様の関係
に立つと解するのが,両債権の関係を説明する上で最も理解しやすいと考えられ
る。
以下,そのような理解を前提に,求償権と原債権との主な関係についてみてみ
る。
ア求償権と原債権とは別個の債権である。それゆえ,求償権と原債権とは以下
のような関係になる。
①原債権自体が求償権者に移転するのであるから,原債権それ自体の有する性
質は,求償権者に移転することによって変化することはない。すなわち,原債権が
一般の先取特権等優先権のある債権や,他の債権に後れてのみ行使が認められる劣
後債権であるときは,原債権が求償権者に移転しても,その債権の性質が変化する
ことはなく,求償権者は原債権の性質に従って原債権を行使することになる(な
お,租税債権のごとく,弁済による代位自体がその債権の性質上生じない場合は別
である。)。
②求償権と原債権とは,それぞれ別個に時効が進行する。
③求償権者が原債権を行使する場合,債務者は原債権に対する抗弁を主張する
ことができる。
イ原債権は,求償権の確保のために移転するのであるから,求償権者が原債権
を行使する場合において,債務者は,求償権に対する抗弁を主張することができ
る。
ウ原債権の保証人は,原債権が担保目的とはいえ求償権者に移転するのである
から,求償権者が原債権を行使し得る限り,保証責任を追及される関係に立つ。
エ原債権のために設定された担保権は,原債権が担保目的とはいえ求償権者に
移転するのであるから,その随伴性により当然に求償権者に移転する。求償権者
は,担保権設定者に対して,その移転に伴う対抗要件の具備を請求することができ
る。
また,求償権者は,原債権を行使することができる場合には,原債権のために設
定された担保権を実行することができる。
(2)原債権が「附従的性質」を有するとの意義について
判例法理にいう附従的性質の意義について,次のように理解することができると
考える。
①求償権が消滅すれば,当然に原債権も消滅する。
②求償権につき,期限の猶予が与えられるなど,その弁済期が未到来の場合
は,原債権の弁済期が到来していても,原債権を行使することはできない。
③債務者との関係で,求償権不行使特約や他の債権に劣後して行使する旨の劣
後特約が締結されている場合などには,原債権それ自体に何らの制約が課されてい
なくても原債権を行使することができない。
2倒産手続における求償権と原債権との関係について
倒産手続において求償権を行使するに当たっては,求償権者は破産法104条,
民事再生法86条2項,会社更生法135条2項の基本的規律の下にその権利の行
使が認められるが,求償権とともに原債権をも行使することができる場合の両債権
の関係は,以下のとおりになると解される。
(1)求償権者は,求償権と原債権の双方の債権につき倒産手続に参加(債権届
出)することができる。その場合,両債権が重複する限度ではその一方の行使しか
認められないが,求償権の額が原債権の額を上回るとき(多くの場合,遅延損害金
の利率は求償権の方が原債権よりも高い。)には,その上回る範囲で求償権を行使
することができる。また,原債権が倒産手続上の優先債権であるときは,求償権者
は原債権の優先債権としての権利を行使することができる。
(2)求償権者が債権届出をしていなくても,原債権の債権届出がなされている
ときは,求償権者が破産法104条(及び民事再生法,会社更生法で準用する場
合)の要件を満たす限り,求償権者は原債権の届出名義の変更(破産法113条1
項,民事再生法96条,会社更生法141条)をすることができるが,これは譲渡
担保権の行使に類するものとしての届出名義の変更と理解することができる。
(3)求償権が,倒産手続による制約を受けて倒産手続によってのみその行使が
認められる場合であっても,原債権は求償権確保のための譲渡担保に類するもので
あるから,倒産手続上,原債権を上記制約を受けることなく行使することが認めら
れるか否かを検討する必要がある。
そして,原債権が財団債権や共益債権である場合には,それらの債権は倒産手続
による制約を受けることなく行使することができるから,求償権自体の行使が倒産
手続による制約を受けても,原債権を行使することができ,求償権は原債権の行使
によって満足を得る限度でその行使が制約されることになる。
次に,原債権が実体法上優先権のある債権である場合には,破産手続及び会社更
生手続では,優先債権であっても,その行使は各手続による制約を受けるから各手
続に参加する必要があるが,民事再生手続では,優先債権については再生手続によ
る制約が存しないから自由に行使することができる。
なお,原債権につき担保権が設定されている場合には,破産手続や民事再生手続
では別除権として行使でき,それによって満足を受けることができない限度で各手
続に参加できること,会社更生手続では更生担保権として手続に参加できることは
いうまでもない。
3結論
以上述べたとおり,弁済による代位により求償権者に移転する原債権と求償権と
の関係は,求償権を担保するべく原債権が移転するもので,その移転の法的構成
は,譲渡担保に類するものと解されるのである。
以上よりすれば,財団債権たる性質を有する未払賃金債権を代位弁済した上告人
は,破産手続による制約を受けることなく原債権それ自体を行使し得るのであっ
て,それを否定した原判決は破棄を免れないものというべきである。
(裁判長裁判官岡部喜代子裁判官那須弘平裁判官田原睦夫裁判官
大谷剛彦裁判官寺田逸郎)

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