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裁判例


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       主   文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
       事   実
第一 請求の趣旨
一 被告新宿郵便局長(以下「被告局長」という。)が昭和四七年三月一八日付で
原告に対してした免職処分(以下「本件処分」という。)を取り消す。
二 被告国は原告に対し、昭和四七年三月一九日から昭和四九年九月五日まで、毎
月一七日限り金五〇、八〇〇円を支払え。
三 訴訟費用は被告らの負担とする。
四 第二項につき仮執行宣言
第二 請求の趣旨に対する答弁
一 主文同旨
二 担保を条件とする仮執行免脱宣言
第三 請求原因
一 原告は昭和四六年九月一日任期を六か月とする臨時補充員(国家公務員法ー以
下「国公法」という。ー第六〇条にいう臨時的任用の職員である。)として採用さ
れ、同日から同年一一月一三日まで新宿郵便局(以下に述べるところは同局に関す
るものであるから、この点は特に明示しない。)第二集配課に勤務し、その間同年
一〇月二七日以降は名古屋郵政研修所兼務となり、同研修所において初等部前期訓
練を受け、そして、右訓練の修了をもつて郵政省職員採用試験(同法第三六条にい
う選考にあたる。)に合格したものとして、同年一一月一四日には事務員(同法第
二条にいう一般職の職員である。)として採用となり、以後引き続き同課に勤務し
ていた。
二 被告局長は条件付採用期間中である昭和四七年三月一八日付で原告に対し、人
事院規則(以下「人規」という。)一一ー四(職員の身分保障)第九条により本件
処分をした。
三 本件処分は、労働基準法(以下「労基法」という。)第二〇条第一項所定の予
告もなく、また、その処分事由もないのになされたものであるから、違法として取
り消されるべきものである。
四 原告は本件処分当時被告国から、毎月一七日に、俸給として月額金四八、六〇
〇円、勤務地手当として月額金二、二〇〇円、合計月額金五〇、八〇〇円の給与支
給を受けていた。
五 よつて、原告は被告局長に対し、本件処分の取消しを求めるとともに、被告国
に対し、昭和四七年三月一九日から本件口頭弁論終結日である昭和四九年九月五日
まで、毎月一七日限り金五〇、八〇〇円の給与の支払いを求める。
第四 請求原因に対する認否
一 第一および第二項の事実は認める。
二 第三項は争う。
 条件付採用期間中の職員に対する免職処分については、本来労基法第二〇条第一
項所定の予告をする必要はないと解される。仮に、その必要があると解されるとし
ても、そのような手続上の瑕疵は免職処分自体の違法をきたすことはないと解され
る。のみならず、本件処分については後述のとおりその予告がなされている。ま
た、本件処分の理由も後述のとおりである。したがつて、本件処分に違法はない。
三 第四および第五項は争う。
 本件処分は行政処分として、当然無効と認められる場合を除き、公定力を有す
る。したがつて、本件処分は後述のとおり適法であるが、仮に原告主張のとおり本
来違法として取り消されるべきものであるとしても、それが被告局長の職権により
あるいは一定の争訟手続によつて取り消されない限り、原告は事務員としての身分
を有することを前提として被告国に対し給与の支払いを請求することはできないの
であつて、本訴請求のうち被告国に対し給与の支払いを求める部分はそれ自体失当
である。
第五 抗弁
 本件処分は、次のような手続ならびに理由によりなされたものであつて、適法で
ある。
一 本件処分の予告
(一) 被告局長はA庶務課長を通じ昭和四七年二月八日原告に対し本件処分の予
告をした。
(二) 仮に、右(一)の事実が認められないため本件処分が違法になるとして
も、労基法第二〇条第一項の趣旨からして、本件処分はその発令日から三〇日を経
過した昭和四七年四月一八日には有効に効力を生じたというべきである。
二 本件処分理由
(一) 書留の配達事務処理とその過誤
1 書留の配達事務処理
 原告は事務員として第二集配課に勤務していた間においてはもとより、臨時補充
員として同課に勤務していた間においても、ほとんど大口集配区(郵便物が多数到
着する会社、事業所等のみを対象とする集配区であつて、これに対し個人等その他
を対象とする集配区を通常集配区という。)の一つである大口第一区における普通
通常郵便物(以下「普通郵便物」という。)ならびに書留通常郵便物(以下「書
留」という。)の配達事務に従事していたのであるが、大口第一区における書留の
配達事務処理は次のとおりなされていた。すなわち、(イ)当日配達すべき書留
は、普通郵便物の配達準備を完了した時点で主事席において、その宛て先、通数等
を確認(これを査数確認という。)のうえ、書留持出票(これには当日配達すべき
書留の持出数が記載されている。)に受領印を押して受領し、配達に出る、(ロ)
書留を宛て先に配達した際には、書留配達証(以下「配達証」という。)に受取人
の受領印を徴してその授受を確認する、(ハ)配達を終了して帰局した後は、持ち
戻つた書留と配達したそれにつき査数確認して主事に報告し、持ち戻つた書留を返
納して配達事務を終了する、というものであつた。
2 書留の配達事務処理の過誤
 原告は、次のとおり、再三にわたる上司の指示、注意にもかかわらず書留の正規
な配達事務処理を怠り、業務の正常な運営に多大の支障を与えた。
(1) 原告は昭和四六年一二月九日午後三時四〇分ころ、ロツテ商事に配達した
書留のうちの二通について配達証の受領を忘れて帰局したうえ、B第二集配課主事
に対し、翌日受領に出向く旨申し出で、同主事から、その日のうちに配達証を受け
取つてくるよう命じられて、ようやくその受領に出掛けた。
 なお、原告はその前日の同月八日にも右同様の過誤があり、C同課主事から注意
を受けていた。
(2) B主事は、右(1)の経緯に照らし、同月一五日午前一〇時一五分ころ配
達に出発しようとしていた原告に対し、書留について配達証の受領を忘れないよ
う、また通数を記録しておくよう注意した。それなのに、原告はこの注意に従うこ
となく配達に出掛け、ロツテ商事宛て書留の通数を記録しておかなかつたので教え
て欲しい旨後刻電話で連絡してきた。
(3) 原告は同月一六日、早稲田大学理工学部宛て書留七通を普通郵便物と区別
せずに一緒に配達して、右書留七通の配達証を受け取らずに帰局したばかりでな
く、書留の査数確認をせず、上司の点検も受けずに帰宅した。
(4) 原告は同月二三日午前一〇時二〇分ころ、他の者に監視を頼むことなく、
局舎一階伝送発着口付近の台車の上に書留を置いたまま一時その場を離れ、これを
発見したC主事から注意を受けた。
(5) 原告は昭和四七年一月一八日、洋書販売店宛て書留七通を普通郵便物と区
別せずに一緒に配達して、右書留七通の配達証を受け取らずに帰局したばかりでな
く、書留の査数確認をせず、上司の点検も受けずに帰宅した。そのため、原告は翌
一九日C主事から、「再三注意されているのにまた忘れるようでは困る。」等と注
意された。
(6) 原告は同年二月二日、同日配達すべく交付を受けたロツテ商事宛て速達書
留五通を主事席前に置いたまま配達に出掛けようとし、D第二集配課長代理から注
意を受けた。
(7) 原告は同年三月八日、同日配達すべき洋書販売店宛て書留二六通を主事席
前に置いたまま配達に出発したため、帰局後E第二集配課副課長から、「書留郵便
物の授受について再三再四注意を受けているのに、何時も同じ過ちを繰り返してい
る。」等と注意された。原告は改めて右書留二六通の配達を命じられたのでその配
達に出掛けたが、今度は配達証を持たずに出掛け、受領の確証がないままこれを配
達して帰局した。
(二) 就労遅延、職場離脱等
1 原告は、通常集配区における通区訓練(集配区における作業を習得するための
訓練である。)のため、昭和四七年一月二四日から通配第五五区に配置され、同月
二五日は同区担当のF事務官から指導、訓練を受けたのであるが、同日作業着手時
に同事務官から郵便課に郵便物を受領しに行くようあらかじめ指示されていたのに
これに従わず、また、郵便物を区分し易いように大型のものと小型のものとに分け
るよう指示されてもこれに従わなかつたばかりか、大口郵便物のは束を指示された
際にはこれを無視して自席を離れ、通配第五七区の作業場所付近の郵便物整理台に
腰掛けて六分間位他の職員と雑談する等した。そこで、原告の所属する班の班長
(統括責任者)であるGは原告に対し、先輩の指導、指示に従うよう指導、注意し
た。これに対し原告は、「いちいち言われなくても分かつている。」「そんな細か
いことまで言うのか、驚いた。」「何も指示されないからだ。」等と言つて反抗的
態度を示し、最後には「俺の話はもう終つた。」と言い捨て、指導を続けようとす
るG班長の制止を無視して午前九時五分ころ集配事務室から立ち去り、所定勤務終
了時刻である午後四時五分に至るまで、休憩時間四五分を除いて六時間一五分位に
わたり職場を放棄して勤務を欠いた。また、その間午前九時三〇分ころ原告からE
副課長に局外より電話があつたので、同副課長は原告に対し、すぐに帰局するよう
命じたのであるが、原告は、「こんな気分じや仕事ができない。」「班を変えて欲
しい。」等と言つて、これにも応じようとはしなかつた。H第二集配課長とE副課
長は翌二六日原告に対し厳重に訓戒を与えたが、原告には反省の色がなかつた。
 なお、原告は、この同月二五日の件について、同年二月一日I局長から、国公法
第八二条により戒告処分を受けた。
2 原告は同年一月三一日、昼の休憩時間を利用して局外の歯医者へ行つたが、上
司に届け出ることなく作業再開時刻の午後一時一三分を過ぎても職場に戻らず、午
後一時二〇分まで七分間勤務を欠いた。
3 原告は同年三月八日午後三時ころ配達事務を終えて帰局したが、その後午後三
時三四分ころまで上司に無断で離席した。そこで、E副課長は原告に対しこれを問
責したが、原告は、「歯医者へ行つて、風呂に入つてきた。」等と答え、何ら反省
の態度を見せなかつた。
(三) 勤務態度
1 原告は昭和四七年三月一日午前八時一〇分ころ局舎二階のエレベーター前にお
いて、三輪車上に置いてあつた空のフアイバー(郵便物を入れる容器である。)を
目の高さ位まで持ち上げてエレベーターの方に向けて投げ出し、これを目撃した局
内巡視中のI局長から、「J君、フアイバーがこわれるではないか。もつと丁寧に
扱いなさい。」等と注意されても、これを無視して無言のまま右三輪車を押しなが
ら立ち去り、何ら反省の様子もなかつた。
2 原告は同月八日午前八時七分ころ、両手をズボンのポケツトに突つ込んだまま
第二郵便課配達区分事務室内をぶらぶら歩いていたので、E副課長から、「きちん
とした態度で仕事をしなさい。」等と注意を受けたが、これに従わず無言のまま立
ち去つた。
3 原告は同月九日、局側から貸与されている作業シヤツでない紅色のワイシヤツ
を着用して作業につき、午前八時三〇分ころH課長から、「貸与されているワイシ
ヤツを着て作業しなさい。」等と注意された。これに対し原告は、「洗濯屋に出し
ている。」等と答え、反省の色を見せなかつた。
4 原告は同月一一日午前八時二〇分ころ、大口第一区の郵便物の大区分作業を腰
掛けてしていた。そこで、H課長は、原告が前日の一〇日にもこれと同じ作業の仕
方をしてE副課長から注意を受けていたという経緯があつたので、「先日副課長か
ら大区分作業は立つてやるよう指導されているはずだが、駄目じやないか。」等と
注意した。すると、原告は、「今日は気分が悪いから、坐つてやるのだ。」等と答
え、終始反抗的態度をとつていた。
(四) 配達態度
 原告の郵便物配達態度は、配達先等からの次のような申告にあるとおりの、粗暴
で投げやり的なものであつた。
1 昭和四七年三月八日社会保険事務所守衛のKからG班長に対し、同日の原告の
郵便物配態態度につき次のような申告があり、H課長に対しても同趣旨の申告があ
つた。G班長に対する申告の内容は、「郵便物を配達の際机上へ置かずに給食箱の
上へ放り投げたため、弁当がひつくり返つてしまつた。呼んで注意しようとしたが
謝罪もせずに行つてしまつた。郵便局の仕事は忙しいと理解しているが、済みませ
ん、位言つてもいいし、彼の場合はそれが常態であるので厳重に注意されたい。」
というものであつた。
 H課長は同日原告に対し、右のとおり申告があつたことにつき厳重に注意した
が、原告は、「謝つたが聞こえなかつたのだろう。」「急いでいたから。」等と言
つて、反省の態度を示さなかつた。また、同課長は翌九日原告に対し、謝罪してく
るよう指示したが、原告は同課長をにらみつける等して反抗的態度をとつた。
2 同月一〇日L第二集配課主任に対しその部下職員から、原告が同月八日松田ビ
ルへ郵便物を配達した際、郵便物を足蹴りして郵便受箱に入れた旨の申告があつ
た。そこで、H課長は同月一一日原告に対しこのことについて注意を与えたとこ
ろ、原告は、「証拠がない。」「誰がそんなことを言つたか。」等と言つて、反抗
的言動におよび、一向反省する様子がなかつた。
3 同月一一日アゼリア東広ビル管理人のMと東京金属保険会館管理人のNから、
原告の郵便物配達態度につきそれぞれ次のような申告があつた。Mからの申告の内
容は、「Jという人は配達の際管理人室入口ドアをノツクせず、入口右側長椅子の
上に郵便物を投げてゆくし、ある日はいきなり入つてきて、大口郵便物を長椅子の
上に投げたため、ストーブが倒れて大変なこともありました。また、毎日の配達の
際、前日の誤配郵便物を持ち帰つていただくようお願いすると、無視して行つてし
まうし、常に反抗的で全く困つております。」というものであり、Nからの申告の
内容は、「サンダル、無帽、ノーネクタイで郵便物を地下一階の受付窓口に放り投
げてゆくので全く困つています。投げ方によつてはガラスが破損、カウンターの下
に大口郵便物が落ちるので、そのため中の人に当たり怪我でもしたら大変です。私
はアルバイトさんと思つていたので、そのうち本務者が配達にきたら聞くつもりで
おりました。局長さんは被服着用について注意、指導しておるのでしようか。」と
いうものであつた。
(五) 適格性の欠如
1 原告は臨時補充員として第二集配課に勤務するようになつて以降、次のとおり
指導、訓練を受けてきた。すなわち、原告は昭和四六年九月一日と二日の両日には
A課長等から、国家公務員たる郵政省職員としての心得を理解させることを目的と
して実施されたところの、郵政省の業務の概要、職員としての心構え、明るい職場
作り、勤務時間等を内容とする新規採用時職場訓練を受けた。また、原告は同月三
日と四日の両日にはH課長等から、第二集配課において担当する職務に必要な心
得、業務知識、技能等の習得等を目的として実施された、集配従事員としてのあり
方、集配業務の概要、服務規律、就業規則、事故犯罪の防止、大口集配区の郵便物
の取扱い方法やその配達方法、郵便物配達先に対する接遇等を内容とする郵便職場
訓練を受けた。そして、原告は同月四日(但し、午後のみ。)、六日、七日の三日
間には、大口第一区担当者と軽四輪車に同乗して、配達道順の教示を受けるととも
に書留の授受等について見習い、同月八日から同月二〇日までの間には大口第一区
の一部の郵便物を実際に配達して実地訓練を受け、さらに同年一〇月二七日から同
年一一月一三日までの間には名古屋郵政研修所において初等部前期訓練を受けたほ
か、日常的には朝礼、暮礼、ミーテイング、班別会議、業務研究会等を通じて業務
上必要な指導を受けたり、上司から必要の都度具体的作業について個別的指導を受
けてきた。
2 原告は右1のとおり指導、訓練を受けてきたのに、その勤務実績をみると右
(一)2および(二)ないし(四)のとおりであつた。そして、右(一)2の書留
の配達事務処理の過誤は、原告の勤務に対する熱意、集中力、責任感の著しい欠如
を示し、右(二)の就労遅延、職場離脱等や(三)の勤務態度は規律性、勤勉性、
責任感の欠如を示すものである。また、右(四)の配達態度は、原告が全体の奉仕
者たる国家公務員にとつて決定的ともいうべき欠陥を有していることを示してい
る。それに、これらの欠陥等は、上司による指導、注意等とこれに対する原告の言
動等からして、容易に矯正できるものではないと判断される。したがつて、原告は
条件付採用の期間その職務を良好な成績で遂行したとはいえず、その素質、性格、
能力等からして、郵政省事務員としての適格性を有しないと認められるのである。
第六 抗弁に対する認否
冒頭部分は争う。
一 本件処分の予告について
(一) (一)の事実は否認する。
 A課長は昭和四七年二月八日原告に対し、「君には来月やめてもらうことになつ
た。」と通告した。しかし、この通告は任命権者である被告局長の意思と無関係に
なされたものである。しかも、同課長は右通告の際原告に対し、「君の将来を考え
ると懲戒免職は不利なので、その前に退職しないか。」等と言つて、退職を強要し
ており、右通告はこのような退職の強要をともなう形で口頭によりなされている。
したがつて、右通告をもつて本件処分の適法な予告とみることはできない。
(二) (二)は争う。
二 本件処分理由について
(一) 書留の配達事務処理とその過誤について
1 書留の配達事務処理について
認める。
2 書留の配達事務処理の過誤について
 冒頭部分は争う。
(1) (1)の事実のうち、原告が配達した書留について配達証の受領を忘れて
帰局したことがあることは認める。その日時、配達証の受領を忘れた書留の配達先
と通数は不知。その余の事実は否認する。
 配達証の受領忘れは大口集配区における郵便物配達業務に従事している職員にと
つて日常多くあることであり、原告にだけ特に多いというのではない。また、この
ように配達証の受領忘れが多いということの原因は、大口集配区の場合取り扱う郵
便物が多いので、これを限られた時間内にすべて配達するためには各配達先での配
達作業を相当急いでやらなければならないうえ、各配達先ごとの郵便物も多いとい
うことにある。したがつて、原告に配達証の受領忘れがあつたとしても、それは必
ずしも原告の責に帰すべきものではない。
(2) (2)の事実のうち、原告が被告ら主張の日ころ配達先からB主事に対
し、書留の通数を確認するために電話をしたことがあることは認める。通数を確認
しようとしたその書留の宛て先は不知。その余の事実は否認する。
 大口集配区の場合は配達する書留の通数が多いので、配達途中で念のためその通
数の確認をしただけであつて、何ら問題とされるべきことではない。
(3) (3)の事実のうち、原告が早稲田大学理工学部に配達した書留について
配達証の受領を忘れて帰局したことがあることは認める。その日時、配達した書留
と配達証の受領を忘れた書留の通数は不知。その余の事実は否認する。
(4) (4)の事実は否認する。
 原告は被告ら主張のようなことをしたことはないが、被告ら主張のようなこと
は、極めて短時間のことであれば、他の職員の場合には一般に日常よくあることで
ある。
(5) (5)の事実のうち、原告が洋書販売店に配達した書留について配達証の
受領を忘れて帰局したことがあることは認める。その日時、配達した書留と配達証
の受領を忘れた書留の通数は不知。その余の事実は否認する。
(6) (6)の事実のうち、原告がロツテ商事宛て速達書留を主事席で受け取ら
ないまま配達に出掛けようとし、D課長代理から注意を受けたことがあることは認
める。その日時、速達書留の通数は不知。その余の事実は否認する。
 原告はただ右速達書留を主事席にて受け取らずに配達に出発しようとしただけの
ことであつて、仮にこのことにつき原告にミスがあるとしても、このようなことは
多量の郵便物を処理する配達事務担当職員にとつて日常ままある些細なことであ
る。
(7) (7)の事実のうち、原告が洋書販売店宛て書留二六通を主事席にて受け
取らないまま配達に出発し、帰局後E副課長から右書留二六通の配達を命じられた
ことは認める。その日時は不知。その余の事実は否認する。
(二) 就労遅延、職場離脱等について
1 1の事実のうち、原告が、通常集配区における通区訓練のため、昭和四七年一
月二四日から通配第五五区に配置され、同月二五日には同区担当のF事務官から指
導、訓練を受けたこと、原告が被告ら主張の時間就労せず、その主張の時刻にE副
課長に対し局外から電話をしたこと、原告が被告ら主張のとおり戒告処分を受けた
ことは認める。その余の事実は否認する。
 同月二五日の状況は、次のとおりである。すなわち、原告は所定始業時刻である
午前八時に通配第五五区の作業場所へ行つたところ、F事務官は既に郵便課へ郵便
物を取りに行つていて同所にはいなかつた。そして、同事務官は郵便課から戻る
と、受け取つてきた郵便物の区分作業(郵便物を配達地域別に区分する作業であ
る。なお、大口集配区の場合にはこのような作業はない。)を始めた。同事務官か
ら何の指示もなく、これまで通常集配区の区分作業について十分な実務指導、訓練
を受けたこともなければこのような作業を実地にしたこともなかつたし、区分作業
がその性質上一人でやる作業であつて勝手に手出しすることもできないものでもあ
つたので、原告はもつぱらその傍らで同事務官の作業の進め方を見ていたのであ
り、またそうするよりほかなかつた。原告はその間には通配第五七区で作業をして
いたOに、「今日は物が多いね。」と声を掛けたことがあつただけである。そのう
ち、午前八時三〇分頃F事務官から、郵便課から郵便物を受け取つてきて、その郵
便物の中から大型のものを抜き出すことと、同事務官が区分した郵便物のは束を指
示されたので、原告は、その指示どおり、郵便課から郵便物を受け取つてきて、そ
の郵便物の中から大型のものを抜き出したうえ、同事務官が区分した郵便物のは束
作業に取り掛つた。するとその時原告はG班長に呼ばれ、主事席前において同班長
から、「見習い中だというのに何だお前の態度は。お前は六分間ふてくされた態度
で机の上に坐つていたじやねえか。」等と厳しい口調で頭ごなしに一喝された。原
告は、同事務官の区分作業のやり方を見ていたのであつて、作業を怠つていたので
はないし、同事務官の指示に従つて郵便物のは束をしていたところである旨弁解し
た。しかし、同班長はこれにかえつて激昂し、「見習い中は厳しいんだぞ。うちの
班にはうちの班のやり方があるんだ。てめえ、この野郎、お前は俺に従えないとい
うのか。」等と言つて、大声で原告を罵倒した。新しい職場に配置され、仕事を覚
えるべく期待していたところ、通区訓練二日目で、十分な指導も受けていなかつた
のに、いきなり指導とは到底いえないような侮辱的言葉を他の職員の面前で浴びせ
られたので、原告は大きな精神的打撃を受けてすつかり意気消沈し、冷静に通区訓
練を受けることのできないような精神状態になつた。そのため、原告は被告ら主張
のとおりE副課長に電話をし、早退する旨連絡して帰宅したのである(但し、同副
課長から早退についての許可は出なかつた。)。したがつて、原告が被告ら主張の
時間就労しなかつたとしても、それは無理からぬことである。また、原告は右のと
おり就労しなかつたこと自体については自己の非を認めて十分反省し、翌二六日か
らは通常どおり就労し、被告ら主張のとおり戒告処分を受けた際には始末書も提出
している。
2 2の事実のうち、原告が作業再開時刻までに職場に戻れない旨上司に届け出な
かつたことは否認する。その余の事実は認める。
 原告は右趣旨の届け出を上司にしている。
3 3の事実は否認する。
 仮に、被告ら主張のとおりとしても、配達事務終了後所定勤務終了時刻までの間
は手すき時間と呼ばれ、配達事務終了後は所定勤務終了時刻前であつても退局する
のが局内における労働慣行であり、局側も職員に対し、配達事務終了後は直ちに退
局するよう指示している。したがつて、配達事務終了後の離席はそもそも問題とさ
れるべき性質のものではない。
(三) 勤務態度について
1 1の事実は否認する。
 原告は被告ら主張のようなフアイバーの取扱いをしたことはないが、被告ら主張
のようなフアイバーの取扱いは局内において一般的に行なわれていることである。
2 2の事実は否認する。
3 3の事実のうち、原告がH課長からの注意に対し反省の色を見せなかつたこと
は否認する。その余の事実は認める。原告は局側から貸与されていた作業シヤツを
洗濯屋に出していたので、私服を着て作業についていたのである。
4 4の事実のうち、原告が昭和四七年三月一〇日、大口第一区の郵便物の大区分
作業を腰掛けてしたことでE副課長から注意を受けたこと、原告がH課長からの注
意に対し終始反抗的態度をとつていたことは否認する。その余の事実は認める。
(四) 配達態度について
冒頭部分は争う。
1 1の事実のうち、被告ら主張の日にその主張の者からG班長およびH課長に対
し、その主張のとおりの内容の申告があつたことは不知。その余の事実は、昭和四
七年三月八日の原告の郵便物配達態度が被告ら主張の申告内容どおりであつたとの
点を除き、否認する。同日の原告の郵便物配達態度が被告ら主張の申告内容どおり
であつたとの点については、原告が社会保険事務所へ郵便物を配達した際、郵便物
が仕出しの空弁当箱に接触したため、右弁当箱がひつくり返つたことがあつたこと
は認めるが、その日時は不知、その余の事実は否認する。
 原告はひつくり返つた右弁当箱を直ちにもとどおりにしたうえ、「どうも済みま
せん。」と言つて謝つた。
2 2の事実のうち、被告ら主張の日にL主任に対しその部下職員からその主張の
とおりの内容の申告があつたことは不知。同月八日の原告の郵便物配達態度が被告
ら主張の申告内容どおりであつたこと等その余の事実は否認する。
3 3の事実のうち、被告ら主張の日にその主張の者らからその主張のとおりの内
容の申告があつたことは不知。原告の郵便物配達態度が被告ら主張の申告内容どお
りであつたことは否認する。
(五) 適格性の欠如について
1 1の事実のうち、昭和四六年九月三日と四日の両日に実施された郵便職場訓練
の内容に服務規律、就業規則、事故犯罪の防止が含まれていたこと、原告が同月六
日と七日の両日に被告ら主張のとおり配達道順の教示を受けたり、書留の授受等に
ついて見習つたこと、原告が同月八日から同月二〇日まで被告ら主張のとおり実地
訓練を受けたこと、原告が朝礼、暮礼、ミーテイング、班別会議、業務研究会等を
通じて業務上必要な指導を受けてきたことは否認する。その余の事実は認める。
 原告は同月一日、服務規律、就業規則、事故犯罪の防止について口頭による指導
を受けた。同月三日と四日の両日に実施された郵便職場訓練は短時間のものであつ
たし、訓練とはいうものの口頭による指導であつた。また、原告は同月五日から単
独で大口第一区の配達をやるようになつた。なお、名古屋郵政研修所における初等
部前期訓練では、原告は教科書による作業全般についての概括的な指導のほか、郵
便物の区分、は束等についての若干の実技的作業指導を受けたに過ぎない。
2 2は争う。
(1) 原告は、被告ら主張のとおり、昭和四七年二月一日に戒告処分を受けた
が、その処分理由とされているのは抗弁第二項(二)1の同年一月二五日の職場放
棄等の事実である。そして、右戒告処分以前の原告の勤務実績は、右戒告処分の際
において評価されているものと解される。そうだとすれば、被告らが原告の勤務実
績として主張する各事実のうち、右戒告処分の理由とされている抗弁第二項(二)
1の同日の職場放棄等の事実はもちろんのこと、右戒告処分以前の原告の勤務実績
に関する抗弁第二項(一)2(1)ないし(5)、同項(二)2の各事実をもつて
本件処分理由とするのは、二重処罰として許されない。
 また、被告ら主張のとおり同年二月八日に本件処分の予告がなされたとするなら
ば、同日までには本件処分についての意思決定がなされていることになる。そうだ
とすれば、本件処分の発令自体は同年三月一八日付でなされたとしても、同年二月
八日以降の原告の勤務実績に関する抗弁第二項(一)2(7)、同項(二)3、同
項(三)および(四)の各事実をもつて本件処分理由とすることも許されない。
(2) 被告らが原告の勤務実績として主張する各事実は、いずれも虚構である
か、全く問題となり得ないような些細なものばかりであるか、あるいは原告にその
責を帰すことのできないような性質のものであり、原告の郵政省事務員としての適
格性を判断するための対象とはなし得ないようなものである。また仮に、その判断
の対象となし得るような事実が認められるとしても、それは簡単に矯正することの
できないような持続性を有する素質、性格、能力等に起因するものではない。原告
のような郵便物集配業務等に従事する外務職員については、義務教育修了程度の知
識を持つていること、健全な身体を有していること、精神上の障害がないこと、郵
便物集配業務等に必要とされる程度の読解力と記憶力を有すること等の要件さえ備
えていれば、原則として外務職員としての適格性を欠くことはないというべきであ
る。そして、原告はもちろん右の要件を備えている。したがつて、原告が郵政省事
務員としての適格性を欠くことはない。原告が任期を六か月とする臨時補充員とし
て採用されながら、二か月足らずで名古屋郵政研修所兼務を命じられて同研修所で
初等部前期訓練を受け、右訓練の修了とともに事務員として採用されていること
は、その証左である。
第七 再抗弁
一 不当労働行為
 原告は昭和四七年一月二六日全逓信労働組合(以下「全逓」という。)に加入
し、その新宿支部に所属しているが、本件処分は、全逓ないしは同支部の組織、運
営に支配介入し、その組織を破壊することを目的として、原告が同支部所属の全逓
組合員であることの故になされたものであるから、不当労働行為として違法であ
る。
二 裁量権の濫用等
(一) 本件処分は原告に郵政省事務員として不適格であるとするような合理的理
由もないのになされたものである。また、昭和四七年二月八日にA課長から原告に
対し前述のような通告がなされるや、全逓新宿支部を中心として原告に対する支援
と局側に対する抗議の行動が起こり、この行動は次第に拡大するとともに郵政マル
生運動と呼ばれる郵政省の職員対策に対する批判へと転化しようとするに至つた。
本件処分はこの行動とその郵政マル生運動批判への転化を封じることを目的として
なされたものであつて、局側が右のような職員対策を率先して遂行したことによる
必然的結果にほかならない。それに、本件処分は、前述のとおり、全逓ないし同支
部の組織破壊を目的として、原告が同支部所属の全逓組合員であることの故になさ
れたものである。したがつて、本件処分は裁量権の行使を濫用したものとして違法
といわなければならない。
(二) 原告は前述のとおりの経過により事務員に採用されたのであるが、条件付
採用期間中の職員と条件付採用期間を経て正式採用となつた職員との間には、法令
上はともかく、その実態上、運用上において全く差異がない。それ故に、原告は、
事務員として採用された段階においてはもちろんのこと、臨時補充員として採用さ
れた当初から一生郵便局に勤務するつもりでおり、正式採用職員になるとの期待権
を有して郵政省職員となり、以後勤務を続けてきたのである。また、被告局長も原
告が正式採用職員となることを予想して、原告を臨時補充員として採用し、臨時補
充員として勤務していた間における勤務状況を実際に見たうえで事務員として採用
したのである。そして、原告が臨時補充員として採用された日から被告ら主張の本
件処分の予告の日までには五か月以上が経過し、本件処分発令日までには六か月以
上が経過しており、被告局長も被告ら主張のとおり原告を戒告処分にした時点にお
いては、原告に郵政省事務員としての適格性があることを既に認めていたといえ
る。そうすると、本件処分は原告の正式採用職員となり得る期待権を侵害するもの
であつて、違法である。
第八 再抗弁に対する認否
一 不当労働行為について
 原告がその主張の日に全逓に加入し、その新宿支部に所属していることは不知。
その余の事実は否認する。
二 裁量権の濫用等について
(一) (一)の事実は否認する。
(二) (二)の事実のうち、原告が請求原因第一項において主張のとおりの経過
により事務員として採用されたこと、原告が臨時補充員として採用された日から本
件処分の予告の日および本件処分発令日までの時間的経過が原告主張のとおりであ
ることは認める。その余の事実は否認する。
第九 証拠関係(省略)
       理   由
一 本件処分等
 請求原因第一および第二項の事実は、当事者間に争いない。
二 本件処分の予告
 証人Pの証言により成立を認める甲第一号証の二(但し、後記認定に反する記載
部分は信用しない。)、証人A、同Hの各証言ならびに原告本人の供述によれば、
A庶務課長は、局長の指示を受けて、昭和四七年二月八日原告に対し、原告は再三
上司から指導を受けながら一向に改まるところがなく、改めようと努力してもいな
いから、将来とも国家公務員として任用しておくにはふさわしくない、との理由を
示して、「一か月たつたらやめてもらう。」「君は来月をもつてやめてもらうこと
になつたから、そのつもりでいるように。」等と口頭で通告したことが認められ、
この通告は本件処分の予告とみることができる。
 前掲甲第一号証の二、証人Aの証言ならびに原告本人の供述によれば、A課長は
同月九日以降数回にわたり原告およびその兄のQに対し、原告の辞職を勧告してい
ることが認められる。しかし、労基法第二〇条第一項に照らしてみても、このよう
な辞職勧告がなされたからといつて、右通告が本件処分の予告としての実質を失う
とか、その適法性を欠くに至るということはできない。また、右通告が口頭でなさ
れたとしても、条件付採用期間中の職員に対する免職処分の予告が口頭であつては
ならないと解すべき根拠はないから、同断である。
 したがつて、他に主張、立証もないから、右通告をもつて同条同項にも適合する
本件処分の予告がなされたものと認められる。そうすると、条件付採用期間中の職
員に対する免職処分について同条同項所定の予告が必要であるかどうかはともかく
として、本件処分がその予告との関係で適法性を欠くことはない。
三 本件処分理由
(一) 書留の配達事務処理とその過誤
1 書留の配達事務処理
 抗弁第二項(一)1の事実は、当事者間に争いない。証人R、同H、同E、同
D、同S、同Gの各証言ならびに原告本人の供述によれば、原告は、臨時補充員と
して採用されて以降、後に認定の新規採用時職場訓練(昭和四六年九月一日と二
日)と郵便職場訓練(同月三日と四日)、名古屋郵政研修所における初等部前期訓
練(同年一〇月二七日から同年一一月一三日)、通配第五五区における通常集配区
の通区訓練(昭和四七年一月二四日と二五日)の期間を除いてはもつぱら大口第一
区における郵便物配達事務に従事していたこと(但し、後に認定のとおり、昭和四
六年九月四日の午後から同月二〇日までは同区における配達事務に関する訓練期間
であつた。)、同区においてなされている書留の配達事務処理についてみると、当
日配達すべき書留は、まず第三郵便課特殊係から受け取つてきて、これを主事席に
おいて一旦課長代理または主事に渡したうえ、普通郵便物の配達準備を完了した時
点で主事席において課長代理または主事から改めて受領し、配達に出る、というも
のであつたことが認められる。
2 書留の配達事務処理の過誤
(1) 当事者間に争いない事実と証人Bの証言により成立を認める乙第四号証お
よび同証言によれば、抗弁第二項(一)2(1)の事実、原告が昭和四六年一二月
九日ロツテ商事に配達した書留の通数は全部で一二六通であつたこと、原告は同日
帰局後B第二集配課主事から、配達すべき書留の宛て先、通数を確認のうえ書留持
出票に受領印を押して配達に出発すべき旨注意を受けたことが認められる。右認定
に反する原告本人の供述は信用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
 原告は、右認定のような配達証の受領忘れは大口集配区担当の職員にとつて日常
多くあることであり、原告にだけ特に多いというのではない旨主張し、証人R、同
Tの各証言ならびに原告本人の供述中にはこれに添う部分がある。しかし、右各証
言ならびに供述部分は直ちに信用できず、他に右主張事実を認めるに足りる証拠は
ない。また、原告は、右認定のような配達証の受領忘れが起こるのは、大口第一区
をはじめ大口集配区の場合には取り扱う郵便物が多いので、各配達先での配達作業
を相当急いでしなければならないうえ、各配達先ごとの郵便物も多いということに
よるのであつて、したがつて、原告に右認定のような配達証の受領忘れがあつたと
しても、それは必ずしも原告の責に帰すべきものではない旨主張する。そして、証
人Rの証言ならびに原告本人の供述中にはこれに添う部分がある。しかし、右認定
のような配達証の受領忘れは、各配達先ごとの書留の通数を明確にしておき、書留
を配達した際にその配達証の枚数を確認しさえすれば防げることである。そして、
証人Bの証言ならびに原告本人の供述によれば、大口第一区における書留の配達先
数は一日平均五ないし八箇所位、その通数は一日平均一〇〇ないし二〇〇通位であ
ることが認められるのであるから、この程度のことすらなし得ないとは到底考えら
れないのであつて、右主張に添う右証言ならびに供述部分は信用できない。他に右
主張事実を認めるに足りる証拠はない。
 書留制度は、書留の授受を記録上明確にしてその送達の確実を図るとともに、書
留の亡失、毀損についてはその損害を賠償しようとするものであつて、書留の配達
証は書留の配達を証明する重要なものである。また、原告は、後に認定のとおり、
大口集配区における書留の取扱い方法やその配達方法等について指導、訓練を受け
てきたし、臨時補充員として採用されて以降ほとんど大口第一区における郵便物配
達事務に従事してきた。それに、書留の配達事務は、大口第一区におけるその処理
の仕方からみても、極めて機械的なものである。したがつて、原告は書留の配達事
務処理の仕方についても、また書留の配達証の重要性についても十分認識していた
はずである。加えて、書留の配達証の受領忘れは、前述したように、各配達先ごと
の通数を明確にし、書留を配達した際にその配達証の枚数を確認するという簡単な
方法で防止できることである。それなのに、原告はこの重要な配達証の受領を忘れ
たうえ、これを翌日取りに行く旨申し出るというような状態であつた。そうする
と、これを後に認定の(2)、(3)、(5)ないし(7)においてみられるよう
な書留の配達事務処理の過誤の繰返しという状況と考え合わせれば、原告は注意力
散漫で、自己の職務に対する自覚や責任感に欠けていると評価されてもやむを得な
い。
(2) 当事者間に争いない事実と証人Bの証言により成立を認める乙第五号証お
よび同証言によれば、抗弁第二項(一)2(2)の事実、原告が昭和四六年一二月
一五日B主事に対し電話連絡したのは、ロツテ商事宛ての書留の通数を忘れてしま
つたためであること、原告は同日帰局後同主事から、書留については必ず査数確認
をすべき旨注意を受けたことが認められる。右認定に反する原告本人の供述は信用
できず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。
 これを右(1)および後に認定の(3)、(5)ないし(7)と考え合わせれ
ば、原告は勤務態度がなおざりであるといわれても仕様がないところである。
(3) 当事者間に争いない事実と弁論の全趣旨により成立を認める乙第六号証な
らびに原告本人の供述によれば、原告は昭和四六年一二月一六日、早稲田大学理工
学部宛て書留七通を普通郵便物と取り違え、普通郵便物の受渡場所において普通郵
便物と一緒に配達して、右書留七通の配達証を受領することなく帰局したばかりで
なく、帰局後十分査数確認することなくそのまま配達事務を終了して帰宅したこ
と、原告は翌一七日C第二集配課主事から、帰局後における書留の査数確認を怠ら
ないよう注意を受けたことが認められる。
 これによれば、原告は右(1)、(2)の場合と同様の評価を受けても致し方な
い。
(4) 局内の写真であることについては争いなく、弁論の全趣旨によりUが昭和
四八年九月ころ撮影したものと認める甲第二六号証の五、弁論の全趣旨により成立
を認める乙第七号証、証人Dの証言ならびに原告本人の供述(但し、後記認定に反
する部分は信用しない。)によれば、抗弁第二項(一)2(4)の事実、局舎一階
伝送発着口というのは郵便配達用自動車の発着場であつて、右自動車の駐車場の奥
にあり、局外者が出入りを許されている場所ではなく、ここには局の職員が一、二
名いることが認められる。
 右認定のような書留の取扱いは、書留を置いていた場所が伝送発着口付近の台車
の上であつたとしても、適当とはいえない。また、原告本人の供述中には、原告が
伝送発着口付近の台車の上に書留を置いたまま一時その場を離れたとすれば、それ
は郵便物の配達に出掛けるべく同所まで郵便物を台車に乗せて運んできた際、配達
すべき追加の郵便物があるとして呼ばれてこれを取りに行つた場合である旨の部分
がある。しかし、仮にそのとおりとしても、他の職員に監視を頼むことなく書留を
台車の上に置いたままにしておくことは、書留の取扱いとして適切を欠くことに変
りない。それに、原告は、右認定のような書留の取扱いは、極めて短時間のことで
あれば、他の職員の場合にも一般に日常よくあることである旨主張するが、右主張
事実を認めるに足りる証拠はない。
 けれども、原告が書留を置いていた場所は書留の紛失、盗難等の事故発生の危険
性がそれほど高い場所とは考えられないし、書留を置いたままにしていた時間が長
かつたというような事情も認められないから、右認定のような書留の取扱いは、強
く非難しなければならない程のことでもない。
(5) 当事者間に争いない事実と弁論の全趣旨により成立を認める乙第八号証な
らびに原告本人の供述によれば、原告は昭和四七年一月一八日、洋書販売店宛て書
留七通を普通郵便物と取り違え、普通郵便物の受渡場所において普通郵便物と一緒
に配達して、右書留七通の配達証を受領することなく帰局したばかりでなく、帰局
後十分査数確認することなくそのまま配達事務を終了して帰宅したこと、原告は翌
一九日C主事から、配達証の受領忘れをしないよう再三注意しているのにまた忘れ
るようでは困る旨注意されたことが認められる。
 これによれば、原告については右(1)、(2)の場合と同様の評価ができる。
(6) 当事者間に争いない事実と証人Dの証言により成立を認める乙第九号証お
よび同証言によれば、原告は昭和四七年二月二日、同日配達すべきロツテ商事宛て
速達書留五通を主事席において主事から査数確認のうえ受領したが、これを主事席
に置き忘れたまま配達に出掛けようとして伝送発着口まで行き、D第二集配課長代
理から注意を受けたことが認められ、右認定に反する原告本人の供述は信用でき
ず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
 証人Tの証言中には、右認定のようなことは日常多くあることである旨の部分が
あるが、右証言部分は信用できない。他に右認定のようなことが大口集配区担当の
職員にとつて日常ままあり得ることであるというような事情を認めるに足りる証拠
はない。
 そうすると、右(1)ないし(3)、(5)および後に認定の(7)を考え合わ
せれば、原告については注意力散漫で、勤務態度がなおざりであるとの評価ができ
る。
(7) 当事者間に争いない事実と証人Eの証言により成立を認める乙第一〇号証
および同証言によれば、原告は昭和四七年三月八日、同日原告において配達すべき
洋書販売店宛て書留二六通を第三郵便課特殊係から一旦受け取つたが、右書留二六
通は主事が処理するかあるいは洋書販売店が自ら局に受領に出向いてくるものと誤
信し、これを同係に置いたまま配達に出発したこと、そのため、原告は帰局後E第
二集配課副課長から、右書留二六通は原告において配達すべきものである旨説明さ
れ、「書留郵便物の授受については、君は特に主事から再三再四注意を受けている
が、一向に改まらないね。何時も同じ過ちを繰り返しているじやないか。」等と注
意されたうえ、改めて右書留二六通の配達を命じられたこと、そこで原告はその配
達に出掛けたのであるが、右書留二六通には一般の書留の場合と異なつて配達証が
貼付されていなかつたのであるから、配達証を別に持つて出掛けるべきであるの
に、配達証の貼付の有無を確認することなく配達証を持たずに出掛けたうえ、何ら
受領の確証もないまま右書留二六通を配達して帰局したことが認められる。
 そうすると、これによつても、原告は右(1)、(6)の場合と同様の評価を受
けてもやむを得ないところである。
(二) 就労遅延、職場離脱等
1 当事者間に争いない事実と成立に争いない乙第一五号証、証人Gの証言により
成立を認める同第一一号証、証人Eの証言により成立を認める同第一二、第一三号
証、証人Hの証言により成立を認める同第一四号証および右各証言によれば、次の
事実が認められる。この認定に反する証人Pの証言により成立を認める甲第一号証
の一の記載ならびに原告本人の供述は信用できないし、他にこの認定を覆すに足り
る証拠はない。
 原告は、通常集配区における作業の習得を目的とする通区訓練を受けるため、昭
和四七年一月二四日から通配第五五区に配置され、同月二五日は同区担当のF事務
官から指導、訓練を受けた。ところが、原告は同日作業着手時に同事務官から郵便
課に郵便物を受領しに行くよう指示されたがこれに従わず、またその後右同様郵便
課に郵便物を取りに行つたうえ、その郵便物を区分し易いように大型のものと小型
のものに分けるよう指示された際には、郵便課に郵便物を取りには行つたが、受け
取つてきた郵便物をただ容器であるフアイバーに投げ入れただけで、大型のものと
小型のものに分けようともせず、さらに、大口配達先(到着郵便物が多い配達先を
いう。)の郵便物のは束を指示された際には、これに従うことなく六分間位自席を
離れ、通配第五七区の作業場付近の郵便物整理台に腰掛けて、作業中の他の職員と
話し込んだりしていた。そこで、原告の所属する班の班長(統括責任者)で、所属
班員を指導、監督すべき立場にあつたGは、右のとおり他の職員と話し込んでいた
原告を通配第五五区の作業場所まで連れ戻したうえ、原告に対し、先輩の指示に従
うよう注意した。原告は、「いちいちあんたに言われなくても分かつている。」等
と答えながら、大口配達先の郵便物のは束に取り掛つたのであるが、同班長は原告
を主事席前まで呼んだうえ、「先輩の指導に従つて訓練に励むよう話してあるの
に、何故担当区先輩の指導、指示に従わないのか。」「君は一人前の職員になるた
めに訓練中ではないか。何故指示に対し不平顔で対応したり、は束命令に対しても
六分間にわたり無視するんだ。」「見習い中は厳しいんだぞ。うちにはうちの班の
やり方があるんだ。」等と、厳しい口調を交え、時には乱暴ともいえなくはない口
調で注意ないし詰問をした。これに対し原告は、「従つているではないか。条件が
厳しいことなどいちいち言われなくても分かつているよ。」「そんな細かいことま
で言うのか、驚いた。は束しろという命令は聞こえなかつたし、指示されてからは
やつていたではないか。僕は通配は知らないのだから指示をすればいいではない
か。」「あそこにいたのは何も指示されなかつたからだ。やることはやつているで
はないか。」等と答えた。そして原告は、G班長から、以後上司あるいは先輩の指
導に従つてやつていけるかどうか問われるや、「そんなことは分からない。俺の話
は終つた。もう行くよ。」と言つて、同班長の制止に従うことなく午前九時五分こ
ろ集配事務室から立ち去り、以後所定勤務終了時刻である午後四時五分に至るま
で、休憩時間四五分を除いて六時間一五分位にわたり職場を放棄して勤務を欠い
た。また、原告はその間午前九時三〇分ころE副課長に対して局外から電話し、
「今日はとてもこんな気分じや仕事する気になれませんので、早引けさせて下さ
い。」と、早退の許可を求めた。同副課長は原告に対し、職場放棄の重大性を説
き、直ちに局に戻るよう命じた。しかし、原告は、「とてもこんな気分じや仕事な
んかできませんよ。」「私をGさんの班から変えて下さい。」等と言つて、これに
応じなかつた。H第二集配課長とE副課長は翌二六日原告に対しそれぞれ注意を与
えたが、原告は同副課長に対しては、職場放棄して帰宅したこと自体は悪かつた旨
答えてはいたが、G班長の言動についてはこれを非難し、同班長の班から他の班へ
所属を変えてくれるよう求め、同課長に対しては、自己の行動について「私は悪い
と思つていない。」、職場放棄した結果自己の配達すべき郵便物を配達しなかつた
ことの責任について「半分位反省している。」等と答え、同班長の言動を非難した
り、同班長の班から他の班への所属の変更を希望し、最後には、「もう課長となん
か話す余地ない。」等と言つて、同課長の制止も聞かずに立ち去つてしまつた。な
お、原告は右の同月二五日の件について、同年二月一日I局長から国公法第八二条
により戒告処分を受けたが、その際同局長宛てに、職場放棄したこと自体について
は深く反省するとともに以後十分注意する旨の始末書を提出した。
 これによれば、原告はF事務官の作業指示に従つていなかつたのであるから、G
班長が原告に対して注意等をしたことには特に問題とすべきところはない。また、
同班長の原告に対する注意等は厳しい口調あるいは乱暴ともいえる口調でなされた
ところもあるが、右認定の事実関係のもとにおいては特に侮辱的なものとは認めら
れないし、他に侮辱的とみられるような同班長の言動を認めるに足りる証拠もな
い。そうだとすれば、たとえ原告が同班長の言動により通区訓練を受け難い精神状
態になつたとしても、それは自ら招いた結果であつて、これをもつて職場放棄を正
当化して自己の責任を回避することは許されない。
 原告は通区訓練を受ける身でありながら、この訓練の担当者であるF事務官の作
業指示に従わず、これを注意したG班長に対しても右認定のとおりの言動におよ
び、その挙げ句に六時間一五分位にわたり職場を放棄しているのである。また、原
告は、戒告処分を受けた際に始末書を提出してはいるものの、H課長やE副課長か
ら注意を受けた際には反省の態度を何ら示してはいなかつた。したがつて、原告は
服務規律に対する認識、自己の職務に対する自覚、意欲、責任感等に著しく欠ける
面があるといわれても仕様がない。
2 当事者間に争いない事実と証人Eの証言により成立を認める乙第一六号証、証
人Dの証言により成立を認める同第一七号証および右各証言によれば、抗弁第二項
(二)2の事実が認められる。右認定に反する原告本人の供述は信用できず、他に
右認定を覆すに足りる証拠はない。
 しかし、成立に争いない乙第四五号証の一、二および証人E、同Dの各証言によ
れば、原告が事務員として採用されてから以降のみならず臨時補充員として採用さ
れてから以降においても、欠勤、遅刻等により賃金カツトの対象として欠務処理を
受けたことは、前認定の昭和四七年一月二五日における六時間一五分の職場放棄を
除けば、同年三月六日における三分間の遅刻についてだけであることが認められる
から、原告の勤怠状況は決して悪くはなかつたものと思われる。そうだとすれば、
右認定の僅か七分間の就労遅延をそれ程重視することはできない。
3 前掲乙第一〇号証および証人Eの証言によれば、原告は昭和四七年三月八日午
後三時ころ配達事務を終えて帰局したが、その後午後三時三四分ころまで上司に届
け出ることなく離席したこと、そこでE副課長がこれを問責したところ、原告は、
「歯医者に行つて、それから風呂に入りました。」等と答えていたことが認められ
る。
 しかし、配達事務終了後は所定勤務終了時刻前であつても退局するのが局内にお
ける労働慣行であつたとか、局側も職員に対し、配達事務終了後は直ちに退局する
よう指示していたことを認めるに足りる証拠はない。
 そうすると、右認定の三四分間程の無断離席は、一応集配事務を終えて帰局した
後のことであつたとしても、他に特段の事情も認められない以上、原告の職場規律
に対する認識と勤務意欲の欠如を示すものとみることができよう。
(三) 勤務態度
1 証人Hの証言により成立を認める乙第二四号証および同証言によれば、原告は
被告ら主張の日時、場所において、その主張のような空のフアイバーをその主張の
とおり投げ出し、これを目撃した局内巡視中のI局長からその主張のとおりの内容
の注意を受けたこと、これに対し原告は無言のまま三輪車を押しながらその場を立
ち去つたことが認められる。
 しかし、右認定のようなフアイバーの取扱いが局内において一般的に行なわれて
いたことを認めるに足りる証拠はない。
 原告の右認定のようなフアイバーの取扱いは適当でなく、I局長が注意したのも
当然のことであつて、この注意に対する原告の態度は決して良いとはいえない。け
れども、この程度のことは取り立てて問題とすべき程のものとは認め難い。
2 証人Eの証言により成立を認める乙第二五号証および同証言によれば、原告は
昭和四七年三月八日始業直後の午前八時七分ころ、第二郵便課配達区分事務室に郵
便物を取りに行つた際、両手をズボンのポケツトに入れたまま同事務室内を歩いて
いたところ、E副課長から、「郵便物を抜き出すんなら、それらしい態度できちん
とやりなさい。」等と注意されたが、無言のままその場を立ち去つたことが認めら
れる。
 右認定のような勤務時間中職場内をポケツトに手を入れて歩くという位のことは
日常誰にでもままあり得る性質のことであつて、取り立てて問題とすべき程のこと
ではない。
3 抗弁第二項(三)3の事実は、原告がH課長からの注意に対し反省の色を見せ
なかつたことを除いて、当事者間に争いない。この当事者間に争いない事実と証人
Hの証言により成立を認める乙第二六号証および同証言によれば、局においては職
員は貸与された被服を着用して作業につくべきこととされていたこと、原告は局側
から貸与されていた作業シヤツを洗濯屋に洗いに出していたので、紅色ワイシヤツ
を着用して作業についていたものであることが認められる。
 原告が所定の作業シヤツを着用しないで作業についたことは服務規律に反すると
いわなければならない。けれども、たまたま貸与されていた作業シヤツを洗濯屋に
洗いに出していた際のことであるし、原告が所定の被服を着用せずに作業について
いたことがしばしばあつたというような特段の事情も認められないから、これをも
つて原告を強く責めることはできない。
4 当事者間に争いない事実と証人Hの証言により成立を認める乙第二八号証、弁
論の全趣旨により成立を認める同第二七号証および同証人、証人Eの各証言ならび
に原告本人の供述によれば、局の標準作業方法としては、大口集配区の郵便物の大
区分作業は立つたままかあるいは補助椅子を使用して行なうべき旨定められている
が、局では右作業を立つたまま行なうよう職員に指示しており、職員もこの指示に
従つて右作業を行なつていたこと、ところが原告は昭和四七年三月一〇日午前八時
一八分ころ、大口第一区の郵便物の大区分作業を補助椅子に腰掛けたままで行な
い、E副課長から、立つて右作業をするよう注意されたこと、それなのに原告は翌
一一日も午前八時二〇分ころ、右作業を右同様のやり方で行なつていたこと、そこ
で、H課長は原告に対し、「先日副課長から大区分作業は立つてやるよう指導され
ているはずだが、駄目じやないか。」「大区分作業は立つてやりなさい。」等と注
意したこと、原告は、「今日は気分が悪いから、坐つてやるのだ。」「ここじやう
つかり病気にもなれねえよ。」等と答えながら、立つて右作業をするようになつた
ことが認められる。
 しかし、原告に右両日右作業を補助椅子に腰掛けてしなければならないようなや
むを得ない事情があつたこと等については、これを認めるに足りる証拠はない。
 局の標準作業方法によれば、右作業は前述したように補助椅子を使用して行なつ
てもよいとされていたにしても、局では右作業を立つてするよう職員に指示してお
り、職員もこの指示に従つて右作業を行なつていたのである。それなのに原告は、
そうしなければならないようなやむを得ない事情もないのに右作業を補助椅子に腰
掛けたまま行ない、E副課長から一度注意を受けていながら、その翌日にもこれと
同じやり方で右作業を行なつてH課長から再度注意を受けたのであり、この注意に
対する原告の応答の仕方も素直さに欠けたところがあり、原告の勤務態度は決して
好ましいものとはいえない。けれども、同月一〇、一一日といえば本件処分の予告
があつてから丁度一か月余り経過した時期であり、当時原告が近く免職処分の発令
があるのではないかと不安な気持で勤務についていたことは、原告本人の供述から
も窺える。このような時期にたまたま二日続けて右作業を補助椅子に腰掛けて行な
い、注意を受けるようなことがあつたとしても、このようなことが従前からたびた
び繰り返されていたというような事情も認められない以上、この程度のことをもつ
て原告の勤務態度を問題にするのはいささか酷に過ぎるといわなければならない。
(四) 配達態度
1 当事者間に争いない事実と証人Gの証言により成立を認める乙第三〇号証、証
人Hの証言により成立を認める同第三一ないし第三三号証および右各証言によれ
ば、原告は昭和四七年三月八日社会保険事務所に郵便物の配達に行つたが、その際
郵便物を給食箱の上に放り投げるようにして置いたため、郵便物が給食箱の中にあ
つた仕出しの弁当箱にあたり、弁当箱がひつくり返つたこと、また、原告の普段の
配達態度は同事務所守衛のKに良い印象を与えてはいなかつたこと、そして、この
ような事情により同日Kから同事務所に書留の配達に行つたG班長ならびにH課長
に対し、被告ら主張のとおりの内容の申告があつたこと、そこで同課長は同日原告
に対し、右のとおりの申告があつたことにつき注意したところ、原告は被告ら主張
のとおりの内容の返答をしたこと、また、同課長は翌九日原告に対し謝罪してくる
よう指示したが、原告は終始無言のままであつたことが認められる。
 郵便物を置くには適当でない給食箱の上にしかも郵便物を放り投げるようにして
配達することがほめられたことでないことはもちろんであるし、配達に際しては配
達先に対し悪い印象を与えないよう配慮すべきことも当然のことといえよう。しか
し、原告が同事務所あるいはKと直接トラブルを起こしたというのではないし、本
件処分の予告があつてから一か月程経過した時期のことでもある。そうだとすれ
ば、右認定のような原告の配達態度はことさら重大視しなければならないようなも
のではない。
2 証人Hの証言により成立を認める乙第二三号証、証人Bの証言により成立を認
める同第二九号証、弁論の全趣旨により成立を認める同第二二号証および右各証言
(但し、証人Hの証言中後記認定に反する部分は信用しない。)によれば、原告は
昭和四七年三月八日第三松田ビル内の日本技術へ郵便物を配達した際、郵便受箱に
投入しようとした郵便物が外に落ちてしまつたので、その落ちた郵便物を足で蹴飛
ばしたこと、これを目撃した通配第五一区担当のVから同日L第二集配課主任に対
し被告ら主張のとおりの内容の申告があり、翌九日ころにはH課長に対してもこれ
と同趣旨の申告があつたこと、そこで同課長は同月一一日原告に対し、右のような
申告があつたことにつき注意を与えたところ、原告は、「誰がそんなことを言つた
のだ。」「そんなことをやつていない。」「証拠がないでしよ。」等と答えていた
ことが認められる。
 右認定のような郵便物の取扱いが適当でないことは明らかであり、H課長からの
注意に対する原告の態度は反省の色がないといわれても致し方ないものである。し
かし、右認定のような郵便物の取扱いは、ことの性質からいつても、また、足蹴り
したことで郵便物が毀損したとか、このことに関し日本技術とトラブルを起こした
とか、このような郵便物の取扱いをしたことが他に何回もあるとかいうような事情
も認められないことや、本件処分の予告後一か月程度経過した時期におけることで
あることからいつても、特に問題としなければならない程のことではない。
3 証人Sの証言により成立を認める乙第三四号証および同証言によれば、原告は
アゼリア東広ビルおよび東京金属保険会館への配達に際し、郵便物を投げるように
して配達したりしたことがあり、同ビル管理人Mや同会館管理人Nからその配達態
度を良く思われてはいなかつたこと、L主任は昭和四七年三月一一日担当集配区内
の地域を巡視して廻つたが、その際右のような事情によりMおよびNから同主任に
対し被告ら主張のとおりの内容の申告があつたことが認められる。右認定に反する
原告本人の供述は信用できないし、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
 しかし、右認定のような原告の配達態度が特に重大視しなければならない程のも
のでないこと右1の場合と同様である。
(五) 適格性の欠如
1 国公法は国家公務員の任用につき成績主義の原則を定め(同法第三三条)、職
員の採用は競争試験または選考によるものとしている(同法第三六条)。しかし、
競争試験または選考という方法によつたからといつて、採用した職員が必ずしもそ
の官職に必要な職務遂行能力を有する適格者であるとの保障はない。そこで同法第
五九条第一項は、職員の採用を一定期間条件付きのものとし、競争試験または選考
によつて採用した職員が果たしてその官職に必要な職務遂行能力を有する適格者で
あるかどうかをその間における実際の職務遂行状況から総合的に判断して、不適格
者を排除し、もつて職員の採用をより適正ならしめようとしたものである。
 同条同項の右のような趣旨からすれば、人規一一ー四第九条による条件付採用期
間中の職員に対する免職処分については、任命権者にある程度の裁量権は認められ
るにしても、その純然たる自由裁量に委ねられているものではなく、客観的、合理
的な事由に基づくものであることが必要とされる。
2 当事者間に争いない事実と成立に争いない乙第三五号証、証人Sの証言により
成立を認める同第三七号証および同証人、証人A、同Hの各証言ならびに原告本人
の供述(但し、後記認定に反する部分は信用しない。)によれば、次の事実が認め
られる。
 原告は臨時補充員として第二集配課に勤務するようになつて以降、次のとおり指
導、訓練を受けてきた。すなわち、原告は被告ら主張の日にその主張のとおりの目
的をもつて実施された新規採用時職場訓練を受け、局長やA課長等から、国家公務
員としての心得、郵政省の業務の概要およびその業務と国民生活との関連性、明る
い職場作りということに関連した職員としての心構えやチームワークと職場のルー
ル、服務上の心得、勤務時間、就業規則等について説明された。また、原告は被告
ら主張の日にその主張のとおりの目的をもつて実施された郵便職場訓練を受け、H
課長等から、郵政省職員としてのあり方、集配従事員としての心得、集配業務の概
要、服務規律、就業規則、事故犯罪の防止、大口集配区における書留を含む郵便物
の取扱い方法やその配達方法、郵便物配達先に対する接遇等について説明された。
そして、原告は昭和四六年九月四日(但し、午後のみ。)から同月二〇日まで、大
口第一区担当者と軽四輪車に同乗して、配達道順の教示を受けるとともに書留の授
受等について見習い、あるいは大口第一区の一部の郵便物を自ら実際に配達して実
地訓練を受け、さらに被告ら主張の期間名古屋郵政研修所において初等部前期訓練
として、国家公務員としてのあり方、服務規律等の基本的事項について講義を受け
たり、郵便物の区分とかは束の仕方についても若干の実技的指導を受けたほか、日
常的には朝礼、班別会議等を通じて書留やその配達証の取扱い方、被服の正常な着
用、事故犯罪の防止等業務上必要な事項について指導を受けたり、上司から必要の
都度具体的作業について個別的指導を受けてきた。
3 原告は右2のとおり指導、訓練を受けてきたのであるが、その勤務実績をみる
と右(一)2および(二)ないし(四)の各事実が認められるのである。もつと
も、右各事実のうちには、それを個別的に取り上げてみればそれ程重大視しなけれ
ばならないものとは必ずしもいえないようなものが数多く含まれている。けれど
も、右(一)2(1)ないし(3)、(5)ないし(7)、(二)1および3の各
事実のように、原告が注意力散漫で、自己の職務に対する自覚、意欲、責任感等や
服務規律に対する認識に欠け、その勤務態度もなおざりであることを示し、郵政省
事務員としての適格性を疑わせるに十分なものも少なくない。そうすると、右
(一)2および(二)ないし(四)の各事実を総合勘案すれば、原告は郵政省事務
員としての適格性に欠けると評価されてもやむを得ないところである。
4 原告は右(二)1の昭和四七年一月二五日の職場放棄等の事実を理由として、
同年二月一日に国公法第八二条により戒告処分を受けている。そこで原告は、右
(二)1の同年一月二五日の職場放棄等の事実ならびに右戒告処分の際において評
価されていると解される原告の右戒告処分以前の勤務実績に関する右(一)2
(1)ないし(5)、(二)2の各事実をもつて本件処分理由とするのは、二重処
罰として許されない旨主張する。
 しかし、国公法第八二条による戒告等の懲戒処分は、職員の服務規律を維持する
ため、職員にその個々の義務違反に対する責任を問うものであるが、人規一一ー四
第九条による条件付採用期間中の職員に対する免職処分は、前述のような同法第五
九条第一項の趣旨に基づいて、職員がその官職に必要とされる職務遂行能力を有す
る適格者であるかどうかをその条件付採用期間中における勤務実績に照らして総合
的に判断し、不適格と認められた職員に対しなされるものであつて、両者の性質は
本質的に異なるものである。したがつて、懲戒処分の理由とされた事実であつて
も、これに基づいて職員のその職に必要な適格性の有無を判断することは許される
ものと解すべきである。そうだとすれば、懲戒処分理由とされていない懲戒処分以
前の事実についてはなおさらのことである。のみならず、証人Aの証言によれば、
局側では右戒告処分に際し、右(二)1の同年一月二五日の職場放棄等の事実に対
する懲戒処分のほか、この事実を含む原告の右戒告処分以前の勤務実績を考慮し
て、人規一一ー四第九条による免職処分をも検討したが、この免職処分については
なお検討することとし、右(二)1の同日の職場放棄等に対して戒告処分をするに
とどめ、原告の右戒告処分以前の勤務実績はその情状程度に考慮したに過ぎないこ
とが認められるのであつて、右戒告処分はそれ以前の原告の勤務実績をも評価し、
これをも実質的理由としてなされたというようなものでもない。したがつて、原告
の右主張は採用できない。
 また、原告は、本件処分の予告がなされた同年二月八日以降の原告の勤務実績に
関する右(一)2(7)、(二)3、(三)および(四)の各事実は、本件処分に
ついての意思決定がなされた後のものとなるから、本件処分理由とすることはでき
ない旨主張する。
 しかし、任命権者が人規四ー一一第九条により条件付採用期間中の職員に対し免
職処分をするにあたりその予告をしたとしても、それはあくまでも予告に過ぎない
のであつて、任令権者は予告どおり免職処分を発令することもあるいは逆に免職処
分を発令しないことにすることもでき、免職処分の最終的意思決定は結局のところ
その発令をもつてなされることになるといえる。そうだとすれば、免職処分の予告
以後における勤務実績も、その評価にあたつて免職処分の予告後のものであるとい
うことが影響することはあるにしても、免職処分の理由とすることができないとは
解せられない。したがつて、原告の右主張も採用できない。のみならず、本件処分
に関しては、その予告以前における原告の勤務実績に関する各事実のみによつて
も、原告は郵政省事務員として不適格であると判断できるのである。
(六) 本件処分の適法性
1 証人Pの証言ならびに原告本人の供述によれば、原告は昭和四七年一月二六日
全逓に加入し、以後その新宿支部に所属していることが認められる。
 しかし、本件処分が全逓ないしは同支部の組織、運営に支配介入し、その組織を
破壊することを目的としてなされたものであるとか、原告が同支部所属の全逓組合
員であることの故になされたものであることを認めるに足りる十分な証拠はない。
2 原告が郵政省事務員として不適格と判断されること前述のとおりであるし、本
件処分が原告主張のような目的のためになされたものであるとか、局側が原告の主
張する郵政マル生運動という郵政省の職員対策を率先して遂行したことによる必然
的結果であるとか、原告が全逓新宿支部所属の全逓組合員であることの故になされ
たものであることを認めるに足りる十分な証拠はない。
 したがつて、本件処分が裁量権の行使を濫用したものであるとは認め難い。
 また、本件処分が原告の有する正式採用職員となり得る期待権を侵害するもので
あるとの原告の主張は、結局のところ原告が郵政省事務員としての適格性に欠ける
ところがないということを前提としてはじめて成り立つものであるが、原告が右の
適格性を欠くと判断されること前述のとおりであるから、右主張は採用の限りでは
ない。
3 以上のとおりであつて、原告は郵政省事務員として不適格であると評価できる
から、人規一一ー四第九条により免職処分に付されてもやむを得ないところであつ
て、本件処分は適法である。
四 結論
 本件処分は以上のとおり適法であるから、原告の本訴請求はいずれも理由がな
い。のみならず、原告の本訴請求のうち被告国に対し給与の支払いを求める部分は
それ自体失当でもある。本件処分は行政処分として、当然無効と認められる場合を
除き、公定力を有するから、たとえ本件処分が本来違法として取り消されるべきも
のであつたとしたところで、本件処分が被告局長の職権によりあるいは一定の争訟
手続により取り消されない限り、原告は事務員としての身分ないし地位を有するこ
とを前提として被告国に対し給与の支払いを請求することはできないからである。
 よつて、原告の本訴請求はいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき行
政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 宮崎啓一 安達敬 飯塚勝)

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