弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中、上告人敗訴の部分を破棄する。
     前項の部分につき、本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人野間美喜子、同宮崎直己の上告理由三1について
 所論の点に関し原審が確定した事実関係の下においては、所論の点に関する原審
の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、
独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
 しかしながら、職権をもって調査するのに、原判決には次のとおり法令の解釈適
用に誤りがあり、破棄を免れないものというべきである。
一 本件は、被上告人が、上告人の先代との間で農地の売買契約を締結し、被上告
人を権利者とする条件付所有権移転仮登記を経由していたところ、上告人が確定判
決により右仮登記の抹消登記を経由した上で右土地を第三者に売却して所有権移転
登記を経由したとして、上告人に対し、履行不能による損害賠償を求めている事案
である。
二 原審の確定した事実関係は、次のとおりである。
 1 被上告人は、昭和三九年三月一二日、上告人の父Dとの間で、当時農地であ
った同人所有の第一審判決添付物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)
を代金二〇〇万円で買い受ける旨の契約(以下「本件契約」という。)を締結し、
そのころ、右代金全額を支払うとともに、本件土地につき、同月一三日受付で被上
告人を権利者とする条件付所有権移転仮登記(以下「本件仮登記」という。)を経
由した。
 2 Dは、昭和五一年九月ころ、本件契約に基づく所有権移転義務を履行するた
め、本件土地を農地から転用する手続を試みたものの果たせなかったが、被上告人
は、そのころ、Dに対し、右手続に要する費用の負担及び本件契約締結後の本件土
地に係る固定資産税の精算のために、仲介業者を介して二二万円を支払った。
 3 Dは、昭和五四年七月二二日死亡し、相続人である上告人が本件土地及び本
件契約に関する一切の権利義務を承継した。
 4 上告人は、昭和六三年六月、被上告人を被告として、本件仮登記の抹消登記
手続を求める訴訟を名古屋地方裁判所に提起し、右訴状において、本件契約に基づ
く本件土地についての所有権移転許可申請協力請求権の消滅時効を援用した。右訴
訟においては、被上告人の住居所が不明であるとして、公示送達により手続が進め
られ、同年九月二七日、上告人勝訴の判決が言い渡されて確定した。上告人は、右
確定判決に基づき、昭和六三年一〇月二四日、本件仮登記の抹消登記を経由した。
 5 上告人は、昭和六三年一二月九日、本件土地をEに売り渡し、同人に対する
所有権移転登記を経由した。
 6 上告人は、被上告人に対し、平成五年一月二五日ころ、本件契約に基づく所
有権移転許可申請協力請求権につき消滅時効を援用した。
三 原審は、本件契約に基づく所有権移転許可申請義務を含む所有権移転義務は、
上告人が昭和六三年一二月九日にEに本件土地を売却してその旨の所有権移転登記
を経由したことにより、履行不能となったところ、上告人が平成五年一月二五日こ
ろにした本件契約に基づく所有権移転許可申請協力請求権についての消滅時効の援
用は、右売却後にされたものであるから、履行不能による損害賠償請求権の帰すう
を左右しないとして、被上告人の本件請求を認容すべきものと判断した。
四 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のと
おりである。
 契約に基づく債務について不履行があったことによる損害賠償請求権は、本来の
履行請求権の拡張ないし内容の変更であって、本来の履行請求権と法的に同一性を
有すると見ることができるから、債務者の責めに帰すべき債務の履行不能によって
生ずる損害賠償請求権の消滅時効は、本来の債務の履行を請求し得る時からその進
行を開始するものと解するのが相当である(大審院大正八年(オ)第五八五号同年
一〇月二九日判決・民録二五輯一八五四頁、最高裁昭和三三年(オ)第五九九号同
三五年一一月一日第三小法廷判決・民集一四巻一三号二七八一頁参照)。
 これを本件についてみるのに、前記事実関係の下においては、上告人が本件土地
をEに売却してその旨の所有権移転登記を経由したことにより、本件契約に基づく
上告人の売主としての義務は、上告人の責めに帰すべき事由に基づき履行不能とな
ったのであるが、これによって生じた損害賠償請求権の消滅時効は、所有権移転許
可申請義務の履行を請求し得る時、すなわち、本件契約締結時からその進行を開始
するのであり、また、上告人が平成五年一月二五日ころにした消滅時効の援用は、
本来の履行請求権とこれに代わる損害賠償請求権との法的同一性にかんがみれば、
右損害賠償請求権についての消滅時効を援用する趣旨のものと解し得るものである。
そうすると、右損害賠償請求権は、格別の事情がなければ、上告人の右時効の援用
によって消滅することとなるはずのものである。
五 してみると、これと異なる見解に立って、上告人のした消滅時効の援用が履行
不能による損害賠償請求権の帰すうを左右しないとして、直ちに被上告人の本件請
求を認容すべきものとした原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があり、
この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、その余の上告理
由につき判断するまでもなく、原判決中、上告人の本件請求を認容した部分は破棄
を免れない。
 もっとも、本件においては、前示時効の進行開始後においてこれを阻害する事由
が存在したこと及び上告人において消滅時効を援用することが信義則に照らして許
されないと認めるべき特段の事情があること等が主張されており、これらの点につ
き更に審理を尽くさせる必要があるので、右破棄部分につきこれを原審に差し戻す
のが相当である。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    根   岸   重   治
            裁判官    大   西   勝   也
            裁判官    河   合   伸   一
            裁判官    福   田       博

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