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平成22年10月20日判決言渡同日原本受領裁判所書記官
平成19年(ネ)第10027号特許権侵害差止等請求控訴事件(原審・東京地
方裁判所平成17年(ワ)第15552号)
口頭弁論終結日平成22年7月21日
判決
控訴人株式会社ステップテクニカ
同訴訟代理人弁護士木下洋平
同補佐人弁理士沢田雅男
山内博明
被控訴人日本パルスモーター株式会社
同訴訟代理人弁護士平井昭光
原井大介
同訴訟復代理人弁理士黒田博道
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2被控訴人は,原判決別紙物件目録記載の製品を製造し,販売し,又は販売の
申出をしてはならない。
3被控訴人は,前項記載の製品を廃棄せよ。
4被控訴人は,控訴人に対し,3600万円及びこれに対する平成17年8月
6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5訴訟費用は,第1,2審を通じ,被控訴人の負担とする。
6仮執行宣言
第2事案の概要
略称は,特に断らない限り,審級に応じた読替えをするほか,原判決に従う。
1本件は,控訴人が被控訴人に対し,原判決別紙物件目録記載の被控訴人各製
品により構成される被控訴人配線システムが控訴人の本件特許権に係る本件特許発
明の構成要件を充足し,被控訴人が業とする被控訴人各製品の製造,販売,販売の
申出が特許法101条1号の間接侵害に当たると主張して,その差止めのほか,被
控訴人各製品の廃棄及び損害賠償を求めたのに対し,被控訴人が構成要件の非充足,
新規性又は進歩性の欠如による本件特許権の無効を主張して,控訴人の請求を争っ
ている事案である。
原判決は,本件特許発明は,刊行物2(特開平6−292275号公報。乙2
0)に開示された発明に,特開昭58−116897号公報(乙36)の開示事項
を組み合わせることにより,当業者が容易に発明することができたものであって,
当該発明に係る特許は特許無効審判により無効とされるべきものであるから,控訴
人は,特許法104条の3第1項により,本件特許権を行使することができない旨
を判示して,控訴人の請求を棄却したため,控訴人が,これを不服として控訴した。
2前提となる事実
(1)当事者等
ア控訴人は,集積回路の製造・販売を行う株式会社である。
イ被控訴人は,電子機器の製造・販売を行う株式会社であり,平成15年7月
ころ以降,被控訴人製品を製造・販売している。
(2)本件特許権
控訴人は,以下の本件特許権を有している(甲1∼3。以下,甲3添付の明細書
と甲2の図面部分を併せて,「本件特許明細書」という。)。
特許番号:第2994589号
発明の名称:サイクリック自動通信による電子配線システム
出願日:平成8年6月7日
登録日:平成11年10月22日
特許請求の範囲:原判決別紙本件特許明細書の【特許請求の範囲】を引用する。
(3)構成要件の分説
本件特許発明の特許請求の範囲を構成要件に分説すると,以下のとおりである
(以下,各構成要件を「構成要件A1」のように表記し,B1,B2のように枝番
があるものを総称するときは,「構成要件B」と表記する。)。
A11台のIC化された中央装置と1台又は複数台のIC化された端末装置と
がデジタル通信回線を介して,相互接続されて構成され,
A2上記中央装置から上記端末装置宛てに,出力データの組み込まれたコマン
ドパケットを一斉にサイクリックに自動的に送信し,
A31台又は複数台の端末装置の中から順次に択一的に選択される1台づつの
上記端末装置から上記中央装置宛てに,入力データの組み込まれたレスポンスパケ
ットを逐次にサイクリックに自動的に送信する
A4サイクリック自動通信方式の電子配線システムであって,
B1上記中央装置は,上記出力データと上記入力データとを読み取り可能に記
憶するメモリと,
B2上記コマンドパケットの送信と上記レスポンスパケットの受信とを,プロ
グラムによる通信制御に基づかないで,回路の駆動で制御するステートマシーンと
からなり,
C1上記メモリは,i番目のコマンドパケットに組み込まれるi番目の出力デ
ータをi番目対応の出力データ記憶領域に読み取り可能に記憶し,
C2i番目のレスポンスパケットに組み込まれていたi番目の入力データをi
番目対応の入力データ記憶領域に読み取り可能に記憶するメモリであり,
D1上記ステートマシーンは,i−1番目の端末装置宛てのi−1番目のコマ
ンドパケットの送信が完了した直後に,又は,i−1番目のコマンドパケットの送
信が完了してから,i−1番目のレスポンスパケットの受領期間が経過した直後に,
上記メモリのi番目対応の出力データ記憶領域から読み取られたi番目の出力デー
タとi番目の端末装置アドレス符合とが組み込まれたi番目のコマンドパケットを
デジタル通信回線経由で送信し,
D2該i番目のコマンドパケットの送信が完了した後に,i番目の入力データ
の組み込まれたi番目のレスポンスパケットをi番目の端末装置からデジタル通信
回線経由で受信し,該i番目の入力データを上記メモリのi番目対応の入力データ
記憶領域に書き込むことを特徴とし,
E1上記端末装置は,デジタル通信回線経由で受信した上記i番目のコマンド
パケットに組み込まれているi番目の端末装置アドレス符合が自己の端末装置アド
レス符合として設定されているi番目の端末装置アドレス符合と一致するときに,
E2上記i番目のコマンドパケットに組み込まれているi番目の出力データを
出力ポートでのポート出力データとして出力するとともに,
E3入力ポートからのポート入力データがi番目の入力データとして組み込ま
れた上記i番目のレスポンスパケットをデジタル通信回線経由で送信することを特
徴とし,更に,
F1上記メモリのi番目対応の出力データ記憶領域に読み取り可能に記憶され
ている出力データのビット群の構成と上記出力ポートから出力されるポート出力デ
ータのビット群の構成とが同一形態であり,
F2上記メモリのi番目対応の入力データ記憶領域に読み取り可能に記憶され
ている入力データのビット群の構成と上記入力ポートから入力されるポート入力デ
ータのビット群の構成とが同一形態であり,
F3前記メモリ内のデータビット群が,前記複数の端末装置毎にメモリ領域を
分割して設定した
Gことを特徴とするサイクリック自動通信方式の電子配線システム。
(4)被控訴人製品及び被控訴人配線システム
ア被控訴人は,G9001又はG9001Aをセンターデバイス,G9002
又はG9003をローカルデバイスとして用いる,シリアル通信を利用した省配線
システム「Motionnet」(乙1。被控訴人配線システム)を需要者に提供している。
イG9001Aは,G9001の改良品であるが,本件特許発明との対比にお
いては,その構成及び機能に違いはない(以下,G9001とG9001Aを併せ
て「G9001」という。)。
ウ被控訴人配線システムには,デバイスとして,①G9001及びG9002
のみを用いるもの,②G9001及びG9003のみを用いるもの,③G9001,
G9002及びG9003を用いるものがある。
エなお,被控訴人は,被控訴人配線システムが構成要件B1,E及びF3を充
足することを争っていない。
3本件訴訟の争点
(1)被控訴人配線システムは本件特許発明の構成要件を充足するか(争点1)
ア構成要件A1,A2,A4及びB2の充足性
被控訴人配線システムは,CPU及びプログラムによる通信制御をしていないと
いえるか否か。
イ構成要件A3の充足性
本件特許発明は,フルデュープレックス方式(全二重通信方式)に加えて,ハー
フデュープレックス方式(半二重通信方式)を備えるものを含むか否か。
ウ構成要件Cの充足性
本件特許発明は,メモリの出力データ領域と入力データ領域がハードウェアレベ
ルで分かれるものに限定されておらず,したがって,どのアドレスを入力又は出力
に割り当てるかの区別をソフトウェア的に指定するものを含むか否か。
エ構成要件Dの充足性
被控訴人配線システムは,すべての端末装置(ローカルデバイス)と通信するとい
えるか否か。
オ構成要件D1の充足性
被控訴人配線システムは,i−1(iマイナス1)番目のレスポンスパケットの
「受領期間が経過した直後に」i番目のパケットを送信するといえるか否か。
カ構成要件F1及びF2の充足性
被控訴人配線システムは,出力及び入力のデータビット群がそれぞれ同一形態と
いえるか否か。
(2)本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものか(争点2)
ア拡大先願(刊行物1)による新規性の欠如
本件特許発明は,刊行物1(特願平7−21367号・特開平8−195682
号。乙6)に記載された発明と同一であるか否か。
イ刊行物2による新規性又は進歩性の欠如
本件特許発明は,刊行物2(特開平6−292275号公報。乙20)に記載さ
れた発明と同一であるか,又は同発明に本件特許出願時における当業者の技術常識
を参酌することにより,当業者が容易に発明することができたものであるか否か。
ウ刊行物3による新規性又は進歩性の欠如
本件特許発明は,刊行物3(特開昭62−62643号公報。乙21)に記載さ
れた発明と同一であるか,又は同発明に本件特許出願時における当業者の技術常識
を参酌することにより,当業者が容易に発明することができたものであるか否か。
エ刊行物2及び3による進歩性の欠如
本件特許発明は,刊行物2に記載された発明に刊行物3に記載された発明を組み
合わせ,更に本件特許出願時の当業者の技術常識を参酌することにより,当業者が
容易に発明することができたものであるか否か。
オ出願前実施による新規性の欠如
控訴人は,本件特許出願前に,マニュアルの頒布又は広告等により本件特許発明
を開示し又は本件特許発明の実施品を販売していたか否か。
(3)控訴人の損害額(争点3)
第3当事者の主張
1原審における主張は,原判決5頁20行目を「(1)争点1(被控訴人配線
システムは本件特許発明の構成要件を充足するか)について」と,14頁25行目
を「(2)争点2(本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものか)につ
いて」と,15頁4行目を「(ア)争点2のア(拡大先願(刊行物1)による新規
性の欠如)について」と,21頁4行目を「(イ)争点2のイ(刊行物2による新
規性又は進歩性の欠如)について」と,30頁25行目を「(ウ)争点2のウ4
(刊行物3による新規性又は進歩性の欠如)について」と,36頁16行目を
「(エ)争点2のエ(刊行物2及び3による進歩性の欠如)について」と,21行
目を「(オ)争点2のオ(出願前実施による新規性の欠如)について」と,38頁
16行目を「ア争点2のア(拡大先願(刊行物1)による新規性の欠如)につい
て」と,40頁7行目を「(イ)争点2のイ(刊行物2による新規性又は進歩性の
欠如)について」と,43頁3行目を「(ウ)争点2のウ(刊行物3による新規性
又は進歩性の欠如)について」と,45頁7行目を「(エ)争点2のエ(刊行物2
及び3による進歩性の欠如)について」と,12行目を「(オ)争点2のオ(出願
前実施による新規性の欠如)について」と,47頁19行目を「(3)争点3(控
訴人の損害額)について」とそれぞれ改めるほか,原判決5頁20行目から48頁
8行目までに摘示のとおりであるから,これを引用する。
2当審における主張
(1)争点2のイ(刊行物2による新規性又は進歩性の欠如)について
〔被控訴人の主張〕
ア本件特許発明では,中央装置と端末装置との間の通信方式がコマンド・レス
ポンス方式であるのに対し,刊行物2に記載された発明(以下「引用発明」とい
う。)では,これが時間同期方式である点が相違する(相違点1)。
しかしながら,特開平4−57422号公報(乙85)及び特開平4−1920
03号(乙86)では,いずれも,中央装置から端末装置への送信信号が制御信号
を含み,端末装置から中央装置への送信信号が監視信号や入力信号の返信であると
いうポーリング方式によって,複数台の端末装置に対して順次行われる通信方式が
開示されているところ,これは,コマンド・レスポンス方式といえる。したがって,
コマンド・レスポンス方式は,本件特許出願時において周知技術であったといえる。
そして,引用発明は,1台の中央装置と複数台の端末装置との間のサイクリックな
通信という点で共通し,かつ,引用発明に上記周知技術を適用することには特段の
阻害要因は見当たらないから,引用発明に上記周知技術を組み合わせて,上記相違
点について本件特許発明のように構成することは,当業者が容易に行い得ることで
ある。
イ本件特許発明では,記憶手段が中央装置のメモリであり,端末装置ごとに分
割され,出力データ及び入力データごとの記憶領域からなるのに対し,引用発明で
は,中央装置に端末装置ごとに個別に設けられた出力データ用の送信用レジスタフ
ァイル♯1ないし8と,端末装置ごとに個別に設けられた入力データ用の受信用レ
ジスタファイル♯1ないし8のように個別のファイルからなる点が相違する(相違
点2)。
しかしながら,本件特許発明のように1つのメモリを端末装置ごとに分割してそ
の記憶領域を割り当てることは,特開平6−214620号公報(乙87)に記載
のように,周知技術であるから,引用発明の送信用REGファイル♯1ないし8と
受信用REGファイル♯1ないし8を当該メモリと置き換えることに特段の阻害要
因も見当たらない点を踏まえれば,上記相違点について本件特許発明のように構成
することは,当業者が容易に行い得ることである。
ウ本件特許発明では,通信制御手段が「プログラムによる通信制御に基づかな
いで,回路の駆動で制御するステートマシーン」であるのに対し,引用発明では,
ホストの内部の制御回路である点が相違する(相違点3)。
しかしながら,引用発明に係る刊行物2には,機械入出力I/Fリモート(端末
装置。以下「リモート」という。)にCPUを必要としないことが明記されている
ほか,リモート及び機械入出力I/Fホスト(中央装置。以下「ホスト」とい
う。)のいずれにおいても内部の制御回路が通信制御に関与していることについて
記載があるから,ホストの通信制御がCPUを必要とするものであるということは
できず,むしろ,ホストの通信制御を制御回路のみによって行う可能性があること
について示唆があるというべきである。
そして,特開平2−132944号公報(乙84)には,1対N局で親局のみが
送信権を有しているポーリング伝送方式において,親局から子局へのデータ伝送を
中央処理装置(CPU)が介在することのない回路構成によって,中央処理装置と
は無関係に通信制御する構成及びこのような構成によって高速のデータ伝送が可能
となることが記載されている。
したがって,引用発明に乙84記載の技術を適用して,通信制御手段について
「プログラムによる通信制御に基づかないで,回路の駆動により制御する」ものと
することは,当業者にとって容易である。
また,ステートマシーンとは,順序回路の動作を定義した状態遷移図又は順序回
路すなわちシーケンサ(状態遷移をするデジタル・デバイス)であることが周知で
あるが,本件特許明細書の記載によれば,本件特許発明に係る「ステートマシー
ン」とは,このような周知のステートマシーンのうち特に,シーケンサ回路により
データを送受信するものであって,送受信したデータ制御を行うシーケンサと送受
信したデータのメモリへの書込み及び読出しを制御する調停回路によって構成され
るものであると認められる。そして,上記回路として想定されるものが周知のステ
ートマシーンであることは,当業者にとって自明であるから,上記相違点について
本件特許発明のように構成することは,当業者にとって容易である。
エ本件特許発明が中央装置と端末装置との通信方式にフルデュープレックス方
式とハーフデュープレックス方式の双方を開示しているのに対し,引用発明がハー
フデュープレックス方式のみを開示している点のほか,本件特許発明では,中央装
置が先行する送信作業等の「直後に」次の送信作業に入るのに対し,引用発明では,
中央装置が先行する送信作業等の「後に」次の送信作業に入る点が相違している
(相違点4)。
しかしながら,上記双方の通信方式は,いずれも周知技術であるし,前記ウの回
路の駆動により通信を制御する構成を採用すれば,中央装置は,特段の確認作業を
行うことなしに,先行する送信作業等の「直後に」次の送信作業に入ることができ
るのであるから,前記ウの構成を採用することが当業者にとって容易である以上,
上記構成の採用は,当業者にとって容易であるというべきである。
オ本件特許発明については,平成19年5月28日付け審決において,構成要
件A1につき,「1台又は複数台のIC化された端末装置」を「1台又は複数台の
IC化されていてかつ外部から端末装置アドレス符号が設定される端末装置」とす
る訂正請求(以下「本件訂正」という。)が認められたところ,当該審決は,知的
財産高等裁判所平成19年(行ケ)第10220号事件に関する平成20年4月2
1日判決において取り消され,かつ,当該判決は,同年10月24日,上告不受理
により確定したことにより,本件訂正は,現在,本件特許発明の構成要件ではない
が,本件訂正部分が存在するとした場合には,本件特許発明は,端末装置アドレス
符号が外部から設定されるのに対し,引用発明では,どこから設定されるか不明な
点が相違する(相違点5)。
しかしながら,端末装置アドレス符号を外部から設定することは,特開昭58−
116897号公報(乙36)に開示されている周知技術(以下「乙36技術」と
いう。)であり,かつ,引用発明でも,端末装置には端末装置アドレス符号が設定
されるものであるから,本件特許発明の上記相違点に関する部分は,当業者が適宜
容易に構成できるものである。
カ以上のとおり,本件特許発明は,引用発明に他の刊行物記載の発明又は周知
技術を適用することにより,当業者が適宜又は容易に行い得るものであるから,本
件特許は,無効である。
〔控訴人の主張〕
ア被控訴人は,前記のとおり,乙84ないし87との関係で,当審において新
たな無効の抗弁を主張している。しかしながら,控訴人は,被控訴人の上記主張を
回避する訂正事項を検討してから,追って特許庁での審判において訂正請求を行う
予定である。よって,控訴人は,被控訴人の上記主張に対して反論しない。
イなお,原判決は,本件特許発明に係る特許が特許無効審判請求において無効
にされるべきものと認定したが,その認定は以下のとおり誤りである。
(ア)原判決は,引用発明では各リモートが,ホストからのパケットの受信とは
無関係に,自己に割り当てられた期間が到来すれば送信を行っている(時間同期方
式)一方,本件特許発明(構成要件D1,E2及びE3)では中央装置が端末装置
のアドレス符合を付したコマンドパケットを送信し,端末装置が自己のアドレスの
コマンドパケットを受信し,この受信に応じて自己のアドレスを付したレスポンス
パケットを送信している(コマンド・レスポンス方式)点のみを相違点として認定
した。
(イ)原判決は,刊行物2にいうホストが上記中央装置に,同じくリモートが上
記端末装置に,それぞれ該当する旨の認定をしているが,端末装置は,中央装置か
らのコマンドパケットの受領に応じてレスポンスパケットを送信している一方,ホ
ストとリモートとの間のパケットの受送信は,タイムチャートに従ってされるもの
であるほか,中央装置は,1台であるのに,ホストは,複数存在し得る(刊行物2
の実施例6)し,何よりホストとリモートの相違は,データバスの有無による一方,
中央装置と端末装置は,そのような区別ではないから,引用発明には本件特許発明
にいう中央装置及び端末装置が存在せず,上記の認定は,誤りである。
次に,引用発明にいうホストとリモートとの間のパケットの受送信は,タイムチ
ャートに従ってされるものであるし,ホスト間においても通信が行われるのである
から,引用発明には,本件特許発明にいうコマンドパケット及びレスポンスパケッ
トが存在しないのに,原判決は,これらが存在する旨を認定する誤りを犯している。
また,本件特許発明にいうステートマシーンとは,本件特許発明の構成要件Dで
規定される一連の通信制御動作を全て実行する回路構成でなければならないところ,
刊行物2にはこれに関する開示も示唆もないのに,原判決は,ステートマシーンを
単に「プログラム制御によらないホスト内部の制御回路」と認定し,引用発明にも
これが存在する旨を認定する誤りを犯している。
さらに,本件特許発明は,ステートマシーン,中央装置,端末装置,コマンドパ
ケット及びレスポンスパケット等の各要件によって,構成要件D及びEに規定され
る各一連の通信動作を行うものであり,このような一連の通信動作を行うことが本
件特許発明の本質的部分であるのに,原判決は,上記の認定の誤りに加えて,この
各一連の通信動作やそれが本質的部分であることを無視し,それぞれを構成要件D
1及びD2並びに構成要件E1,E2及びE3に分説した結果,例えば,刊行物2
にいう♯1ないし8のいずれの局番が付されたのか不明のデータを,本件特許発明
にいう「i番目」と同視するなど,本件特許発明と引用発明の一致点及び相違点の
認定を誤っている。
(ウ)また,原判決は,前記(ア)の相違点について,乙36にはコマンド・レス
ポンス方式が開示されており,かつ,そのような技術が本件特許権出願時に既に周
知技術であった(乙65,66)から,引用発明に乙36技術を適用し,本件特許
発明のように構成することは,当業者であれば容易に想到することができた旨判示
する。
しかしながら,乙36技術並びに乙65及び乙66に記載された技術は,一般的
なコマンド・レスポンス方式であるにすぎず,本件特許発明の構成要件D及びEを
充足するような,一体不可分な一連の通信動作によりデータ通信を高速に行う顕著
な効果を実現するものではないから,上記の各技術は,「本件特許発明を実現する
ようなコマンド・レスポンス方式」を開示していない。
しかも,引用発明と乙36技術とでは,それぞれの制御主体(引用発明では,ホ
スト及び各リモート内部の制御回路であるのに対して,乙36技術では,ソフトウ
ェアがこれに当たる。)が異なるから,両者を組み合わせることはできない。また,
引用発明が入力信号の変化をリアルタイムで認識できない一方,乙36技術ではこ
の変化をリアルタイムで認識しなければならないが,両者は,技術的に相反するの
で,これを組み合わせることはできない。また,引用発明は,タイムチャートと共
通クロックが必須となる時間同期方式であるから,これに別の通信方式である乙3
6技術を適用することは,不可能である。さらに,引用発明のホスト同士が通信を
行える接続状況において,1つのホストに替えて乙36技術の親機を適用した場合,
残ったホストと親機が相手の状況に関係なくパケットを送信するため,パケット衝
突が発生し,通信システムが作動しないばかりか,残ったホストと親機の間の通信
も行えない。
このように,引用発明に乙36技術を適用することは,不可能である。
(2)争点2のオ(出願前実施による新規性の欠如)について
〔被控訴人の主張〕
ア控訴人は,原審において,本件特許発明の実施品(控訴人製品)には平成8
年1月中旬に欠陥が発見されたため,その量産品(MP1)を廃棄した旨を主張し
ていた。
しかしながら,被控訴人は,上記MP1に相当するMKY33(平成8年1月2
2日ないし28日に製造)を購入しており(乙93∼95),しかも,控訴人製品
の販売元であるパイオニクス株式会社のパンフレットには,平成8年4月22日な
いし28日に製造されたMKY33(改良型であるMP2)の写真が掲載されてい
る(乙96)。
以上によれば,控訴人の上記主張は,虚偽であり,控訴人は,平成8年1月下旬,
MKY33の量産品(MP1)を入荷し,控訴人のウェブサイト(乙58)記載の
とおりに同年2月にこれを販売し,その売れ行きが良かったために,その主張どお
り同年3月29日にMP1の改良型であるMP2の量産を指示し,同年4月下旬に
これが製造されたと推認されるのであって,本件特許出願日(平成8年6月7日)
以前に,MP1を出荷していたものと認められる。
イ控訴人は,平成7年9月当時,控訴人製品の試作品(ES)に加えて,商業
サンプル(CS)も購入し(甲42),同年11月10日前後に入荷を受けている
旨を主張している。しかし,商業サンプル(CS)は,試作品(ES)と同時期に
入手可能であり,かつ,製造メーカによる品質保証がされるために,量産品(M
P)を待たずに,試作品の動作確認後ただちに要急の納入に充てられるものである
ことに照らすと,控訴人は,同年11月中旬ころには,商業サンプル(CS)を顧
客に出荷したと推認されるところである。
ウ控訴人は,本件特許出願日から2か月前の奥付を有する製品マニュアル(乙
78)について,「ベータ版マニュアル」と称して出願前から秘密保持契約を結ん
だ代理店等に配布することがある旨を主張する。
しかしながら,被控訴人は,控訴人と秘密保持契約の締結をしていないのに,上
記マニュアルを入手していたし,その暫定版カタログも入手していた(乙98)。
したがって,控訴人は,本件特許出願日前から,控訴人製品のマニュアルを配布し
ていた。
エ以上のとおり,控訴人は,本件特許出願日前に本件特許発明が公然知られた
又は公然実施されたことを知りながら特許出願を行っており,当然に無効理由があ
ることを知りながら本件訴訟を提起したものであって,これは,明らかな権利濫用
である。
〔控訴人の主張〕
ア控訴人が原審で量産品(MP1)を廃棄した旨を主張したため,産廃業者等
にMP1を引き渡したかのような誤解を招いたようであるが,ここで「廃棄」とは,
MP1単体を販売ルートから外したという意味である。
イ控訴人は,MP1のバグの発生原因を検証した結果,MP1以外の部分の設
計変更により不具合の発生を回避できることが判明したので,そのような処置をし
た商品(最初の発売日は,平成8年8月22日である。)には,MP1を搭載した
ものも存在する。
ウ被控訴人が購入したMKY33(MP1)が平成8年1月22日ないし28
日に製造されたことや,その指摘に係るMKY33(改良型であるMP2)が平成
8年4月22日ないし28日に製造されたことは,事実であるが,そのことは,こ
れらのMKY33が本件特許出願日(平成8年6月7日)前に販売されたことを直
ちに意味するものではないし,被控訴人は,当該MKY33が同日よりも前に販売
された証拠を提出していない。
第4当裁判所の判断
1争点1のア(構成要件A1,A2,A4及びB2の充足性)について
(1)本件特許発明の解釈
ア本件特許発明の特許請求の範囲は,前記第2の2(2)に記載のとおりである
ところ,本件特許明細書の【発明の詳細な説明】についてみると,要旨,次の記載
がある。
(ア)コンピュータ制御システムにおいて,コントロールセンタと分散配置され
た各制御対象機器との間のデータの授受を担う部分の構成には,従来技術として,
センタのマイクロプロセッサのI/Oポートに各制御対象機器を電線で接続して直
接データを入出力する方法(【0003】,図16)及び各制御対象機器にそれぞ
れ補助のマイクロプロセッサを設け,これらとセンタのマイクロプロセッサとの間
を通信回線で接続し,データ通信を介してデータの授受を行う方法(【0004】,
図17)があった。しかし,前者の方法には,センタのマイクロプロセッサの小型
化を図ることができず,また,センタのマイクロプロセッサと各制御対象機器とを
接続する電線の量が膨大になるなどの問題がある(【0013】)一方,後者の方
法には,センタ及び制御対象機器の各マイクロプロセッサ用のプログラム開発にコ
ストがかかり,各補助のマイクロプロセッサの動作状態を監視する必要があるばか
りか,マイクロプロセッサ間に複雑なプロトコルを用いているために通信を高速化
することには限界があるなどの問題があった(【0016】∼【0018】)。
そこで,本件特許発明は,上記の課題を解決し,センタと複数の制御対象機器と
の間のデータ通信を簡易,確実かつ高速に行うサイクリック自動通信による電子配
線システムを実現するため(【0022】),データの受送信をプログラムによる
通信制御に基づかずに回路の駆動で制御するステートマシーンと,上記データを蓄
積するメモリとを有するIC化された中央装置(センタ)及びこれとデジタル通信
回線を介して接続した複数の端末装置及び制御対象機器とからなる(【002
3】)。
(イ)中央装置は,メモリ及びステートマシーンを備えており,ユーザーインタ
ーフェースPCに接続されることでコントロールセンタを構成している。そして,
マイクロプロセッサを持たない複数の端末装置は,分散配置され,中央装置と1本
の共通なデジタル通信回線により,マルチドロップ方式のフルデュープレックス
(全二重通信)方式又はハーフデュープレックス(半二重通信)方式で接続される
(【0028】,【0031】,【0032】,図1)。
これに対し,端末装置は,1ないしN番目のアドレスが付与されており,中央装
置から自己宛てのデータビット群からなるコマンドパケットをその入力ポートで受
信すると,これに含まれているデータを制御対象機器に出力し,当該制御対象機器
から入力したデータを,自己アドレスの送信順番の時に,中央装置に対してレスポ
ンスパケットとしてその出力ポートから出力する(【0036】,【0037】,
【0045】∼【0047】)。中央装置のメモリは,ユーザーインターフェース
PCが接続されており,制御対象機器との間でデータの授受ができることになる
(【0033】∼【0035】,【0038】)。
(ウ)中央装置のステートマシーンは,アービタ(メモリ調停回路),アドレス
カウンタ,送信シーケンサ回路,送信回路,受信回路及び受信シーケンサ回路など
からなる(【0050】)。そして,ユーザーインターフェースPCから中央装置
のメモリの特定の端末装置(i)に対応する出力データ記憶領域にデータが書き込
まれると,アービタは,送信シーケンサ回路から供給されるメモリ読み取り信号に
応じて,所定の周期で1ないしN(このNの数値は,ユーザーインターフェースP
Cにより設定される。【0057】)のカウントを繰り返すアドレスカウンタから
供給されるアドレス信号(i)に対応するメモリのアドレスから上記データを読み
出して送信回路に出力し,送信回路は,コマンドパケットを作成して特定の端末装
置(i)に送信する一方,受信シーケンサ回路は,受信回路を経て端末装置からの
レスポンスに関する情報をアービタに伝え,アービタは,これをメモリに書き込む
(【0053】,【0054】∼【0060】,【0070】∼【0072】,
【0089】∼【0096】)。
(エ)フルデュープレックス方式の場合,前記中央装置による端末装置(i)宛
てのコマンドパケットの送信と同時に,端末装置(i−1)は,直前に送信された
自己宛てのコマンドパケットを受領するとともに,レスポンスパケットを作成して
これを中央装置に送信する(【0094】)。
これに対し,ハーフデュープレックス方式の場合,中央装置は,端末装置(i)
への送信は,その1つ前の端末装置(i−1)からの受信に次いで行われる(【0
118】,図13)。そして,これらの動作を含む一連の動作は,アドレスカウン
タが端末装置の数に応じて1ないしNのカウントを繰り返すのに応じて,1周期の
間に中央装置と1ないしNの端末装置との間で行われ,各端末装置は,自己宛ての
コマンドパケットを受け取ったとき以外には動作しない(【0097】)。
イ以上を前提に,まず,構成要件A2の「一斉に」との記載を検討すると,構
成要件A1には,中央装置と端末装置が「デジタル通信回線を介して,相互接続さ
れて構成され」ている旨の記載があるから,上記「一斉に」とは,中央装置が1台
又は複数台の端末装置に対してコマンドパケットを発信すると,そのアドレス符号
にかかわらず,すべての端末装置にこれが到達することになることを表現している
ものと解される。
そして,このことは,前記のとおり,本件特許明細書の【発明の詳細な説明】に,
中央装置と端末装置がマルチドロップ方式で接続され,各端末装置が自己宛てのコ
マンドパケットを受け取ったとき以外には動作しない旨の記載があることにより裏
付けられる。
ウ次に,構成要件B2の記載について検討する。
(ア)まず,構成要件B2の「通信制御」についてみると,構成要件B2よりも
前には,本件特許発明が行うべき通信としてコマンドパケット及びレスポンスパケ
ットのサイクリックで自動的な送受信のみが記載されているから,これは,これら
のパケットのサイクリックで自動的な送受信の制御を意味し,当該送受信の開始動
作及び終了動作を含まないものと認められる。
そして,このことは,前記のとおり,本件特許明細書の【発明の詳細な説明】が,
コマンドパケット及びレスポンスパケットの送受信に関する一連の手順を説明して
いるものの,サイクリック自動通信の最初の開始動作と終了動作については何ら開
示していないことによっても裏付けられる。なお,前記のとおり,中央装置がユー
ザーインターフェースPCと接続されており,端末装置の数(N)という初期設定
が当該ユーザーインターフェースPCにより行われることによれば,本件特許発明
のサイクリック自動通信を開始又は終了させる制御については,本件特許発明には
含まれない当該ユーザーインターフェースPCが行うものと認められる。
(イ)構成要件B2の「ステートマシーン」とは,一般に,回路の動作をステー
ト(状態)ないしステートの遷移として捉える器械(甲11),シーケンサ回路
(順序回路)の動作に関する状態遷移図(乙88)又はあらかじめ決められた複数
の状態を,決められた条件に従って,決められた順番で遷移していくデジタル・デ
バイス(乙92)などと言われるが,構成要件B1が中央装置が出力データ及び入
力データを読取り可能に記憶するメモリを備えている旨を記載していることや,後
記の「プログラム」の使用という特定の手法による前記「通信制御」を排除してい
ることに照らすと,構成要件B2の「ステートマシーン」は,中央装置と端末装置
との間でパケットを送受信し,かつ,そのデータを中央装置に備えられたメモリか
ら読み取り又はこれに書き込む動作を,回路の駆動すなわちハードウェアで制御す
るものであり,自動通信回路として機能するものであると認められる。
そして,このことは,前記のとおり,本件特許明細書の【発明の詳細な説明】が,
本件特許発明の「ステートマシーン」について,内蔵のシーケンサ回路によりデー
タを送受信するものであって,送受信したデータの制御を行うシーケンサと送受信
したデータのメモリへの書込み及び読出しを制御するアービタ(メモリ調停回路)
などによって構成されるものとして記載する一方,中央装置に,その稼働に当たっ
てある程度複雑なプログラムを必要とするマイクロプロセッサやCPUを何ら含ん
でいないことによっても裏付けられる。
(ウ)「プログラム」との用語は,はなはだ多義的であるが(乙39∼48),
構成要件B2よりも前には本件特許発明の仕事の遂行,問題の解決又は処理として
中央装置と端末装置との間のデータの通信しか記載がないことに加えて,前記「ス
テートマシーン」の意義を併せ考えると,構成要件B2が排除している「プログラ
ム」とは,中央装置と端末装置との間のデータの通信に関する通信プロトコルを実
行するためのプログラムを意味するものと解される。
そして,このことは,前記のとおり,本件特許明細書の【発明の詳細な説明】に
おいて,本件特許発明が解決すべき従来の技術課題として,センタ及び制御対象機
器の各マイクロプロセッサ用のプログラム開発にコストがかかり,マイクロプロセ
ッサ間に複雑なプロトコルを用いているために通信を高速化することには限界があ
ることが指摘されていることによっても裏付けられる。
エ以上の「通信制御」,「ステートマシーン」及び「プログラム」の意義に照
らすと,構成要件A4の「自動通信方式」とは,上記「プログラム」を必要とする
ようなマイクロプロセッサやCPUによらず,むしろ回路の駆動を行うハードウェ
アである「ステートマシーン」による自動通信制御を意味するものと認められる。
(2)被控訴人配線システムの内容
他方,被控訴人配線システムの内容については,その説明文書(甲5,6,12,
乙1,8,11,12)に,要旨,次の記載がある。
すなわち,被控訴人配線システムは,CPUバスに接続された1個のセンターデ
バイス(CPUとのインターフェース回路により外部のCPUインターフェースに
接続されるものである。)と,それぞれにデバイス番号が設定された最大64個の
ローカルデバイス(制御対象機器に接続されることが想定されている。)を,2芯
又は3芯のマルチドロップ方式のLANケーブルによりハーフデュープレックス方
式で接続した構成であり,センターデバイスは,ローカルデバイスごとにデバイス
情報やポートデータ等を記憶するメモリ(RAM)を備え,全ローカルデバイスを
一定の周期で順次ポーリングして,メモリから特定のローカルデバイスへの出力デ
ータを読み出してその冒頭にデバイス番号(デバイスアドレス)を含むパケットを
作成して発信し,当該デバイス番号を有するローカルデバイスからの,やはり冒頭
に当該デバイス番号を含むパケットの応答により,当該ローカルデバイスに対応す
る入力データをメモリのポートデータエリアに書き込んでその内容を更新する動作
を繰り返すというサイクリック通信を行うものである。そして,ローカルデバイス
は,I/Oポートにより上記ケーブルに接続されており,特定のI/Oポートが出
力ポートあるいは入力ポートとして設定される。
(3)充足性についての判断
ア以上を基に,まず,被控訴人配線システムのセンターデバイスが構成要件B
2の「ステートマシーン」に相当するか否かについて検討する。
(ア)構成要件A及びBに係る中央装置は,出力データと入力データとを読み取
り可能に記憶するメモリ(構成要件B1)に加えて,「ステートマシーン」を備え
ているところ,これは,前記のとおり,送受信やデータのメモリからの読出し又は
メモリへの書込みといった動作を,プログラムを必要とするマイクロプロセッサや
CPUによらず,むしろ回路の駆動すなわちハードウェアで制御するものである。
(イ)他方,被控訴人配線システムのセンターデバイスは,前記のとおり,CP
Uとのインターフェース回路により外部のCPUインターフェースに接続されるも
のである一方,センターデバイスの全体ブロック図(乙1)には,内部にマイクロ
プロセッサ又はCPUが存在すると認めるに足りる記載が何ら見当たらない。他方
で,被控訴人配線システムは,前記のとおり,全ローカルデバイスを一定の周期で
順次ポーリングして,メモリから特定のローカルデバイスへの出力データを読み出
してその冒頭にデバイス番号(デバイスアドレス)を含むパケットを作成して発信
し,当該デバイス番号を有するローカルデバイスからの,やはり冒頭に当該デバイ
ス番号を含むパケットの応答により,当該ローカルデバイスに対応する入力データ
をメモリのポートデータエリアに書き込んでその内容を更新する動作を繰り返すと
いうサイクリック通信を行うものであって,しかも,上記の文書にはこの一連の動
作の継続については上記外部のCPUインターフェースが何らかの役割を果たす旨
の記載が見当たらない。
むしろ,センターデバイスのメモリ内には通信プログラムと思われるデータが格
納されておらず(甲10),被控訴人配線システムは,外部にCPUが接続されて
いなくてもサイクリック通信を継続することが確認されている(甲9,24)こと
も併せ考えると,被控訴人配線システムのセンターデバイスは,本件特許発明の上
記中央装置の「ステートマシーン」と同様に,パケットのサイクリックな送受信等
の上記動作を,プログラムを必要とするマイクロプロセッサやCPUによらず,回
路の駆動すなわちハードウェアで制御するものであり,自動通信回路として機能す
るものと考えざるを得ない。
(ウ)したがって,被控訴人配線システムのセンターデバイスは,構成要件B2
の「ステートマシーン」に相当し,その結果,構成要件B1に係る「中央装置」を
充足するものと認められる。
イ次に,以上を踏まえ,被控訴人配線システムが本件特許発明の構成要件A1,
A2及びA4を充足するか否かについて検討する。
(ア)被控訴人配線システムのローカルデバイスは,本件特許発明の端末装置同
様,特定の番号が与えられており,かつ,マイクロプロセッサ等を内蔵していない
ものであるから,構成要件A1及びA2に係る端末装置に相当する。
(イ)次に,被控訴人配線システムのセンターデバイスと複数のローカルデバイ
スとは,マルチドロップ方式のLANケーブルにより接続されているが,これは,
本件特許発明の中央装置と複数の端末装置とがデジタル通信回線を介して相互接続
されていることに相当する。そして,被控訴人配線システムは,前記のとおり,セ
ンターデバイスとローカルデバイスとの間で,データ群のサイクリックで自動的な
データの送受信を行う電子配線システムであるといえる。
(ウ)さらに,被控訴人配線システムのセンターデバイスは,前記のとおり,ロ
ーカルデバイスとのデータ群のサイクリックな送受信等の動作やデータのメモリか
らの読出し又はメモリへの書込みを,プログラムを必要とするマイクロプロセッサ
やCPUによらず,むしろ回路の駆動すなわちハードウェアで制御するものであり,
自動通信回路として機能するものであって,構成要件B2の「ステートマシーン」
に該当し,構成要件A1及びA2に係る「中央装置」に相当する。
(4)被控訴人の主張について
ア以上に対して,被控訴人は,G9001内のデバイス情報がメモリに蓄えら
れたコマンドであって,プロトコルを支配するという意味でプロトコルプログラム
であり,これをG9001の「コマンド制御回路」が毎回必ずデバイス情報エリア
から読み出して解析(演算処理)し,これに応じてプロトコルの選択等の通信制御
を行うから,G9001が通信機能に特化した専用CPU機能(内部CPU)を有
しており,プログラムにより通信を制御している旨を主張する。
しかしながら,G9001の「コマンド制御回路」がローカルデバイスとの通信
のためにデバイス情報エリアから読み出す情報は,各ローカルデバイスに対応する
アドレスに格納された1バイトのデータであり,対応するローカルデバイスの接続
の有無及び当該ローカルデバイスの各ポートの入出力設定状況を示すものであるに
過ぎず,「コマンド制御回路」は,これを読み出す(解析する)ことによって,当
該接続の有無等に応じてあらかじめ定められた通信処理を必然的に選択するほかな
い(乙8)。このような動作は,あらかじめ決められた複数の状態を,決められた
条件に従って,決められた順番で遷移していくという意味で,前記のステートマシ
ーンの構成と同様であるから,G9001が構成要件B2の「ステートマシーン」
を充足する根拠とはなり得ても,構成要件B2が排除したようなプログラムにより
通信を制御している根拠にはならない。
よって,控訴人の上記主張及びこれに立脚する主張は,いずれも採用できない。
イまた,被控訴人は,①被控訴人配線システムの通信の開始が,G9001に
接続される電子装置のCPU(外部CPU)からの命令によって行われること,②
外部CPUが,G9001のRAM(メモリ)中のデバイス情報エリアに,G90
02の有する複数のI/Oポートのどれが出力ポート又は入力ポートとして設定さ
れているかというデバイス情報を書き込むこと,③ローカルデバイスとしてG90
03を用いる場合,G9003が有する1つのI/Oポートは,初期設定で入力ポ
ートとされているため,これを出力ポートに変更するためには外部CPUからセン
ターデバイス(G9001)に命令しなければならないことから,被控訴人配線シ
ステムが,外部CPUにより通信制御される旨を主張する。
しかしながら,本件特許発明は,前記のとおり,それ自体本件特許発明を構成し
ないユーザーインターフェースPCが中央装置に接続されることを前提としており,
本件特許発明にいう「通信制御」は,サイクリック自動通信を開始又は終了させる
制御までを含むものとは認められない。したがって,被控訴人配線システムを構成
しない外部CPUからのセンターデバイスに対する「システム通信」及び「I/O
通信の開始」とのコマンド付与により,被控訴人配線システムの動作が開始するこ
と(甲6)は,前記の充足性についての判断を左右するものではない。
また,前記のとおり,本件特許発明においても端末装置の数(N)の設定などシ
ステムを駆動するために必要な初期設定は,ユーザーインターフェースPCにより
されるところ,被控訴人が主張する上記ローカルデバイスのI/Oポートの設定や
その変更は,いずれも,システムを駆動するために必要な初期設定であるに過ぎな
い。したがって,被控訴人配線システムの外部CPUのこの部分の構成は,前記の
充足性についての判断を左右するものではない。
以上のとおり,被控訴人配線システムが外部CPUにより動作を開始又は終了し,
あるいはローカルデバイスの設定や変更を行うことは,被控訴人配線システムのセ
ンターデバイスが本件特許発明の「ステートマシーン」を充足するとの前記の判断
を左右するものではない。
よって,被控訴人の上記主張は,採用できない。
2争点1のイ(構成要件A3の充足性)について
構成要件A3に係る端末装置から中央装置に宛てたレスポンスパケットの送信は,
構成要件D1に関係するので,構成要件D1に関する争点1のオと併せて判断する。
3争点1のウ(構成要件Cの充足性)について
(1)本件特許発明の解釈
構成要件Cは,ステートマシーンが特定の端末装置(i番目)に関するデータの
読出し又は書込みをできる領域として,メモリ内に「i番目対応の出力データ記憶
領域」又は「i番目対応の入力データ記憶領域」を設けるというものである。
(2)被控訴人配線システムの内容
他方,前記のとおり,被控訴人配線システムは,そのセンターデバイスにローカ
ルデバイスごとのデバイス情報を記憶するメモリを備え,全ローカルデバイスを一
定の周期で順次ポーリングして,メモリから特定のローカルデバイスへの出力デー
タを読み出してその冒頭にデバイス番号(デバイスアドレス)を含むパケットを作
成して発信し,当該デバイス番号を有するローカルデバイスからの,やはり冒頭に
当該デバイス番号を含むパケットの応答により,当該ローカルデバイスに対応する
入力データをメモリのポートデータエリアに書き込んでその内容を更新する動作を,
回路の駆動で制御しているものである。
(3)充足性についての判断
以上によれば,被控訴人配線システムは,回路の駆動により特定のローカルデバ
イスに関するデータの読み出し又は書き込みをできる領域として,メモリ内に当該
ローカルデバイスに関する出力情報と入力情報の領域を設けているものといえる。
これに加えて,前記の被控訴人配線システムの内容にかんがみると,被控訴人配線
システムは,構成要件Cを充足するものと認められる。
(4)被控訴人の主張について
以上に対し,被控訴人は,構成要件Cが,物理的に固定されたメモリ内の所定の
領域をi番目対応の入力又は出力データ記憶領域と規定している一方,被控訴人配
線システムのセンターデバイス(G9001)が,メモリ上の入力と出力の領域に
ハードウェアレベルでの区別をせず,どのアドレスを入力又は出力に割り当てるか
をソフトウェア的に指定する構成となっているから,構成要件Cを充足しない旨を
主張する。
しかしながら,構成要件Cは,メモリの出力又は入力データ記憶領域をそれぞれ
「i番目対応の出力データ記憶領域」又は「i番目対応の入力データ記憶領域」と
特定しているにとどまり,メモリ内の所定の領域をハードウェア的にこれらのデー
タ記憶領域として使用することまでは記載しておらず,したがって,ステートマシ
ーンがデータの読出し及び書込みをできる領域であれば,その機能を果たすもので
ある。そして,被控訴人配線システムは,前記のとおり,本件特許発明と同様に,
回路の駆動で入出力データをメモリから読み出し又はメモリに書き込むものである
から,仮に出力と入力の領域をソフトウェア的に指定する構成であるとしても,構
成要件Cに記載の機能を果たしている。
よって,被控訴人の上記主張は,採用できない。
4争点4のエ(構成要件Dの充足性)について
(1)本件特許発明の解釈
構成要件Dの端末装置「i番目」とは,本件特許明細書の記載によれば,「i−
1番目」の端末装置の次のものであるとされており,この記載により,中央装置が
これらの端末装置との間で順次データの送受信を繰り返すという,サイクリック通
信の基本的機能を特定しているものということができる。
(2)被控訴人配線システムの内容
他方,被控訴人配線システムは,各ローカルデバイスに特定のデバイス番号が設
定されており,センターデバイスが全ローカルデバイスを一定の周期で順次ポーリ
ングして,これらのローカルデバイスとの間で順次データの送受信を繰り返すとい
うサイクリック通信を行うものである。
(3)充足性についての判断
以上によれば,被控訴人配線システムは,構成要件Dのうち端末装置の「i番
目」との構成を充足するものと認められる。
(4)被控訴人の主張について
以上に対し,被控訴人は,被控訴人配線システムにおいては通信に使用されるパ
ケットの番号が,ローカルデバイスのデバイス番号,メモリ中のデータ記憶領域の
番号又は入出力データの番号と一致する必要はなく,また,このような番号が連続
する整数として変化する構成も有していないから,構成要件Dのうち「i番目」と
の構成を充足しない旨を主張する。そして,被控訴人配線システムにおいては,デ
バイス情報エリアにあるローカルデバイスを使用するか否かの情報を書き込むこと
ができ,使用しないとの情報を書き込めば,当該ローカルデバイス宛のデータの送
信は行われなくなるという機能があるから,通信に使用されるパケットの番号と,
ローカルデバイスのデバイス番号,メモリ中の記憶領域の番号又は入出力データの
番号が一致するとは限らない(乙1)。
しかしながら,上記機能は,データの送受信が不要な端末装置との間の送受信を
スキップするものであるに過ぎず,スキップされていない端末装置との間では,順
次データの送受信を繰り返すというサイクリック通信の機能を失わしめるものでは
ない。したがって,上記機能の存在により,被控訴人システムが構成要件Dのうち
端末装置の「i番目」との構成を充足しなくなるものではない。
よって,被控訴人の上記主張は,採用できない。
5争点1のオ(構成要件D1の充足性)について
(1)本件特許発明の解釈
ア構成要件D1は,中央装置による送信の手順について,①「i−1番目のコ
マンドパケットの送信が完了した直後に」送信する場合と,②「i―1番目のコマ
ンドパケットの送信が完了してから,i―1番目のレスポンスパケットの受領期間
が経過した直後に」送信する場合とを記載している。そして,中央装置と端末装置
を相互接続するデジタル通信回線には,フルデュープレックス方式とハーフデュー
プレックス方式とがあることに照らすと,上記の①がフルデュープレックス方式の
場合を,②がハーフデュープレックス方式の場合を示していることが明らかである。
また,このことは,前記1(1)アのとおり,本件特許明細書が本件特許発明の通
信方式としてハーフデュープレックス方式及びフルデュープレックス方式の双方の
場合を記載していることによっても裏付けられる。
イしかし,構成要件D1のうち,ハーフデュープレックス方式の場合の送信の
条件である「受領期間」の意義は,本件特許発明の請求項の記載からは一義的に明
確とはいえない。そこで,本件特許明細書の【発明の詳細な説明】を参酌すると,
「ハーフデュープレックス方式の通信における端末装置2の動作は,フルデュープ
レックス方式と同じであるが,中央装置1は,図13に示すように,送信時間中は
受信をしない。したがって,ハーフデュープレックス方式での通信所要時間はフル
デュープレックス方式の場合の2倍となるが,送信と受信とに共通の通信線を使用
することができるので,デジタル通信回線3は,2本の電線に省配線化される。」
(【0118】)との記載があり,図13を参照すると,データ送信レートが12
Mbps,1フィールドが51ビットからなるパケットを仮定して,1フィールド
のコマンドパケット及びレスポンスパケットの送受信の所要時間は,(1/12M
bps)×51ビット×2であり,また,例えば,4個の端末装置とのコマンドパ
ケット及びレスポンスパケットの送受信にかかる動作所要時間は,(1/12Mb
ps)×51ビット×8であることが記載されており,レスポンスパケットの送信
所要時間である(1/12Mbps)×51ビット=4.25μsec.の経過後,
直ちに次のコマンドパケットを送信していることが記載されているのである。
ウ以上によれば,中央装置は,ある端末装置(i−1番目)からのレスポンス
パケットが受信されなかった場合であっても,一定時間が経過すれば次の端末装置
(i番目)に対してコマンドパケットを送信するから,上記「受領期間」とは,レ
スポンスパケットの受領に必要な一定の期間と解するのが相当である。
そして,このことは,控訴人が,本件特許の無効審判手続(無効2005−80
158)における答弁書(甲7,28)において,「ハーフデュープレックス方式
の場合には,中央装置は,アドレス1が付されたコマンドパケットを送信し,アド
レス=1の端末装置からのレスポンスパケットの受領期間が経過すれば,そのレス
ポンスパケットが受信されなくても,アドレス2が付されたコマンドパケットを送
信する。」と記載している(甲7,28の参考図6参照)ほか,本件特許権の有効
性が争われた知的財産高等裁判所平成18年(ケ)第10152号審決取消請求事
件の準備書面(甲26)に添付の技術説明書において,構成要件D1のうち「i−
1番目のレスポンスパケットの受領期間が経過した直後に」との部分について,ハ
ーフデュープレックス方式の通信動作の場合に,「中央装置(ステートマシーン)
は,アドレス0のコマンドパケットを送信した後,アドレス0のレスポンスパケッ
トを受領する受領期間が経過した後,アドレス0の端末装置がアドレス0のレスポ
ンスパケットを送信したか否かに拘わらず,アドレス1が付されたコマンドパケッ
トを送信する。」(下線は原文のまま)との旨を記載していることによっても裏付
けられるというべきである。
(2)被控訴人配線システムの内容
他方,被控訴人配線システムがセンターデバイスとローカルデバイスとの間の通
信方式にハーフデュープレックス方式を採用していることは,前記のとおりである
が,センターデバイスであるG9001は,あるローカルデバイスに対するパケッ
トの送信完了後,一定時間待って,必ず次のパケットの送信を開始するという動作
を行わず,当該ローカルデバイスからの応答があった場合に,これを受信した後,
キャリアセンスを行ってから,次のローカルデバイスに対する送信を開始するとい
うのである(乙5)。しかも,G9001は,あるローカルデバイスからの応答を
正常に受信した場合であっても,回線上にノイズが存在し続ける間は,次のローカ
ルデバイスに対する送信を開始せず,ノイズが終了してから,更なるキャリアセン
スによりノイズがないと判断されて初めて,次のローカルデバイスに対する送信を
開始するというのである(乙10)。
以上のように,被控訴人配線システムでは,あるローカルデバイスからの応答の
受信後,キャリアセンスを行うことにより,センターデバイス(G9001)が次
のパケットをローカルデバイスに送信するタイミングを判断しており,常にキャリ
アセンスを行うことで,回線上のノイズと出力信号が衝突し,信号が壊れる可能性
をも考慮した形で通信を行っている。そして,その結果として,被控訴人配線シス
テムでは,ローカルデバイスからの応答が返ってくるタイミングにより,ある送信
と次の送信との間隔は,長くも短くもなることなる。
なお,G9001は,ローカルデバイスから応答が返ってこない場合,あらかじ
め定められた一定の時間まで待ってから次の送信を開始するというのであるが,こ
の場合の待ち時間は,ローカルデバイスからのパケットの伝送期間よりもはるかに
大きな値であり,このような無応答が発生すると,サイクリック通信にかかる周期
は大きく変わることになる(乙9)。
(3)充足性についての判断
以上のとおり,本件特許発明と被控訴人配線システムは,いずれも,ハーフデュ
ープレックス方式を採用しているものといえるが,被控訴人配線システムにあって
は,あるローカルデバイスからの応答を受信するタイミング及びキャリアセンスの
結果いかんにより,次のローカルデバイスに対する送信を開始するまでの期間が変
動し,また,あるローカルデバイスからの応答がない場合に,当該ローカルデバイ
スからの応答を待たないで,次のローカルデバイスに対する送信が開始されること
があっても,この場合には,サイクリック通信にかかる周期が大きく変わるのであ
るから,被控訴人配線システムにおいて,構成要件D1に記載されているような,
レスポンスパケットの受領に必要な一定の期間を待った上で,その受領の有無にか
かわらず,必ず次のコマンドパケットを送信するという動作を行っているというこ
とはできない。
このように,被控訴人配線システムは,構成要件D1の「受領期間が経過した直
後に」との構成を備えていないのであるから,構成要件D1を充足しないといわざ
るを得ない。
なお,構成要件D1の「受領期間」を「レスポンスパケットの受信が完了するま
での期間」と解釈した場合,「受領期間を経過した直後に」とは,「レスポンスパ
ケットの受信が完了した直後に」という意味になる。しかし,被控訴人配線システ
ムは,前記のとおり,回線上のノイズがないと判断してから,次のローカルデバイ
スに対するパケットの送信を行うものであり,「レスポンスパケットの受信が完了
した直後に」送信をするものではない。したがって,上記の解釈を採用した場合で
あっても,被控訴人配線システムは,構成要件D1の「受領期間が経過した直後
に」との構成を充足しない。
(4)控訴人の主張について
ア以上に対し,控訴人は,被控訴人配線システムにおけるキャリアセンスは,
その付加機能であるにすぎない旨を主張する。
しかしながら,回路の駆動によるサイクリック通信という,プログラムを使用し
ない通信システムにあっては,簡易,確実かつ高速なデータ通信が実現できるとい
う利点があるところ(本件特許明細書【0022】参照),前記のように,パケッ
トの送信に先立って必ずキャリアセンスを行うことは,通信の高速性を犠牲にして
もその確実性を確保しようとするものであって,本件特許明細書の記載を通覧して
も,本件特許発明にはこのような技術思想はうかがわれない。したがって,被控訴
人配線システムは,上記キャリアセンスを行うという点で,本件特許発明とは明確
に異なる技術思想を採用しており,これを単なる付加機能ということはできない。
イ控訴人は,本件特許の無効審判手続(無効2005−80158)における
答弁書(甲7)において,「本件特許発明の『ステートマシーン』は,回線の未使
用時間(甲第1号証におけるキャリアセンスを行うための無信号時間)が存在しな
いことと,参考図2に示されるフルデュープレックス方式の動作も可能なことから,
回線効率を高めることができる。」と記載している。その記載を踏まえ,控訴人は,
キャリアセンスには,①サイクルの終了を判定するためのものと,②送信開始時に
信号が存在しないことを検出するためのものの2種類があるところ,控訴人による
上記記載が①に関するものであって,②に関するものではない旨を主張する。
しかしながら,キャリアセンスは,一般に通信の確実性を確保するために行われ
るものであることに加えて,控訴人は,上記記載においても通信の確実性ではなく,
回線効率の向上すなわち高速性を重視していることが明らかであるから,控訴人の
上記主張は,到底採用できない。
ウなお,被控訴人は,構成要件A3の「逐次に」とは,端末からのパケットが
他の端末から電気的に受信できない構成すなわちフルデュープレックス方式を意味
するから,ハーフデュープレックス方式である被控訴人配線システムは本件特許発
明を充足しない旨を主張する。
しかしながら,構成要件A3の「逐次に」とは,「複数台の端末装置の中から順
次に択一的に選択される1台づつの上記端末装置から」,レスポンスパケットをサ
イクリックに自動的に送信することを修飾する語であって,端末装置が「順次に択
一的に選択される」ことに対応して,「逐次に」との文言を用いているものと認め
られるから,「逐次に」との文言により,本件特許発明がフルデュープレックス方
式のみを採用したものと解することはできない。
よって,被控訴人の上記主張は,採用できない。
(5)小括
以上のとおり,被控訴人配線システムは,少なくとも本件特許発明の構成要件D
1を充足しない。
6争点2のイ(刊行物2による新規性又は進歩性の欠如)について
事案にかんがみ,争点2のイのうち,刊行物2による進歩性の欠如についても以
下で検討することとする。
(1)引用発明並びに引用発明と本件特許発明との一致点及び相違点
以上の本件特許発明の解釈に加えて,刊行物2の記載(【0001】,【000
8】∼【0010】,【0012】,【0023】,【0024】,【0026】,
【0067】∼【0085】)及び証拠(乙99,100)によれば,引用発明並
びに引用発明と本件特許発明との一致点及び相違点は,次のとおりであると認めら
れる。
ア引用発明:1台のIC化されたホストと複数台のIC化されたリモートとが
シリアル通信線を介して,相互接続されて構成され,上記ホストから上記リモート
宛てに,出力データの組み込まれた下りパケットを一斉にサイクリックに自動的に
送信し,複数台のリモートの中から順次に択一的に選択される1台づつの上記リモ
ートから上記ホスト宛てに,入力データの組み込まれた上りパケットを逐次にサイ
クリックに自動的に送信するサイクリック自動通信方式のシステムであって,上記
ホストは,上記出力データと上記入力データとをそれぞれ読み取り可能に記憶する
送信用レジスタファイル♯1ないし8と受信用レジスタファイル♯1ないし8と,
上記下りパケットの送信と上記上りパケットの受信を制御する,ホストの内部の制
御回路とから成り,上記送信用レジスタファイル♯1ないし8と受信用レジスタフ
ァイル♯1ないし8は,i番目の下りパケットに組み込まれるi番目の出力データ
をi番目対応の送信用レジスタファイル♯iに読み取り可能に記憶し,i番目の上
りパケットに組み込まれていたi番目の入力データをi番目対応の受信用レジスタ
ファイル♯iに読み取り可能に記憶する送信用レジスタファイル♯1ないし8と受
信用レジスタファイル♯1ないし8であり,上記ホストの内部の制御回路及びリモ
ートの内部の制御回路は,i−1番目のリモート宛てのi−1番目の下りパケット
の送信が完了してから,i−1番目の上りパケットを受信した後に,タイムチャー
トに従って,上記送信用レジスタファイル♯iから読み取られたi番目の出力デー
タとi番目の局番とが組み込まれたi番目の下りパケットをシリアル通信線経由で
送信し,該i番目の下りパケットの送信の後に,i番目のリモートに割り当てられ
た期間に,i番目の入力データの組み込まれたi番目の上りパケットをi番目のリ
モートからシリアル通信線経由で受信し,該i番目の入力データをi番目対応の上
記受信用レジスタファイル♯iに書き込むことを特徴とし,上記リモートは,シリ
アル通信線経由で受信した上記i番目の下りパケットに組み込まれているi番目の
局番が自己の局番として設定されているi番目の局番と一致するときに,上記i番
目の下りパケットに組み込まれているi番目の出力データを出力用ラッチ回路での
ポート出力データとして出力するとともに,i番目のリモートに割り当てられた期
間に,入力用ラッチ回路からのポート入力データがi番目の入力データとして組み
込まれた上記i番目の上りパケットをシリアル通信線経由で送信することを特徴と
し,更に,上記i番目対応の送信用レジスタファイル♯iに読み取り可能に記憶さ
れている出力データのビット群の構成と上記出力用ラッチ回路から出力されるポー
ト出力データのビット群の構成とが同一形態であり,上記i番目対応の受信用レジ
スタファイル♯iに読み取り可能に記憶されている入力データのビット群の構成と
上記入力用ラッチ回路から入力されるポート入力データのビット群の構成とが同一
形態であり,前記送信用レジスタファイル♯1ないし8と受信用レジスタファイル
♯1ないし8内のデータビット群が,前記複数のリモート毎に記憶ファイルを分割
して設定したサイクリック自動通信方式のシステム
イ一致点:1台のIC化された中央装置と1台又は複数台のIC化された端末
装置とがデジタル通信回線を介して,相互接続されて構成され,上記中央装置から
上記端末装置宛てに,出力データの組み込まれた下りパケットを一斉にサイクリッ
クに自動的に送信し,1台又は複数台の端末装置の中から順次に択一的に選択され
る1台づつの上記端末装置から上記中央装置宛てに,入力データの組み込まれた上
りパケットを逐次にサイクリックに自動的に送信するサイクリック自動通信方式の
電子配線システムであって,上記中央装置は,上記出力データと上記入力データと
を読取り可能に記憶する記憶手段と,上記下りパケットの送信と上記上りパケット
の受信とを,制御する通信制御手段とからなり,上記記憶手段は,i番目の下りパ
ケットに組み込まれるi番目の出力データをi番目対応の出力データ記憶領域に読
取り可能に記憶し,i番目の上りパケットに組み込まれていたi番目の入力データ
をi番目対応の入力データ記憶領域に読取り可能に記憶する記憶手段であり,上記
通信制御手段は,i−1番目の端末装置宛てのi−1番目の下りパケットの送信が
完了してから,i−1番目の上りパケットの受領期間が経過した後に,上記記憶手
段のi番目対応の出力データ記憶領域から読み取られたi番目の出力データとi番
目の端末装置アドレス符号とが組み込まれたi番目の下りパケットをデジタル通信
回線経由で送信し,該i番目の下りパケットの送信が完了した後に,i番目の入力
データの組み込まれたi番目の上りパケットをi番目の端末装置からデジタル通信
回線経由で受信し,該i番目の入力データを上記記憶手段のi番目対応の入力デー
タ記憶領域に書き込むことを特徴とし,上記端末装置は,デジタル通信回線経由で
受信した上記i番目の下りパケットに組み込まれているi番目の端末装置アドレス
符号が自己の端末装置アドレス符号として設定されているi番目の端末装置アドレ
ス符号と一致するときに,上記i番目の下りパケットに組み込まれているi番目の
出力データを出力ポートでのポート出力データとして出力するとともに,入力ポー
トからのポート入力データがi番目の入力データとして組み込まれた上記i番目の
上りパケットをデジタル通信回線経由で送信することを特徴とし,さらに,上記記
憶手段のi番目対応の出力データ記憶領域に読取り可能に記憶されている出力デー
タのビット群の構成と上記出力ポートから出力されるポート出力データのビット群
の構成とが同一形態であり,上記記憶手段のi番目対応の入力データ記憶領域に読
取り可能に記憶されている入力データのビット群の構成と上記入力ポートから入力
されるポート入力データのビット群の構成とが同一形態であり,前記記憶手段内の
データビット群が,前記複数の端末装置毎に記憶手段領域を分割して設定したサイ
クリック自動通信方式の電子配線システム
ウ相違点1:本件特許発明では,通信方式が中央装置から端末装置にアドレス
符号を付したパケットを順次送信し,これに対して端末装置から中央装置にアドレ
ス符号を付したパケットを返信するコマンド・レスポンス方式であるのに対し,引
用発明では,通信方式が中央装置から端末装置にパケットをタイムチャートに従っ
て送信し,端末装置から中央装置にパケットを自己に割り当てられた期間に送信す
る時間同期方式である点
エ相違点2:本件特許発明では,中央装置の記憶手段が各端末装置に対応して
分割された出力データ及び入力データの記憶領域からなるメモリであるのに対し,
引用発明では,中央装置の記憶手段が端末装置ごとに個別に設けられた出力データ
用の送信用レジスタファイル♯1ないし8及び入力データ用の受信用レジスタファ
イル♯1ないし8のように個別のファイルからなる点
オ相違点3:本件特許発明では,通信制御手段が「プログラムによる通信制御
に基づかないで,回路の駆動で制御するステートマシーン」(構成要件B2)であ
るのに対し,引用発明では,通信制御手段がホストの内部の制御回路である点
カ相違点4:本件特許発明では,通信方式がフルデュープレックス方式及びハ
ーフデュープレックス方式であり(構成要件D),ハーフデュープレックス方式の
場合に,コマンドパケットが,受領期間が経過した「直後に」送信されるのに対し,
引用発明では,通信方式がハーフデュープレックス方式のみであり,下りパケット
が受領期間の単に「後に」送信される点
キ相違点5:なお,仮に本件訂正が認められた場合であっても,引用発明と本
件特許発明とは,複数台のIC化されていてかつ端末装置アドレス符号が設定され
る端末装置を有する点で一致する。したがって,この場合,本件特許発明では,端
末アドレス符号が外部から設定されるのに対し,引用発明では,どこから設定され
るか不明な点が相違する。
ク控訴人の主張について
以上に対して,控訴人は,引用発明のホスト及びリモートが,それぞれ本件特許
発明の中央装置及び端末装置に相当しない旨を主張し,その根拠として,引用発明
におけるパケットの送受信がタイムチャートにより行われていること,引用発明の
ホストが複数存在し得る(刊行物2の実施例6【0091】)こと,ホストとリモ
ートとの相違がデータバスの有無によることを挙げる。
しかしながら,まず,引用発明におけるパケットの送受信がタイムチャートによ
り行われる時間同期方式である点は,前記の相違点1として認定されているとおり
である。次に,刊行物2記載の実施例6は,操作ボード入出力I/Fに複数のサー
ボAMPを経てリモートに接続する実施例であるにすぎず,これから引用発明にお
いてホストが複数存在し得るものとまでは認めがたい。
むしろ,刊行物2によれば,引用発明は,信号入力装置及び信号通信装置に関す
るものであって(【0001】),実施例4においては,1台のホストに8台のリ
モートが接続され(【0067】),相互にシリアルデータの送受信を行うもので
あり(【0071】,【0077】∼【0084】),リモートからの入力データ
がホストのレジスタファイルに書き込まれる結果,ホストに接続されたCPUがリ
モートに接続された制御対象器機に対して,容易にアクセスできるようにしたもの
(【0085】)である。
以上によれば,引用発明のホスト及びリモートが本件特許発明の中央装置及び端
末装置に該当することは,明らかであって,ホストとリモートとの相違の1つにデ
ータバスの有無があることは,ホストがCPUに接続されていることによるもので
あるから,ホスト及びリモートが中央装置及び端末装置に相当するとの認定を妨げ
るものではない。
したがって,控訴人の上記主張は,いずれも採用できない。
(2)相違点1について
ア1台の中央装置と複数台の端末装置との間でデータの送受信を行う方式とし
て,中央装置から端末装置にアドレス符号を含む信号を順次送信し,これに対して
端末装置から中央装置に自己のアドレス符号含む信号を返信する通信方式(コマン
ド・レスポンス方式)は,複数の公開特許公報(乙85,86)に記載されていた
ことから,本件特許発明の出願時点で周知技術であったものと認められる。
そして,引用発明と本件特許発明とでは,1台の中央装置と複数台の端末装置と
の間のサイクリックな通信という点で共通していることに加えて,引用発明の時間
同期方式に代えて,本件特許発明の出願時点で周知技術であったコマンド・レスポ
ンス方式を採用し,本件特許発明の相違点1に係る構成を採用することには,阻害
要因が見当たらない。したがって,本件特許発明の相違点1に係る構成は,当業者
が容易に想到することができたものというべきである。
イ以上に対して,控訴人は,前記周知技術について,構成要件D及びEが示す
一連の通信動作を高速で行うものではないから,本件特許発明にいうコマンド・レ
スポンス方式とは異なる旨を主張する。
しかしながら,通信動作を高速で行うことは,中央装置と端末装置との間のパケ
ットの送受信に関する通信方式とは異なる他の構成(例えば,構成要件B2)の機
能によるものであって,本件特許発明の中央装置と端末装置との間の通信方式と,
乙85及び86に記載の通信方式とが異なるとまで認めるに足りない。
したがって,控訴人の上記主張は,採用できない。
ウまた,控訴人は,引用発明と乙36技術では制御主体が異なり,コマンド・
レスポンス方式では入力信号の変化をリアルタイムで認識しなければならず,ある
いは時間同期方式と乙36技術が別の通信技術であるから,両者を組み合わせるこ
とはできない旨を主張する。
しかしながら,前記アに認定のコマンド・レスポンス方式は,その操作にソフト
ウェアが必須であるとまでは認め難いばかりか,入力信号の変化の認識の可否やタ
イムチャート等の要否も,時間同期方式とコマンド・レスポンス方式との相違点で
あるにとどまり,これらの相違点が,引用発明とコマンド・レスポンス方式の組合
せを不可能にし,あるいは組合せについての阻害要因になるとまではいえない。
よって,控訴人の上記主張は,採用できない。
エさらに,控訴人は,引用発明において複数のホストが存在し得ることから,
引用発明に乙36技術(ないしコマンド・レスポンス方式)を適用することが不可
能である旨を主張する。
しかしながら,前記のとおり,刊行物2記載の実施例6は,操作ボード入出力I
/Fに複数のサーボAMPを経てリモートに接続する実施例であるにすぎず,これ
から引用発明においてホストが複数存在し得るものとまでは認め難い。
よって,控訴人の上記主張及びこれに立脚する主張は,採用できない。
(3)相違点2について
本件特許発明のように,中央装置のメモリに端末装置ごとの記憶領域を割り当て
ることは,本件特許発明の出願当時,公開特許公報(乙87)に見られるように周
知技術であったものと認められる。また,引用発明のホストに設けられた端末装置
ごとのレジスタファイルに代えて,記憶領域を割り当てられたメモリを採用するこ
とについては,阻害要因も見当たらない。
したがって,引用発明の相違点2に係る構成について本件特許発明の構成を採用
することは,当業者が容易に想到することができたものというべきである。
(4)相違点3について
刊行物2には,リモートにCPUを必要としないことが明記されており(【00
34】,【0035】),かつ,ホスト及びリモートのいずれにおいても内部の制
御回路が通信制御に関与している旨の記載がある(【0084】)。そして,ホス
トのCPUについては,ホストのレジスタファイルにおける送受信データの書き込
み及び読み取りに関与する旨の記載があるにとどまる(【0085】)ことに照ら
すと,引用発明のホストが通信制御に当たってCPUを必要とせず,制御回路のみ
によって行う可能性について示唆があるものといえる。
また,乙84には,1台の親局のみが単数又は複数の子局に対して一方的にデー
タを送信する際に,CPUを使用しない回路構成によって高速のデータ送信を可能
とする技術について記載があり,かつ,本件特許発明の「ステートマシーン」のよ
うに,ある作業をプログラムを必要とするマイクロプロセッサやCPUによらず,
むしろ回路の駆動すなわちハードウェアで制御することは,本件特許発明の出願当
時,当業者にとって周知技術であったものと認められる(乙90,91)。
以上によれば,当業者は,引用発明に乙84記載の技術及び周知技術である「ス
テートマシーン」を適用することで,本件特許発明の相違点3に係る構成を採用す
ることを容易に想到することができたというべきである。
(5)相違点4について
本件特許発明の通信方式は,フルデュープレックス方式及びハーフデュープレッ
クス方式の双方に関するものである一方,引用発明の通信方式は,ハーフデュープ
レックス方式のみに関するものであるが,これらの通信方式は,いずれも周知技術
である(乙61∼64)。したがって,当業者は,引用発明の通信方式から本件特
許発明のような双方の通信方式を容易に想到することができたというべきである。
また,前記のとおり,本件特許発明は,ハーフデュープレックス方式の場合,先
行するコマンドパケットの送信後,一定期間が経過すれば次のコマンドパケットを
送信することを「受領期間が経過した直後に」と表現しているものであるから,時
間同期方式を採用している引用発明が,受領期間が経過した「後に」次の下りパケ
ットを送信していることと,実質的な相違はない。
(6)相違点5について
なお,本件特許発明について本件訂正を認めるとともに引用発明との関係で容易
想到性を否定して本件特許を有効とした平成19年5月28日付け審決(乙99)
は,その後,知的財産高等裁判所平成19年(行ケ)第10220号同20年4月
21日判決(乙100)により取り消されたが,弁論の全趣旨によれば,当該判決
は,同年10月24日,上告不受理により確定したものの,特許庁に差し戻された
上記事件は,本件口頭弁論終結時点において,なお確定していない。
そこで,本件訂正の存在を仮定して相違点5について検討すると,端末装置に外
部からアドレス符号を設定することは,複数の公開特許公報(乙36,84∼8
6)にも見られるように周知技術である。したがって,本件訂正が存在するとした
場合であっても,当業者は,引用発明について本件特許発明の相違点5に係る構成
を採用することを容易に想到することができたというべきである。
(7)小括
以上のとおり,本件特許発明は,引用発明に乙84記載の技術及びその他の周知
技術を適用することで,当業者が容易に想到することができたから,本件特許は,
特許法29条2項,123条1項により無効にされるべきものであり,控訴人は,
特許法104条の3第1項により,被控訴人に対して本件特許権を行使することが
できないというべきである。
7結論
以上の次第であるから,被控訴人配線システムは,少なくとも構成要件D1を充
足しない上,本件特許は,特許無効審判により無効にされるべきものと認められる
から,いずれにしても控訴人の本件請求に理由はなく,本件控訴は棄却されるべき
ものである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官滝澤孝臣
裁判官高部眞規子
裁判官井上泰人

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