弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主       文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
 被告が原告に対し,平成12年1月17日付けでした平成9年分の所得税の決定処
分及び無申告加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。
第2 事案の概要
 本件は,原告が代物弁済によって所有権を取得した不動産を売却したことによって
短期譲渡所得を得たにもかかわらず,その申告がなかったとして,被告が前記の課
税処分をしたのに対し,原告が,当該不動産は譲渡担保として所有名義を取得したも
のであって,売却はその実行にすぎず,原告は何らの譲渡所得も得ていないと主張し
て,課税処分の取消しを求めた抗告訴訟である。
1 前提事実(当事者間に争いのない事実及び証拠によって明らかな事実)
(1) 原告の平成9年分所得税に関して,被告のした決定処分及び無申告加算税賦
課決定処分(以下「本件各処分」という。)並びにこれに関する不服申立て等の
経緯は,別表記載のとおりである(甲3)。
(2) 原告は,建築業を営むA工務店の代表取締役である。
 Bは,C商事の代表取締役である。
 Dは,もと十六銀行に勤務していたが,平成2年4月以降,A工務店の専務取
締役の地位にあり,総務及び経理を担当する傍ら,原告の個人資産についての
経理も若干担当していた(甲11)。
(3) 原告は,別紙1の物件目録記載の各土地(以下「本件各土地」という。)につ
き,平成4年3月4日受付をもって,Bから,同月3日代物弁済を原因とする所有
権移転登記を経由した(以下「本件登記」という。)。
(4) 原告は,平成9年2月24日,本件各土地を代金8000万円で二和住宅産業株
式会社に売却した(以下「本件売買」という。)。
(5) 原告は,本件売買の際,Bに対して680万円を支払った。
(6) 本件各土地の登記簿には,次の事項が記載されている(甲5,6,9,10)。
ア 昭和57年7月2日受付所有権移転(所有者 B,原因 同年4月15日相続)
イ 平成3年10月8日受付条件付所有権移転仮登記(権利者 A工務店,原因
 同月4日代物弁済)
ウ 平成4年3月4日受付(イの)仮登記抹消(原因 同年2月27日放棄)
エ 平成4年3月4日受付根抵当権設定(極度額 5000万円,債務者B,根抵
当権者 岐阜信用金庫,原因 同年2月27日設定)
オ 平成4年3月4日受付所有権移転(本件登記)
カ 平成7年4月21日受付根抵当権設定(極度額 1億1700万円,債務者 A
工務店,根抵当権者 岐阜信用金庫,原因 同月17日設定)
キ 平成9年3月12日受付(エ,カの)根抵当権抹消(原因 同日解除)
ク 平成9年3月12日受付所有権移転(所有者 二和住宅産業株式会社,原因
 本件売買,ただし,登記簿上の原因は平成9年3月12日売買)
(7) 原告とC商事,B及びBの母のE(甲3)は,平成4年1月16日,債権債務精算
合意確認書と題する書面(甲1,以下「本件合意書」という。)を作成した。本件合
意書の作成については,Dが文書を清書するなどして関与している(甲11)。
 本件合意書には,同日付けで原告のC商事等に対する貸付金3億円の債権
(連帯保証人B及びE)を確定する旨の記載のほか,以下のような記載がなされ
ている。なお,下線部分は手書きで挿入され,その他はタイプないしワープロで
記載されている(二重線は手書きで抹消された部分)。
「1 譲渡担保物件
 1 土地(阿児町国府和部3598-10外14筆 7876.59㎡)         
      所有者 C商事 700万円
 2 ゴルフ会員権 ひるがのC,C 所有者 B    450万円
          ひるがのC,C 所有者 E    450万円
          荘川G,C,C 所有者 B   1450万円
2 その他担保物件
1 土地(本件各土地)      所有者 B   5500万円
2 ヘリコプター
  ロビンソンJA7812    所有者 B   1000万円
  ロビンソンJA7813    所有者 B   1000万円
3 エアスパン株式1318株             300万円
       内訳 292株   所有者 E
          726株   所有者 B
          300株   所有者 C商事
4 株式 藤井株式会社    4万5000株 @500
     森田ポンプ株式会社 4万7000株 @600
54 ゴルフ会員権 郡上高原C,C 所有者 B    500万円
その他担保物件の処理に付いて
 2-1(本件各土地)はA工務店にて仮登記済であるが平成4年に債権者F
氏個人(原告)からの借入金に対し代物弁済に充当する。」
(8) 本件合意書に基づいて,本件登記が経由された。
(9) 原告の平成9年分の給与所得は703万5000円(源泉徴収税額57万2200
円),社会保険料控除額は100万3019円,配偶者控除額は38万円,扶養控
除額は38万円,基礎控除額は38万円であった。
2 本件の争点及びこれに関する当事者の主張
原告は本件各土地の所有者として本件売買を行ったか,それとも本件各土地の
譲渡担保権者としてその私的換価手続を行ったにすぎないか(本件合意書による
契約内容は,本件各土地に関する本来の代物弁済契約か,それとも実質的な譲
渡担保権設定契約か。)。
(1) 被告の主張
ア Bは,平成2年12月21日に,株式会社中部しんきんクレジットサービス(以
下「しんきんクレジット」という。)から7億円を借り入れた(以下「本件主債務」と
いう。)が,その際,株券等を担保として差し入れ,Eを連帯保証人としたほ
か,原告にも連帯保証人となることを依頼し,原告はしんきんクレジットに対し
てBの本件主債務を連帯保証した(以下「本件連帯保証債務」という。)。
 Bは,平成3年9月10日以降,本件主債務の利息の支払を停止して期限の
利益を喪失し,上記担保株式の価格も下落したため,原告は,しんきんクレジ
ットから本件連帯保証債務の履行を請求されるようになり,原告は,Bに対し
て本件連帯保証債務に関する事前求償権(以下「本件債務」という。)を行使
できる状態となった。
イ そこで,原告とBは,平成4年1月16日,本件債務のほか,C商事が原告な
いしA工務店に対して負っていた多額の債務の清算をする目的で,本件合意
書を作成し,その際,これによって,本件債務のうち5500万円の支払に代え
て本件各土地の所有権をBから原告に移転する旨の代物弁済契約を締結
し,同契約に基づいて本件登記を経由した。
ウ なお,原告は,本件売買の際,本件各土地を中古車等置き場として無償で
使用していたBに対し,除去費用名下に前記680万円を支払っているが,そ
のうち本件各土地上の物件の除去に要する費用は20万円程度である。
エ したがって,原告は,本件売買の代金額8000万円から本件各土地の取得
価額5500万円と上記除去費用20万円を控除した2480万円の短期譲渡所
得を得ているところ,この金額を前提に,前記1(9)の争いのない給与所得及
び所得控除等の金額を基礎として原告の平成9年分の所得税額を算定する
と,別紙2のとおり1056万8200円となり,ここから源泉徴収税額57万220
0円を差し引いた999万6000円が原告の納付すべき税額となって,ここから
1万円未満の端数を切り捨てた(国税通則法118条3項)金額に100分の15
を乗じて計算した149万8500円を無申告加算税として賦課決定すべきとこ
ろ,本件各処分はいずれも上記金額の範囲内でなされているから,適法であ
る。
オ 原告は,本件合意書によって本件各土地は譲渡担保に供されたにすぎない
と主張し,この根拠として,本件合意書には「譲渡担保」との記載がある旨主
張する。しかし,以下のとおり,本件各土地の所有権は,代物弁済によって完
全に原告に移転したと解すべきである。
(ア)本件合意書には,本件各土地を原告からの借入金の代物弁済に充当す
る旨の記載がなされているのであって,この記載からはその契約内容が代
物弁済であることが明らかである。また,本件合意書1項記載の物件につ
いては,「譲渡」(担保)という文字がわざわざ加筆訂正の形で追加されてい
るにもかかわらず,本件各土地を含む同2項記載の物件についてはそのよ
うな訂正がなされていないことからしても,本件各土地は譲渡担保に供され
たものではないと解すべきである。
(イ)Bは,本件合意書の作成された平成4年分の所得税の納税申告の際,本
件各土地の代物弁済に係る譲渡所得を申告している。
(ウ)原告は,岐阜北税務署に対して,平成5年2月から平成11年11月10日
までの間,本件各土地は代物弁済で取得した旨説明していた。
 原告は住宅地やゴルフ場開発を手がけており,土地取引に詳しいし,本
件合意書の作成に立ち会ったDも担保についての知識があるから,代物弁
済と譲渡担保を混同するとは考え難い。
(エ)原告は,本件合意書作成当時,既にA工務店名義で本件各土地について
の仮登記を経由していたにもかかわらず,あえてこれを抹消した上,原告に
所有権を移転する旨の本件登記を経由している。
(オ)原告は,前記1(6)カのとおり,原告への所有権移転登記後,Bに知らせる
ことなく,本件各土地に,A工務店を債務者とする極度額1億1700万円も
の根抵当権を設定している。
(カ)原告は,原告とBが本件各土地について買戻特約(甲2,以下「本件買戻
特約」という。)を締結していることを根拠に,本件合意書は譲渡担保の趣
旨であったと主張するが,本件買戻特約は原告が本件各土地を処分する
際の制約にすぎず,原告に所有権が移転したことと矛盾するものではな
い。
 むしろ,譲渡担保の合意がなされたのであれば,原告は,本件各土地に
ついて担保価値以上の権利を取得していないのであるから,あえて買戻し
の特約を合意する必要はなかったはずであり,かかる合意の事実は,原告
が完全に所有権を取得したことを裏付けるものである。
(キ)Bは,確かに本件合意書作成後も,本件売買の直前まで本件各土地を使
用しているものの,本件各土地上に存在していたヘリコプター格納庫を本
件合意書作成後に取り壊して撤去し,平成5年ころ以後は撤去が容易な中
古車置き場として本件各土地を使用していたものである。そして,原告とB
がそれまで密接な関係を有していたことからすれば,Bが本件各土地を無
償で使用していたことも不自然ではないから,この事実は本件各土地が譲
渡担保に供された事実を推認させるものではなく,本件合意書が本件各土
地の代物弁済を約したものであると解することと矛盾しない。
(ク)また,原告は,本件売買後,Bに対して680万円を支払っているが,これ
はBが原告から本件土地を買い戻して転売し,転売利益を得ることをもくろ
んでいたにもかかわらず,原告が本件売買をしてしまったところから,Bが
転売利益予定額の填補を求めて原告と交渉した結果,原告の利益の一部
の分配を受けることとなったためにすぎず,いわばBのごね得ともいうべき
金員であり,譲渡担保の清算金としての性質を有するものではない。
(ケ)仮に,原告主張のように,本件売買が譲渡担保権の実行であり,その代
金の内金1650万円が利息相当分であるならば,同金額を平成9年分の
雑所得として申告,納税すべきところ,原告は何らの申告もしていない。
(2) 原告の主張
ア 前記(1)アの事実は争わない。同イないしオは否認ないし争う。
 原告は,平成4年1月16日,Bとの間で,本件債務のうち5500万円の担保
として,本件各土地につき,担保期間を5年とする譲渡担保権を設定する旨の
契約を締結し,これに基づき本件登記が経由された。
 原告は,譲渡担保権設定後5年が経過したため,その実行として本件売買
を行い,売買代金から5年分の利息等を控除した残金680万円を譲渡担保
の清算金としてBに支払った。
 このように,原告は,単なる譲渡担保権者にすぎず,本件各土地の所有者
ではなかったから,本件売買により何らの譲渡所得も得ていない。
イ 本件合意書が譲渡担保権設定契約に関するものであることについては,こ
れを裏付ける以下のような事実が存する。
(ア)本件合意書には,手書きで「譲渡」(担保)との文言が挿入されている。な
るほど,当該文言は,本件各土地を含む「2 その他担保物件」欄に挿入さ
れたものではなく,1項に挿入されているが,本件合意書作成当時,B及び
Dは,1項と2項に記載された物件の性質の相違について,さほど厳密に区
別して行動していたわけではなく,むしろDは,1項と2項の全体をカバーす
るつもりで,冒頭である1項に「譲渡」の文言を挿入したものであるから,同
手書文言の存在は,本件各土地が譲渡担保に供されたことの一つの表れ
である。
(イ)原告とBは,本件合意書作成の直後に本件買戻特約を締結しているとこ
ろ,買戻約定の主たる機能は債権担保であり,このような特約の付された
譲渡は,担保目的,すなわち譲渡担保と解すべきである。
(ウ)Bは,本件合意書作成後も本件各土地を引き続き使用収益している。
(エ)譲渡担保については,いかなる法形式によるものであれ,清算義務を伴う
と解されているところ,原告は,本件売買後,売買代金から被担保債権55
00万円及びその5年分の利息1650万円等を控除した残金からBに対し
て680万円を清算金として交付し,忠実に清算義務を履行している。
(オ)本件合意書の作成された平成4年当時,本件各土地の時価は5500万
円をはるかに上回っていた。時価を大幅に下回る価格で土地を代物弁済
の目的とすることは通常あり得ないから,この事実は譲渡担保であることの
裏付けである。
第3 当裁判所の判断
1 前記前提事実に証拠(甲2ないし4,8,11,12,乙1ないし6,8,9)を総合すれ
ば,以下の事実が認められる。
(1) 原告とBは,昭和58年ころ,不動産取引に関連して知り合いとなり,そのころ
以降,C商事の扱う分譲住宅をA工務店が建築するといった取引関係を通じて
次第に親交を深め,ゴルフ場の開発事業や分譲住宅事業などの大規模な不動
産事業を共同して行うようになったほか,プライベートな面でも親密な関係となっ
た。しかし,Bは,以前行っていた紡績業関係で負担した債務の処理等に窮して
おり,原告と共同経営を行うようになって間もなく,原告からたびたび1000万円
単位の金員の借入れをするようになったほか,金融機関からの借入れにつき原
告に連帯保証を依頼するようになった(甲11,乙3,4)。
 Bは,平成2年12月21日,しんきんクレジットから本件主債務に係る7億円を
借り入れ,原告は同債務を連帯保証するに至ったが(乙5),Bは,平成3年に入
ると債務の担保として差し入れていた株式や土地の価格の下落等もあって債務
の返済に行き詰まり,同年9月10日の支払を最後に本件主債務の支払を停止
した(乙6)。このため,原告とBは,そのころ,B及びC商事の債務の弁済につい
て協議したが,当時,B及びC商事は合計約30億円の債務を負担していた上,
これら債務について差し入れていた担保も大幅な担保割れの状態にあり,事実
上破産状態であったため,原告とBは,Bが任意整理を行うことにより,原告に
対し,他の債権者よりも優先的に弁済をするという方針をとることで合意し,平成
4年1月16日に本件合意書を作成するに至った。
 なお,Bは本件各土地の時価を1億円から8000万円と評価していたことから,
5500万円の債務と清算することにちゅうちょを覚えたが,原告に対して迷惑を
かけたくない気持ちなどから,了解することとしたものである。
(2) 本件登記は,本件合意書による合意を原因関係として行われたが,当時,本
件各土地の地目は「田」であり,所有権移転登記をなすには地目変更が必要で
あったため,登記申請は本件合意書の作成から約1か月半を経過した同年3月
4日に行われた。その際,Bに対して貸付金債権を有していた岐阜信用金庫から
担保提供の要請を受けた原告の意向で,本件登記と同日,本件登記よりも先順
位で,本件各土地に,前記第2の1(6)エ記載の根抵当権(債務者をBとし,根抵
当権者を岐阜信用金庫とする極度額5000万円の根抵当権,以下「本件根抵当
権1」という。)の設定登記が経由されたが,Bはそのような根抵当権設定登記を
することについては消極的であった。
 また,原告は,岐阜信用金庫の要請を受け,平成7年4月21日,本件各土地
に前記第2の1(6)カ記載の根抵当権(債務者をA工務店とし,根抵当権者を岐阜
信用金庫とする極度額1億1700万円の根抵当権,以下「本件根抵当権2」とい
う。)の設定登記を経由したが,Bはかかる根抵当権設定契約及びその登記が
なされることを全く知らされておらず,同根抵当権設定契約及び登記は原告が独
断でなしたものである。
(3) Bは,平成5年3月15日,平成4年分の所得税の確定申告書を岐阜北
税務署に提出したが,その際,本件各土地を平成4年1月16日に原告に対して
5500万円で代物弁済したことによる譲渡所得を申告した。Bは,申告書に,売
却理由として,しんきんクレジット借入で株式投資に失敗,資力喪失し,保証人
の原告に代物弁済として引き渡した旨記載している(乙3の別添4)。
(4) 本件各土地上には,本件合意書作成以前から,ヘリコプター格納庫が設置
されていたが,Bは,平成5年ころ,これを取り壊し,その後は部品回収用の中古
車置き場として本件各土地を使用していた(乙3の別添7,8)。Bは,このような
本件各土地の使用に関し,原告との間で対価支払に関する何らの合意もしてい
ない。
(5) 原告とBは,本件合意書作成と同時に,本件買戻特約を締結した。本件買戻
特約の内容は大略次のとおりである(甲2)。
 平成4年1月16日の譲渡契約に基づく本件各土地について,譲渡人と譲受人
は,買戻期間を譲渡契約の日から5年以内,買戻代金5500万円との条件で買
戻しすることについて合意する。譲受人は本件各土地を譲渡人及び譲渡人の指
定する第三者に対してのみ譲渡することができる。
 譲渡人 C商事代表取締役 B
 譲受人 原告
(6) 原告は,本件買戻特約の買戻期間経過後,Bに本件各土地を処分する旨通
告した上,本件売買を行った。通告を受けたBは,急遽本件売買の価格である8
000万円よりも高額な8500万円で本件各土地を購入してくれる買手を探し出し
たが,その時点では既に本件売買が成立していたため,より高額な価格での売
却の機会を逸したことを理由に,原告に不服を述べるとともに,1000万円の支
払を要求した。これに対し,原告は,担保に取ったヘリコプターの売却代金の一
部が未払であるとして難色を示したが,半日にわたる交渉の結果,原告がBに
前記680万円を支払うことで合意に達した。
 この支払に際し,具体的な根拠等についての説明はなされなかったが,Dは,
後日,平成9年3月13日付けの精算書と題する書面(甲4,以下「本件精算書」
という。)を作成し,Bに送付した。Bは,本件精算書に署名して返送したが,その
内容は次のとおりである。
 処分価格                 8000万円
 買戻契約金額               5500万円
 固定資産税負担分     平成5年分 32万7300円
              平成6年分 32万7300円
              平成7年分 35万2000円
              平成8年分 35万2000円
              その他   34万1400円
 金利 5500万円×0.06×5カ年   1650万円
 返却金                   680万円
(7) 原告は,平成5年2月12日付けで,岐阜北税務署からの照会に対し,本件各
土地はBから平成4年3月3日に代物弁済で取得したものであり,代弁充当金額
は5500万円である旨の回答書(乙1)を提出している。
 また,原告は,平成11年9月16日,税務調査に訪れた名古屋北税務署特別
国税調査官付上席国税調査官のGに対し,本件各土地は本件合意書によって5
500万円の債権の代物弁済として取得したこと,本件各土地上に多くの廃車が
置いてあったので立退料としてBに680万円を支払ったこと,本件各土地には本
件根抵当権1が設定されているので,売買代金から上記代物弁済額を差し引い
た2500万円からさらにその被担保債権額5000万円を控除すると赤字となる
から,確定申告をしていない旨の説明をした(乙2)。これに対し,G調査官は,検
討の結果,本件根抵当権1設定当時,既にBが破産状態であったことから,本件
根抵当権1に係る債権額を譲渡所得から控除する旨の原告の上記主張は容れ
られず,短期譲渡所得として申告する必要がある旨説明したが,原告がこれに
応じなかったため,被告は本件各処分を行った。
 原告は,審査請求において,本件各土地は譲渡担保に供したものであると主
張するに至ったが,審理の際,清算内容については,売却代金8000万円か
ら,5500万円は債権回収分として,1820万円はC商事に対するヘリコプター
の売却代金の未収分及び本件各土地の固定資産税相当額の立替分として受
領し,残りの680万円はBに立退料として支払った旨答述した(甲3)。
2 そこで,以上の認定事実を前提に,争点について判断する。
(1) まず,本件合意書作成時における事情について検討する。
ア 前記のとおり,本件合意書には,本件各土地について,末尾に独立した項目
があり,他の担保物件とは区別して,これを原告個人からの借入金に対する
代物弁済に充当する旨が明記されているところ,本件合意書の作成に関与し
たDは以前銀行に勤務していた者,原告及びBも不動産取引を業として行っ
ていた者であるから,本来の代物弁済が,元々の給付の目的物以外の物を
給付することによって既存の債務を消滅させる要物契約であることを理解した
上で,本件合意書を作成したものと推認することができる。
 この点について,原告は,手書きで「譲渡」の文字が挿入されていることを根
拠に,本件各土地は譲渡担保に供されたにすぎない旨主張するところ,なる
ほど譲渡担保における権利移転の法形式として代物弁済が用いられることが
あるのは公知の事実である。しかしながら,同手書文言は,本件合意書の「1
 担保物件」欄に挿入されており,本件各土地を含む「2 その他担保物件」欄
には何らの書き込みもされていないところ,このような表示上の区別が設けら
れていることは,逆に,当事者が本件各土地について譲渡担保を設定する意
思を有しなかったことを推測させるというべきである。
イ そして,本件各土地には,前記のとおり,本件合意書作成時点においてA工
務店を権利者とする条件付所有権移転仮登記が経由されており,原告(側)
は既にその担保価値を把握していたのであるから,原告が,Bが事実上の破
産状態にあるにもかかわらず(一般に,担保権は,将来の債務不履行に備
え,それを停止条件として実行する趣旨で設定されるものである。),わざわざ
上記仮登記を抹消した上で,本件登記をしている事実は,本件合意書が本件
各土地の実質的な所有権の移転を目的として作成されたものであることを強
く推測させるというべきである。
ウ また,Bは,本件合意書作成後の確定申告において,本件各土地を代物弁
済により譲渡した旨の明細書を添付しているところ,本件合意書が単なる譲
渡担保権設定契約にすぎないのであれば,Bが当時このような申告をすべき
理由は全くない。他方,原告も,岐阜北税務署からの照会に対し,本件各土
地を代物弁済で取得した旨回答し,その後の税務調査においても,譲渡担保
であることを表明することがなかったことは,上記ア,イの推測を強めるものと
いえる。
エ 原告は,本件合意書作成と同時に本件買戻特約が合意されたこと自体が,
本件合意書の契約が担保目的であることを推認させると主張するところ,なる
ほど譲渡担保において,債務の弁済が行われた場合の権利復帰を明確にす
るため,買戻特約や再売買予約が付される例があることは公知の事実であ
る。しかしながら,譲渡担保における上記特約については,権利復帰を第三
者に対抗するため,登記(不動産登記法37条参照)されることが多いと思わ
れるところ,本件においてはこれがなされていない上,買戻特約といっても,そ
の内容はさまざまであり,単に転売相手の選定について元の所有者に一定の
関与の機会を与える趣旨にすぎない場合もあり得る(前記認定のとおり,本件
買戻特約は5年間売却を完全に禁止するものではなく,売却相手をBないしC
商事又はその指定する第三者に限定するとの内容である。)し,また,将来の
値上り時に利益に与かる機会を保障する趣旨のものもあるから,上記特約の
存在は,本件各土地が本来の代物弁済に供されたことと必ずしも矛盾しない
というべきである。
オ 次に,原告は,本件各土地の時価と代物弁済額が乖離しているとして,この
事実は本件合意書が譲渡担保権設定契約であることを推認させると主張す
るが,前記認定のとおり,本件合意書が作成されるに至った動機は,巨額の
債務を負担して破産状態にあったBが,連帯保証人として多大な迷惑をかけ
ている原告に対し,偏頗弁済をなそうとしたことによるのであるから,原告に有
利な条件で代物弁済がなされても何ら不自然ではない。
(2) 次に,本件合意書作成後の事情について検討する。
ア 前記のとおり,原告は,Bの意向に反して本件根抵当権1を,Bに無断で本
件根抵当権2をそれぞれ設定し,登記を経由しているところ,単なる譲渡担保
権者であれば担保不動産について把握している担保価値を超えるこのような
処分行為を行うことは許されないはずであり,原告がこれらの行為に及んでい
る事実は,原告が本件合意書によって本件各土地の完全な所有権を取得し
たことを示すというべきである。
イ 次に,原告は,Bが本件合意書作成後も本件各土地を使用収益してい
たことを根拠に,本件各土地は譲渡担保に供されていたにすぎないと主張す
るが,前記認定のとおり,原告がBと個人的に親密であり,多額の債務の連
帯保証までする関係にあって,Bも原告のために偏頗弁済を計画するなど,
相互に便宜供与し合っていたことからすれば,原告が,直ちに利用予定のな
い本件各土地を,転売までの間,無償でBに利用させることは何ら不自然で
はなく,このような使用貸借関係があることは,原告が本件合意書により本件
各土地の所有権を取得したと解することと矛盾しないというべきである。
ウ さらに,原告は,Bに対する680万円が譲渡担保の清算金であると主張する
が,本件売買代金から控除したと主張する被担保債権の5年分の利息につい
ては本件合意書のどこにも記載がないこと,上記金員は,Bがより高額に売
却する機会を逸したことを口実に,1000万円を要求したことに起因して支払
われていること,本件精算書はBとの事前ないし事後の合意に基づかず,D
が一方的に作成したもので,趣旨不明な「その他」名目の金員34万1400円
により帳尻が合わせてあったり,金利の根拠が不明であるなど不自然であっ
て,実体を反映したものとは到底認め難いこと,清算内容に関する原告の主
張は,前記認定のとおり,変遷していることなどを総合すれば,上記680万円
は,Bの不満を宥めるための解決金とでもいうべき性質の金員であり,具体的
な金額算出の根拠はないと認められるから,この点を根拠とする原告の主張
も採用し難い。
(3) 以上の認定,判断によれば,本件各土地の所有権は,本件合意書の作成に
よって,本件合意書の文言どおりに,原告がBに対して有していた5500万円の
債権の弁済に代えて,Bから原告に対し移転されたと認めるのが相当である。し
たがって,原告は本件売買による所得について,譲渡所得税を納付すべき義務
を負う。
3 以上の判断を前提として,原告が納付すべき所得税額等を検討するに,前記
前提事実によれば,本件売買が行われた年の属する年(平成9年)の1月1日時点
の原告による所有期間が5年未満であることは明らかであるから,租税特別措置
法32条によって,これに係る売買益は,分離課税の短期譲渡所得となる。
そして,原告の給与所得が703万5000円,社会保険料控除額が100
万3019円,配偶者控除額が38万円,扶養控除額が38万円,基礎控除額が38
万円であることは当事者間に争いがない(所得税法83条の2により,配偶者特別
控除は,各所得を合算した総額が1000万円を超える場合は適用されない。)の
で,これらを基礎数値として,所得税法87条2項,89条,租税特別措置法31条5
項,32条,国税通則法66条1項をそれぞれ適用して,原告が新たに納付すべき
所得税額及び無申告加算税額を算出すると,本件売買の経費としての性質を有す
る除去費用をBに対する支出全額の680万円としても,本訴における被告主張の
ように20万円の限度で認めることとしても,少なくとも別表の「本件各処分」欄に記
載の金額を下回らないことは計数上明らかである。
4 よって,本件各処分は適法であり,原告の本訴請求はいずれも理由がないか
ら棄却し,訴訟費用の負担につき行訴法7条,民訴法61条を適用して,主文のと
おり判決する。
名古屋地方裁判所民事第9部
裁判長裁判官加 藤  幸 雄
裁判官橋 本  都 月
裁判官富 岡  貴 美
別紙1
     物件目録
1 岐阜市大字長良字尾花1208番 雑種地 185平方メートル
2 同所1210番の2       雑種地 720平方メートル
別紙2
(1) 給与所得      703万5000円
(2) 分離短期譲渡所得     2480万円
(内訳)…所得税法33条,租税特別措置法32条
  本件売買による収入    8000万円
  取得費用 5500万円
  譲渡費用(除去費用) 20万円
(3) 所得控除関係  合計214万3019円    
(内訳)
  社会保険料控除100万3019円
  配偶者控除     38万円
  扶養控除           38万円
基礎控除           38万円
 (注)(1)+(2)が1000万円を超えるため配偶者特別控除の適用はない
…所得税法83条の2
(4) 課税所得金額   
 ①総所得金額 (1)-(3)=489万1000円(1000円未満の端数切り捨て)   …所
得税法87条2項,租税特別措置法31条5項
 ②分離短期譲渡所得金額   2480万円
(5) 税額
(4)①関係        64万8200円
…所得税法89条
(4)②関係    992万円
 …租税特別措置法32条
(6) 納付すべき税額999万6000円
 (5)-源泉徴収税額57万2200円

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