弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     原決定を次の通り変更する。
     相手方は、抗告人等の費用を以て、第三者をして原決定添付図面表示物
件中(ニ)の部分の開戸を取除かせることができる。
     抗告人等は、相手方に対し、前項の開戸取除きの費用として金三百円を
支払はねばならない。
     相手方其の余の申請を却下する。
     本件申請及び抗告の各費用は之を十分し其の九を相手方の其の一を抗告
人等の負担とする。
         理    由
 抗告代理人は「原決定を取消す。相手方の本件代替執行命令の申請を却下する。
抗告費用は相手方の負担とする」との裁判を求めその理由の要旨とするところは、
原決定は相手方(債権者)と抗告人等三名(債務者)との間の福岡地方裁判所昭和
二四年(モ)第一五七号仮処分異議事件の和解調書を債務名義とし相手方の申請に
基き為されたものであるが、次の事由によつて取消さるべきものである。即ち、
 (一) 右和解調書は、仮処分異議事件に於て作成されたもので、民事訴訟法第
五六〇条の執行名義たり得ないものである。蓋し、和解調書は確定判決と同一の効
力を有し、確定力を生ずるのであるから、一切の証拠方法を許さざる仮処分事件に
於て作成せられた和解調書が確定力を有すると云うが如きは許されないのである。
旧民事訴訟法第五五九条第三号によるも訴の提起後の和解とあつて、本案訴訟に於
ける和解調書たることを債務名義の要件としていることに見るも明らかである。従
つて、原決定が仮処分異議事件に於て作成された和解調書に基きなされたのは違法
たるを免れない。
 (二) 右和解調書によりて抗告人の負担する義務は、相手方に対し一定の権利
行使を認容するもので、積極的に一定の作為義務を負担したものではない。従つ
て、右債務名義に基き抗告人等に対し一定の作為義務の履行を命ずる原決定は、違
法である。
 (三) 原決定は、抗告人等に対し、原決定添付図面表示の(イ)の部分の硝子
戸・(ロ)の部分の開戸・(ハ)の部分の壁について各之が除去を命じているが、
これ等については既に抗告人等と相手方双方協議の上構築されたものであり、又抗
告人等に対し設備を命ずる前同(ホ)及び(ト)の部分の各開戸・(ヘ)及び
(チ)の部分の板壁は、右和解成立後四年間抗告人等と相手方との間に異議なく現
状の侭維持し来られたもので、今にして之が模様替を命ずるが如きは適当の処分を
逸脱する不法のものである。しかのみならず、昭和二十八年八月二十三日の現在の
状況よりすれば、抗告人等が相手方に対し本件和解調書に基いて負担する認容義務
は完全に履行せられ、相手方の権利行使を妨害するが如き事蹟はなく、その障害は
一切取除かれている。従つて、抗告人等に対し代替執行命令を求むる利益は喪失し
ているから、此点よりするも原決定は違法である。
 (四) 原決定に於て抗告人等に対し支払を命ぜられた費用査定の根拠は薄弱
で、その額は巨額に失し、不相当である。
 よつて、更に相当の裁判を求めるというにあつて、証拠として、乙第二十三号証
(福岡高等裁判所昭和二十七年(ネ)第一一六号第二審判決正本写)同第二十四号
証(最高裁判所昭和二十九年(オ)第五二〇号上告審判決正一本写)を提出した。
 一件記録に徴すると本件代替執行命令の基本たる債務名義は、相手方(債権者)
と抗告人等(債務者)との間の仮処分異議事件(福岡地方裁判所昭和二四年(モ)
第一五七号)に於て作成せられた和解調書であることが明らかである。よつて、抗
告人等主張の(一)乃至(四)の理由について順次判断する。
 一、 抗告理由(一)につき。民事訴訟法第二〇三条によれば、所謂裁判上の和
解は、通常の民事訴訟手続(判決手続)に於てのみこれを成立せしめ得るものであ
つて、附随手続たる保全訴訟においては、之を許さないかの様<要旨>にも見える。
而して、左様に解する説もないでもない様である。然し乍ら、裁判上の和解の性質
や起訴前の簡易裁判所の和解(同法第三五六条)の認められている趣旨など
に照せば、保全訴訟手続においても、いやしくも当事者聞において、争を止める為
に、訴訟物に関連して法律関係を調整するにつき意見の一致を見て、当事者双方が
その旨を裁判所に陳述する限りは、裁判所は、これにつき和解調書を作成し得るも
のと解すべきことは、むしろ当然である、と考えられる。本件に於て問題となつて
いる和解調書は、相手方が申請人、抗告人等が被申請人であるところの仮処分につ
き、抗告人等より異議を申立てた事件(福岡地方裁判所昭和二四年(モ)第一五七
号)に於て作成せられた別紙の通りの和解調書であるから、それが債務名義として
有効なことは殆んど疑を容れない。従つて、抗告人のこの点の主張は理由がない。
(ちなみに、若し右和解調書が無効であるならば、これにつき執行文の付与せられ
たことに対して異議を云うべきであつて、本件の様な執行方法に関する異議を主張
すべきではないのである。いずれにしても、抗告理由(一)は認容の余地はな
い)。
 二、 抗告理由(二)につき。本件和解調書正本によると、抗告人等が相手方に
対し右和解調書により負担する義務は、前記便所、水道及び一定範囲の炊事場の使
用権を容認する外、何等の積極的作為義務をも負担するものでないことは明らかで
ある。
 しかし乍ら、抗告人等に於て相手方に右使用権を容認する以上、抗告人等に於て
之が行使を妨害すべからざる不作為義務を負担するは勿論である。而して、若し抗
告人等の右不作為義務の違反により、何等か物的違法状態が生じた時は、之に対し
不作為義務に関する債務名義による執行として代替執行の方法により債務者の費用
を以て之を除却し得ると共に、将来の為適当なる処分を請求し得ることは、民法第
四一四条第三項の明規するところであるから、抗告人等の此の点の主張も採用が出
来ない。
 三、 抗告理由(三)について。抗告人等が前記和解調書によりて相手方に対し
負担する義務は、別件福岡地方裁判所昭和二十四年(ワ)第二五三号家屋明渡請求
事件(原告A被告B)の訴訟終了を終期とするものであること、及び右明渡事件に
於て相手方が家屋明渡を要せざることに確定した場合は、相手方は前記使用権の内
便所及び水道の使用を継続し得ることが認められる。ところで、抗告人等提出の乙
第二十三第二十四号証(前記家屋明渡請求事件の控訴審及び上告審に於ける各判決
正本)によれば、右訴訟事件は、A(抗告人)の控訴審に於ける敗訴判決に対する
上告棄却の判決の言渡により、昭和二十九年十二月十七日確定終了したことが明ら
かである。従つて、相手方は家屋明渡を要せざることに確定し、前記便所及び水道
の使用権については依然前記和解調書を債務名義としてその執行をなすことが出来
るけれども、前記炊事場の使用権については前記訴訟の終了によりその権利が消滅
したのであるから、右調書を債務名義として執行することは許されないものといわ
ねばならない。ところで抗告人等に対する原決定中添付図面表示の(ニ)の部分の
開戸は、右和解調書作成後抗告人Cが相手方の便所使用を妨げる目的を以て取付け
たものであることは、原審に於ける同抗告人の審訊の結果に徴し明かであるから、
右開戸は、相手方の便所使用を妨害する物的設備として、抗告人の費用を以て第三
者をして取除かしめることを命じたのは相当である。しかし乍ら、原判決に於て取
除きを命ずる原決定添付図面表示の(イ)の部分の硝子戸・(ロ)の部分の開戸・
(ハ)の部分の壁はいづれも相手方の水道及び便所の使用の障害となるものは認め
られず、また、原決定に於て新たに設備を命ずる原決定添付図面表示の(ホ)及び
(ト)の各開戸・(ベ)及び(チ)の部分に板壁にて各仕切を設けることは、いづ
れも相手方の水道及び便所の使用に対する妨害を防止する為の適当なる処置とは認
めることが出来ないから、共に違法で、之が代替執行は許すべからざるものであ
る。従つて、此の点に於ける抗告人等の主張は、原決定中前示(ニ)の開戸の取除
きを命ずる部分は理由がないが、其の余の設備の取除きと新たな処置を命ずる部分
はいづれも理由がある。
 四、 抗告理由(四)につき。前段説示の通り相手方は抗告人等に対して原決定
添付図面表示の(ニ)の開戸の取除きを第三者をしてなさしむることが出来るのみ
であるから、之が費用として抗告人等が相手方に支払うべき金額は本件記録編綴の
D作成の見積書の記載に照し金三百円を相当と認める。従つて此の点に関する抗告
人等の主張は原決定中抗告人等に対し右金額を超過する金員の支払を命じた部分に
限り理由がある。
 結語。
 よつて、相手方の本件申請を全部認容した原決定は一部失当であるから、之を変
更すべきものとし、申請費用及び抗告費用の負担につき、民事訴訟法第八十九条、
第九十二条、第九十三条、第九十六条を適用して主文の通り決定する。
 (裁判長判事 森静雄 判事 竹下利之右衛門 判事 高次三吉)
(別 紙)
<記載内容は末尾1添付>

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛