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平成19年5月30日判決言渡
平成18年(行ケ)第10315号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成19年4月25日
判決
原告X
訴訟代理人弁理士三好秀和
同小西恵
訴訟復代理人弁理士豊岡静男
被告特許庁長官
中嶋誠
指定代理人山本穂積
同赤穂隆雄
同高瀬勤
同山本章裕
同大場義則
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2002−10219号事件について平成18年5月22日
にした審決を取り消す。
第2争いのない事実等
1特許庁における手続の経緯
原告は,平成12年3月17日,発明の名称を「デジタルコンテンツの配
信方法およびデジタルコンテンツの配信システム」とする発明につき特許出
願(特願2000−76742号。以下「本願」という。)をし,平成14
年2月4日付け手続補正書をもって本願に係る明細書について特許請求の範
囲等を補正した(以下,この補正後の明細書を図面と併せて「本件明細書」
という。)。
特許庁は,本願につき拒絶査定をしたので,原告は,これを不服として審
判請求をした。
特許庁は,上記請求を不服2002−10219号事件として審理し,平
成18年5月22日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以
下「審決」という。)をし,その謄本は同年6月6日原告に送達された。
2特許請求の範囲の記載及び明細書の記載
(1)特許請求の範囲の記載
本件明細書の特許請求の範囲は,請求項1及び2からなり,請求項1の
記載は,次のとおりである(以下,請求項1に係る発明を「本願発明」と
いう。)。なお,争点箇所について,下線を引いた(以下同じ。)。
「【請求項1】ネットワークを利用して,売り手側のサーバから買い手
側のクライアントに,書籍を含む商品・サービスの内容をデジタルデー
タに変換したデジタルコンテンツを配信する方法であって,前記クライ
アントが,前記サーバに用意された複数の前記商品・サービスのアイテ
ムを表示し,この表示された中から任意のアイテムを選択して当該サー
バに要求することを買い手に促し,前記クライアントからの前記要求に
基づいて,前記サーバが,時限消滅プログラムを呼び出し,前記選択さ
れたアイテムに相当する商品・サービスの内容をデジタルデータに変換
したデジタルコンテンツを当該時限消滅プログラムに読み込んで当該時
限消滅プログラムによってのみ処理可能に組み込むとともに,当該時限
消滅プログラムが計時動作を開始し,前記デジタルコンテンツを組み込
んだ前記時限消滅プログラムを,前記サーバから前記クライアントにダ
ウンロードすることで配信し,前記配信後前記時限消滅プログラムにあ
らかじめ設定された所定時間が経過すると,当該時限消滅プログラムの
起動または動作ステップを契機として,当該時限消滅プログラムが消滅
確認用のデータを前記サーバへ送って自動的に消滅するとともに,当該
時限消滅プログラムに組み込まれた前記デジタルコンテンツも自動的に
消滅する,ことを特徴とするデジタルコンテンツの配信方法。」
(2)本件明細書(甲1,2)の記載
本件明細書には,以下の記載がある。
ア「すなわち,デジタルコンテンツの配信システム1のサーバ10に
は,ダウンロードされてから所定時間経過すると消滅する機能を有する
時限消滅プログラム(Dプログラム)が備えられ,このDプログラム
に,ダウンロードするデジタルコンテンツを組み込んで配信するように
なっている。しかも,ダウンロードするデジタルコンテンツは,Dプロ
グラムによってのみ処理可能に組み込まれているため,ダウンロードか
ら所定時間経過するまでの間に,他の適宜のプログラムによって,デジ
タルコンテンツだけがDプログラムから分離して読み取られたりコピー
されたりする虞がなく,また,ダウンロードから所定時間経過してDプ
ログラムが消滅するときは,Dプログラムと一体的に消滅するようにな
っている。」(段落【0028】)
イ「買い手が,ダウンロードしたDプログラムに対する各種の操作をク
ライアント20に行うと(ステップS24),クライアント20は,ダ
ウンロードしたDプログラムに設定してある所定時間が経過したか否か
を判断し(ステップS25),まだ経過してなければ,買い手の操作に
応じた各種の処理を実行する(ステップS26)。例えば,買い手が前
記アイコンをダブルクリックすると,Dプログラムが起動して,組み込
まれたデジタルコンテンツ(ダウンロードした書籍の内容)をクライア
ント20の画面に読書可能に表示させる。また,例えば,買い手がマウ
スまたはキーによりページめくり操作をすると,Dプログラムが動作し
て,デジタルコンテンツ(ダウンロードした書籍の内容)のページめく
りを行わせる。・・・Dプログラムの起動・動作によって,買い手は,
クライアント20の画面上で,デジタルコンテンツ(ダウンロードした
書籍の内容)を自由に読むことができる。」(段落【0039】,【0
040】)
ウ「【発明の効果】・・・ダウンロードするデジタルコンテンツは,時
限消滅プログラムによってのみ処理可能に組み込まれているため,ダウ
ンロードから所定時間経過するまでの間に,他の適宜のプログラムによ
って,デジタルコンテンツだけが時限消滅プログラムから分離して読み
取られたりコピーされたりする虞がなく,また,ダウンロードから所定
時間経過して時限消滅プログラムが消滅するときは,時限消滅プログラ
ムと一体的に消滅する。そのため,買い手は,書籍の定価に比べて割安
に設定される対価を支払って,サーバから配信されるデジタルコンテン
ツ(書籍の内容)をダウンロードすると,そのデジタルコンテンツが組
み込まれた時限消滅プログラムにあらかじめ設定された所定時間が経過
するまでは,画面に表示される書籍の内容を自由に読むことができ
る。」(段落【0051】)
3審決の内容
審決の内容は,別紙審決書写しのとおりである。要するに,本願発明は,
引用例1(特開平11−259574号公報。甲3),引用例2(特開平7
−253940号公報。甲4),引用例3(特表平9−506225号公
報。甲5),引用例4(特開平7−64786号公報。甲6)に記載された
発明及び周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができ
たものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない
としたものである。
審決は,本願発明と引用例1に記載された発明(以下「引用例1発明」と
いう。)との間には,次のとおりの一致点及び相違点があると認定した。
(一致点)
「提供者側から利用者側の装置に,書籍を含む商品・サービスの内容をデ
ジタルデータに変換したデジタルコンテンツを提供する方法であって,
前記提供者側が,商品・サービスの内容をデジタルデータに変換したデジ
タルコンテンツをあるプログラムによらなければ処理が不可能になるように
該プログラムと一体とし,
前記デジタルコンテンツを包含した前記プログラムを利用者側の装置に提
供し,
前記提供後あらかじめ設定された所定時間が経過すると,前記デジタルコ
ンテンツの利用者による利用が自動的に不可能になる,
ことを特徴とするデジタルコンテンツの提供方法。」である点。
(相違点1)
本願発明は,提供者と利用者が,売り手と買い手であるのに対して,引用
例1発明は,貸し手と借り手である点。
(相違点2)
本願発明は,提供者側から利用者側の装置に,書籍を含む商品・サービス
の内容をデジタルデータに変換したデジタルコンテンツを提供するのに,ネ
ットワークを利用して,売り手側のサーバから買い手側のクライアントに,
ダウンロードすることで配信するものであって,前記クライアントが,前記
サーバに用意された複数の前記商品・サービスのアイテムを表示し,この表
示された中から任意のアイテムを選択して当該サーバに要求することを買い
手に促し,前記選択されたアイテムに相当する商品・サービスの内容をデジ
タルデータに変換したデジタルコンテンツを配信するものであるのに対し
て,引用例1発明は,そのようなものではない点。
(相違点3)
本願発明は,サーバが,時限消滅プログラムを呼び出し,デジタルコンテ
ンツを当該時限消滅プログラムに読み込んで当該時限消滅プログラムによっ
てのみ処理可能に組み込むとともに,当該時限消滅プログラムが計時動作を
開始し,配信後前記時限消滅プログラムにあらかじめ設定された所定時間が
経過すると,当該時限消滅プログラムの起動または動作ステップを契機とし
て,当該時限消滅プログラムが消滅確認用のデータを前記サーバへ送って自
動的に消滅するとともに,当該時限消滅プログラムに組み込まれた前記デジ
タルコンテンツも自動的に消滅するものであるのに対して,引用例1発明
は,デジタルコンテンツが起動/終了プログラムによらなければ処理できな
いように,起動/終了プログラムをライセンス使用条件とともにデジタルコ
ンテンツを利用者が利用できない形に変換して包含したファイル構造のシェ
ル構造として提供し,提供後ライセンス使用条件にあらかじめ設定された所
定時間が経過すると,起動/終了プログラムがシェル構造中からデジタルコ
ンテンツを分離することすなわちデジタルコンテンツを逆変換して利用者が
利用できる形にすることを行わないようにするものであり,本願発明のよう
なものではない点。
4引用例1(甲3)の記載
(1)「【特許請求の範囲】」として,「【請求項1】アプリケーションソ
フトウェアを含むデジタルコンテンツと該コンテンツに付随するライセン
ス使用条件書とを用いて,デジタルコンテンツのライセンス流通管理を行
うライセンス管理方法において,前記デジタルコンテンツを使用するため
に,オペレーションシステム機能が稼働している状態を把握し,該デジタ
ルコンテンツの動作を監視し,時間貸し/回数貸しを含むPayperuseの
データや前記デジタルコンテンツの課金データを生成し,監視結果を,集
中管理型で運用されるライセンス管理センタに通知することにより,該ラ
イセンス管理センタと通信し,不正使用を防止することを特徴とするライ
センス管理方法。」,「【請求項2】主プログラムと起動/終了プログ
ラムとから構成されるリンク処理プログラムを分割し,該主プログラムを
オペレーションシステム拡張機能エリアに配置し,該起動/終了プログラ
ムをライセンス使用条件と共に,デジタルコンテンツを包含したファイル
構造としたシェル構造とし,ユーザから前記デジタルコンテンツの起動要
求が発行されると,前記シェル構造中のデジタルコンテンツを分離し,前
記起動/終了プログラムにより該デジタルコンテンツの起動及び終了を制
御すると共に,前記主プログラムと前記起動/終了プログラムとで,該デ
ジタルコンテンツの動作を監視し,監視結果を前記主プログラムにおい
て,前記ライセンス管理センタと通信する請求項1記載のライセンス管理
方法。」,「【請求項3】前記デジタルコンテンツの使用の終了を検知
すると,該デジタルコンテンツを前記シェル構造に戻す手段を含む請求項
2記載のライセンス管理方法。」,「【請求項4】前記起動/終了プロ
グラムが前記デジタルコンテンツの起動/終了を監視し,その監視結果を
前記主プログラムに通知し,前記主プログラムでは,前記監視結果に基づ
いて,前記デジタルコンテンツの使用時間,使用回数データを取得して,
前記ライセンス管理センタに通知する請求項2記載のライセンス管理方
法。」
(2)「【発明の属する技術分野】本発明は,・・・特に,ゲームソフトを含
むコンピュータアプリケーションソフトウェアや,ビデオ,アニメーショ
ン,コンピュータグラフィック,モーションキャプチャ等のデジタルデー
タや,電子スチル写真等のデジタル静止画や,電子音楽,MIDI等のデ
ジタルデータ等のデジタルコンテンツに対して,知的財産や使用条件等を
規定した該ライセンス使用条件書に基づいて,該デジタルコンテンツの動
作を監視し,該デジタルコンテンツの不正使用を防止すると共に,該デジ
タルコンテンツの時間貸し・回数貸し等のペイパーユース(Payperuse:
映像,文書,アプリケーションソフトウェア等のデジタルコンテンツを時
間や回数等によって貸し出す方式)を実現するオペレーションシステム(O
S)機能拡張エリアを用いたライセンス管理方法・・・に関する。」(段
落【0001】)
(3)「【従来の技術】映像素材を含むデジタルコンテンツのライセンス管理
を行う従来の方式としては,図8に示すように,ライセンス使用条件書2
000とデジタルコンテンツ3000をペア構造とした『映像情報検索方
法及びシステム(特願平7−173788)』が知られている。・・・こ
れらの方式は,映像素材に対するID,パスワード等の使用者資格情報,
肖像権,著作権等の知的財産に関する各種規定,ロイヤリティ,イニシャ
ル等の使用料金,・・・使用上の注意事項や,警告文等の使用者へのメッ
セージ情報等のライセンスを規定し,その取扱を説明するライセンス使用
条件書と当該デジタルコンテンツをペア(一対)もしくは,上記のリンク
処理プログラムでリンクすることによりライセンスを管理することができ
る。」(段落【0002】,【0003】)
(4)「【発明が解決しようとする課題】しかしながら,上記の従来の方式に
おいて,・・・デジタルコンテンツ3000の不正使用を防止する構造が
付随されていない。これにより,以下の問題点が生じる。第1の問題点と
して,デジタルコンテンツは単体で動作可能なため,コピーされて,該ラ
イセンス使用条件書を切り離されると,不正使用を防ぐ手段がない。第2
の問題点として,デジタルコンテンツ使用時に,ライセンス管理代理処理
部を停止されると,課金データを計算する手段が無くなるため,時間貸
し,回数貸し等のPayperuseを実現できなくなる。」(段落【0004
】,【0005】),「本発明は,・・・デジタルコンテンツの不正使用
の防止や,Payperuseライセンスの実現が可能なライセンス管理方法・
・・を提供することを目的とする。」(段落【0006】)
(5)「【発明の実施の形態】・・・本発明は,処理プロセス1000を主プ
ログラム1100と起動/終了プログラム1200に分離し,起動/終了
プログラム1200とライセンス使用条件書2000とで,デジタルコン
テンツ3000を包むようなファイル構造,即ち,シェル構造にし,当該
シェル10000を,OSで使用する各種の命令,機能を活用して主プロ
グラム1100で連結照合し,デジタルコンテンツ3000の動作を監視
できる構造を有することで,コンテンツの不正使用の防止やPayperuse
ライセンスを実現する。」(段落【0019】),「ここで,シェル構造
について説明する。・・・例えば,画像ファイルを利用者が閲覧しようと
する場合,その画像ファイルの形式(JPEG,GIF等)を表示できる
アプリケーションソフトウェアを利用することにより,当該画像ファイル
を容易に表示できる。この画像ファイルについて,OS機能拡張エリア1
50に組み込んだプログラムによりある変換を行って,アプリケーション
ソフトウェアによって表示できないファイルに置き換えてしまうことをシ
ェルに組み込む(装着する)と言う。一度シェルに組み込むと,OS拡張
エリア150に組み込んだプログラムによって,当該ファイルに逆変換を
かけること,即ち,シェルから分離(離脱)するまでは,当該逆変換後の
画像ファイルを表示できるアプリケーションソフトウェアは勿論のこと,
他のアプリケーションソフトウェアによっても正確な画像を表示できな
い。また,・・・例えば,ゲームソフトのような実行形式のソフトウェア
について,同様にOS機能拡張エリア150に組み込んだプログラムによ
りある変換を行う。即ち,シェルに組み込む(装着する)と,当該OS上
では利用者は実行することができなくなる。シェルに組み込んだファイル
を逆変換によりシェルから分離(離脱)すると,利用者が実行できる形式
のソフトウェアになる。」(段落【0020】,【0021】),「この
ように,利用者がデジタルコンテンツを利用できない形に変換することを
シェルに組み込む(シェル構造にする)といい,一度,シェル構造にした
デジタルコンテンツを逆変換して,利用者が利用できる形にすることをシ
ェルから分離(離脱)するという。ここで,前述の変換・逆変換の例とし
ては,・・・ファイルの圧縮・解凍の技術・アルゴリズムを用いた変換・
逆変換や,暗号化・復号化技術を用いた変換・逆変換が考えられ,その他
の方法,アルゴリズムであってもよい。」(段落【0022】),「さら
に,デジタルコンテンツ3000終了時には,シェル10000にデジタ
ルコンテンツ3000を組み込んで終了する。また,デジタルコンテンツ
が複数ある場合には,図6に示すように,主プログラム1100で複数の
ファイル構造,シェル構造を用いて管理することで,容易に実施可能であ
る。」(段落【0026】)
(6)「【実施例】以下,図面と共に本発明の実施例を説明する。図7は,本
発明の一実施例のライセンス管理システムの構成を示す。同図に示すライ
センス管理システムは,ユーザ端末10,ライセンス管理センタ20から
構成される。」(段落【0028】),「ユーザ端末10は,オペレーシ
ョンシステム2000とシェル10000から構成される。オペレーショ
ンシステム2000は,オペレーションシステム2000を介してシェル
10000を制御する主プログラム1100及び,OS機能170から構
成される。」(段落【0029】),「・・・シェル10000は,起動
/終了プログラム1200とライセンス使用条件書2000とを有する。
起動/終了プログラム1200は,端末入出力処理部1210,連結処理
部1220及び制御部1230から構成される。」(段落【0030
】),「これを動作させるには,シェル10000の起動/終了プログラ
ム1200の制御部1230の指令によって,端末入出力処理部1210
は,当該端末10に接続されたマウス等から入力されるデジタルコンテン
ツ3000の起動要求データとそのシェル10000の所在データを受け
取り,連結処理部1220に転送する。」(段落【0031】),「次
に,制御部1230の指令によって,連結処理部1220は,ライセンス
使用条件書2000とデジタルコンテンツ3000が対応しているか否
か,時間貸し/回数貸し等Payperuseの期限切れ等を検査し,その結
果,デジタルコンテンツ3000を動作させないのであれば,端末入出力
部1210にその結果データを転送する。」(段落【0032】),「端
末入出力処理部1210は,その結果をディスプレイ等から出力する。他
方,デジタルコンテンツ3000を動作させる場合には,連結処理部12
20を介して,主プログラム1100のコンテンツ動作監視処理部111
0内の起動/終了プログラム連結処理部111(判決注・「111」は「
1111」の誤記と認める。)に起動要求データを転送する。制御部11
40の指令によって,主プログラム1100の起動/終了プログラム連結
処理部1111は,シェル10000の連結処理部1220から受け取っ
た起動要求データをメモリ部1130に格納する。」(段落【0033
】),「制御部1140の指令によって,コンテンツ動作監視処理部11
10内の起動/終了プログラム連結部1111は,起動許可データを起動
/終了プログラム1200の連結処理部1220に転送する。制御部12
30の指令によって,連結処理部1220は,起動/終了プログラム連結
処理部1111から受け取った起動要求データからデジタルコンテンツ3
000をシェル10000と分離する。」(段落【0034】),「制御
部1140の指令によって,コンテンツ動作監視処理部1110は,OS
機能170を用いてデジタルコンテンツ3000の動作を監視し,その使
用時間,回数データ等をメモリ部1130に格納する。また,・・・コン
テンツ動作監視処理部1110は,デジタルコンテンツ3000の終了要
求データをOS機能170から受け取り,終了データをメモリ部114
0(判決注・「1140」は「1130」の誤記と認める。)に格納し,
通信処理部1130(判決注・「1130」は「1120」の誤記と認め
る。)にPayperuse等のデータをライセンス管理センタ20に転送す
る。」(段落【0035】),「また,制御部1140の指令によって,
コンテンツ動作監視処理部1110内の起動/終了プログラム連結処理部
111(判決注・「111」は「1111」の誤記と認める。)は,シェ
ル10000の起動/終了プログラム1200の連結処理部1220にデ
ジタルコンテンツ使用終了データを転送する。更に,制御部1230の指
令によって,連結処理部1220は,デジタルコンテンツ3000をシェ
ル10000に組み込む(装着する)。」(段落【0036】)
(7)「さらに,主プログラム1100とシェル10000をリンクさせてお
き,使用時だけ当該シェル10000からデジタルコンテンツ3000を
外すことが可能であるため,シェル10000によって,ユーザからデジ
タルコンテンツ3000に直接アクセスできないことになる。また,当該
デジタルコンテンツ3000使用中であっても,主プログラム1100に
おいて,コピー等を検知する機能を用いて,不正使用を防ぎ,著作権,肖
像権を守ることが可能である。」(段落【0037】),「つまり,利用
者が,アプリケーションを使用していない場合は,シェル構造により,利
用者から利用できないようにし,アプリケーションを利用中の場合は,利
用者がコピー等の不正な処理を行うことをOS機能170のタスク処理に
定期的に割り込みをかけて主プログラム1100が現在行われているタス
ク(コピー等)の情報を取り出し,利用者が不正な処理を行うことを強制
的に中断処理することにより不正使用をブロックする。」(段落【003
8】)
(8)「【発明の効果】・・・本発明のOS機能格納エリアを用いた,ライセ
ンス管理システムによれば,以下のような効果を奏する。デジタルコンテ
ンツをシェルプログラムで包み込んでしまい,主プログラムと,シェルプ
ログラムをリンクし,使用時だけシェルプログラムからデジタルコンテン
ツをはずす構造から,シェルによってユーザからデジタルコンテンツに直
接アクセスできないこと,使用時にも主プログラムが例えば,ウィルスチ
ェック技術のようにコピー等を検知する機能を持たせることで,不正使用
を防ぎ,著作権,肖像権を守ることができる。また,OSの機能拡張エリ
アに主プログラムを組み込む構造とすることにより,主プログラムをデジ
タルコンテンツ使用途中で停止することはできず,常にデジタルコンテン
ツの動作を監視することが可能であり,例えば,主プログラムがアプリケ
ーション起動や終了を検知することで,常時,時間貸し,回数貸し等のPay
peruseを実現できる。」(段落【0040】,【0041】)
第3当事者の主張
1取消事由についての原告の主張
審決には,本願発明と引用例1発明との一致点の認定の誤り(取消事由
1),相違点3の認定の誤り(取消事由2),相違点3の容易想到性判断の
誤り(取消事由3)があり,その結果,当業者が容易に本願発明をすること
ができたとの誤った判断をした違法がある。
(1)取消事由1(一致点の認定の誤り)
以下のとおり,本願発明と引用例1発明とは「商品・サービスの内容を
デジタルデータに変換したデジタルコンテンツをあるプログラムによらな
ければ処理が不可能になるように該プログラムと一体とする」点で一致す
るとした審決の認定には,誤りがある。
ア本願発明(請求項1)の「デジタルコンテンツを当該時限消滅プログ
ラムに読み込んで当該時限消滅プログラムによってのみ処理可能に組み
込む」の「処理」とは,プログラムにコードとして記述される機能を介
して,デジタルコンテンツについて「表示,編集等の操作を行うこと」
を意味すると解すべきである。
請求項1は,(買い手は,)同項所定の「デジタルコンテンツ」
を,「時限消滅プログラム」を分離して,すなわち「時限消滅プログラ
ム」を介することなく,他のブラウザ等のプログラムを使用することに
よって,表示・編集等の操作をすることはできない旨を規定している。
このことは,本件明細書(甲1,2)から明らかである。
すなわち,本件明細書には,「ダウンロードするデジタルコンテンツ
は,Dプログラムによってのみ処理可能に組み込まれているため,ダウ
ンロードから所定時間経過するまでの間に,他の適宜のプログラムによ
って,デジタルコンテンツだけがDプログラムから分離して読み取られ
たりコピーされたりする虞がなく」(段落【0028】),「例えば,
買い手が前記アイコンをダブルクリックすると,Dプログラムが起動し
て,組み込まれたデジタルコンテンツ(ダウンロードした書籍の内容)
をクライアント20の画面に読書可能に表示させる。また,例えば,買
い手がマウスまたはキーによりページめくり操作をすると,Dプログラ
ムが動作して,デジタルコンテンツ(ダウンロードした書籍の内容)の
ページめくりを行わせる。」(段落【0039】),「【発明の効果】
・・・また,書籍自体の配達工程が伴わず,デジタルコンテンツ(書籍
の内容)の配信の対価が,その書籍自体を販売する場合の定価に比べて
割安に設定できる。すなわち,ダウンロードするデジタルコンテンツ
は,時限消滅プログラムによってのみ処理可能に組み込まれているた
め,ダウンロードから所定時間経過するまでの間に,他の適宜のプログ
ラムによって,デジタルコンテンツだけが時限消滅プログラムから分離
して読み取られたりコピーされたりする虞がなく,また,ダウンロード
から所定時間経過して時限消滅プログラムが消滅するときは,時限消滅
プログラムと一体的に消滅する。そのため,買い手は,書籍の定価に比
べて割安に設定される対価を支払って,サーバから配信されるデジタル
コンテンツ(書籍の内容)をダウンロードすると,そのデジタルコンテ
ンツが組み込まれた時限消滅プログラムにあらかじめ設定された所定時
間が経過するまでは,画面に表示される書籍の内容を自由に読むことが
できる。」(段落【0051】)などの記載から明らかである。
イこれに対して,引用例1(甲3)の記載(請求項2,段落【0022
】,【0034】,【0036】∼【0038】)によれば,引用例1
発明では,利用者がデジタルコンテンツを表示,編集等の操作をする際
には,デジタルコンテンツは,シェルから分離されて,自由にブラウ
ザ,エディタ等からアクセス可能になるのであって,「起動/終了プロ
グラム」(本願発明の「時限消滅プログラム」に相当)を介してのみ,
表示・編集等の操作が実現されるものではない。むしろ,引用例1にお
いては,デジタルコンテンツの視聴中には,主プログラム1100が割
り込みにより実行状況を監視し,起動/終了プログラムの連結処理部1
11はコンテンツの使用終了を監視しているだけである。
ウしたがって,引用例1においては,起動/終了プログラムを介してデ
ジタルコンテンツの表示・編集等の操作を行う「処理」をしておらず,
引用例1発明は,「デジタルコンテンツをあるプログラムによらなけれ
ば『処理』が不可能になるように該プログラムと一体とする」構成を有
していないから,本願発明と引用例1発明とは,上記構成部分において
相違する。審決が,本願発明と引用例1発明とが,上記構成を有する点
で一致すると認定した点には,誤りがある。
(2)取消事由2(相違点3の認定の誤り)
審決は,相違点3において,引用例1発明について「引用例1発明は,
デジタルコンテンツが起動/終了プログラムによらなければ処理できな
い」構成を有するものと摘示している。しかし,前記(1)のとおり,引用例
1においては,起動/終了プログラムを介してデジタルコンテンツの表示
・編集等の操作を行う「処理」をしていないから,審決の認定した相違点
3のうち,引用例1発明について,上記の構成を有していると摘示した部
分には誤りがある。
(3)取消事由3(相違点3についての容易想到性判断の誤り)
審決は,以下のとおり述べて,相違点3に係る本願発明の構成が容易想
到であると判断した。すなわち,
①引用例2には,「利用者側装置では,前記プログラムに設定されてい
る日限になったところで,前記プログラムが起動され,提供された自己
消去機能付きソフトウェアが前記プログラムを含めて消去されることが
記載されて」いる(審決書11頁末行∼12頁3行)
②引用例3には,「書籍のデジタルコンテンツをメモリに記憶する表示
装置において,該書籍のデジタルコンテンツを処理可能なソフトウェア
に,書籍のデジタルコンテンツがメモリに記憶されてから予め定められ
た期間が経過すると,書籍のデジタルコンテンツを自動的に消去する機
能の構成が記載されている」(同12頁5行∼9行)
③引用例1発明において,「提供後あらかじめ設定された所定時間が経
過すると,デジタルコンテンツの利用者側による利用を自動的に不可能
にするのに,引用例2に記載された上記の技術的事項及び引用例3に記
載された上記の技術的事項を適用して,起動/終了プログラムを,該プ
ログラムにあらかじめ所定時間が設定され,提供後所定時間が経過する
と,提供された該プログラム自身とデジタルコンテンツとを自動的に消
去する機能を持つデジタルコンテンツを処理可能なプログラムとするこ
とは,当業者が容易に推考し得た」(同12頁9行∼16行)
④「あらかじめ設定された所定時間の計時の開始の時期は提供者により
決定されるものであるから,プログラムの計時動作の開始をデジタルコ
ンテンツを一体としたときとすることは,当業者が必要に応じて適宜に
なし得た」(同12頁21行∼24行)
しかし,以下のとおり,審決の認定及び判断には,誤りがある。
ア引用例2の記載内容の誤認
審決が,引用例2において「提供された自己消去機能付ソフトウェア
を前記プログラムを含めて消去することも記載されて」いると認定した
点は,以下のとおり誤りである。
(ア)引用例2(甲4)における「自己消去機能プログラム」は,実行
可能モジュールである商用ソフトウェアと一体としてリンクされるも
のではなく,単に商用ソフトウェアに利用可能な日限を設定し,日限
が到来していない場合に該ソフトウェアを呼び出す命令を記述するの
みの別プログラムであって,入手側端末装置2内でも別記憶領域に格
納されるものとして記載されており(段落【0041】,【0043
】),引用例2には,「前記プログラムを含めて消去する」との構成
について一切記載も示唆もない。
(イ)そもそも,本願発明において,時限消滅プログラムが消滅する
と,これに伴って組み込まれたデジタルコンテンツも時限消滅プログ
ラムと一体的に消滅するのは,「デジタルコンテンツを時限消滅プロ
グラムに読み込んで当該時限消滅プログラムによってのみ処理可能に
組み込まれている」構成を備えたことに由来する結果である。
引用例2においては,かかる前提となる構成を欠いているので,ソ
フトウェア(本願発明における「デジタルコンテンツ」に相当)を消
去する構成のみが開示されているにすぎず,ソフトウェアを読み込ん
だ自己消去機能付プログラムの消去操作を記載又は示唆するものとは
いえない。
(ウ)引用例2(甲4)においては,利用者が流通されるべき商用ソフ
トウェアのライセンスを購入した時点とは一切関わりなく,固定的な
日限が自己消去機能プログラム中に設定されているだけであって(段
落【0041】),日限到来までのカウンタを起動するトリガーを動
的に与えることができるものではない。
(エ)この点,被告は,引用例2において,自己消去機能付ソフトウェ
ア自体が消去されると自己消去機能付ソフトウェアに内在する自己消
去機能を持つプログラムも消去されると主張するが,引用例2の段落
【0006】,【0012】,【0015】,【0023】,【00
41】,【0044】によれば,消去する「ソフトウェア自体」と
は,自動消去機能が付属する前のソフトウェアと解するのが相当であ
り,ソフトウェアのみが消去され,自己消去プログラムは消去されな
い。
イ容易想到性判断の誤り
(ア)引用例2には,前記アのとおり,「提供された自己消去機能付ソ
フトウェアを前記プログラムを含めて消去すること」の記載も示唆も
なく,また,引用例1及び引用例2には,本願発明における「デジタ
ルコンテンツを時限消滅プログラムによってのみ処理可能に組み込
む」構成の記載も示唆もないから,引用例1に引用例2を適用して
も,「デジタルコンテンツを当該時限消滅プログラムに読み込んで当
該時限消滅プログラムによってのみ処理可能に組み込むととも
に」,「前記時限消滅プログラムにあらかじめ設定された所定時間が
経過すると,当該時限消滅プログラムの起動または動作ステップを契
機として,当該時限消滅プログラムが消滅確認用のデータを前記サー
バへ送って自動的に消滅するとともに,当該時限消滅プログラムに組
み込まれた前記デジタルコンテンツも自動的に消滅する」という相違
点3に係る本願発明の構成には容易に想到し得るものではない。
(イ)引用例3(甲5)には,ビューワ266に表示されるべき書籍
が,システム・オペレータによって決定される予め定義された時間期
間だけメモリ728に保持される構成の記載がある(40頁25行∼
41頁3行)にすぎず,「流通されるべきソフトウェアの自動的消滅
のトリガーが,クライアントからの選択されたアイテムの送信要求に
よって与えられ,これに応答して,サーバにおいて,該ソフトウェア
に付加されるべき自己消去機能プログラムが計時動作を開始し,クラ
イアントにおいて,計時動作の開始から,該自己消去機能プログラム
にあらかじめ設定された所定時間が経過するとソフトウェアが自動的
に消滅する」という構成については,一切記載も示唆もない。
また,前記ア(ウ)のとおり,引用例2も,利用者が流通されるべき
商用ソフトウェアのライセンスを購入した時点とは一切関わりなく,
固定的な日限が自己消去機能プログラム中に設定されているだけであ
って,日限到来までのカウンタを起動するトリガーを動的に与えるこ
とができるものではない。
そうすると,引用例1に引用例2及び引用例3を適用しても,クラ
イアントの配信要求をトリガーに時限消滅プログラムが計時動作を開
始し,サーバとクライアントが同期してデジタルコンテンツの有効期
限を管理できるという効果を奏する,相違点3に係る本願発明の構
成(「デジタルコンテンツを当該時限消滅プログラムに読み込んで当
該時限消滅プログラムによってのみ処理可能に組み込むとともに,当
該時限消滅プログラムが計時動作を開始し」との構成。すなわち,審
決がいう「プログラムの計時動作の開始をデジタルコンテンツを一体
としたときとすること」)に容易に想到し得るものではない。
2被告の反論
(1)取消事由1に対し
本願発明の特許請求の範囲(請求項1)記載の「当該時限消滅プログラ
ムによってのみ処理可能に組み込む」とは,「当該時限消滅プログラムに
よってのみ処理可能に」なることを意味するにとどまり,デジタルコンテ
ンツを処理できるプログラムが,当該時限消滅プログラムに限られるとい
うことを意味するものではない。
すなわち,請求項1の「当該時限消滅プログラムによってのみ処理可能
に」とは,処理する動作主体を特定するものではなく(「時限消滅プログ
ラム『だけが』処理可能に」と記載されているわけではない。),時限消
滅プログラムを介在させることによってのみ,デジタルコンテンツが処理
可能な状態になることをも意味しているものと解され,処理自体に時限消
滅プログラム以外のプログラムが関与することを排除するものではない。
原告主張の本件明細書の記載部分(段落【0028】,【0039】)
は,本願発明の一実施形態に関するものであり,請求項1記載の「当該時
限消滅プログラムによってのみ処理可能に組み込む」ことの内容を定義す
るものではなく,これを限定して解釈する理由はない。
したがって,審決の一致点の認定の誤りをいう原告の主張は,失当であ
る。
(2)取消事由2に対し
審決が,相違点3において,引用例1発明について「引用例1発明は,
デジタルコンテンツが起動/終了プログラムによらなければ処理できな
い」構成を有すると摘示した点には,以下のとおり誤りがない。
引用例1(甲3)においては,起動/終了プログラムによらなければ,
ユーザ端末に提供されたシェル構造のデジタルコンテンツは,シェルから
分離されず,処理できないものであり,貸し手側は,起動/終了プログラ
ムによらなければ,デジタルコンテンツが処理できないように,起動/終
了プログラムをライセンス使用条件とともにデジタルコンテンツを利用者
が利用できない形に変換して包含したファイル構造のシェル構造として借
り手側のユーザ端末に提供しているので(請求項2,段落【0022】,
【0030】∼【0034】,【0036】,【0037】),引用例1
発明は,「デジタルコンテンツが起動/終了プログラムによらなければ処
理できないように」との構成を有する。
したがって,相違点3の認定の誤りをいう原告の主張は,失当である。
(3)取消事由3に対し
ア引用例2の記載内容の誤認について
引用例2(甲4)に,提供側端末装置において,検索したソフトウェ
アに自己消去機能を持つプログラムを付加して自己消去機能付ソフトウ
ェアが作成されること(段落【0023】),入手側端末装置におい
て,自己消去機能付ソフトウェアの自己消去機能に持たせている消去条
件が成立すると当該自己消去機能が起動して自己消去機能付ソフトウェ
ア自体を消去すること(段落【0012】,【0015】,【0044
】)などの記載があることによれば,引用例2において,自己消去機能
付ソフトウェア自体が消去されると自己消去機能付ソフトウェアに内在
する自己消去機能を持つプログラムも消去されることは明らかである。
したがって,引用例2に「提供された自己消去機能付ソフトウェアを
前記プログラムを含めて消去することも記載されて」いると認定した審
決に誤りはない。
イ容易想到性判断の誤りについて
(ア)まず,①前記アのとおり,引用例2には,「提供された自己消去
機能付ソフトウェアを前記プログラムを含めて消去すること」の技術
的事項が記載されており,上記技術的事項は,ソフトウェアの流通に
限らず,文書のデジタルコンテンツの流通にも適用できることは自明
であり,また,②引用例3(甲5)には,書籍のデジタルコンテンツ
をメモリに記憶する表示装置において,該書籍のデジタルコンテンツ
を処理可能なソフトウェアに,書籍のデジタルコンテンツがメモリに
記憶されてから,あらかじめ定められた期間が経過すると,書籍のコ
ンテンツを自動的に消去する機能を持たせること,すなわち,提供さ
れたデジタルコンテンツを提供後,あらかじめ定められた期間が経過
すると消去することの技術的事項が記載されている。
そうすると,引用例1発明において,引用例2記載の上記技術的事
項及び引用例3記載の上記技術的事項を適用して,「提供後あらかじ
め設定された所定時間が経過すると,デジタルコンテンツを利用者が
利用できないようにするのに,提供されたデジタルコンテンツが起動
/終了プログラムを含めて消去されるように,起動/終了プログラム
を,該プログラムにあらかじめ所定時間が設定され,提供後該所定時
間が経過すると,提供された該プログラム自身とデジタルコンテンツ
とを自動的に消去する機能を持つ起動/終了プログラム」とすること
は,当業者が,容易に推考し得たことといえる。
(イ)次に,本願発明の特許請求の範囲(請求項1)における「前記ク
ライアントからの前記要求に基づいて,前記サーバが,時限消滅プロ
グラムを呼び出し,前記選択されたアイテムに相当する商品・サービ
スの内容をデジタルデータに変換したデジタルコンテンツを当該時限
消滅プログラムに読み込んで当該時限消滅プログラムによってのみ処
理可能に組み込むとともに,当該時限消滅プログラムが計時動作を開
始し,」における「計時動作を開始」するタイミングについては,デ
ジタルコンテンツを時限消滅プログラムに読み込んで組み込むより前
に,時限消滅プログラムが計時動作を開始することは不自然であるか
ら,デジタルコンテンツを時限消滅プログラムに読み込んで組み込む
と,それに応答して,時限消滅プログラムが計時動作を開始すると理
解するのが相当である。
したがって,本願発明は,「流通されるべきソフトウェアの自動的
消滅のトリガーが,クライアントからの選択されたアイテムの送信要
求によって与えられ,これに応答して,サーバにおいて,該ソフトウ
ェアに付加されるべき自己消去機能プログラムが計時動作を開始」す
るとの解釈を前提として,審決の相違点3に係る本願発明の構成の容
易想到性の判断に誤りがあるとする原告の主張は,請求項1の記載に
基づくものではなく,失当である。
(ウ)さらに,本願発明の「デジタルコンテンツを当該時限消滅プログ
ラムに読み込んで当該時限消滅プログラムによってのみ処理可能に組
み込む」との構成は,「デジタルコンテンツを時限消滅プログラムに
より変換して,当該時限消滅プログラムによる逆変換によってのみ処
理可能な状態になるようにし,時限消滅プログラムをデジタルコンテ
ンツを包含したファイル構造とすること」を含むというべきである。
したがって,引用例1発明における「起動/終了プログラムを,該プ
ログラムにあらかじめ所定時間が設定され,提供後該所定時間が経過
すると,提供された該プログラム自身とデジタルコンテンツとを自動
的に消去する機能を持つ起動/終了プログラム」は,本願発明の上記
構成に含まれるというべきである。
そして,引用例1発明において,「起動/終了プログラムを,該プ
ログラムにあらかじめ所定時間が設定され,提供後該所定時間が経過
すると,提供された該プログラム自身とデジタルコンテンツとを自動
的に消去する機能を持つ起動/終了プログラムと」する際に,あらか
じめ設定された所定時間の計時の開始をいつの時期にするかは,提供
者によって必要に応じて決められ,「起動/終了プログラム」に設定
されるものであるから,該起動/終了プログラムの計時動作の開始を
デジタルコンテンツを組み込んだときとすることは,当業者が必要に
応じて適宜になし得たことといえる。また,消滅動作を行う契機の基
となる所定時間が「起動/終了プログラム」に設定されるのであるか
ら,消滅動作の契機を「起動/終了プログラム」の起動または動作ス
テップとすることは自明のことである。さらに,引用例4(甲6)
に,プログラム利用契約管理方法において,プログラムの利用契約の
終了に伴って,ユーザは,プログラムの消去を行うとともに,消去確
認用のデータをライセンサに送ることが記載されており,消去確認用
のデータを提供者に送ることは,ユーザによる消去に限らず,利用者
側装置における自動的な消去にも適用できることであるから,消去動
作に伴って消去確認用のデータを提供者側装置に送るようにすること
も,当業者が適宜になし得たことである。
(エ)以上のとおり,引用例1発明において,「起動/終了プログラ
ム」を,該プログラムにあらかじめ所定時間が設定され,提供後該所
定時間が経過すると,提供された該プログラム自身とデジタルコンテ
ンツとを自動的に消去する機能を持つ「起動/終了プログラム」,す
なわち,時限消滅プログラムとした上で,時限消滅プログラムの計時
動作の開始をデジタルコンテンツを組み込んだときとし,消滅動作の
契機を該時限消滅プログラムの起動または動作ステップとし,消去動
作に伴って消去確認用のデータを提供者側装置に送るようにするとい
う,相違点3に係る本願発明の構成を得ることは,当業者が容易に想
到し得たことである。
第4当裁判所の判断
1取消事由1及び2(一致点の認定の誤り及び相違点3の認定の誤り)につ
いて
(1)原告の主張の要旨及び結論
原告は,審決が,一致点において,本願発明と引用例1発明とは「商品
・サービスの内容をデジタルデータに変換したデジタルコンテンツをある
プログラムによらなければ処理が不可能になるように該プログラムと一体
とする」点で一致すると認定した点,及び,相違点3において,引用例1
発明について「引用例1発明は,デジタルコンテンツが起動/終了プログ
ラムによらなければ処理できない」との構成を有するものと認定した点に
誤りがあると主張する。
結論を先に示す。
審決が「デジタルコンテンツをあるプログラムによらなければ処理が不
可能になるように該プログラムと一体とする」点で一致すると認定した
点,及び「引用例1発明は,デジタルコンテンツが起動/終了プログラム
によらなければ処理できない」との構成を有すると認定した点は,措辞不
適切であったといえる。しかし,審決は,相違点3において,本願発明の
特徴的な構成について,「サーバが,時限消滅プログラムを呼び出し,デ
ジタルコンテンツを当該時限消滅プログラムに読み込んで当該時限消滅プ
ログラムによってのみ処理可能に組み込むとともに,当該時限消滅プログ
ラムが計時動作を開始し,配信後前記時限消滅プログラムにあらかじめ設
定された所定時間が経過すると,当該時限消滅プログラムの起動または動
作ステップを契機として,当該時限消滅プログラムが消滅確認用のデータ
を前記サーバへ送って自動的に消滅するとともに,当該時限消滅プログラ
ムに組み込まれた前記デジタルコンテンツも自動的に消滅する」構成を有
するものであると認定し,引用例1発明については,「本願発明のような
ものではない」として,相違点を摘示している。そして,審決は,原告の
主張する相違点をも前提に,容易想到性があるか否かを判断しているの
で,結局,審決における一致点の認定及び相違点の認定の誤りは,審決の
結論に影響を及ぼさない。
以下,その理由を述べる。
(2)本願発明における「デジタルコンテンツを当該時限消滅プログラムに読
み込んで当該時限消滅プログラムによってのみ処理可能に組み込む」の意
義について
ア本願発明の特許請求の範囲(請求項1)記載の「デジタルコンテンツ
を当該時限消滅プログラムに読み込んで当該時限消滅プログラムによっ
てのみ処理可能に組み込む」とは,文言の通常の解釈どおり,「時限消
滅プログラムだけでデジタルコンテンツを処理可能」にするように,時
限消滅プログラムにデジタルコンテンツを読み込んで組み込むことと理
解するのが相当である。この点について,被告は,「当該時限消滅プロ
グラムによってのみ処理可能に組み込む」とは,「当該時限消滅プログ
ラムによってのみ処理可能に」なることを意味するにとどまり,デジタ
ルコンテンツを処理できるプログラムが「当該時限消滅プログラム」だ
けであることを意味するものではないと主張するが,不自然な解釈であ
って,採用できない。
イ次に,「処理」の意義について検討する。
本願発明において,時限消滅プログラムによってデジタルコンテンツ
を処理する場合における「処理」の意義については,特許請求の範囲の
記載から,確定することはできない。そこで,本件明細書の記載を参照
して,その意義を確定させる。
本件特許明細書の記載内容は,前記第2の2の「(2)本件明細書(甲
1,2)の記載」のとおりである。
これによれば,本願発明においては,時限消滅プログラム(Dプログ
ラム)にデジタルコンテンツを組み込むことによって,「他の適宜のプ
ログラムによって,デジタルコンテンツだけがDプログラムから分離し
て読み取られたりコピーされたりする虞がなく」なり,「時限消滅プロ
グラムが消滅するときは,時限消滅プログラムと一体的に消滅する」こ
と,時限消滅プログラムの起動・動作によって,デジタルコンテンツ(
ダウンロードした書籍の内容)をクライアント20の画面に読書可能に
表示させ,ページめくりを行わせるものであることが認められる。
そうすると,請求項1記載の「処理」とは,時限消滅プログラムの起
動・動作によって,デジタルコンテンツの内容を表示させたり,ページ
めくりを行う操作を含む意味であると理解できる。
(3)引用例1の記載内容
引用例1の記載は,前記第2の「4引用例1(甲3)の記載」のとお
りである。
すなわち,引用例1の記載は,以下のとおり内容を要約できる。
①貸し手側から借り手側のユーザ端末に,映像,文書,ゲームソフトを
含むコンピュータアプリケーションソフト等のデジタルコンテンツを提
供・管理する方法に関し,ライセンス使用条件書とデジタルコンテンツ
をペア構造とした従来の方式では,デジタルコンテンツの不正使用を防
止する構造が付されていなかったので,単体で動作可能なデジタルコン
テンツが,ライセンス使用条件書から切り離されてコピーされたり,デ
ジタルコンテンツ使用時にライセンス管理代理処理部を停止されると,
時間貸し,回数貸し等のPayperuseを実現できなくなるという問題点
があった。
②引用例1は,この問題点を解決し,デジタルコンテンツの不正使用の
防止やPayperuseライセンスの実現を可能とするため,処理プロセス
を主プログラムと起動/終了プログラムに分割し,主プログラムをオペ
レーションシステム(OS)機能拡張エリアに配置した上,起動/終了
プログラムをライセンス使用条件とともにデジタルコンテンツを包含し
たファイル構造としたシェル構造として借り手側のユーザ端末に提供
し,借り手側のユーザ端末からデジタルコンテンツの起動要求がある
と,シェル構造中のデジタルコンテンツを分離し(すなわちデジタルコ
ンテンツを逆変換して利用者が利用できる形にすること),起動/終了
プログラムによりデジタルコンテンツの起動及び終了を制御するととと
もに,主プログラムと起動/終了プログラムとでデジタルコンテンツの
動作を監視し,提供後ライセンス使用条件にあらかじめ設定された所定
時間が経過すると,起動/終了プログラムがシェル構造中からデジタル
コンテンツを分離することを行わないようにするデジタルコンテンツを
提供する構成を採用した。
③引用例1の発明の効果としては,利用者がデジタルコンテンツを使用
していない場合には,シェル構造によりデジタルコンテンツに直接アク
セスすることができず,利用者がデジタルコンテンツを使用中の場合に
は,主プログラムにおいてコピー等を検知する機能を用いて,不正使用
を防ぐことができること,OS機能拡張エリアに主プログラムを組み込
む構造とすることにより,主プログラムをデジタルコンテンツの使用途
中で停止することはできず,常にデジタルコンテンツの動作を監視する
ことが可能となる。
(4)判断
ア前記(3)の認定事実に照らすならば,引用例1記載のデジタルコンテン
ツの提供方法は,起動/終了プログラムをライセンス使用条件とともに
デジタルコンテンツを包含したファイル構造としたシェル構造としたこ
とにより,起動/終了プログラムの動作によりデジタルコンテンツの起
動及び終了を制御する「処理」が行われるため,その限りでは起動/終
了プログラムの動作を介することなく,デジタルコンテンツを利用する
ことができないといえる。しかし,利用者がシェル構造から分離された
デジタルコンテンツ(例えば,画像ファイル)をユーザ端末に表示し,
閲覧する場合には,起動/終了プログラムの動作を介さずに,そのデジ
タルコンテンツを表示できる他のアプリケーションソフトを利用するこ
とができるのであるから,本願発明とは異なり,起動/終了プログラム
のみでデジタルコンテンツの内容を表示したり,ページめくりを行うな
どの「処理」をも可能にするものではないといえる。
そうすると,引用例1においては,起動/終了プログラムの動作を介
することなく,デジタルコンテンツの内容を表示したり,ページめくり
を行う「処理」を行うことができ,起動/終了プログラムによらなけれ
ば上記「処理」が不可能になるものではないから,審決が「デジタルコ
ンテンツをあるプログラムによらなければ処理が不可能になるように該
プログラムと一体とする」点で一致すると認定した点,及び「引用例1
発明は,デジタルコンテンツが起動/終了プログラムによらなければ処
理できない」との構成を有すると認定した点は,措辞不適切であったと
いえる。しかし,審決は,前記(1)に記載したとおり,相違点3として,
引用例1発明は,本願発明の特徴となる構成を欠くと摘示した上,その
相違点について,容易想到性があるか否かを判断しているので,結局,
審決における一致点の認定及び相違点の認定の誤りは,審決の結論に影
響を及ぼさないことになる。
イしたがって,原告主張の取消事由1及び2は,審決を取り消すべき事
由に該当しない。
2取消事由3(相違点3についての容易想到性判断の誤り)について
進んで,相違点3に係る本願発明の構成についての容易想到性の有無につ
いて判断する。
(1)引用例2の記載内容の誤認の有無
原告は,審決が,引用例2について,「利用者側装置では,前記プログ
ラムに設定されている日限になったところで,前記プログラムが起動さ
れ,提供された自己消去機能付きソフトウェアが前記プログラムを含めて
消去することが記載されて」いると認定した点に誤りがあると主張するの
で,その点を検討する。
ア引用例2の記載内容
引用例2(甲4)の段落【0015】,【0019】,【0023
】,【0026】,【0030】ないし【0033】,【0037】,
【0041】ないし【0044】,【0047】の記載及び図1ないし
3によれば,引用例2は,以下のとおり内容を要約できる。すなわち,
①提供側端末装置が,設定されている日限になるとソフトウェア自体
を消去するように作用する自己消去機能を持つプログラムを,利用者
の要求するソフトウェアに付加して,自己消去機能付ソフトウェアを
作成し,これを通信回線を介して入手側端末装置(利用者側装置)に
提供するソフトウェア流通システムの実施例が示されている。
②入手側端末装置で,提供されたソフトウェアの正式入手指示をした
場合には,提供側端末装置からソフトウェアの自己消去機能を除去す
る旨の除去命令(除去キーワード)が入手側端末装置へ送信され,入
手側端末装置では,除去キーワードを入れることにより自己消去機能
付ソフトウェアから自己消去機能のみを取り除くことができるのに対
し,最終的にソフトウェアを正式に入手しない場合には,入手側端末
装置の期限監視部で監視している日時が自己消去機能に設定されてい
る日限となったところで,自己消去機能が起動され,ソフトウェア自
体が消去される。
③上記実施例の効果として,ソフトウェアを正式入手決定前に入手側
端末装置へ送る場合は,起動日限が設定された自己消去機能をソフト
ウェアに付加して入手側端末装置へ提供するようにしたので,ソフト
ウェアの回収作業を削減することができ,ソフト回収に伴うウィルス
感染の危険性を除去することもできる。
上記①ないし③によれば,引用例2記載の自己消去機能付ソフトウェ
アにおいては,入手側端末装置で利用者からソフトウェアの正式入手指
示がされないまま,自己消去機能に設定されている日限となったとき
は,自己消去機能を持つプログラムが起動され,ソフトウェア自体が消
去され,これによりソフトウェアの回収作業の削減やソフト回収に伴う
ウィルス感染の危険性の除去ができるのであるから,当業者にとって,
ソフトウェア自体の消去に伴い,ソフトウェアに付加された自己消去機
能を持つプログラムも消去されると理解できることは明らかである。
したがって,引用例2に,「利用者側装置では,前記プログラムに設
定されている日限になったところで,前記プログラムが起動され,提供
された自己消去機能付ソフトウェアが前記プログラムを含めて消去する
ことが記載されて」いると認定した審決に誤りはない。
イこれに対し原告は,①引用例2(甲4)の「自己消去機能プログラ
ム」は,商用ソフトウェアと一体としてリンクされるものではなく,単
に商用ソフトウェアに利用可能な日限を設定し,日限が到来していない
場合にソフトウェアを呼び出す命令を記述するのみの別プログラムであ
って,引用例2には,「前記プログラムを含めて消去する」との構成に
ついて記載も示唆もない,②「消去されるソフトウェア」とは,自動消
去機能が付属する前のソフトウェアであって,自己消去プログラムは消
去されるものではないと主張する(段落【0006】,【0012】,
【0015】,【0023】,【0041】,【0044】参照)。
しかし,段落【0015】に,「また,自動消去機能を持たせている
消去条件が成立すると当該自動消去機能が起動して自動消去機能付ソフ
トウエア自体を消去する」及び「これにより試験用に貸し出したソフト
ウエアの回収作業が不要となり,コンピュータウイルスに感染するのを
防止することができる」などと記載されていることに照らすならば,自
己消去プログラムの起動により消去する対象が,商用ソフトウェアに付
加された自己消去プログラムではなく,その中の商用ソフトウェアのみ
であると,当業者が理解することはない。
したがって,この点についての原告の主張は採用できない。
(2)本願発明の構成の容易想到性
ア引用例1において,提供の対象となるデジタルコンテンツは「映像,
文書,ゲームソフトを含むコンピュータアプリケーションソフト」等で
あり,起動/終了プログラムをライセンス使用条件とともにデジタルコ
ンテンツを包含したファイル構造としたシェル構造として借り手側のユ
ーザ端末に提供するものであること(前記1(3))に照らすならば,引用
例1に接した当業者であれば,引用例1の起動/終了プログラムにおい
て,「文書ファイル」及びそのファイルの形式を表示できる「アプリケ
ーションソフト」をデジタルコンテンツとしてシェル構造に組み込み,
当該アプリケーションソフトだけで当該ファイルの内容を表示したり,
ページめくりを行ったりする「処理」を可能とするライセンス使用条件
を設定することの理解を得ることは容易であると認められる。
そして,一般に,コンピュータで使用するプログラムと,処理対象の
デジタルコンテンツとを利用者に提供する場合,例えば,圧縮されたコ
ンテンツと,その解凍用ソフトウェアのように,両者を個別に提供する
ことも,自己解凍形式の圧縮ファイルのように,プログラムにデジタル
コンテンツを組み込んで提供することも常套手段であり,いずれも当業
者が適宜に選択できる事項であることに照らすならば,ファイル及びそ
のファイルの形式を表示できるアプリケーションソフトのデジタルコン
テンツをシェル構造とするのに代えて,当該アプリケーションソフトの
みで当該ファイルの内容の表示やページめくりを含む処理ができるよう
に,ファイル及びアプリケーションソフトのデジタルコンテンツをプロ
グラムに読み込み,組み込むことによって,当該プログラムのみでデジ
タルコンテンツの処理(内容の表示やページめくりの処理を含む。)が
できるようにすることは,当業者が適宜選択し得たものと解される。
イ次に,引用例3(甲5)の「ビューワ266は,書籍が記憶され,読
まれ,消去されることを可能にするソフトウェア・オペレーティング・
システムを含み,また,書籍を注文し,書籍をシステム・オペレータに
よって決定される予め定義された時間期間だけメモリ728に保持する
能力を含む。ソフトウェアは,書籍が,ある期間(例えば2週間)の間
に読まれその後で自動的に消去されたり,いったん読まれたら消去され
たり,又は,メモリの中に永久に保持されることを可能にするように構
成されうる。」(40頁25行∼41頁3行)との記載及び図面の記載
によれば,引用例3には,「書籍のデジタルコンテンツをメモリに記憶
する表示装置において,該書籍のデジタルコンテンツを処理可能なソフ
トウェアに,書籍のデジタルコンテンツがメモリに記憶されてから予め
定められた期間が経過すると,書籍のデジタルコンテンツを自動的に消
去する機能」についての構成が記載されているものと認定することがで
きる(審決書12頁5行∼9行)。
ウそうすると,引用例1ないし3に接した当業者であれば,引用例2記
載の前記(1)アの技術的事項(利用者側装置で,自己消去機能を持つプロ
グラムに設定されている日限になったところで,前記プログラムが起動
され,提供された自己消去機能付ソフトウェアが前記プログラムを含め
て消去すること)及び引用例3記載の前記イの技術的事項(書籍のデジ
タルコンテンツをメモリに記憶する表示装置において,該書籍のデジタ
ルコンテンツを処理可能なソフトウェアに,書籍のデジタルコンテンツ
がメモリに記憶されてから予め定められた期間が経過すると,書籍のデ
ジタルコンテンツを自動的に消去する機能を有する構成)を適用するこ
とによって,引用例1において,あらかじめ所定時間が設定され,提供
後該所定時間が経過すると,提供された該プログラム自身とデジタルコ
ンテンツとを自動的に消去する機能を持つ,デジタルコンテンツを処理
可能とするプログラムを用いることは,当業者が容易に推考し得たこと
であると解される。
その際,あらかじめ設定された所定時間の計時の開始の時期は提供者
により適宜決定される設計的事項であるものと認められるから,プログ
ラムの計時動作の開始時期をデジタルコンテンツを組み込んだときと
し,消去動作の契機をプログラムの起動又は動作ステップとした上で,
消去動作に伴って消去確認用のデータを提供者側装置に送るようにする
ことは,当業者が容易に想到し得たことであると解される。
エ以上のとおりであり,相違点3に係る本願発明の構成は,引用例1に
引用例2及び引用例3を適用して,容易に想到し得たといえるから,こ
れと同旨の審決の判断に誤りはない。これに反する原告の主張は,いず
れも理由がない。
(3)小括
したがって,原告主張の取消事由3は理由がない。
3結論
以上によれば,原告主張の各取消事由はいずれも,審決を取り消すべき事
由に該当しないものであるか,又は理由のないものである。他に審決を取り
消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主
文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官飯村敏明
裁判官大鷹一郎
裁判官嶋末和秀

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