弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被上告人の控訴を棄却する。
     訴訟費用は、各審を通じ被上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人霜山精一、同吉岡秀四郎、同緒方勝蔵の上告理由第一点および第二点
について。
 原判決の確定した事実によれば、上告人は所得税青色申告の承認を受けたもので
あるが、昭和三一年度分の所得につき青色申告書により所得金額を三〇九、四二二
円と確定申告したところ、小石川税務署長は、昭和三二年七月二九日附をもつて右
所得金額を四四四、六九五円と更正した、ところが、その通知書には更正の理由と
して、「売買差益率検討の結果、記帳額低調につき、調査差益率により基本金額修
正、所得金額更正す」と記載されていた、また、被上告人東京国税局長がした本件
審査決定の通知書には棄却の理由として、「あなたの審査請求の趣旨、経営の状況
その他を勘案して審査しますと、小石川税務署長の行つた再調査決定処分には誤り
がないと認められますので、審査の請求には理由がありません」と記載されており、
なお、右小石川税務署長の再調査決定通知書には「再調査請求の理由として掲げら
れている売買差益率については実際の調査差益率により店舗の実態を反映したもの
であり、標準差益率によつた更正ではなく、当初更正額は正当である」との理由が
附記されていた、というのである。
 一般に、法が行政処分に理由を附記すべきものとしているのは、処分庁の判断の
慎重・合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を相手方に知ら
せて不服の申立に便宜を与える趣旨に出たものであるから、その記載を欠くにおい
ては処分自体の取消を免かれないものといわなければならない。ところで、どの程
度の記載をなすべきかは、処分の性質と理由附記を命じた各法律の規定の趣旨・目
的に照らしてこれを決定すべきであるが、所得税法(昭和三七年法律六七号による
改正前のもの、以下同じ。)四五条一項の規定は、申告にかかる所得の計算が法定
の帳簿組織による正当な記載に基づくものである以上、その帳簿の記載を無視して
更正されることがない旨を納税者に保証したものであるから、同条二項が附記すべ
きものとしている理由には、特に帳簿書類の記載以上に信憑力のある資料を摘示し
て処分の具体的根拠を明らかにすることを必要すると解するのが相当である。しか
るに、本件の更正処分通知書に附記されていた前示理由は、ただ、帳簿に基づく売
買差益率を検討してみたところ、帳簿額低調につき実際に調査した売買差益率によ
つて確定申告の所得金額三〇九、四二二円を四四四、六九五円と更正したというに
とどまり、いかなる勘定科目に幾何の脱漏あり、その金額はいかなる根拠に基づく
ものか、また調査差益率なるものがいかにして算定され、それによることがどうし
て正当なのか、右の記載自体から納税者がこれを知るに由ないものであるから、そ
れをもつて所得税法四五条二項にいう理由附記の要件を満たしているものとは認め
得ない。
 また、所得税法四九条六項が審査決定に理由を附記すべきものとしているのは、
特に請求人の不服の事由に対する判断を明確ならしめる趣旨に出たものであるから、
不服の事由に対応してその結論に到達した過程を明らかにしなければならない(昭
和三六年(オ)第四〇九号、同三七年一二月二六日第二小法廷判決参照)。もつと
も、審査の請求を棄却する場合には、その決定通知書の記載が当初の更正処分通知
書または再調査棄却決定通知書の理由と相俟つて原処分を正当として維持する理由
を明らかにしておれば足りるというべきである。ところが、本件審査決定通知書に
附記された理由をみるに、前示のごとき記載だけでは、所得税法四九条六項の理由
附記として不十分であるのみならず、本件更正処分通知書に附記された理由が処分
の具体的根拠を明確にしていないことは前段説示のとおりであり、小石川税務署長
のした再調査棄却決定通知書に附記された前示理由によつても更正を相当とする具
体的根拠が明確にされているものとは認められないから、結局、本件審査決定の理
由もまた、違法といわなければならない。
 されば、本件更正処分通知書並びに審査決定通知書の理由附記が所得税法四五条
二項または同法四九条六項の要求する理由の附記として欠くるところがないとした
原判決の判断は、右各法条の解釈適用を誤つたものであつて、論旨は理由あるもの
というべく、右の違法は判決に影響を及ぼすこと明らかであるから、その余の論旨
について判断を加えるまでもなく、原判決は破棄を免がれない。そして、本件更正
処分および審査決定の各取消を求める本訴請求を認容すべきことは、以上の説示に
よつて明らかであるから、被上告人の控訴は棄却するべきものとする。
 よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇八条、三九六条、三八四条、九六条、
八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
            裁判官    河   村   大   助
            裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    山   田   作 之 助
            裁判官    草   鹿   浅 之 助
 裁判長裁判官池田克は退官につき書名押印することができない。
            裁判官    河   村   大   助

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