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平成22年(行ケ)第10003号審決取消請求事件(特許)
口頭弁論終結日平成22年10月5日
判決
原告JFEシステムズ株式会社
訴訟代理人弁護士上山浩
同小長谷真理
訴訟代理人弁理士高矢諭
被告株式会社ベルシステム24
※(ただし,平成22年6月
1日に,本訴提起時の被告で
あった株式会社ベルシステム
24(承継前被告)を吸収合
併した株式会社BCJ-4が
同日付けで商号を承継後株式
会社ベルシステム24に変更
したもの)
訴訟代理人弁護士野口明男
同三好豊
同飯塚卓也
訴訟代理人弁理士原島典孝
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2009-800100号事件について平成21年11月3
0日にした審決を取り消す。
第2事案の概要
,「」1本件は名称をコールセンタシステム及びプレディクティブダイヤラ装置
とする発明についての特許第3505460号(出願日平成12年2月17
日,登録日平成15年12月19日,請求項の数14,甲4。以下「本件特
許」という)の請求項1(以下「本件発明」という)に対し,被告が特許権。。
者である原告を被請求人として特許無効審判請求をしたところ,特許庁が特許
法29条2項違反を理由としてこれを認容する審決をしたことから,これに不
服の原告が取消しを求めた事案である。
2争点は,本件発明が,下記引用例1及び2との関係で進歩性を有するか(特
許法29条2項,である。)

・引用例1:米国特許第4797911号明細書(発明の名称「顧客アカウン
ト・オンラインサービスシステム,特許登録日平成元年(1989年)1」
月10日,甲1。以下これに記載された発明を「引用発明1」という)。
・引用例2:特開平9-252351号公報(発明の名称「発呼制御方法,公」
,。「」開日平成9年9月22日甲2以下これに記載された発明を引用発明2
という)。
第3当事者の主張
1請求の原因
(1)特許庁における手続の経緯
原告(旧商号川鉄情報システム株式会社)は,本件特許の特許権者である
ところ,被告は,平成21年5月18日,本件特許の請求項1に対し,本件
,(,)発明は引用発明1と同一である特許法29条1項3号違反無効理由1
又は引用発明1及び2から当業者が容易にその発明をすることができた(同
条2項違反,無効理由2)ことを理由として,無効審判請求をした。
特許庁は,上記請求を,無効2009-800100号事件として審理し
た上,平成21年11月30日「特許第3505460号の請求項1に係,
る発明についての特許を無効とする」旨の審決をし,その謄本は同年12。
月10日原告に送達された。
(2)発明の内容
本件特許の請求項の数は14であるところ,その請求項1(本件発明)の
内容は,次のとおりである。
「顧客情報を管理しているデータベースからプレディクティブ発信を行うデ
ータを所定の条件で抽出して,プレディクティブ発信用のデータベースを作
成した後,該プレディクティブ発信用のデータベースで選択された顧客の電
話番号を自動的にダイヤルして発信するプレディクティブ発信業務を行って
いるコールセンタシステムにおいて,
顧客から着信する通話によるインバウンド業務,インターネット,電子メ
ール,又はその他の事務部門における該顧客からのコンタクトにより,プレ
ディクティブ発信を行わなくてもよい発信不要データが発生した場合に,
該プレディクティブ発信用のデータベースから抽出された発信データを,
プレディクティブ発信時に,電話番号又は他の顧客識別情報をキーとして,
指定されたデータベースを指定された条件で検索することにより,該発信不
要データであると判定された場合には,その発信を中止するリアルタイムコ
ール止めを行うことを特徴とするコールセンタシステム」。
(3)審決の内容
,。,,ア審決の内容は別添審決写しのとおりであるその要点は本件発明は
引用発明と同一とはいえないが,引用発明1及び2に基づいて当業者が容
易に発明することができたから特許法29条2項により特許を受けること
ができない,というものである。
イなお,審決が認定した引用発明1及び2の内容は,次のとおりである。
・引用発明1の内容
「顧客のアカウント情報を管理しているデータベース(メインフレーム
コンピュータ(16)内)からプレディクティブ発信を行う所望の数の
顧客アカウント情報が転送され,所望の数の顧客アカウント情報から選
択された顧客の電話番号を自動的にダイヤルして発信するプレディクテ
ィブ発信業務を行っている顧客オンラインサービスシステムにおいて,
特定の顧客からの着信,請求に対する支払いにより,プレディクティブ
発信を行わなくてもよい発信不要データが発生した場合に,メインフレ
ームコンピュータ(16)に該特定の顧客のアカウントの状態を問いあ
わせ,該発信不要データであると判定された場合には,新しい発信の必
要性を計算する(ステップ28)顧客オンラインサービスシステム」。
・引用発明2の内容
「発信データを発信不要データベースに照会して発信不要データである
と判定するにあたり,電話番号をキーとして,発信不要データベースを
指定された条件で検索する,プレディクティブ発信制御方法」。
(4)審決の取消事由
しかしながら,審決には,容易想到とした判断に関し,以下のような誤り
があるから,審決は違法として取り消されるべきである。
ア取消事由1(本件発明の要旨認定の誤り)
本件発明は,バッチ処理でのプレディクティブ発信用データベース(以
下,データベースを「DB」と称することがある)作成処理を行う従来。
技術のシステム構成を前提としつつ,バッチ処理によりリアルタイム性が
妨げられていた問題を解決すべく,発信不要データを指定されたDBに記
録し,プレディクティブ発信時に当該指定されたDBを検索することで,
リアルタイムでコール止めを行うことを可能にした点に特徴がある。審決
は,本件発明を正しく把握せず,本件発明の上記の特徴部分の認定を誤っ
たものである。
すなわち,予めプレディクティブ発信用DBをバッチ処理で作成してお
く従来技術のコールセンタシステムでは,一旦プレディクティブ発信用デ
ータが作成された後に発信不要データが生じた場合,発信作業は,既に作
成されて内容が固定されたプレディクティブ発信用DBを用いて行われる
ため,発信不要データが顧客マスタDBに書き込まれたとしても,それを
発信業務にすぐに反映させることができないという問題があった。
この場合,発信業務を発信不要データの発生に対応させるためには,従
来技術では,改めてバッチ処理を実行して顧客マスタDBから該当するデ
ータを検索・抽出し,プレディクティブ発信用DBに反映させるか,ある
いはオペレータの操作を介在させて顧客マスタDBに書き込まれた発信不
要データをプレディクティブ発信用DBに反映させることが必要であっ
た。しかし,これらの作業には一定の時間を要するため,タイムラグが生
じてしまい,結局,従来技術では,発信不要データが発生しても,リアル
タイムでコール止めを行うことができないという問題点があった。
本件発明は,プレディクティブ発信用DB作成を行うという従来の構成
,,,を踏襲しつつ上記の問題を解決した発明でありその課題解決の方法は
「プレディクティブ発信を行わなくてもよい発信不要データが発生した場
合に,当該発信不要データを「指定されたDB」に記録し,プレディク」
ティブ発信時に当該指定されたDBを検索することで,リアルタイムコー
ル止めを実現するというものである。つまり,本件発明は,プレディクテ
ィブ発信時に用いるDB(プレディクティブ発信用DB)をバッチ処理で
作成することにより,高い処理効率を可能にし,かつ,コストの低減も可
能にしつつ,所定の構成を組み合わせることでコール止めのリアルタイム
処理を可能にしたものである。
確かに,本件明細書(特許公報,甲4)には,本件発明の処理が「バッ
チ処理」であることの直接的な記載はないものの,技術常識に照らせば,
,,それがバッチ処理であることはいうまでもなく明白であるばかりかまた
本件特許のクレームの「おいて」書きの部分の「プレディクティブ発信用
のデータベースを作成した後」という文言自体,これがバッチ処理である
ことを明確に示すものである。
以上のとおり,本件発明は,バッチ処理構成を基本にしつつ,コール止
めのリアルタイム処理に必要な構成を採用したという,いわば「バッチ処
理とリアルタイム処理のハイブリッド構成」を採用した点に特徴があり,
審決は,このような本件発明の要旨認定を誤ったものである。
イ取消事由2(引用発明1認定の誤り)
(ア)一般的なプレディクティブ発信処理のコールセンタシステムでは,一
日の間にプレディクティブ発信を行う対象の顧客データを予めバッチ処
理で顧客マスタDBから抽出し,プレディクティブ発信用のDBを作成
しておく方式が採用されている。しかし,このバッチ処理によりプレデ
ィクティブ発信用DBを作成してプレディクティブ発信を行う従来技術
では,顧客データに何らかの変更が生じた場合,直ちにその変更を発信
業務に反映させることができないという問題点があった。
引用発明1は,上記の従来技術の問題点を解決するため,プレディク
ティブ発信用DBをバッチ処理により作成するという過程を取り除き,
プレディクティブ発信時にリアルタイムで顧客マスタDBから発信用デ
ータを直接抽出する構成を採用した点に特徴がある。すなわち,引用発
明1の最大の特徴は,バッチ処理でプレディクティブ発信用DBを作成
する処理を排除している点にある。審決は,引用発明1を正しく把握し
ておらず,上記のような引用発明1の特徴部分の認定を見落としている
ものである。
aまず,後記第4,2(2)アCの記載の「メインフレームコンピュー
タに記憶される顧客アカウント情報」は「顧客マスタDB」に該当す
る。また「オペレータ(顧客アカウント,セールス,又はサービス,
)」担当者がアクセスするための別のコンピュータに設置されるコピー
は,オペレータがこれにアクセスし,この情報に基づいてダイヤルす
るためのものであるから「発信用のDB」に該当し,これをプレデ,
ィクティブ発信用の装置に用いる場合は「プレディクティブ発信用D
B」に該当する。なお,一般に,あるマスタDBから所定の条件に合
致するデータを検索・抽出して他のDBを作成する処理がバッチ処理
で行われることは,技術常識である。
b後記第4,2(2)アEの記載の「処理されたビジネス用の顧客アカ
ウント情報」とは,上記aの「メインフレームコンピュータに記憶さ
れる顧客アカウント情報」について1日の業務の中で何らかの処理が
行われて変更が生じた情報を意味しており「顧客データに生じた変,
更」に相当する。
すなわち,上記Eの記載では,通常のコールセンタ業務において顧
客データに変更が生じた場合,その変更内容は「以前に作られたコピ
ー」又は「別のファイル」に保存され,直接顧客マスタDBや発信用
のDBには書き込まれないので「1日の業務,又はビジネスセッシ,
ョンの終了時」にその変更情報を「メインフレーム内の顧客アカウン
ト情報」すなわち「顧客マスタDB」に書き込まなければならないこ
とが述べられている。この処理のサイクルないしタイミングが「1日
の業務,又はビジネスセッションの終了時」であることから,これは
バッチ処理によって行われることが自明である。
cそして,後記第4,2(2)アFの記載には,以前に作って別に保存
された「顧客アカウント情報のコピー「ディスク又はテープ等の記」,
憶媒体に記憶される顧客アカウントのコピー」又は「別のファイル」
に保存されている顧客データに生じた変更を「メインフレーム又はシ
ステム制御装置」を介して「顧客マスタDB」に書き込む作業をオペ
レータが行う場合,オペレータの時間が浪費されてしまうという課題
。「」があげられているこの貴重なオペレータの時間がまた浪費される
は,本件明細書の段落【0005】に記載された課題と同様の課題で
ある。
このように,引用発明1が従来技術のシステム構成から生じる課題
としてあげているのは,バッチ処理により顧客マスタDBからプレデ
ィクティブ発信用DBを予め作成しておくシステム構成における課題
である。
,,「」d後記第42(2)アGの記載から明らかなとおり顧客マスタDB
からバッチ処理により「プレディクティブ発信用DB」を作成する従
来技術のコールセンタシステムで生じる課題解決のために,引用発明
1は,プレディクティブ発信用DBの作成処理を強いて取り去り,顧
客マスタDBだけですべての顧客情報をオンライン(リアルタイム)
処理で管理する方法を採用しているのであり,引用発明1がプレディ
クティブ発信用DBを作成しないオンライン(リアルタイム)処理を
採用するものであることは,後記第4,2(2)アH,I,Jの各記載
からも明らかである。
eこのような構成を採用した結果引用発明1では後記第42(2),,,
アN,O,Pに記載のとおり「メインフレーム16は自動的かつ直,
ちに該顧客アカウント情報を更新する。また,自動更新であるので,
オペレータに提供されるいかなる情報も最新の情報である。従って,
オペレータはメインフレーム16に直接接続されているように見え
る」という効果を得ることができるのであるから,引用発明1は,バ
ッチ処理でのプレディクティブ発信用DBの作成処理を取り除き,そ
れに代えて顧客マスタDBから直接プレディクティブ発信の対象デー
タを抽出するというオンライン(リアルタイム)処理を採用した点に
特徴を有していることは明らかである。
(イ)被告は,引用発明1においてもプレディクティブ発信用DBを作成し
ていることは明らかであると主張する。しかし,引用例1には,プレデ
ィクティブ発信用「DB」が「作成」されることは,どこにも開示され
ていない。引用例1に開示されているのは「所望の数の顧客アカウン,
ト情報」が「転送」されることのみである。
ウ取消事由3(一致点認定の誤り)
(ア)審決は,本件発明と引用発明1との一致点につき,引用発明1の「転
送され」た「所望の数の顧客アカウント情報」も,本件発明の「プレデ
ィクティブ発信用のデータベース」も「プレディクティブ発信用のデー
タの集合」であることに変わりはないとする。
しかし,引用発明1で「転送される「所望の数のアカウント情報」」
とは,発信対象となる数件の顧客データの通信(転送)データを意味す
るにすぎず,顧客マスタDBから別個のファイルとして作成される「デ
ータベース」とは全く異なるものであるから,本件発明の「データベー
」「」「」スと引用発明1の所望の数のアカウント情報とをデータの集合
といった抽象化された概念のレベルで同一視することは不可能でありか
つ誤りである。
また,引用発明1で「メインフレーム16」に「アカウントの状態に
変化があったか否か等を問い合わせる対象のデータはオンラインリ」,(
アルタイム)処理によって抽出された発信データであって,本件発明の
ようにバッチ処理にて作成されたプレディクティブ発信用DBから抽出
された発信データとは異なる。
したがって「両者は『プレディクティブ発信用のデータの集合を得,
て,該プレディクティブ発信用のデータの集合で選択された顧客の電話
番号を自動的にダイヤルして発信する』点で共通する」との審決の認定
は誤りである。
(イ)次に,本件発明では,コールセンタ業務とは異なる別系統の情報であ
るインターネットや電子メールにより顧客からコンタクトがあった場合
にも発信直前にコール止めを行うことができる。
ところが,引用発明1には「インターネット」及び「電子メール」に
よる顧客からのコンタクトにより発信不要データが生じることについて
は,開示もなければ示唆もない。引用発明1は本件発明の13年前に出
願されたものであり,インターネットや電子メールでの顧客からのコン
タクトに対応するといった構成及び効果を想定していないことは明らか
である。
したがって,引用発明1に「インターネット「電子メール」での顧」
客からのコンタクトについて開示がなくとも「着信及び/又は請求に,
対する支払及びクレジット」により「最新ではなくなる可能性がある」
「顧客アカウント情報」の中に「インターネット「電子メール」によ」
る顧客からのコンタクトから得られる情報が含まれるとする審決の認定
は誤りである。
(ウ)そして,コール止めについて,引用発明1には「顧客マスタDB」,
を意味する「メインフレーム16」に該アカウントの状態を問い合わせ
ることが開示されているのみである。
一方,本件発明は,プレディクティブ発信時に発信用データについて
「指定されたデータベース」に「指定された条件で検索する」という構
成を採用することで「顧客マスタDB」以外のDBを検索することも,
可能にしているのであって,本件発明の「指定されたデータベース」に
は「顧客マスタDB」以外のDBも含んでいる。
したがって「引用発明1の『メインフレームコンピュータ16に該,
アカウントの状態を問い合わせる』ことと本件発明の『プレディクティ
ブ発信用のデータベースから抽出された発信データを『電話番号又は,』
他の顧客識別情報をキーとして指定されたデータベースを指定された条
件で検索すること』とは『プレディクティブ発信用のデータの集合か,
ら抽出された発信データを指定されたデータベースに照会すること』で
共通する」とする審決の認定は誤りである。
(エ)以上にかんがみ,引用発明1と本件発明の一致点をあげるならば,次
の点のみである。
「顧客情報を管理しているデータベースから,選択された顧客の電話番
号を自動的にダイヤルして発信するプレディクティブ発信業務を行って
いるコールセンタシステムにおいて,
顧客から着信する通話によるインバウンド業務,又は事務部門におけ
る該顧客からのコンタクトにより,プレディクティブ発信を行わなくて
もよい発信不要データが発生した場合に,
プレディクティブ発信時に,発信データが発信不要データであると判
定された場合には,その発信を中止するリアルタイムコール止めを行う
コールセンタシステム」。
エ取消事由4(引用発明2認定の誤り)
審決は,引用発明2を,前記のとおり「発信データを発信不要データベ
ースに照会して発信不要データであると判定するにあたり,電話番号をキ
ーとして,発信不要データベースを指定された条件で検索する,プレディ
クティブ発信制御方法」と認定しているが,次のとおり,その認定は誤り
である。
引用発明2は,複数のコールセンタ間での顧客の不在・話中の情報共有
に関する発明であり「アウトバウンド業務」で得られた情報を「アウト,
バウンド業務」の処理に反映するものである。
一般に,コールセンタシステム全体としては,顧客の様々な情報(例え
ば,契約の締結,解除,住所変更,職場の変更等)を取り扱う業務系コン
ピュータシステムと,プレディクティブ発信処理を行うシステムは,別系
統のシステムとして構成されている。プレディクティブ発信処理を行うシ
ステムは,例えば,PDS(PredictiveDialerSystem)のような専用装
置が用いられることが一般的である。発信処理,すなわち,アウトバウン
ド業務は,このPDSにより処理される。これに対して,インバウンド業
務すなわち顧客からの様々なコンタクトの情報を顧客マスタDBで管理す
る業務は,一般に専用システムのPDSで行うことはできず,業務系コン
ピュータシステムで行われるようになっている。
引用発明2は,コールセンター1のPDSによるアウトバウンド業務で
得た情報をコールセンター2のPDSによるアウトバウンド業務に反映さ
せるものであって,コールセンター1とコールセンター2は,それぞれの
業務系コンピュータシステムが保有するアウトバウンド業務以外の別系統
のシステムから得た情報を活用することは不可能である。
したがって,審決の引用発明2に関する認定のうち「顧客情報受信部,
216(2)が有する顧客情報は,全体として”発信不要データベース”と
いうことができるとの記載部分の発信不要の顧客情報受信部216(2)」「
が有する顧客情報」は,本件発明における「顧客から着信する通話による
インバウンド業務,インターネット,電子メール,又はその他の事務部門
等における顧客からのコンタクト等(本件明細書の段落【0004)の」】
ような他のシステム系統から得られた情報を含んでおらず,審決が「発信
不要データベース」と称する顧客情報は,本件発明で発信不要データの検
索対象となる「指定されたデータベース」が保有するような他のシステム
系統から得られた情報を含まない。
オ取消事由5(相違点1認定判断の誤り)
(ア)本件発明は,前述のとおり,バッチ処理構成を基本にしつつ,それに
部分的にすなわちコール止めの部分に限ってリアルタイム処理を組み合
わせるというハイブリッド型構成を採用することで,バッチ処理のメリ
ットを確保しつつ,リアルタイム性を部分的に実現している点に特徴が
ある。
これに対し,引用発明1は,前述のとおり,バッチ処理を完全に排除
し,フルリアルタイム処理型を採用することで,バッチ処理のメリット
を犠牲にしつつ,常に最新の情報を扱えるというリアルタイム処理の恩
恵を最大限に追求している点に特徴がある。
ところで,バッチ処理とオンライン(リアルタイム)処理とでは,情
報システムの基本的な性格が対極にあるから,システムに要求される処
理内容に応じて,バッチ処理構成を採用するか,オンライン(リアルタ
イム)処理構成を採用するかが必然的に決定される。すなわち,バッチ
処理とオンライン(リアルタイム)処理は二律背反であって,片方を選
択しながらもう一方のメリットも取りうるものではなく,コールセンタ
業務において,バッチ処理によるプレディクティブ発信用DBを作成す
るか,プレディクティブ発信用DBを作成せずにオンライン(リアルタ
イム)処理を行うかは,システムの基本構成として両極端の選択であっ
て,審決のいうような「発信業務の目的と,元より存在する顧客データ
ベースが内容としてどのような性質や規模の顧客情報を有していたかに
応じて従属的に決まる設計事項にすぎない」というものではない。
したがって,引用発明1においては,プレディクティブ発信用DBを
作成し用いることは,絶対にあり得ないことである。このような構成を
採用したとたん,従来技術に後戻りしてしまい,引用発明1の目的を達
成できなくなってしまうからである。したがって,引用発明1にプレデ
ィクティブ発信用DBを用いる処理を組み合わせることは,引用発明1
の目的を実現不可能にすることになり,阻害事由がある。よって,その
ような構成を当業者が想到することはあり得ない。
(イ)本件発明は,発信不要データを「指定されたデータベース」から検索
するという構成を採用することで,顧客マスタDB以外のDBを検索す
ることも可能としている。これに対し,引用発明1は,変更が生じたデ
ータをすべて顧客マスタDBに書き込むことが必須であり,その書き込
みに要する時間と検索に要する時間から生じる発信処理とのタイムラグ
は避けられない。
このように,本件発明は引用発明1と比較してはるかに優れた作用効
果を有するのであるから,この点においても,引用発明1において相違
点1のように構成することは,容易想到とはいえない。
(ウ)引用発明1の「所望の数」は「所定の条件」に相当しない。,
バッチ処理によりプレディクティブ発信用DBを作成しプレディクテ
ィブ発信を行う従来技術のコールセンタ業務において,プレディクティ
ブ発信を行うデータを抽出する「所定の条件(本件発明)とは,顧客」
情報内にある男女の別,年齢,居住地域,履歴等の顧客の属性に関する
情報を条件とすることを意味し例えば100件2500件などの所,,「
望の数(引用発明1)を条件とすることを意味しないことは,当該コ」
ールセンタシステムを扱う当業者にとって自明である。
(エ)引用発明1の「転送され」るは,本件発明の「作成」に該当しない。
引用例1の記載である後記第4,2(2)アLの「メインフレームコン
ピュータ16は,所望の数のアカウントの顧客アカウント情報をデータ
制御装置15に一括転送又はオンライン転送により提供する」におけ。
る「転送」は「顧客アカウント情報」を「メインフレームコンピュー,
タ16」から「データ制御装置15」に送ることを意味しているにすぎ
ない。
また,後記第4,2(2)アQの「26からスタート後,第1ステップ
27ではメインフレーム16から一括モード転送により複数の顧客アカ
ウント情報を得る」における「転送」は「メインフレーム16」から。,
「システム制御装置11」に「複数の顧客アカウント情報」が送られる
ことを意味しているにすぎない。
そして「転送」の語彙自体に「作成」の意味は含まれず「他から送,,
られてきたものを,さらに他へ送ること」を意味することは,一般常識
である。
(オ)引用発明1の「転送されたプレディクティブ発信を行う所望の数の顧
客のアカウント情報」は「データベース」ではない。
引用発明1における「転送され」は,後記第4,2(2)アLの引用例
1の記載によれば「一括転送又はオンライン転送」されるものであり,
その「一括転送」の対象は「anumberofcustomers」であるところ「a,
numberof」は「several」と同義であり,せいぜい3ないし5件の顧客
データにすぎない。
このように,引用発明1でメインフレームコンピュータ16からシス
テム制御装置11に「一括送信」されるデータの件数が数件にすぎない
ことは,引用発明1における自動発信処理の仕方からも明らかである。
すなわち,引用発明1における自動発信処理は,まず,メインフレー
ムコンピュータ16が顧客のアカウント情報のファイルから読み出した
数件のデータを自動発信処理を行う装置であるシステム制御装置11に
送信する。ここで送信されるデータ(アカウント情報)の件数は,回線
あるいはオペレータの空きが出ないように効率的に自動発信するのに必
要な件数であるから,本件特許に関する後記第4,2(1)の段落【00
25】の「該ペーシング制御部56から要求があった発信データ群」の
件数と同程度といえる。なぜなら,引用例1添付のFIG.4Aのフロ
ーチャート25と27の流れから明らかなように,引用発明1は,ステ
ップ27で受信した一群の発信データの処理が一通り終わると,また次
の一群のデータをメインフレームコンピュータ16から受信するように
なっているが,この処理の流れは,本件明細書の図4のステップ304
から308の流れとほぼ同様のものである。したがって,引用発明1で
メインフレームコンピュータ16からシステム制御装置11に「一括送
信」されるデータの件数は,本件明細書の図4の「」とほぼ同様の件N
数と考えられるからである。
,()また引用発明1のシステム制御装置11はファイル磁気ディスク
を備えておらず,メインフレーム16から転送された顧客アカウント情
報は,システム制御装置11のメモリ上に記憶される。しかし,引用発
明1が出願された1987年当時の主記憶容量は極めて限られていたか
ら,この点でもシステム制御装置11に一括転送される顧客アカウント
情報の件数がごく少数であったことは明白である。
以上のように,引用発明1の「転送されたプレディクティブ発信を行
う所望の数の顧客アカウント情報」は,せいぜい3ないし5件のごく少
数の顧客アカウント情報にすぎず「データベース」として系統的な整,
理・管理が可能なほどの大量のデータではないから,これを「データベ
ース」と称することは明白な誤りである。
カ取消事由6(相違点2認定判断の誤り)
次のとおり,引用発明1に引用発明2を組み合わせることに想到するこ
とは極めて困難である。
(ア)引用発明1は,プレディクティブ発信用DBを排除することに特徴を
有する発明であるから,引用発明1は,後記第4,2(2)アEに記載さ
れた「処理されたビジネス用の顧客アカウント情報は,以前に作られた
コピーに入力されるか,又は別のファイルに保持される」という従来技
術の構成を排除し,すべてのデータを顧客マスタDBのみで管理するよ
うにすることでその目的を実現しているしたがって引用発明1に別。,「
のファイル」を用いる構成を組み合わせることには阻害要因があるとこ
ろ,引用発明2の不在情報が記録される引用例2の【図19】及び【図
21】のテーブルは,引用例1の上記E記載の「処理されたビジネス用
の顧客アカウント情報は‥‥別のファイルに保持される」に相当するか
ら,引用発明1に引用発明2の不在情報が記録される「別のファイル」
の構成を適用することには阻害事由がある。
,,,よって引用発明1に引用発明2を適用することは阻害事由があり
容易想到とはいえない。
(イ)引用発明2は,複数のコールセンタ間の情報共有に関する発明であっ
て,PDSがアウトバウンド業務で得た情報を別のPDSと共有するも
,,のであってインバウンド業務等を処理する業務系システムが保有する
アウトバウンド業務以外の別系統のシステムから得た情報を活用するこ
とはできない。これに対し,本件発明は,インバウンド業務で得た情報
をアウトバウンド業務に反映させるという,別系統のシステムの垣根を
越えて発信不要データを利用するものである。本件発明は,当該構成を
採用することで,顧客の架電状況(不在又は話中)以外の「インターネ
ット,電子メール,又はその他の事務部門等における顧客からのコンタ
クト等」を活用できるから,引用発明2とは課題も課題解決手段(すな
わち発明の構成)も異にする。
(ウ)仮に引用発明1と引用発明2とを組み合わせて,他のコールセンタか
ら発信不要データに該当する情報を得たとしても,当該発信不要データ
に該当する顧客アカウント情報とオンライン処理によりまさしく今発信
しようとして転送した「anumberofcustomers,すなわち,わずか3」
ないし5件の顧客アカウント情報が一致する確率は極めて小さい。した
がって,引用発明1に引用発明2を組み合わせる意義は非常に乏しく,
組み合わせの動機付けがないというべきである。
2請求原因に対する認否
請求原因(1)ないし(3)の各事実は認めるが,(4)は争う。
3被告の反論
審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
(1)取消事由1に対し
アそもそも,審決が認定した「本件特許発明の要旨」は,本件特許の特許
,,請求の範囲の記載に基づいて記載されたものにすぎずこの点については
原告も審決が行った当該認定を認めているのであるから,本件発明の要旨
認定には何ら誤りはない。
イまた,原告は,審決の要旨認定において,本件発明がプレディクティブ
発信用DBがバッチ処理によって作成されていると限定されていないこと
が要旨認定の誤りであるかのように主張している。
しかしながら,本件発明で作成される「プレディクティブ発信用のデー
タベース」が,原告が主張するような「バッチ処理」によって作成される
ものであると解釈される理由は,特許請求の範囲の文言上存在しないし,
発明の詳細な説明等においても存在しない。
したがってプレディクティブ発信用データベースがおよそ必ずバ,「」「
ッチ処理」によって行われるものであるという前提で「本件発明は,‥,
‥,いわば『バッチ処理とリアルタイム処理のハイブリッド構成』を採用
した点に特徴がある」等と主張し,審決が本件発明の要旨認定を誤った。
という原告の主張は根拠がない。
(2)取消事由2に対し
ア原告は,この点に関し,要するに,引用発明1においてはプレディクテ
ィブ発信用DBが作成されておらず,プレディクティブ発信用DBを排除
することが最大の特徴である旨主張する。
しかし,次に述べるとおり,引用発明1においてもプレディクティブ発
信用DBを作成していることは明らかであり,原告の主張こそ,引用発明
1の技術的な理解を根本的に誤ったものにほかならない。
すなわち,引用例1には,後記第4,2(2)アA,L,Qのとおり,原
告の引用する箇所とは別に,プレディクティブ発信用データの作成に関す
る記載がある。これらの記載によれば,メインフレームコンピュータから
データ制御装置を介してシステム制御装置に転送される「顧客アカウント
情報」に基づいて電話番号がダイヤルされるのであるから,これらが本件
発明における「プレディクティブ発信用のデータ」に相当することは明ら
かである。そして「所望の数の顧客アカウント情報」が転送されるので,
あるから,これが「プレディクティブ発信用のデータの集合」であること
は当然である。したがって,引用発明1においてもプレディクティブ発信
用DBを作成していることは明らかである。
イまた,原告は,引用発明1は,プレディクティブ発信用DBの作成処理
を強いて取り去り,顧客マスタDBだけですべての顧客情報をオンライン
(リアルタイム)処理で管理する方法を採用していると主張する。
しかし,原告が指摘する明細書の記載は,いずれも,メインフレームコ
ンピュータに格納された顧客アカウント情報を修正する場合に,当該修正
をオンラインで行うことを指摘したものにすぎず,メインフレームコンピ
ュータから発信対象となる架電先のデータをどのように抽出するかについ
ての構成を述べたものではないし,また,プレディクティブ発信用DBを
。,,作成する構成と矛盾するものでもないすなわち引用発明1においては
メインフレームコンピュータから所望の数の顧客アカウント情報を抽出し
てプレディクティブ発信用DBを作成してプレディクティブ発信の用に供
するが,その後にメインフレームコンピュータ内の顧客アカウント情報を
修正する場合には,当該情報の修正をオンラインで行う。そして,プレデ
ィクティブ発信用DBとメインフレームコンピュータ内の顧客アカウント
情報との間に生じうる齟齬については,後記第4,2(2)アRに記載され
ているとおり,発信の際に最新のデータをメインフレームコンピュータに
問い合わせることによって解決しているのである。上記Rの記載が開示す
る第1の方法(システム制御装置11はステップ27で一度に1つのアカ
ウントだけのアカウント情報を得ること)こそが,原告の主張するリアル
タイム抽出処理にほかならないのであって,引用発明1は,このリアルタ
イム抽出処理とは明確に異なる「別の一つの」方法,すなわち,システム
制御装置11に複数の顧客アカウント情報が記憶され,発信を待っている
ことを前提に,システム制御装置11が発信の順番の到来した顧客アカウ
ント情報についてメインフレーム16に問い合わせるという構成をとるこ
とによって,システム制御装置11に記憶されたアカウント情報(プレデ
ィクティブ発信用DBである)と,メインフレームに記憶された顧客ア。
カウント情報との間に生じうる齟齬を解決することを明らかにしているの
である。
したがって,引用発明1は,顧客マスタDBだけですべての顧客情報を
オンライン(リアルタイム)処理で管理する方法を採用しているものでは
ない。
ウ以上のとおり,審決が行った引用発明1の内容の認定には何ら誤りがな
い。
(3)取消事由3に対し
この点に関する原告の主張は,結局のところ,本件発明の要旨に関する原
告独自の理解と,引用発明1の内容に対する独自の理解に基づくものにすぎ
ないから,前記(1)及び(2)で論じたところからすれば,審決が行った一致
点の認定には何らの誤りもないが,念のため,反論する。
ア原告の主張(ア)に対し
そもそも審決は「所望の数の顧客アカウント情報」と「プレディクテ,
ィブ発信用のデータベース」とが一致点であるとは認定しておらず,むし
ろ相違点として認定しているのであるから,原告の主張は,審決の認定を
争う理由になり得ず,主張自体失当である。
イ原告の主張(イ)に対し
本件発明において,顧客からのコンタクトは「顧客から着信する通話,
によるインバウンド業務,インターネット,電子メール,又はその他の事
務部門における該顧客からのコンタクト」と記載されており「又は」に,
よって接続されていることから明らかなように,これらのいずれか1つに
。,よるコンタクトがあれば一致点と認定することに不足はないしたがって
引用発明1に「インターネット」及び「電子メール」による顧客からのコ
ンタクトが記載されていなくても,他の点については記載されているので
あるから,これを一致点とすることに問題はなく,審決に誤りはない。
ウ原告の主張(ウ)に対し
原告は,引用発明1で,発信直前に顧客アカウントの状態を問い合わせ
る先が「メインフレーム16」であるのに対し,本件発明では「指定され
たデータベース」である点で相違すると主張するが,原告のこの主張は,
本件特許における「指定されたデータベース」が,実施例においては「マ
スタDB10」とされている(段落【0030,図6参照)ことを忘れ】
た主張である。すなわち,引用発明1の「メインフレーム16」が,上記
実施例の「マスタDB10」に相当するものであることは,原告も認めて
いるところ,本件発明の実施態様として複数の実施態様が考えられる場合
に,そのうちの一部の実施態様について公知文献の開示があれば,本件発
明の進歩性を否定することができるのであるから,引用発明1の「メイン
フレーム16」が,本件発明の「指定されたデータベース」に相当するこ
とに疑問の余地はないというべきであって,原告の主張は失当である。
(4)取消事由4に対し
,,原告は審決が引用発明2についても誤った認定をしていると主張するが
技術思想の相違を述べるに留まり,原告の主張は不明確というほかない。
また,引用発明2の認定について,原告は「審決が『発信不要データベー
ス』と称する顧客情報は,本件発明で発信不要データの検索対象となる『指
定されたデータベース』が保有するような他のシステム系統から得られた情
報を含まない」ことを強調しているが,審決の文言上,上記の点は審決の認
定の内容とはなっていないのであるから,引用発明2の認定誤りの根拠とは
なり得ない。したがって,審決が行った引用発明2の内容の認定には何らの
誤りもない。
(5)取消事由5に対し
ア原告の主張(ア)に対し
原告は,本件発明と引用発明1との相違点1についての審決の認定誤り
の具体的内容として,プレディクティブ発信用のデータの集合を作成する
に当たり本件発明はバッチ処理によっているのに対し引用発明1はオ,,「
ンライン(リアルタイム)処理」によっている点で根本的に相違するなど
と主張する。
しかしながら,既に指摘したように,本件発明で作成されるプレディク
ティブ発信用DBがバッチ処理によって作成されることが要求されている
ものとは解されないから,原告が主張するようにプレディクティブ発信用
DBをバッチ処理により作成することを本質的な要素とするものと解する
ことはできない。
のみならず,そもそも引用発明1においては,メインフレーム16から
所望の数の顧客アカウント情報を取り出してシステム制御装置に転送する
処理は「一括モード転送が好ましい」とされ,まさに「バッチ処理」を,
予定しているのであるから,引用発明1が「オンライン(リアルタイム)
処理」によっているとの主張も誤りである。
イ原告の主張(イ)に対し
原告は,本件発明においては,引用発明1にはない優れた作用効果が得
られるなどと主張する。
しかし,上記のとおり,本件発明の「指定されたデータベース」には検
索用のデータベースとして顧客マスタDBを指定する場合も当然に含まれ
ると解されるところ,特許の技術的範囲の一部について公知文献に開示が
あれば特許の進歩性を否定しうることは前記のとおりであるから,原告の
主張はそもそもこの点において既に失当である。
ウ原告の主張(ウ)に対し
原告は,引用発明1の「所望の数」は「所定の条件」に相当しないと主
張する。
しかし,本件発明における「所定の条件」については,当該文言はもと
より,明細書上にも何らかの限定的な意義を与えるような根拠となるべき
記載はなく,一定の件数を指定して発信対象データを抽出することも含ま
れるというべきであり,引用発明1において「所望の数」の顧客アカウン
ト情報を転送することも「所定の条件」に該当することは当然である。ま
,「」「」,た仮に所望の数が所定の条件の下位概念とはいえないとしても
原告もいうように「所望の数」の発信用データを抽出するに当たり,例,
えば何らかの顧客の属性に関する情報を条件とすることもコールセンタシ
ステムの当業者にとって自明のことである。
エ原告の主張(エ)に対し
原告は,引用発明1の「転送され」るは,本件発明の「作成」に該当し
ないと主張する。
,「」しかしコンピュータにおいてある機器から他の機器にデータが転送
されて他の機器の記憶装置に記録される場合,DBの加工過程が介在する
か否かにかかわらず,他の機器の記憶装置に,それまで存在していなかっ
「」,,たデータが作成されることは明らかであるから引用発明1のように
ある機器に存在するデータ集合の中から他の機器に「転送」すべきデータ
集合を抽出することも転送データの「作成」に該当するといえる。また,
引用発明1においては,システム制御装置11に転送されるデータが,メ
インフレーム16に記憶されている顧客アカウント情報のうちの「所望の
数」のみである場合も当然に予定されており,上述のとおり「所望の数」
も「所定の条件」の1つであるうえ「所望の数」の転送に当たって,顧,
客の属性に関する情報を条件として,当該条件に基づいて顧客アカウント
情報を抽出しようとすることも,当業者には自明な選択肢であり,設計事
項にすぎない。
オ原告の主張(オ)に対し
原告は,引用発明1の「転送されたプレディクティブ発信を行う所望の
数の顧客のアカウント情報」は「データベース」ではないと主張する。
,「」,しかし引用発明1における所望の数の顧客のアカウント情報とは
「複数の顧客のアカウント情報」に関する情報であり,その内容も,少な
くとも「顧客名,顧客電話番号,アカウント番号,及び/又はあるタイプ
のメインフレームデータベース指標番号」を含むものであるから,まさし
「」。く原告自身が主張するデータベースの定義に該当することは疑いない
次に,原告は,引用発明1における一括転送の対象はせいぜい3ないし
5件の顧客データにすぎないなどと主張するが,そのようなことは引用発
,。明1の明細書には全く記載されておらず原告の主張は何らの根拠もない
この点に関し,原告は,引用例1の図4の記載を根拠に,引用発明1で
メインフレームコンピュータ16からシステム制御装置11に送信される
アカウント情報の件数は,本件明細書の段落【0025】の「該ペーシン
グ制御部56から要求があった発信データ群」の数(=N)と同程度であ
るなどとして,引用発明1でメインフレームコンピュータ16からシステ
ム制御装置11に「一括送信」されるデータの件数が数件にすぎないなど
と主張するが,次のとおり,失当である。
すなわち,引用発明1においては,メインフレーム16からシステム制
御装置11に複数の顧客アカウント情報が転送(図4Aのステップ27)
された後,後記第4,2(2)アQに記載されているように「‥‥判定29,
は新しい呼出し(又は再呼出し)が必要かを調べる。‥‥もし必要であれ
ば,システム制御装置11はステップ30に進み,呼出す次のアカウント
の電話番号を抽出する」という処理がされる。このステップ30におけ。
る「アカウント情報群から次のアカウントの電話番号を抽出する」処理こ
そが,本件発明における,プレディクティブ発信用データベース12から
発信データ群(N)を抽出する処理に相当するのである。そして,引用例
1のFIG.4Aに開示されているとおり,このステップ30を経て電話
発信処理が終了した後も,ステップ25において群処理が完了したか否か
の判断がされ,その結果が「No」であれば,メインフレームコンピュー
タ16から新たにアカウント情報を得ることなく,再度ステップ28以下
の処理を行うこととされているのである。
したがって,引用発明1においては,メインフレームコンピュータ16
からアカウント情報群を1回取得するうちに,発信データ群Nの電話発信
処理を複数回行うことが予定されているのであるから,メインフレーム1
6からシステム制御装置11に転送されるアカウント情報は,本件特許発
明でいう発信データ群Nよりも多いことは明らかである。
また,原告は,引用発明1が出願された1987年当時の主記憶容量が
極めて限られていたと主張するが,引用例1に「システム制御装置11が
十分な記憶容量を有する場合は,システム制御装置11は顧客アカウント
のファイル全体を保持し,この記録全体をオペレータ端末に送信してもよ
い」との記載(後記第4,2(2)アP)があるように,システム制御装置。
11は相当程度の記憶容量を有することも想定されているのである。した
がって,3ないし5件程度の顧客アカウント情報しか保持できないなどと
いう原告の主張は,明細書の記載にもまた当業者の技術常識にも明らかに
反する。
さらにいうならば,引用例1の記載(後記第4,2(2)アR)も,シス
テム制御装置11に一括転送される顧客アカウント情報の件数が相当程度
に上ることを予定した記載である。一括転送される顧客アカウント情報が
原告のいうように3ないし5件程度にとどまるのであれば,発信待ちの間
にシステム制御装置11に記憶されたアカウント情報が「最新でなくなる
可能性」は非常に小さく,この点に配慮する必要はなくなるからである。
(6)取消事由6に対し
ア原告の主張(ア)に対し
前述のとおり,引用発明1はプレディクティブ発信用DBを排除するこ
とを特徴とするものでは全くなく,メインフレームコンピュータ16から
システム制御装置11へと複数の顧客アカウント情報が一括モード転送さ
れることにより,プレディクティブ発信用DBが作成される一方,メイン
フレームコンピュータ16の顧客アカウント情報に発信の可否を問い合わ
せるものであり,メインフレームコンピュータが引用発明2の「別のファ
イル」となりうることは明らかであるから,原告の主張はその前提におい
て誤っており,失当である。
イ原告の主張(イ)及び(ウ)に対し
引用発明1はアウトバウンド業務で得られた発信不要データと,インバ
ウンド業務で得られた発信不要データのいずれをも発信回避に使用できる
のであるから,引用発明2のアウトバウンド業務で得られた発信不要デー
タを発信回避に用いる技術を引用発明1に適用することに困難はない。そ
して,その場合に,当業者が,アウトバウンド業務で得られた発信不要デ
ータによる発信回避のためにしか引用発明2の技術を適用せず,インバウ
ンド業務で得られた発信不要データには上記技術を適用しないなどという
ことはおよそ考えられないから,引用発明1に引用発明2の技術を組み合
わせることによって,本件発明の構成を得ることは当業者に容易である。
第4当裁判所の判断
1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯,(2)(発明の内容,(3)(審))
決の内容)の各事実は,当事者間に争いがない。
2容易想到性の有無
審決は,本件発明は引用発明1及び2から容易に想到できるとし,一方,原
告はこれを争うので,以下検討する。
(1)本件発明の意義
ア本件明細書(甲4)には,次の記載がある。
・発明の属する技術分野】本発明は,顧客の電話番号を自動的にダイヤ「【
ルして発信するプレディクティブ発信業務を行っているコールセンタシ
ステム,及び,プレディクティブダイヤラ装置に係り,特に,プレディ
クティブ発信業務を行っている途中で不要となったデータの発信を発信
直前に止めることが可能なコールセンタシステム,及び,そこで用いら
れるプレディクティブダイヤラ装置に関する(段落【0001)。」】
・従来の技術】コールセンタシステムの利用者が,能動的に顧客と連絡「【
を取りたい場合に,予測発信機能を用いて,顧客の電話番号を自動的に
ダイヤルし,顧客と接続された呼のみをオペレータに接続することによ
って,オペレータの効率を向上させるプレディクティブ発信業務が行わ
れている(段落【0002)。」】
・このようなプレディクティブ発信業務を行っている従来のコールセン「
タシステム,及び,そこで用いられるプレディクティブ発信装置で発信
データを作成する際には,図1に示す如く,ステップ100で,全ての
顧客情報を管理しているマスタデータベース(DB)10から,プレデ
ィクティブ発信を行うデータを所定の条件で抽出して,プレディクティ
ブ発信専用のデータベース(DB)12を作成した後,ステップ102
で,プレディクティブ発信用データベース12で選択された顧客の電話
番号を自動的にダイヤルして発信するプレディクティブ発信処理を行っ
ていた(段落【0003)。」】
・図1】プレディクティブ発信における従来の発信中止処理を示す流れ【

・そのため,一旦プレディクティブ発信処理が開始されてしまうと,例「
えば顧客から着信する通話によるインバウンド業務,インターネット,
電子メール,又はその他の事務部門等における顧客からのコンタクト等
によりプレディクティブ発信を行わなくてもよい発信不要データがステ
ップ200で発生した場合には,ステップ202で,マスタデータベー
ス10に発信不要データが発生したという情報を記憶させて,マスタデ
ータベース10を更新し,次いで,ステップ204で,バッチ処理又は
人が介在して,プレディクティブ発信用データベース12から発信不要
データを削除したり,あるいは,発信停止フラグを立てる等の処理が行
われていた(段落【0004)。」】
・発明が解決しようとする課題】しかしながら,このような方法では,「【
バッチ処理又は人が介在することにより,時間的なタイムラグが発生し
て,発信不要データが削除される前に,当該データのプレディクティブ
発信が行われてしまう場合があった。更に,昨今,コールセンタ,イン
ターネット,電子メール等といった顧客に対するコンタクトチャンネル
,,も多様化してきておりプレディクティブ発信業務を行っている途中で
発信が不要となったデータを削除することが,ますます困難になってき
ている(段落【0005)。」】
・本発明は,前記従来の問題点を解決するべくなされたもので,発信不「
要データのプレディクティブ発信を発信直前に止めることを課題とす
る(段落【0007)。」】
・本発明が採用されたコールセンタシステムの全体構成を図2に示す。「
このコールセンタシステムは,オペレータ毎に設けられた,複数(図で
は3台)の電話機20,及び,オペレータを補助するクライアント装置
22と,前記電話機20を公衆電話回線網(PSTN)14を介して顧
客の電話機16に接続するための交換機(PBX=PrivateBranch
eXchange)30と,インターネット接続用のウェブ(Web)サーバ装
置32と,電子メールを受信するためのメールサーバ装置34と,全て
の顧客情報を管理しているマスタデータベース(DB)10を管理して
いるマスタDB管理装置36と,例えば事務部門に設けられた顧客情報
処理部門38と,前記クライアント装置22,PBX30,ウェブサー
バ装置32,メールサーバ装置34,マスタDB管理装置36及び顧客
情報処理部門38とローカルエリアネットワーク(LAN)40を介し
て接続された,プレディクティブ発信業務を行うと共に,プレディクテ
ィブ発信が不要となった発信不要データの発信を発信直前に止めるリア
ルタイムコール止め機能を有するCTI(ComputerTelephony
Integration)サーバ装置50とを含んで構成されている(段落【0。」
024)】
・図2】本発明が採用されたコールセンタシステムの実施形態の全体構【
成を示すブロック図
・前記CTIサーバ装置50は,図3に詳細に示す如く,例えばパソコ「
ンで構成されるクライアント装置22に内蔵されたクライアントプログ
ラム24からLAN40経由でCTI命令を受信し,又,各種着信信号
を,後出CTI制御部54及びデータベース(DB)制御部58から受
信してクライアントプログラム24に送信するクライアント制御部52
と,該クライアント制御部52から送信されたCTI命令及びDB制御
部58から送信された発信可能データをPBX30に送信して,発信処
理を行うと共に,PBX30から送られてくる着信,応答,切断等の情
報を管理し,プレディクティブ発信した結果,着信した情報はDB制御
部58へ送信し,それ以外の着信情報はクライアント制御部52へ送信
するCTI制御部54と,予測発信を行うためのプレディクティブ発信
のデータ数(呼数)NをDB制御部58へ通知するペーシング制御部5
6と,該ペーシング制御部56から要求があった発信データ群をプレデ
ィクティブ発信用DB12から抽出すると共に,抽出したデータをマス
タDB10と比較して,マスタDB10に存在する発信不要データをチ
ェックし,発信可能なデータをCTI制御部54へ送信する一方,発信
不要なデータは発信不要データベース(DB)60に格納するデータベ
ース(DB)制御部58とを備えている(段落【0025)。」】
・図3】前記実施形態のCTIサーバ装置及びその周辺を示すブロック【


以下図4を参照して本実施形態の処理手順を説明する段落0「,,。」(【
026)】
・図4】前記実施形態におけるリアルタイムコール止め発信処理の全般【
を示す流れ図
・まずステップ300で,キャンペーン(業務)単位毎に設定された,「
。,図5に示すような条件設定テーブルを読み込む本実施形態においては
電話番号T又は,顧客識別情報の一つであるコールIDCを,データ
を読み込むためのキーとすることができる(段落【0027)。」】
・次いでステップ302で,上位プログラムが終了したか否かを判定す「
る。判定結果が否である場合には,本処理を終了し,判定結果が正であ
る場合には,ステップ304に進み,ペーシング制御部56から発信デ
ータ数Nを取得する(段落【0028)。」】
・次いでステップ306に進み,本発明に係るリアルタイムコール止め「
/発信処理を行う(段落【0029)。」】
・このリアルタイムコール止め/発信処理は,具体的には,図6に示す「
如く行われる。即ち,まずステップ400で,前記プレディクティブ発
信用DB12から発信データを抽出する。次いでステップ402で,マ
スタDB10を検索し,ステップ404で,発信不要データではないと
判定された時にはステップ406に進み発信処理を行う段落0,,。」(【
030)】
・一方,ステップ404で発信不要データであると判定された時には,「
ステップ408に進み,発信せずに発信不要DB60に登録する(段。」
落【0031)】
・ステップ406又は408終了後,図4のステップ308に戻り,発「
信数がNとなるまで,ステップ306のリアルタイムコール止め/発信
処理を繰り返す(段落【0032)。」】
・前記実施形態においては,発信不要データを専用の発信不要DB60「
に登録していたが,マスタDB10に登録したり,あるいは,マスタD
B10のフラグ等に反映することも可能である。キーの種類も,電話番
号やコールIDに限定されず,他の顧客識別情報を用いることができ
る(段落【0035)。」】
イ上記記載によると,本件発明は,従来,プレディクティブ発信を行わな
,,くてもよい発信不要データが発生した場合バッチ処理又は人が介在して
プレディクティブ発信用データベース12から発信不要データを削除した
り,あるいは,発信停止フラグを立てる等の処理が行われていたところ,
そのような従来技術においてはバッチ処理や人の介在によるタイムラグが
発生して本来プレディクティブ発信が不要なデータについてのプレディク
ティブ発信が行われてしまうという問題点があったとの点を解決すべく,
「顧客情報を管理しているデータベースからプレディクティブ発信を行う
データを所定の条件で抽出して,プレディクティブ発信用のデータベース
を作成した後」に生ずる,マスタデータベースの更新に伴って生ずるプレ
ディクティブ発信用データベースへの更新の伝播のタイムラグという課題
を「リアルタイムコール止め」という解決手段によって解決しようとする
ものであることが認められる。
(2)引用発明の意義
ア引用例1(甲1)には,以下の記載がある(なお,以下の記載はすべて
甲1の2記載の和訳により,末尾のかっこ内に原文〔甲1〕の摘示箇所を
示す。。)
A「メインフレームコンピュータ(16)は,顧客又は潜在的顧客のア
カウント情報,例えば顧客名,顧客電話番号,顧客アカウントコード,
顧客注文状態等を保持し顧客アカウント情報群をシステム制御装置1,(
1にデータ制御装置15を介して送信するシステム制御装置1)()。(
1)は幹線インタフェース部(10a~10d)に顧客の電話番号をダ
イヤルし,発信の状態を監視するよう命令する(フロントページ左欄。」
27行~右欄5行)
「,,,B多くのビジネス特に多数の顧客アカウントを有するビジネスは
定期的に顧客に電話でコンタクトして,更新されたアカウント情報を得
,,,たり顧客に期限経過勘定を督促したり滞納勘定について集金したり
又は他の業務を行う。また,幾つかのビジネスは,以前に郵送したカタ
ログ又は広告に応答して電話で行うセールス,或いは顧客に電話をする
直接勧誘によるセールスに主に又はだけに基づいている(1欄12~。」
20行)
C「このようなビジネスにおいて,顧客アカウント情報は通常,メイン
フレームコンピュータに記憶され,顧客アカウント情報のコピーがディ
スク又はテープ等の記憶媒体に記憶される。次に,このコピーは,オペ
レータ(顧客アカウント,セールス,又はサービス担当者)がアクセス
するための別のコンピュータに設置される(1欄20~26行)。」
D「従って,オペレータの時間をより有効に使用できるように,オペレ
ータの介入なしに自動的に番号をダイヤルし,呼出しに応答があった場
合だけオペレータを接続し,メインフレームにある顧客アカウント記録
を表示する方法及び装置が必要とされている(1欄38~44行)。」
E「通常,処理されたビジネス用の顧客アカウント情報は,以前に作ら
れたコピーに入力されるか又は別のファイルに保持される従って1,。,
日の業務,又はビジネスセッションの終了時に,該コピーの変更は,メ
インフレームシステム内の顧客アカウント情報に取り込まれ,統合され
なければならない(1欄63~68行)。」
F「このため,メインフレーム又はシステム制御装置から顧客アカウン
ト情報の最新のコピーを得て,顧客アカウントへの変更を含む最新ファ
イルに更新するのに貴重なオペレータ時間がまた浪費される(2欄1。」
0~14行)
G「従って,オペレータがメインフレームファイルと変更ファイルの違
いを探す必要なく最新の顧客アカウント情報に直ちにアクセスできるよ
うに,メインフレーム内の顧客アカウント情報をオンライン又はリアル
タイムに更新し,また問題発生時,呼出し結果及び任意の変更を見つけ
るか又はコピーできるように,顧客アカウント情報になされた変更のコ
ピーと各呼び出しの状態情報を維持するための方法及び装置が必要とさ
れている(2欄15~24行)。」
H「本発明は,電話番号をダイヤルさせ,応答を待つ作業からオペレー
タを解放するための方法及び装置を提供し,予備的な顧客アカウント情
報を得る作業からオペレータを解放し,メインフレーム内の顧客アカウ
ント情報のオンライン直接更新を可能にすることで,顧客アカウントフ
ァイルに変更を統合する必要をなくし,かつ,オペレータに顧客アカウ
ントの最新情報を提供する(2欄28~37行)。」
I「また,本発明は,顧客アカウントの全ての変更の記録と,各発信と
各着信の状態の記録とを別に維持しながら,メインフレームファイル内
の顧客アカウント情報をオンライン更新するための装置を提供する」。
(3欄1~6行)
J「従って,本発明の目的は,顧客アカウントの全ての変更の記録と,
必要に応じて,各発信と各着信の状態とを別に維持しながら,メインフ
レームファイル内の顧客アカウント情報を直ちにオンライン更新するた
めの方法及び装置を提供することである(3欄7~12行)。」
「,Kこの好適な実施形態は4つの幹線インタフェース部10a~10d
システム制御装置11,16幹線×10線・クロス点スイッチ13,デ
ータ制御装置15,メインフレームコンピュータ16,及び10個のオ
ペレータ端末12a~12jを備える。16本の幹線T1~T16は集
成幹線インタフェース部10とクロス点スイッチ13に接続される。各
幹線インタフェース部10a~10dは4つの幹線を収容し,幹線イン
タフェース部10aは幹線T1~T4にサービスを提供し,幹線インタ
フェース部10bは幹線T5~T8にサービスを提供する(他同様。)
各幹線インタフェース部10a~10dは次の機能:幹線占有,ダイヤ
リング,呼出し進行監視,メッセージ再生,及びメッセージ記録を実行
する。下記に幹線インタフェース部10a~10dについてより詳細に
説明する。スイッチ13はクロス点スイッチである必要はなく,別の同
。,,()様な装置であってもよい例えばスイッチ13は構内交換PBX
スイッチ等の電話システム又はその一部であってもよい(3欄48~。」
65行)
L「ここで本実施形態の動作を考える。メインフレームコンピュータ1
6は,所望の数のアカウントの顧客アカウント情報をデータ制御装置1
5に一括転送又はオンライン転送により提供する。次にデータ制御装置
15はこの情報をポートHPS1を介してシステム制御装置11に提供
する。或いは,システム制御装置11はこの情報を直接メインフレーム
16とそのディスクドライブシステムから得てもよい。次にシステム制
御装置11はアカウント毎に顧客名,顧客電話番号,アカウント番号,
及び/又はあるタイプのメインフレームデータベース指標番号を抽出す
。,,る幹線T1が使用可能であると仮定するとシステム制御装置11は
幹線インタフェース部10aに幹線T1を占有するよう命令し,顧客電
話番号を幹線インタフェース部10aに提供し,幹線インタフェース部
10aにこの顧客電話番号をダイヤルするよう命令する。幹線インタフ
ェース部10aは顧客電話番号をダイヤルし,この呼出しの状態を求め
て幹線T1を監視する(5欄13~31行)。」
M「幹線T1を介して被呼者が応答した時,空いたオペレータが居ない
。,と仮定する幹線インタフェース部10aはメッセージ再生機を起動し
システム制御装置11に被呼者が応答したことを通知する。空いたオペ
レータが居ないことを確認後,システム制御装置11は幹線インタフェ
ース部10aが被呼者へ予め記録された所望のメッセージの再生を続け
ることを許可する。システム制御装置11が空いたオペレータが居ると
判断すると,システム制御装置11はクロス点スイッチ13に,利用可
能なオペレータ端末12を幹線T1に接続させ,幹線インタフェース部
10aに幹線T1を解放し,メッセージを停止し,次のメッセージに進
み,短縮された顧客アカウント情報を該利用可能なオペレータ端末12
に送信するよう命令する(6欄23~37行)。」
N「キーボード12a6を介してオペレータが行った全ての入力は,端
末12a4によってシステム制御装置11に送信され,オンラインモー
ドにおいてデータ制御装置15に送信される。本実施形態では,システ
ム制御装置11は入力の数とタイプ,接続時間等に関する統計を維持す
る。データ制御装置15は高速直列ポートHSP12を介して変更をメ
インフレーム16に送信し,メインフレーム16は主データベース内の
当該顧客アカウント情報を更新する。従って,メインフレーム16に記
憶されオペレータに提供される顧客アカウント情報は最新の情報であ
る(7欄5~16行)。」
O「また,メインフレーム16の主データベース内の当該顧客アカウン
ト情報を直ちに更新するので,オペレータが行った顧客アカウント情報
への変更を各業務日の終りに統合する必要がないこと,及び一日の任意
の時点で顧客が電話をかけてくる,又は顧客を呼出した時,オペレータ
に提供される顧客アカウント情報は最新の更新された顧客アカウント情
報であるという利点があることが理解されるであろう(7欄21~3。」
0行)
P「従って,オペレータによる顧客アカウント情報へのいかなる変更も
直ちにメインフレーム16に提供され,メインフレーム16は自動的か
。,,つ直ちに該顧客アカウント情報を更新するまた自動更新であるので
オペレータに提供されるいかなる情報も最新の情報である。従って,
オペレータはメインフレーム16に直接接続されているように見える。
本実施形態では,システム制御装置11は短縮された顧客アカウント
情報だけをオペレータ端末12に送信するが,もしシステム制御装置1
1が十分な記憶容量を有する場合は,システム制御装置11は顧客アカ
ウントのファイル全体を保持し,この記録全体をオペレータ端末に送信
してもよい(7欄36~50行)。」(
Q「システム制御装置11により使用されるロジックのフローチャート
である図4A及び図4Bを参照する。26からスタート後,第1ステッ
プ27ではメインフレーム16から一括モード転送により複数の顧客の
アカウント情報を得る。このアカウント情報はメインフレームデータベ
ース指標番号又はキーを含んでもよい。或いは,システム制御装置11
は複数のアカウントの短縮されたアカウント情報,例えば名前,電話番
号,アカウント番号,及び/又は指標番号を得てもよい。一括モード転
送が好ましいが,もし望むなら,システム制御装置11はメインフレー
ム16から1つの顧客アカウントに関する情報を得てもよい。次のステ
ップ28では,オペレータの予想される空き状況に基づいて新しい呼出
()。,し又は再呼出しの必要性を計算する空いたオペレータが居る場合
新しい呼出し(又は再呼出し)が必要となる。しかし,全てのオペレー
タが話中である場合,所定の時間内にオペレータが空く統計的確率に基
づいて新しい呼出しが必要である場合とない場合がある。判定29は新
しい呼出し(又は再呼出し)が必要かを調べる。もし否であれば,シス
テム制御装置11はステップ28に戻る。もし必要であれば,システム
制御装置11はステップ30に進み,呼出す次のアカウントの電話番号
を抽出する。判定31は幾つかの要因に基づいて抽出した電話番号をダ
イヤルすることが許されるかを検査する。これらの要因は,通常相手が
位置するタイムゾーン,該電話番号に以前電話をかけたか,以前かけた
該電話番号は話中であった/応答がなかった/使われていなかったか,
該電話番号に最後にかけてからの経過時間,該アカウントは昼間/夜間
/ある時間帯に呼出すべきかに関する情報,及び所望の優先度(より大
きな勘定が優先)を含む。これらの要因に基づいてこの電話番号をダイ
ヤルすることが許されない場合,システム制御装置11はステップ28
に戻る。この電話番号をダイヤルすることが許される場合,システム制
御装置11はステップ32に進む(9欄42行~10欄12行)。」
R「ステップ27でシステム制御装置11は一群の顧客アカウントのア
カウント情報を得るので,その後の着信及び/又は請求に対する支払い
及びクレジットにより,システム制御装置11に記憶されたアカウント
情報は,発信待ちの列において特定の顧客アカウントの順番が来る時ま
でに最新ではなくなる可能性がある。この問題を扱う幾つかの方法が存
在する。1つの方法は,システム制御装置11はステップ27で一度に
。,1つのアカウントだけのアカウント情報を得ることである別の方法は
メインフレーム16に情報が入力されるたびに,メインフレーム16が
当該アカウントに関する更新された情報をシステム制御装置11に送信
することである。本実施形態で使用する方法は,アカウントに電話をか
ける前に,システム制御装置11がメインフレーム16に該アカウント
の状態を問合せることである。これに応答して,メインフレーム16は
該アカウントの状態に変化があったか否かと,変化があった場合,どん
な状態変化が発生したかをシステム制御装置11に通知する。状態に変
化がなかった場合,又は変化が該特定のアカウントに電話をかける必要
性に影響しない場合,システム制御装置11はステップ32に進む。該
アカウントに電話をかけることがもはや適当でない場合,システム制御
装置11はステップ28に戻る(10欄13~37行)。」


イ上記記載によれば,引用例1は,顧客のアカウント情報を管理している
メインフレームコンピュータ(16)内からプレディクティブ発信を行う
所望の数の顧客アカウント情報がデータ制御装置15を介して,システム
制御装置11に転送され,所望の数の顧客アカウント情報から選択された
顧客の電話番号を自動的にダイヤルして発信するプレディクティブ発信業
務を行っている顧客オンラインサービスシステムにおいて「システム制,
御装置11は一群の顧客アカウントのアカウント情報を得るので,その後
の着信及び/又は請求に対する支払い及びクレジットにより,システム制
御装置11に記憶されたアカウント情報は,発信待ちの列において特定の
顧客アカウントの順番が来る時までに最新ではなくなる可能性がある上」(
記アR参照)という課題を解決するため,アカウントに電話をかける前に
システム制御装置11がメインフレーム16に該アカウントの状態を問合
せて発信不要データであると判定された場合は新しい発信の必要性を計算
するという解決手段を採用したという技術であることが認められる。
(3)原告主張の取消事由に対する判断
ア取消事由1(本件発明の要旨認定の誤り)について
(ア)原告は,本件発明の要旨認定には誤りがあると主張するが,そもそも
審決は,本件発明について,特許請求の範囲請求項1の記載のとおりに
要旨を認定しているにすぎず,その記載自体については原告も認めると
認否しているのであるから,審決の要旨認定に誤りがあるということは
できない。
(イ)また,原告は,前記第3,1(4)アのとおり,本件発明は,バッチ処
理構成を基本にしつつ,コール止めのリアルタイム処理に必要な構成を
採用したという,いわば「バッチ処理とリアルタイム処理のハイブリッ
ド構成」を採用した点に特徴があり,本件発明の「プレディクティブ発
信用データベース」が「バッチ処理」により作成されたものであること
を前提とした主張を展開している。
しかし「プレディクティブ発信用データベース」が「バッチ処理」,
により作成されるものである点については,本件特許の特許請求の範囲
には何ら記載はなく,本件明細書及び図面にも何ら開示されていない。
また,本件発明の意義は前記(1)イのとおりであり,本件発明は,プ
レディクティブ発信用データベースが作成された後の,発信不要データ
の発生から発信までのタイムラグを問題とし,この問題の解決を課題と
したものであって,プレディクティブ発信用データベースを「バッチ処
理」で行うことを前提としたものではなく,プレディクティブ発信用デ
ータベースを「バッチ処理」で行う場合に生じる問題の解決を課題とし
たものでもない。したがって,原告の主張する本件発明の課題認識は,
本件明細書に開示された本件発明の課題とは異なるものであって,本件
発明の技術内容を正解しないものである。
(ウ)この点につき,原告は,クレームの「おいて」書きの部分の「プレデ
ィクティブ発信用DBを作成した後」という文言は,これがバッチ処理
であることを明確に示すものであると主張する。
しかし,本件明細書の記載を全体として見た場合「作成」の文言に,
よって作成の方法が何ら特定されていないことは後述するとおりであ
り「作成」の文言からバッチ処理といった意味を読み取ることはでき,
ないというべきであるから,この点に関する原告の主張は採用すること
ができない。
イ取消事由2(引用発明1認定の誤り)について
(ア)前記(2)アの記載によれば,引用例1には,前記(2)イに記載された
技術事項が記載されていると認められるから,引用発明1の内容につき
前記第3,1(3)イのとおりとした審決の認定に誤りはない。
(イ)この点につき,原告は,前記(2)アC,E,F,G,N,O,P等の
記載を根拠として,引用発明1は,プレディクティブ発信用DBをバッ
チ処理により作成するという過程を強いて取り去り,顧客マスタDBだ
けですべての顧客情報をオンライン処理(リアルタイム処理)で管理す
る方法を採用しているのであって,プレディクティブ発信用DBを排除
することが最大の特徴である旨主張する。
しかし,被告主張のとおり,原告が指摘する明細書の記載は,いずれ
も顧客情報の修正処理に関するものであって,発信処理に係る記載では
ないから,そもそも原告の主張は失当である。
仮にそうでないとしても,原告の主張aにおいて「オペレータがア,
クセスするための別のコンピュータに設置されるコピー」が「プレディ
クティブ発信用DB」に該当するとの原告の主張は,引用例1の記載に
基づくものとはいえない。引用例1において「オペレータの時間をよ,
り有効に使用できるように,オペレータの介入なしに自動的に番号をダ
イヤルし,呼出しに応答があった場合だけオペレータを接続(D)す」
るプレディクティブ発信における顧客へのダイヤルを行うに当たって,
そのダイヤルによる呼出しに対する応答後に初めて割り当てられて接続
されるオペレータ端末上の情報をダイヤル時つまり呼出に対する応答前
に参照することはあり得ず,引用例1のオペレータ端末に設置されたコ
ピーは,プレディクティブ発信のための顧客へのダイヤルを行うに当た
って決して参照され得ないものであるからである。
そして,前記(2)アLの記載によれば,本件発明の「プレディクティ
ブ発信用のデータベース」に対応させるべき引用例1記載の構成は,上
記Cにある「オペレータがアクセスするための別のコンピュータに設置
される顧客アカウントのコピー」ではなく,むしろ,上記Lにある「所
望の数のアカウントの顧客アカウント情報」である。
したがって,引用例1のオペレータ端末に設置されたコピーが本件発
明のプレディクティブ発信用DBに該当するものである旨の主張は,引
用例1の記載内容と両立しないものである。
また,原告の主張b,c,d,eについては,上記原告の主張aが正
しいことを前提としているところ,上記のとおり,この主張は引用例1
の記載に基づかないものであるから,この主張は,誤った前提に基づく
主張である。すなわち,原告が引用発明1において作成処理が取り除か
れたものであると主張しているものは,上記Cに記載された「オペレー
タ(顧客アカウント,セールス,又はサービス担当者)がアクセスする
ための別のコンピュータに設置されるコピー」であるところ,これは前
述したとおり,本件発明におけるプレディクティブ発信用のデータベー
スに相当する構成ではなく,これを排除するかどうかは本件発明と無関
係である。そして,本件発明におけるプレディクティブ発信用のデータ
ベースに相当する引用発明1の構成である上記Lにある「所望の数のア
カウントの顧客アカウント情報」は,引用発明1において排除されてい
ない。そうすると,引用発明1が本件発明のプレディクティブ発信用の
データベースに相当する構成を排除したものであるとの主張は,引用例
1の記載に基づくものではなく,失当である。
ウ取消事由3(一致点認定の誤り)について
(ア)原告の主張(ア)について
原告は,本件発明の「プレディクティブ発信用のデータベース」と引
用発明1の「所望の数のアカウント情報」とを「データの集合」といっ
た抽象化された概念のレベルで同一視することは不可能でありかつ誤り
であると主張する。
しかし「プレディクティブ発信用のデータベース」は,顧客の電話,
番号を自動的にダイヤルして発信するに当たって顧客情報を管理してい
るデータベースから抽出して作成されるものであってその文言上デ,,「
ータベース」であり,かつ,プレディクティブ発信に用いられるもので
あることが特定されているとはいえるものの,本願明細書の発明の詳細
,「」な説明の記載を精査してもプレディクティブ発信用のデータベース
の文言の技術的意義をさらに特定する記載は見当たらない。
,,,(。そこでその一般的意義を検討するにまず広辞苑第6版甲18
2008年株式会社岩波書店)によれば「データベース」とは「系,,
統的に整理・管理された情報の集まり」を意味すると認められ,それ。
以上の限定はないから「プレディクティブ発信用のデータベース」に,
おいても,系統的に整理・管理された情報の集まりであって,プレディ
クティブ発信時に順次データを参照できればよく,それ以上の管理情報
や管理システムの存在を前提とするものではないと認められる。
一方,引用発明1の文言の技術的意義についてみると,後記オ(オ)で
認定するとおり,引用例1における「所望の数の」あるいは「複数の」
という文言は「少数の」あるいは「3ないし5の」の意味を含むもの,
というよりは,むしろ,処理を遅滞なく行える程度であるとともに発信
待ちの間にデータが古くなる程度にまとまった相当の量であるという意
味を含んでおり,また,この「所望の数の顧客アカウント情報」からア
カウントの電話番号が抽出されてダイヤルされるのであって,そのため
に必要な整理・管理がなされているものである。そうすると「所望の,
数の顧客アカウント情報」は,プレディクティブ発信に用いることがで
きるように系統的に整理・管理された,ある程度まとまった量の情報の
集まりであると認められる。
また,本件発明における「プレディクティブ発信用のデータベース」
がバッチ処理により作成されたものであるか否かは本件発明と無関係の
事項であることは,前記ア認定のとおりである。
以上によれば,引用発明1の「所望の数のアカウント情報」と本件発
明の「プレディクティブ発信用のデータベース」とは「プレディクテ,
ィブ発信を行う発信データの集合」である点では共通しているというこ
とができるから,この点を一致点として認定した審決に誤りはない。
(イ)原告の主張(イ)について
原告は,引用発明1の「最新ではなくなる可能性がある「顧客アカ」
ウント情報」の中に「インターネット「電子メール」による顧客から」
のコンタクトから得られる情報が含まれるとする審決の認定は誤りであ
ると主張する。
しかし,本件発明において,顧客からのコンタクトは「顧客から着,
信する通話によるインバウンド業務,インターネット,電子メール,又
はその他の事務部門における該顧客からのコンタクトと記載され顧」,「
客から着信する通話によるインバウンド業務「インターネット「電」,」,
子メール「その他の事務部門における該顧客からのコンタクト」は,」,
「又は」で接続された択一事項であるから,引用発明1においてこれら
のいずれか1つによる顧客からのコンタクトがあれば一致点となるとこ
ろ,審決においては,引用発明が「顧客から着信する通話によるインバ
ウンド業務」と「その他の事務部門における該顧客からのコンタクト」
による顧客からのコンタクトがあることを認定しており,本件発明と少
なくとも2つの点で一致しているから,審決の認定に誤りはない。
(ウ)原告の主張(ウ)について
原告は,本件発明の「指定されたデータベース」には「顧客マスタD
B」以外のDBも含んでいることを理由として「引用発明1の『メイ,
ンフレームコンピュータ16に該アカウントの状態を問い合わせる』こ
とと本件発明の『プレディクティブ発信用のデータベースから抽出され
た発信データを『電話番号又は他の顧客識別情報をキーとして指定さ,』
れたデータベースを指定された条件で検索すること』とは『プレディ,
クティブ発信用のデータの集合から抽出された発信データを指定された
データベースに照会すること』で共通する」とする審決の認定は誤りで
あると主張する。
しかし,本件発明における,検索される「指定されたデータベース」
の技術的意義については,特許請求の範囲の文言上何らの限定がなされ
ていないばかりか,本件明細書の発明の詳細な説明をみると,この「指
定されたデータベース」の唯一の実施例として「マスターDB10」を
検索する例が記載されているところ,このマスターDB10は,本件発
明の「顧客を管理しているデータベース」に対応する構成であるから,
少なくとも「指定されたデータベース」は「顧客を管理しているデータ
ベース」を含むものである。
,,「」一方引用発明1は本件発明の顧客を管理しているデータベース
に対応する「メインフレームコンピュータ16」内にある「顧客を管,
理しているデータベース」を検索するものである。
そうすると,引用発明1の「メインフレームコンピュータ16」内に
ある「顧客を管理しているデータベース」は,本件発明における,検索
される「指定されたデータベース」に相当する構成でもあるから,この
旨を説示した審決に誤りはない。
エ取消事由4(引用発明2認定の誤り)について
(ア)引用発明2は,相違点2の判断において参照された公知技術であると
ころ,引用例2(甲2)には,以下の記載がある。
・図18に示す形態での2つのコールセンターで,コールセンター1「
からコールセンター2に顧客の不在情報が通知される例を用いる。コ
ールセンター1におけるコールリスト1(211(1)は,図19)
で示される内容であるとする。この場合,コールセンター1では,以
下の手順で電話をかける(段落【0133)。」】
・図18】2つのコールセンター・システムの連携及び各コールセン【
ター・システムのホストコンピュータの内部構成の一例を示す図
・19図】コールセンター1でのコールリストの一例を示す図【
・顧客選択部212(1)は,コールリスト1の最初の顧客A氏の電「
話番号を取り出し,A氏に電話をかける。A氏とは電話が繋がり,テ
レマーケティングが行われたとする。なお,この時点ではA氏に関す
る不在等の情報はないものとする(段落【0134)。」】
・次に,顧客選択部212(1)は,コールリスト1の次の顧客B氏「
の電話番号を取り出し,B氏に電話をかける。ここで,B氏は不在で
あったとする。この場合,不在か否かは,実際にB氏の電話番号に電
話をかけ,一定時間内に応答があるか否かでB氏の不在を判断するの
で,B氏に電話をかけてからB氏の不在を確認するまでの時間は無駄
な時間となる(段落【0135)。」】
・B氏の不在を確認すると,顧客情報通知部215(1)は,B氏が「
不在である旨の情報をコールセンター2に通知する。その際,送られ
るデータの例を図20に示す。この場合は,B氏が不在である情報,
B氏の不在を発見した時刻B氏の電話番号が送られる段落0,。」(【
136)】
・図20】コールセンター1からコールセンター2に送られる不在者【
情報の一例を示す図
・コールセンター2の顧客情報受信部216(2)は,図20に示さ「
れたデータを受け取る。なお,B氏が不在であることおよびこれを検
出した時刻等の情報は,自身の顧客情報受信部216(1)に格納す
るか,あるいはコールリスト1中にフィールドを設けて記録してお
く(段落【0137)。」】
・次に,同時にテレマーケティング業務を行っているコールセンター「
2での手順を以下に述べる。コールセンター2におけるコールリスト
2(211(2)は,図21で示される内容であるとする(段落)。」
【0138)】
・図21】コールセンター1からコールセンター2に送られる不在者【
情報の一例を示す図
・顧客選択部217(2)は,コールリスト2の最初の顧客X氏の電「
話番号を取り出し,X氏を発呼する候補とする。この際,顧客情報受
信部216(2)を参照し,X氏の不在情報が届いていないかチェッ
クする。なお,自身で検出したある顧客の不在等の情報をコールリス
ト中に記録しておく場合,コールリスト2中のX氏の不在情報の欄も
チェックする(段落【0139)。」】
・この場合は,X氏の不在情報は届いていないので,X氏に電話をか「
,,。けX氏とは電話がつながりテレマーケティングが行われたとする
次に,顧客選択部217(2)は,コールリスト2の次の顧客B氏の
。,(),電話番号を取り出すそして顧客情報受信部2162を参照し
。」(【】)B氏の不在情報を届いていないかチェックする段落0140
・ここでは,図20に示されたB氏の不在情報が届けられていたとす「
る。顧客選択部217(2)は,現在の時刻とB氏の不在情報の時刻
とを比較し,B氏の不在が発見された時刻から一定の時間が経過して
いない場合は,B氏は不在である確率が大きいと判断し,B氏への電
話は後に回し,コールリスト2の次の顧客であるY氏の電話番号を取
り出す(段落【0141)。」】
「,,・このことにより不在である確率の大きいB氏に電話をかけてから
一定時間内に応答がないことを確認し,B氏の不在を確認するまでの
無駄な時間を省くことができる(段落【0142)。」】
(イ)上記記載によれば,引用例2に記載された発呼制御方法は,プレディ
クティブ発信をしようとする顧客情報について現に発信すべきか否かを
照会するに当たり,顧客の電話番号を取り出し,顧客情報受信部216
(2)を参照することによって,発信する必要のないデータ(発信不要
データ)を電話番号で検索するものであることが認められる。
そうすると,顧客情報受信部216(2)の有する顧客情報を「発信
不要データベース」と称することに何ら問題はないから,審決が,引用
発明2を「発信データを発信不要データベースに照会して発信不要デー
タであると判定するにあたり,電話番号をキーとして,発信不要データ
ベースを指定された条件で検索する,プレディクティブ発信制御方法」
と認定した点に誤りはない。
(ウ)原告は,審決の引用発明2に関する認定のうち「顧客情報受信部2,
16(2)が有する顧客情報は,全体として”発信不要データベース”と
いうことができる」との記載部分の発信不要の「顧客情報受信部216
(2)が有する顧客情報」は,本件発明における「顧客から着信する通話
によるインバウンド業務,インターネット,電子メール,又はその他の
事務部門等における顧客からのコンタクト等」のような他のシステム系
統から得られた情報を含んでいないなどと主張するが,本件では,本件
発明と引用発明1との相違点2の判断に当たって,発信データを指定さ
れたデータベースに「照会」することにより発信不要データであると判
定する具体的態様がメインフレームコンピュータに該特定の顧客のアカ
ウントの状態を問い合わせるものである引用発明1に,本件発明のよう
に電話番号又は他の顧客識別情報をキーとして指定されたデータベース
を指定された条件で検索するものとするような公知技術を組み合わせる
必要があるところ,審決は,引用例2の具体的な記載に基づいて,発信
データを指定されたデータベースに照会するに当たって電話番号又は他
の顧客情報をキーとして指定された条件で検索することが公知技術であ
ると認定しているものであるから,引用例2には,発信しないデータを
電話番号で検索する点が開示されていれば十分なのであって,引用例2
の発信しないデータがどのように生成されたものであるかは問題でない
というべきである。したがって,この点に関する原告の主張は採用する
ことができない。
オ取消事由5(相違点1認定判断の誤り)について
(ア)引用発明1における「プレディクティブ発信を行う「顧客アカウン」
ト情報」とは,プレディクティブ発信に用いることができるように系統
,「」的に整理・管理された情報の集まりであり引用発明1における転送
は,プレディクティブ発信において用いられる情報の集まりである「所
望の数の顧客アカウント情報」を生成する処理である。また「顧客ア,
カウント情報」は「所望の数」のものであるから,所望の数に達したか
否かを条件として抽出されたものである。
他方,本件発明は,プレディクティブ発信に用いることができるよう
に系統的に整理・管理された情報の集まりを「プレディクティブ発信用
のデータベース」と表現し,何らかの条件,方法によってこの情報の集
まりを生成することを「所定の条件で抽出」して「作成」すると表現,
しているものである。
そうすると,引用発明1のプレディクティブ発信に用いることができ
るように系統的に整理・管理された情報の集まりである「所望の数の顧
客アカウント情報」を「プレディクティブ発信用のデータベース」と表
現し「所望の数」の情報の集まりが「転送」によって生成されること,
を「所定の条件で抽出」して「作成」されると表現することは,当業,
者(その発明に属する技術の分野における通常の知識を有する者)が適
宜なし得たことである。審決は,上述の論旨を説示したものであって,
その内容に誤りはない。
(イ)原告の主張(ア)について
原告は,本件発明は,バッチ処理構成を基本にしつつ,それに部分的
にすなわちコール止めの部分に限ってリアルタイム処理を組み合わせる
というハイブリッド型構成であるのに対し,引用発明1は,バッチ処理
,,を完全に排除しフルリアルタイム処理型を採用したことを前提として
引用発明1にプレディクティブ発信用DBを用いる処理を組み合わせる
ことは,引用発明1の目的を実現不可能にすることになり,阻害事由が
あるなどと主張する。
しかし,本件発明で作成されるプレディクティブ発信用DBがバッチ
処理によって作成されることが要求されるものでないこと,引用発明1
は,バッチ処理を完全に排除し,フルリアルタイム処理型を採用したも
のとは解されないことは,前記ア及びイで説示したとおりであるから,
この点に関する原告の主張は前提において採用することができない。
(ウ)原告の主張(イ)について
原告は,本件発明は,発信不要データを「指定されたデータベース」
から検索するという構成を採用することで,顧客マスタDB以外のDB
を検索することも可能である旨主張する。
しかし,この点が本件発明と引用発明1との相違点でなく一致点であ
ることは,前記ウ(ウ)で説示したとおりである。原告の主張は審決の論
旨を正解しないものであって,採用することができない。
(エ)原告の主張(ウ)及び(エ)について
原告は,引用発明1の「所望の数」は「所定の条件」に相当しない,
引用発明1の「転送され」るは本件発明の「作成」に該当しない,など
と主張する。
しかし,本件発明に係る特許請求の範囲の記載及び発明の詳細な説明
の記載を精査しても「所定の条件で抽出する」というのがどのような,
条件によって抽出することなのか,また「作成する」とはどのような,
方法により作成することなのかを直接的に特定する記載はない。
かえって前記(1)イで認定したとおり発明の詳細な説明の段落0,,【
002】ないし【0005】における課題に関する記載からみて,本件
発明は,プレディクティブ発信用データベースの作成後に発生する問題
の解決を課題としており,プレディクティブ発信用データベースの作成
自体に伴う問題の解決を課題としたものではないから,プレディクティ
ブ発信用データベースをどのような条件でどのような方法によって作成
するかは,課題解決と無関係の事項であることが読み取れる。
したがって,一定の件数を指定して発信対象データを抽出することも
「所定の条件」に含まれるというべきであり,引用発明1において「所
望の数」の顧客アカウント情報を転送することも「所定の条件」に該当
すると解することに何ら問題はないし,コンピュータにおいて,データ
「」,,が転送されてそれが他の記憶装置に記録されればその記憶装置に
それまで存在していなかったデータが新たに記録されることになるので
あるから,それを「作成」と称することに何ら問題はないというべきで
あり,したがって,引用発明1のように,ある機器に存在するデータ集
合の中から他の機器に「転送」すべきデータ集合を抽出することも転送
データの「作成」に該当するということができる。
以上のとおりであるから,この点に関する原告の主張は採用すること
ができない。
(オ)原告の主張(オ)について
aこの点に関し,原告は,引用発明1でメインフレームコンピュータ
16からシステム制御装置11に「一括送信」されるデータの件数が
3ないし5件程度にすぎないこと等を根拠として,引用発明1の「転
送されたプレディクティブ発信を行う所望の数の顧客のアカウント情
報」は「データベース」ではないと主張する。
しかし,前記ウ(ア)で認定したとおり「データベース」とは「系,,
統的に整理・管理された情報の集まり」を意味すると認められると。
ころ,引用発明1においても「所望の数の顧客アカウント情報」か,
らアカウントの電話番号が抽出されてダイヤルされるのであって,そ
のために必要な整理・管理がなされているものであると認められるか
ら,上記の定義に従えば「転送されたプレディクティブ発信を行う,
所望の数の顧客のアカウント情報」を「データベース」と称すること
に何ら問題はない。
bまた,原告は「一括転送」の対象は「anumberofcustomers」で,
あるところ「anumberof」は「several」と同義であり,せいぜい,
3ないし5件の顧客データにすぎないと主張する。
しかし,引用例1の明細書上「一括転送」の対象が数件のデータ,
である旨の記載はない。かえって,同明細書には,前記(2)アPのと
おり「システム制御装置11が十分な記憶容量を有する場合は,シ,
ステム制御装置11は顧客アカウントのファイル全体を保持し,この
記録全体をオペレータ端末に送信してもよい」との記載があり,同。
記載によれば,システム制御装置11は顧客アカウントのファイル全
体を保持できる程の記憶容量を有することも想定されているといえる
ものである。
cさらに,原告は,引用例1のFIG.4の記載を根拠に,引用発明
1でメインフレームコンピュータ16からシステム制御装置11に送
信されるアカウント情報の件数は,本件明細書の段落【0025】の
「該ペーシング制御部56から要求があった発信データ群」の数(=
N)と同程度であるなどとして,引用発明1でメインフレームコンピ
ュータ16からシステム制御装置11に「一括送信」されるデータの
件数が数件にすぎないなどとも主張する。
,,。しかし上記原告の主張は引用例1の記載を正解したものでない
むしろ引用例1の記載からすると,引用例1における「所望の数の」
あるいは「複数の」という文言は,プレディクティブ発信のデータ数
(呼数)Nよりは多い数であって,むしろ,プレディクティブ発信処
理を遅滞なく行える程度に,かつ,発信待ちの間にデータが古くなる
程度に,まとまった相当の量であるという意味を含んでいると認めら
れる。
すなわち,まず,前記(2)アLの記載からみて,引用例1において
は「所望の数の顧客アカウント情報」がシステム制御装置11に転,
送され,その上で,システム制御装置11がこの「所望の数の顧客ア
カウント情報」から選択された顧客電話番号にダイヤルしており,メ
インフレームコンピュータ16内の顧客のアカウント情報を管理して
いるデータベース(顧客管理情報を管理しているデータベース)から
ではなく,転送された「所望の数の顧客アカウント情報」から選択さ
れた顧客電話番号にダイヤルしていることが理解される。
そして,引用例1の「メインフレームコンピュータ16は,所望,
の数のアカウントの顧客アカウント情報をデータ制御装置15に一括
転送又はオンライン転送により提供する前記(2)アLの記載2。」(),「
6からスタート後,第1ステップ27ではメインフレーム16から一
括モード転送により複数の顧客のアカウント情報を得る(前記(2)。」
アQ)の記載「次のステップ28では,オペレータの予想される空,
()。き状況に基づいて新しい呼出し又は再呼出しの必要性を計算する
空いたオペレータが居る場合,新しい呼出し(又は再呼出し)が必要
となる。しかし,全てのオペレータが話中である場合,所定の時間内
にオペレータが空く統計的確率に基づいて新しい呼出しが必要である
場合とない場合がある。判定29は新しい呼出し(又は再呼出し)が
必要かを調べる。‥‥もし必要であれば,システム制御装置11はス
テップ30に進み呼出す次のアカウントの電話番号を抽出する前,。」(
記(2)アQ)の記載,及び「ステップ27でシステム制御装置11は
一群の顧客アカウントのアカウント情報を得るので,その後の着信及
び/又は請求に対する支払い及びクレジットにより,システム制御装
置11に記憶されたアカウント情報は,発信待ちの列において特定の
顧客アカウントの順番が来る時までに最新ではなくなる可能性があ
る(前記(2)アR)の記載からみて,システム制御装置11は,プ。」
レディクティブ発信を行うオペレータの空き状況等による統計的な予
測に基づいて転送された所望の数の顧客アカウント情報からアカウン
トの電話番号を選択するものであり,また「所望の数の顧客アカウ,
ント情報」は転送された後プレディクティブ発信のために選択される
までの間に転送元となったメインフレームコンピュータの顧客データ
ベースに対して最新ではなくなる可能性がありこれに対して前記(2),
アRに掲げられる様々な解決方法がある旨が記載されているものであ
る。
そうすると,統計的な予測に基づいてプレディクティブ発信を遅滞
なく行うために,これを遅滞なく行える程度の量の顧客アカウント情
報がシステム制御装置11に転送されているはずであるから,転送さ
れた「所望の数の顧客アカウント情報」は,プレディクティブ発信処
理を遅滞なく行う程度にまとまった相当の量のものであるとととも
に「発信待ちの列において特定の顧客アカウントの順番が来る時ま,
でに最新ではなくなる可能性がある」という事態が発生する程度にま
とまった相当の量のものであると認められる。
さらに,上記原告の主張は,原告が根拠として引用する引用例1の
FIG.4Aの記載内容とも整合していない。
すなわち,本件明細書における「予測発信を行うためのプレディク
ティブ発信のデータ数(呼数)N(段落【0025)というのは,」】
「オペレータの予想される空き状況」や「利用可能な幹線」の数に即
して決定されるプレディクティブ発信のデータ数なのであるから,引
用例1においては,ステップ28の「オペレータの予想される空き状
況に基づいて新しい呼出し(又は再呼出し)の必要性を計算する」や
ステップ32の「幹線インターフェイス部に利用可能な幹線を問い合
」。,わせるにおける処理の結果に応じて決定されるものであるそして
たかだか予測発信を行うためのプレディクティブ発信のデータ数個「(
数)N」の顧客アカウントのみをメインフレームからシステム制御装
,,,置11に転送するのであればステップ2829及びステップ32
33に対応する処理は,ステップ27の転送の処理に先だってなされ
ているはずであって,これらの処理が転送後に行われることはあり得
ないというべきであるから,引用発明1でメインフレームコンピュー
タ16からシステム制御装置11に送信されるアカウント情報の件数
は,本件明細書の段落【0025】の「該ペーシング制御部56から
要求があった発信データ群」の数(=N)と同程度であるということ
はないというべきである。
以上のとおり「anumberof」という文言から,直ちに,引用発明,
1の「一括転送」が3ないし5件程度のデータの転送であるとの原告
の主張は採用できない。
したがって,引用発明1の「転送されたプレディクティブ発信を行
う所望の数の顧客のアカウント情報」は「データベース」ではないと
の原告の主張も失当である。
カ取消事由6(相違点2認定判断の誤り)について
(ア)前記エ(イ)で認定したとおり,引用例2の記載事項からみて,発信デ
ータを指定されたデータベースに照会するに当たって電話番号をキーと
して指定された条件で検索することは,少なくとも引用例2に記載され
た公知の技術であると認められる。
そして,引用発明1は,プレディクティブ発信をするに当たってメイ
ンフレームコンピュータ16に該特定の顧客のアカウントの状態を問い
合わせるのであるから,発信データについて指定されたデータベースに
照会するものであるということができる。
そうすると,引用発明1において,発信データについて指定されたデ
ータベースに照会するに当たって引用例2に記載された公知技術を採用
して,電話番号をキーとして照会するように構成することは,当業者が
容易になし得たことであり,この旨を述べた審決に誤りはない。
(イ)原告の主張(ア)について
原告は,引用発明1は,プレディクティブ発信用DBを排除すること
に特徴を有する発明であるから,引用発明1に「別のファイル」を用い
る構成を組み合わせることには阻害要因があると主張する。
しかし,前記イで認定したとおり,引用発明1はオンライン(リアル
タイム)処理を実現するために,バッチ処理でのプレディクティブ発信
用DB作成処理を取り去るという構成を採用したものとは認められない
から,原告の主張はその前提において失当であり,採用することができ
ない。
(ウ)原告の主張(イ)及び(ウ)について
原告は,引用発明2は,複数のコールセンタ間の情報共有に関する発
,,明であり本件発明と引用発明2とは課題も課題解決手段も異なるとか
引用発明1に引用発明2を組み合わせる動機付けがない旨主張する。
しかし,前記エ(イ)で説示したとおり,引用発明1に引用発明2を適
用するに当たっては,引用例2には発信しないデータを電話番号で検索
する点が開示されていれば十分なのであって,引用例2の発信しないデ
ータがどのように生成されたものであるかは問題ではないというべきで
あるから,引用発明2が,複数のコールセンタ間の情報共有に関する発
明であって課題も解決手段も異なっていたとしても,引用発明1におい
て,発信データについて指定されたデータベースに照会するに当たって
引用例2に記載された公知の技術を採用して,電話番号をキーとして照
会するように構成することは当業者であれば容易になし得たことという
べきである。また,引用発明1における転送された顧客アカウント情報
の数が3ないし5件程度ではない点は,前記オ(オ)で述べたとおりであ
るから,引用発明1と引用発明2との組合せについて動機付けに欠ける
ところはない。
したがって,原告の主張は,その前提において失当であり,採用する
ことができない。
3結論
以上のとおり,原告の主張する取消事由は全て理由がない。よって,原告の
請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官中野哲弘
裁判官東海林保
裁判官矢口俊哉

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