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平成8年(ワ)第20655号損害賠償請求事件
(口頭弁論終結の日 平成15年7月22日)
              判  決
原       告   株式会社インディアンモトサイクルカンパニージャパン
原       告     株式会社サンライズ社
原       告     西澤株式会社
原告三名訴訟代理人弁護士  佐 藤 雅 巳
同復代理人弁護士      古 木 睦 美
被       告    東洋エンタープライズ株式会社
被       告      A
被告両名訴訟代理人弁護士伊藤真
              主文
    1 原告らの請求をいずれも棄却する。
    2 訴訟費用は原告らの負担とする。
      事実及び理由
第1 原告らの請求
 1 被告らは,各自,原告西澤株式会社に対し,8000万円及びこれに対する
平成8年10月29日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合によ
る金員を支払え。
 2 被告東洋エンタープライズ株式会社は,
  (1) 原告株式会社インディアンモトサイクルカンパニージャパンに対し,10
00万円及びこれに対する平成8年10月29日(訴状送達の日の翌日)から支払
済みまで年5分の割合による金員を支払え。
  (2) 原告株式会社サンライズ社に対し,3000万円及びこれに対する平成8
年10月29日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員
を支払え。
第2 事案の概要
 1 当事者
   原告株式会社インディアンモトサイクルカンパニージャパン(以下「原告イ
ンディアン」という。)は皮革製品,衣料品,袋物,洋品雑貨等の輸出入及び販売
等を,原告株式会社サンライズ社(以下「原告サンライズ」という。)は著作権の
取得,譲渡,貸与,管理等を,原告西澤株式会社(以下「原告西澤」という。)は
各種繊維原料及び繊維製品等の輸出入,卸売,仲介,代理等を,それぞれ目的とす
る株式会社である。
   他方,被告東洋エンタープライズ株式会社(以下「被告東洋」という。)は
繊維製品,化学製衣料品,雑貨類等の国内販売及び輸出入等を目的とする株式会社
であり,被告Aは被告東洋の代表取締役である。
 2 訴えの要旨
   本件は,1950年代以前にアメリカ合衆国で人気を博したオートバイのメ
ーカーに由来する,「インディアン」という名称のブランドの使用を巡る紛争であ
る。
   原告らは,① 被告東洋の代表取締役である被告Aが,原告西澤の取引先及
び原告サンライズのライセンシーである株式会社三竹産業(以下「三竹産業」とい
う。)の取引先に別紙文書1を送付した各行為,並びに,② 被告東洋が,B名下
に,いずれも原告サンライズのライセンシーである,(ア) 三竹産業に別紙文書2
を,(イ) 株式会社元林(以下「元林」という。)に別紙文書3を,及び,(ウ) 
兼松日産農林株式会社(以下「兼松日産農林」という。)に別紙文書4(以下,こ
れらの各書面を,その番号に従い「文書1」などという。)を送付した各行為は,
原告西澤との関係において,競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽事実
を告知し,又は流布する行為(不正競争防止法2条1項14号)に当たり,原告イ
ンディアン及び原告サンライズとの関係においては不法行為(民法709条)に当
たると主張する。
   その上で,原告西澤は,上記①について,被告Aに対し,不正競争行為を理
由とする損害賠償を求めるとともに,被告東洋は代表取締役である被告Aの行為に
つき連帯して責任を負う(商法261条3項,78条2項,民法44条1項)と主
張して,被告東洋に対しても損害賠償を求めている。また,上記②については,被
告東洋に対し,不正競争行為ないし使用者責任(民法715条)を理由とする損害
賠償を求めている。
   原告インディアン及び原告サンライズは,上記①について,被告Aに対し,
不法行為を理由とする損害賠償を求めるとともに,上記同様,被告東洋の連帯責任
(商法261条3項,78条2項,民法44条1項)を主張して,被告東洋に対し
ても損害賠償を求めている。また,上記②については,被告東洋に対し,不法行為
ないし使用者責任(民法715条)を理由とする損害賠償を求めている。
 3 前提となる事実(当事者間に争いがないか,あるいは当該箇所に掲げた証拠
及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
  (1) 被告商標の出願及び登録
    被告東洋は,平成3年11月5日,下記の商標を商標登録出願し,同商標
は平成6年3月31日に商標登録された(乙11,12)。
    したがって,被告東洋は,下記の商標権を有している(以下,この商標権
を「被告商標権」といい,その登録商標を「被告商標」という。)。
     出願年月日   平成3年11月5日
     登録年月日   平成6年3月31日
     登録番号    第2634277号
     商品区分    平成3年政令第229号による改正前の商標法施行令
             別表の商品区分第17類
     指定商品    被服,その他本類に属する商品
     登録商標    別紙「被告商標目録」記載のとおり
  (2) 原告商標の出願及び登録
    原告インディアンは,平成4年2月6日に商標登録出願され,平成7年9
月29日に商標登録された下記商標の商標権を有している(甲1,2。以下,この
商標権を「原告商標権」といい,その登録商標を「原告商標」という。)。
     出願年月日   平成4年2月6日
     登録年月日   平成7年9月29日
     登録番号    第2710099号
     商品区分    平成3年政令第229号による改正前の商標法施行令
             別表の商品区分第17類
     指定商品    被服(運動用特殊被服を除く。),布製身回品(他の
類に属するものを除く。),寝具類(寝台を除く。)
     登録商標    別紙「原告商標目録」記載のとおり
  (3) 原告商標の出願経過
    原告商標は,訴外Cが平成4年2月6日に出願したものであるが,平成5
年9月,自然人であるCが法人を示す表記「Co.,Inc」を含む原告商標を用いること
は,商標法4条1項7号に該当する旨の拒絶理由が通知された。これに対し,同年
10月,Cから,当該出願については米国法人「IndianMotocycleCo.,Inc.」の了
承を得ている旨の意見書が提出された。
    また,原告商標については,平成6年2月,先願の前記被告商標と称呼が
類似し,商標法4条1項11号に該当する旨の拒絶理由が通知された。これに対
し,同年5月,Cから,原告商標からは「インディアンモトサイクルカンパニーイ
ンク」の称呼が生じるが,他方,被告商標からは「インディアンモーターサイク
ル」の称呼が生じるから,これらが類似するとはいえない旨の意見書が提出され
た。
    上記の経過を経て,平成7年3月,原告商標につき登録査定がなされた。
  (4) 原告インディアンの警告及び被告東洋の回答
    原告インディアンは,原告商標が登録される前,平成7年6月30日付け
「警告書」(乙6)において,被告東洋に対し,同被告による欧文字「インディア
ン」等の使用は,原告商標の商標登録により生じる商標権の侵害にあたり,同被告
が上記使用行為を継続する場合には,民事・刑事上の責任を追及するつもりである
旨通知した。
    これに対し,被告東洋は,同年7月12日付け「回答書」(乙7)におい
て,出願中の原告商標は,本来商標登録されるべきものでないと考えており,設定
登録された場合には,直ちに無効審判を申し立てるつもりであるとともに,同被告
の側でも,原告商標が被告商標権を侵害することを理由に,原告インディアンに対
して法的措置を取る方針である旨を回答した。
  (5) 原告標章の使用
    原告インディアン及び原告サンライズは,被告東洋から上記「回答書」に
よる警告を受けた後も,従前どおり,原告商標に関するライセンスビジネスを続け
た。また,原告西澤も,別紙「原告標章目録」1及び2各記載の標章(以下,それ
ぞれ「標章1」,「標章2」といい,これらを総称して「原告標章」という。)を
襟ネームに付して使用した皮革製ジャケットを販売した(乙10及び弁論の全趣
旨)。
  (6) 原告商標の登録及び原告商標権の移転
    平成7年9月29日,原告商標が商標登録された。
    その後の平成7年10月16日,原告商標権は,Cから原告インディアン
に譲渡され,平成8年5月27日,その旨の権利移転登録がされた。
  (7) 原告商標の使用許諾等
    ところで,原告インディアンは,出願の後商標登録に至るまでの間に,C
から原告商標の再許諾権限を含む使用許諾を受けており(弁論の全趣旨),同許諾
に基づき,原告サンライズとの間で,原告商標の使用を第三者に許諾する再許諾権
限を与える旨の契約を締結していた。
    原告サンライズは,原告インディアンとの上記契約に基づき,原告商標に
つき,平成5年7月から,原告商標のサブライセンスを業として行い,原告西澤と
の間で,原告商標をジャケット等の商品に付して使用することを許諾する旨の契約
を締結していた。また,三竹産業に対して原告商標を付した革ベルト,財布,キー
ホルダーの製造販売を,元林に対して原告商標を付したライターの製造販売を,兼
松日産農林に対して原告商標を付したマッチの製造販売を,それぞれ許諾してい
た。
    他方,原告西澤は,原告サンライズとの上記契約に基づき,平成7年5月
から,原告商標を付した革製ジャケットを製造販売していた。
  (8) 原告西澤と被告東洋の競争関係
    原告西澤と被告東洋は,不正競争防止法上の「競争関係」(同法2条1項
14号)にある。
  (9) 原告サンライズによる文書配布
    原告サンライズは,平成8年5月ころ,宛名を「関係各位様」とし,表題
を「INDIANMOTOCYCLEの商標について」とする同原告版権営業部D名下の同月16
日付け文書(乙8)を,被告東洋の取引先を含む複数の会社に送付した。
    同文書の中央下段には,原告商標が明示されている。本文においては,革
製ジャンパー及び革製パンツの製造・販売に関して原告サンライズがサブライセン
ス契約を締結したのは原告西澤のみである旨の記載があり,さらに,「最近,当該
商標に類似の商標を使用し革製のジャンパーやパンツを製造販売している他の第三
者の企業がありますが,その様な企業に対しては,インディアン・モトサイクル・
カンパニー・ジャパンより法的な訴えを起こしておりますので,展示や仕入れ及び
販売など一切行わない様,お願い致します。もしその様なことがあれば,それを行
った方に対しても同様の訴えを起こす事もありますので,ご理解ご了承下さい。」
と記載されている。
    また,原告サンライズは,平成8年6月ころ,宛名を「タローズハウス御
中」とし,表題を「当社インディアン製品のご案内の件」とする同原告版権営業部
部長代理D名下の同月3日付け文書(乙9)を送付した(なお,弁論の全趣旨によ
れば,上記「タローズハウス」は,原告西澤と同様,衣服類等の製造販売を行う業
者であるものと認められる。)。
    同文書においては,「当社は下記インディアン商標の所有権者である株式
会社インディアンモトサイクルカンパニージャパンよりマスターライセンス許諾を
受けて,自社での商品開発とサブライセンスをしております。サブライセンシーの
(株)西澤では同封のカタログのようなインディアン製品を開発し,全国に販売し
ております。」との文章の下に,原告商標が明示され,さらにその下に,「最近,
当方のインディアン製品の類似品が出回っており,この度,当社はこれら侵害品の
製造元,問屋及び小売店に対し,東京地方裁判所に訴訟を提起いたしました。当社
は当方のインディアン商標を守りながら,本物のインディアン製品をご提供すべく
最善を尽くす所存でございます。」と文章が記載されている。
  (10) 原告インディアンによる新聞広告
    さらに,原告インディアンは,同原告名において,1996年(平成8
年)7月22日付け繊研新聞に,「LEGEND RETURNS 伝説のブラン
ド,復活。」という大見出しの下,中央に原告商標を配し,その右側に「現在のラ
イセンシング状況」として,「〈マスターライセンシー〉株式会社サンライズ
社」,「〈サブライセンシーおよび正規ディストリビューター〉西澤株式会社,株
式会社三竹産業,株式会社元林,兼松日産農林株式会社」と記載され,さらに,下
段に「右上に表記されておりますインディアン商標は,弊社の登録商標でありま
す。最近,インディアン製品の類似品が出回っており,くれぐれもお取り扱いにご
注意下さい。」と記載された広告(乙2)を掲載した。
  (11) 被告Aによる文書1の配布
    他方,被告Aは,平成8年7月,宛名を「御取引先各位 様」とし,表題
を「商標:インディアンモーターサイクル/INDIANMOTORCYCLE の件」とする同人
名下の書面(文書1)を,原告西澤の取引先及び前記三竹産業の取引先に送付し
た。
    文書1においては,「この度,インディアンモーターサイクル(INDIAN
MOTORCYCLE)の商標を付した当社取引商品に関し,商標権侵害であるとする書面
が,(株)サンライズ社より送られてきており,御取引先各位様には多大な御不安
と御心配をおかけしているようであります。」との書き出しに続き,「当社は,商
標『インディアンモーターサイクル』‥‥‥の正当な商標権者であり,発信人であ
る(株)サンライズ社は勿論,何人であっても当社の承諾なく,商標『インディア
ンモーターサイクル』及びこれに類似する商標『INDIANMOTORCYCLE』等を,衣料品
等に付して販売することは出来ません。」との記載があり,さらに,「(株)サン
ライズ社や(株)西澤等は,当社の警告を無視して侵害を継続している」(以下
「記載①」という。)ばかりか,「何等の権限もないサンライズ社(商標権者でも
登録専用使用権者でもない。)名によって,当社関係先に対して脅迫に近い書面を
発送する暴挙に及んだ」(以下「記載②」という。)ことは,「明らかに当社の業
務を不法に侵害するものといわざるを得ません。」と記載されている。そして,
「(株)サンライズ社が示す商標は,当社所有の商標権(平成6年3月31日登
録)より後の登録(平成7年9月29日)であり,先願先登録が優先される法律
(商標法)の下にあっては,当該商標の登録は明らかに過誤によるものであり,当
然無効であります。」(以下「記載③」という。)との記載に続き,「当社と致し
ましては,今日まで事情を知らない代理店・販売店様に対しては,敢えて法的対応
を控えてまいりましたが,当社の信用を損ねる先方のかかる行為に対しては,当社
としても毅然とした態度をとらざるを得ないところであり,今後は当社所有の前記
商標権を侵害する者に対しては,代理店又は小売店といえども,裁判の提起を含め
た断固たる措置をとることと致しました。」と記載され,その上で,この件に関し
ては,「全面的に弊社の責任に於て対処し,御取引先各位様には,一切のご迷惑を
お掛けしない所存で有りますので,御安心の上従来通りの御取引をお願い申し上げ
る次第です。」と結ばれている。
  (12) 被告東洋による文書2~4の配布
    前記B弁護士は,被告東洋を代理して,平成8年8月2日,いずれも宛名
を各社の代表取締役とし,表題を「ご連絡」とする同人名下の各書面(文書2~
4)を,前記の三竹産業(文書2),元林(文書3)及び兼松日産農林(文書4)に
それぞれ送付した。
    これら3つの書面は,宛先が異なるほか記載内容は同一であるが,いずれ
も,「当職は,東洋エンタープライズ株式会社‥‥‥から委任を受けましたので,
同社を代理して本書をお送りする次第です。」との書き出しに始まり,下段部分に
欧文字筆記体「IndianMotocycleCo.,Inc.」を配した原告商標についての言及がさ
れ,「一般に『Co.,Inc.』の英文字が法人を示す略号として用いられるものである
ことは公知の事実であり,下段主要部は『IndianMotocycle』の英文字ということ
になります。『Motocycle』という英単語は存しませんので,『Motorcycle』の誤記
と理解され当社登録商標と同じ『インディアンモーターサイクル』の称呼が生じる
ものといえます。また,仮に英文字どおりに発音して『インディアンモトサイク
ル』の称呼が生じたとしても,当社登録商標と称呼において類似することは明かで
あります。」,「加えて,『Moto』は『Motor』の省略形として用いられるものです
から,仮に上記のような誤記と理解しなかった場合でも,当社登録商標と同一の
『インディアン(北米原住民)+モーターサイクル(オートバイ・自動二輪車)』
が容易に観念されます。」,「従って,本件侵害商標は当社登録商標と称呼におい
ても観念においても同一又は類似することが明かであります。」と,いわゆる類否
の議論が説明された上で,原告商標が被告商標に類似する旨の結論が記載されてい
る。そして,「本件登録商標については,株式会社 インディアン モトサイクル
 カンパニー ジャパンが有する商標である旨説明がなされているかと思います
が,同社の登録は当社登録商標の特許庁における登録がなされた平成6年3月31
日より約1年半も後に登録されたものであり」,「先願先登録を優先する商標法上
は,特許庁の過誤によりなされた無効な登録であること明かであります。」(以下
「記載④」という。)との記載に引き続き,「かかる事情を承知の上で当社の商標
権の侵害行為を継続している(株)サンライズ社,(株)西澤社等」(以下「記載
⑤」という。)に対しては,「当社商標の使用差止並びに損害賠償請求の訴えを東
京地方裁判所に提起致しております。」と記載されている。その上で,「以上の次
第でございますので,本件侵害商標をはじめとして当社が商標権を有する『インデ
ィアンモーターサイクル』又はこれと類似する『INDIANMOTOCYCLE』等の商標が付
された衣料品等‥‥‥の製造・販売・宣伝等,商標の使用にあたる行為は一切行わ
れないようお願い申し上げる次第です。」と記載され,「貴社がどのような商品に
本件侵害商標をご使用になる予定であるのかは存じませんが,事情を知らないサブ
ライセンシーやディストリビューターに対してまで法的対応をとることは当社の本
意ではありませんので,本書をもって予めご注意申し上げることとした次第で
す。」,「当社の意をお汲み取り頂ければ幸甚です。」と結ばれている。
  (13) 原告商標に対する無効審判の申立等
  ア 被告東洋は,原告商標が商標登録されて間もない平成7年12月28日,
原告商標につき無効審判(特許庁平成7年審判第28124号)を請求し,同審判
において,原告商標権には,商標法4条1項7号,11号違反の無効事由が存在す
ることなどを主張した。
    特許庁は,平成10年4月10日,出願人のCが自然人である一方で,原
告商標は法人名を表示したとしか認識し得ないものであるから,このような商標の
使用は,法人でないものが「株式会社」や「有限会社」などの商号を使用すること
を禁止した商法や有限会社法の規定に該当し,商品流通社会の秩序に反するととも
に,公共の利益を害するものというのが相当であるとして,原告商標は,商標法4
条1項7号の規定に違反して登録されたものであると判断し,その登録を無効とす
る旨の審決(乙1)をした。
  イ 原告インディアンは,上記審決に対して東京高等裁判所に取消訴訟(東京
高裁平成10年(行ケ)第145号審決取消請求事件)を提起した。
  ウ 東京高等裁判所は,平成11年4月14日,原告商標の文字部分であ
る「IndianMotocycleCo.,Inc.」は,それ自体によっても,他の構成部分に照らし
てみても,商法に基づいて設立された株式会社又は有限会社法に基づいて設立され
た有限会社を示すことが客観的に明らかであるとは到底言い難いから,Cによる原
告商標の使用が,法人でないものによる「株式会社」や「有限会社」の商号の使用
を禁じる法律の規定(商法18条1項及び有限会社法3条2項)に該当する旨の前
記特許庁の判断は誤りであり,この誤った判断を前提にした商標法4条1項7号違
反事由が存在する旨の判断も誤りであるとして,前記審決を取り消す旨の判決をし
た。
  エ 被告東洋は,上記高裁判決に対して上告受理の申立(最高裁平成11年
(行ヒ)第140号)をしたが,最高裁判所は,平成13年11月21日,上告不
受理の決定をし,同判決は確定した。
  (14) 原告商標権の無効の確定
  ア 前記(13)の経緯を受けて,特許庁において,さらに前記無効審判請求事件
の審理がされた。
    特許庁は,平成14年2月28日,原告商標は,先願の被告商標(登録番
号第2634277号)と少なくとも称呼において類似しており,電話等の口頭に
よる取引が普通に行われている取引社会の実情からすると,外観及び観念を考慮し
ても,類似する商標といわざるを得ないから,原告商標は,商標法4条1項11号
の規定に違反して登録されたものであるとして,その登録を無効とする旨の審決
(乙13)をした。
  イ 原告インディアンは,上記審決に対して東京高等裁判所に取消訴訟(東京
高裁平成14年(行ケ)第140号審決取消請求事件)を提起し(甲7の1),同
訴訟において,仮に原告商標と被告商標が称呼において類似するとしても,その類
似性は低いものである上に,外観及び観念はいずれも相違しており,また,原告商
標は同原告に係る被服等を表示するものとして周知であるから,原告商標をその指
定商品について使用した場合,被告商標に係る商品と出所について混同を生じるお
それはないなどと主張した。
  ウ 東京高等裁判所は,平成14年12月27日,① 原告商標と被告商標
は,称呼のみならず観念においても類似し,外観の相違も,称呼及び観念の類似性
をしのぐほどの格段の差異を取引者,需要者に印象付けるものではないから,原告
商標を指定商品に使用した場合,取引者,需要者において商品の出所を誤認混同す
るおそれがあり,したがって,原告商標は被告商標に類似する商標というべきであ
る,② また,原告インディアン提出に係る多数の書証によっても,原告商標の登
録査定時(平成7年3月30日)において,同原告が主張するように,原告商標が
同原告に係る被服等を表示するものとして周知であったとまで認めることはできな
いとの判断を示し,原告商標が商標法4条1項11号に違反して登録されたもので
あるとの前記審決の判断に誤りはないとして,原告インディアンの請求を棄却する
旨の判決(乙14)をした。
  エ 原告インディアンは,上記高裁判決に対して上告受理の申立(最高裁平成
15年(行ヒ)第73号)をしたが,最高裁判所は,平成15年6月12日,上告
不受理の決定(乙15)をし,同判決は確定した。
  (15) 被告商標の登録取消
    なお,原告インディアンは,平成12年11月29日,商標法51条1項
に基づき被告商標の登録を取り消す旨の審決を求めて,商標取消審判を請求した。
    特許庁は,平成15年3月28日,被告商標の商標権者である被告東洋
は,故意に,被告商標と類似し,かつ,原告商標とも類似する複数の商標を指定商
品につき使用して,他人(原告インディアン)の業務に係る商品と混同を生じさせ
たというべきであるから,被告商標は上記条項により登録の取消を免れないとし
て,同商標の登録を取り消す旨の審決(甲17)をした。
    被告東洋は,上記審決に対して東京高等裁判所に取消訴訟を提起し,同訴
訟は現在も係属中である。
 4 争点
  (1) 文書1の記載①ないし③及び文書2~4の記載④,⑤は,それぞれ事実に
反する虚偽のものといえるか(争点(1))。
  (2) 仮に上記の記載①ないし⑤に虚偽のものがある場合,このような記載を含
む文書1~4を送付した被告らの各行為は,原告西澤との関係で,不正競争防止法
上の「競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し,又は流布
する行為」(同法2条1項14号)に該当するか。また,原告インディアン及び原
告サンライズとの関係で,不法行為に該当するか(争点(2))。
  (3) 原告らの損害額(争点(3))。
第3 争点に関する当事者の主張
 1 争点(1)(文書1の記載①ないし③及び文書2~4の記載④,⑤は,それぞれ
事実に反する虚偽のものといえるか)について
  (原告らの主張)
  ア 原告らが被告商標権を侵害した事実はない。したがって,「(株)サンラ
イズ社や(株)西澤等は,当社の警告を無視して侵害を継続している」との記載
①,及び,「かかる事情を承知の上で当社の商標権の侵害行為を継続している
(株)サンライズ社,(株)西澤社等」との記載⑤は,いずれも事実に反する。
  イ 侵害品が販売されているときに,マスターライセンシーが,かかる侵害品
の取り扱いをしないよう呼びかけるとともに,これに反したときは,訴えの提起も
あり得ると伝えるのは正当な行為であり,そこには「脅迫に近い」要素などない。
したがって,被告Aが,原告サンライズによる前記乙8及び乙9の各文書の送付を
指して,文書1において,「何等の権限もないサンライズ社(商標権者でも登録専
用使用権者でもない。)名によって,当社関係先に対して脅迫に近い書面を発送す
る暴挙に及んだ」(記載②)と述べたのは,事実に反する記載であり,不法であ
る。
  ウ 原告商標は,特許庁の適正な審査を経て登録されたものであり,何ら無効
原因は存しないし,そもそも,商標登録が本来的に無効などということはあり得な
い。無効審判請求に基づき無効審決が出され,当該審決が確定して初めて商標登録
は無効となる。また,先願主義の下にあっても,後願に無効事由があるのは,先願
と後願が類似する場合に限り,かつ,先願に無効取消事由がない場合に限られる。
したがって,文書1における「(株)サンライズ社が示す商標は,当社所有の商標
権(平成6年3月31日登録)より後の登録(平成7年9月29日)であり,先願
先登録が優先される法律(商標法)の下にあっては,当該商標の登録は明らかに過
誤によるものであり,当然無効であります」との記載③,及び,文書2~4におけ
る「先願先登録を優先する商標法上は,特許庁の過誤によりなされた無効な登録で
あること明らかであります。」との記載④は,いずれも事実に反している。
  (被告らの主張)
  ア 原告らは,被告東洋が前記「回答書」(乙7。第2の3(4)参照)記載のと
おりの警告を発したにもかかわらず,被告商標に類似する前記標章1及び標章2を
襟ネームに付した皮革製ジャケットを販売し,被告商標権の侵害行為を継続した。
    したがって,記載①及び⑤はいずれも真実である。
  イ 原告サンライズは,商標権者でも専用使用権者でもなく,前記警告書面
(乙8,9)を送付する権限を有するものではない。まして,乙8の作成日付け
(平成8年5月16日)当時,まだ原告商標権の権利移転は登録されていなかった
のだから,乙8における「インディアン・モトサイクル・カンパニー・ジャパンよ
り法的な訴えを起こしております」との記載は,明白な虚偽である。このような書
面の発送を「脅迫に近い書面を発送する暴挙」と評したのは,何らの不法もない客
観的な評価であり,記載②は事実を述べたものというべきである。
  ウ 原告商標に無効原因が存すること(記載③及び④)については,原告商標
の登録を無効とする旨の前記平成14年2月28日付け審決(乙13。第2の
3(14)ア)が示すとおりである。
    すなわち,同審決は,原告商標は,先願の被告商標(登録番号第2634
277号)と少なくとも称呼において類似しており,取引社会の実情からすると,
外観及び観念を考慮しても,類似する商標といわざるを得ないから,原告商標は,
商標法4条1項11号の規定に違反して登録されたものであるとして,その登録を
無効としたものであるが,この審決は,審決取消訴訟における東京高等裁判所の棄
却判決(乙14)及び最高裁の上告不受理決定(乙15)を経て,既に確定してい
る。したがって,原告商標が無効であることは明らかである。
    また,記載③に「当然無効」との記載があるのは,「無効」は「取消」と
異なり,当初から当然に効力が生じないことが確定していることを説明するもので
あって,審判等の手続が一切不要であるとの趣旨ではない。このことは,文書1の
文面上,「既に無効審判の請求をしている」との記載があることからも分かるはず
である。
    以上のとおり,記載③及び④は,事実に反するものではない。
 2 争点(2)(仮に上記の記載①ないし⑤に虚偽のものがある場合,このような記
載を含む文書1~4を送付した行為は,原告西澤との関係で,不正競争行為に該当
するか。また,原告インディアン及び原告サンライズとの関係で,不法行為に該当
するか)について
  (原告らの主張)
  ア 文書1~4における記載①ないし⑤が,いずれも客観的に虚偽の記載であ
ることは,前記のとおりである。このような記載を含む書面を取引先に送付する行
為が,被告東洋と競争関係にある原告西澤との関係において,その「営業上の信用
を害する虚偽の事実を告知し,又は流布する行為」(不正競争防止法2条1項14
号)に該当することは明らかである。
  イ そもそも,被告らによる文書1~4の送付行為は,原告らが企業努力によ
り築いた「Indian」のネーム・ブランドへの只乗りを継続する目的から出たもので
ある。被告らは,文書1の送付は,客観的な事実関係の説明のためと主張するが,
そもそも,事実に反する記載をした文書が説明のための文書であるはずがなく,か
かる主張は詭弁である。
    被告Aは,被告東洋の代表取締役として,「インディアン(INDIAN)」な
るブランドの使用を巡る紛争の経緯(第2,3(4)以下)を熟知しており,かつ,文
書1~4のような書面を取引先に送付する行為が,原告らに深刻な打撃を与えるこ
とを知っていたか,あるいは,少なくとも容易に知り得た。
    また,文書2~4の送付先は,被告商標の指定商品の範囲外の商品を扱っ
ているところ,被告東洋は,送付先の三竹産業等がいかなる商品を扱っているか,
原告インディアンからいかなる商品についてサブライセンスを受けていたかについ
て,知っていたか,あるいは,少なくとも容易に知り得た。
  ウ 以上によれば,被告Aが文書1を送付した行為及び被告東洋が文書2~4
を送付した行為は,いずれも,原告サンライズ及び原告インディアンの営業上の信
用を害して業務を妨害する違法性の高い行為であるとともに,文書1の送付につい
ては被告Aに,文書2~4の送付については被告東洋に,それぞれ少なくとも過失
が認められる。したがって,いずれの行為についても,不法行為が成立する。
  (被告らの主張)
  ア そもそも,文書1は,原告サンライズが被告東洋の取引先に対して警告書
面(乙8,9)を送付した(第2,3(9))ことに端を発し,客観的な事実関係を説
明するため,被告らがいわば自衛手段としてその取引先に送付したものである。し
たがって,同書面の送付は正当な行為であり,原告らの営業を妨害する行為ではな
い。
  イ また,被告東洋が文書2~4を送付したのは,原告インディアンが行った
繊研新聞上の広告(第2,3(10))に,三竹産業などの名前がサブライセンシー又
は正規のディストリビューターとして掲載されていたことから,被告商標の登録番
号などを明示した上,客観的な説明を試みようとしたからである。その内容も,無
用な紛争を予防するための注意喚起であり,そのことは,同文書における,「『イ
ンディアンモーターサイクル』又はこれと類似する『INDIANMOTOCYCLE』等の商標
が付された衣料品等(商標法旧第17類に属する商品全般)の製造・販売・宣伝
等,商標の使用にあたる行為は一切行われないようお願い申し上げる次第で
す。」,「貴社がどのような商品に本件侵害商標をご使用になる予定であるのかは
存じませんが,事情を知らないサブライセンシーやディストリビューターに対して
まで法的対応をとることは当社の本意ではありませんので,本書をもって予めご注
意申し上げることとした次第です。当社の意をお汲み取りいただければ幸甚で
す。」との各記載に明瞭に示されている。同記載においては,禁止される行為の範
囲が明確に限定されており,仮に,文書2~4を受け取った会社が,そこに記載さ
れた以外の商品についてライセンスを受けているにすぎないのであれば,同書面が
自社商品と無関係であることが容易にわかる体裁になっている。したがって,原告
らが主張するような信用の毀損や業務の妨害などは起こりようがない。
  ウ 原告らは,文書2~4の送付先の3社について,これらの会社がいかなる
商品についてサブライセンスを受けていたか,被告東洋は少なくとも容易に知り得
たはずであると主張する。
    しかし,これら3社と原告らとの間にどのようなサブライセンス契約が存
在していたか,被告東洋において知り得るすべなどなく,また,多くの会社が多角
化を目指し,従前取り扱った商品以外の商品の製造販売を開始している現状下にお
いては,これら3社が,被告商標の指定商品に該当する商品の販売を企画すること
も十分に予測される。原告ら主張のように,具体的な商品の発売計画を確認した上
で注意喚起の警告をしなければならないとすることは,望ましいことであるかも知
れないが,それをしなかったからといって,非難される筋合いのものではない。
 3 争点(3)(原告らの損害額)について
  (原告らの主張)
  ア 原告西澤の損害
   ① 逸失利益
     原告西澤は,平成7年から平成8年にかけての秋冬シーズンに,皮革製
ジャケット及びパンツの販売を開始し,7429万2000円の利益(売上数量6
667枚,売上高1億6527万円)を上げた。
     平成8年から平成9年にかけての秋冬シーズンには,7184万400
0円の利益(売上数量1万0270枚,売上高2億8866万5000円)を見込
んだが,文書1~4の配布により取引先が原告西澤の商品の取り扱いを拒んだた
め,1050万6000円(売上数量1735枚,売上高4322万9000円)
の利益しか上げられなかった。
     よって,その差額6133万8000円が原告西澤の逸失した利益であ
る。
   ② 滞留在庫販売損
     原告西澤は,前記のとおり,平成8年から平成9年にかけての秋冬シー
ズンに1万0270枚の売上を見込んでいたが,文書1~4の配布により予定した
販売ができなくなり,委託製造元からの輸入を4175枚に減らした。そのうち1
735枚が売れたが,残りの2440枚は翌年以後に販売せざるを得なくなり,シ
ーズン遅れのため値崩れを起こして,その結果,1608万4000円の損害を被
った。
   ③ 滞留在庫金利倉敷料
     原告西澤は,前記2440枚の滞留在庫にかかる金利及び倉敷料(倉庫
料)として,422万3000円の損害を被った。
   ④ 信用毀損による損害
     200万円。
   ⑤ 小括
     原告西澤は,上記①ないし④の合計8364万5000円の損害を被っ
ているところ,その一部である8000万円を請求する。
  イ 原告サンライズの損害
   ① 売上減による逸失利益の損害
     原告サンライズは,マスターライセンシーとして,予定小売価格の30
%で商品を買い,40%で売り戻すことにより,25%の利益率{(小売価格の4
0%-同30%)÷同40%}を上げるバイセル方式に基づき,カット・アンド・
ソー及びニット商品を販売する交渉に入り,平成8年秋から1年間の売上8000
万円(小売価格合計2億円の40%),平成9年秋から1年間の売上1億2000
万円(小売価格合計3億円の40%)の成約が確実になっていた。
     しかるに,文書1~4が配布された結果,平成8年秋から1年間は全く
成約ができず,平成9年秋から1年間は小売価格合計で1億4000万円しか成約
できなかった。このため,8000万円+6400万円(3億から1億4000万
円を差し引いた1億6000万円の40%)=1億4400万円の売上減となり,
その25%である3600万円の利益を失った。この3600万円から,原告イン
ディアンにロイヤリティーとして支払う576万円(小売価格合計1億4400万
円の4%)を差し引いた3024万円が,カット・アンド・ソー及びニットについ
ての原告サンライズの損害である。
   ② ライセンス商品の売上減少から生じるロイヤリティー収入減による損害
     原告サンライズは,下着等量販店,コンビニエンスストアー向けのイン
ナーに関し,平成8年秋からの1年間で2億円,平成9年秋からの1年間で3億
円,合計5億円(小売価格合計)の成約見込額を有していた。しかるに,文書1~
4が配布されたことにより,これらの商品の成約ができず,その5%(ロイヤリテ
ィーレート)に相当する2500万円のロイヤリティー収入を失った。
     また,デニム,ブルゾン,帽子等についても,平成8年秋からの1年間
で3億円,平成9年秋からの1年間で4億5000万円の小売価格合計7億500
0万円の成約見込額を有していたが,前記各書面の配布により,これらの成約がで
きず,その5%に相当する3750万円のロイヤリティー収入を失った。
     これらの合計額6250万円のうち,原告インディアンの取り分は35
%であるから,残り65%に相当する4062万5000円が原告サンライズの被
った損害ということになる。
   ③ 原告西澤の売上減に伴う損害
     原告サンライズは,原告西澤と,ロイヤリティーレート2.5%,ミニ
マム売上(小売価格ベース)保証付きの条件で,ライセンス契約を結んでいた。
     ところが,文書1~4の配布により,原告西澤の平成8年秋冬物の売上
実績が予定を大幅に下回ったため,平成9年度から平成10年度にかけての秋冬シ
ーズンにつき,ミニマム売上の保証額を6億8700万円から4億2500万円
に,ロイヤリティーレートを2.5%から2%へとそれぞれ減額せざるを得ず,結
局,1717万5000円(6億8700万円の2.5%)と850万円(4億2
500万円の2%)の差額である867万5000円のロイヤリティー収入を失っ
た。
     そのうち,原告インディアンの取り分は35%であるから,原告サンラ
イズは,残り65%に相当する563万8750円を損害として被ったことにな
る。
   ④ 信用毀損による損害
     200万円。
   ⑤ 小括
     原告サンライズは,上記①ないし④の合計7850万3750円の損害
を被っているところ,その一部である3000万円を請求する。
  ウ 原告インディアンの損害
    原告インディアンは,原告サンライズからロイヤリティーとして受領すべ
きであった576万円(前記イ①記載),2187万5000円(同②記載。62
50万円の35%)及び303万6250円(同③記載。867万5000円の3
5%),並びに,信用毀損による損害金200万円の合計金3267万1250円
を損害として被っている。同原告は,その一部である1000万円を請求する。
  (被告らの主張)
   損害に関する原告らの上記主張は,いずれも争う。
第4 当裁判所の判断
 1 争点(1)(記載①ないし⑤が,事実に反する虚偽のものといえるか)について
  (1) 記載①及び⑤について
    前記のとおり,文書1の記載①は,「(株)サンライズ社や(株)西澤等
は,当社の警告を無視して侵害を継続している」というものであり(第2,
3(11)),文書2~4の記載⑤は,「かかる事情を承知の上で当社の商標権の侵害
行為を継続している(株)サンライズ社,(株)西澤社等」というものである(第
2,3(12))。
    原告らは,上記記載①及び⑤が事実に反する虚偽のものであることを前提
に,不正競争行為ないし不法行為の成立を主張するところ,原告らが,被告東洋か
らの警告を受けた後も,原告商標に関するライセンスビジネス等を継続したこと
(第2の3(5))については争いがないから,被告商標権が侵害されたことを内容と
する記載①及び⑤の記載が虚偽であるか否かは,結局,原告らが標章1及び2を使
用した行為が,被告商標を侵害する行為であるか否かに帰着することになる。そこ
で,以下,被告商標とこれら標章の類否について検討する。
    被告商標は,別紙被告商標目録記載のとおり,片仮名横書きで一連に「イ
ンディアンモーターサイクル」と表記した構成からなり,そこからは,「インディ
アンモーターサイクル」の称呼が生じるとともに,「インディアン(北米原住民)
+モーターサイクル(オートバイ・自動二輪車)」の観念が生じる。
    他方,標章1は,欧文字筆記体「Indian」が大きく配され,その下段に前
記「Indian」より幾分小さく細い字で欧文字活字体「MOTORCYCLE」の英文字が配さ
れた構成からなる。「Indian」と「MOTORCYCLE」の文字の大きさにそれほど違いが
ない上に,これらの文字は上下2段に近接して配され,横の長さもほぼ同じで,一
体としてみることも可能であるから,標章1からは,「インディアン」のほか,
「インディアンモーターサイクル」の称呼が生じ,また,「インディアン(北米原
住民)」のほか,「インディアン(北米原住民)+モーターサイクル(オートバ
イ・自動二輪車)」の観念が生じる。
    また,標章2は,長方形の中央部に欧文字筆記体「Indian」が大きく配さ
れ,その下段に「Indian」に比べるとかなり小さく細い字で欧文字筆記体「Indian
MotorcycleCo.,Inc.」が,さらにその下段に欧文字活字体「MADEINUNITED
KINGDOM」が配された構成からなる。最下段の「MADEINUNITDKINGDOM」は「英国
製」という意味を示すのみで,識別力を持たない部分であり,下段の「Indian
MotorcycleCo.,Inc.」のうち,「Co.,Inc.」の部分についても,一般に法人を示す
略号であって商品の識別とは関係ない部分と認められるが,「IndianMotorcycle」
の部分は,かなり小さな字体ではあるものの,横一連に表記されており,とりわけ
大きな上段の「Indian」と同じ文字を含むことも相まって,標章全体の中で,無視
し得ない印象を見る者に与えるということができる。そうすると,同標章からは,
「インディアン」のほか,「インディアンモーターサイクル」の称呼が生じるとと
もに,「インディアン(北米原住民)」のほか,「インディアン(北米原住民)+
モーターサイクル(オートバイ・自動二輪車)」の観念が生じるというべきであ
る。
    以上によれば,標章1及び2は,称呼及び観念において被告商標に類似し
ており,これら標章が欧文字で構成されている一方で被告商標は片仮名であり,外
観上の違いはそもそもさほどの意味を持たないことなどを併せ考えると,これら標
章は,いずれも被告商標に類似するものと認められる。
    上記のとおり,標章1及び2が被告商標に類似すると認められる以上,原
告らが被告東洋の警告を無視して被告商標権の侵害を継続した旨の記載①及び⑤
が,事実に反する虚偽のものということはできない。
  (2) 記載②について
    前記のとおり,文書1の記載②は,「何等の権限もないサンライズ社(商
標権者でも登録専用使用権者でもない。)名によって,当社関係先に対して脅迫に
近い書面を発送する暴挙に及んだ」というものであるが,この記載は,平成8年5
月から6月にかけて,原告サンライズ社営業部部長代理D名下の文書(乙8,9)
が被告東洋の取引先を含む数社に送付された(前記第2,3(9))ことを受けてなさ
れたものである。そこで,記載②の内容が虚偽であるかどうかを判断する前提とし
て,まず,上記各文書の内容を検討する。
    これらの文書には,第2,3(9)に摘示したとおり,「最近,当該商標に類
似の商標を使用し革製のジャンパーやパンツを製造販売している他の第三者の企業
がありますが,その様な企業に対しては,インディアン・モトサイクル・カンパニ
ー・ジャパンより法的な訴えを起こしておりますので,展示や仕入れ及び販売など
一切行わない様,お願い致します。もしその様なことがあれば,それを行った方に
対しても同様の訴えを起こす事もありますので,ご理解ご了承下さい。」(乙
8),「最近,当方のインディアン製品の類似品が出回っており,この度,当社は
これら侵害品の製造元,問屋及び小売店に対し,東京地方裁判所に訴訟を提起いた
しました。当社は当方のインディアン商標を守りながら,本物のインディアン製品
をご提供すべく最善を尽くす所存でございます。」(乙9)などの記載がある。
    これらの各記載は,「ご理解ご了承下さい」,「最善を尽くす所存でござ
います」などと,それ自体は丁寧な表現・文体を用いている部分も存するが,素直
に通読すれば,被告東洋の取引先を含む業者の中に,被告商標を使用するものがあ
れば,原告商標の商標権者として法的措置に訴える意思のあることを,明確に表示
したものとみるのが自然である。しかも,前記第2,3記載の事実経過から明らか
なとおり,出願人Cから原告インディアンに原告商標権が譲渡されたのが平成8年
5月27日のことであり,乙8及び乙9を送付した時点においては,原告らはいま
だ権利者ではなく,法的措置を取り得る状況になかったのであるから,上記各記載
のうち,原告インディアンが東京地方裁判所に訴えを提起した旨の部分は,客観的
事実に反するというほかない。原告らは,原告サンライズは,原告インディアンが
権利の譲渡を受けて提訴の準備中であることを知っていたから,これらの文書が送
付先で検討されるころには,原告インディアンにより訴えが提起されているであろ
うと予想して,このような記載をしたものである旨主張するが(平成12年12月
25日付け準備書面(原告第6)6~7頁),両者の本店所在地が同じであること
などからすれば,原告サンライズと原告インディアンは緊密な関係にあるものと推
測されるところであり,この点からすれば,訴訟提起の有無及びその予定は,わず
かな事実調査により,直ちに知り得たはずである。また,すでに訴訟の提起がなさ
れたのと,これから提起することもあり得るというのでは,これら文書を読む者
(取引先)に与える印象が異なるといわざるを得ない。
    以上によれば,記載②のうち,「何等の権限もないサンライズ社(商標権
者でも登録専用使用権者でもない。)名によって」との部分が,事実に反する虚偽
のものでないことは明らかである上に,上記のとおりの乙8及び乙9の各文書の記
載内容・態様等に照らせば,被告らが,これら各文書の送付を指して,「脅迫に近
い書面を発送する暴挙」と表現した部分についても,一概に,事実に反する虚偽の
ものということはできない。よって,記載②が事実に反する虚偽のものであると認
めることはできない。
  (3) 記載③及び④について
    前記のとおり,文書1の記載③は,「(株)サンライズ社が示す商標は,
当社所有の商標権(平成6年3月31日登録)より後の登録(平成7年9月29
日)であり,先願先登録が優先される法律(商標法)の下にあっては,当該商標の
登録は明らかに過誤によるものであり,当然無効であります。」というものであり
(第2,3(11)),文書2~4の記載④は,原告商標を指して,「先願先登録を優
先する商標法上は,特許庁の過誤によりなされた無効な登録であること明かであり
ます。」というものである(第2,3(12))。
    原告らが指摘するとおり,いったん登録された商標権は,しかるべき手続
を経て無効であることが確定するまでは有効な権利として尊重されるべきものであ
る。その意味において,上記の各記載は,当該部分だけをみると,表現にいささか
穏当を欠く面がないではない。
    しかしながら,記載③及び④の前後をみると,文書2~4においては,こ
れらの記載のほか,「弊社において既に特許庁に無効審判の請求をしておりま
す。」との記載も存する。そうすると,これらの書面は,全体としてみると,何ら
の手続も要せずに無条件に原告商標権が無効になることを記載したものではなく,
無効審判等の手続を経て無効になるべきものである旨を説明したものと,受け取る
ことができる。また,原告商標からは「インディアンモトサイクル」(及び「イン
ディアン」)の称呼が,被告商標からは「インディアンモーターサイクル」の称呼
がそれぞれ生じるところ,これらの称呼は類似するといわざるを得ず,電話等によ
る口頭の取引も少なくない実情にかんがみると,原告商標と被告商標は類似すると
認められるから,原告商標は,先願の被告商標との関係で,商標法4条1項11号
に違反して登録された無効なものというほかない。そのことは,特許庁が,原告商
標は先願の被告商標と少なくとも称呼において類似し,電話等による口頭の取引も
少なくない取引社会の実情からすると,外観及び観念を考慮しても,類似する商標
といわざるを得ないとして,その登録を無効とする旨の審決をしたこと,そして,
この審決が,審決取消訴訟における東京高等裁判所の棄却判決(乙14)及び最高
裁の上告不受理決定(乙15)を経て,既に確定していることに照らしても,明ら
かというべきである。
    以上によれば,記載③及び④が,事実に反する虚偽のものということはで
きない。
 2 結論
   以上のとおり,記載①~⑤は,いずれも事実に反する虚偽の記載であるとは
認められない。
   したがって,被告東洋の代表取締役である被告Aが,原告西澤及び三竹産業
の各取引先に文書1を送付した各行為,並びに,被告東洋が,同被告代理人弁護士
伊藤真名下に,(ア) 三竹産業に文書2を,(イ) 元林に文書3を,及び,(ウ) 
兼松日産農林に文書4を送付した各行為が,原告西澤との関係において,競争関係
にある他人の営業上の信用を害する虚偽事実を告知し,又は流布する行為(不正競
争防止法2条1項14号)に当たるということはできない。また,原告インディア
ン及び原告サンライズとの関係において,不法行為(民法709条)に当たるとい
うこともできない。
   そうすると,その余の点につき判断するまでもなく,原告らの請求はいずれ
も理由がない。よって,主文のとおり判決する。
  東京地方裁判所民事第46部
      裁判長裁判官   三  村  量  一
         裁判官   青  木  孝  之
         裁判官   吉  川     泉
(別紙)
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