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平成17年(行ケ)第10625号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成18年3月15日
判決
原告岩崎工業株式会社
代表者代表取締役
訴訟代理人弁護士滝井朋子
被告アスベル株式会社
代表者代表取締役
訴訟代理人弁理士石原勝
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2004-35056号事件について平成17年7月1日にした審決を取り消
す。
第2事案の概要
本件は,原告が特許権者である後記特許に関し,被告から特許無効審判請求が
なされ,特許庁がこれを無効とする審決をしたことから,原告がその取消しを求
めた事案である。
第3当事者の主張
1請求の原因
(1)特許庁における手続の経緯
原告は,平成11年9月17日,名称を「アルミ製2段型弁当箱」とする発明
について特許出願をし,平成15年4月11日に特許庁から特許第3418141号とし
て設定登録を受けた。(請求項1。以下「本件特許」という。)
ところが,被告から平成16年1月29日付けで特許無効審判請求がなされ,
同請求は無効2004-35056号事件として特許庁に係属した。特許庁は,上記事
件について審理を遂げ,平成17年7月1日,「特許第3418141号の請求項1に
係る発明についての特許を無効とする。」との審決をし,平成17年7月13日
その審決謄本が原告に送達された。
(2)発明の内容
(以下「本件発明」とい本件特許に係る発明の内容は,下記のとおりである
。う。)

【請求項1】上下に重ね合わされる二つの容器と,重ね合わせた容器の上
から被される蓋を備え,上段の容器をプラスチック製とし,下段の容器と
蓋をアルミ製にした2段型の弁当箱であって,上段の容器は,底部から適
宜の高さ離れた外周に,2段重ねの使用状態において下段の容器の上縁に
掛止されるフランジ部を突出させるとともに,前記蓋とは別に,該容器の
上縁に嵌着する密封蓋を備え,前記蓋は,使用状態に2段に重ねた下段の
容器の上部を外周から嵌合する深さを具え,弁当箱の使用後には,前記密
封蓋を被せた上段の容器の上から空になった下段の容器を逆さにして被せ
るとともに,この上下の容器を仰向けにした上記蓋の中に収容できるよう
に構成したことを特徴とするアルミ製2段型弁当箱。
(3)審決の内容
ア審決の内容は,別紙のとおりである。その理由の要旨は,本件発明は,
(甲2。以下「刊行物1」といその出願前に頒布された特許第2612813号公報
及び周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたかう。)
ら,特許法29条2項により無効である等としたものである。
イなお,審決は,刊行物1に記載された発明を次(以下「引用発明」という。)
のとおり認定した上,本件発明との一致点及び相違点について,次のとお
り認定している。
(引用発明)
「主容器10と,中蓋36が嵌合される一つの中容器と,主容器10に外嵌
合される蓋体40とを備えた,主容器10と一つの中容器とを2段に積み
重ねて使用する合成樹脂製の多段式弁当容器100であって,
これら主容器10,中容器及び蓋体40の側壁をその各底面から垂直に
立ち上がるものとするとともに,主容器10及び中容器の外形をこの順
に小さくして,
中容器の下部外周に,主容器10の側壁上端面上に係合する係合部を,
その下部に嵌合底部を残した状態で設けるとともに,
上記中容器の係合部は主容器10の側壁から突出しない同径のものと
し,中容器を主容器10内へ収納する際も,主容器10への蓋体40による
外嵌合が可能となっている多段式弁当容器。」
(一致点)
「上下に重ね合わされる二つの容器と,重ね合わせた容器の上から被さ
れる蓋を備えた2段型の弁当箱であって,上段の容器は,底部から適
宜の高さ離れた外周に,2段重ねの使用状態において下段の容器の上
縁に掛止されるフランジ部を突出させるとともに,前記蓋とは別に,
該容器の上縁に嵌着する密封蓋を備え,弁当箱の使用後には,前記密
封蓋を被せた上段の容器を空になった下段の容器内に収容し,この上
下の容器を上記蓋の中に収容できるように構成した2段型弁当箱。」
である点。
(相違点1)
2段型弁当箱を構成する素材に関して,本件発明が「上段の容器をプ
ラスチック製とし,下段の容器と蓋をアルミ製にした」のに対して,
引用発明は,全て合成樹脂としている点。
(相違点2)
蓋の嵌合深さに関して,本件発明が,「蓋は,使用状態に2段に重ね
た下段の容器の上部を外周から嵌合する深さを具え」ているのに対し
て,引用発明は,このような嵌合深さを備えているかが明らかでない
点。
(相違点3)
弁当箱の使用後の収容態様に関して,本件発明が「弁当箱の使用後に
は,前記密封蓋を被せた上段の容器の上から空になった下段の容器を
逆さにして被せるとともに,この上下の容器を仰向けにした上記蓋の
中に収容できるように構成し」ているのに対して,引用発明は,この
ような仰向けにした蓋の中に収容できるという構成を備えているかが
明らかでない点。
(4)審決の取消事由
しかしながら,審決には以下のような誤りがあり,これが審決の結論に影
響を及ぼすことは明らかであるから,違法として取り消されるべきである。
ア取消事由1(引用発明認定の誤りと一致点認定の誤り)
(ア)引用発明の認定の誤り
a密封蓋について
「この実施例の多段式弁当容器100においては,最上段に審決は,刊行物1の
位置することになる第二中容器30の側壁31の開口部を,これに嵌合される中蓋36によ
って覆蓋するようにしているが,この中蓋36に代えて蓋体40の内面にパッキングを設
けて実施してもよい』(【0030】)「引用発明における『中との記載に基づき,
蓋36』の『嵌合』による密封の程度は『パッキング』に依るのと同等程度である,い
いかえれば,気密・水密などが期待できる程度の密封であると解するのが相当であ
とし,これを根拠に,一致点の認定に当たる」(審決6頁下から第2段落)
「上段の容器は,……該容器の上縁に嵌着する密封蓋を備え」(審決7頁第2って
ていることを含めて認定しているが,かかる認定は以下のとおり段落)
誤りである。
(a)刊行物1の容器は,名称こそ「多段式弁当容器」とされている
が,図5に示される従来からの入れ子式重箱容器が,積み重ねにく
く,崩れやすく,また,使用後の入れ子状収納の解除がしにくいと
(刊行物1の【0006】~いう欠点を有していたことから,これを改良し
,使用後の容積を小とし,洗浄容易な単純な形状とし,【0008】参照)
入れ子の解除を容易としたものであって,学童などが日(同【0009】)
常用いる,いわゆる弁当箱ではない。
したがって,汁気の漏出等は,もともと問題とされず,容器に密
封蓋は必要ないから,中蓋36は,最上段容器の内容物を単に覆蓋す
るにすぎず,「密封」機能などは求められていない。当(同【0015】)
然のことながら,中蓋36の「密封」機能について言及はされていな
い。
また,刊行物1の容器においては,最上段に位置する中容器以外
に中蓋は一切予定されておらず,図1,図2によれば,第一中容器
については第二中容器の底がその役割を果たしていると解される。
中蓋36のみを「密封」蓋にしてみたところで,中の汁気についての
水密・気密という要請には対応できないから,中蓋36は,第二中容
器の底と同様の役割しか期待されていないものであり,「密封蓋」
ではない。
「中蓋に代えて蓋体40の内面にパッキングを(b)なるほど,刊行物1には,
と記載されているが,この記載は,設けて実施してもよい」(【0030】)
弁当箱に食物を収納した際に,最上段に位置することになる第二中
容器の開口部を軟質合成樹脂によって形成された中蓋36で覆蓋する
こと,又はこの中蓋36の代りに,蓋体40の内面にパッキングを設け
ても良いこと,の2点に尽きるのであり,「蓋体40の内面に設けら
れたパッキング」については,どの位置に,どのような「パッキン
グ」を設けるのか,それがどのような作用効果をもたらすのかにつ
いては,全く示されていないから,「パッキング」なる一つの文言
を根拠に,中蓋が「密封蓋」の機能を当然に有するものと解するこ
とはできない。
仮に,刊行物1の「中蓋36」が,「パッキング」と同程度の気密
性・水密性を有するのであれば,「中蓋36の内面にパッキングを施
して気密・水密にしても良い」と記載すれば足りるところ,このよ
うな表現がなされていないことは,刊行物1の容器がそのような思
想を含んでいないことを雄弁に物語っている。
(c)刊行物1において,「中蓋36」又は「蓋体40の内面パッキン
グ」を設けるものとされている理由は,蓋体40が主容器11を更に外
から嵌合するため,最上段の中容器30との間のがたつ(【0031】参照)
きを防止する必要があるからである,と解される。
したがって,中蓋36は,がたつきを防ぐ覆蓋にすぎず,気密・水
密などの「密封」機能を有しないから,「パッキング」なる用語が
気密・水密の効果を有することを示すことがあるとしても,刊行
物1の記載を「中蓋36の内面にパッキングが施されている」ごとく
に勝手に読み込むことは許されない。
(d)審決が引用発明として想定するのは,刊行物1記載の発明にお
いて,1個の中容器20を備える場合であり,中蓋はなく「蓋体40の
内面にパッキングを設ける」態様のものであると解されるが,この
態様において,パッキングが,どのようなものであれ,また,どこ
に設けられたものであれ,「該容器の上縁に嵌着する密封蓋を備
え」ることにはなり得ない。なぜなら,図3によれば,蓋体40の内
側は,この中容器20の底面外側又は主容器の外側にしか接し得ず,
「中容器20の上縁に嵌着するか,又は,嵌着の状態となること」及
び「それが密封状となること」は不可能だからである。したがって,
「弁当箱の使用後には,前記密封蓋を被せた上段の容器の上から空
になった下段の容器を逆さにして被せる」ことはあり得ず,「弁当
使用後の上段容器を密封状態に保つ」ということは不可能である。
かかる理由からも,刊行物1は,「密封蓋」を開示していないこと
は明らかである。
(e)以上のとおり,刊行物1に記載された弁当容器は,入れ子式重
箱容器の改良に係るものであって,汁気などの漏出防止を目的とす
る密封蓋を有していない。
b2段型について
「主容器10と,中蓋36が嵌合される一つの中容器また,審決は,引用発明を
と,主容器10に外嵌合される蓋体40とを備えた,主容器10と一つの中容器とを2段に
,すなわ積み重ねて使用する合成樹脂製の多段式弁当容器100」(5頁最終段落)
ち,2段式の容器であると認定しているが,この認定も誤りである。
「多段」とは論理的には2段をも含むが,刊行物1には「2段」のも
のは一切記載されていない。このように,審決は,刊行物1が本来予
定していない2段構成のものを独自に作出して引用発明を認定してお
り,かかる認定は誤りである。
c一致点認定の誤り
上記a,bのとおり,審決は引用発明の認定を誤っており,かかる
誤りの結果,審決の一致点の認定もまた誤りである。
(a)上述したとおり,引用発明は,多人数用かつ非日常的な重箱的
用途に用いられる運搬用食品容器であるのに対し,本件発明は,学
童用弁当箱などの個食用日常用を主用途として予定されたものであ
り,両者は,用途が微妙に異なる。
(b)引用発明は,使用後の容積を小さくすること,使用後入れ子式
収納の解除を容易にすること,簡単な構造として洗浄を容易にする
ことを主目的とし,従来の入れ子(刊行物1の【0008】,【0009】,図5)
式重箱の重ねにくさ,ずれ,入れ子にした後の外しにくさを解消し
ようとして開発された技術である。(同【0006】)
これに対し,本件発明は,上段容器を,密封蓋を伴うプラスチッ
ク製とし,下段容器と蓋とをアルミ製とし,使用後には,密封蓋を
被せた上段容器を逆さにして下段容器に収め,その上から蓋を被せ
て全体をコンパクトに収納することができる2段型の弁当箱である。
この弁当箱は,上段容器がプラスチック製である結果,密封蓋の密
封効果は一層大きく,そのため,しずく等の水分の器外への漏出を
完全に防止でき,また,上段容器はプラスチック製であるため,電
子レンジ適応可能に設計できる。更に,弁当使用後は,密封蓋を被
せた上段容器を逆さにして下段容器に収納可能なことから,弁当箱
全体の外形容積が使用前の約2分の1となるコンパクト収納が可能
である。加えて,アルミニウム及びプラスチックという2種類の材
料を用いて上記のとおりの便利な機能をもたらしているにもかかわ
らず,形状を極めてシンプルに形成することができる結果,成型が
容易であってかつ洗浄が便利である。
両発明の目的の差異からすると,引用発明における中蓋36は重箱
の上蓋を覆うのであれば足りるのに対し,本件発明の密封蓋は,そ
の名のとおり密封でなければならず,引用発明の「多段式弁当容
器」と本件発明の「弁当箱」とは,目的,用途を異にするとともに,
密封蓋の有無において異なるものである。また,引用発明の容器は,
2段式ではないから,引用発明の「多段式弁当容器」と本件発明の
「弁当箱」とは,積み重ね構造においても異なる。
イ取消事由2(相違点1の判断の誤り)
(以審決は,テイネン工業株式会社製「メンズアルミ(2段L)DB-5H」
の存在を根拠に,「上段の容器をプラスチック製下「メンズアルミ」という。)
とし,下段の容器と蓋をアルミ製とした」ことは本件出願前周知の技術で
あると認定し,相違点1に係る本件発明の構成は想到容易であると判断し
たが,かかる判断は以下のとおり誤りである。
(平成7年11月11日付け「家庭用品新聞」。(ア)メンズアルミが紹介された刊行物
が出願前公知であったことは認めるが,同刊行物には,本体・本訴甲3)
フタがアルミ製であること,2段式でありコンパクト収納が可能である
こと以外は開示されていない。また,メンズアルミは,当時市場にほと
んど出ておらず,その技術内容は当業者に周知ではないから,上記の点
「引が周知であるとはいえない。したがって,相違点1について,審決が
用発明の容器素材として,2段型弁当箱において従来より周知の技術であった素材の組
合せを単に適用することにより,当業者が容易に想到し得た設計上の変更である」(8
と判断したことは誤りである。頁下から第2段落)
また,上述したとおり,引用発明は,いわゆる重箱に関する技術であ
るのに対し,本件発明は,弁当箱に関する発明であるから,両者の技術
分野は近いものの,異なっている。弁当箱の技術分野において周知とい
えるほどのものでなければ,重箱の技術分野において周知又は公知であ
ると認定することはできず,想到容易とはいえない。
(イ)仮に,メンズアルミが,現在「タウンスポーツ」なる商品名をもっ
(以て市販されているテイネン工業株式会社製のアルミ製の2段型弁当箱
と同一の構造を有しているとすると,その構下「タウンスポーツ」という。)
造は本件発明の構造とは全く異なる。
すなわち,本件発明の2段型弁当箱においては,上段の容器に密封蓋
を施した上で下段の容器内に入れ子式に収納できるが,タウンスポーツ
においては,上段の容器に密封蓋を施して下段の容器に入れ子式に収納
することはできない。その結果,本件発明においては,上段容器中の残
物の洩れが完全に防止されるのに対し,タウンスポーツにおいては,弁
当箱外に洩れ出すという,作用効果における決定的な差異を生ずる。
ウ取消事由3(相違点2の判断の誤り)
「引用発明における蓋体40の深さを,単に刊行物1審決は,相違点2について,
の図2に示されたのと同様のものと設定することにより,当業者が適宜採用し得た設計的
と判断したが,この判断は誤りである。本件発明事項である」(9頁第2段落)
と引用発明とは,本来,用途の異なる技術であり,現にその形状も全く異
なるから,相違点2が設計的事項であるとはいえない。
エ取消事由4(相違点3の判断の誤り)
「相違点2につき適宜採用し得たと説示したところ審決は,相違点3について,
の蓋体の構成を採用した引用発明が実質的に備えるものであるといえるから,上記相違点
と判2で説示したとおり,当業者が適宜採用し得た設計的事項である」(9頁第6段落)
断したが,この判断は誤りである。
上記のとおり,本件発明は,上段容器に密封蓋を具備するものである結
果,相違点3に示される構成によって,弁当使用後に,食品残骸の臭気,
汁気を外部に漏出することなく,かつ,コンパクトに収納することができ
るのである。これに対し,引用発(本件特許の明細書である甲1の図1(b)参照)
明の中蓋36が密封蓋でないことは上記のとおりであるから,汁気や臭気は
外部に漏出することが当然にあり得る。
また,本件出願時にメンズアルミが周知又は公知であり,その構造が現
在販売されているタウンスポーツと同一であったとしても,これらの弁当
箱は相違点3に示される本件発明の構成を具備していない。すなわち,メ
ンズアルミないしタウンスポーツは,「弁当箱の使用後には,前記密封蓋
を被せた上段の容器の上から空になった下段の容器を逆さにして被せると
ともに,この上下の容器を仰向けにした上記蓋の中に収容できるように構
成した」ものではなく,この点において本件発明と根本的に異なり,その
結果,弁当使用後の食品残骸の汁気・臭気を遮断することができない。
オ取消事由5(顕著な作用効果の看過)
「本件発明が奏する作用効果も引用発審決は,本件発明の作用効果について,
明並びに従来より周知の技術から当業者が予測し得る範囲のものであって,格別なものと
と判断したが,この判断は,本件発明のいうことができない。」(10頁第3段落)
顕著な作用効果を看過したものであって,以下のとおり誤りである。
(ア)上述したとおり,専ら学童等が日常使用する本件発明の弁当箱は,
上段容器がプラスチック製であることもあって,密封蓋の密封効果は一
層大きく,そのため,しずく等の水分の器外への漏出を完全に防止でき
,また,上段容器はプラスチック製であるため,電(本件明細書【0008】)
子レンジに適応可能である。さらに,弁当使用後は,密封蓋を被せた上
段容器を逆さにして下段容器に収納可能なことから,弁当箱全体の外形
(同容積が使用前の約2分の1となるコンパクト収納が可能である
。加えて,アルミニウム,プラスチックという2材料を【0001】【0009】)
用いて上記のとおりの便利な機能をもたらしているにかかわらず,形状
を極めてシンプルに形成することができる結果,成型が容易であってか
つ洗浄が便利であるという顕著な作用効果を奏する。(同【0003】参照)
(イ)現在市場を占拠しているアルミ製2段型弁当箱は,100%近くが本件
発明の実施品である。この事実は,本件発明が,その先行技術から容易
に想到し得ず,かつこのアルミ製2段型弁当箱としては商品としての完
成度が極めて高くすなわちその進歩性が高いことを物語っている。
先行技術であるメンズアルミの商品現物自体は市場にほとんど出てい
なかったこと,また,仮に,タウンスポーツが当時のメンズアルミと同
一構造であったとしても本件発明と根本的に異なることは,上述のとお
りである。そして,タウンスポーツが4年前から市販されていたにもか
かわらずほとんど市場で見られなかったのは,密封性を有さず,不潔性
を免れなかった点が市場の要求と合致せず,すなわち技術としての完成
度,進歩性,有用性を欠いていたためであると考えられる。
このように,本件発明はこれらのアルミ製2段型弁当箱に比して,技
術としての格段の進歩性を有するから,本件出願前にこれらのアルミ製
2段型弁当箱が存在したからといって,これらから本件発明技術に想到
することは決して容易とはいえない。
2請求原因に対する認否
請求の原因(1)(2)(3)の各事実は認める。同(4)は争う。
3被告の反論
原告が,審決の認定判断が誤りであるとして主張するところは,いずれも失
当である。
(1)取消事由1(引用発明認定の誤りと一致点認定の誤り)に対し
原告は,審決が,引用発明の弁当容器の「中蓋」は本件発明の弁当箱の
「密封蓋」に相当するとして,これを一致点の認定に含めたのは誤りである
と主張する。
しかし,本件明細書及び刊行物1における記載及び図面によれば,本件発
明の「密封蓋」と引用発明の「中蓋」とは実質的に同一のものである。また,
本件発明の特許請求の範囲の記載には,「密封蓋」の密封状態を具体的に示
す限定事項が何ら記載されていない。これらのことにかんがみると,本件発
明の「密封蓋」と引用発明の「中蓋」とが相違するという原告の主張は理由
がない。
(2)取消事由2(相違点1の判断の誤り)に対し
原告は,本件発明における素材の選択(下段容器及び蓋がアルミ製,上段
容器がプラスチック製)に関し,審決がこれを周知事項であると判断したの
は誤りであると主張する。
しかし,原告は,かかる主張の理由として,メンズアルミが紹介された刊
行物には,上記の素材の選択は開示されていないことを指摘している(甲3)
にとどまる。審決は,上記刊行物のみをもって周知事項を認定してい(甲3)
るわけではなく,審判手続に顕れた他の証拠をも踏まえて,上記の素材の選
択は周知であったと認定しているのであるから,原告の指摘する事情は,審
決の判断の当否を左右するものではない。
(3)取消事由3(相違点2の判断の誤り)に対し
原告は,引用発明において蓋体の深さを本件発明と同様のものとすること
は設計事項にすぎない,とした審決の判断は誤りであると主張する。
しかし,本件発明と引用発明との一致点に係る構成を備えた入れ子式の2
段型弁当箱においては,その使用目的からして,相違点2に係る本件発明の
構成(「蓋は,使用状態に2段に重ねた下段の容器の上部を外周から嵌合す
る深さを具え」た構成)とすることはごく自然であり,当然の設計事項であ
るといって過言でない。審決の判断は正当である。
(4)取消事由4(相違点3の判断の誤り)に対し
原告は,弁当箱の使用後の収納方法に関する本件発明の相違点3に係る構
成は,引用発明が実質的に備えているものであるとした審決の判断は誤りで
あると主張する。
しかし,原告の主張は,引用発明の「中蓋」は密封の機能を有しないこと
を前提とするものであるところ,かかる前提に誤りがあることは上記(1)のと
おりである。
(5)取消事由5(顕著な作用効果の看過)に対し
原告が主張する本件発明の作用効果は,引用発明に,審決が認定した周知
技術を適用することによって当然に導かれる作用効果にすぎない。したがっ
て,本件発明の作用効果に関する審決の判断には,何ら誤りがない。
第4当裁判所の判断
1請求の原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容)及び(3)
(審決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
そこで,以下,原告の主張する審決の取消事由について順次判断する。
2取消事由1(引用発明の認定の誤りと一致点の認定の誤り)について
(1)密封蓋につき
「引用発明における『中蓋36』の『嵌合』による密封の程度は『パッキ原告は,審決が
ング』に依るのと同等程度である,いいかえれば,気密・水密などが期待できる程度の密封
であると解するのが相当である」(7頁第1段落)「上段の容器とし,これを根拠に,
ている点を一致点のは,……該容器の上縁に嵌着する密封蓋を備え」(7頁第3段落)
認定に含めたことは誤りであると主張する。
しかし,原告の上記主張は採用できない。その理由は以下のとおりである。
ア原告は,上記主張の理由として,まず,刊行物1の多段型弁当容器は,
「重箱」であっていわゆる「弁当箱」ではなく,「重箱」においては気密
性・水密性は求められていないから,中容器に「密封蓋」を有するとは考
えられない,ということを挙げる。
確かに,刊行物1は,【従来の技術】として「入れ込重箱」の考案に言
及しており,その不具合を解消することが課題の一つ(【0005】~【0006】)
であったものと認められる。
しかし,刊行物1の【従来の技術】の項には,下記の記載がある。(甲2)

「【0002】
【従来の技術】弁当容器は,一回分の食べ物を収納して運ぶものであるから,例えば
主食と副食とを分離して収納できるものでなければならないが,一般には,一つの容
器内を仕切板によって区画したり,容器を複数に分けたりすることが行われている。
仕切板によって区画することは,仕切板が容器に対して自由に動くものであると煮汁
等が他に移動するという欠点があり,一方容器に対して仕切板を固定的に設けると収
納の自由がなく,また洗いにくいという欠点があって,いずれにしても採用されなく
なってきている。その点,収納容器を複数に分ければ,上述した問題を解決すること
はできるが,各容器は個々に分離されているから,これを運搬に便利なように一体化
できる構造にしなければならないという必要性がでてくるものである。」
「【0007】そこで,本発明者は,以上のような種々な不具合を解決しながら,空になっ
た容器を収納して全体を小さな容積のものとすることができるようにするにはどうし
たらよいかについて種々検討を重ねてきた結果,この種の弁当容器はそのままで持ち
運ばれることはなくてハンカチ等の別のものによって包まれること,使い終ったもの
を洗う作業が簡単に行えるものであることが要求されていること等に気付き,本発明
を完成したのである。」
刊行物1の上記記載からすると,刊行物1の「多段型弁当容器」は,従
来の技術として,いわゆる「重箱」に限定することなく「弁当容器」一般
を念頭におき,その欠点を改良することに主眼をおいて開発されたもので
「一あることは明らかである。すなわち,従来の「弁当容器」についての,
回分の食べ物を収納して運ぶものであるから,例えば主食と副食とを分離して収納できる
ものでなければならない」(上記【0002】)「ハンカチ等の別のものによって包まれ,
,等の記載によれば,ここでいう従来の「弁当容器」が,る」(上記【0007】)
学童等が日常用いる弁当箱を含むものであり,かかる従来技術を改良した
刊行物1の「多段型弁当容器」も,いわゆる弁当箱として適したものであ
ることも明らかというべきである。
また,そもそも,「重箱」とは,箱(容器)の重ね合わせ機能に着目し
た呼称であり,「弁当箱」とは,箱(容器)の用途に着目した呼称である
ところ,刊行物1の上記記載のとおり,刊行物1の「多段型弁当容器」は
「入れ込重箱」を一例とする従来の「弁当容器」を改良したものである以
上,「重箱」としての機能を備え,「弁当箱」としての用途にも適するも
のであると認められる。
したがって,刊行物1の多段型弁当容器が「重箱」であって「弁当箱」
ではないことを前提とする原告の主張は,採用することができない。
イ原告は,また,刊行物1において,第一中容器20については第二中容器
30の底が中蓋の役割を果たしており,第二中容器30の底は密封効果を発揮
できないのであるから,中蓋36だけに密封効果を持たせることに意味はな
く,中蓋36が「密封蓋」に当たるとはいえない,と主張する。
しかし,刊行物1には,解決すべき課題として,仕切板付きの弁当容器
に主食と副食とを分離して収納すると副食に含まれる煮汁等(一般的には
副食に含まれるものである。)が移動してしまうということが挙げられて
おり,引用発明は,かかる課題を解決するために,主食と副(上記【0002】)
食とを複数段に分けた容器に分離して収納することとしたものである。そ
して,収納容器を複数段に分けた場合,主食(一般には米飯である。)の
収納容器をことさら密封する必要はないし,副食の中でも煮汁等を含まな
いものは密封する必要がないのに対し,煮汁等を含む副食については密封
する方が望ましいことは明らかである。そうすると,刊行物1の図3のよ
うに3段式の構成とした例において,第二中容器20のみを密封できるよう
にしておき,これに煮汁等を含む副食を収納することには十分な合理性が
ある。
したがって,引用発明において,第二中容器20のみが密封されることに
は意味がないことを前提として,中蓋36が「密封蓋」に当たるとした審決
は誤りであるとする原告の主張も,採用することができない。
「中蓋36に代えて蓋体40の内面にパッキングを設けて実施してウ原告は,刊行物1に
との記載があることは,中蓋36が「密封蓋」であると認もよい」(【0030】)
定するための根拠とならない,と主張する。
(ア)中蓋36と第二中容器30との係合態様について,刊行物1には,(甲2)
下記の記載がある。

「【0030】なお,この実施例の多段式弁当容器100においては,最上段に位置するこ
とになる第二中容器30の側壁31の開口部を,これに嵌合される中蓋36によって覆蓋
するようにしているが,この中蓋36に代えて蓋体40の内面にパッキングを設けて実
施してもよいものである。………」
「【0031】蓋体40は,各容器を積み上げた状態の多段式弁当容器100全体を上方から
覆蓋するものであるとともに,図3に示したように,各容器内に他の容器を収納し
て全体の容積を小さくした多段式弁当容器100の全体を覆蓋するものでもあるから,
その側壁41の外形は主容器10の側壁11に対して外側から嵌合できる,つまり外嵌合
できるものとしたものである。」
「【0032】なお,本実施例の多段式弁当容器100においては,その主容器10,第一中
容器20,第二中容器30及び蓋体40を硬質合成樹脂により一体的に形成するとともに,
第二中容器30の側壁31に嵌合される中蓋36を軟質合成樹脂によって一体的に形成し
たものである。」
(多段式弁当容器の各容器を積み上げた状態の一部破断正また,刊行物1の図2
面図)(多段式弁当容器の各容器を互いに収納して全体の容積を小さくした状,図3
には,中蓋36の外縁部において,外縁36aを溝の外壁と態の一部破断正面図)
する断面逆U字状の溝が形成され,この溝が,第二中容器30の側壁31の
上縁に隙間なく係合していることが図示されている。
刊行物1の上記記載及び図示内容からすると,中蓋36は,軟質合成樹
脂から形成されており,断面逆U字状の溝が,第二中容器30の側壁31の
上縁に隙間なく係合することで,中蓋36による第二中容器30の覆蓋がな
されると認められるところ,軟質合成樹脂で形成された断面逆U字状の
溝は,弾力によりその開口幅を広狭に変化させ得ることが明らかであり,
覆蓋時においては,この弾力の作用により,断面逆U字状の溝が,側壁
31の上縁と隙間なく係合するようになると解するのが自然であるから,
中蓋36が,第二中容器30を密封しているものと認められる。
(甲2)「中蓋36に代えて蓋体40の(イ)また,刊行物1の上記【0030】には,
と記載されており,中蓋36は,蓋体内面にパッキングを設けて実施してもよい」
40の内面にパッキングを設けたものと同じ機能を有すると解すべきとこ
ろ,「パッキング」とは,「管の接目などに気密・水密などの目的で挟
む材料」のことであるから,「中蓋36」は,気密性・水密(広辞苑第5版)
性を有し容器を密封するものであると解するのが自然である。
ちなみに,刊行物1には,下記記載がある。(甲2)

「【0004】実公平4-17499号公報に示された組合せ密閉容器においては,図4に示
したように,・・・下容器(3)及び上容器(15)内に内容物を収納して積み上げようとし
た場合には,上容器(15)について,カバー(9)との密閉を確実にするためのシール
(6)をカバー(9)側に絶対に設けなければならないものである。」
上記記載からすると,刊行物1の多段式弁当容器が開発される以前か
ら,カバー(蓋体)に,容器の側壁上縁に当接する「シール」を設けて,
上容器の密封を実現することが知られていたものと認められる。このこ
とをも考慮すれば,刊行物1の多段式弁当容器において,上記「パッキ
ング」は,第二中容器30を密封する目的で採用されていると認めるのが
「中蓋36に代えて蓋体40の内面にパッキング妥当である。そして,刊行物1に,
と記載されている以上,中蓋36がを設けて実施してもよい」(上記【0030】)
「密封蓋」であることは当業者(その発明の属する技術の分野における
通常の知識を有する者)が容易に理解できる事項であるというべきであ
る。
(ウ)原告は,刊行物1における「中蓋36」又はこれに代えて蓋体40の内
面に設けられる「パッキング」は,蓋体40と最上段の中容器30とのがた
つきを防止するためのものにすぎないのであるから,気密・水密の効果
を有するとはいえない,と主張する。
しかし,単にがたつきを抑えることを目的とするのであれば,中蓋36
の材質を容器本体(硬質合成樹脂)と異なる軟質合成樹脂とする必要は
ないし,中蓋36を備えない場合に蓋体40に設けるべきものは「突起」等
であってこれを「パッキング」と表現する必要はない。この点からして
も,刊行物1において,中蓋36又はこれに代えて用いられるパッキング
は,単なるがたつきの防止ではなく,気密・水密をも目的とするもので
あると認めるのが相当である。
(エ)上記(ア)~(ウ)のとおり,刊行物1には,中蓋36が「密封蓋」(甲2)
であることは明記されていないものの,刊行物1の発明の詳細な説明の
記載等からすれば,「密封蓋」であると認められる。
(2)2段式であることにつき
原告は,刊行物1には2段式のものは一切記載されていないにもかかわら
ず,審決が引用発明として2段式のものを認定したのは誤りであり,また,
仮に刊行物1から2段式のものを認定するとすれば,上段容器が密封蓋を備
えることはあり得ない,と主張する。
しかし,原告の上記主張も採用できない。その理由は以下のとおりである。
ア刊行物1には,下記の記載がある。(甲2)

「【0013】
【作用】以上のように構成した多段式弁当容器100は,各容器内に内容物を入れて,
図1及び図2に示すように積み上げて使用されるものであるが,第一中容器20はその
嵌合底部25を主容器10の中に嵌合するとともにその係合部24を主容器10の側壁11上端
に係合し,第二中容器30はその嵌合底部35を第一中容器20の中に嵌合するとともにそ
の係合部34を第一中容器20の側壁21上端に係合するものである。」
「【0015】そして,最上段の第二中容器30を中蓋36によって覆蓋して,その全体を蓋体
40によって覆うのである。従って,第一中容器20については,第二中容器30の底面32
が言わば蓋体の役割を果たすことになるから,この第一中容器20について第二中容器
30の中蓋36のような中蓋を必要とはしないのである。勿論,主容器10,第一中容器20
及び第二中容器30は,この順で小さくなる外形を有しているものであるから,その積
み上げが安定したものとなっているのである。」
「【0018】食事が終れば,多段式弁当容器100を構成している各容器等は,図3に示す
ように,互いに収納し合うことにより,図面で示した実施例では約1/3の容積のもの
となるのである。これは,主容器10の側壁11,第一中容器20の側壁21,第二中容器30
の側壁31,及び蓋体40の側壁41をそれぞれの底面から垂直に立ち上がるものとしてあ
るから行えるのであり,前述したような積み上げも行えるのである。しかも,第一中
容器20の係合部24及び第二中容器30の係合部34は,それぞれ主容器10の側壁11また
第一中容器20の側壁21から突出しない同径のものとしてあるから,それぞれの収納及
び蓋体40の嵌合が可能となっているのである。」
「【0022】さらに,中蓋36が嵌合される中容器30について,嵌合底部35の直上であって
側壁31と係合部34とによって形成されるコーナー部に,中蓋36の外縁部36aの厚さ程
度の厚さを有する離隔段部37を形成したから,中容器30を他の中容器20または主容器
10内に収納したとき,図3に示したように,この離隔段部37が他の中容器20または主
容器10の開口部における位置決めを果たすから,中容器30は,他の中容器20または主
容器10内にてガタつくことはなく,小さくまとめた中容器30は,当該多段式弁当容器
100の運搬時等において異音を生ずることはない。なお,この中容器30の他の中容器
20または主容器10に対する位置決めは,離隔段部37の内方にある中蓋36の外縁部36a
によっても果たされているものである。」
「【0023】なお,以上の作用は,実施例に示した多段式弁当容器100のように,三つの
収納部を構成する場合だけではなく,中容器の数を減らしたり,あるいは増加したり
する場合も言えるものである。換言すれば,例えば中容器の数を増加させた多段式弁
当容器100を一個の製品としておくことにより,中容器の数を適宜選定することによ
って,当該多段式弁当容器100の収納時における全容積の増減を,前述した作用を損
なうことなく行えるのである。」
「【0030】なお,この実施例の多段式弁当容器100においては,最上段に位置すること
になる第二中容器30の側壁31の開口部を,これに嵌合される中蓋36によって覆蓋する
ようにしているが,この中蓋36に代えて蓋体40の内面にパッキングを設けて実施して
もよいものである。勿論,この中蓋36は,第一中容器20あるいは更に他の中容器につ
いても付属させておき,最上段になる中容器以外には使用しないように実施してもよ
いものである。」
これらの記載からすると,刊行物1の多段式弁当容器は,主容器と,蓋
(上記体と,上に重なる順に外径を小さくした複数段の中容器から成り
,それぞれの中容器には,その下の主容器又は中容器と同径の係【0015】)
合部を設けることにより,任意の段数を重ね,また,互いに(上記【0018】)
収納し合えるようにしたものと認められる。(上記【0013】,【0018】)
そして,段数については,実施例及び各図に示されているのは3段式
(中容器の数は2)のものであるが,中容器の数を増減することができる
ことが明記されており,中容器の数を減らした場合にはその(上記【0023】)
数が1,すなわち2段式の弁当容器となることは当然である。したがって,
審決が,刊行物1から2段式の弁当容器を引用発明として認定したことに,
誤りはない。そして,刊行物1において,段数を2(中容器の数は1)と
した場合の弁当容器は,主容器及び中容器から成り,中容器は中蓋36によ
って覆蓋され,さらに,全体が蓋体40によって覆われたものになることも,
当業者にとって明らかであるというべきである。
イなお,原告は,審決が,引用発明として,一個の中容器20を備え中蓋は
備えず「蓋体40の内面にパッキングを設ける」態様を認定している旨を主
「主容器10と,中蓋36が嵌合される一つの中容器張するが,審決は,引用発明を,
と,主容器10に外嵌合される蓋体40とを備えた,主容器10と一つの中容器とを2段に積み
と認定してい重ねて使用する合成樹脂製の多段式弁当容器100……」(5頁最終段落)
るから,上記原告の主張は,審決を正しく理解しないものである。
(3)以上のとおりであるから,原告主張の取消事由1には理由がない。
3取消事由2(相違点1の判断の誤り)について
(1)原告は,審決が,メンズアルミの存在を根拠に,「上段の容器をプラスチ
ック製とし,下段の容器と蓋をアルミ製とした」点が本件出願前周知の技術
であったと認定したのは誤りである旨を主張する。
しかし,審決は,周知技術の認定に当たってメンズアルミの存在のみを根
拠としたのではなく,同様の素材の選択による製品が刊行物に記載され,ま
た現に販売されていたことを認定しているのであり(8頁第4段落),上記
原告の主張は,審決を正しく理解しないものであって,採用することができ
ない。また,原告は,メンズアルミが市場に「ほとんど」出ていなかったこ
とを理由に,その素材の選択は周知ではなかったと主張するが,市場に出て
いたこと自体は争っていない。そうすると,仮に,本件発明における素材の
選択が周知でないとしても,公知であったということはできるから,審決の
結論に影響を及ぼすものではない。
(2)また,原告は,メンズアルミ及びタウンスポーツは,本件発明と異なり,
上段容器に密封蓋を施したまま下段容器に入れ子式に収納することはできな
いことを,相違点1の判断の誤りの根拠として主張する。しかし,相違点1
は,上段容器をプラスチック製とし,下段容器と蓋をアルミ製にするという
素材の選択に係るものであるから,上記原告の主張も,審決を正しく理解し
ないものである。
(3)以上のとおりであるから,原告主張の取消事由2には理由がない。
4取消事由3(相違点2の判断の誤り)について
「引用発明における蓋体40の深さを,単に刊行原告は,審決が,相違点2について,
物1の図2に示されたのと同様のものと設定することにより,当業者が適宜採用し得た設計的
と判断したのに対し,本件発明と引用発明とは,本来,事項である」(9頁第2段落)
用途の異なる技術であり,現に,その形状も全く異なるから,相違点2が設計
的事項であるとはいえず,審決の上記判断は誤りである旨を主張する。
しかし,本件発明と引用発明とは,用途が弁当箱である点においても,2段
式の構造である点においても,異ならないことは,上記のとおりである。そし
て,刊行物1には,蓋体40に関し,下記の記載がある。(甲2)

「【0031】蓋体40は,各容器を積み上げた状態の多段式弁当容器100全体を上方から覆蓋する
ものであるとともに,図3に示したように,各容器内に他の容器を収納して全体の容積を
小さくした多段式弁当容器100の全体を覆蓋するものでもあるから,その側壁41の外形は主
容器10の側壁11に対して外側から嵌合できる,つまり外嵌合できるものとしたものであ
る。」
上記記載からすると,蓋体40は,容器を積み上げた状態及び入れ子式に収納
した状態のいずれにおいても,全体を覆蓋するものであることが認められるし,
図2に,蓋体40は,第一中容器の上部に至る深さであることが示されている。
そうすると,刊行物1において,主容器と1個の中容器とから成る二段式のも
のとした引用発明の蓋体40の深さは,中容器のみならず主容器の上部までをも
外周から覆う程度の深さとなるように設定されることは当然である。
したがって,本件発明が,「蓋は,使用状態に2段に重ねた下段の容器の上
部を外周から嵌合する深さを備え」ていることは,引用発明も実質的に具備し
ている構成であるということができるのであり,審決がこれを当業者が適宜採
用し得た設計的事項であると判断したことに誤りはない。
したがって,原告主張の取消事由3も採用することができない。
5取消事由4(相違点3の判断の誤り)について
原告は,本件発明と引用発明とは,用途,目的において異なり,「密封蓋」
の有無についても異なることを前提に,審決の相違点3の判断は誤りである旨
主張する。
しかし,本件発明と引用発明が,上段容器に密封蓋を備えた2段式の弁当箱
である点において一致することは上記2で述べたとおりであり,原告の主張は
前提において理由がない。そして,刊行物1において,上段の容器(中(甲2)
容器)は,逆さにして下段の容器(主容器)内に収納され(図3等),また,
蓋(蓋体)は,主容器に外嵌合されるものであるから,これを2段(【0031】)
式にした引用発明においても,本件発明の相違点3のような収納態様が可能で
あることは当業者に明らかである。
したがって,原告主張の取消事由4も採用することができない。
6取消事由5(顕著な作用効果の看過)について
(1)原告は,本件発明の弁当箱は,上段容器がプラスチック製であることもあ
って,密封蓋の密封効果は一層大きく,そのため水分の器外への漏出を完全
に防止でき,また,上段容器はプラスチック製であるため,電子レンジ適応
可能に設計でき,更に,弁当使用後は,密封蓋を被せた上容器を逆さにして
下容器に収納可能なことから,弁当箱全体の外形容積が使用前の約2分の1
となるコンパクト収納が可能であり,加えて,アルミニウム,プラスチック
という2材料を用いて上記のとおりの便利な機能をもたらしているにもかか
わらず,形状を極めてシンプルに形成することができる結果,成型が容易で
あってかつ洗浄が便利であるという顕著な作用効果を奏するところ,審決は,
これらの顕著な作用効果を看過している旨を主張する。
しかし,引用発明も,「密封蓋」を有し,コンパクトに収納できる2段式
弁当箱であることは,それぞれ上記2,5で述べたとおりであり,また,ア
ルミニウムとプラスチックという2種類の素材を用いることが周知技術の適
用にすぎないことは,上記3で述べたとおりである。同一の構成から同一の
作用効果が得られることは技術常識であるから,原告が主張する本件発明の
作用効果は,引用発明に周知技術を適用したものにおいても奏されることは
明らかであって,当業者にとって予測不能なものとはいえない。
(2)また,原告は,本件発明実施品の商業的成功を主張するが,商業的成功は,
製品価格,意匠,宣伝効果など,発明の構成以外の要素によっても左右され
るものであるところ,原告の主張する商業的成功が,本件発明の構成のみに
よってもたらされていると認めるに足る証拠はない。
(3)したがって,原告主張の取消事由5も採用できない。
7結語
以上のとおり,原告が取消事由として主張するところは,いずれも理由がな
い。よって,原告の本件請求は理由がないからこれを棄却することとして,主
文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官中野哲弘
裁判官岡本岳
裁判官上田卓哉

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