弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人林千春の上告理由について
 一 本件は、上告人が、被上告人の経営するゴルフ場であるDカントリー倶楽部
(以下「本件ゴルフ場」という。)の個人正会員となる旨の入会契約の債務不履行
による解除又は錯誤無効を主張して、被上告人に支払った入会金三〇〇万円及び預
託金一九〇〇万円の返還を求める事案である。
 二 上告人は、被上告人が本件ゴルフ場施設を利用可能な状態にした上でこれを
上告人の利用に供すべき債務の履行を遅滞したことが本件入会契約の解除事由又は
錯誤無効事由に当たると主張するので、まずこの点について検討する。
 1 右の点に関する原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
  (一) 上告人は、昭和六二年五月八日、被上告人との間で、本件ゴルフ場の第
一次個人正会員の募集に応じて本件入会契約を締結し、被上告人に対して入会金三
〇〇万円及び預託金一九〇〇万円を支払った。本件入会契約当時、本件ゴルフ場は
建設工事中であり、募集パンフレットには「完成昭和六三年秋予定」と記載され、
平成元年に開場することが予定されていたと認められる。
  (二) 本件ゴルフ場の建設工事は遅延し、平成元年中には開場することができ
ず、コースの芝張りが完了したのは同二年一二月ころ、ゴルフコース及びクラブハ
ウスが完成したのは同三年三月ころであった。遅延の原因は、調整池予定地の買収
ができなくなり別の場所に調整池を設置せざるを得なかったこと及びゴルフ場につ
ながる道路の拡幅工事についての用地買収が遅れたことなどであった。
  (三) 被上告人は、コースの芝張りを終えた平成二年一二月ころ、本件ゴルフ
場の会員あてに「平成三年四月末までにすべての工事を完了し、芝の成育を待って
同年の梅雨明けにオープンしたいと考えている」旨を通知した。
  (四) 被上告人は、平成三年七月二五日、視察プレーの名目で、会員のみの利
用としビジターの同伴を認めず、スタート時刻も午前一〇時からとして、本件ゴル
フ場の営業を開始し、同時に会員の名義書換えも開始した。ビジターの同伴を認め
ず、スタート時刻を午前八時からとしなかったのは、埼玉県から、工事完了検査済
証の交付を受けてから開場してほしい旨の行政指導を受けたためである。
  (五) 上告人は、平成四年二月一日、被上告人に対し、債務不履行を理由に、
本件ゴルフ場の入会契約を解除する旨の意思表示をした。
  (六) 被上告人は、平成四年七月六日、本件ゴルフ場の工事完了検査済証の交
付を受け、ビジターの同伴を認め、スタート時刻を午前八時からとして、本件ゴル
フ場を正式に開場した。
 2 右事実関係に基づいて検討する。
  (一) 確かに、上告人が解除の意思表示をした平成四年二月一日の時点におい
ては、被上告人は、上告人ら会員に対して、ビジターの同伴を禁止するなど視察プ
レーの名目の下における制限的な利用を認めていたにとどまるから、これをもって
しては、いまだ、本件ゴルフ場施設を利用可能な状態にした上でこれを上告人の利
用に供すべき債務について、その本旨に従った履行を開始したものということので
きないことは論旨の指摘するとおりである。
  (二) それでは、本件入会契約においては、いかなる時期に本件ゴルフ場の完
成が約されていたかを考えると、一般に、本件のようにゴルフ場の建設工事中の時
点において、将来における完成、開場を見込んでこの種の契約が締結された場合に
おいて、履行期を記載した契約証書も作成されておらず、募集パンフレットに「完
成昭和六三年秋予定」等という記載があったにすぎず、入会契約当時においては平
成元年に開場することが予定されていたと認められるというような事情のあるとき
は、その履行期は早くとも、平成元年以後であって、その後のゴルフ場建設工事の
進ちょく状況並びに当時の社会経済状況に照らして、右工事の遅延に関して予想さ
れる合理的な遅延期間が経過した時という、かなり幅のある弾力的なものであった
とみるのが相当である。その意味では、右の履行期はいわば不確定期限というべき
ものであるが、全く未確定のものではなく、当初予定されていた時期より合理的な
期間の遅延は許される限度のものであったということができる。
  (三) けだし、一般にゴルフ場建設工事は、用地買収等に思わぬ長期間を要し
たり、予期し得ない自然的要因や技術的要因などによって建設工事に予定以上の期
間を要することは珍しくなく、当初予定の期間内に建設工事が完成しないこともあ
り得ることが十分に予想されるところ、実際にも、本件契約が締結された昭和六二
年当時の我が国においては、建設工事中に将来の完成を見込んで会員募集が行われ
たゴルフ場についてその開場が当初の予定よりも数年程度遅れることが常態化して
いたのに対し、この種の募集に応募して入会契約を締結する側においても、将来の
会員権の値上がりを期待して、ゴルフ場の開場が確かであれば、その時期の遅れは
あまり厳格に考えないのが一般であったことは公知の事実であって、上告人が特に
その例外であったとの事情は認められない。
  (四) ところで、前記認定の事実によれば、本件ゴルフ場の建設工事は、現実
に、調整池予定地の買収ができなくなり別の場所に調整池を設置せざるを得なかっ
たこと及びゴルフ場につながる道路の拡幅工事についての用地買収が遅れたことな
どが原因で遅延したのであるが、その後の努力により工事が進ちょくし、上告人が
解除の意思表示をした平成四年二月一日には既に視察プレーの名目の下における営
業が開始され、近々債務の本旨に従った履行がされることがほぼ確実に見込まれる
までになっていたというのであって、これらの事実に照らすと、右の解除の意思表
示の時点においては、右債務の履行期が既に到来していたものと断ずることはでき
ない。
 3 以上によれば、上告人の履行遅滞による解除の主張は理由がないものという
べきであり、また、この点についての錯誤無効の主張も理由がないことが明らかで
ある。
 三 次に、上告人は、被上告人が、本件ゴルフ場について、各ホールの高低差が
一〇メートル以内のフラットなコースで、かつ、プレー的魅力があり戦略性に富む
名門コースとし、さらに、敷地を一〇〇パーセント社有地とする旨の債務を履行し
なかったこと(不完全履行)を、本件入会契約の解除事由又は錯誤無効事由として
主張するので、この点について検討する。
 1 右の点に関する原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
  (一) 本件ゴルフ場の募集要綱にはコースの高低差についての記載はなかった
が、募集パンフレットには高低差一〇メートル以内のフラットなコースとする旨の
記載があった。もっとも、パンフレット裏面の全一八ホールについてのコース断面
図には、一五メートルの高低差のあるホールも四つ記載されていた。
  (二) 本件入会契約後、用地買収の失敗のため調整池の設置場所が変更された
ことなどから、本件ゴルフ場のコースレイアウトは変更され、コース完成時点にお
いては、高低差二〇メートル以上のホールが下り、上りとも各四ホール存在し、高
低差が最大のホールは下り四一メートルであった。
  (三) 本件ゴルフ場の募集要綱には、ゴルフ場の用地は一〇〇パーセント社有
地と記載されていたが、コース完成時点においては、敷地の五パーセント弱が借地
であった。
 2 右事実関係に基づいて検討する。
  (一) 本件ゴルフ場の募集パンフレットに高低差一〇メートル以内のフラット
なコースとする旨の記載があったことからすると、各ホールの高低差等のコースレ
イアウトの内容がおよそ本件入会契約の内容とならないということはできない。し
かしながら、本件入会契約においては、高低差等のコースレイアウトについて契約
証書において図面等に基づき詳細な合意がされたものではなく、募集パンフレット
には、高低差一〇メートル以内のフラットなコースとする旨の記載がある一方で、
コース断面図には一五メートルの高低差のあるホールも記載されていたことなどか
らすると、その契約内容は、全ホールについて高低差一〇メートル以内とするもの
ではなく、できるだけ高低差が少なく全体としてフラットといい得るコースを作る
というにとどまるものというべきである。
  そして、本件ゴルフ場完成当時において、全一八ホール中過半数のホールが高
低差二〇メートル未満であったことなどからすると、前記事実関係によっても、被
上告人に本件ゴルフ場の高低差等のコースレイアウトの点に関する債務不履行があ
るとまではいえないというべきである。
  (二) また、プレー的魅力があり戦略性に富む名門コースとするというだけで
は、法律上の債務というには具体性がなく、この点についての債務不履行を認める
余地はないというべきであるし、募集要綱に一〇〇パーセント社有地という記載が
あっただけでは、敷地の一部に借地があることのみをもって解除原因となるもので
もないというべきである。
 3 以上によれば、上告人の不完全履行による解除の主張は理由がないものとい
うべきであり、また、この点についての錯誤無効の主張も理由がないことが明らか
である。
 四 そうすると、上告人の本件請求を棄却すべきものとした原審の判断は、その
結論において正当であり、論旨は、すべて採用することができない。
 よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主
文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    園   部   逸   夫
            裁判官    千   種   秀   夫
            裁判官    尾   崎   行   信
            裁判官    山   口       繁

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