弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人松隈忠の上告理由第一点について
 所論の点に関し、本件建物の競売手続において最低競売価格を定めるための評価
にあたり、訴外Dの仮登記の存在は考慮されていないとする原審の認定は、原判決
挙示の証拠関係に照らし、是認することができる。論旨は、ひつきよう、原審の認
定にそわない事実関係に基づき原判決を非難するものであつて、採用することがで
きない。
 同第二点について
 第三者の売買予約に基づく所有権移転請求権保全の仮登記が存在する建物に対し、
抵当権実行による競売手続が開始され、その競落人が競落代金を完済して右建物の
所有権を取得したのちに、右仮登記権利者が売買予約の完結によりその仮登記に基
づく本登記を経由したため、競落人が競落建物の所有権を喪失するに至つた場合、
右売買予約が第三者の建物所有者に対する消費貸借上の債権担保の目的をもつて締
結されたものであるときは、競落人は民法五六八条に従い、同法五六七条の類推適
用により、抵当権設定者との間で当該建物の売買(競落)の解除権を取得するもの
と解するのが、相当である。そして、競落人が仮登記担保権者からする本登記手続
請求訴訟において、仮登記担保権者に対し目的不動産の適正な評価額のうち同人の
有する債権額を超過する部分から競落代金等自己の出捐額の支払と引換えにのみ承
諾義務の履行をなす旨の主張をすることなく、右仮登記に基づく本登記手続がされ
たとしても、そのために右解除権の行使が許されなくなるものではない。
 これを本件についてみると、原審の適法に確定した事実によれば、本件建物の仮
登記担保権者であるDが競落人である被上告人に対して提訴した本登記手続承諾請
求訴訟において被上告人が右清算金の支払請求をすることなく敗訴し、その結果D
の本登記がされたことにより、被上告人は本件建物の所有権を喪失したというので
ある。
 してみると、被上告人は、民法五六八条に従い、同法五六七条の類推適用により
本件建物の売買(競落)の解除権を取得するところ、被上告人が原審口頭弁論期日
に右解除の意思表示をしたことは、原審の確定するところであるから、被上告人は、
その原状回復として上告人に対し競落代金等自己の出捐額の支払請求権を有するも
のというべきである。したがつて、これと同旨の原審判断は相当であつて、原判決
に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主
文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    関   根   小   郷
            裁判官    天   野   武   一
            裁判官    江 里 口   清   雄
            裁判官    高   辻   正   己

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