弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人横田隼雄上告趣意第一点について。
 論旨は、原審判決は虚無の証拠により累犯前科を認定した違法がある。即ち、原
判決は被告人が判示前科により刑の執行を受け了つたことを被告人の公判廷におけ
るその旨の供述によつて認定しているが、被告人は同公判廷で「刑の執行を受け」
た旨の供述はしているが「受け了つた」旨の供述はしていないのであるから、この
点について「判示同趣旨の供述」なる証拠はない、と云うのである。しかしながら、
原審公判記録(一〇一丁裏)によれば、裁判長は被告人に対し記録第二八丁の身元
調書中の前科欄を読聞けたのに対し、被告人は相違無き旨を答へたのであり、同身
元調書には被告人が昭和一五年五月九日東京控訴院において傷害致死罪により懲役
三年の刑を受けた旨の記載があり、被告人また「刑を受けた」と供述しているので
あつて、他に何等特別の主張も記載も無いのであるから、これは刑の執行を受け了
つたものと解するのが当然であるから、論旨は理由がない。
 同第二点について。
 論旨は、原審判決は採証上の法則を誤つた違法がある。
 即ち、原判決は判示第二事実を認定する証拠として司法警察官の訊問調書を引用
しているが、その引用した部分の後の部分で判決の証拠説明に引用されていない箇
所に、被告人は「その事実をすつかり忘れて居つて後日妻からその事実を聞いて驚
いた」旨の記載があり、これに依ると被告人は犯行当時自己の行為に対する認識を
全く欠いたことが判るに拘らず、原判決は恰かも被告人がその行為を認識しつつ行
つたような証拠の引用をしているのであつて、かような採証は違法であると云うの
である。しかし、被告人が一旦忘れたことは事実であつたとしても、被告人は前示
取調の司法警察官に対しては原判決証拠の摘録どおり、犯行当時の記憶を喚び起し
てこれを供述しているのであるから、論旨は理由がない。
 同第三点について。
 論旨は、原審判決には理由不備の違法がある。即ち、判示第一匕首不法所持の事
実は昭和二二年一月頃から同年一二月二五日頃迄の間となつているが、判示第二事
実に依れば被告人は同月二六日にも所持していたのであるから、この二六日におけ
る被告人の匕首不法所持を原判決が何等判示していないのは理由不備の違法がある
と云うのである、しかし原判示第二事実については匕首不法所持の点はこれを認定
していないのであるから、論旨はこの点において既に理由がないばかりでなく、被
告人に却つて不利益な主張をなすものである。
 仍つて刑訴施行法第二条旧刑訴法第四四六条に従い、主文のとおり判決する。
 この判決は裁判官全員一致の意見である。
 検察官 岡本梅次郎関与
  昭和二四年年一二月二八日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    粟   山       茂
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎

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