弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人を懲役12年に処する。
未決勾留日数中100日をその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,平成22年2月6日午前0時30分ころ,愛媛県西条市内のホテル室
内において,A(当時45歳)に対し,殺意をもって,仰向けで寝ていた同人の頸
部に電気コードを巻き付けて強く絞め上げ,よって,そのころ,同所において,同
人を頸部圧迫により窒息死させて殺害したものである。
(証拠の標目)
括弧内の番号は,証拠等関係カードの検察官請求証拠甲乙の番号を示す。
被告人の当公判廷における供述
被告人の検察官に対する供述調書(乙2。ただし,不同意部分を除く。)
検察事務官作成の報告書(甲4)
(法令の適用)
被告人の判示所為は刑法199条に該当するところ,所定刑中有期懲役刑を選択
し,その所定刑期の範囲内で被告人を懲役12年に処し,刑法21条を適用して未
決勾留日数中100日をその刑に算入することとし,訴訟費用は,刑事訴訟法18
1条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。
(量刑の理由)
1事件に至る経過
被告人は,平成19年2月ころ,当時被害者が勤務していた店の客として被害
者と知り合い,その後親密な関係になった。被告人は,以前から造船所の溶接工
(期間従業員)として働いていたが,被害者の容姿や性格が好みのタイプであっ
たことから,被害者に対して恋愛感情を抱き,たびたび愛媛県を訪れ,2人で会
っていた。その際,被告人は,被害者に対し,小遣いとして5万円から30万円
のまとまった金銭を交付し,被害者を旅行に連れて行くなどしていた。被告人は,
被害者と会った際に,自分の老後の面倒を見てくれるよう何度か尋ねるなどして
いた(なお,被告人が言う「老後の面倒」は,将来にわたり,世話をしてほしい
などという意味ではなく,週に何度か家に来るなどして付き合ってほしいという
趣旨であったと認められる。)。被害者には当時同棲していた男性がおり,被告
人は,将来を約束した交際相手というより,子供を抱えた自分の生活を助けてく
れる年上の男性という存在であったが,被告人は,被害者に同棲相手がいること
を知らず,被害者とお互いに真剣に交際していると認識していた。
その後,被告人は,仕事がなくなり,金銭的な蓄えも乏しくなってきたところ,
被害者に会いたいと考え,愛媛県で仕事を探そうとして,事件の約1週間前に全
財産の現金約15万円を持って長崎県から愛媛県に出て来た。しかし,被告人は,
なかなか仕事が見付からず,車中生活を送るなどしていた。
事件当日,被告人は,被害者と会い,ホテルに入り過ごした。被告人は,被害
者に対し「老後の面倒を見てくれるんだよね。」などと聞いたところ,被害者は,
「そんなん知らんよ。」などと答え,飲酒による酔いもあって寝入った。その後,
被告人は,犯行に及んだ。
2動機について
事件に至る経過や被告人の供述によると,被告人は,それまでは期間従業員と
して真面目に働き,比較的金銭に余裕のある生活を送っていたが,事件の少し前
ころから体調も優れず,仕事がなくなり,蓄えが乏しくなってきて,これまでに
被害者と会った時のようにまとまった金を渡すことができない状況になっていた。
事件当日は,ほとんど所持金も底をつき,今までと同じように被害者との関係を
続けられるかについて不安を感じていたと考えられる。このような心情が,被害
者に対し,それまで何度も確認していたはずの「老後の面倒を見てもらうこと」
を再度確認する気持ちへとつながっている。ところが,被害者から,これまで言
われたことがないつれない言葉をかけられ,非常にショックを受け,被害者が寝
入っている間に,あれこれ思いをめぐらせ,かつて被害者から交際相手がいたこ
とをほのめかされたりしたことなどを思い出し,きっと他に男性がいる,自分は
だまされたなどと考え,最後は被害者に対する激しい怒りがわき上がって,犯行
を決意している。
事件当時の思いつめた心情について,全く理解できないというわけではないが,
やはり冷静になって,被害者とよく話し合うべきであったし,そのようなことを
せず,殺害を決意したことについては,厳しい非難を免れない。
3結果の重大性
被害者は,45歳という人生の半ばで,尊い命を奪われた。被害者には殺され
なければならないいわれはない。犯行の結果は非常に重大である。被害者には3
人の子供がいる。その成長を支え,その将来を楽しみにしていたにもかかわらず,
子供たちを残して突如この世を去ることとなった。愛する母親を失った長男を始
め遺族の悲しみは深く,厳重処罰を求めているのも当然である。
4殺害の態様
被告人は,電気コードで,仰向けに寝ていた被害者の首を力一杯約30秒間絞
め続けた上,被害者が動かなくなったことを確認後,さらに力一杯数分間ほど絞
め続けて殺害しており,着手してからためらいは見られず,強い殺意に基づく犯
行である。
他方で,凶器となった電気コードは室内に備え付けられていたもので,事前に
犯行を周到に計画していたとは認められない。
5自首の評価
自首が成立することに争いはない。しかし,被告人が,このまま逃走しても逃
げ切れないと観念して自首した面があることは否定できないことから,ある程度
被告人に有利に考慮すべきではあるが,過大に評価することは相当でない。
6まとめ
以上の事実を踏まえ,検察官及び弁護人の量刑意見も参考にして検討するに,
人1人を殺害したという責任は非常に重大であり,懲役10年を下回ることは相
当ではない。他方で,被告人はこれまで犯罪に無縁の生活を送ってきたこと,被
告人が,事実を認め,被害者を殺害したことに対する反省と謝罪を述べているこ
と,被告人が犯行に及んだ経緯などを考慮すると,検察官の求刑を下回る懲役1
2年に処することが相当である。
(量刑意見:検察官・懲役13年,弁護人・懲役6年)
平成22年7月16日
松山地方裁判所刑事部
村越一浩裁判長裁判官
中村光一裁判官
松原経正裁判官

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