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主文
1原告らの請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
1甲事件
被告らは,別紙当事者目録記載の甲事件原告ら各自に対し,それぞれ10万
円を支払え。
2乙事件
被告大阪市は,別紙当事者目録記載の乙事件原告ら各自に対し,10万円を
支払え。
3丙事件
被告大阪市は,別紙当事者目録記載の丙事件原告ら各自に対し,10万円を
支払え。
第2事案の概要
1要旨
本件のうち甲事件は,同事件原告らが,東日本大震災により生じた廃棄物(以
下「災害廃棄物」という。)を同事件被告らが大阪において焼却して埋め立てた
こと(以下「本件事業」という。)により,放射性セシウム等が環境中に放出さ
れ,原告らの生命・身体に害悪が及び,又は害悪が及ぶ蓋然性が生じ,原告ら
の人格権・環境権が侵害されたなどと主張して,同事件被告らに対し,民法7
19条に基づき,連帯して上記原告ら各自につき慰謝料等10万円の支払を求
める事案である。
また,乙事件及び丙事件は,同各事件原告らが,前同様の主張をして,同各
事件被告大阪市(以下,甲~丙事件を通じ「被告市」という。)に対し,民法7
09条に基づき,上記原告ら各自につき慰謝料等10万円の支払を求める事案
である。
2前提事実(顕著な事実,当事者間に争いのない事実並びに証拠及び弁論の全
趣旨により容易に認められる事実)
(1)本件事業の決定に至るまでの経緯
ア平成23年3月11日,東日本大震災が発生した。
イ甲事件被告大阪府(以下「被告府」という。)等の府県により構成され
る関西広域連合は,同月13日,「東北地方太平洋沖地震対策にかかる関
西広域連合からの緊急声明」を発表し,関西広域連合の構成府県が東日本
大震災の被災地(以下,単に「被災地」という。)及び被災者に対する支
援を行うこと及び被告府が和歌山県と共に岩手県を中心に支援を行うこと
等を表明した。(乙1)
ウ環境省は,同年5月16日,災害廃棄物の処理の指針を示した「東日本
大震災に係る災害廃棄物の処理指針(マスタープラン)」(以下「マスタ
ープラン」という。)を策定し,その中で,被災地では膨大な災害廃棄物
が発生しているが,被災地では処理能力が不足していることから,被災地
以外の施設を活用した災害廃棄物の処理(以下「広域処理」という。)が
必要であるとした。(乙8)
エ岩手県は,同年6月20日,マスタープランを踏まえ,岩手県における
災害廃棄物処理の考え方を示した「岩手県災害廃棄物処理実行計画」を策
定し,その中で,平成26年3月末をめどに県内の災害廃棄物の処理を完
了するため,災害廃棄物の処理の一部につき広域処理を行うものとした。
(乙9の1・2)
オ被告府は,平成23年9月12日,災害廃棄物を大阪府において処理す
る場合の指針を策定するに当たり,放射線による人体や環境への影響につ
いて検討するため,「大阪府災害廃棄物の処理指針に係る検討会議」(以
下「本件検討会議」という。)を設置し,本件検討会議は,同月26日か
ら同年12月14日にかけて合計6回開催された。(乙13,14の1~
14)
カ被告府は,同月27日,本件検討会議における検討結果を踏まえ,「大
阪府域における東日本大震災の災害廃棄物処理に関する指針」(以下「本
件処理指針」という。)を策定し,要旨以下のとおり広域処理を行う災害
廃棄物の処理方法等につき定めた。なお,本件処理指針は,平成24年6
月18日に改正され,後出の本件埋立場所が焼却灰等の埋立場所とされ,
埋立方法等が具体的に定められた。(乙16,26の各1・2)
(ア)処理方法
被災地の仮置場において選別された災害廃棄物を被災地から海上輸送
し,バグフィルター(代表的なろ過集じん装置で,ろ材として繊布又は
不織布を用い,これを円筒にして集じんに活用するもの〔乙75[68
頁]〕)等の排ガス処理装置が設置されている施設において焼却した後,
その焼却灰等を遮水工(埋立地から出る浸出水による地下水や公共水域
の汚染を防止するために護岸の内側側面に設置された鋼矢板〔乙25の
3[6頁]〕),侵出水を集める集水設備,集めた浸出水の処理施設等が設
置された管理型最終処分場(乙75[78頁])において埋め立てる。
(イ)作業員等の年間被ばく線量
災害廃棄物の処理を行う作業員や焼却施設等の周辺住民の受ける放射
線量の限度は,年間1ミリシーベルト(以下「mSv」と表記する。な
お,シーベルトとは,放射線により人体が受ける影響を現す単位である。)
を下回ることとする。
(ウ)災害廃棄物等の放射性セシウム濃度
上記(イ)の年間被ばく線量に係る制限を守るため,大阪府に受け入れて
焼却する災害廃棄物1Kg当たりの放射性セシウム(セシウム134及
びセシウム137をいう。以下同じ。)の濃度の目安を100ベクレル
/Kg(ベクレルとは,放射性物質が放射線を出す能力〔1秒間に原子
核が崩壊する数〕を現す単位であり,以下「Bq」と表記する。)とし,
埋め立てる飛灰(バグフィルター等の排ガス処理施設で捕集されるすす
や灰〔乙75[66頁]〕),主灰(焼却工程で発生した燃え残りの灰〔乙
75[66頁]〕。以下,飛灰と併せて「焼却灰」という。)及び排水汚
泥の放射性セシウム濃度の目安を2000Bq/Kgとする。
(エ)放射性セシウムの濃度等の測定等
a被災地の仮置場において災害廃棄物の放射性セシウム濃度を測定し
(測定方法は「廃棄物等の放射能調査・測定方法暫定マニュアル」〔甲
1。以下「暫定マニュアル」という。〕に定める方法による。),その
値が100Bq/Kgを超える場合には被災地から搬出しない。
b災害廃棄物の焼却場所において,焼却灰,排ガス,排水及び排水汚
泥につき放射性セシウム濃度を測定し,焼却灰や排水汚泥の放射性セ
シウム濃度が2000Bq/Kgを上回る場合や,排ガス及び排水の
3か月間の平均の放射性セシウム濃度を基準値(排ガスのセシウム1
34につき20Bq/㎥,同セシウム137につき30bq/㎥,排
水のセシウム134につき60Bq/L,同セシウム137につき9
0Bq/L〔以下「本件排水基準値」という。〕)で除した値(セシ
ウム134に係る値とセシウム137に係る値の和。後記cにおいて,
同じ。)が1を超える場合には,処理を中断し,廃棄物,焼却施設の
詳細調査を行い,焼却施設に原因がある場合は,当該施設での処理を
中止する。
c埋立場所において,原水(護岸に囲まれた埋立場所のうち陸域化が
されていない水面部分〔以下「残余水面部」という。〕の水で排水処理
前のもの〔乙75[83頁]〕),放流水(最終処分場の排水口における
もの)及び排水汚泥につき放射性セシウム濃度を測定し,排水汚泥の
放射性セシウム濃度が2000Bq/Kgを上回る場合や,原水や放
流水の3か月間の平均の放射性セシウム濃度を本件排水基準値で除し
た値が1を超える場合には,処理を中断する(なお,原水に係る定め
は前記改正により追加されたものである。)。
d被災地の災害廃棄物の仮置場や,災害廃棄物の焼却場所・埋立場所
において空間線量率(自然界からの影響を含めた,その場に飛んでい
る放射線の量)の測定を行い,異常に高い数値が計測された場合には,
搬出や処理を中止するなどの措置をとる。なお,上記「異常に高い数
値」とは,焼却場所や埋立場所に係る測定については,バックグラウ
ンド空間線量率(災害廃棄物受入前の空間線量率の測定値〔乙75[7
4,86頁]〕)を除いた空間線量率の測定値が,0.19マイクロシ
ーベルト/時(以下「μSv/h」と表記する。この0.19μSv
/hという数値は,同線量率の空間で,1日のうち屋外に8時間,6
割の放射線を遮蔽する効果がある木造家屋内に16時間滞在する場合
に,被ばく線量が年間1mSvを下回ることとなる数値である〔乙7
5[50頁]〕。)以上となることをいう。
(オ)試験処理の実施
本格的な処理を開始する前に試験的な処理を行い,処理過程の安全性
を確認する。
キ環境省は,被告市からの要請を受け,管理型最終処分場である大阪市環
境局A処分地(B区)(以下「本件埋立場所」という。)における災害廃
棄物の埋立処理の安全性等について評価を実施し,平成24年6月5日付
けの「A処分地(B区)における災害廃棄物の焼却によって生じる焼却灰
の埋立処分にかかる個別評価について」と題する書面において,災害廃棄
物の焼却灰を本件埋立場所の陸域化された部分に埋め立てる場合,十分な
安全性が確保できるとした(以下「本件個別評価」という。)。(乙15,
24・97の各1・2)
ク被告府は,本件個別評価を踏まえ,本件検討会議での検討を経て同月1
8日に本件処理指針を改訂し,災害廃棄物の焼却灰を本件埋立場所におい
て埋め立てることとし,埋立場所の最下部に土壌層及びゼオライト層を敷
設した上で埋め立てること等を定めた。(乙25の1~3,26の1・2,
丙29)
ケ被告市は,同月20日,大阪市戦略会議において災害廃棄物の受入れを
表明し,被告らは,同月26日,大阪府市統合本部会議において,被告ら
が連携して災害廃棄物を受け入れ,バグフィルターが設置されたごみ焼却
施設である大阪市環境局C工場(以下「本件焼却場所」という。)で焼却
し,その焼却灰を本件埋立場所に埋め立てることを確認し,被告府は,同
月29日,大阪府戦略本部会議において,被告市と連携して災害廃棄物を
受け入れることを決定した。(乙27の1・2,28の1~4,29の1・
2)
コ被告らは,同年8月3日,岩手県との間で「東日本大震災により発生し
た被災地の廃棄物の処理に関する基本合意書」を交わし,①被告らが岩手
県の災害廃棄物のうち可燃物(放射性セシウム濃度が100Bq/Kg以
下のものに限る。)について,平成26年3月31日までに,3万600
0tを処理量の上限として受け入れること,②岩手県は密閉型コンテナに
上記可燃物を封入して岩手県内の港湾施設まで輸送して船舶に積み込むこ
と,③被告府は上記コンテナを海上輸送し,陸揚げ・積替えを行った上で,
本件焼却場所まで陸上輸送すること,④被告市は本件焼却場所において災
害廃棄物を焼却し,その焼却灰を本件埋立場所まで輸送した上で埋め立て
ること等を合意した(以下「本件基本合意」という。)。(乙32)
サ被告府は,平成24年11月13日,岩手県との間で災害廃棄物処理業
務委託契約を締結し,本件基本合意に基づき災害廃棄物を処理することを
岩手県から受託した。(乙36)
シ被告府は,同月22日,被告市との間で廃棄物処理業務委託契約を締結
し,災害廃棄物の焼却やその焼却灰の埋立てについて,被告市に委託した。
(乙37)
(2)本件事業の実施
ア被告らは,平成24年11月14日から同年12月5日にかけて,岩手
県D地区の災害廃棄物約115tにつき試験的な処理(以下「本件試験処
理」という。)を行い,本件処理指針の定める災害廃棄物の放射性セシウ
ム濃度等の測定を行った。(乙40の1~52,42・43の各2,76,
77)。
イ被告府は,本件検討会議の委員らにより構成される大阪府災害廃棄物処
理指針検討審議会(以下,本件検討会議と併せて「本件検討会議等」とい
う。)において,本件試験処理に係る放射性セシウム濃度等の測定値を検
討した結果について,本件処理指針の定める基準が満たされており,安全
性が確認されたとして,同月26日,大阪府戦略本部会議において災害廃
棄物の本格的な処理の開始を決定し,被告市も,同月27日,大阪市戦略
会議において,同様に本格的な処理の開始を決定した。(乙14の2,4
1~43の各1・2)
ウ被告府は,平成25年1月23日から岩手県D港から大阪港に向けての
災害廃棄物の運搬を,同月29日から災害廃棄物の本件焼却場所への搬入
をそれぞれ開始し,被告市は,同年2月1日から本件焼却場所において災
害廃棄物の焼却を,同月4日から本件埋立場所において災害廃棄物の焼却
灰等の埋立てをそれぞれ開始した(以下,本件事業のうち本件試験処理以
外の災害廃棄物の処理を「本件本格処理」という。)。(乙105)
エ被告府は,同年8月26日をもって岩手県から大阪府への災害廃棄物の
搬出を終了し,被告市は,同年9月10日をもって,災害廃棄物の焼却灰
の埋立てを全て終了した。本件事業により被告らが受け入れた災害廃棄物
(以下「本件災害廃棄物」という。)の総量は,約1万5300t(本件
試験処理分115tを含む。)であった。(乙98,105)
3争点及び当事者の主張
本件の争点は,①本件事業により原告らの権利・利益が侵害されたか等(争
点1),②被告らに説明義務違反があるか(争点2),③原告らが被った損害の
有無及びその額(争点3)であり,これらに関する当事者の主張は以下のとお
りである。
(1)争点1(原告らの権利・利益の侵害があるか等)について
(原告らの主張)
ア本件事業により原告らの生命・身体に害悪が及び,又は害悪が及ぶ蓋然
性が生じ,原告らの人格権・環境権が侵害されたこと
以下のとおり,被告らは,本件事業により,大量の放射性セシウムその
他の有害物質(以下「放射性セシウム等」という。)を含む本件災害廃棄
物を合計1万5300tも大阪に持ち込んだ上,焼却,埋立て等によりこ
れを大気や海等の環境中に放出し,原告らの生命・身体に害悪を及ぼし,
又は害悪が及ぶ蓋然性を生じさせ,原告らの人格権や環境権(自然放射線
以外の放射線を浴びず事故又は被害発生の不安がない安全かつ平穏な環
境を享受する権利)を侵害したものである。
(ア)本件事業により大量の放射性セシウム等が大阪に持ち込まれたこと
本件災害廃棄物は,福島第1原発の事故により放出された放射性セシ
ウムを大量に含むものである。このことは,相当高濃度の放射性物質で
なければ空間線量率の測定では検知できない(1万Bq/Kgの放射性
セシウムでも検知できるものではない。)にもかかわらず,本件埋立場所
において,地面から5cmの位置と1mの位置の空間線量率に0.02
μSv/hもの差が出ていることからも明らかである(本件災害廃棄物
の焼却灰が相当高濃度の放射性セシウムを含んでおり,翻って本件災害
廃棄物が相当高濃度の放射性セシウムを含んでいたことが示されてい
る。)。
被告らは,本件災害廃棄物から検出された放射性セシウムの濃度は2
~8Bq/Kgであるとして,本件災害廃棄物は大量の放射性セシウム
を含むものではない旨主張する。しかし,本件災害廃棄物の放射性セシ
ウム濃度の測定は,月に1回,1600tのうち4.92~6.73K
g(全体の約0.00375%)のみを試料として行われており,これ
により本件災害廃棄物全体の放射性セシウムの濃度が確認できていると
はいい難いし,本件試験処理の際には行われていた組成物質別の放射性
セシウム濃度の測定が本件本格処理の際には行われなくなるなど,測定
方法もずさんであって,被告らの主張する測定結果を信用することはで
きず,本件災害廃棄物は本件処理指針の定める上限はもちろん,それを
はるかに超える高濃度の放射性セシウムを含んでいた可能性がある。
また,仮に本件災害廃棄物の放射性セシウム濃度が最大8Bq/Kg
であったとしても,被告らは,受け入れる災害廃棄物の総量について上
限を設けていないため,本件事業により約1万5300tもの災害廃棄
物(本件災害廃棄物)が大阪において処理されており,合計1億244
0万Bqもの放射性セシウムが大阪に持ち込まれた。
そして,本件災害廃棄物は,放射性セシウム以外にも,ヨウ素やスト
ロンチウム,アスベスト,クロム,ヒ素等の有害物質を含むものであり,
本件災害廃棄物の受け入れに伴い,これらの有害物質も大量に大阪に持
ち込まれた。
以上のとおり,本件事業によって大量の放射性セシウム等が大阪に持
ち込まれた。
(イ)本件事業により放射性セシウム等が環境中に放出されたこと
本件事業が,上記(ア)のとおり大量の放射性セシウム等を含む本件災害
廃棄物を持ち込むものである以上,その処理過程で放射性セシウム等が
環境中に放出されていることは明らかである。特に,本件焼却場所及び
本件埋立場所からは,以下のとおり大量の放射性セシウムが環境中に放
出された。
a本件焼却場所からの放出
(a)排ガスについて
本件焼却場所において本件災害廃棄物が焼却される過程(800
度まで加熱される)で発生する気体状の放射性セシウム(セシウム
の沸点は650度,塩化セシウムの沸点は1300度である。)や
極微粒子状の放射性セシウムは,バグフィルターを通過して環境中
に放出された。
この点について,被告らは,放射性セシウムは焼却炉内で一旦気
化し,バグフィルターを通過する前に200度まで冷却されること
により微粒子に付着してバグフィルターでほぼ完全に除去される
旨主張する。しかし,沸点以下でも一部の放射性セシウムは気化す
るものであるし(このことは,100度以下でも水が蒸発していく
ことを考えれば明らかである。),冷却過程で凝固熱を奪うことがで
きない放射性セシウムも残るから,これらは気体のままバグフィル
ターを通過する。また,バグフィルターは一定の大きさを下回る微
粒子を除去できず,一定の大きさを上回る微粒子であっても完全に
除去できるものではないから,一部の微粒子状の放射性セシウムは
確実にバグフィルターを通過する。さらに,バグフィルターは,フ
ィルターの目詰まりを利用して粒子を除去するという機能上,使用
初期や目詰まりが払い落とされた際にはろ過効果が低下し(2マイ
クロメートルの粒子でも未使用時のフィルターでは50%程度し
か除去できない。),より多くの放射性セシウムが通過することにな
る(バグフィルターの実際の除去性能は60%程度である。)。
また,被告らは,本件焼却場所の排ガスからは放射性セシウムは
検出されていない旨主張する。しかし,被告らは,本件災害廃棄物
を一般ごみに10~20%の割合で混ぜて焼却し,放射性セシウム
濃度の測定結果が低く抑えられるよう不当なごまかしを行ってい
る上,十分な量の排ガスを調査していない。
さらに,被告らはガス吸引瓶を用いて排ガスの放射性セシウム濃
度を測定しているところ,気体中の放射性セシウムは気泡の表面に
到達しないからガス吸引瓶を通す間に放射性セシウムが全て水に
溶けることはなく,この方法によって排ガスの放射性セシウム濃度
を正確に測定することはできない(被告府や環境省がバグフィルタ
ーによる放射性セシウムの除去率が99.9%以上であることの根
拠として引用するE教授の論文〔以下「e論文」という。〕もガス
吸引瓶による方法を用いて気体の放射性セシウム濃度を検証して
いるところ,同論文によれば,バグフィルター通過前と通過後の測
定数値に差が生じており〔気体を通すバグフィルターの機能上,上
記数値は同一になるはずである。〕,ガス吸引瓶による方法では放射
性セシウムを正確に測定することができないことが示されてい
る。)。
以上によれば,被告らの主張する測定結果を信用することはでき
ず,本件処理指針の定める排ガスの放射性セシウム濃度の上限はも
ちろん,これをはるかに超える高濃度の放射性セシウムを含む排ガ
スが本件焼却場所から放出された可能性がある。
なお,仮に被告らの主張する測定結果を前提としても,検出下限
値以下の放射性セシウムが放出されている可能性は否定できないの
であって,排ガスに係る検出下限値が1Bq/㎥であり,本件焼却
場所から排出されたガスの総量が9億534万6000㎥であるこ
とからすれば,9億534万6000Bqもの放射性セシウムが放
出された可能性がある。
(b)排水について
本件焼却場所の排水からも,放射性セシウムが環境中に放出され
た。
被告らは,本件焼却場所の排水から放射性セシウムは検出されて
いない旨主張するが,上記(a)の排ガス同様,検出下限値(排水に
つき0.8~0.9Bq/L)以下の放射性セシウムが放出された
可能性は否定できないのであって,本件焼却場所から排出された排
水の総量が1億3140Lであることに照らせば,1億512Bq
~1億1826Bqもの放射性セシウムが環境中に放出された可
能性がある。
b本件埋立場所からの放出
本件埋立場所に埋め立てられた本件災害廃棄物の焼却灰からは,水
溶性が高い放射性セシウムが本件埋立場所の原水に溶け出している
ところ,本件埋立場所を囲う遮水工は完全に透水を遮断するものでは
ないから,上記原水が外海に流出し,大量の放射性セシウムが環境中
に放出されている。
この点について,被告らは,本件災害廃棄物に係る焼却灰等を埋め
立てる場所に,放射性セシウムの吸着性が高いゼオライトを敷設する
ことで,放射性セシウムが原水に溶け出すことを防ぐことができる旨
主張する。しかし,ゼオライトは,他の物質に触れるとその物質の有
するイオンを取り込み,自身の吸着していたイオンを手放してしまう
性質があるから,放射性セシウムを吸着したゼオライトが海水に触れ
れば,放射性セシウムが海水中に放出されることになるのであって,
ゼオライトの敷設により放射性セシウムが原水に溶け出すことを防
ぐことができるということはできない。そもそもゼオライトの性能に
ついては研究が進んでおらず,信頼性に疑問がある。
c以上のとおり,本件焼却場所や本件埋立場所からは,大量の放射性
セシウムが環境中に放出されている。
(ウ)放出された放射性セシウム等の原告らへの影響
a上記(イ)のとおり本件事業の過程で大量の放射性セシウム等が環境
中に放出され,原告らは放射性セシウム等にさらされており,これに
よって原告らの生命・身体に害悪が及び,又は害悪が及ぶ蓋然性が生
じた。特に,放射線への被ばくは,わずかな線量であっても,体内に
取り込まれたアルファ線やベータ線が長期間にわたり体内組織を破
壊するなどして,白血病や癌,先天的障害等を引き起こすものであり
(内部被ばくの危険性),本件事業により環境中に放出された放射性
セシウムにより,原告らの生命・身体に害悪が及び,又は害悪が及ぶ
蓋然性が生じたことは明らかである。
bこの点について,被告らは,放射線への被ばくにつき,国際放射線
防護委員会(以下「ICRP」という。)の勧告に依拠し,年間1m
Sv以下の線量であれば被ばくしても生命・身体に害悪が及び,又は
害悪が及ぶ蓋然性が生じるとはいえない旨主張する。
しかし,そもそも本件事業は上記(イ)のとおり大量の放射性セシウム
を環境中に放出するものであって,原告らの年間被ばく線量が1mS
v以下になるものではない。その点を措いても,ICRPの勧告は,
照射された放射線が全て人体に吸収されたものとして人体への影響を
評価する点(照射線量と吸収線量の混同)や,放射線被ばくがもたら
す電離(放射線が原子を結合している電子をはじき飛ばすこと)を具
体的に計測せずに人体への影響を評価する点において,放射線の人体
へのリスクを過小評価している(後者の点について具体的にみると,
例えば,内部被ばくの場合には,ベータ線はアルファ線と同様に高頻
度で体内の組織を破壊するにもかかわらず,ベータ線の影響を示す係
数は1〔アルファ線の20分の1〕とされている。また,臓器に集積
した放射性物質は局所的な集中被ばくをもたらし,その影響は全身が
平均的に被ばくすると仮定した場合の1万倍以上になるにもかかわら
ず,ICRPは,これを無視して全身が平均的に被ばくするものとし
て放射線の影響を計測している。)。
したがって,上記勧告が示す年間1mSvという線量限度は安全性
を示す基準とはなり得ないものであり,被告らの上記主張は失当であ
る(欧州放射線リスク委員会も,ICRPが,放射線被ばくのリスク
を100分の1から1000分の1に過小評価している旨批判してい
る。)。
(エ)まとめ
以上のとおり,被告らが依拠した年間1mSvという被ばく線量限度
は安全性を示す基準とはなり得ないものであるし,実際にはこれを上回
る放射線被ばくをもたらすような放射性セシウムが本件事業の過程で環
境中に放出されているのであり,本件事業により原告らの生命・身体に
害悪が及び,又は害悪が及ぶ蓋然性が生じたことは明らかである。
したがって,被告らは本件事業により原告らの人格権・環境権を侵害
したものであり,被告らに上記人格権・環境権侵害について故意又は過
失があったことも明らかである。
イ原告らの生命・身体に害悪を及ぼす可能性を有し,また必要不可欠性等
の要件を満たさない本件事業は,原告らの権利・利益を侵害するものであ
ること
仮に本件事業により原告らの生命・身体に害悪が及び,又は害悪が及ぶ
蓋然性が生じたとまではいえないとしても,放射線への被ばくに一定量以
下の被ばくであれば無害であるといったしきい値が存在せず,本件事業が
原告らの生命・身体に害悪を及ぼす可能性を有するものである以上,①本
件事業が必要不可欠であること(必要不可欠性),②本件事業が人や環境に
最もリスクが少ない方法で実施されること(リスクの最小化)及び③上記
①,②の各点が本件事業により影響を受け得る地域の住民に対して十分に
説明されるなどの適正手続がとられていること(適正手続)の各要件を満
たすものでない限り,本件事業は,原告らの人格権・環境権を侵害するも
のというべきところ,以下のとおり,本件事業は上記①~③の要件のいず
れも満たしていないから,原告らの人格権・環境権を侵害するものである。
(ア)本件事業が必要不可欠ではないこと
本件事業は,災害廃棄物によって被災地の復興が阻害されているとし
て,平成26年3月までに災害廃棄物の処理を終えることを目標に行わ
れたものであるが,被告らが本件基本合意により受け入れることとした
3万6000tは,岩手県内において1か月余りで処理することが可能
な量であったし(岩手県における可燃物の処理可能量は,1日当たり1
063tである。),平成24年4月の時点で,既に97%以上の災害廃
棄物は被災地の復興の妨げにならない仮置場に移動させられていた。ま
た,広域処理に付される宮城県と岩手県の災害廃棄物の総量は,平成2
5年1月には当初の見込みの6分の1にまで大幅に減少していたし,本
件事業も1万5300tの災害廃棄物(本件災害廃棄物)を受け入れた
にとどまり,早期に終了している。
これらの事情に照らせば,本件事業が行われなくとも被災地の復興に
影響が出ることなどなく,本件事業は,必要性を欠き,少なくともが必
要不可欠でなかったことは明らかである。
(イ)リスクの最小化が図られていないこと
前記ア(ウ)のとおり,ICRPの勧告で示された年間1mSvという線
量限度は安全性を示す基準とはなり得ないものであり,また前記ア(イ)
のとおり,本件焼却場所のバグフィルターや本件埋立場所の遮水工では
放射性セシウムが環境中に放出されることを防ぐことができないにもか
かわらず,被告らが本件事業の安全性につき十分な検討を行うことなく
本件事業を実施していることからすれば,本件事業についてリスクの最
小化は図られていないものというべきである。
(ウ)適正手続が踏まれていないこと
本件事業が原告らの生命・身体に害悪を及ぼす可能性を否定できない
以上,その安全性について十分検討されるとともに,影響を受け得る大
阪府内外の住民に対して十分説明されることが要求される。
ところが,専門的,科学的知見から本件事業の安全性を検討すべき本
件検討会議等では,ICRPの勧告で示された1mSvという年間被ば
く線量限度が無批判に採用され,災害廃棄物受入れの結論ありきの不十
分な検討しかされなかったし,寄せられた多数の市民からの反対意見も
無視された。
また,被告らは,大阪市F区の住民を対象者とした説明会を3回実施
したものの,本件事業により影響を受ける大阪市民を対象とした説明会
は1回しか実施していないし,排ガス等により影響を受けるはずの近隣
市町村の住民に対する説明会は1回も実施していない。また,開催され
た説明会での説明も,形ばかりのもので誠実なものではなかったし,説
明会参加者らの質問に対して十分な回答がされることもなかった。
これらの事情に照らせば,本件事業は適正手続を踏んで実施されたも
のであるということはできない。
(エ)まとめ
以上によれば,本件事業は原告らの生命・身体に害悪を及ぼす可能性
を有するものであるにもかかわらず,①必要不可欠性,②リスクの最小
化及び③適正手続のいずれの要請も満たすことなく行われたものである
から,仮に本件事業により原告らの生命・身体に害悪が及び,又は害悪
が及ぶ蓋然性が生じたとまではいえなくとも,原告らの人格権・環境権
が侵害されたというべきである。そして,被告らに上記人格権・環境権
侵害につき故意又は過失があったことは明らかである。
(被告らの主張)
ア本件事業により原告らの生命・身体に害悪が及び,又は害悪が及ぶ蓋然
性が生じたとはいえないこと
(ア)本件災害廃棄物の放射性セシウム濃度等が本件処理指針の基準を下
回ること
本件処理指針は,ICRPの勧告が一般公衆の年間被ばく線量限度を
1mSvと定めていること等を踏まえ,災害廃棄物の処理に当たる作業
員や焼却場所等の周辺住民等が受ける年間被ばく線量が1mSvを下
回るように,実際の作業環境よりも厳しい条件(1日6時間,年間25
0日,重機に乗らずに,2000Bq/Kgの焼却灰が既に埋め立てら
れている場所で作業を行うこと等)を仮定した試算に基づき,焼却する
災害廃棄物の放射性セシウム濃度を100Bq/Kg以下,埋め立てる
焼却灰の放射性セシウム濃度を2000Bq/Kg以下と定めている
ところ,本件事業により受け入れられた災害廃棄物の放射性セシウム濃
度等は,以下のとおり本件処理指針の定める基準を大幅に下回るもので
ある。
なお,ICRPは,放射線医学,放射線影響科学,放射線防護学等の
専門家らにより組織される国際的な非政府団体であり,その諸勧告は,
多くの科学者の異なる意見を取りまとめたものであって,我が国を初め,
世界各国で採用されているものであり,ICRPの勧告で示された年間
1mSvという線量限度は安全性を示す基準となり得るものである(原
告らはICRPが内部被ばくの危険性を考慮していない旨主張するが,
ICRPの勧告の年間1mSvという線量限度は,内部被ばくの危険性
をも考慮に入れて設定されている。)。
a本件災害廃棄物の放射性セシウム濃度が本件処理指針の基準(10
0Bq/Kg)を下回ること
本件事業の過程で測定された本件災害廃棄物の放射性セシウム濃
度は最大でも8Bq/Kgにすぎず,本件処理指針が定める上限はも
ちろん,飲料や一般食品として安全に摂取できるとされる放射性セシ
ウム濃度の基準(飲料につき10Bq/Kg,一般食品につき100
Bq/Kg)をも大きく下回っている。また,本件災害廃棄物が保管
されていた2次仮置場の空間線量率は,0.06~0.08μSv/
hであり,災害廃棄物がない状態での値(0.07μSv/h)と変
わらない値である。
この点について,原告らは,本件本格処理の際には,本件試験処理
の際には行われていた組成物質別の放射性セシウム濃度の測定が行わ
れていないとして,上記測定結果を信用できない旨主張する。しかし,
本件災害廃棄物はほとんどが木くずであること,岩手県での選別によ
り均質となっていること及び災害廃棄物の山が形成される過程で20
か所以上から1か所当たり4~20L程度の試料が採取されているこ
とから,組成物質別ではなく試料全体の放射性セシウム濃度を測定す
ることで適切な測定を行うことができるのであって,このことは大阪
府災害廃棄物処理指針検討審議会においても是認されており,原告ら
の上記主張は失当である。
b焼却灰等の放射性セシウム濃度が本件処理指針の基準(2000B
q/Kg)を下回ること
本件事業の過程で測定された焼却灰の放射性セシウム濃度は,主灰
からは不検出,飛灰についても最大38Bq/Kgであり,本件処理
指針が定める上限はもちろん,一般食品として安全に摂取できるとさ
れる上記aの放射性セシウム濃度の基準をも大きく下回っている。ま
た,本件焼却場所の排ガス,排水及び排水汚泥についても,検出下限
値を上回る放射性セシウムは検出されていない。
この点について,原告らは,バグフィルターでは排ガス中の放射性
セシウムを完全に除去することはできず,本件焼却場所から放射性セ
シウムが環境中に放出されているはずである旨主張する。しかし,本
件災害廃棄物中の放射性セシウムは,800度以上に保たれた焼却炉
内で気化した後,冷却過程で凝固し,塩化セシウム等の塩の化学形態
で平均粒径が数十μmの飛灰中に存在するため,0.1μmの粒子ま
で除去可能なバグフィルターによりほぼ完全に除去されるのであって,
このことは,実際の焼却施設における検証実験により裏付けられてい
る。)。
また,原告らは,排ガスの測定量が十分ではないし,ガス吸引ビン
を用いた測定方法では正確に放射能濃度を測定することができない旨
主張する。しかし,被告らはガス吸引ビンのみを用いて排ガスの放射
能濃度を測定しているものではなく,検証実験によりその妥当性が確
認されている国の基準(暫定マニュアル及び環境省の「放射能濃度等
測定方法ガイドライン」〔以下,暫定マニュアルと併せて「暫定マニュ
アル等」という。〕で示された基準)に依拠して排ガスの放射能濃度の
測定を行っており,原告らの上記主張は失当である。
なお,本件事業実施以前から大阪市内24か所において空間線量率
が測定されているところ,その数値に本件事業実施前後で変化はない
し,大阪府立公衆衛生研究所による大気中の浮遊塵や雨水等の降下物
の測定においても,放射性セシウムは検出されていない。
c本件埋立場所の原水等の放射性セシウム濃度が本件処理指針の定め
る基準を下回っていること
本件埋立場所においては,既に陸域化された部分にゼオライトを敷
設するなどした上で,本件災害廃棄物の焼却灰を埋め立てており,放
射性セシウムの原水及び外海への流出を防ぐための十分な手段が講じ
られているのであって,本件事業の過程で行われた本件埋立場所の原
水,放流水及び排水汚泥の放射性セシウム濃度の測定では,検出下限
値を上回る放射性セシウムは検出されていない。
(イ)放射性セシウム以外の有害物質について
本件事業の際に被災地の仮置場で検出されたアスベスト濃度は大気
汚染防止法上の限界値(1L当たり10本)を大きく下回るものである
し,本件災害廃棄物中のヒ素等の有害物質の測定結果も,通常焼却処理
されている一般廃棄物の場合と変わるところはない。また,本件焼却場
所の排水等や本件埋立場所の放流水等からも,一般廃棄物を処理する際
と同程度の有害物質濃度しか検出されていない。
(ウ)まとめ
以上によれば,本件事業が安全に行われたことは明らかであり,本件
事業により,原告らの生命・身体に害悪が及び,又は害悪が及ぶ蓋然性
を生じたということはできない。したがって,本件事業により原告らの
人格権・環境権が侵害されたということはできない。
なお,被告らに故意・過失がある旨の原告らの主張は争う。
イ本件事業により原告らの生命・身体に害悪が及び,又は害悪が及ぶ蓋然
性が生じるものではない以上,本件事業が原告らの法的保護に値する権
利・利益を侵害するものではないこと等
(ア)上記アのとおり,本件事業により原告らの生命・身体に害悪が及び,
又は害悪が及ぶ蓋然性が生じたということはできない以上,本件事業に
関して原告らが抱く感情は,単なる個人の主観的・抽象的な不安感,嫌
悪感にとどまり,法的保護に値する権利・利益であるということはでき
ない。
その点を措いても,岩手県が本件事業終了後も災害廃棄物の処理を継
続し,目標とされていた平成26年3月末にようやく処理を終了したこ
とに照らせば,本件事業は被災地の早期復興のために必要不可欠なもの
であったというべきである。また,本件事業については,災害廃棄物の
処理に当たる作業員や焼却施設の周辺住民の被ばく線量が年間1mSv
以下となるよう,本件検討会議等における検討を経て災害廃棄物の放射
性セシウム濃度等の基準が厳格に設定され,放射性セシウム濃度の測定
等も適切に行われ,安全性の確保がされていたものであるから,最もリ
スクの小さい方法により行われているというべきである。さらに,被告
府は被告市と共同で地域住民や地元企業に対して十分な説明を行ってお
り,説明責任を適切に果たし,適正手続を踏んで本件事業を実施したと
いうべきである。
(イ)以上のとおり,本件事業はそもそも原告らの法的保護に値する権利・
利益を侵害するものであるということはできないし,原告らが満たすべ
きであると主張する必要不可欠性等の3要件も満たすものであるから,
本件事業が原告らの権利・利益を侵害するものであるということはでき
ない。
なお,被告らに故意・過失がある旨の原告らの主張は争う。
(2)争点2(説明義務違反があるか)について
(原告らの主張)
本件事業が放射性セシウムを大阪に持ち込むものである以上,原告らには,
不安を解消するに足りる十分な説明を受け,本件事業に賛同するか否かを判
断するに足りるだけの事実を知る権利が憲法21条により認められることや,
憲法31条の定める適正手続の要請からすると,被告らは上記説明を行う法
的義務を負う。
そうであるにもかかわらず,上記(1)(原告らの主張)イ(ウ)記載のとおり,
被告らは原告らに対して十分な説明を尽くしておらず,上記説明義務に違反
している。
したがって,被告らは,説明を尽くさなかったことにより原告らが感じた
不安に係る精神的苦痛を慰謝すべき責任がある。
(被告らの主張)
上記(原告らの主張)は争う。
(3)争点3(原告らが被った損害の有無及びその額)
(原告らの主張)
本件事業が実施されたことや被告らが十分な説明を原告らに対して行わな
かったことにより,原告らは,放射性セシウム等にさらされ,また,不安や
恐怖の中で生活することを余儀なくされ,精神的苦痛を被ったほか,原告ら
の多くはマスクの購入等新たな出費を強いられ,中には転居を強いられた者
もおり,本件事業により原告らが被った損害の額は,1人当たり10万円を
下らないというべきである。
(被告の主張)
上記(原告らの主張)は争う。
第3当裁判所の判断
1認定事実
前記前提となる事実,後掲の証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事
実が認められる。
(1)本件災害廃棄物の処理過程
本件災害廃棄物約1万5300tの処理過程は以下のとおりであった。
(乙16の1,24・26・42・43の各2,75~77)
ア岩手県D地区から本件焼却場所への運搬
(ア)岩手県D地区の1次仮置場に集められた災害廃棄物が,重機によって
選別され,柱材・角材,可燃系混合物及び不燃系混合物が岩手県D市G
埠頭内の2次仮置場に搬入される。
(イ)上記(ア)の2次仮置場において,搬入された災害廃棄物から,重機で
柱材等が,人力で金属やスレート材等がそれぞれ取り除かれ,機材や手
作業により破砕・選別された上,可燃物(20~150mm)として選
別されたものがコンテナに積み込まれて大阪港b地区(以下「本件陸揚
場所」という。)に海上輸送される。
(ウ)本件陸揚場所においてコンテナが陸揚げされ,同地区内の積替施設
(以下「本件積替場所」という。)において,放射性セシウムの飛散を防
ぐためのシートがかけられた車両に積み替えられ,本件焼却場所に搬入
される。
イ本件焼却場所における焼却
本件積替場所から本件焼却場所に搬入された本件災害廃棄物は,一般ご
みに約10~20%の割合で混ぜられた上,バグフィルターが設置された
本件焼却場所の焼却炉において焼却される。
ウ本件埋立場所における埋立て
上記イの焼却によって生じた主灰,飛灰及び排水汚泥は,本件埋立場所
に運搬され,陸域化され,土壌層及びゼオライト層が敷設された場所に順
次埋め立てられる(なお,上記主灰等が埋め立てられる現場の底面は本件
埋立場所の残余水面部の水面から約3.75mの高さに位置する。)。
(2)本件災害廃棄物の放射性セシウム濃度の測定結果
本件事業の実施期間中,本件処理指針の定め(前記前提となる事実(1)カ(エ))
に従い(本件本格処理の際の本件災害廃棄物の放射性セシウム濃度の測定方
法を除く。),本件災害廃棄物等の放射性セシウム濃度の測定が行われ,その
結果は以下のとおりであった。(後掲のほか,乙42・43の各2,54の
77・81,76,77,85~87の各1,105,107,丙5の3,
6・7・15~20の各1,24,30の1・2)
ア本件災害廃棄物の放射性セシウム濃度
(ア)本件試験処理の際に行われた測定では,暫定マニュアルに定められた
測定方法に従い,本件災害廃棄物の山から採取された試料について組成
物質別(木質,プラスチック,繊維の別。なお,紙類,わらは含まれて
いなかった。)に測定した上,その組成比率に基づき加重平均して放射性
セシウム濃度を算定する方法が採られ,その結果,本件災害廃棄物の放
射性セシウム濃度は8Bq/Kgと算定された。(甲1,乙40の1~
3・5,58・59の各1)
(イ)本件本格処理の際には,2回の搬出量に相当する約1600tについ
て,合計10回放射性セシウム濃度の測定が行われ(その測定において
は,本件試験処理の際とは異なり,組成物質別の測定はされず,本件災
害廃棄物の山から採取された試料全体についての測定が行われた。),う
ち2回で最大8Bq/Kgの放射性セシウムが検出されたが,その余の
8回の測定では,放射性セシウムは検出されなかった。(乙47の1~6,
79,80の1~5)
イ本件災害廃棄物に係る焼却灰の放射性セシウム濃度
(ア)本件試験処理(通常ゴミに災害廃棄物を20%混合して焼却)の際に
行われた測定では,焼却灰のうち,主灰からは放射性セシウムは検出さ
れず,飛灰からは38Bq/Kgの放射性セシウムが検出された。なお,
上記測定の際に行われた通常ゴミのみの焼却に係る焼却灰の測定では,
主灰からは放射性セシウムは検出されず,飛灰からは37Bq/Kgの
放射性セシウムが検出された。(乙40の34・35・37,60の1)
(イ)本件本格処理の際に行われた測定(被告市は2週間に1回程度実施,
被告府は月1回実施)では,主灰からは放射性セシウムは検出されず,
飛灰からは最大21Bq/Kg(測定結果を乾燥状態に換算した場合の
数値である乾き換算値〔乙105〕では26Bq/Kg)の放射性セシ
ウムが検出された。(乙49の1,50の1~3,51の1・2,59の
3,87の2・8~12,106の6・7,丙25の1・2,31の3・
5)
ウ本件焼却場所の排ガス・排水・排水汚泥の放射性セシウム濃度
本件試験処理及び本件本格処理のいずれの際に行われた測定(本件本格
処理の際は,被告府は,排ガス,排水及び排水汚泥につき月1回実施,被
告市は排ガスにつき2週間に1回程度,排水及び排水汚泥につき月1回実
施)でも,本件焼却場所の排ガス,排水及び排水汚泥からは放射性セシウ
ムは検出されなかった。(乙40の34・37~43,49の1~7,50
の1,51の1・2,59の3,60の1,87の2~7・13~22,
106の6・7,丙31の1・2)
エ本件埋立場所の原水・放流水・排水汚泥の放射性セシウム濃度
本件試験処理及び本件本格処理いずれの際に行われた測定(本件本格処
理の際は,被告府,被告市いずれも,原水及び放流水につき週1回,排水
汚泥につき2週間に1回実施)でも,本件埋立場所の原水,放流水及び排
水汚泥からは,放射性セシウムは検出されなかった。(乙40の45・48・
51・52,51の1・2,53の1~13,59の3,60の1,87
の2,88,89の1~32,106の6・7,丙5の1,19の2,2
7の1)
(3)被告府が実施した被ばく線量に係る試算の結果
被告府は,本件処理指針の策定に当たり,災害廃棄物の放射性セシウム濃
度を100Bq/Kg,埋め立てられる焼却灰の放射性セシウム濃度を20
00Bq/Kgと仮定した上で,ICRPの定める実効線量係数(Bqをm
Svに換算する際に用いられる,放射線の種類や摂取経路ごとに示された係
数〔乙75[7頁]〕)に基づき,焼却施設や埋立処分場で災害廃棄物の処理に
当たる作業員や,焼却施設等の周辺住民が受ける放射性セシウムの線量(外
部被ばく並びに粉じんの吸入及び直接経口摂取による内部被ばくによる放射
線量の合計値)を試算した。
その試算において,最も年間被ばく線量が多かったのは,上記焼却灰の埋
立作業を,1日6時間,年間250日間,重機に乗らず,また手袋やマスク
をせずに行う作業員の被ばく線量であり,その数値は0.86mSvであっ
た。また,放射性セシウム濃度が100Bq/Kgの災害廃棄物を1年間焼
却し続けた場合に,焼却施設の周辺住民(1日当たりの焼却能力450tの
焼却炉が2基ある焼却施設の周辺で,放射性セシウムの着地濃度が最も高い
地点に居住する住民)が受ける線量の試算結果は,大人で年間0.0001
2mSv,子供で年間0.00014mSvであった。
(甲6,乙16の1,26の2,69の1・2,75[67頁],103)
2争点1(原告らの権利・利益の侵害があるか等)について
(1)本件事業により放射性セシウム等が環境中に放出され,原告らの生命・身
体に害悪が及び,又は害悪が及ぶ蓋然性が生じたか
ア(ア)放射性セシウムの環境中への放出に係る原告らの権利・利益の侵害に
ついて
a原告らは,本件事業により放射性セシウムが環境中に放出され,原
告らの生命・身体に害悪が及び,又は害悪が及ぶ蓋然性が生じた旨主
張する。
b確かに,前記認定のとおり,本件災害廃棄物からは,本件試験処理
の際に行われたものを併せて合計11回行われた測定において,最大
8Bq/Kgの放射性セシウムが3回検出されている。そして,前記
認定のとおり,被告府の実施した試算において,災害廃棄物の焼却施
設の周辺住民が一定程度放射性セシウムに被ばくする可能性があるこ
とが示されていることからすれば,その量はさておき,本件災害廃棄
物に含まれる放射性セシウムが環境中に放出された可能性自体は否定
し難い。
しかし,本件災害廃棄物につき行われた全11回の放射性セシウム
濃度の測定のうち8回は放射性セシウムが検出されず,3回検出され
た際にも検出値は最大で8Bq/Kgであったことや,本件災害廃棄
物の焼却に伴い放射性セシウムが移行すること(乙67,75[69頁])
により放射性セシウム濃度が上昇するはずの焼却灰からも,飛灰につ
いて最大で38Bq/Kgの放射性セシウムしか測定されていないこ
とからすれば,本件災害廃棄物の放射性セシウム濃度が100Bq/
Kgを超え,その焼却灰の放射性セシウム濃度が2000Bq/Kg
を超えるものであったとは考え難い(なお,本件試験焼却の際に行わ
れた通常ゴミのみの焼却に係る焼却灰の測定では,主灰からは放射性
セシウムは検出されず,飛灰からは37Bq/Kgの放射性セシウム
が検出されており,このことは,本件災害廃棄物が通常ゴミとさほど
変わらない放射性セシウム濃度しか有していなかったことを裏付け
る。)。このことに,本件焼却場所の排ガス・排水・排水汚泥及び本件
埋立場所の原水・放流水・排水汚泥から放射性セシウムが検出されて
いないことを併せ考慮すれば,仮に原告らが本件事業の過程で放出さ
れた放射性セシウムに被ばくしていたとしても,その被ばく放射線量
が,焼却灰(放射性セシウムの濃度が2000Bq/kgのもの)の
埋立作業をマスク等をせずに1日に6時間,年間250日間行う作業
員の被ばく線量を上回るものとは考え難いから,前記認定の試算結果
に照らせば,原告らの被ばく線量が,年間1mSv(ICRPの定め
る実効線量係数に基づくもの。以下同じ。)を超えるとは考え難い(こ
のことは,本件陸揚場所の敷地境界,本件積替場所の場内及び敷地境
界,本件焼却場所の施設内等並びに本件埋立場所の埋立作業場所等に
おいて本件事業実施期間中及び本件事業実施期間後に測定〔本件陸揚
場所及び本件積替場所においては週1回,本件焼却場所においては1
日1回程度,本件埋立場所においては週5回実施〕された空間線量率
が,本件事業実施前の測定結果を下回るか,上回る場合でも,その程
度が0.19μSv/h〔前提事実(1)カ(エ)d記載のとおり,同線量
率の空間で,1日のうち屋外に8時間,屋内に16時間滞在する場合
に,被ばく線量が年間1mSvを下回ることとなる数値〕以下である
ことからも裏付けられている〔乙40の1・3~5・10・12~2
6・30~34・37・42・45~48,42・43の各2,51
の1,54の38・47~75・77~79・81~83,57の1,
59の3,76,77,81,82の1~20,83,84の1~1
9,85・86の各1・2,87の1,88,106の2~6,丙5
の2・3,6・7の各1,15・16の各1~10,17~20の各
1,24,27の1~9,30の1〕。)。
cそして,①ICRPは,放射線医学,放射線影響科学,放射線防護
学の専門家によって組織されている国際的な非政府団体であり,その
勧告において,様々な研究の結果や世界中で人々が通常生活していて
自然に受ける放射線の線量などを総合し,その実効線量係数に基づき
求められる年間被ばく線量の限度(自然界から受ける被ばく線量と医
療行為により受ける被ばく線量を除く。)を年間1mSvと定め,これ
が世界的な標準として広く採用され,我が国の放射線防護の現場にお
いても採用されていること(乙14の4[21頁],16の1,26の
2,64,65,75,91),②人は,日常生活の中で,宇宙から降
り注ぐ宇宙線や,岩石や土壌に含まれる放射性物質から発せられる放
射線,さらには,食事として口にする食物等に含まれる放射性物質か
ら発せられる放射線を受けており(人体に与える影響は,これらの自
然放射線と人口の放射線とで違いはない〔乙75〕。),自然放射線によ
る年間被ばく線量の日本の全国平均(年間1.48mSv)と世界平
均(年間2.4mSv)との差が約1mSvであって,1mSv以下
の年間被ばく線量の違いにより健康状態に差が生じるとは直ちには考
え難いこと(乙16の1,26・27の各2,75,91),③年間1
00mSv(ICRPの定める実効線量係数に基づくもの)以下の放
射線被ばくは,広島・長崎の原子爆弾被爆者についての長期の追跡調
査をもっても,影響が確認できない程度のものであること(乙75[1
4頁])を考慮すれば,被ばく線量が年間1mSvを超えない場合に,
人の生命・身体に害悪が及び,又は害悪が及ぶ蓋然性が生じると認め
ることはできない。
dしたがって,仮に原告らが本件事業の過程で環境中に放出された放
射性セシウムに被ばくしていたとしても,上記のとおり原告らの被ば
く線量が年間1mSvを超えるものであったとは考え難い以上,本件
事業に伴い本件災害廃棄物から放出された放射性セシウムにより原告
らの生命・身体に害悪が及び,又は害悪が及ぶ蓋然性が生じたものと
は容易に認め難い。原告らの上記aの主張は採用することができない。
(イ)放射性セシウム以外の物質の環境中への放出に係る原告らの権利・利
益の侵害について
原告らは,本件災害廃棄物には,放射性セシウムの他にも,他の放射
性物質やアスベスト等の有害物質が含まれており,これらが環境中に流
出して,原告らの生命身体に害悪が及び,又は害悪が及ぶ蓋然性を生じ
させた旨主張する。
しかし,放射性セシウム以外の放射性物質が本件災害廃棄物に含まれ
ることを認めるに足りる証拠はない(放射性セシウム以外の放射性物質
のうち,ヨウ素は,半減期が8日程度と短く〔乙14の6[15頁]〕,ま
た,放射性ストロンチウム及びプルトニウムは,ガスとして拡散するこ
とが考えにくい物質であり〔乙14の4[18頁]〕,環境省の実施した福
島県内の災害廃棄物の焼却施設における放射性ストロンチウム及びプル
トニウムの調査でも,不検出か,東日本大震災前の検出濃度と変わりな
い程度にとどまっていること〔乙67[参考資料4]〕に照らすと,それ
らの物質が本件災害廃棄物に含まれているとは考え難いし,その他の放
射性物質についても,その存在を疑わせる事情はない。)。また,放射性
セシウム以外の有害物質についても,法律上の規制値を超える濃度の有
害物質が本件災害廃棄物に含まれていたことを認めるに足りる証拠はな
い(被告らは,本件試験処理や本件本格処理の期間中,本件災害廃棄物
や関連施設からの排ガス等について,アスベストや重金属類等の有害物
質の含有量を測定しているが,不検出か,法律上の規制値を下回る数値
しか検出されていない〔乙40の1・3・5・26~29,42・43
の各2,51の1,54の77・81,57の1~4,58の1・2,
59の1~4,60の1~3,76,77,83,85~87の各1,
106の3・6,丙5の2・3,6の1・2,7の1~3,8の1~1
0,9の1~6,10の1~4,11の1~6,12の1・2,13の
1~5,14の1・2,24,30の1〕。)。
したがって,原告らの上記主張も採用することができない。
(ウ)なお,甲事件原告Iは本件事業実施期間中に目が赤くなったことや,
子供が鼻血を出したことを,丙事件原告Jはのどに違和感を感じたこと
をそれぞれ陳述・供述する(甲45,46,甲事件原告I,丙事件原告
J)が,上記各症状と本件事業との因果関係は必ずしも明らかではなく,
本件事業により上記原告らに健康被害が生じたと認めることはできない。
イ原告らの個別主張について
(ア)年間1mSv以下の被ばく線量について
原告らは,ICRPは,照射された放射線が全て人体に吸収されたも
のとして放射線の人体への影響を評価し,人体に影響が出る放射線被ば
く量を実際よりもはるかに高いものとしているし,その実効線量係数も,
放射線被ばくがもたらす電離を具体的に計測せず,内部被ばくの影響を
無視するなどして定められたものであり,人体へのリスクを著しく過小
評価するものであって,ICRPの勧告で示された線量限度は安全性を
示す基準とはなり得ず,年間1mSv以下の被ばく線量でも生命・身体
に対する害悪が及び,又は害悪が及ぶ蓋然性が生じる旨主張し,これに
沿う証拠(甲40,42,48,証人K)もある。
しかし,証拠(乙103)及び弁論の全趣旨によれば,ICRPは,
体内での放射性物質の挙動を算出するモデルを用いて実効線量係数を算
出しており,その実効線量係数が内部被ばくを無視・軽視したものであ
るとは直ちには認め難いし,電離を具体的に計測する方法については今
日では具体的に確立されていないこと(証人K)のほか,前示のとおり,
ICRPの勧告で示された線量限度が世界的にも広く採用されているこ
と等に照らせば,ICRPの実効線量係数が確立された科学的知見に反
するものであるということもできない。また,前記ア(ア)cのとおり,年
間100mSv以下の放射線被ばくの人体への影響は明らかではないの
であるから,仮に原告らの主張するとおり,ICRPが吸収線量と照射
線量を混同するものであったとしても,そのことをもって直ちに年間1
mSv以下の放射線被ばくにより人の生命・身体に害悪が及び,又は害
悪が及ぶ蓋然性が生じるとまでは認めることができない。さらに。原告
らは,放射性被ばくにはこれ以下の被ばく線量であれば安全であるとい
うしきい値は存在しないし,人により放射線被ばくに対する感受性は異
なるとも主張するが,そうであるからといって,年間1mSv以下の放
射線被ばくによって,人の生命・身体に害悪が及び,又は害悪が及ぶ蓋
然性が生じるものということはできない。
そうすると,原告らの上記主張を踏まえても,ICRPの定める年間
被ばく線量限度が科学的根拠を欠く不合理なものであるとまでは認める
ことができないのであって,年間1mSv以下の放射線被ばくにより原
告らの生命・身体に害悪が及び,又は害悪が及ぶ蓋然性が生じるという
ことはできない。
なお,原告らは,ICRPの基準が放射線被ばくの危険性を100分
の1から1000分の1程度過小評価している旨主張し,これに沿う証
拠(甲40)もある。しかし,仮に原告らの主張を前提としても,前記
認定のとおり100Bq/Kgの災害廃棄物を1年間焼却し続けた場合
に焼却施設周辺住民が受ける年間の放射線量は,大人で0.00012
mSv,子どもで0.00014mSvと1mSvの1000分の1に
も満たないものであり,前記認定の本件災害廃棄物やその焼却灰等の放
射性セシウム濃度に照らせば,本件事業により原告らが受け得る放射線
量がこれを上回るものであるとは考え難いから,原告らの上記主張を前
提としても,本件事業により原告らの生命・身体に害悪が及び,又は害
悪が及ぶ蓋然性が生じたということはできない。
(イ)本件事業の過程で放出された放射性セシウムの量について
a本件災害廃棄物に含まれる放射性セシウムの量について
(a)原告らは,空間線量率の測定では相当高濃度の放射性セシウムし
か測定できないにもかかわらず,本件災害廃棄物の焼却灰(飛灰)
が埋め立てられている場所の地面から5cmの位置と地面から1
mの位置の空間線量率に0.02μSv/hもの差が測定されてい
ることを指摘して,上記焼却灰(飛灰)や本件災害廃棄物は,相当
高濃度の放射性セシウムを含むものであった旨主張する。
しかし,本件試験処理前の平成24年11月15日から同月20
日までの5日間にわたり,本件陸揚場所の敷地境界西側において測
定された空間線量率が0.06~0.08μSv/hであり(乙7
6),放射性セシウムの影響がないと考えられる場所においても,
測定日時により空間線量率に0.02μSv/hの差が出ているこ
とからすれば,空間線量率に0.02μSv/hの差が存在するこ
とをもって,本件埋立場所の焼却灰(飛灰)や本件災害廃棄物が高
濃度の放射性セシウムを含むものであったということはできず,原
告らの上記主張は採用することができない。
(b)原告らは,本件災害廃棄物の放射性セシウム濃度の測定につき,
試料が本件災害廃棄物全体の約0.00375%程度であって,本
件災害廃棄物全体の放射性セシウム濃度を反映するものとはいい
難いし,本件試験処理の際には本件処理指針に従い組成分類ごとに
測定されていた放射性セシウム濃度が,本件本格処理の際には試料
全体につき測定する方法に変更され,ずさんな測定が行われている
から,本件災害廃棄物には本件処理指針の定める上限を上回る放射
性セシウムが含まれる可能性がある旨主張する。
しかし,①本件試験処理に係る災害廃棄物のほとんどが木くずで
あったことから,本件本格処理開始後受け入れる災害廃棄物につい
てもその仮置場での選別状況等に鑑みると大半が木くずであると
推測され,その場合,組成別に測定することは試料不足により実際
上困難であると考えられたこと(現に,本件試験処理の際も,当初
採取した試料は,木質が95%,プラスチックが4%,繊維が1%
であり,紙類とわらはなく,種類ごとに測定しようとしたところ,
プラスチックと繊維は測定に必要な量に満たず,改めて災害廃棄物
の山からプラスチックと繊維だけを抽出して試料を作成したとい
う経緯があった〔乙41の2[9頁]〕。),②東京都以外の広域処理
に応じた自治体でも試料全体での測定を実施していたこと,③福島
第1原発の事故により降下した放射性セシウムが岩手県の災害廃
棄物中に遍在するとは考え難いこと等から,大阪府災害廃棄物処理
指針検討審議会における議論を経て,本件本格処理の際の放射性セ
シウム濃度の測定は,本件処理指針とは異なり,組成分類ごとでは
なく試料全体につき行われたものであり(乙41の1・2,76,
78),そのような事情,経緯に照らし,本件本格処理の際の本件
災害廃棄物の放射性セシウム濃度の測定がずさんであるというこ
とはできない。また,上記のとおり放射性セシウムが災害廃棄物中
に遍在するとは考え難いことや,暫定マニュアルでは試料の採取に
ついて災害廃棄物の山の10か所以上でこれを行うものとしてい
るところ,被告府は本件本格処理の際,本件災害廃棄物の山の20
か所以上から試料を採取していること(甲1,乙41の2[21頁],
弁論の全趣旨)に照らせば,試料の量が不十分であるということも
できない。
したがって,本件事業により本件処理指針の定める上限を上回る
放射性セシウムが受け入れられる可能性があったということはで
きず,原告らの上記主張は採用することができない。
b排ガスから放出される放射性セシウムの量について
(a)原告らは,本件焼却場所において,排ガス処理装置として用いら
れるバグフィルターは気体を通すものであり,その性能上60%程
度しか放射性セシウムを除去できないから,本件焼却場所の排ガス
からは大量の放射性セシウムが流出している旨主張し,これに沿う
証拠(甲47,証人K)もある。
しかし,放射性セシウムは,焼却炉内で800度程度に熱されて
液化又は気化し,その後冷却されて200度になる過程で凝結して,
塩化セシウム等の塩の化学形態で飛灰(大きさ数十μm程度)に吸
着して存在するところ,バグフィルターは,0.1μm程度の粒子
まで除去可能であって,飛灰に吸着している放射性セシウムをほぼ
完全(99.9%超)に除去できるとされており(乙67[23頁],
75[69頁],弁論の全趣旨),このことは,福島県内の焼却施設
において,バグフィルター通過前の排ガスと通過後の排ガスの放射
性セシウム濃度を測定・比較した結果(バグフィルターの入り口に
おいて224Bq/㎥検出された放射性セシウム〔セシウム134
につき98Bq/㎥,セシウム137につき126Bq/㎥〕が,
バグフィルター通過後の煙突部分では,セシウム137は検出され
ず,セシウム134のみ0.008Bq/㎥検出された〔乙67[2
3頁]〕。)により裏付けられている。
この点について,原告らは,沸点以下の温度でも一部のセシウム
は気化するし,冷却過程で凝固熱を奪うことができず気体のまま存
在するものもあるから,気体状の放射性セシウムがバグフィルター
を通過して環境中に放出される旨主張する。しかし,セシウムの沸
点は約650度,塩化セシウムの沸点は約1300度である(乙7
5[69頁])から,200度以下に冷却される過程で気体のまま残
る放射性セシウムが存在するとは容易に想定し難いし,塩化セシウ
ムの蒸気圧が,一般的に揮発性の低いダイオキシン類と比較しても
9~11桁ほど低く,塩化セシウムは不揮発性ともいえるほどのも
のであること(丙3)に照らせば,沸点以下の温度で健康被害を問
題とすべき程度の気化したセシウムが存在するとは容易に認め難
いし,焼却過程で気化した放射性セシウムが冷却により上記沸点を
大きく下回る温度まで冷やされた後も,健康被害を問題とすべき程
度に残存するものとは容易に認め難い。したがって,原告らの上記
主張は採用することができない。
また,原告らは,バグフィルターは,目詰まりを利用して物質を
除去するという機能上,使用初期や,ろ布に付着したばい塵が払い
落とされた後にはろ過効果が低下し,放射性セシウムを含む微粒子
がバグフィルターを通過すると主張し,これに沿う証拠(甲47,
証人K)もある。しかし,仮に,原告らが主張するように,使用初
期やばい塵払落とし後にそれ以外の時期と比較してろ過効果の低
下が認められるとしても,その程度は明らかではないし(なお,本
件焼却場においては,1つの炉にろ布を設置した部屋が合計12室
あるところ,目詰まりを防ぐための措置は,ろ過効果への影響にも
配慮し,室別に行われており〔弁論の全趣旨〕,上記措置により,
全てのろ布について同時にろ過効果の低下が生じるものではな
い。),前示のとおり,バグフィルターが0.1μm程度の粒子まで
除去可能であり,災害廃棄物の焼却に伴う加熱後の放射性セシウム
が冷却過程で凝結して,大きさ数十μm程度の飛灰に吸着して存在
することにも照らすと,上記ろ過効果の低下が健康被害との関係で
有意なものとは容易に認め難く,原告らの指摘する事情が前記判断
を左右するものではない。
(b)原告らは,本件焼却場所から出る排ガスの放射性セシウム濃度の
測定の際に採取される試料の量が十分でないし,測定に用いられて
いるガス吸引ビンでは正確に排ガスの放射性セシウム濃度を測定
することはできないとして,本件処理指針の定める上限を上回る放
射性セシウムを含む排ガスが排出される可能性がある旨主張する。
しかし,本件事業に係る排ガスの測定方法は,暫定マニュアル等
の基準(毎分15Lを240分,合計3000L程度採取する。)
に準拠したものである(甲1,乙16の1,26・73の各2,7
5)ところ,その測定方法について,123㎥の排ガスを採取し,
5万秒や7万9000秒という長時間の計測時間をかけて検証実
験が行われ,妥当性が確認されていること(乙72,弁論の全趣旨)
からすれば,試料採取量が不十分であるということはできない。
また,原告らは,ガス吸収ビンでは放射性セシウム濃度を正確に測
定できないことの根拠として,e論文で示された実験結果において
気体状の放射性セシウムの濃度がバグフィルターの通過前後で変
化していることを挙げるが,仮にe論文において,バグフィルター
の通過前後での気体中の放射性セシウム濃度に原告らの主張する
ような差が生じていたとしても,それは測定箇所(バグフィルター
前と煙突部分〔甲47,証人K〕)の温度や気圧の違いに起因する
ものである可能性があり,直ちにガス吸収ビンで放射性セシウム濃
度が正確に測定できないことを示すものであるということはでき
ない。そして,本件災害廃棄物の排ガスの測定には,ガス吸収ビン
だけでなく,ろ紙及び活性炭が用いられているし(乙75,76。
これらの方法で排ガスの測定が十分に行われていないことをうか
がわせる証拠はない。),排ガス中の放射性セシウムの水溶性につい
ては,暫定マニュアル等が,排ガス中の放射性セシウムの測定方法
として,ガス吸収瓶を使用する旨定めていること(甲1,乙73の
2)からすれば,放射性セシウムの濃度測定にガス吸収瓶を用いる
ことが現在の一般的な科学的知見に基づくものであることがうか
がわれる。
したがって,本件焼却場所から,本件処理指針の定める上限を上
回る放射性セシウムを含む排ガスが排出される可能性があるとい
うことはできない。
なお,原告らは,本件災害廃棄物が本件焼却場所において,一般
ごみと混ぜて焼却されていることをもって,本件焼却場所の排ガス
や焼却灰の放射性セシウム濃度が不当に低くなるような操作が行
われている旨主張する。しかし,本件焼却場所において本件災害廃
棄物が一般ごみと混ぜて焼却されているのは,本件災害廃棄物が海
水による塩分を含んでいることから,施設の劣化を防ぐために行わ
れるもの(乙16の1[10頁],25の2[25頁],75[65頁])
であって,排ガス等の放射性セシウム濃度を低く抑えるために行わ
れたものであるとは認められない。そして,前記ア(ア)bのとおり,
仮に原告らが本件事業の過程で放出された放射性セシウムに被ば
くしていたとしても,原告らの被ばく線量が年間1mSvを超える
ものであるとは考え難いのであるから,本件災害廃棄物が一般ごみ
と混ぜて焼却されていることをもって,原告らの生命・身体に害悪
が及び,又は害悪が及ぶ蓋然性が生じるということはできない。
c本件埋立場所からの流出可能性について
原告らは,本件埋立場所に埋め立てられた焼却灰から水溶性の高い
放射性セシウムが原水に溶け出しており,本件埋立場所を囲う遮水工
は完全に透水を遮断するものではないことから,上記原水が外海に流
出し,大量の放射性セシウムが環境中に放出されている旨主張し,こ
れに沿う証拠(甲41,証人L)もある。
しかし,①本件災害廃棄物の焼却灰は,本件埋立場所の陸域化され,
さらに土壌及びゼオライトが敷設された部分に埋め立てられており,
上記焼却灰に含まれる放射性セシウムが原水に溶け出すとは考え難い
こと,②前記認定のとおり,本件埋立場所の原水・放流水・汚泥排水
からは,いずれも検出下限値を超える放射性セシウムが検出されてい
ないこと及び③環境省が行った試算においても,陸域化された部分に
埋め立てられた焼却灰に含まれる放射性セシウムが本件埋立場所内の
原水に到達するのは,ゼオライトを敷設しない場合であっても57.
1年後であると試算されており,それは,セシウム137であれば,
半減期を約2回迎えるような期間であり,ゼオライトが敷設された本
件埋立場所においては,焼却灰に含まれる放射性セシウムが原水に達
すまでにはより長期間を要するものと考えられること(乙25の2[1
3頁],97の2[15頁])等に照らせば,本件焼却場所から大量の放
射性セシウムが環境中に放出されている旨の原告らの上記主張は採用
することができない(なお,上記③の事情に加え,前記認定のとおり,
本件埋立場所に埋め立てられた焼却灰の放射性セシウムは,主灰では
検出されず,飛灰でも最大21Bq/Kgにとどまることをも併せ考
慮すれば,証人Lの指摘する生物濃縮のメカニズムを踏まえても,将
来,上記長期間経過後に原水に達する放射性セシウムにより何らかの
健康被害が生ずるおそれがあるものとは容易に認め難い。)。
d本件災害廃棄物の受入総量について
原告らは,本件処理指針が災害廃棄物の受入総量については制限を
設けていないため,合計約1万5300tもの災害廃棄物(本件災害
廃棄物)が持ち込まれ,測定により検出された放射性セシウム濃度(8
Bq/Kg)を前提としても,合計1億2440万Bqもの放射線が
大阪に持ち込まれており,このことからして原告らの生命・身体に害
悪が及び,又は害悪が及ぶ蓋然性が生じたことは明らかである旨主張
する。しかし,仮に,本件災害廃棄物の放射線量が合計1億2440
万Bqであったとしても,前記ア(ア)bのとおり,原告らが受ける被ば
く線量が年間1mSvを超えるものであるとは認め難いから,本件事
業により持ち込まれた災害廃棄物(本件災害廃棄物)が1万5300
tに及ぶことをもって,原告らの生命・身体に害悪が及び,又は害悪
が及ぶ蓋然性が生じたということはできない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
ウ以上によれば,本件事業により,原告らの生命・身体に害悪が及び,又
は害悪が及ぶ蓋然性が生じたということはできず,原告らの権利・利益を
侵害する不法行為があったと認めることはできない。
(2)本件事業が,原告らの生命・身体に害悪を及ぼす可能性を有し,原告ら
の権利・利益を侵害するものであるということができるか
ア(ア)原告らは,本件事業が原告らの生命・身体に害悪を及ぼす可能性を有
する以上,必要不可欠性,リスクの最小化及び適正手続の3要件が満た
されない限り,本件事業は原告らの人格権・環境権を侵害するものであ
る旨主張する。
(イ)原告らの主張する上記可能性の意味するところは必ずしも明らかで
はないが,仮に原告らが,本件事業により原告らの生命・身体に害悪が
及ぶ可能性が僅かでもあれば,上記(ア)の3要件が満たされない限り本
件事業は原告らの人格権・環境権を侵害する旨主張するものであるとす
れば,その程度の可能性では不法行為責任追及の基礎となるものと解す
ることはできないから(本件事業が上記程度の可能性を有することによ
り原告らが恐怖や不安を感じたとしても,そのことをもって直ちに法的
保護に値する権利・利益の侵害があったと評価することはできない。),
原告らの主張は採用することができない(なお,仮に本件事業がおよそ
必要性を欠く場合には,上記程度の可能性でも,不法行為責任追及の基
礎とし得ると解したとしても,本件事業が必要性を欠くものと認められ
ないことは,後記ウのとおりである。)。
(ウ)また,仮に原告らが,本件事業により原告らの生命・身体に害悪が及
ぶ具体的危険性がある旨主張するものであり,そのような危険性であれ
ば不法行為責任追及の基礎とし得るとしても,以下のとおり,本件事業
により原告らの生命・身体に害悪が及ぶ具体的危険性があると認めるこ
とはできないから,原告らの上記主張は採用することができない。
すなわち,本件事業は,本件処理指針に基づき行われたものである(本
件本格処理の際の本件災害廃棄物の放射性セシウム濃度の測定方法〔暫
定マニュアルの定める測定方法〕を除く。前記(1)イ(イ)bのとおり,こ
の点が下記の結論に影響を及ぼすものではない。)ところ,本件処理指針
は,災害廃棄物の焼却灰の埋立てに当たる作業員の被ばく線量が年間1
mSv以下となるよう,前記認定の試算を行った上で災害廃棄物等の放
射性セシウム濃度の上限を定め,災害廃棄物等の放射性セシウム濃度の
測定や空間線量率の測定を行い,上限(なお,本件処理指針において,
焼却場所の排ガス及び排水並びに埋立場所の原水及び放流水につき定め
られた放射性セシウム濃度の上限は,いずれも,同一人が0歳児から7
0歳になるまでの間当該濃度の放射性セシウムを含む空気や水を摂取し
続けたとしても,被ばく線量が年間1mSv以下となるよう設定された
ものである〔乙14の10[10頁]・14[6頁],67[19,27頁],
75[72頁],丙1,2〕。)を上回る放射性セシウム濃度が計測された
場合や空間線量率が異常に高くなった場合には搬出や処理の中止等を行
うこととしており,このような対応,対処方法からすると,本件事業に
より,原告らの被ばく線量が年間1mSvを超えるような放射性セシウ
ムが環境中に放出される可能性はなかったと認められる。そして,前記
(1)ア(ア)cで判示したところに照らせば,年間1mSvを超えない放射
線被ばくにより,原告らの生命・身体に害悪が及ぶ具体的危険性がある
とは直ちに認め難いから,本件事業が,原告らの生命・身体に害悪を及
ぼす具体的危険性を有するものであったと認めることは困難であるとい
わざるを得ない。
(エ)したがって,原告らの上記(ア)の主張は,原告らが主張する3要件を
満たさない限り不法行為の成立が認められるのか,また,本件において
その3要件が満たされているかを検討するまでもなく,採用することが
できない。
イ原告らの個別主張について
(ア)原告らは,本件埋立場所に埋め立てられた焼却灰に含まれる放射性セ
シウムが,集中豪雨による冠水や津波によって外海に流出し,原告らの
生命・身体に害悪を及ぼす危険性がある旨主張する。
しかし,①100Bq/Kgの災害廃棄物を一般ゴミとの混合焼却率
20%で年間6万t,合計12万t焼却した場合の焼却灰を直接本件埋
立場所の残余水面部に埋め立てた場合であっても原水の放射性セシウム
濃度が本件排水基準値を下回ること(乙24の2,97の1・2[33頁]。
なお,本件事業による災害廃棄物の受入上限量は3万6000tであ
る。),②津波が発生した場合でも,本件埋立場所が突起形状の造成がさ
れていないことから,埋立部分が破壊されて焼却灰が流出するとは考え
難く,仮に本件埋立場所が水没した場合であっても,陸域埋立てを行う
場合とほぼ同様の放射性セシウム濃度となること(乙97の1・2[資料
2])に照らせば,集中豪雨による冠水や津波による浸水の可能性がある
ことを考慮しても,本件埋立場所から放射性セシウムが流出して原告ら
の生命・身体に害悪を及ぼす具体的危険性があるとまでは認めることが
できない。
(イ)原告らは,本件焼却場所の排ガスや排水の放射性セシウム濃度の測定
には検出下限値が存在するから,大量の放射性セシウムが環境中に放出
される可能性を否定できない旨主張する。
しかし,本件処理指針において上記排ガス及び排水について定められ
た放射性セシウム濃度の各上限は,前記アのとおり,いずれも,同一人
が0歳児から70歳になるまでの間当該濃度の放射性セシウムを含む空
気や水を摂取し続けたとしても,被ばく線量が年間1mSv以下となる
よう設定されたものであり,検出下限値(排ガスにつき1Bq/㎥,排
水につき0.8~0.9Bq/Kg)に相当する放射性セシウムが放出
されていたとしても,上記上限を上回るものではない以上,これをもっ
て,原告らに年間1mSv以上の放射線被ばくをもたらす具体的危険性
があるということはできない。
ウなお,原告らは,①環境省において広域処理が必要な災害廃棄物の量と
して,当初宮城県と岩手県とで401万t(宮城県343万t,岩手県5
7万t)と想定しながら,その後の度重なる見直しを経て,本件本格処理
が開始される頃の平成25年1月25日には当初見込みの6分の1の69
t(宮城県39万t,岩手県30万t)にまで大幅に減少していること,
②岩手県においては平成24年4月の時点で97%以上の災害廃棄物が復
興の妨げにならない仮置場に移されていたこと,③平成24年6月26日
には,環境大臣が岩手県内の災害廃棄物の広域処理に一定のめどがついた
との認識を示したことを受けて,群馬県や千葉県の自治体等,受入れの検
討を中止する自治体も出ていたこと,④被告らを含め実際に災害廃棄物を
受け入れた自治体において,計画よりも早期に受入れを終了していること
等を指摘して,本件事業について必要性がなかった旨主張する。
しかしながら,上記①については,処理が必要となる災害廃棄物の量を
正確に見積もることに困難を伴うことは否定し難く,当初見込みより広域
処理が必要とされる量が減少したことをもって,広域処理の必要性が否定
されるものではないし(なお,被告らが本件事業により災害廃棄物を受け
入れた岩手県については,上記①の事情によっても,当初の見込みの半分
程度に減少したにとどまる。),岩手県が岩手県災害廃棄物処理実行計画に
おいてめどとした平成26年3月末になって全ての災害廃棄物の処理を終
了していること(乙104)からすれば,広域処理が必要な災害廃棄物の
量が減少したことをもって,本件事業の必要性を否定することはできない。
また,上記②については,仮置場に移動させられた災害廃棄物からメタン
ガスが発生し,民家に近接する仮置場において鎮火に3週間を要する火災
が発生していること(乙38の2・3)からすれば,仮置場に移された災
害廃棄物が復興の妨げにならないということはできず,災害廃棄物が仮置
場へ移されていたことをもって,本件事業の必要性を否定することはでき
ない。さらに,上記③についても,岩手県は,平成25年5月の時点でも,
「岩手県災害廃棄物処理詳細計画第二次(25年度)改訂版」(乙61の2)
において,震災で発生した災害廃棄物の量は膨大であることを理由として,
岩手県内での処理等を最大限に実施しても,廃棄物処理の完了の目標期限
とされた平成26年3月末までにこれを完了することは困難なため,広域
処理を行う必要があるとの見解を示しており,上記のとおり実際に全ての
災害廃棄物の処理が終了したのが同月末であることからすれば,原告らが
指摘するような事情があったとしても,被告らによる災害廃棄物の受入れ
の必要性が直ちに否定されるものではない。上記④についても,その指摘
事情により,被告らによる災害廃棄物の受入れの必要性が直ちに否定され
るものではない。その他,本件において,本件事業の必要性を否定すべき
事情を認めるに足りる証拠はない(国は,平成23年4月8日,被告府を
含む都道府県に対し,災害廃棄物の広域処理体制構築への協力を要請し,
平成24年3月,同年8月及び平成25年1月にも,被告らに対し,災害
廃棄物の広域処理を推進するための協力を要請し,岩手県も,同年5月,
県議会の代表者を通じ,被告府側に協力を要請しており〔乙4・18の各
1・2,19,20,33の1,丙21・22の各1〕,被告らは,このよ
うな国や岩手県からの要請を受け,被告ら及び岩手県によって締結された
本件基本合意を経て,本件事業を実施したものであり,その必要性自体は
容易に否定し難い。)。
(3)以上のとおり,本件事業により原告らの生命・身体に害悪が及び,又は
害悪が及ぶ蓋然性が生じたということができず,害悪が及ぶ具体的危険性が
あったということもできない以上,本件事業により原告らの権利・利益が侵
害されたということはできない(なお,原告らは,本件事業が人体への影響
が科学的に解明されていない放射性セシウムを環境中に放出するものであ
る以上,被告らにおいて本件事業の安全性を証明する責任がある旨主張する
が,不法行為に基づく損害賠償請求において,行為の違法性〔本件の場合,
本件事業が安全性を欠き,原告らの生命・身体に害悪が及び,又は害悪が及
ぶ蓋然性があること,さらには,害悪が及ぶ具体的危険性があること〕の立
証責任は,請求者にあるのであり,原告らの上記主張は採用することができ
ない。)。
3争点2(説明義務違反があるか)
原告らは,本件事業が放射性セシウムを大阪に持ち込むものである以上,
憲法21条や適正手続の要請から,被告らには原告らに対し,十分な説明を
行う義務があるが,被告らは十分な説明を行わず,上記説明義務に違反した
旨主張する。
しかし,仮に,人体に対する影響について諸説がある放射性セシウムを大
阪に持ち込むという本件事業の性質上,被告らに大阪府民や近隣地域の住民
に対し,十分な説明を行うことが望まれるとしても,それは政治的責務にと
どまるものであり,その懈怠が原告らに対する不法行為を構成するような法
的な説明義務の発生までをも認めることは困難であって,原告らが満足する
ような十分な説明がなされなかったからといって,直ちに原告らに対する不
法行為の成立を認めることはできない(なお,被告らは,本件試験処理終了
までに,共同して,本件焼却場所及び本件埋立場所が所在する大阪市F区の
地元住民や地元企業を対象にそれぞれ3回ずつ合計6回,大阪市民を対象に
合計3回,災害廃棄物の受入れに関する説明会を開催し,その後,本件本格
処理の開始前にも,大阪市民や上記地元企業等を対象に,本件試験処理の結
果と本格的な処理の開始に関する説明会を実施しており,相応の回数,説明
会を実施している〔乙30の1~3,31の1・2,34・35・38の各
1~3,39の1・2,44の1~3,45の1・2,丙23〕。)。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
4結論
以上によれば,原告らの請求は,その余の点について判断するまでもなく,
いずれも理由がないから,これらを棄却することとし,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第2民事部
裁判長裁判官西田隆裕
裁判官斗谷匡志
裁判官狹間巨勝

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