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○ 主文
一 原告の被告東京防衛施設局長及び被告防衛施設庁長官に対する訴をいずれも却
下する。
二 原告の被告国に対する請求を棄却する。
三 訴訟費用は原告の負担とする。
○ 事実
第一 当事者の求める裁判
一 請求の趣旨
1 被告東京防衛施設局長に対する主位的請求及び被告防衛施設庁長官に対する請

原告が昭和四六年六月三〇日付でした日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及
び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地
位に関する協定(以下「地位協定」という。)一八条一〇項に基づく損害賠償請求
調停申請に対する被告東京防衛施設局長及び被告防衛施設庁長官の不作為はいずれ
も違法であることを確認する。
2 被告東京防衛施設局長に対する予備的請求
被告東京防衛施設局長が昭和四八年一〇月一一日付でした原告の昭和四八年九月七
日付の地位協定一八条一〇項に基づく損害賠償請求調停申請の受理拒否処分を取消
す。
3 被告国に対する請求
被告国は、原告に対し五七、五三二、四六二円とこれに対する昭和五〇年四月二三
日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は被告らの負担とする。
5 右3につき仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
(本案前の答弁)
1 主文第一項と同旨
2 訴訟費用は原告の負担とする。
(本案の答弁)
1 原告の被告らに対する請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 請求の趣旨3につき仮執行宣言を付す場合の担保を条件とする仮執行免脱宣言
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 当事者の地位
原告は、自動車及び自動車部品の販売、整備を主たる業とする会社であり、被告東
京防衛施設局長(以下「被告局長」という。)及び被告防衛施設庁長官(以下「被
告長官」という。)は、いずれも被告国の行政機関であり、その公権力の行使にあ
たる公務員である。
2 原告とアメリカ合衆国との間の民事紛争
原告は、別紙記載のとおり、昭和四五年三月三一日付で原告がアメリカ合衆国と締
結した在日アメリカ軍基地におけるガレージ役務契約に関し、昭和四六年四月ころ
同国との間に民事紛争を生じ、同国の右契約の債務不履行により、合計五七、五三
二、四六二円の損害を被つた。
3 原告の調停申請
そこで原告は、前記民事紛争の円満解決を求めて、昭和四六年七月二日、被告局長
に対し、同年六月三〇日付調停申請書により地位協定一八条一〇項に基づく損害賠
償調停申請をした。
4 被告局長及び被告長官の不作為
被告局長は、地位協定の前記条項に基づき定められた「特需契約から生ずる紛争の
調停付託手続等に関する総理府令」(昭和二九年七月二一日総理府令第五七号。以
下「総理府令」という。)三条、六条、一二条の定めるところにより、本邦に在留
するアメリカ合衆国軍隊に関連した特需契約についてなされる地位協定に基づく調
停申請を受理し、その内容を審査し、実情を調査し、さらに被告長官に意見を具申
するなどの義務を負うものであり、被告長官は、総理府令一二条ないし一四条の定
めるところにより、受理された調停事件及び被告局長の意見を審査し、現地調査
し、さらに調停案を作成するなどの義務を負うものである。
ところが、被告局長及び被告長官(右被告両名を以下単に「被告局長ら」ともい
う。)は、原告の前記調停申請に対し、前記の義務に反し今日に至るまでその内容
の審査、実情調査、意見の具申、調停案の作成などをなすことをまつたく怠り、右
調停申請を放置しており、その不作為が違法であることは明白である。
5 被告局長の調停申請の受理拒否処分
原告は、被告局長に対し昭和四八年九月七日付で地位協定一八条一〇項に基づく調
停申請書(この書面に基づく調停申請を以下「第二次調停申請」ともいう。)を提
出したところ、同被告は、同年一〇月一一日付で右申請の受理を拒否した。
ところで原告の提出した右調停申請書は、原告の前記昭和四六年六月三〇日付調停
申請(以下「第一次調停申請」ともいう。)にかかる調停手続(以下これを「本件
調停手続」ともいう。)の続行要求及び調停準備の書面として理解されるべきであ
るが、仮に、本件調停手続が当時係属していなかつたとすれば、右は新たな調停申
請であつて、被告局長が原告の第二次調停申請の受理を拒むことは許されない違法
なものであつて、右処分は取消されるべきである。
6 原告の損害と被告国の賠償責任
(一) 原告は、被告局長らの前記4の違法な不作為により、合衆国に対する民事
上の損害賠償請求権の行使を今日までまつたく実現することができず、また、合衆
国は調停による紛争の解決を拒否している。
したがつて、原告は、被告局長らの右違法な不作為により、合衆国から調停の結果
当然に取得することができたはずである前記損害金五七、五三二、四六二円の回収
を著しく困難にさせられたことにより、右同額の損害を被つたものである。
(二) 仮に、原告の第一次調停申請にかかる調停がもはや係属していないとすれ
ば、右調停手続が終了したのは被告局長らが総理府令の規定をまつたく知らず、原
告に対し以下(1)ないし(3)のとおり誤つた教示などをして原告に右調停が係
属していると誤信させたことにより、原告が所定の手続をとらなかつたためであ
り、その結果原告の調停による権利救済の途は断たれたものであつて、したがつて
原告は被告局長らの右違法行為により、合衆国から回収できたはずの前記損害金五
七、五三二、四六二円と同額の損害を被つたものである。
(1) 原告は、昭和四六年七月中旬ころ、前記民事紛争に関する合衆国軍隊の契
約担当官の決定があつた旨報告したが、その際本来ならば、総理府令の定めるとこ
ろにより本件調停手続の続行を求めるためには、所定の期間内に右決定に対し合衆
国の機関である軍事契約訴願委員会に訴願申立をしたうえでその手続の停止を求
め、さらに文書により調停続行を申立てることが必要であり、逆に本件調停手続の
続行を求めないならば、文書により調停放棄なすべきであることを教示すべきであ
つたにもかかわらず、なんらの教示もしなかつた。
(2) 原告が昭和四六年八月ころ、契約担当官の右決定に対し訴願をした旨報告
した際も、前記(1)と同様になんらの教示もせず、かえつて「それはよかつた」
「調停の方もやります」などと原告に答え、原告がなんらの手続をしなくても本件
調停手続は続行されるものと原告に誤信させた。
(3) 原告に対し(イ)昭和四六年一一月ころ、第一次調停申請にかかる調停申
請書が不備であるから訂正するよう教示し、また、(ロ)昭和四六年末ころ、「訴
願手続がおもわしくないときは調停手続を進めるから安心せよ」と答え、すでに終
了している本件調停手続が当時も係属していると原告に誤信させた。
(三) 被告局長らの原告に対する前記の不作為あるいは誤つた教示は、同被告ら
がその職務を行なうについて故意または過失により違法になされたものであるか
ら、被告国は、国家賠償法一条に基づき、原告の被つた前記損害金を賠償すべき義
務がある。
7 よつて原告は、被告局長らに対する主位的請求及び被告長官に対する請求とし
て原告の第一次調停申請に対する被告局長及び被告長官の不作為がいずれも違法で
あることの確認、被告局長に対する予備的請求として原告の第二次調停申請に対す
る同被告の受理拒否処分の取消、被告国に対し、前記損害金五七、五三二、四六二
円とこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和五〇年四月二三日から支払ず
みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める。
二 被告局長及び被告長官の本案前の答弁の理由
1 原告の請求の趣旨1の訴について
原告は、地位協定一八条一〇項に基づく第一次調停申請に対する被告局長らの不作
為が違法であることの確認を求めているが、右の訴は、以下述べるとおり不適法で
あるから却下を免れない。
(一) 不作為の違法確認の訴は、行政庁が私人から法令に基づく申請あるいは不
服申立を受け、相当の期間内に、その申請に対応する処分その他公権力の行使に当
たる行為あるいは不服申立に対応する裁決、決定その他の行為をなすべきであるに
もかかわらずこれをしない場合に、その行政庁の不作為が違法であることの確認を
求める訴であるところ、原告の申請にかかる本件調停手続は、地位協定一八条一〇
項にいう合衆国軍隊によるまたは合衆国軍隊のための資材、需品、備品、役務及び
労務の調達に関する契約(以下「特需契約」という。)から生ずる契約上の紛争
を、合衆国軍隊を代表する契約の一方の当事者である合衆国軍隊の契約担当官と特
需契約請負業者双方の友誼的な合意により解決するための手段であり、地位協定二
五条に基づく合同委員会の分科機関として設置された契約調停委員会(以下「調停
委員会」という。)がそのあつせんにあたるものである。
調停委員会は、日本国政府及び合衆国政府により任命される各四名計八名の委員に
より構成され(契約調停委員会とその調停手続に関する覚書第一部二)、契約から
生ずる意見の不一致、運用上の問題及び潜在的紛争に関して調停を行なうための有
効な手段を契約の当事者に提供し、かくしてそれらの問題が正規の紛争にまで発展
する可能性を減少せしめることを目的とし(同第二部一)、特需契約より生ずる紛
争に関し契約当事者の一方からの申請に基づき調停を実施し、米国軍隊の調達に関
する苦情の処理にあたる(同第一部三a、b)ものである。そして、調停委員会が
行なう調停は、特需契約の紛争条項に基づいて契約当事者が有する権利の行使を妨
げるものではなく、右権利確保のための提訴手続を免除するものでもない(同第一
部四b)とされ、また、調停委員会は紛争の調停のため勧告文を作成するが、同勧
告文は契約当事者双方の受諾がなければなんら効力を生じない(同第二部三h)と
されている。
このように、特需契約から生ずる紛争の解決手段としての調停委員会による調停手
続は、抗告訴訟の対象たる公権力の行使による行為には該当せず、また不服申立に
対応する行政庁の裁決、決定その他の行為にも該当しないから、不作為の違法確認
の訴の対象とはなりえないものというべきである。
のみならず、被告局長らの右調停手続における調停申請書の受理及び調停委員会に
進達する行為(総理府令一二条、一三条)は、行政機関内の行為であつて、それに
ついての不作為の違法確認を求めることはできないものというべきである。
(二) 仮に、地位協定に基づく調停委員会における調停手続、特に右調停手続に
おける被告らの前記の行為が、抗告訴訟の対象となるとしても、原告の申請にかか
る本件調停手続は、すでに終了したものであつて、不作為状態は存しないから、不
作為の違法確認訴訟における訴の利益はすでに消滅したものというべきである。す
なわち、
(1) 特需契約から生ずる紛争の救済制度としては、一般の民事訴訟における司
法的救済手続は別として、特需契約により生ずる事実に関する紛争に関し、特需契
約の内容をなす一般条項に基づく行政的救済制度として、契約担当官の決定とその
不服申立としての訴願手続が定められている。すなわち、特需契約の条項により、
当該契約より生ずる紛争は契約担当官により裁定され、その決定書は特需契約請負
業者に送達される。そしてその決定に不服のある者は決定書送達後三〇日以内に契
約担当官を通じ、合衆国の行政救済機関である軍事契約訴願委員会(以下「訴願委
員会」という。)に訴願を提起することになる。そして訴願委員会の裁定により当
該契約上の紛争は確定するのである。
(2) このように、特需契約から生ずる紛争の行政的解決手段については、訴願
制度が認められているのであるが、両制度の比較から明らかなように、調停制度は
あくまで当該紛争の本来の行政救済手続である訴願制度の補助的解決手段というべ
きである。
すなわち、特需契約より生ずる紛争に関し、調停の申請は原則として契約担当官の
決定書の交付前に行なうものとされ(総理府令四条)、かつ、特需契約請負業者よ
り調停申請がなされた場合も、契約担当官の決定があつた場合には、右決定に不服
があれば訴願を提起し、その上で所定の期間内に訴願手続停止の申請をしてその許
可を受け、かつ、すでに係属している調停手続を続行する旨の意思表示をあらため
てなさねばならず(同令八条二項)、調停申請前に契約担当官の決定があつた場合
は、当該決定に対する不服申立を訴願委員会に提起し、所定の期間内に訴願委員会
において前記の手続停止を申請しその許可を得てはじめて調停申請が可能となる
(同令五条)のである。したがつて、訴願委員会の訴願手続の一時停止の許可がな
い場合、あるいは許可がなされても所定の一五日以内に調停の申請または調停手続
の続行の意思表示をしない場合は調停手続に付することはできず、あるいは、すで
に係属する調停手続は当然終了するものといわねばならない。
(3) これを本件についてみるに、原告の締結した特需契約にも前記(1)の一
般条項が規定されているものであるところ、原告は、昭和四六年七月二日立川防衛
施設事務所長を通じ被告局長に調停申請書を提出したが、昭和四六年七月一六日当
該紛争に関する契約担当官の決定があり、同日決定書が原告に送達された。これに
対し原告は、同年八月一一日訴願委員会に訴願を提起し、同年一〇月一三日訴願委
員会において正式に訴願事案として審査が開始された。しかるに、原告は右訴願の
日より所定の一五日以内に審査の一時停止の申請を行なつていないのであるから、
本件調停手続の続行の意思表示もないことになり、すでに係属している本件調停は
右訴願の日より所定の一五日を経過した昭和四六年八月二六日に当然に終了したも
のといわねばならない。
(4) 仮に本件調停手続がなお係属していたとしても、昭和四八年三月二一日訴
願委員会において訴願の裁決がなされ、原告に対し同年四月三日裁決書の交付があ
り、本件特需契約より生じた紛争は右訴願裁決の確定により、行政上の救済手段と
して終了したものというべく、当事者の合意に基づく調停制度は、もはや訴願裁決
の確定により調停による解決の余地はないのであるから当然に終了したものといわ
ねばならない。
なぜなら、契約担当官は、自己の決定を再審査する権限を有する訴願委員会の裁決
に拘束されるものと考えられ、訴願委員会の裁決がなされた以上は当事者の話し合
いを前提とする調停の余地はなくなり、調停委員会が調停案を示しても無意味だか
らである。したがつて右の場合は、調停手続は調停不成立として当然終了するもの
と解すべきである。
以上いずれにしても、本件調停手続は終了しているのであつて、被告局長らの不作
為は存在しないといわなければならない。
2 原告の請求の趣旨2の訴について
原告は、予備的請求として、原告の第二次調停申請に対する被告局長の昭和四八年
一〇月一一日付受理拒否処分の取消を求めているが、右調停申請にかかる申請書
は、被告局長がこれを受理したものではないうえ、右申請書の内容は第一次調停申
請にかかる調停と同一紛争に基づくものであり、新たな申請とはみられないもので
あつた。しかるに、第一次調停申請にかかる本件調停手続は、前記1(二)主張の
とおり当時すでに終了していたものであり、したがつて被告局長は、原告に対し昭
和四八年一〇月一一日付回答書により、本件調停手続が終了していることの通知、
あるいは原告の第一次調停申請が総理府令八条二項の手続を欠き、また訴願委員会
の裁決により調停続行が不可能となつたことを理由とする調停手続打切の通知をし
たものであつて、右回答は、いずれも正当なものであるが、これにより原告の法律
上の地位になんら変動を及ぼすものではないのであるから、取消訴訟の対象たる行
政処分とはいえないものである。
したがつて、原告の予備的請求にかかる訴も不適法である。
三 本案前の答弁の理由に対する原告の反論
1 本案前の答弁の理由1(一)について
(一) 調停委員会による調停手続は、特需契約から生じた合衆国とわが国の特需
契約請負業者との間の民間紛争を、当事者の互譲により文字どおり司法的に解決す
ることを目的とするのであつて、私人に対し特定行為を命令し、あるいはその法的
地位を形成するなどのいわゆる行政行為に属するものということはできないのであ
るが、しかし他方、民事紛争に関してわが国の国家機関が関与して行なうものであ
る以上、これを司法権力作用に属するものとして、公権力の行使に該当するものと
解して妨げないというべきである。
すなわち、特需契約に関する調停委員会の調停は、前記のとおり地位協定一八条一
〇項に基づくものであるが、右条項は、わが国の司法権が合衆国に対しては及ばな
いところから、私的契約である特需契約において本来ならば平等な当事者たるわが
国の特需契約請負業者の裁判を受ける権利が、実質的に損われてしまう(合衆国に
おいて訴訟することは事実上不可能である。)ことのないように、わが国と合衆国
によつて協定されたものであつて、したがつて、右の調停は日米両国の司法権にそ
の淵源があるというべきであつて、合衆国は右調停の範囲内でわが国の司法権に対
する免責特権を放棄したともいえるものである。そして、調停委員会は、条約によ
つて合意された紛争解決機関として、契約当事者の本国裁判所に代わつて司法的公
権力を行使する国際機関として認識されるべきであつて、わが国の国内法である民
事調停法に基づく調停が、当事者に対してなんらの強制力を有するものではないに
もかかわらず、司法権の権力行使作用であることは何人も否定しえないと同様に、
当事者の一方が合衆国という外国国家であるというだけで、他に一般の私的法律関
係と異なるところのない特需契約をめぐる紛争について、調停委員会の行なう調停
を司法権力作用と解して何ら不都合はないのである。
そうであるとすると、被告局長らが総理府令の定めるところによりなすべき義務を
負う行為(請求原因4)は、調停委員会がその司法権力作用の権能の一部である調
停準備行為として調停申請の受理あるいは調査等の権能を、日本国政府に付与した
ことによつて、わが国の行政機関たる右被告両名の管掌事項とされたのであり、司
法権的な判断作用と密接不可分な行為としての行政事務的本質を有するものであつ
て、国家の優越した地位にその基礎をおくものであるから、これを抗告訴訟の対象
たる処分に該当するものと解すべきことは当然である。
被告局長らは、総理府令に基づき調停申請を受理し、審査するなどの義務を負うこ
とにより、調停申請した特需契約請負業者と一定の公法上の法律関係を維持するこ
とになるのであり、右の法律関係がわが国国有の行政権力関係でなく、日本国政府
を受託者とする日米両国の司法的権力関係であるとしても、その実体は右被告両名
が行う通常一般の権力行使となんら異なるところがないのであつて、その違法な不
作為を裁判所が看過することは許されないのである。
(二) なお、仮に被告局長らの本件の不作為が抗告訴訟の対象にならないとすれ
ば、調停委員会による調停の途が違法に奪われた本件のような場合、他の救済手続
が地位協定等に規定されていないことにより、原告の救済の途は事実上閉されてし
まい、その不利益は著しいものであつて、正義に反するものといわなければならな
い。
2 本案前の答弁の理由1(二)について
被告局長及び被告長官主張の事実(本案前の答弁の理由1(二)(3)及び
(4))のうち、原告が締結したガレージ役務契約に契約担当官の決定とこれに対
する訴願についての一般条項が規定されていたこと、本件において契約担当官の決
定があり、これに対し原告が訴願を提起し、訴願委員会の裁決がなされた経緯、及
び原告が総理府令八条所定の手続をしなかつたことについては、いずれもこれを認
めるが、本件調停手続は、以下のとおり、なお適法に係属しているものであつて、
終了してはいないというべきである。
(一) 被告局長らは、訴願委員会の裁決により当該契約上の紛争が確定すると主
張するが、訴願委員会は合衆国軍隊の機関であり、その構成員も合衆国国民であつ
て、当該契約の一方当事者である合衆国軍隊と利益を共通にするものであるから、
公平な判断をおよそ期待しえない機構といわなければならない。したがつて、訴願
委員会の判断である裁決に確定力を付与することは、到底許されないというべきで
ある。
(二) 次に、被告局長は、調停手続は補助的手段にすぎず、主たる手続は訴願制
度であると主張するが、これは誤つている。
すなわち、地位協定は、調停手続のみに触れ、訴願手続については何も触れていな
いが、これは、訴願委員会が合衆国軍人のみによつて構成されており、特需契約に
関する紛争の解決機関としては適当ではなく、あるいは日本国民の反発を買うだけ
と判断されたことによるのであつて、特需契約に関する紛争の解決機関としては、
調停が主流であることは、ここからも読みとれる。また、被告局長ら主張の「覚
書」第二部二bによれば、契約担当官は、調停申請がなされたことを知つたときに
は、調停委員会が調停を行なうまで決定書通知を停止する旨定められているのであ
つて、ここにも、できるだけ調停手続で解決するという調停を基本的解決の手段と
する考え方が明らかである。
(三) また、総理府令八条二項に規定する訴願手続の一時停止の許可がないこ
と、あるいは許可があつても調停続行の意思表示がなされないことにより、すでに
なされた申請にかかる調停手続が終了すると解することは、以下のとおり失当であ
る。
まず、特需契約請負業者が調停続行を希望しているにもかかわらず、訴願委員会の
一方的都合により訴願手続停止の許可がなされないときに、これを理由に調停が続
行できず、あるいは調停が終了するなどと論じることはおよそ許されない。
次に調停が続行できず、あるいは調停が終了するというのは、実質上調停申請の取
下に相当するのであるから、総理府令八条一項、三項に定めるとおり、文書による
明確な調停不続行の意思表示のない限り、単に調停続行の意思表示のないことを理
由に軽々にこれを認めてはならないというべきである。
そして、本件において原告が文書による調停不続行の意思表示をしたことはまつた
くないのであるから、本件調停手続が終了するということはありえないといわなけ
ればならない。
(四) さらに、原告が自己の権利保護に必要な本件調停手続を続行させるため、
総理府令所定の手続をとらなかつたのは、請求原因6(二)主張のとおり、被告局
長らが総理府令の規定を知らなかつたため原告に対し当然なすべき教示を怠り、か
えつて誤つた教示をしたことに起因するものであつて、右のような事態となつたこ
とについて責任を負うべき右被告両名が、総理府令を根拠として本件調停手続の終
了を主張することは、正義に反するものであつて、許されないといわなければなら
ない。
3 本案前の答弁の理由2について
法令の定めにより一定の申請を受理すべき義務を負う行政庁は、その実体審査に入
る前にすべて申請を受理し、しかる後に棄却その他の処分をすべきであつて、申請
の受理を拒むこと自体は許されない。
なお、総理府令四条の調停申請の期間制限に関する規定は、特需契約請負業者の調
停申請権を省令段階の法規が奪うものであつて、到底有効ということはできない。
仮に右規定が一般的には無効とはいえないとしても、原告と合衆国との民事紛争の
実体、あるいは被告局長らの前記の誤つた教示等に照らして、本件について右規定
を適用することは許されないといわなければならない。
四 原告の反論に対する被告局長及び被告長官の再反論
1 原告の反論1について
原告は、合衆国政府とわが国の特需契約請負業者との間の特需契約に関する紛争を
解決するための手段である調停委員会を司法的機関と理解し、日本国における調停
委員会のあつせん手続を司法的公権力の行使として捉えているもののようである
が、これはまつたく調停委員会及びその手続を誤解しているものというべきであ
る。
調停委員会は前記のとおり地位協定二五条の規定に基づき設置された合同委員会の
分科機関として設けられたものであり(地位協定一八条一〇項、総理府令一条、二
条)、この種の紛争について日本国政府と合衆国政府との間の単なる協議機関とし
て設置されたものであつて(地位協定二五条)、原告の理解するごとき司法的公権
力を行使する機関として認識されるべきものではない。同委員会において日米両委
員が協議し、合意したところに基づいて勧告文を作成するとしても、その勧告は契
約当事者に対し強制力はなく、契約当事者双方の受諾がなければなんら効力が生じ
ないことは、被告がすでに主張したところであり、仮に右の勧告を両当事者が受諾
したとしても、その効力は両当事者間における合意としての効力として認められる
にすぎず、調停委員会は勧告に対する強制力はもたないのである。
また、原告主張のように、被告局長らがなすべき義務を負う行為が司法処分である
とするならば、それは行政処分ではないのであるから、抗告訴訟の対象とならない
ことは当然である。
なお、原告は、本件訴訟が許されなければ日本国内における救済の途が閉されてし
まうと主張するが、ことは合衆国がわが国の裁判権に服するかという治外法権の問
題であり、裁判権が存在することを前提とする司法救済の問題ではないのである。
そして、国際法上、国家は他の国家の裁判権に対し治外法権を有すると解されてい
る。原告の契約の直接の相手方である契約担当官はアメリカ合衆国の機関であるか
ら、本件契約上の紛争に関する裁判権をわが国は有しないのである。
2 原告の反論2(一)について
原告は、訴願委員会が合衆国軍隊の機関であるということにより、その裁決により
当該契約上の紛争が確定することは不当であると主張する。
しかし、訴願委員会は、合衆国の国防憲章に基づいて国防省に設置され、合衆国軍
隊と特需契約請負業者との間の紛争を処理する権限を有する行政機関であるとこ
ろ、行政的救済制度として特需契約の内容をなす一般条項に基づいて訴願の手続が
設けられていることは、被告がすでに主張したところであり、訴願委員会の手続が
行政的救済制度として設けられているということは、特需契約にかかる紛争を直ち
に司法手段による解決に委ねるよりは、司法的救済制度とは別個に、まず行政的に
救済制度を設けその紛争を簡易迅速に解決するようにすることが当事者双方にとつ
て経済的にも事務手続的にも便利であると目されるからであつて、それが合衆国国
防省の機関として設けられ、その機関の裁決によつて行政的には確定するものであ
るとしても、それは日本における行政救済機関が原則として処分庁または直近上級
行政庁の機関によつて審査されるのと制度的にはまつたく同様であつて、なんら不
当ではないところである。
3 原告の反論2(二)について
原告は、調停手続が主たる紛争解決手段であり、訴願はむしろ補助的なものである
かのように主張するが、右主張は以下のとおり失当である。
すなわち、本件契約においては、その一般条項として、特需契約請負業者は、この
契約に関する紛争について契約担当官の決定書が送付されたときはその受領の日の
後三〇日以内に訴願委員会に訴願できること、また、訴願委員会による裁定が行政
的救済方法においては確定的なものとなることが定められている。原告は右条項を
了知し、合意して本件契約を締結していたものである。
また、すでに述べたように訴願手続は、合衆国政府機関である国防省に合衆国の法
規である国防省憲章によつて設けられたものであり、他方、地位協定に根拠をおく
調停手続をなす調停委員会は、あくまでも右の訴願手続による裁決前における当事
者双方による紛争解決のための協議機関にすぎない。そして、調停委員会による紛
争の調停手続は、行政救済制度たる訴願手続の存在を予定して制度化されたもので
あつて、原告の主張は失当である。
4 原告の反論2(三)について
原告は、訴願の一時停止の許可がないこと、あるいは許可があつても調停の続行の
意思表示のないことをもつてただちに調停手続ができず、あるいは当然終了すると
解することは誤りであると主張する。
しかし、これは総理府令八条の解釈を誤つたものである。すなわち、総理府令八条
一項は特需契約請負業者が調停の申請を行なつた後契約担当官からの決定書を交付
された場合に調停の続行を希望するか否かの意思表示を行なわなければならないこ
とを定め、同条二項で調停続行を希望する場合の手続を、同条三項で調停続行を希
望しない場合の手続を定めている。同条三項によれば調停不続行の意思表示は決定
書受領の日後三〇日以内に行なわなければならない。したがつて同条二項の調停続
行の意思表示もなさず、かつ、同条三項の意思表示もなさずして決定の受領後三〇
日を経過した場合は、特需契約請負業者の調停不続行の意思表示はなくとも、調停
は当然に終了するものとすべきである。もし原告のような解釈をすれば、総理府令
八条三項は不要となり、同項で三〇日の期間を定めた趣旨を無意味とすることにな
る。
5 原告の反論2(四)について
原告は、被告局長らの誤つた教示などにより、本件調停手続の続行を不可能にされ
たと主張する。
しかし、原告主張のような事実がまつたくないことは、後記五2(一)の被告らの
主張のとおりであつて、原告の主張は失当である。
五 請求原因に対する被告らの認否及び主張
1 請求原因に対する認否
(一) 請求原因1のうち原告に関する部分は不知、その余は認める。
(二) 同2のうち、原告が合衆国軍隊とその主張する特需契約を締結したこと、
合衆国軍隊が、右契約について昭和四六年四月二一日付で解約通知をしたことは認
めるが、その余は不知。
(三) 同3は認める。
四 同4のうち、被告局長及び被告長官が原告主張の義務を負つていることは認め
るが、右被告両名の不作為が違法であるとの原告の主張は争う。
(五) 同5のうち、第二次調停申請にかかる調停申請書が第一次調停申請にかか
る本件調停手続の続行要求及び調停準備の書面であることは認めるが、原告主張の
行政処分の存在を含めその余の原告の主張は争う。
(六) 同6(一)のうち、原告の損害賠償請求権が実現されないこと、合衆国が
調停による紛争の解決を拒否していることは不知、その余については争う。
(七) 同6(二)冒頭部分のうち、本件調停手続が係属していないことは認める
が、その余は争う。(1)のうち原告から契約担当官の決定があつた旨報告がなさ
れたことは否認し、その余も争う。(2)の事実も否認する。(3)のうち、
(イ)の事実は認めるが、(ロ)の事実は否認する。
(八) 同6(三)は争う。
2 被告らの主張
(一) 事実上の主張
原告は、被告局長及び被告長官の違法な不作為あるいは誤つた教示について主張す
るが、以下のとおりいずれもそのような事実はなく、原告の主張は失当である。
(1) 違法な不作為について
本件調停手続がすでに昭和四六年八月二六日に終了したものであると解すべきこと
は、前記二1(二)(1)ないし(3)のとおりであるところ、右の調停申請に対
する被告局長の対応の経緯は次のとおりであつて、被告局長らになんら違法な不作
為はない。
すなわち、昭和四六年七月二日原告から本件調停申請書の提出を受けた立川防衛施
設事務所では、右申請書を、同日付で業務課長名事務連絡表をもつて東京防衛施設
局調達協力課長に、また、同月二一日付で立川防衛施設事務所長名公文書で被告局
長あてに送付した。同月二二日右申請書の送付を受けた被告局長は、この申請書に
(1)損害賠償対象物件が判然としない(2)損害賠償額が不明である(3)損害
賠償のみを主張しているのか業務の続行を希望しているのか不明であるなどの不備
があつたので、立川防衛施設事務所長を通じ数回にわたり原告に照会したが明確な
回答は得られなかつたので、さらに立川防衛施設事務所長を通じ昭和四六年一一月
一五日原告あて「米軍との契約から生ずる紛争の調停方依頼に関する連絡につい
て」の文書をもつて右内容を明らかにするよう要求するとともに、所定の手続に従
つて調停申請書を提出するよう通知した。なお、被告局長が、契約担当官の決定の
あつたこと及び原告の訴願委員会への訴願の提起があつたことを知つたのは昭和四
六年一一月三〇日であり、右連絡文書発出の時点においては、これらの事実を了知
していなかつたものである。
したがつて、以上のとおり被告局長が調停手続を進めるための準備を行なつている
間に、前記のとおり原告の行為に起因して調停手続が終了してしまつたものであ
り、被告局長及び被告長官が原告の調停申請を違法に放置していたということはで
きないのである。
誤つた教示について
被告局長が、契約担当官の決定がなされ、その決定に対して原告が訴願委員会に訴
願をしたということを知るに至つたのは、前記のとおり昭和四六年一一月三〇日で
ある。これに対し、被告局長らが昭和四六年七月中旬ころ及び同年八月ころ契約担
当官の決定あるいは訴願の提起について原告から報告を受けた事実はないのである
から、この際に誤つた教示を行なつたとか、なすべき教示を怠つたとかいうことが
ありうるはずがない。また、被告局長は、昭和四六年一一月一五日の前記連絡文書
により調停申請書提出方を原告に対し連絡した当時、前記のとおり、決定あるいは
訴願の事実を知らなかつたのであるから、右連絡をもつて誤つた教示ということは
できないのみならず、調停手続は客観的にみれば当時すでに終了している。さら
に、昭和四六年末ころ「上訴手続が思わしくないときには、調停手続を進めるから
安心せよ」と教示した事実もない。
(二) 法律上の主張(損害賠償請求について)
(1) 原告は、国家賠償法一条に基づき被告国に対し損害賠償を求めているが、
本件は右条項により損害賠償を請求することができないものである。
なぜなら、右条項は、公権力の行使にあたる公務員の不法行為により生じた損害に
つき国に賠償の義務を課したものであるが、ここにいう「公権力の行使」とは、国
または公共団体の優越的な意思の発動たる作用を意味するものと解されるところ、
地位協定一八条一〇項に基づく調停手続は、前記二1(一)のとおりであつて、右
のような作用ということはできないものであり、これに関する被告局長らの行為を
もつて右条項にいう「公権力の行使」にあたるということはできないからである。
(2) 原告は、被告局長らの違法な不作為あるいは誤つた教示により、原告が調
停手続により合衆国より支払を受けたと思われる五七、五三二、四六二円の回収が
著しく困難となり、同額の損害を被つているものであると主張するが、原告にこの
ような損害が発生しているとはいえない。なぜなら、仮に調停手続が行なわれたと
しても、そこで作成される勧告文において原告の主張が容れられるか否かは不明で
あり、さらに前記のとおり、この勧告文は、相手方たる契約担当官に受け入れられ
なければなんらの効力も生じないものである。したがつて、このような調停手続が
不能となつたことをもつて、原告が調停手続において請求しようとしていた金額と
同額の損害が発生したとする原告の主張はまつたく失当である。また、調停手続が
不能となつても、原告は、合衆国を被告として民事訴訟により損害の賠償を求める
ことができるのであり、この点からみても原告主張のような損害が発生していると
はいえないのである。
(3) 仮に原告主張のような損害が発生し、被告国が損害賠償義務を負うに至つ
たとしても、原告の右損害賠償請求権はすでに時効により消滅しているものであ
る。
前記のとおり、調停手続は昭和四六年八月二六日に終了したものであるから、損害
の発生は同日であり、また、被告局長は、右調停手続の終了につき、同年一二月一
八日防衛施設庁担当官を通じて原告に通知している。よつて、原告は同日、損害の
発生及び加害者を知つたものといわなければならない。したがつて原告の右損害賠
償請求権は民法七二四条によりこの日から三年を経過した昭和四九年一二月一八日
時効により消滅したものであり、被告国は、昭和五一年四月二七日の本件口頭弁論
期日においてこれを援用する。
六 被告らの主張に対する原告の反論
1 法律上の主張(1)について
国家賠償法一条にいう「公権力の行使」とは、その現代的意義においては公務員性
を意味するにすぎない。優越的意思主体としての作用に限定するならば、救済の途
を狭めることになつてしまうからである。もつとも、本件で問題にしている被告局
長らの不作為は、前記のとおり同被告らの優越的地位に基づく行為に関するものと
解すべきである。
2 法律上の主張(2)について
原告主張の損害は、本件調停手続において抽象的に実現可能であつたわけであるか
ら、これをもつて損害の発生があつたと解して妨げないというべきである。
3 法律上の主張(3)について
原告が本訴で請求しているのは、債務不履行を原因とする損害賠償であるから、そ
の時効期間は五年である。
第三 証拠(省略)
○ 理由
第一 請求の趣旨1の訴の適否
一 原告は、地位協定一八条一〇項に基づく原告の調停申請に対し、被告局長及び
被告長官が総理府令所定の行為をなさないのは違法であるとして、その不作為の違
法確認を求めているものであるところ、同被告らは、地位協定の右条項に基づく調
停手続は抗告訴訟の対象たる処分あるいは裁決にあたらない旨主張するので、まず
この点から判断することとする。
1 抗告訴訟の対象となる処分とは、行政庁の処分その他公権力の行使にあたる行
為(行政事件訴訟法三条二項)をいうのであるが、当該行為が右にいう処分に該当
するといえるためには、まず第一にそれが行政庁の行為とみることができるもので
あることを要し、第二にそれが公権力の行使すなわち行政庁がその優越的な地位に
基づき権力的な意思活動として行なうような性質の行為であつて、さらに第三とし
てその行為が個人の法律上の地位ないし権利関係になんらかの影響を与えるような
性質のものでなければならないと解される。
そこでまず、調停委員会の行なう調停が、右にいう処分に該当するものといえるか
否かについて検討する。
(一) 特需契約から生ずる合衆国軍隊と特需契約請負業者との間の紛争を解決す
るための調停は、地位協定一八条一〇項により合同委員会に付託されるものである
ところ、合同委員会は、地位協定二五条によれば、日米両国政府の代表者一名ずつ
で組織され、地位協定の実施に関して必要な事項を協議するために設置された機
関、すなわち日本国政府と合衆国政府との間の協議機関であるとされている。
そしてさらに、成立に争いのない乙第二号証、証人Aの証言及び弁論の全趣旨によ
れば、日米両国政府は、一九五三年(昭和二八年)四月四日付の契約調停委員会と
その調停手続に関する覚書(以下「調停手続覚書」という)に基づき合同委員会に
おいて合意に達し、合同委員会は前記の調停を行なうための分科機関として調停委
員会を設置し、これに合同委員会の権限を行なわせることとし、調停委員会の組
織、権限あるいは調停手続等の細目を定めたこと、それによれば、調停委員会は、
日米両国政府によつてそれぞれ任命される各四名ずつの委員によつて構成され、特
需契約から生ずる紛争に関する事項について、契約当事者の一方からの申請により
当事者間の調停を実施する権能を有するが、その調停手続は当事者双方の友誼的な
合意により前記の紛争を解決するための手段であつて、調停委員会の作成した当事
者に対する勧告も、当事者双方が受諾しなければ効力を有せず、したがつて調停が
成立した場合であつても、その効力は当事者の合意のみに根拠をおくものであると
されていること、右の調停手続覚書は、地位協定発効前である「日本国とアメリカ
合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定」一八条七項に関するものであ
るが、同条項は地位協定一八条一〇項と同趣旨の規定であつて、「日本国とアメリ
カ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約」及び地位協定の発効にともない、地
位協定一八条一〇項に関する日米両国政府の合意としてその効力がひきつがれてい
ること、したがつて、地位協定の右条項による調停は、右の調停手続覚書の規定す
るところによつて調停委員会において現実に運営されていることが認められ、この
認定に反する証拠はない。
なお、総理府令は、地位協定一八条一〇項の規定を国内法令に実現するための執行
命令として、日米両国政府の前記の合意内容の一部について国内法令の形式におい
て規定しているが、これによつても調停委員会は、合同委員会の分科機関として調
停に関しその権限を行使するものであることが規定上明らかである。
(二) そうとすれば、調停委員会は、合同委員会の権限の一部を行なう機関であ
り、したがつて二国間条約である地位協定二五条、一八条一〇項を根拠に設置され
た日米両国政府の協議機関としての組織及び権能を有するものとして理解されるべ
きことは明らかであつて、国または地方公共団体の公権力を行使するわが国の行政
組織法上の行政機関と解する余地はなく、したがつてこれが行政事件訴訟法にいう
行政庁に該当しないことは極めて当然である。
のみならず、調停委員会による調停は、前記のように契約当事者間に合意を成立さ
せるための手段であり、調停委員会の最終的な意思決定ともいうべき当事者に対す
る勧告も、当事者の合意としての効力を有するにすぎないと解される以上、調停委
員会の行なう調停行為それ自体は、行政庁の優越的な地位に基づく権力的な意思活
動ということはできす、また個人の法律上の地位ないし権利関係に影響を及ぼすも
のということもできないのであつて、いずれにしても抗告訴訟の対象たる処分その
他の公権力の行使には該当しないものといわなければならない。
2 以上によれば、調停委員会の行なう調停それ自体は、行政庁の処分と解する余
地がなく、したがつてこれを抗告訴訟の対象とすることは許されないというべきで
あるが、しかしそうであるからといつて、ただちに右の調停に関してなされる被告
局長及び被告長官の総理府令所定の行為も同様に抗告訴訟の対象たる処分に該当し
ないということはできないのであつて、この点についてはさらに別個に検討すべき
必要があるといわなければならない。その理由は、次のとおりである。
すなわち本件に即して調停申請に関する手続に限つていえば、総理府令一二条によ
れば、被告局長は、特需契約請負業者からの調停申請書を受理し、これを被告長官
に送付するとともに、その内容を審査し、必要に応じ実情を調査し、意見を被告長
官に具申すべきことが、また同令一三条によれば、被告長官は、被告局長から送付
された調停申請書を受理して審査し、必要があるときは現地調査を行なつて、これ
に調停案を付して調停委員会に提出すべきことが、それぞれ定められている。そし
て同令六条に、調停申請書が防衛施設局に受理されたときに、合同委員会に対する
調停の付託としての効力が生ずるものと規定されていることなどからも明らかなよ
うに、被告局長らの右の行為が調停委員会の調停手続の一部を構成するものである
ことは否定しえないのではあるが、しかし他方、被告局長らの行為は、調停委員会
が行なう調停行為それ自体ではなく、その準備的な手続ともいうべき申請を受理し
これを調停委員会に進達するまでの行為であつて、しかも、調停委員会自身はこれ
に直接には関与しておらず、被告局長らがわが国の国内法令たる総理府令に基づき
その独自の権限と責任においてなす行為といえるものである。したがつてそうであ
るならば、調停委員会の行なう調停行為それ自体とは観念的に区別して、被告局長
らの総理府令所定の行為を別個に評価し、その処分性について判断することは十分
に可能であり、かつ理由があるものということができるからである。
しかも、前記のように調停委員会の調停行為それ自体は、抗告訴訟の対象たる行政
庁の処分には該当しないものであり、また外国国家たる合衆国あるいはその機関を
相当方とする訴訟にわが国の裁判権が通常及ばないことは、確立した国際慣例に照
らして明らかである以上、特需契約をめぐる合衆国軍隊との紛争、あるいはこれに
ついて調停委員会の行なう調停に関連する諸手続のうち、わが国の司法裁判所の審
査に服する可能性が残るのは、被告局長らの総理府令所定の行為を対象とする行政
訴訟のみであることにかんがみても、右のように被告局長らの行為を調停委員会の
行なう調停行為とは区別して、その処分性の有無を考えることは実質的な意義があ
るということができるのである。
3 そこですすんで被告局長らの総理府令所定の前記2の行為が、抗告訴訟の対象
たる処分に該当するか否かについて検討する。
まず、被告局長及び被告長官がわが国の行政組織法上の行政機関としての行政庁で
あることは明らかであり、特需契約請負業者の調停申請を受理し、これを調停委員
会に進達するまでの総理府令所定の行為が、調停委員会の行なう調停行為とは区別
して、わが国の行政庁の行為と評価しうるものであることも、前記説示のとおりで
ある。
そこで、被告局長らの右行為が公権力の行使といえるものであり、また個人の法律
上の地位ないし権利関係に影響を与えるようなものであるか否かについて検討す
る。
まず、被告局長らの行為が、その権限の根拠を国内法令たる総理府令におく公法上
の行為であることは明らかである。そしてそのうち被告局長の行なう調停申請書の
受理と被告長官の行なう調停申請書の調停委員会への提出という形式的手続行為に
限つていえば、そこには特需契約請負業者の調停申請を受理し、調停委員会の調停
を開始させるためにこれを調停委員会に係属させるという被告局長らの外部に対す
る公権的な意思決定が存在するのであつて、しかも被告局長らは、総理府令によつ
て認められた調停申請の受理及び調停委員会への進達を行なう唯一の機関として、
右行為を行なうものであるから、これを行政庁の優越的な地位に基づく意思的活動
すなわち公権力の行使に該当するものと解して妨げないというべきである。そして
また、被告局長らの右形式的手続行為によつて調停委員会の調停行為が開始される
か否かということは、わが国の特需契約請負業者の有する調停による紛争解決を期
待できる地位、あるいは地位協定一八条一〇項に基づく調停制度を利用する法的権
利に影響を及ぼすものであることは明白である。
したがつて、以上によれば被告局長らの右行為は、いずれも抗告訴訟の対象たる処
分としての前記要件を満たしていると解すべきものといわなければならない。
なお、調停委員会の行なう調停それ自体は、個人の法律上の地位ないし権利関係に
なんらの影響を及ぼさないものであることは前示のとおりであり、また特需契約請
負業者が調停によつて必ずしも紛争を有利に解決できるとは限らないことは、制度
の趣旨から当然である(したがつて被告局長らの総理府令所定の前記2の行為のう
ち、前示形式的手続行為以外の意見の具申あるいは調停案の作成という調停の内容
にわたる実体的行為は、結局のところ調停委員会の行なう調停行為と一体となりこ
れに吸収されるものとして、また実情調査等は、その前提となる事実上の行為にす
ぎないのであつて、いずれにしても個人の法律上の地位に影響を及ぼさないから、
これを抗告訴訟の対象たる処分ということはできない。)。しかし、特需契約請負
業者の有する調停による紛争解決を期待する地位あるいは調停制度を利用する権利
は、二国間条約たる地位協定によつて、この調停制度をもうけ、特需契約請負業者
にこれを利用することが認められたものであり、これを受けて総理府令に被告局長
らの前示の行為が規定されているものである以上、単なる事実上の利害関係にとど
まらず、前示のように法律上の地位ないしは権利関係と解すべきであるといわなけ
ればならない。
また、被告局長らの行為が、窮極的には調停委員会の授権に基づきその権限の一部
を行使するものであることは、前掲乙第二号証(調停手続覚書)と総理府令の規定
内容の対比からも明らかであるが、前記2で説示したように右行為が調停委員会の
行なう調停行為それ自体とは区別すべき側面を有するものと解される以上、その側
面に着目する限り、これをわが国の公権力の行使であるとする前記結論になんら不
都合はないというべきである。さらに、本件のような不作為の違法確認の訴の対象
たる処分あるいは裁決は、法令に基づく申請に対応するものをいうのであるが、本
件において調停申請に対応するのは、直接には調停委員会の行なう調停ないしは勧
告であつて、被告局長らの行為はその準備的手続であり申請に対応するものとはい
えないのではないかとの疑問も考えられる。しかし、前示のとおり調停委員会の調
停行為自体は抗告訴訟の対象とならない以上、その準備的段階としての被告局長ら
の行為を、調停行為に準ずるものとして、また特需契約請負業者が調停を利用する
権利の行使という意味においての調停申請に対応した独立した別個の処分として解
することは許されるというべきである。
4 以上のように、地位協定一八条一〇項に基づく調停申請に関し被告局長らの行
なう調停委員会による調停行為を開始させるための前示の形式的手続行為、すなわ
ち被告局長の行なう調停申請書の受理と被告長官の行なう調停申請書の調停委員会
への提出は、いずれも抗告訴訟の対象たる処分にあたると解すべきであるところ、
被告局長らは総理府令所定の同被告らの行為は行政機関内部の行為であつて、これ
につき不作為の違法確認を求めることはできないと主張する。そして、なるほど右
の行為のうち被告局長のなす調停申請書の被告長官への送付、意見の具申、あるい
は被告長官のなす送付された調停申請書の受理等の行為は、いずれも行政機関内部
の行為であつて、これらによつて個人の権利義務に直接の影響を及ぼすことは考え
られないから、原告としては最終的な処分を争えば足り、これを独立して抗告訴訟
の対象とすることはできないと解せられる。しかし、その余の行為のうち、前示の
被告局長の調停申請書の受理と被告長官のこれを調停委員会に提出する行為は、い
ずれも前示のとおり調停委員会の調停を開始させるという被告局長らの公権的な意
思決定が外部に表示された独立の行為というべきであつて、これを行政機関内部の
行為ということはできない。のみならず、仮にこれを行政機関内部の行為と解する
余地があるとしても、右行為によつて調停申請をした特需契約請負業者の調停手続
を利用できるという法的な利益に影響が及ぶことは前示のとおりであつて、これを
抗告訴訟の対象たる処分と解する妨げとはならないといわなければならない。
被告局長らの主張は、いずれにしても失当である。
二 次に、被告局長らは、原告の申請にかかる調停は、原告が契約担当官の決定に
対し訴願をした後総理府令八条二項所定の手続をとらなかつたことにより、既に終
了しているものであつて、原告には被告局長らの不作為についてその違法確認を求
める利益がないと主張するので、以下この点について検討することとする。
1 特需契約をめぐる紛争の処理手続については、一般の民事訴訟は別として、地
位協定に基づく調停委員会の調停制度のほかに、合衆国軍隊を代表する契約担当官
の決定とこれに対する訴願委員会の裁決の制度があることは、総理府令の規定自体
からも明らかであるが、成立に争いのない乙第六号証、証人Aの証言と弁論の全趣
旨を総合すれば、訴願委員会は、合衆国の国防省憲章に基づいて国防省に設置さ
れ、合衆国政府の法務官の中から任命された委員によつて構成される合衆国の行政
救済機関であつて、特需契約をめぐる紛争についての契約担当官の決定とこれに対
する訴願委員会の裁決は、合衆国の行政救済制度たる手続であること、わが国にお
いて特需契約請負業者が合衆国軍隊と締結するすべての特需契約については、右の
訴願制度による紛争処理の規定が一般条項として挿入されていること、右条項によ
れば、特需契約をめぐつて紛争を生じた場合、特需契約請負業者は、契約担当官に
異議申立をしてその決定を受け、さらにこれに不服がある場合には、右決定の受領
の日から三〇日以内に訴願委員会に訴願を提起し、その裁決を求めることができる
旨が定められていることが認められる。そして、原告が締結した特需契約に右の一
般条項が規定されていたことは、当事者間に争いがない。
2 ところで、総理府令四条、五条、八条には、地位協定に基づく調停手続と訴願
委員会による訴願手続との関係を規律する規定がおかれているところ、その立法趣
旨は、次のようなものと解される。
すなわち、調停手続は、二国間条約たる地位協定に基づく日米両国政府の協議機関
によつて行なわれる前示一1のような性質を有する紛争処理の制度であり、また訴
願手続は、前示のように合衆国国有の行政救済制度であつて、両者はその本来の趣
旨を異にする別個の制度ということができるのであるが、他方いずれも特需契約請
負業者と合衆国軍隊との間で生じた特需契約をめぐる紛争を解決するということに
おいては、共通の目的を有するものであつて、両手続をまつたく別個独立に同時進
行させることは、一方の手続で当事者間の紛争が解決されるに至るのであれば他方
は無益であり、また両手続によつて異なつた解決がなされたとすれば、その間の調
整をめぐつてかえつて紛争を生じさせることも予想され、この意味ではむしろ有害
ともいえるのである。そこで、後記の合同委員会における日米両国政府の合意に基
づき両手続の進行についての関係を規律し、その無用の重複や混乱を避けるため規
定されたのが総理府令の前記条項であると考えられ、以上が右立法趣旨と解され
る。
3 右の観点に立つて総理府令八条の規定をみると、一項によれば、特需契約請負
業者は、調停申請を行なつた後契約担当官の決定があつた場合には、調停の続行を
希望するか否かの意思表示をしなければならないと定められ、二項には、調停の続
行を求めるときの手続について、三項には、続行を求めないときの手続について、
それぞれ定められているのであるが、この場合において、特需契約請負業者が調停
手続の続行を求めるには二項所定の手続をしなければならないことは当然であり、
この手続がとられない限り、調停手続は、続行することができなくなり終了するも
のと解すべきである。
すなわちこれを敷行すれば、調停申請がなされ調停手続が開始した後に契約担当官
の決定があつた場合、特需契約請負業者は、この決定に服して紛争が解決したと
き、あるいはこれに不服であつてもその上級の行政救済手続たる訴願委員会に対す
る訴願のみによつて解決を欲するときは、もはや調停手続を続行させる意思がない
のであるから、調停不続行の意思表示をさせることによつて調停手続を終了させ
(八条三項)、逆に調停による解決を希望するときは、契約担当官の決定について
の訴願を提起した後、訴願審査の一時停止を得たうえで調停続行の意思表示をさせ
ることによつて、まずとりあえず調停手続のみを進行させる(八条二項)ことを規
定している。したがつて、右規定によれば、以上の場合において調停手続が続行さ
れるのは、契約担当官の決定に対する訴願が係属し、しかもその手続が停止してい
るとき(すなわち八条二項の諸手続がとられた場合)のみに限られるのであつて、
それ以外の場合は、すべて契約担当官の決定あるいはこれに対する訴願によつて紛
争を解決すべきものとして、調停手続は終了するものというべきである。そして、
このことは同条の規定の前記立法趣旨に加え、(1)前掲乙第二号証、成立に争い
のない乙第三号証及び弁論の全趣旨により、調停手続は、特需契約の一般条項に基
づく特需契約請負業者の権利(契約担当官に対する異議申立とその決定についての
訴願委員会に対する訴願をいうものと解される。)を妨げず、またこれを失わない
ための手続を踏む必要性を免除するものではなく、また訴願委員会の裁決がなされ
た後はもはや調停申請ができないとの合意が、合同委員会において日米両国政府間
になされていることが認められること、(2)また、契約担当官は自己の決定を審
査する権限を有する訴願委員会の裁決に拘束されうること、(3)さらに契約担当
官の決定がなされた後に調停申請することは、総理府令八条二項とほぼ同様の手続
による場合を除いて許されないと規定する同令四条、五条との均衡からいつても、
右のように解すべきものといわなければならない。
4 原告は、合衆国の機関である訴願委員会の一方的都合による訴願審査の一時停
止手続の続行をかからしめることは許されないと主張する。
しかし、調停委員会による調停制度は、二国間条約による地位協定に基づくもので
あること前示のとおりであるところ、これを実施するための細目を定めた前掲乙第
二号証(調停手続覚書)からも明らかなように、総理府令の右の点に関する規定
は、合同委員会における日米両国政府の合意内容に基づいて制定されたものであ
り、その立法内容の当否はともかく、右規定が条約たる地位協定の条項に牴触する
違法な規定ということができないことが明らかというべきであつて、原告の主張は
失当というほかない。
さらに原告は、総理府令八条三項の調停不続行の意思表示がなされないときは、調
停手続は終了しないと主張する。
しかし、右規定は、前示のように特需契約請負業者が契約担当官の決定に服する
か、あるいは不服があつてもこれに対する訴願手続によつてのみ解決を欲する場合
に、決定書受理の日から三〇日以内に調停手続を終了させるための不続行の意思表
示をすべきことを定めたものであるところ、右の期間の意味するところは、特需契
約の一般条項において訴願委員会に対する訴願の提起は前示のように決定書受理の
日から三〇日以内になすべきものとされていることにより、右のように調停続行を
希望せず総理府令八条二項の手続をとらない場合は、通常は遅くとも訴願を提起す
る右期間内には不続行の意思表示ができることになるから、右期間と同じ三〇日を
不続行の意意思表示をすべき期間としたものと解される。したがつてこの場合は、
調停続行を希望する場合の諸手続(総理府令八条二項)に要する期間より早期に右
の不続行の意思表示がなされることが期待でき、法律関係をよりすみやかに確定さ
せることができるものである。総理府令八条三項は、以上の趣旨及び日的を有する
規定にすぎないのであつて、それ以上に原告主張のように右期間内に不続行の意思
表示がなされなかつたことから、ただちに調停手続が終了しないという効果を認め
る根拠となる規定ではないというべきである。
換言すれば、総理府令八条三項による調停不続行の意思表示がなされなかつた場合
であつても、同条二項所定の諸手続、すなわち訴願委員会に対する訴願、所定の期
間内の訴願審査の一時停止の申請とその許可、さらには調停続行の意思表示のいず
れかを欠く場合には、右のいずれかの手続の欠缺が確定したときに調停手続は終了
するのであつて、原告の主張は失当といわざるをえない。
5 以上を本件についてみるに、原告が締結した特需契約をめぐる紛争について、
昭和四六年七月二日地位協定一八条一〇項に基づく調停申請書(同年六月三〇日
付)を被告局長に提出したこと、右紛争に関して同年七月一六日契約担当官の決定
がなされ、同日原告に送達されたこと、原告は同年八月一一日これに対する訴願を
訴願委員会に提起したことは、いずれも当事者間に争いがなく、また原告が契約担
当官の決定書が送達された後、これに対する訴願の提起のほかには総理府令八条二
項所定の手続をなんらとらなかつたことは、原告の自認するところである。したが
つて、原告の右申請にかかる調停手続(被告局長が原告の調停申請を受理したこと
は、弁論の全趣旨により明らかである。)は、原告が訴願委員会に対する訴願の提
起がなされた日から一五日以内に訴願審査の一時停止を求めなかつたことにより、
右期間である昭和四六年八月二六日の経過によつて終了したものというべく、そう
とすれば、右調停手続に関し被告局長及び被告長官の不作為はいずれにしてももは
や存在しないから、その違法確認を求める原告の訴は、その目的を失い訴の利益を
欠くものといわなければならない。
なお原告は、原告が調停を続行させるための所定の手続をとらなかつたのは、被告
局長らの誤つた教示等に起因するのであるから、被告局長らが調停手続の終了を主
張することは許されないと主張する。
原告の右主張が本件においていかなる意味をもつのかは必ずしも明確とはいえず、
また右主張のように解すべき根拠は見出せないのであるが、仮にこれを公法上の信
義則違反の主張と解するとしても、前示のように原告の申請にかかる調停手続が終
了していることは法的に客観的な事実である以上、原告主張の事実をもつてしても
被告局長らが前記の主張をなすことが信義則あるいは正義に反するということはで
きないのであつて、原告の主張は採用することができない。
三 以上によれば、原告の被告局長及び被告長官の不作為の違法確認を求める請求
の趣旨1の訴は、訴の利益を欠く不適法なものであるから、これを却下すべきであ
るといわなければならない。
第二 請求の趣旨2の訴の適否
一 原告は、原告の第二次調停申請に対し被告局長が受理拒否処分をしたとして、
その取消を求めているところ、成立に争いのない甲第七号証と弁護の全趣旨によれ
ば、原告が主張するところの受理拒否処分とは、「圭自動車販売株式会社にかかる
「調停手続続行等要求通知書」について(回答)」と題する被告局長名義の書面
(甲第七号証)による通知をさすものであることは明らかである。そして、右甲第
七号証、いずれも成立に争いのない甲第一ないし第六号証と弁論の全趣旨によれ
ば、原告の第二次調停申請にかかる昭和四八年九月七日付の調停申立書は、結局の
ところ昭和四六年六月三〇日付の前示の第一次調停申請と同一の紛争に関するもの
で、原告の主張をさらに具体的詳細に論じたものにすぎないのであつて、第一次調
停申請の補完をなす書面として理解できるものであつたこと、右書面が提出された
昭和四八年九月七日当時は、第一次調停申請にかかる調停手続は前示のとおり既に
終了していることが明らかであり、また原告の訴願に対する訴願委員会の裁決もな
されていた(右裁決が昭和四八年三月二一日になされ、同年四月三日原告に裁決書
が交付されたことは、当事者間に争いがない。)ことにより、この調停手続を続行
する余地はまつたくなかつたこと、ところが原告代理人から被告局長らに対し、昭
和四八年九月二七日以降調停手続の続行を要求する書面が送付されてきたので、被
告局長は、昭和四八年一〇月一一日付の前記の書面によつて原告に対し右要求には
応じられない旨回答するとともに、前記の昭和四八年九月七日付の調停申請書を返
送したことが認められ、この認定に反する証拠はない。
右認定事実によれば、被告局長のした右回答は、法律上の根拠を有しない単なる事
務上の連絡というべき調停手続が既に終了している旨の事実の通知にすぎないので
あつて、これによつてなんら法律上の効果を生ずるものではないから、これを抗告
訴訟の対象たる処分と解することはできないというべきである。
もつとも前掲甲第一ないし第三号証によれば、原告は被告局長が右回答をなす前
に、第一次調停申請にかかる調停手続の続行ができないときは、前記の昭和四八年
九月七日付書面による第二次調停申請を受理すべきことを被告局長らに対し求めて
いたことが認められるけれども、前認定のように右書面は第一次調停申請の補完を
なす書面と理解されるべきものであるから、被告局長が原告の右要求に直接答える
ことなく前記のような回答をなしたことは違法とはいえず、したがつて右回答が処
分にあたらないとする前記結論にかわりはないものといわなければならない(付言
するに、仮に被告局長が原告に対し第二次申請にかかる調停申立書を返戻した行為
をとらえ、これを申請の受理拒否処分と解したとしても、前記認定事実と総理府令
四条、五条の規定に照らせば、右申請が不適法であることが明らかであつて、その
受理拒否処分の取消を求める原告の請求は理由がないことも明白というべきであ
る。)。
なお、原告は、調停申請の時期を制限する総理府令四条は、省令段階の法規で調停
申請権を奪うものであつて、有効な規定ではなく、少なくとも本件については適用
すべきでないと主張する。
しかし、総理府令は、地位協定一八条一〇項の規定を国内法令の形で実現するため
のその執行命令であることは前示のとおりであつて、総理府令四条、五条の規定が
執行命令としての範囲を逸脱し、または条約たる地位協定の条項に牴触するもので
ないことは明らかであり、しかも前掲乙第三号証と弁論の全趣旨によれば、右規定
内容については合同委員会において日米両国政府の合意がなされていることも認め
られ、これを違法と解する余地はないといわなければならない。そしてまた本件に
おいて右規定の適用が排除されるべきとする合理的な法的根拠は、原告主張の事実
によつてもこれを認めることができず、原告の主張はすべて失当というほかない。
二 以上によれば、原告の被告局長に対する請求の趣旨2の訴は、取消の対象たる
処分を欠く不適法な訴であつて、結局却下を免れないといわなければならない。
第三 請求の趣旨3の請求の適否
一 原告は、まず原告の調停申請にかかる調停手続が係属していることを前提に、
被告局長らの違法な不作為(請求原因4)によつて、原告の損害賠償請求権の実現
が不可能となつていると主張するが、右調停手続が昭和四六年八月二六日の経過に
より終了したものであることは前示のとおりであつて、被告局長らの不作為はもは
や存在する余地がなく、右主張が失当であることは明らかである。のみならず、右
調停手続が終了するに至つた経緯は、後記のとおりであつて、そこにはなんら被告
局長らの違法な不作為はないといわなければならない。
二 次に、原告は、被告局長らの誤つた教示等が原因となつて調停手続が終了し、
その結果損害賠償債権の回収ができなくなつたと主張する。
1 そこで判断するに、前示争いのない事実、前掲乙第六号証、成立に争いのない
甲第八号証、証人Bの証言により真正に成立したと認められる乙第五号証と同証
言、並びに原告代表者尋問の結果(後記措信しない部分を除く。)を総合すると次
の事実が認められる。
原告(当時の代表者C)は合衆国軍隊と締結した特需契約を昭和四六年四月二一日
付で解約され、これに不満であつたため、その解決を求め関係省庁に間合わせた結
果、東京防衛施設局の立川防衛施設事務所を教えられ、同年六月一日同事務所を訪
れて紛争の経過等についての説明をした。そして、同事務所において、業務第二係
長Bらから地位協定に基づく調停制度があることを教示され、これによる紛争解決
を求めて調停申請を行なうこととしたが、その際B係長は、右の調停制度が発足し
た当時の説明会に出席したことはあるものの、実際の調停手続に関与した経験がな
かつたので、総理府令の規定を原告に見せながら調停申請の手続を口頭で説明し
た。原告は、その後も電話によりB係長の指示を受け、昭和四六年六月三〇日付調
停申請書を作成し、同年七月二日にこれを立川事務所に持参し、英文の特需契約書
等の資料とともにB係長に提出した。B係長は、右書類を受理した後これを東京防
衛施設局に送付した。他方、原告は、これに先立つ同年五月一二日、契約の一般条
項に基づき契約担当官に対する異議申立を行ない、これに対し同年七月一六日契約
担当官の決定がなされ、同日原告に送達された。原告は、同年八月一一日右決定に
対しさらに契約の一般条項に基づき訴願委員会に訴願を提起した。この間原告は、
立川事務所と電話連絡をとつたこともあり、また同年七月及び八月の各下旬には立
川事務所を訪れたこともあるのであるが、それらの際は調停手続の進行を問合わせ
たり、調停手続とは直接には関係なく合衆国軍隊との間で生じた問題について相談
することが主な用件であつて、契約担当官の決定とこれに対する訴願の提起の事実
は、明確にそれとわかるような表現内容でB係長らに伝えなかつたため、同人らは
右事実を知るには至らなかつた。その後、原告の前記調停申請書に不備があつたた
め、B係長は、東京防衛施設局からの指示に基づき、同年一一月一五日付の書面に
より原告に対し申請書を提出し直すよう指示をしたが、同月三〇日になつて原告の
締結した特需契約については既に契約担当官の決定があり、これに対して訴願が提
起されていることを知り、またさらにその後しばらくして原告が訴願提起をした日
付や、訴願審査の一時停止についての申請がなされていない事実を東京防衛施設局
からの連絡により知るに至つて、もはや原告の申請にかかる調停手続は終了し、続
行の余地がなくなつていると判断した。なお、以上の期間を通して、B係長らが原
告に対し調停手続と訴願手続との関連についての総理府令の規定を説明し、とりた
てて原告の注意を喚起させるようなことはしなかつた。
以上の事実が認められるところ、原告は、契約担当官の決定とこれに対する訴願の
提起の際には、その事実を被告局長ら(実際に折衝にあたつた立川事務所のB係長
をいうものと解される。)に通知した旨主張し、原告代表者の供述には右主張に沿
う部分もあるが、右供述によつても、原告が契約担当官の決定があつた事実をB係
長に伝えたとの内容はかなり曖昧であることが窺われ、B係長の理解するところで
なかつたと解されることのほか、証入Bの証言に照らしても、右認定事実以上のこ
とを認めることはできず、したがつて、右認定に反する原告代表者の供述は措信で
きないし、他に右認定を覆するに足る証拠はない。
なお原告は、被告局長らは総理府令の規定が存在することをまつたく知らず、その
ため原告に対する適切な指示がなされなかつたと主張するが、B係長が調停手続に
ついての実際の経験がなかつたことは前認定のとおりであり、また右各証拠によれ
ば同係長は細かな調停の手続、とりわけ訴願手続との関係について十分な理解を有
しないまま原告と折衝にあたつていることが窺われるとしても、前掲甲第八号証に
よれば、同係長の指示によつて原告が作成した調停申請書は、総理府令別記の書式
にその文言及び形式が細部までほぼ符合していることが認められるから、同係長が
総理府令の規定をまつたく知らなかつたとは到底認められないところといわなけれ
ばならない。
2 原告の申請にかかる調停手続は、前示のとおり昭和四六年八月二六日の経過に
より終了したものであるところ、原告は、調停手続が終了した原因と責任は、被告
局長らの誤つた教示等にある旨主張する。
しかし、前記認定事実によれば、調停手続が終了したのと一応因果関係があるとも
考えられる被告局長ら(実際に折衝にあたつた立川事務所のB係長ら)の行為は、
契約担当官の決定とこれに対する原告の訴願提起に際して、総理府令八条二項の規
定をなんら説明教示しなかつたことが認められるのみであつて、この事実以上にそ
の際誤つた教示がなされたという事実は、本件全証拠上これを認めることはできな
い。なお、原告主張の事実のうち請求原因6(二)(3)の事実は、原告代表者の
供述中には一部右主張事実に沿うかのような部分もあるが、右供述は前記認定事実
に照らして措信するに足りないのみならず、仮に右事実が認められるとしても、そ
れはいずれも既に調停手続が終了した後のことであることが明らかであつて、調停
手続の終了とは因果関係が存しないといわなければならない。
そこで、B係長らが右の教示をしなかつたことが違法であるか否かについて検討す
るに、元来右のような教示をなすべき義務が同係長らに法令上の義務として課せら
れているとする根拠は存しないことに加え、前記認定事実によれば、同係長らは、
調停手続が終了した後である昭和四六年一一月三〇日に至るまで契約担当官の決定
とこれに対する訴願提起の事実を知らなかつたのであるから、具体的に教示をなさ
なかつたことをもつて、違法な義務懈怠とまでは解することはできないといわなけ
ればならない。もつとも、訴願手続については総理府令の規定からも制度として当
然予想されるところであるから、B係長らとしても、原告に対し訴願制度について
説明し、あるいは釈明するなどして、その進行状況を把握し適切な指示をすること
は、国民に奉仕すべき公務員として当然望まれるべき態度であり、しかも法律知識
に疎い原告としては、そのような行為を当然期待しているのであるから、同係長ら
がそのようにしなかつたことは、いささか不親切の謗りを免れないといえるところ
である。しかし、そうであるからといつて、これが違法とまでは解せないことは前
示のとおりであり、その違法を前提とする原告の主張は、結局失当というほかはな
い。
以上によれば、本件においては調停手続が終了したことについての不利益と責任
は、帰すところまことにやむをえないこととはいえ原告の法の不知にあるといわざ
るをえず、被告局長らの責任を追求し、被告国に対して損害賠償を求めることはで
きないものといわなければならない。
三 したがつて、被告局長らの違法な職務の執行を理由に被告国に対して国家賠償
を求める原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないことが
明らかであつて、これを棄却すべきものである。
第四 結語
以上の次第であつて、原告の被告局長及び被告長官に対する訴は、いずれも不適法
であるからこれを却下し、被告国に対する請求は、理由がないからこれを棄却する
こととし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用し
て、主文のとおり判決する。
(裁判官 内藤正久 山下 薫 三輪和雄)
(別紙)
一 ガレージ役務契約の締結
原告は、昭和三八年設立以来、東京都府中市と青森県三沢市に営業所をもち、小規
模ながら順調に営業を続けていたものであるが、合衆国軍隊の契約担当官から、在
日米軍基地である府中、横田、立川の三基地内において軍隊構成員等の使用する自
動車の修理、部品交換等を行なうガレージ役務契約締結の誘いをうけ、昭和四五年
三月三一日、同国との間で右契約(以下「本件契約」という。)を締結した。原告
は、本件契約に従い同年六月一日の開業に備え、営業規模を相当大巾に拡大する必
要から、従業員の確保や物的設備の補充のため借入金により多額の投資を行なつ
た。原告が右のように多額の投資によつて営業規模を大巾に拡大したのは、本件契
約にあたつて合衆国軍隊の契約担当官から示された契約案によれば三基地合計で一
か月あたり二三、〇〇〇ドルの売上を見積ることができることと、契約期間は一応
二年であるが、更新が認められ少なくとも五年間は継続されることが約されてお
り、したがつて五年間営業を継続すれば順当な利益をあげ、従業員の退職金を考慮
しても採算がとれるものと判断したためである。
ところが、原告は本件契約締結の後になつて、合衆国が原告と右契約を締結した目
的が、それまで同国が直接雇用していた基地労働者を解雇し、ガレージ業務をいわ
ゆる間接雇用の形で行なうこととこれに反対する基地労働者のストライキに対抗す
ることにあると知り、原告がいわゆるスト破りの役割を演ずることになる事態に当
惑し、しかも右契約に反して合衆国側が原告の基地労働者雇用の確保に協力しなか
つたことにより多くの困難な障害に逢着したのであるが、そうであるからといつ
て、すでに多額の投資をした以上撤退することもできず、右契約どおり同年六月一
日から三基地内における営業を開始した。
二 合衆国の契約違反
契約担当官は、前記のとおり本件契約締結にあたり、原告に対し基地労働者との間
に生じていた紛争を不当にも秘したほか、原告が右契約の履行をなすに際しても次
のような違法な受領拒否等の契約違反を行なつた。
なお、原告が営業していた前記三基地のうち府中基地については、原告は、合衆国
側から強い申入れにより昭和四五年一〇月二四日本件契約を放棄するに至つた。
1 原告がガレージ業務の営業に際して使用する必要な工具、備品は、すべて合衆
国から貸与される約束であつたにもかかわらず、貸与された工具等は損傷品がほと
んどであり、しかも必要なものを欠く状態であつて、原告はやむをえず自費でこれ
を買入れて補充しなければならなかつた。
2 本件契約において示された売上の見積額は、前記のとおり一か月あたり三基地
合計二三、〇〇〇ドルであつたが、事実は、合衆国軍隊に兵員削減計画が実施され
た(この事実は原告に知らされなかつた。)ことなどのため、右見積額の半分にも
満たないものであり、原告の見通しと大巾に相違するものであつた。
3 さらに合衆国側は原告の人事にも干渉し、立川基地ガレージのマネージヤーを
その担当から更迭するよう要求したり、あるいは原告の従業員らの基地通行証を没
収するなどして原告の営業を妨害したほか、原告の本件契約に基づく履行を妨げる
ような陰謀をめぐらしたことさえあつた。
三 合衆国からの契約終了通知
本件契約には三〇日の予告期間をもつてする双方当事者の解約の条項があつたが、
合衆国は、昭和四六年四月二一日、右条項に基づき原告に対し契約終了の通知をな
したので、原告は、やむなく不服を留保したまま同年五月二三日横田、立川両基地
における事業を撤収した。しかし、当時原告は、合衆国側の前記のような営業妨害
等にもかかわらず、良好な役務を提供するとともに営業の成績をあげ、ようやく一
月あたりの収支において黒字を計上できるようになつたものの、すでに投下した多
額の資本は当然未回収のままであつた。
四 原告の被つた損害
1 合衆国の債務不履行と原告の損害
(一) 合衆国には前記二のような契約違反があつたほか、本件契約は前記一のと
おり昭和四五年三月三一日から昭和五〇年三月三一日までの五年間にわたつて更新
継続されるべきものであつて、合衆国が前記のとおり一方的にこれを終了させ、原
告に営業を継続させなかつたことは、同国の債務不履行というべきである。
(二) 原告は、合衆国の右の債務不履行により、次のとおりの逸失利益相当額一
一一、二五六・七八ドルの損害を被つた。
すなわち、原告が横田、立川両基地における事業を撤収する直前である昭和四六年
二月ないし四月における両基地の一か月あたりの平均純収益は、両基地合計で二、
七六二・二五ドルであり、したがつて一年あたりでは三三、一四七ドルとなる。そ
して原告は、本件契約上前記のとおり事業徹収の日の翌日である昭和四六年五月二
四日から昭和五〇年三月三一日までその営業を継続できる権利があつたものである
から、昭和四六年五月二四日の時点における右期間の原告の逸失利益を計算する
と、左記合計一一一、二五六・七八ドルとなる。
(イ) 昭和四六年五月二四日から昭和四七年三月三一日までの期間(年六分の割
合により期間一〇月を一年として中間利息控除)
二、七六二・二五ドル×一〇・三×〇・九四三三=二六、八三八ドル
(ドル/月)     (月数)  (一年分ホフマン)
(ロ) 昭和四七年四月一日から昭和五〇年三月三一日までの期間(年六分の割合
で期間三年一〇月を四年として中間利息控除)
三三、一四七ドル×(三・四九〇一-〇・九四三三)=八四、四一八・七八ドル
(ドル/年)    (四年分ホフマン) (一年分ホフマン)  (合計)
二六、八三八ドル+八四、四一八・七八ドル=一一一、二五六・七八ドル
2 合衆国の責任保険契約締結義務違反と原告の損害
(一) 本件契約には、その内容の一部として、原告のガレージ業務から生じる原
告の従業員あるいは第三者に対する一切の損害賠償義務についての責任保険(標準
ガレージ責任保険)を、合衆国が原告に代わつて締結する旨の約定が成立してお
り、原告は右約定に従つて同国に保険料を支払つていた。
しかるに合衆国は、右約定に反し右責任保険契約を締結しなかつたものであり、こ
れは本件契約の義務不履行にあたるものである。
(二) 原告は、合衆国の右債務不履行により、次のとおり七、八九一、二八〇円
の損害を被つた。
(1) すなわち、原告の従業員であるDは、本件契約期間中である昭和四五年一
二月一六日、原告の業務に従事中、自動車事故により負傷し、左記のとおり合計
七、八九一、二八〇円の損害を受けた。
(イ) 通院に対する慰藉料          四三〇、〇〇〇円
(ロ) 治療期間中の休業損害          二一六、〇〇〇円
(ハ) 後遣障害による逸失利益       六、一九五、二八〇円
(ニ) 後遺障害に対する慰藉料       一、〇五〇、〇〇〇円
(合計)
四三〇、〇〇〇円+二一六、〇〇〇円+六、一九五、二八〇円+一、〇五〇、〇〇
〇円=七、八九一、二八〇円
(2) 原告は、同人の使用者として、不法行為あるいは労働契約上の安全配慮義
務等に基づき、同人に対し右損害を賠償する義務を負うに至つた。
そして、原告が賠償すべき右損害金は、前記保険契約が締結されていたならば、こ
れにより原告が当然に回収しえたものであつて、したがつて、原告は、合衆国の債
務不履行によりこれと同額の損害を被つたものというべきである。
3 弁護士費用
原告は、前記1、2の損害につき、その賠償を求めるため弁護士たる代理人に事件
処理を委任し、その報酬を賠償を求める各損害額の二〇パーセントとすることと
し、前記1については二二、二五一・三五ドル、同2については一、五七八、二五
六円を支払う旨約した。右弁護士費用も合衆国の前記債務不履行と相当因果関係を
有する原告の損害というべきである。
4 以上によれば、原告の被つた損害は、前記1とその弁護士費用の合計額一三
三、五〇八・一三ドルを日本円に換算(昭和四六年五月当時の特定相場一ドルあた
り三六〇円による。)した四八、〇六二、九二六円、及び、前記2とその弁護士費
用の合計額九、四六九、五三六円であり、これを合算すると合計五七、五三三、四
六二円となる。

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71期修習生 72期修習生 求人
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職種 事務職
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