弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人Aを懲役八月及び罰金二五万円に、被告人Bを罰金二〇万円に、
それぞれ処する。
     被告人らにおいてその罰金を完納することができないときは、いずれも
五、〇〇〇円を一日に換算した期間、その被告人を労役場に留置する。
     被告人Aに対し、この裁判確定の日から二年間、右懲役刑の執行を猶予
する。
     原審における訴訟費用は、全部、被告人両名の連帯負担とする。
         理    由
 (控訴の趣意)
 本件控訴の趣意は、東京高等検察庁検事藤井嘉雄提出(東京地方検察庁検事高橋
正八作成名義)の控訴趣意書記載のとおりであり、これに対する答弁の趣意は、弁
護人山田重雄作成名義の答弁書記載のとおりであるから、それぞれこれらを引用す
る。
 (当裁判所の判断)
 控訴趣意第二点(省略)
 控訴趣意第一点について
 所論は、要するに、原判決は、本件公訴事実どおりの外形的事実をほぼ認定しな
がら、預金等に係る不当契約の取締に関する法律(以下単に本法という。)二条一
項にいう「特定の第三者と通じ」とは、預金者が同法所定の不当契約をなすにつ
き、具体的個別的に特定した第三者と結託し、あるいは相互に意思を通ずることに
外ならないところ、被告人らは、特定の第三者と目されるCとは直接にはもとよ
り、Dを介しても、意思を通じていたとは認められない、預金者が特定の第三者と
通じたことがない以上、預金媒介者のみとの共謀による本法二条一項違反の罪は成
立しないとして、被告人両名に対し無罪を言い渡した。しかし、同条項にいう「特
定の第三者と通じ」とは、預金者において、特定の第三者の氏名を知らず、また右
第三者に会つたことはなくとも、預金媒介者が何人か特定の第三者と意思を通じ、
金融機関に対し、自己の預金を担保とすることなく、右特定の第三者を融資先とし
て指定することの認識があれば足りるから、本件認定事実が、仮に原審認定の範囲
内にとどまるものとしても、被告人らが媒介者において、何人か特定の第三者と通
じ、E信用金庫F支店に対し、右特定の第三者を融資先として指定していることの
認識を有していたことは、これを優に認めることができるのみならず、被告人らは
さらに、その預金に関し、E信金から融資を受ける者が札幌のある有力な土建会社
であつて、同会社から謝礼金がでるとか、E信金の入居するビルの建築業者から謝
礼金がでるということまで認識していたというのであるから、被告人らの右認識
は、相当に具体的個別的であつて本法二条一項にいう「特定の第三者と通じ」てい
たことは、極めて明白であり、この点において、原判決は、判決に影響を及ぼすこ
との明らかな法律の解釈適用を誤つた違法がある、というのである。
 ところで、原判決は、「被告人Aが、昭和四二年六月一〇日ころDから被告人B
を介しての預金勧誘に応じ、同月一四日ころ、E信金に期間六か月、三、〇〇〇万
円の定期預金をし、右預金に関し、預金の媒介者であるDから、被告人Aに右預金
に対する裏利として三〇〇万円、被告人Bに旅費として一〇万円、謝礼金として一
二万円支払われたこと、他方、Cは、国鉄札幌駅前において、ビルの建設及び経営
を目的とする株式会社Gの常務取締役であつて、ビル建設のため資金繰りを担当
し、E信金が支店開設のため、昭和三九年八月ころから設けていたF地区推進委員
会と当座貸越契約を結び、融資を受けていたこと、同信金は、ビルの建設後、その
一部をGから買取り、昭和四一年一二月E信金が発足し、右推進委員長Hがその支
店長に就任し支店業務を統括したこと、Gは、昭和四一年春ころから当座貸越しの
過振りが多くなり、資金繰りが悪くなつたため、Cは、Hと相図り、導入預金を受
けてE信金から不正融資を受けるようになつたこと、そして、金融ブローカーDら
のあつせんにより、裏利を支払つて金主に預金させ、E信金は、預金考に対し、正
規の預金証書を発行するが、原符は作らず、右預金を担保とすることなく、そのま
まGの当座貸越の口座に振り込む等の方法により、不正融資を受けていたこと、C
は、この方法によつてさらにE信金から不正融資を受けようと企て、Dに預金媒介
を依頼していたところ、Dは、知合の被告人Bに対し、昭和四二年五月ころから電
話で被告人Aに導入預金するようはたらきかけ、同年六月一〇日ころ「E信金へ
三、〇〇〇万円で六か月の定期預金をすれば、正規の利息のほかに一割位の裏利が
出る。預金はまちがいなく信用金庫で保障してくれるし、裏利は、E信金の入るビ
ルを建てる業者が出すことになつている。往復の飛行機代、宿泊費をもつ。」とい
つて勧誘し、被告人Aの承諾を得たので、Dにその旨を伝えたこと、そして、同月
一四日、被告人Aは、被告人Bに付き添われ、Dと共に東京から札幌にむかい、E
信金においてH支店長に会い、前記のとおり、期間六か月、三、〇〇〇万円の定期
預金をして預金証書を受け取り、そのころDから右預金に関し、被告人Aは、裏利
として計三〇〇万円を、被告人Bは、旅費及び謝礼金として計二二万円を受け取つ
たが、右裏利等は、CからDに予め交付されていた三五〇万円の中から支出され、
また、前記預金の原符は作成されず、H支店長から全額Gに融資されていたこと、
を関係証拠によつて認定しているが、右に挙げたような程度の被告人らの認識で
は、GやCの存在を具体的に認識していたものとは認め難く、したがつて、本法二
条一項にいう「特定の第三者と通じ」たものにあたらない」というのである。
 しかし、おもうに、本法の趣旨とするところは、近代社会における金融機関の機
能の重要性にかんがみ、また、とくに、それに課せられている一般預金者の保護と
いう公共的使命に着目し、その健全な運営をはからせることによつて資産内容の悪
化を防止すると共に、その本来の機能ないし使命を発揚させ、もつて、社会の信用
秩序を維持するにあるものと解せられる。そして、この見地から本法二条一項の規
定するいわゆる導入預金を処罰する法意を考えると、当該預金等に関し金融機関と
の間に預金者の指定する特定の第三者に対し、右預金等に係る債権を担保とするこ
となく、資金の融通等をなすべき旨を約することは、それが、ひいては浮貸その他
の不当貸付又は情実融資等の弊を招来し、金融機関の資産内容を悪化し、その健全
な運営を阻害するばかりでなく、その預金者が、その預金に見合う融資を受ける特
定の第三者から金融機関の正規の預金利子のほかに謝礼あるいはリスクなど特別な
金銭上の利益、すなわち裏利を利得する点において、その預金が実質的には右特定
の第三者に対する直接融資としての機能を営むことになり、また、そうなることを
承知しながら、みずからはその危険を負担することを回避してこれを当該金融機関
に転嫁したうえ、自己は、金融機関に対する預金払戻請求権という安全確実な債権
を確保し、その預金債権を担保としていない金融機関が、将来当該融資の回収が困
難となり、危殆に陥るその窮状をいわば対岸の火災視することが許されるというこ
とになり、それが金融機関の健全性を損なうに至るというその上に、利己的利欲的
行為によつて金融機関の前記のような公共的使命を阻害するという点に強い反社会
性が認められることなどにかんがみ、本法が、その二条一項において、預金者のす
るこのような不当契約を禁止し、また、その違反に対する罰則規定を別に設けてい
るものと解せられる<要旨第一>のである。この趣旨からすると、同条項において預
金者が「特定の第三者と通じ」というのは、その預金者が、直接に、具
体的、個別的に特定した第三者と結託し、あるいは相互に意思を通じる場合に限ら
ず、いわゆる導入ブローカーなどの媒介者を介して間接順次に特定の第三者と意思
の疎通するものあれば足り、しかも、この場合、当該預金者において、特定の第三
者の存在を、その氏名ないし名称等を知ることにより、具体的、個別的に認識する
必要まではなく、媒介者を介し、その媒介者が通じている特定の第三者が存在する
ことを諒知しておればよい、と解するのが相当であると考える。けだし、預金者と
しては、特定の第三者と格別の関係がある場合は別として、通常は預金の元利金が
確実に回収され、かつ、できる限り高率有利な裏利や謝礼金を入手することに意を
用いこそすれ、それ以上に特定の第三者が誰であるかのせんさくにはそれほどの関
心を持たないのが一般である、と思われるうえに、この種導入預金の行なわれる場
合には、おおむねその間に導入ブローカーの介在が予想されるであろうから、これ
らの者が、預金者に対してはなるべく特定の第三者についての認識を稀薄化するこ
とによつて自己の地位を有利にしようと努める反面、預金者側もまた意識的にこれ
に便乗することによつてたやすく本法の適用を免れることも十分考えられる関係
上、前記のような立法趣旨から考えても、このような不当契約までしてあえて利を
図ろうとする預金者を放置するほかないような結果をもたらす解釈に賛同すること
は困難である、といわざるを得ない。そして、本件においては、(一)E信金に預
金が導入されると、E信金は、右預金に係る債権を担保にとることなく、そのまま
これをGに融資することについては、すでにE信金のHとGの常務取締役Cとの間
で打ち合わせがされていたこと、(二)媒介者であるDにおいてもこの間の事情は
十分これを知悉していたこと、また、(三)預金者である被告人A及びその協力者
とみられる被告人Bの両名についても、たとえ、「C」あるいは「G」という氏名
ないし名称までは聞き及んでいなかつたとしても、少なくとも前記のとおり、「E
信金から融資を受ける札幌のある有力な土建会社」とか、「E信金の入居するビル
の建築業者」が謝礼金を出す、という限度においては特定の第三者の存在を前記D
から聞知していたことは、いずれも証拠によつて認められるのであるから、これら
によれば、被告人ら両名が、右Dを介して「特定の第三者と通じ」たものと解して
さしつかえないと思われる。なお、原判決は、本法二条一項違反の罪につき、預金
者が直接特定の第三者と通じたことがない以上、預金媒介者との共謀を理由にして
共謀共同正犯の理論を適用することは、本法二条が、その一項において預金者が、
特定の第三者と通じてなした不当契約を可罰的なものとする一方、二項において預
金媒介者が、特定の第三者と通じてなした不当契約を独立罪として規定している立
法趣旨にも反するし、かつ、預金等に係る不当契約の可罰的な要件を厳格に制約し
ている同法条違反の罪の成立範囲が不当に拡張される結果を招くから不当で<要旨第
二>ある。と判示する。しかし、同条一項及び二項の各規定内容を対比してもわかる
とおり、右二項は一項の不当契約に加功する媒介者の行為を独立罪とし
て処罰しようとする趣旨ではなく、たとえば、媒介者が、預金者らに不当契約を行
なうことを秘したうえ、媒介者自身が金融機関を相手方として不当契約を行なうな
ど、媒介者が預金者らと通謀していない場合を想定して設けられた補充的規定であ
ると解せられる。したがつて、媒介者が一項の罪の共犯と認められる限り、(本件
は、この場合に該当するものと考えられる。)当然、右一項違反の共犯として問擬
するのが相当であり、かように解することが誤つた拡張解釈であるとは思われな
い。
 以上の次第で、原判決が、本法二条一項の「特定の第三者と通じ」との文言の意
義につき、預金者において、具体的、個別的に特定した第三者と結託し、あるいは
相互に意思を通じることを要するものとしたのは、所論のいうとおり右法条の解釈
を誤つたものというのほかなく、この解釈の誤りが判決に影響を及ぼすことが明ら
かであるから、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。
 よつて、本件控訴は理由があるので、刑事訴訟法三九七条一項、三八〇条によ
り、原判決を破棄し、同法四〇〇条但書によりさらに次のとおり自判する。
 (罪となるべき事実)
 被告人Bは、金融業を目的とするI株式会社の代表取締役、被告人Aは、同会社
の取締役会長の地位にあるものであるが、昭和四一年春ころJ株式会社取締役、総
務部長兼株式会社G常務取締役Cと、E信用金庫F地区推進委員長Hとが右両会社
の資金繰りのため始めた誘導預金継統の一環として、その後、右Cから事情を知つ
ているD(Dは、K、Lらを介しかねてからCより預金導入の依頼を受けてい
た。)にかさねて導入預金あつせん方の依頼があり、昭和四二年六月一〇日ころ以
降同人から被告人Bを通じて被告人Aに導入預金勧誘の旨が伝えられ、その間の交
渉の過程において、E信用金庫F支店から預金見合いの融資を受ける「札幌のある
有力な土建会社」、「同金庫F支店の入居するビルの建築業者」が謝礼金を出す旨
を聞き及んだ被告人ら両名は、右D及び同人を介して前記Cと共謀のうえ、同月一
四日ころ、札幌市ab丁目所在の同金庫F支店において、Dを介してCと通じ、正
規の預金利子のほか、特別の金銭上の利益を得る目的をもつて、右金庫支店を相手
方として、当該預金にかかる債権を担保として提供することなく、右金庫支店がD
及びCらの指定するGに対して、資金の融通をなすべき旨を約して、期間六か月、
金額三、〇〇〇万円の定期預金をし、もつて、当該預金に関し、不当な契約をした
ものである。
 (その余の判決理由は省略する。)
 (証拠の標目)省略
 (法律の適用)
 預金等に係る不当契約の取締に関する法律四条一号、二条一項刑法六〇条(被告
人Bにつき同法六五条一項)(被告人Aにつき懲役刑及び罰金刑を併科、被告人B
につき罰金刑を選択)被告人Aに対する懲役刑の執行猶予につき、刑法二五条一項
被告人らに対する労役場留置につき、同法一八条
 原審における訴訟費用の負担につき、刑事訴訟法一八一条一項本文、一八二条
 (裁判長判事 樋口勝 判事 浅野豊秀 判事 田畑常彦)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛