弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     原判決を取り消す。
     被控訴人は、控訴人に対し、金二万三十八円七十銭及びこれに対する昭
和二十三年二月六日以降完済に至るまで、年五分の金員の支払をせよ。
     訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
     この判決は、控訴人において、金七千円の担保を供するときは、かりに
これを執行することができる。
         事    実
 控訴代理人は、主文第一、二項同旨の判決ならびに仮執行の宣言を求め、被控訴
人は、控訴棄却の判決を求めた。
 当事者双方の事実上の陳述は、
 控訴代理人において、被控訴人と訴外A間の本件船舶の賃貸借契約において、船
体の修繕費が、賃借人たるAの負担と定められているのは、通常の修繕に関する場
合であつて、本件の如く通常の修繕と言えない大修理については、あてはまらない
のみならず、本件修繕に際し、控訴人先代Bは、Aを通じて被控訴人に対し、控訴
人先代が本件船舶をAより転借した上その修繕をなすべき旨を通知するとともに、
右修繕費は、被控訴人において負担せられたき旨を申入れたのに対し、被控訴人は
これを承諾したので、控訴人先代は、被控訴人のため、本件修繕賞金二万三十八円
七十銭を立替支弁したものであるから、被控訴人に対し、同額の立替金債権を有す
る。かりに右主張が理由がないとしても、控訴人先代の右転借当時、本件船舶は大
破損のため、堪航能力を失つていたのを修繕したのであるから、右修繕費は、本件
船舶保存のために費された臨時的な必要費というべく、しかも修繕の前後一回もそ
の使用をしないうちに、被控訴人よりその占有を取り上げられるに至つたものであ
るから、控訴人先代は、本件船舶の占有者として、その回復者たる被控訴人に対
し、民法第百九十六条に基いて、右費用の償還請求権を有するに至つたものであ
る。かりに右主張も亦理由がないとしても、原審において主張した如く、民法第七
百三条に基いて、同額の不当利得の返還請求権を有するところ、控訴人先代は、昭
和二十八年一月十三日死亡し、その相続により、控訴人が右権利を承継取得するに
至つたものであると述べ、
 被控訴人において、本件船舶の修繕は、通常の修繕であると否とを問わず、これ
を渡の負担とする約定の下に、同人と傭船契約を結んだものである。本件船舶の占
有者はAであり、その修繕をしたのも同人であるし、又傭船契約の合意解除に伴う
船舶の返還も同人よりこれを受けたものであつて、被控訴人は、Aより控訴人先代
に対してなされた本件船舶の貸借を承諾したこともなく、又Aを通じ、控訴人先代
に対し、本件修繕費を被控訴人において負担すべき旨約した事実もない。Aとの傭
船契約当時、本船は朝鮮航海にも堪え得るような完全さを具えていたのであり、A
はその後C船長をして本件船舶を運航せしめた際、長崎県松浦郡a町b波止場にお
いて、堤防に本件船舶を激突せしめたことがあるほか、その後数度の航行に使用し
ていて、本件船舶の破損は、そのために生じたものであるから、被控訴人として
は、Aより右破損の修繕を受け、原状に復した上で、その返還を受けたのは、当然
であつて、何等不当に利得したわけでない。逆に、被控訴人は、右破損による船価
の下落のため損失を受けたほか、本件船舶に積載してあつた被控訴人所有の重油三
鑑と錨、マニラロープを失い、又本件船舶の返還を受ける際の捜査に費用を要し、
金四万円の損害さえ被つているのであつて、控訴人先代において、その主張の如き
修繕費を支出したとしても、それはAとの間で解決せられるべき問題であつて、全
くの第三者である被控訴人に対し、その償還を請求するが如きは、筋違いである。
なお控訴人先代の死亡、その相続に関する控訴人の主張事実はこれを認めると述べ
 たほか、原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。
 証拠として
控訴代理人は、甲第一号証を提出し、原審証人D、同E、同F、同G、原審並当審
証人H、同A、当審証人Cの各証言及び原審並当審における原告B、原審における
被告I各本人尋間の結果を援用し、乙第十二、第十七号証中の郵便官署作成部分の
成立を認め、その余の部分ならびに、その他の乙号各証は不知と述べ
 被控訴人は、乙第一ないし第十四号証、同第十五号証の一ないし三、同第十六な
いし第二十一号証を提出し、原審証人A、同H及びFの各証言を援用し、甲第一号
証は不知と述べ
 当裁判所は、職権を以て被控訴人本人の尋問をした。
         理    由
 控訴人主張の機帆船J丸が、被控訴人所有に属していたことは、当事者間に争が
なく、しかして、原審並当審証人Aの証言、原審並当審における被控訴人本人の供
述及び右証拠によつて成立を認め得る乙第一号証によると、被控訴人は、昭和二十
年十一月二十五日訴外Aに対し、本船を使用料月千円、船体及び機関修繕料、船員
給食料はAの負担、期間昭和二十年十一月二十五日より、昭和二十一年五月二十四
日までの六ケ月間、契約終了の際は、船体並船具、その他の備品は借用当時の状態
に復して返還することの約定の下に、貸与し、かつ被控訴人よりAに本船の占有が
移され、船長、船員の任免権も同人の手に委ねられていたことが認められ、これに
よれば右契約の法律上の性質は、船舶の賃貸借に該当するものというべきである。
(被控訴人は、右契約が傭船契約であつたかのように主張するが、右は法律上の見
解に過ぎないこと、その主張自体からも窺い得るところである。)
 ところで、原審証人D、同G、同E、原審立当審証人H、同A、当審証人Cの各
証言、原審並当審における原告B本人の供述を綜合すると、昭和二十一年一月頃、
Aは、訴外Hの仲介によつて、賃借中の本船を控訴人先代Bに対し、賃料月千円、
賃貸期間一年(但し期間満了後双方協議の上で延長することができる)、船員の給
料、食糧は控訴人先代の負担等の約定の下に、これを転貸して、本船の占有を控訴
人先代に移したこと、ならびに右転借当時、既に本船は破損による浸水夥しく、貨
物の積載量半減し、大阪方面への航行は勿論、沿海航海の使用も危険な状態にあつ
たので、控訴人先代はその使用に先ち、Aと協議した結果、その修理にあたること
になり、控訴人先代の名において、訴外有限会社瀬戸造船所に対し、船体その他の
修繕を依頼するとともに、訴外谷崎鉄工所に対し修繕の一部を依頼し、これらに要
する材料器具を購入し、船体を上架して、増釘、外板の切替をした外、機関台、機
関等に修理を施し、同年二月二十九日から同年五月中頃までの約三箇月かかつて修
理を完了し、これが修繕費として、合計金一万九千三百五円四十銭、材料等の購入
費として合計金七百三十三円三十銭以上総額金二万三十八円七十銭を費した事実を
認めることができる。
 控訴人は、右修繕費については、控訴人先代において、Aを通じて被控訴人と折
衝した結果、被控訴人においてこれを負担する約定が成立し、控訴人先代は、被控
訴人のため該修繕費の立替支弁をしたわけであると主張するが、この点に関する原
審証人Dの証言は、原審並当審証人Aの証言及び原審並当審における被控訴人本人
の供述に照して信用し難く、その他控訴人の全証拠によつても、右事実を確認する
に足りない。却つて右A証人の証言や被控訴人本人の供述によると、Aは、被控訴
人に対し、本船の修理に多額の費用を要することを告げ、その負担を求めたが、被
控訴人の応諾するところとならなかつたのにかかわらず、控訴人先代に対しては、
右承諾を得たかのような言動に出た関係上、前記被控訴人との賃貸借期間の満了に
よつて、控訴人先代に対する転貸借の継続が不能となり、控訴人先代の修繕費の支
出が徒労に帰なるのを防ぐため、被控訴人に対し賃貸借の更新を求め、昭和二十一
年五月三十日、被控訴人主張のような条項の再度の賃貸借契約(修繕費の負担、賃
借物返還義務に関する特約については、当初の賃貸借と同一内容)を結んだ上、さ
らに、被控訴人に対し本船の売却方を交渉したが、代金の調達不能のため破談に終
つた始末であることが肯認できるから、控訴人の右主張は採用するに由がない。
 それで、さらに、右修繕費につき、控訴人主張の如く、占有者の回復者に対する
費用償還請求権が成立するかどうかについて審究するのに、前段認定の事実によれ
ば、控訴人先代はAとの転貸借契約に基いて、同人より本船の引渡を受けて、その
占有者となつたものであり、又右修繕費はその占有中に支出されたものであつて、
修繕の箇所、程度からみて本船の保存のために費した必要費というべきのみなら
ず、さらに右の外修繕期間、修繕費の価格ならびに前記被控訴人本人の供述によつ
て明らかな如く、終戦後、被控訴人が本船を取得した価格が金五万円であり、又右
修繕当時、被控訴人が本船をAに売却せんとした価格が金十一万円であることを思
い合せるとき、本件修繕は通常の過程において必要とせられる修繕というよりは、
臨時的な大修繕であり、従つてその費用も、単に通常の必要費であるとは言い難
い。しかるところ、被控訴人が本船を自己の手許に引き取つたことは、当事者間に
争なく、又右引取りの日時が、昭和二十一年六月二十五日頃であつて、当時本船の
所在不明のため、被控訴人は、諸方を捜索した結果、長崎港大波止場においてこれ
を発見したので、本船に乗船していた船長で、控訴人先代の任命したFと折衝し、
同人を通じ控訴人先代より本船の返還を受けた経緯であることは、郵便官署作成部
分については成立に争がなくその余についても真正に成立したものと認める乙第十
二号証、原審証人Fの証言及び原審並当審における被控訴人本人の供述によつて認
定し得るところである。もつとも、前認定の如く、当時被控訴人とAとの間に本船
の賃貸借が存続していたので、被控訴人は、Aと合意の上これを解除し、Aをして
本船の返還を約せしめた上、本船引取りの運びに至つたものであることは、前記被
控訴人本人の供述によつて認められるところであるが、一面Aにおいて、右本船返
還の約定の成立を控訴人先代に通知して、本船につき占有移転の指図をしたもので
ないことは、前記A証人の証言によつて明らかなところであるから、右事実を以て
直ちに、被控訴人主張の如く、Aより本船の返還を受けたものとはなし難い。而し
て、本件修繕費が通常の必要費と言い難いこと右のとおりであり、かつ控訴人先代
において、本船による法定果実を取得したことについて、被控訴人より何の主張立
証もないのであるから、控訴人先代は、民法第百九十六条に従い、被控訴人に対
し、右必要費の償還請求権を有するに至つたものというべきである。
 もつとも、本件修繕当時、被控訴人とAとの間に、本船の賃貸借関係が存続し、
その期間満了後も更新によつて継続していて本船返還の際に合意解除せられたもの
であり、又右賃貸借上、本船の修繕費はAの負担とせられ、かつ賃貸借終了の際
は、Aにおいて本船を原状に復して返還すべき義務を負担していたものであること
前認定の如くであつて、被控訴人は、右義務の存在を理由に控訴人先代に対する償
還義務を争うものであるので、この点について検討すろのに、本船が、被控訴人主
張の如く右賃貸当初完全なものであつたとの点については、被控訴人本人のその旨
の供述があるだけで、しかもこれを当審証人Cの証言と対比するとき、いまだ、右
事実を確認するに足る心証を惹き難く、又本件修繕が、前記認定のような規模の大
修繕であることよりすれば、他に特別の事情なき限り、一概に本件修繕費を以て右
約定に基き賃借人の負担たるべきもの<要旨>と断ずることができないのみならず、
かりに、被控訴人主張の如く、本船が貸与当時完全なものであつたため、右
原状回復義務に伴い、本船の修繕義務が生じ、本件の如き修繕費も、右約定にいわ
ゆる修繕費に該当するとしても、本件の修繕をした主体は、賃借人たるAではな
く、転借人たる控訴人先代であることも亦、前定のとおりであり、又右転貸借につ
いては、賃貸人たる被控訴人の承諾を欠いていて、被控訴人に対抗し得ないもので
あることは、当事者間に争のないところであつて、控訴人先代は、本件修繕につ
き、右賃貸借上の特約の拘束を受けるいわれはなく、全く賃貸借関係の外に立つ第
三者であるから、被控訴人において、右貸借上の特約のあることをたてにして、控
訴人先代に対し、本船の占有回復者として負担する費用償還義務を免れるわけにゆ
かない。(被控訴人において右義務を履行したときは、さらにAに対し、不当利得
によりこれが償還請求権を有するや否やは別個の問題である。)また、控訴人先代
とA間の転貸借関係において、本件修繕費がAの負担たるべきときは、控訴人先代
において、Aに対しても亦民法第六百八条の規定に従い、右費用の償還請求権を有
し、Aよりその償還を受けたときは、被控訴人に対する前記償還請求権も亦消滅す
るものと解すべき余地があるが、右償還のあつたことについての主張、立証もない
本件においては、前者の費用償還請求権の存在は後者の費用償還請求権に何等影響
を及ぼすものでないというべきである。
 さらに、被控訴人主張の如く、本船の破損がAにおいて航海中これを堤防へ激突
せしめたによるものであり、又A或は控訴人先代の責に帰すべき事由によつて、船
具等の喪失その他の損害を被つたとの点については、その証拠資料として、被控訴
人本人の供述があるが、これを前記C、A両証人の証言に照すとき、いまだ該供述
のみによつて、直ちにこれを確認するに足るものとの心証を惹き難いし、かりにそ
のような事実があつたとしても、右破損の責を負うべきものはAであつて、本件修
繕をした控訴人先代ではないし、又その他の損失は、本件修繕とは別個の関係に立
つわけであるから、右は、たかだか、A又は控訴人先代に対し、損害賠償債権を成
立せしめることあるは格別、そのことから直ちに、占有回復者として、控訴人先代
に対して負担する前記償還義務を免れるものと言えないのは当然である。
 しかして、控訴人は、昭和二十八年一月十三日、控訴人先代の死亡に基く相続に
よつて、その権利義務一切を承継取得したものであることは、被控訴人の認めると
ころであるから、被控訴人は、控訴人に対し、前記認定の必要費金二万三十八円七
十銭及びこれに対する本訴状送達の翌日であること記録上推認し得べ旨昭和二十三
年二月六日以降完済に至るまで、年五分の民事法定利率による遅延損害金を支払う
べき義務あること明らかであるというべく、右支払を求める控訴人の本訴請求は正
当であつてこれを認容すべく、右と反対に出でた原判決はこれを取り消すべきもの
とする。よつて、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第九十六条第八十九条、仮
執行の宣言について同法第百九十六条を各適用して、主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 吉村正道 判事 大田外一 判事 金田宇佐夫)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛