弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人鈴木多人の上告趣意は末尾添附別紙記載の通りでありこれに対する当裁判
所の判断は次ぎの如くである。
 第一点について。
 原判決挙示の被告人の原審公判廷における供述及びCに対する司法警察官の聴取
書中の供述記載によれば、被告人が判示Cに対し原判示のような脅迫行為に出でそ
の為に同女をして、被告人に反抗することを得ないようにした上、判示金品を強奪
したことを認定するに十分であつて、原判決の認定が所論のように実験則に反する
ものとは認められない。此点の所論は畢竟原判決が採用した右各証拠その他本件記
録中に存する証拠について、独自の見解によつて之を解釈し、原判決の事実認定を
攻撃するものであつて、上告適法の理由とならない。
 次ぎに記録によると原審が所論証人Aの訊問申請を却下したのは、被告人が之を
抛棄した為であり又所論証人Bについては一応之が採否を留保したものの、結局そ
の必要が認められないものとして却下したのであることが窺える。而して憲法第三
七条第二項の規定は裁判所において被告人の申請にかかる証人の総てを取調べなけ
ればならないという義務があるものではなく裁判所がその必要を認めて訊問を許可
した証人に限られる法意であることは既に大法廷判例(昭和二三年(れ)第八八号、
昭和二三年六月二三日大法廷判決)が認めているところであるのみならず、原審に
おいて証人申請を採用しなかつたからと言つて、公平な裁判所の裁判を受ける権利
を害するものと言えないことも亦判例(昭和二二年(れ)第一七一号同二三年五月
五日大法廷判決、昭和二三年(れ)第九〇四号昭和二三年一二月一六日第一小法廷
判決)が示しているところであるから、この点の所論も採用に値しない。尚原判決
が被告人の原審公判廷における自供を本件の証拠に採用したことにつき所論の様に
採証の法則に反するものと認むべき点は少しもない。従て論旨は総て理由がない。
 第二点について。
 原審挙示の各証拠によつて十分原判示の事実を認定することが出来るのであつて
原判決の事実認定が実験則に反することは少しもない、そして該事実が詐欺罪を構
成すること勿論で論旨は採るに足りない。
 第三点について。
 少年法第五〇条は「少年に対する刑事事件の審理は第九条の趣旨に従つてこれを
行わなければならない」と規定し同法第九条には「前条の調査はなるべく少年保護
者又は関係人の行状経歴、素質環境等について医学心理学教育学社会学その他の専
門的智識を活用してこれを行うように努めなければならない」との規定の存するこ
とは洵に所論の通りである。しかし原審公判調書の記載を見ると原審は前記少年法
第九条が規定する被告人保護者等の行状経歴素質環境その他について審理を尽して
いることが肯認されるのであつて、その審理内容に違法の点は少しもない。その他
本件記録を精査しても原審における審理判決が少年法第一条の精神に反するものと
疑うに足る形跡は何処にも見出し得ない。論旨では憲法第三十七条違反という語を
使つて居るけれども、其実質は何等理由のない少年法違反の主張であり憲法の問題
でない。(昭和二三年(れ)第四四六号同年七月二九日大法廷判決、昭和二三年(
れ)第二一〇号同年七月二九日大法廷判決参照)
 被告人本人の上告趣意は末尾添附別紙の通りであり原審の証拠の採否を非難する
もので上告適法の理由とならない。
 (尚原判決判示第二の事実に対する適用条文掲記中に少年法第五十一条とあるは
同法第五十二条の誤記であること判文の趣旨から見て明である。)
 よつて上告を理由なしとし旧刑事訴訟法第四四六条に従つて主文の如く判決する。
 以上は当小法廷裁判官全員一致の意見である。
 検察官 田中巳代治関与
  昭和二四年一二月二六日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    穂   積   重   遠

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