弁護士法人ITJ法律事務所

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主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人増田勝久,同野村剛司,同飯田幸子の上告受理申立て理由について
1本件は,弁済による代位により民事再生法上の共益債権を取得した被上告人
が,再生管財人である上告人に対し,再生手続によらないで,その支払を求める事
案である。被上告人が再生債務者に対して取得した求償権が再生債権にすぎないこ
となどから,被上告人は再生手続によらないで上記共益債権を行使することができ
るか否かが争われている。
2原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1)Aは,平成19年9月3日,Bとの間で,船舶で使用する断熱材の製造を
目的とする請負契約を締結し,平成20年1月頃,Bから,上記請負契約の報酬の
一部を前渡金(以下「本件前渡金」という。)として受領した。
Aは,同年6月18日,再生手続開始の決定を受け,同社の再生管財人に選任さ
れた上告人は,同年7月1日,民事再生法49条1項に基づき,Bに対し,上記請
負契約を解除する旨の意思表示をした。
(2)上記再生手続開始前に本件前渡金の返還債務を保証していた被上告人は,
同年8月8日,Bに対し,同債務を代位弁済した。
3原審は,被上告人は再生手続によらなければ本件前渡金の返還請求権を行使
することはできないとして本件訴えを却下した第1審判決を取り消して,本件を第
1審に差し戻した。
4弁済による代位の制度は,代位弁済者が債務者に対して取得する求償権を確
保するために,法の規定により弁済によって消滅すべきはずの債権者の債務者に対
する債権(以下「原債権」という。)及びその担保権を代位弁済者に移転させ,代
位弁済者がその求償権の範囲内で原債権及びその担保権を行使することを認める制
度であり(最高裁昭和55年(オ)第351号同59年5月29日第三小法廷判決
・民集38巻7号885頁,同昭和58年(オ)第881号同61年2月20日第
一小法廷判決・民集40巻1号43頁参照),原債権を求償権を確保するための一
種の担保として機能させることをその趣旨とするものである。この制度趣旨に鑑み
れば,弁済による代位により民事再生法上の共益債権を取得した者は,同人が再生
債務者に対して取得した求償権が再生債権にすぎない場合であっても,再生手続に
よらないで上記共益債権を行使することができるというべきであり,再生計画によ
って上記求償権の額や弁済期が変更されることがあるとしても,上記共益債権を行
使する限度では再生計画による上記求償権の権利の変更の効力は及ばないと解され
る(民事再生法177条2項参照)。以上のように解したとしても,他の再生債権
者は,もともと原債権者による上記共益債権の行使を甘受せざるを得ない立場にあ
ったのであるから,不当に不利益を被るということはできない。
これを本件についてみると,前記事実関係によれば,弁済による代位により本件
前渡金の返還請求権を取得した被上告人は,Bに代位して,再生手続によらないで
上記請求権を行使することができるというべきである。
5以上と同旨の原審の判断は,正当として是認することができる。論旨は採用
することができない。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官金築誠
志の補足意見がある。
裁判官金築誠志の補足意見は,次のとおりである。
民法501条柱書きの「自己の権利に基づいて求償をすることができる範囲内」
が,原判決がいうように,求償権が存する場合にその求償できる上限の額の範囲
内,すなわち実体法上の制約の範囲内を意味しており,手続法上の制約を一切含ま
ないものと限定的に解することは,いささか早計のように思われ,問題となる手続
法上の制約の性質,効果等を考慮して,個別的,具体的に検討する余地を残してお
くことが賢明であると考える。法廷意見の引用する昭和59年5月29日第三小法
廷判決及び昭和61年2月20日第一小法廷判決も,実体法上の制約に限るという
趣旨まで判示しているものとは解されない。
そこで,本件の場合について考えてみると,再生債権について再生手続外での行
使が禁止されるのは,再生計画による権利内容の変更の可能性に備えた制約であ
る。再生計画によって求償権の内容が変更された場合に,求償権者による原債権の
行使が再生計画による変更の制約を受けるのならば,共益債権たる原債権の行使で
あるからといって,再生手続外での行使を許すのは適当でないであろう。再生計画
の確定の前後によって行使し得る原債権の額が変わるという事態も,避けるべきこ
とと考えられる。再生計画によって求償権の減額変更が予定される場合に(ほとん
どの場合そうであろうが),管財人が再生計画の確定まで求償権者の請求に応じな
いでいることを,法的に否定するのは妥当でないようにも思う。逆に,再生計画が
原債権の行使に影響しないのなら,ここで問題としている点に関する限り,再生手
続外での行使を否定する理由はないと考えられる。したがって,原債権の行使が再
生計画による権利変更の制約を受けるのかどうかは,本件の結論を左右する重要な
ポイントになるのではないかと思う。
求償権が再生計画によって変更された場合に,代位行使できる原債権の額等につ
いて,付従性の例外を認めた規定は存在しないが,原債権が代位弁済者に移転する
のは,求償権を確保するための担保的機能を目的とするものであることなどからす
れば,再生計画が担保権等に影響を及ぼさないことを規定した民事再生法177条
2項を本件の場合に類推適用し,再生計画によって求償権の額や弁済期が変更され
ても,共益債権を行使する限度ではその変更の効力は及ばないと解するのは,特に
無理な類推解釈ではないように思う。
類推適用を否定し,再生計画による権利変更の効力が原債権の行使に及ぶと解す
る場合は,上記のように,原債権の行使も再生手続外では許されないと考えるべき
であるように思われるが,それでは代位弁済によって共益債権を取得することが実
際上意味を持たなくなってしまい,代位弁済者を余りにも不利な地位に置くことに
なるという感を拭えない。その反面,他の再生債権者は,本来,共益債権を行使さ
れて,その分,弁済の引当財産が減少することを覚悟すべき状況にあったのに,い
わば棚ぼた的に利益を得ることになるのである。これは,公平とはいい難い。
(裁判長裁判官櫻井龍子裁判官宮川光治裁判官金築誠志裁判官
横田尤孝裁判官白木勇)

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