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平成24年10月16日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成21年(ワ)第4377号職務発明の対価(特許権)請求事件
口頭弁論終結日平成24年6月18日
判決
原告P1
同訴訟代理人弁護士目方研次
同訴訟代理人弁理士北村光司
被告ニプロ株式会社
同訴訟代理人弁護士小野昌延
同滝井朋子
主文
1被告は,原告に対し,金57万1078円及びこれに対する平成2
0年11月19日から支払済みまで,年5分の割合による金員を支払
え。
2原告のその余の請求を棄却する。
3訴訟費用は,これを200分し,その199を原告の,その1を被
告の負担とする。
4この判決は,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
被告は,原告に対し,金1億円及びこれに対する平成20年11月19日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,被告の元従業員である原告が,被告に対し,被告在職中に,単独
又は共同でした職務発明(15件),職務考案(2件)及び職務創作意匠(3
件)に係る特許等を受ける権利又はその共有持分を被告に承継させたとして,
平成16年法律第79号による改正前の特許法(以下「法」という。)35
条3項,実用新案法11条3項,意匠法15条3項に基づき,上記承継の相
当の対価の未払い分である金12億2052万8199円のうち金1億円
及びこれに対する平成20年11月19日から支払済みまで年5分の割合
による遅延損害金の支払を求めた事案である。
1判断の基礎となる事実
当事者
ア原告は,●●●●●●●に被告に入社し,●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●に被告を退職した。
イ被告は,医療機器及び医薬品の製造販売等を業とする株式会社である
(甲1)。
なお,被告の商号は,もともと「日本硝子商事株式会社」であったが,
昭和52年に「株式会社ニッショー」に変更され,さらに,平成13年に
吸収合併されて「ニプロ株式会社」となった。
被告の特許権等について
ア被告は,別紙本件特許権等目録1ないし6記載の特許権,実用新案権及
び意匠権又はその共有持分を有していた。
(以下,目録の番号及び目録内での項番に従い,各特許権等を「本件特許
権1-1」,「本件実用新案権4」,「本件意匠権2」などといい,本件特許
権1-1ないし本件特許権6-4を「本件特許権」,本件実用新案権4及
び本件実用新案権6を「本件実用新案権」,本件意匠権2,本件意匠権3
及び本件意匠権5を「本件意匠権」といい,これらを総称して「本件特許
権等」という。また,本件特許権1-1に係る発明を「本件発明1-1」,
本件実用新案権4に係る考案を「本件考案4」,本件意匠権2に係る創作
意匠を「本件創作意匠2」などといい,本件発明1-1ないし本件発明6
-4を「本件発明」,本件考案4及び本件考案6を「本件考案」,本件創作
意匠2,本件創作意匠3及び本件創作意匠5を「本件創作意匠」といい,
これらを総称して「本件発明等」という。さらに,別紙本件特許権等目録
1記載の特許権等を「本件特許権等1」などといい,これらに係る発明等
を「本件発明等1」などという。)。
なお,本件特許権等のうち,本件特許権4-2,本件特許権5,本件意
匠権5,本件特許権6-1,6-2,6-4は口頭弁論終結時においても
存続しており,そのほかの権利は既に消滅している。
イ原告は,総合研究所第二研究部(第四研究部)に所属していた間に,以
下のとおり,本件発明等を行い,その特許等を受ける権利又はその共有持
分が被告に承継された。
ア原告は,本件発明1-1,1-2,本件発明2-1,2-2,本件
発明6-3,本件考案6を,単独で,職務発明(職務考案)として行い,
その特許等を受ける権利は被告に承継された。
イ原告は,本件発明1-5,本件創作意匠2,本件発明3-3,本件
発明4-1,4-2,本件考案4,本件発明6-1,6-2,6-4を,
他の被告社員と共同して,職務発明(職務創作意匠,職務考案)として
行い,その特許等を受ける権利は被告に承継された。
ウ原告は,本件発明3-1,3-2,本件創作意匠3,本件発明5,
本件創作意匠5を,他の被告社員及び藤沢薬品工業株式会社(現アステ
ラス製薬株式会社。以下「藤沢薬品工業」という。)の社員と共同して,
職務発明(職務創作意匠)として行い,その特許等を受ける権利は被告
及び藤沢薬品工業に承継された。
被告における従業員の発明考案等に関する定め
ア被告における従業員の発明考案等の取扱いについては,昭和60年3月
23日,発明考案取扱規程(乙1の1。以下「昭和60年規定」という。)
が実施された。
イその後,平成3年4月1日に,新たな発明考案取扱規定(乙1の2。
以下「平成3年規定」という。)が実施された(その内容は,別紙発明
考案取扱規程のとおりである。)。
平成3年規定は,平成10年12月1日付け,平成11年2月27日付
けで一部改訂されたが(乙1の3・4),特許等を受ける権利の承継及び
補償金に関する定めは,同趣旨のままである。
本件発明等の実施について
本件発明等は,被告において,以下のとおり実施されている(なお,各特
許請求の範囲又は実用新案登録請求の範囲のうち,原告が実施を主張してい
ないものについては,別紙本件特許権等目録1ないし6において,請求項の
内容の記載を省略している。)。
ア本件発明等1について
被告は,平成元年11月,本件発明等1の実施品として,血小板保存用
バッグである「プレトバッグ」(「Lバッグ」ともいう。甲37の1・2。
以下「本件実施品1」という。)を販売開始した。
なお,本件実施品1については,平成11年に国内向けの販売を終了し
たが,国外向けにはその後も販売を継続している。
イ本件発明等2について
被告は,平成2年9月,本件発明等2の実施品として,培地充填をしな
い細胞培養用バッグ(以下「空バッグ」ともいう。)である「カルチャーバ
ッグ」(「Cバッグ」ともいう。甲52の1。以下「本件実施品2-1」と
いう。)を販売開始した。
また,被告は,同年,本件発明等2の実施品として,培地充填済みの細
胞培養用バッグ(以下「培地充填済みバッグ」ともいう。)である「ハイメ
ディウム」(甲52の2。以下「本件実施品2-2」という。)を販売開始
した(なお,本件実施品2-2の販売は,平成17年に終了した。)。
さらに,被告は,平成14年,本件発明等2の実施品として培地充填済
みバッグである「ニプロメディウム」(以下「本件実施品2-3」という。)
を販売開始した。
ウ本件発明等3について
被告は,平成2年,本件発明等3の実施品である一体型キットの包装容
器(以下「本件実施品3」という。)を製造し,藤沢薬品工業に販売開始し
た(なお,本件実施品3の販売は,平成12年に改良品である後記本件実
施品5の販売開始に伴って終了した。)。
藤沢薬品工業は,本件実施品3を容器して,抗生物質「エポセリン静注
用1gキット」,「セファメジン注射用2gキット」を医薬品市場で販売し
ていた(甲68)。
エ本件発明等4について
被告は,平成6年8月,子会社である菱山製薬株式会社(現ニプロファ
ーマ株式会社。以下「菱山製薬」という。)において,本件発明等4の実
施品である一体型キットの注入針付き溶解剤「生食溶解液キットH」,
「5%糖液キットH」(以下,併せて「本件実施品4」という。)を製造し
(甲70),菱山製薬販売株式会社(甲76),株式会社ミドリ十字(現田
辺三菱製薬株式会社。甲77),光製薬株式会社,大塚製薬株式会社(甲
78。以下「大塚製薬」という。)等に販売開始した。
オ本件発明等5について
被告は,平成12年10月,本件実施品3の改良品であり,本件発明等
5の実施品である一体型キットの包装容器(以下「本件実施品5」という。)
を製造し,藤沢薬品工業に販売開始した。
藤沢薬品工業は,本件実施品5を容器として,抗生物質「セファメジン
αキット」,「セファメジンα点滴用キット」を医薬品市場で販売している
(甲90)。
カ本件発明等6について
被告は,平成12年10月,本件発明6-4の実施品であるダブルバッ
グタイプの一体型キット(ブロー成形したプラスチック製ボトルを用いず,
キット全体をプラスチックフィルム(シート)で構成した一体型キットを
いう。以下同じ。)の包装容器(以下「本件実施品6」という。)を製造し,
本件実施品6を容器とした抗生物質「フルマリンキット静注用1g」,「フ
ィニバッグスキット静注用0.25g」を塩野義製薬株式会社に(甲10
1),「ペントシリン静注用1g・2gバッグ」を富山化学工業株式会社に
(甲102),「ユナシン-Sキット静注用1.5g・3g」をファイザー
株式会社にそれぞれ販売開始した(いわゆるOEM販売である。)。また,
被告は,子会社であるニプロファーマ株式会社において,本件実施品6を
容器とした抗生物質「パセトクール静注用1gバッグ」を製造し,医薬品
市場で販売している(甲103)。
なお,本件実施品6の断面図は別紙本件実施品6図面記載の図B,同実
施品のポート部の形状は同別紙記載の図Dのとおりであるところ,本件実
施品6に本件発明6-1ないし6-3及び本件考案6が実施されている
かについては,当事者間に争いがある(後記争点1-1)。
本件各実施品の売上高
本件実施品1,3ないし6の平成20年度までの売上高は,別紙本件実施
品売上高1(本件実施品1,3~6)記載のとおりである。
なお,本件実施品2の売上高,本件実施品1の国外売上高を相当の対価額
算定の基礎に含めるか否か,及び本件各実施品の平成21年度以降の売上高
については,当事者間に争いがある(後記争点1-2)。
原告に対する補償金の支払
本件発明等(ただし,本件発明1-3,1-4も含む。)につき,被告にお
ける従業員の発明考案等に関する定め(上記)に基づき,原告に対して支
払われた補償金の金額は,別紙補償金計算書記載のとおり合計166万05
57円である。
(7)原告の退職願
原告は,平成20年7月に被告を退職したが,そのときの退職願には,
「退職に際しては就業規則および発明考案取扱規定に定める下記の記載
事項を遵守いたします。」として,「4在職中の発明考案等に係わる補償
金の受給権は全て放棄いたします。」との記載がある(乙2)。
2争点
相当の対価額争点1
ア被告の本件発明6-1ないし6-3及び本件考案6の実施の有無
争点1-1
イ被告による本件実施品1ないし6の売上高争点1-2
ウ超過売上高争点1-3
エ仮想実施料率争点1-4
オ使用者の貢献度争点1-5
カ共同発明者間における原告の貢献度争点1-6
キ相当の対価額争点1-7
(2)原告による放棄の意思表示の有無争点2
(3)消滅時効の成否争点3
(4)控除すべき金額争点4
第2争点に関する当事者の主張
1争点1-1(被告の本件発明6-1ないし6-3及び本件考案6の実施の
有無)について
【原告の主張】
(1)本件発明6-1,6-2の実施について
ア本件発明6-1の実施について
被告は,本件実施品6において,本件発明6-1・請求項1を実施し
ている(以下の数字は,別紙本件実施品6図面の数字を表す。)。
ア本件発明6-1・請求項1の「該第1のバッグと第2のバッグ(1,
2)を夫々の弱シール部分(19,29)同士で溶着して流体密に接
続する工程を含んでなり」とは,具体的には,第1のバッグの弱シー
ル部分(19)と第2のバッグの弱シール部分(29)とを突き合わ
せて(向かい合わせて)流体密に接続するのであるが,流体密に接続
するために,第1のバッグ1の2枚のプラスチックシート部分(11,
13)と第2のバッグ2の筒状シート21の溶着部分は強固に溶着す
ることとなる(本件特許権6-1に係る明細書【0008】,【001
0】,【0011】参照。以下,同明細書を「本件特許6-1明細書」
という。)。
本件実施品6の構成(別紙本件実施品6図面記載の図B)において
も,第1のバッグ(Pバッグ)に弱シール部分19に相当する部分が
あり,第2のバッグ(Lバッグ)に弱シール部分29に相当する部分
があり,それぞれの弱シール部分同士を突き合わせ(向かい合わせて),
Pバッグの2枚のシート11と13にLバッグの筒状シート21を
強固に溶着して流体密に接続する構成をとっており,本件発明6-
1・請求項1の技術的範囲に属する。
イ被告は,本件実施品6は,●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●が
あるため,本件発明6-1・請求項1の技術的範囲に属さないかのよう
に主張する。
しかしながら,そもそも両バッグの弱シール部形成用シート同士が接
着する構成(図A)は,本件発明6-1の実施例に過ぎず,本件発明6
-1・請求項1の技術的範囲は同実施例に限定されるものではない。
(ウ)本件実施品6は,本件発明6-1・請求項3の「●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●」との工程を
欠いているが(甲170の3~5),本件実施品6は,それ以外の点
については,本件発明6-1・請求項3の構成を取っており,同発明
の本質的部分を備えている。
イ本件発明6-2の実施について
本件発明6-2・請求項1は,本件発明6-1・請求項1の製造方法に
対応する物の発明である。
したがって,上記アのとおり,本件実施品6は,本件発明6-2・請求
項1の技術的範囲にも属する。
ウ自白の撤回
なお,被告の本件発明6-1及び6-2の非実施の主張は,自白の撤
回に当たり許されない。
(2)本件発明6-3の実施について
以下の事情からすれば,被告は,本件実施品6において,本件発明6-3
を実施している。
ア原告は,平成15年度,平成18年度の実績補償金の申請に当たって,
本件実施品6につき本件発明6-3が実施されている旨記載して申請し
たが(甲181の2・3),これに対する支払の際に,この点に関する訂
正や異議はなかった。
イまた,本件実施品6の海外展開に関する会議(平成16年3月16日実
施)で配布された「PLW特許まとめ」(甲172),「関連特許一覧表」(甲
173の1・2)の資料にも,本件発明6-3が含まれている。
ウ本件実施品6の滅菌処理に使用されているとして被告が提出するトレ
ー(乙39)は,本件発明6-3の実施に必要な滅菌水が溜まる構造では
ないが,平成19,20年頃,被告の第四研究開発部に所属していたP2
は,実際の製造ラインでは,被告が提出するトレーとは別のトレーが使用
されていた旨供述している(甲198,201)。また,本件発明6-3
は滅菌後の薬液容器の断面の変形を防止する効果があるところ,本件実施
品6のうち原告が入手した塩野義製薬株式会社から市販されているフル
マリンキット(本件実施品6)のバッグには,片面の顕著な扁平化は見ら
れない(甲195)。
(3)本件考案6の実施について
本件実施品6は,本件考案6・請求項1の技術的範囲に属する。
ア本件考案6・請求項1の「前記薬液通路部のバッグを構成するフィル
ムとの溶着部が扁平に」との構成は,本件実用新案権6に係る明細書(以
下「本件実用新案6明細書」という。)に記載の舟形やヒレ付き(同明
細書図3)と同趣旨のものである。
イ一方,本件実施品6のポート部の構成(別紙本件実施品6図面記載の図
D)は,突起部分を備え,円形のポート部分に曲線をもってなだらかに繋
がっている。そして,この構成の該突起部分を徐々に大きくすれば,その
「溶着部分」の形は,徐々に本件実用新案6明細書図3のヒレ付きに近づ
き,更に舟形に近づく。
ウしたがって,本件実施品6は「前記薬液通路部のバッグを構成するフ
ィルムとの溶着部が扁平に」との構成を充足し,本件考案6・請求項1の
技術的範囲に属する。
エなお,仮に,本件実施品6のポート部が,本件考案6・請求項1にいう
「溶着面が扁平に形成されている」の構成に該当しないとしても,同ポー
ト部の構成は,本件考案6・請求項1の均等物といえる。
【被告の主張】
(1)本件発明6-1,6-2の実施について
ア本件発明6-1は実施されていないこと
(ア)本件発明6-1・請求項1は,「夫々の弱シール部分で溶着」する構
造が不可欠とされ,これを実現する唯一の態様として,第2のバッグに
形成された弱シール部①から舌状の弱シール部形成用シートを突出さ
せ,これを第1のバッグに形成された弱シール部②の下方に残置した表
裏2枚のバッグ用シート間に挿入し溶着して弱シール部③を形成し,①
③②の弱シール部を連続させるという手段を開示している。しかしなが
ら,本件実施品6は,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●ため,両バッグの「弱シール部分同士で溶着」する構造
ではない。
(イ)原告は,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●を「弱シール部
分」に該当するということはできない。
ウ本件実施品6においては,本件発明6-1にない新たな技術である
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●バッグを連続させる技術が適用されている。
イ本件発明6-2は実施されていないこと
本件発明6-2は,本件発明6-1に対応する物の発明である。
本件実施品6は本件発明6-1・請求項1の技術的範囲に属さない以上,
本件発明6-2・請求項1の技術的範囲にも属さない。
(2)本件発明6-3の実施について
ア本件発明6-3・請求項1では「滅菌用水の水位を薬液容器内の薬液の
水位よりも高く」する構造が必要とされている。
一方,本件実施品6で用いられる滅菌方法では,滅菌用水の水位は薬液
容器内の薬液の水位よりもはるかに低く,したがって本件発明6-3の技
術的範囲に属さない。このことは,本件実施品6の滅菌に実際に使用され
ているトレイ(乙39)には,多数の穴や隙間が存しており,滅菌水を溜
めることができない構造であることからも明らかである。
イしたがって,本件実施品6において,本件発明6-3は実施されていな
い。
(3)本件考案6の実施について
本件実施品6のポート部の構成(別紙本件実施品6図面記載の図D)には,
本件考案6の「扁平な溶着部分」は存在しない。
したがって,本件実施品6において,本件考案6は実施されていない。
2争点1-2(被告による本件実施品1ないし6の売上高)について
【原告の主張】
(1)平成20年度までの売上高について
ア被告による本件実施品1,3ないし6の売上高は別紙本件実施品売上高
1(本件実施品1,3~6)記載のとおり,本件実施品2の売上高は別紙
本件実施品売上高2(本件実施品2・当事者の主張)記載の【原告の主張】
欄のとおりであって,これに反する被告の主張は信用できない。
イ本件発明2-2は,細胞培養用バッグ,液体培地,2次包材,脱酸素剤
を別々に滅菌した上で「液体培地入りカルチャーバッグ」に仕上げる技術
であるところ,本件特許2-2の他社排除効は,本件実施品2-2,2-
3の売上高のうち,バッグ相当分のみならず,培地も含めた全体に生じて
いる。
したがって,本件実施品2-2,2-3については,培地充填済みのバ
ッグの売上高を基礎として,相当の対価額を計算すべきである。
ウまた,特許発明の実施には,輸出の前提となる生産や輸出業者に対する
譲渡も含まれることから,国外販売分の売上高であっても相当の対価額計
算の基礎とされるべきである。
平成21年度以降の売上高について
被告による本件実施品1,2,4ないし6の平成21年度以降の売上高の
推計は,別紙本件実施品売上高3(平成21年度以降・原告の主張)記載の
とおりである。
【被告の主張】
平成20年度までの売上高について
ア被告による本件実施品1,3ないし6の売上高は,別紙本件実施品売上
高1(本件実施品1,3~6)記載のとおりであり,本件実施品2の売上
高は,別紙本件実施品売上高2(本件実施品2・当事者の主張)記載の【被
告の主張】欄のとおりである。
イ培地充填済みバッグである本件実施品2-2,2-3の売上高について
は,平均してその5分の4が培地相当分,5分の1がバッグ相当分である。
培地については,被告は,調合された培地成分を他社から購入し,混合
の上充填しているにすぎない。
したがって,本件実施品2-2,2-3については,バッグ相当分であ
る売上高の5分の1をもって,相当の対価額計算の基礎とされるべきであ
る。
ウなお,被告は,外国では,本件発明等1に係る特許権等は一切有してい
ないことから,本件実施品1の売上高のうち国外販売分については,通常
実施権に基づく販売にすぎず,相当の対価額の計算の基礎に含めるべきで
はない。
(2)平成21年度以降の売上高について
争う。
3争点1-3(超過売上高)について
【原告の主張】
(1)本件発明等1について
ア技術的優位性
(ア)本件発明1-1
本件発明1-1は,従来の軟質ポリ塩化ビニル樹脂(PVC)の問
題点を克服し,血小板保存用として優れた性質,すなわち,高強度,
柔軟性,透明性,耐寒性,安全衛生性などの基本性能を保持しつつ,
ガス透過性が高く,可塑剤を含有しないためにDEHP溶出度が低い
などの性質を有しており,最適の素材構成である(甲24~27,3
7の2~4)。
(イ)競合品との比較
競合品であるカワスミ分離バッグPOは,相溶化材に直鎖状低密度
ポリエチレン(L-LDPE)を使用しているが,これは本件発明1
-1のエチレンアクリル酸エステル共重合体(EEA)よりも,強度
や透明性などにおいて劣っている。
(ウ)被告の主張に対する反論
被告は,本件実施品1に液漏れの問題があったと主張するが,このこ
とと本件発明等1の優位性とは無関係である。
イ市場への参入,シェアの獲得
(ア)本件実施品1は,医療用具に区分される。
(イ)成分採血用バッグの需要が開拓される以前,血液バッグのシェアは,
テルモ社が圧倒的なシェアを握っており,被告が血小板保存用バッグ
(本件発明等1)を開発した狙いは,そのような血液バッグ事業に参入
したいというものであった。
本件実施品1は,血小板を5日保存可能であるという性能が認められ
て日本赤十字社の各都道府県の血液センターで採用され,被告は,それ
まで出入りすらできなかった同センターに出入り可能になり(甲33),
本件実施品1は,平成3年度には日本全国の血液センターの9割以上で
使用されるに至った。
(ウ)テルモ社が平成5年頃独自の血小板保存バッグを開発したことに
より,被告は,テルモ社の圧倒的なシェアに食い込むには至らず,平成
6年頃,国内での血液事業関連の製品の製造から撤退したが,このこと
は,本件発明等1の優位性を否定するものではない。
ウ他社の市場参入の抑止
テルモ社は平成5年頃独自のポリ塩化ビニル樹脂(PVC)を用いた
血小板保存バッグを開発したが,これは本件実施品1の販売開始(平成
元年)よりも4年以上遅れた(甲209)。
エ超過実施分(他社禁止割合)
かかる事実を考慮すれば,本件実施品1の売上高のうち,本件発明等1
(本件発明1-1,1-2,1-5)について,他社の実施を排除して独
占的に実施することによって得られたと認められる利益は,被告が,国内
血液事業から撤退するまでの間(平成6年度までの間)は40%を下らず,
その後(平成7年度以降)も20%を下らない。
本件発明等2について
ア技術的優位性
(ア)本件発明2-1について
本件発明2-1の素材は,酸素ガス透過性が従来のポリ塩化ビニル
樹脂(PVC)バッグの約7倍と優れており,かつ,水蒸気は不透過
であるという細胞培養用バッグとしての基本的性能を有する。また,
不純物の溶出物が少なく,可塑剤,安定剤が使用されていないので,
バッグ素材から滲出する不純物が細胞の培養を妨げることがない。さ
らに,フィルムを薄く加工でき,かつ,透明性が高く,高強度である
(甲46,52の1・2)。
(イ)本件発明2-2について
培地充填後にγ線で滅菌する方法では,培地がγ線の照射を受ける
という問題点があったところ,本件発明2-2は,バッグと液体培地
を一体で滅菌するのではなく,カルチャーバッグ・液体培地・2次包
材・脱酸素剤を別々に滅菌し,それらを無菌の状態で培地充填済みバ
ッグに仕上げるものである(甲43,47の1,52の1・2)。
(ウ)競合品との比較
コージンバイオ社のバッグは,本件発明2-1とは異なるエチレン
-酢酸ビニル共重合体(EVA)を使用し,滅菌方法としては,エチ
レンオキサイドガス(EOG)滅菌を採用しているところ,エチレン
-酢酸ビニル共重合体(EVA)は本件発明2-1の素材に比べ弾性
率が低く,厚みを増す必要があるために透明性やガス透過性が低下す
るという難点があり(甲49・2枚目,52の1・2),また,エチ
レンオキサイドガス(EOG)滅菌は残留毒性の危険性がある(甲4
6)。
イ市場への参入,シェアの獲得
(ア)本件実施品2は,本件実施品1と同様に医療用具に区分される。
(イ)本件実施品2は,市場でのシェアは,平成6年度は33.3%,平
成7年度は50.0%,平成8年度は56.7%,平成9年度は50.
0%,平成10年度は40.0%,平成11年度は47.0%,平成1
2年は50.0%であり(甲182の2・3),平成13年度は80%
になっている(甲53,54の2)。
また,本件実施品2は,メディネット株式会社やリンフォテック株式
会社などの大手の業者に採用されている(甲53,54の1・2)。
ウ他社の市場参入の抑止
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●のバ
ッグは,本件発明等2より技術的に劣っており,シェア獲得に至ってい
ないと考えられる(甲46,49・2枚目参照)。
エ超過実施分(他社禁止割合)
かかる事実を考慮すれば,本件実施品2の売上高のうち,本件発明等2
について他社の実施を排除して独占的に実施することによって得られたと
認められる利益は,50%を下らない。
(3)本件発明等3について
ア技術的優位性
(ア)本件発明3-1
本件発明3-1のユニークなハブを用いた制御機構によって,連通
順序が正確・確実に制御されるので,先に輸液バッグ側の閉鎖膜が刺
通され,可撓性容器(輸液バッグ)内の溶解液や希釈液がカプセル内
に漏洩するという不都合が生じない(甲62の1,67・103頁参
照)
また,本件発明3-1は,中空の穿刺針が薬剤容器の栓と可撓性容
器の液体通路部の閉鎖膜とを刺通することにより,直ちに連通するよ
うになっており,これらの各穿刺は気密性を保ったまま行われるた
め,無菌的な溶解操作が容易な構造となっている上,中空の穿刺針に
よる連通であるので,液体の移動が妨げられることはなく,連通後の
薬剤と溶解液との混合を短時間で行うことができる(甲62の1,6
3,67・104~106頁,68参照)。
(イ)本件発明3-2
本件発明3-2では,キャップ頂部の下面に形成されたカムと薬剤
容器の底部に嵌められた押さえ部材を用いて,キャップの回転運動を
押さえ部材の下降運動へと転換させており,しかもこれをキャップを
被冠したまま行うことができるので,細菌の侵入を完全に防止するこ
とができる。また,キャップは回転運動を行うだけで下方に移動しな
いので,連通操作時に容器の内圧が上昇することはない(甲62の1
参照)。
(ウ)本件発明3-3
本件発明3-3は,外部から異物検査が可能なように透明性を有
し,かつ,溶解時にポンピングが必要となるため,それに耐える強度
を有しており,また,ポンピングによる摩擦・蒸気滅菌(オートクレ
ーブ滅菌)のときなどに微粒子が発生しない素材であり,高圧蒸気滅
菌をしてもバッグの変形がなく,内面に液滴の付着が殆どなく,残液
なしに薬液を排出できるバッグの素材構成となっている(甲67・1
05頁参照)。
イ市場への参入,シェアの獲得
(ア)本件実施品3は,医薬品に分類される。
(イ)本件実施品3の市場でのシェアは,発売当初の平成2年から平成5
年まではほぼ100%であった。
その後,大塚製薬が開発製造した一体型キットを用いて,武田薬品工
業株式会社(以下「武田薬品工業」という。)から,平成6年に「パン
スポリンキット」,平成7年に「ファーストシンキット」の商品名の抗
生物質が発売され,これらによって一体型キットの市場規模が急速に拡
大した。
そのため本件実施品3は,着実に売上げがあったにもかかわらず,相
対的にシェアは低下した(なお,被告のシェアは,平成6年度が56.
7%,平成7年度が51.2%,平成8年度が40.3%,平成9年度
が37.9%,平成10年度が29.0%,平成11年度が34.2%
であった。甲165の2・3)。
なお,大塚製薬が一体型キットの販売を開始してからは,大塚製薬と
被告とで市場の約90%を占めており,2社の寡占状態となった。
ウ他社の市場参入の抑止
輸液市場分野で圧倒的シェアを有するのは大塚製薬(大塚製薬工場)
であるが,同社のキット製品の商品化は,本件実施品3よりも大きく遅
れた。
エ超過実施分(他社禁止割合)
かかる事実を考慮すれば,本件実施品3の売上高のうち,本件発明等3
について他社の実施を排除して独占的に実施することによって得られたと
認められる利益は,50%を下らない。
オ被告の主張に対する反論
なお,藤沢薬品工業との共同開発契約における制約は,被告が藤沢薬品
工業との業務提携の中で必要と判断して行った契約であり,本件発明等3
の優位性とは何の関係もない。
(4)本件発明等4について
ア技術的優位性
(ア)本件発明4-1
本件発明4-1は,連通順序の制御機構により,最初にバイアルに
穿孔することが可能となり,連通操作時の液漏れを防止することが
できる。
(イ)本件発明4-2
本件発明4-2は,カバ-付き水槽型トレーとしたことにより,バ
ッグに直接シャワーからの熱水が当たらずバッグの変形を防ぐこと
ができるほか,カプセル内部に水が入らないため,乾燥時間を短縮
することができる点にも特徴がある。本件発明4-1のガイドカプ
セルは乾燥が困難な部分であるが,この部分への温水の侵入を防ぐ
点で,生産効率を著しく向上させ,利益の獲得に貢献している。
(ウ)本件考案4
本件考案4は,栓体を下にして輸液容器を倒立状態に自立させる
ことができ,しかも,金型におけるアンダーカットを無くして成型
時の不測の破れを防ぐことでエアーのリークを有効に防止すること
ができる。
(エ)競合品との比較
a大塚製薬の「大塚生食注TN」(甲73・116頁表3,図5参照)
は,ポート口が一つで,バイアルを両頭針に差し込んだあと,一度バ
イアルを取り外してから点滴用の輸液セットに接続する必要があっ
た。そのため,バイアルを取り外して輸液セットに接続する際に液漏
れの危険性があり,また,バイアルを取り外すために,輸液ボトル内
に撹拌した薬剤が分からなくなり,薬剤を取り違える危険性があるな
どの欠点があった。
これに対し,本件発明4-1は,バイアルを付けたまま反対側にあ
るポート口から輸液セットに接続して点滴できるため,液漏れの可能
性,薬剤の取り違えの危険性がなく,「大塚生食注TN」に対して優
位性があった。
bなお,薬価をみると,平成7年当時,「大塚生食注TN」が352
円であるのに対し,本件実施品4の一つである菱山製薬の生食溶解液
キットHは380円であった(甲106の1)。通常,先発メーカー
が存在する場合,後発メーカーの製品の薬価は,先発メーカーの製品
よりも3,4割安くなることが多いが,本件実施品4の薬価が先発の
「大塚生食注TN」よりも高いのは,厚労省の薬価審査でも「大塚生
食注TN」に対する優位性があると認められたからである。
イ市場への参入,シェアの獲得
(ア)本件実施品4は,医薬品に分類される。
ハーフキット(溶解液ハーフキット。以下同じ。)を製造販売する主
な競合会社は,大塚製薬,テルモ社,扶桑薬品工業株式会社(以下「扶
桑薬品工業」という。)等である(ただし,扶桑薬品工業の実績はほと
んどない。)。
(イ)ハーフキットは,大塚製薬が他社に先駆けて平成4年に「大塚生食
注TN」を販売し,平成6年に被告が本件実施品4を販売するようにな
った。
市場規模を108億円とすると,被告のシェアは,平成13年に38.
1%,平成14年に39.3%,平成15年に42.5%と推定され,
平成14年には,本件実施品4の売上高が「大塚生食注TN」の売上高
を上回っている。
ウ超過実施分(他社禁止割合)
かかる事実を考慮すれば,本件実施品4の売上高のうち,本件発明等4
について他社の実施を排除して独占的に実施することによって得られた
と認められる利益は,50%を下らない。
(5)本件発明等5について
ア技術的優位性(本件発明5)
本件発明5は,二色成形を用いた独自の連通構造により,薬剤と輸液
の連通操作をより安全,正確に,短時間で行うことが可能となった。ま
た,従来技術(バイアルを用いたキット)に比べて,バイアルや両頭針
を使用せず,複雑な連通機構を簡素化して部品点数の削減ができるよう
になったため,キット全体が小型化,軽量化し,保管の省スペース化と
廃棄コストの節減を可能とした。さらに,従来技術(バイアルを用いた
キット)はバイアルを分別廃棄する手間がかかったが,本件発明5はバ
イアルを使用しないため溶解液の逆流の可能性がなく,分別廃棄を必要
としないために分別廃棄時のけが,薬液の飛散,接触の危険もない。容
器は連通構造,連通針を含めすべて可燃性の素材で構成されているため,
焼却時にすべて燃焼させることができる(甲87,91参照)。
イ市場への参入,シェアの獲得
(ア)本件実施品5は,医薬品に分類される。
(イ)一体型キットは,平成8年に大塚製薬がダブルバッグタイプの製品
(「OMCキット」)を販売し,これに続いて,平成13年に被告が
ダブルバッグタイプの製品(本件実施品6)を販売した後は,本件実
施品5,6と「OMCキット」が市場において優位性を認められ,シ
ェアのほとんど(約9割と推定される。)を占めるに至っている。
(ウ)被告は,平成12年頃,本件実施品3に代えて本件実施品5の販
売を開始し,本件実施品3と同様のシェアを維持することに成功した。
本件実施品3,5の「セファメジン」は,同一粉剤を使用し,「OM
Cキット」を容器とした「セファゾリン」に対し,平成12年頃売上
高で追いつき,平成13年以降その2倍以上の売上高を上げている。
このことは,本件発明等5が,「OMCキット」に十分に対応できる
性能を有していることを示している。
なお,本件実施品5の売上高は,平成16年に5.7億円と大きく下
落したが,これは,藤沢薬品工業が,本件実施品5と同様の製品を伸晃
化学株式会社(本件発明等5の共同発明者であるP3が藤沢薬品工業を
退社した後に勤務するようになった会社である。)にも製造させるよう
になり,2社購買を開始したためである。
ウ超過実施分(他社禁止割合)
かかる事実を考慮すれば,本件実施品5の売上高のうち,本件発明等5
について他社の実施を排除して独占的に実施することによって得られた
と認められる利益は,50%を下らない。
(6)本件発明等6について
ア技術的優位性
(ア)本件発明6-1
本件発明6-1によれば,第1のバッグと第2のバッグを別々に製造
するので,滅菌も別々にすることができる。乾燥薬剤と薬液が別々に充
填シールされるので,大塚製薬の製品のように溶解液充填滅菌後の容器
を乾燥する必要がなくなり,製造工程が簡素化され,コストが低減され
る(製造コストの低減)。
また,例えば第1のバッグに薬剤を収容する場合,第1のバッグの滅
菌は蒸気滅菌以外の方法で行うことができるので,バッグ内に水蒸気が
入らないようにバッグの4辺をシールする必要がなく,したがって,第
1のバッグ内を完全に滅菌することができる。
さらに,例えば第2のバッグに薬液を充填する場合,第2のバッグ
に薬液を充填して蒸気滅菌し,乾燥したのち,シール部分を切断せず
にこれを直ちに薬剤を収容した第1のバッグと接続することができ
るので,薬剤収容に手間がかからない。
(イ)本件発明6-2
本件発明6-2によれば,乾燥薬剤を収容した第1の室と薬液を収
容した第2の室を液密に区画する弱シール部は第2の室を手などで
強く圧迫することにより容易に剥離することができるので,乾燥薬剤
と薬液の混合を容易に行うことができる(操作性,品質の向上。甲1
01,102,104,105)。
(ウ)本件発明6-4
本件発明6-4によれば,耐熱性がよく,不溶性微粒子が少なく,
透明性及び耐衝撃性,柔軟性の優れた輸液バッグ材料が得られる。
(エ)競合品との比較
本件発明6-1,6-2は,薬液容器に薬液を充填した後で高圧蒸気
滅菌し,これとは別に,薬剤容器をγ線滅菌した後に無菌的に粉末充填
し,その後複室容器として無菌的に一体化する製造方法による複室容器
に関するものである。
一方,大塚製薬の製品は,薬液収容部に薬液を充填して一度滅菌,乾
燥した後,薬剤収容部のシール部分を切断して無菌的に薬剤を収容する
という製造方法であるところ,これと比較すると,製造工程が簡素化さ
れ,利益率が上がるものである。
イ市場への参入,シェアの獲得
(ア)本件実施品6は,医薬品に分類される。
ダブルバッグタイプの製品を製造販売する主な競合会社は,大塚製
薬であり,同社は,武田薬品工業,ファイザー株式会社などに,ダブ
ルバッグタイプの製品を販売している。
(イ)大塚製薬がダブルバッグタイプの製品(「OMCキット」)を販
売開始したのは平成8年であるところ,被告が本件実施品6を発売す
るまでは,ダブルバッグタイプの製品は大塚製薬が独占していた。
しかし,被告が,平成12年に本件実施品6を販売開始した後は,
「OMCキット」と本件実施品6が市場で拮抗するに至り,その後,
被告のシェアが伸びている。
(ウ)本件発明等6は,それまで大塚製薬が独占していたダブルバッグタ
イプの一体型キットの市場に参入することを可能とし,さらには,11
0億円と見られた一体型キットの市場を160億円以上に拡大させた。
そして,平成20年の本件実施品6の売上高は81億円を超えるとこ
ろ,一方で大塚製薬の「OMCキット」の売上高は平成10年当時と大
差ない70億円と推定され(キット製品の売上げ209億円の約3分の
1で計算),本件発明等6には優位性があるといえる。
ウ超過実施分(他社禁止割合)
かかる事実を考慮すれば,本件実施品6の売上高のうち,本件発明等6
について他社の実施を排除して独占的に実施することによって得られた
と認められる利益は,50%を下らない。
【被告の主張】
本件発明等の性質について
ア本件発明等は,原告が被告から給与等の対価を得てその職務とした行為
の成果に関するものであるから,給与等を支給して原告を雇用していた被
告は当然にその成果である技術等の通常実施権を有する(法35条1項)。
したがって,被告がこれを実施して利益を得たことに対し,原告は何らそ
の分け前を要求しうる立場にはない。
もっとも,この技術に関して,被告の製品製造の能力,蓄積されたノウ
ハウ,社会から受けている信用,販売の能力と努力などを超えて,被告が
特許等を受けたことによって競業者である他者をこの製品の製造販売か
ら排除しこれによって市場をより多く占拠し,よって売上額を増加させた
場合,その増加額については特許権等の他者排除効に起因しているといえ
る。
イ本件発明等は,いずれも先行技術との差異は少なく,公知の技術水準の
技術に極めて近く,それゆえに,発明に要する時間も比較的短く,いわば
比較的手軽な発明である。その結果として,業界に従来から存在していた
競業者も市場における代替品も,本件特許権等の成立によって格別の有意
の変化を生じていない。
また,被告は,営業方針として,他者排除効を有するような権利の対象
となる大発明やそのような力を有する技術者が自社の従業員中に存在す
ることを期待していない。被告は,特許権等に基づく他者排除効などには
大きく期待することなく,専ら需要者の要望に応える製品を開発して,こ
れの製造には,蓄積したノウハウや丁寧な技術力を駆使し,また,販売に
あたっては顧客に対し誠意をもって対応し,可能な限り安価にこれを供給
してサービスを尽くし,もって市場に受け入れられるように努力するとい
う営業方針を採っている(乙35の1~3)。本件発明等もこのような中
でされたものである。
(2)本件発明等の独占の利益について
本件特許権等に基づく他者排除効は,それぞれの製品に関する複数の権利
全部を合わせてもゼロであり,仮に多く見積もっても,本件実施品1ないし
6の売上高につき,平均して5%程度を越えるものではありえない。
ア本件発明等1について
(ア)本件発明等1の技術的な意義について
本件発明1-2,1-5の各技術は,従来慣用技術及び公知技術に極
めて近いものにすぎないことからすると(乙6,47の1・2参照),
本件実施品1において中心的な技術として用いられているのは本件発
明1-1のみであるが,その本件発明1-1のポリマーアロイについて
も,バクスター社が10年以上前から開発していたポリマーアロイ(乙
5)と極めて近似する。
なお,本件実施品1は,本件発明1-1の実施に伴って,無菌的液体
収納容器であるこの種の製品にとっては決定的欠陥であるというべき
液漏れを生じ,発売4年目を売上額の頂点として国内販売を撤退しなけ
ればならなかった。その後,国外販売分において売上げを計上している
のは,被告における別途の技術改良の成果である。
(イ)本件実施品1の売上高等
また,本件実施品1の売上高は,本件特許権等1の成立とは何の関連
性もなく,競合他社の競合品と市場におけるシェアを分け合っている。
イ本件発明等2について
(ア)本件発明等2の技術的な意義について
本件発明2-2は,国立がんセンター研究所のP6医学博士の思想で
ある培地充填済みバッグについての滅菌包装の技術にすぎず,培地充填
済みバッグを製造するには,コージンバイオ社の特許発明(乙12の1。
以下,「コージンンバイオ社発明」という。)について実施料の支払いを
しなければならない(乙12の2)。したがって,本件実施品2におい
て中心的な評価を受けるのは,本件発明2-1というべきである。
(イ)本件実施品2の売上高等
本件実施品2の売上高は,本件特許権等2の成立とは何の関連性もな
く,競合他社の競合品と市場におけるシェアを分け合っている。
平成15年以降に売上高が向上しているのは,被告において取り組ん
だ品質向上,販売体制の改善の工夫と努力によるものである(甲169
等参照)。
ウ本件発明等3について
(ア)藤沢薬品工業との共同開発契約について
本件実施品3に実質的に寄与している技術は,本件発明3-1,3-
2,3-3であるが,いずれにしても,本件発明等3は,藤沢薬品工業
との開発協力契約に基づいて開発され,本件実施品3は,藤沢薬品工業
に対してのみ販売できたのであるから,本件特許権等3により,被告に
特許権者らしい優越的地位はほとんど生じていない。
(イ)本件実施品3の売上高等
本件実施品3の売上高は,本件特許権等3の成立とは何の関連性もな
く,むしろ,平成12年には藤沢薬品工業がその使用を中止したために,
主要な権利の存続期間の大半が残存しているにかかわらず,売上高はゼ
ロになっている。
また,抗生物質キット製品の売上げ個数は,別紙抗生物質キット医薬
品及びハーフキットの売上個数記載の「1抗生物質キット」のとおり
であるところ,大塚製薬のシェアがおおむね全体の50%を超えている
のに対し,本件実施品3のシェアは,その2分の1に達するのも困難な
状況である。
エ本件発明等4について
(ア)本件実施品4の売上高等
本件実施品4の売上高も,本件特許権等4の成立とはほとんど無関係
に緩やかに推移した後,これらの権利が存続中に下降している。本件実
施品4については,市場のニーズを一早く把握して商品化した点に最大
の功績があったのであり,その売上額は被告の販売努力によって維持さ
れているというべきである。
ハーフキット製品の売上げ個数は,別紙抗生物質キット医薬品及びハ
ーフキットの売上個数記載の「2ハーフキット」のとおりであるとこ
ろ,この業界でも大塚製薬のシェアが大きい(なお,「大塚生食注TN」
の販売個数が減少しているのは,同製品と「大塚生食注2ポート」との
市場での交替の実質を有するためと解される。)。
(イ)本件実施品4の売上高に貢献する他の要因
なお,本件実施品4の売上高には,被告の意匠権(乙43の2)も多
大な貢献をしている。
オ本件発明等5について
(ア)藤沢薬品工業との共同開発契約について
本件発明等5は,藤沢薬品工業との開発協力契約に基づいているので,
本件実施品5は,藤沢薬品工業に対してのみ販売できたのであって,本
件特許権等5より,被告に特許権者らしい優越的地位はほとんど生じて
いない。そして,平成16年以降,藤沢薬品工業が,被告以外に本件発
明等5を実施させ,被告の売上高は激減していることからしても,被告
は,法律に基づいて認められる通常実施権を超える独占効とされるよう
な恩恵は受けていない。
(イ)本件発明等5の技術的な意義について
また,本件発明5は,藤沢薬品工業が特許出願した発明(甲142~
145)に基づいて優先権を主張するものである。
(ウ)本件実施品5の売上高等
抗生物質キット製品の売上げ個数は,別紙抗生物質キット医薬品及び
ハーフキットの売上個数記載「1抗生物質キット」のとおりであると
ころ,大塚製薬のシェアがおおむね全体の50%を超えているのに対し,
本件実施品5のシェアは,その2分の1に達するのも困難な状況である。
カ本件発明等6について
(ア)本件実施品6の売上高等
抗生物質キット製品の売上げ個数は,別紙抗生物質キット医薬品及び
ハーフキットの売上個数記載の「1抗生物質キット」のとおりである
ところ,大塚製薬のシェアがおおむね全体の50%を超えているのに対
し,本件実施品6のシェアは,その2分の1に達するのも困難な状況で
ある。
(イ)本件実施品6の売上げに貢献する他の要因
本件実施品6においては,本件発明6-1,6-2の改良技術が10
分の9の貢献をしており,本件発明等6のうち,実施が認められる本件
発明6-4は,10分の1の貢献をしているにすぎない。
4争点1-4(仮想実施料率)について
【原告の主張】
(1)発明協会研究センター編の「実施料率」(第5版。社団法人発明協会)に
よれば,医療用機械器具を含む精密機械器具の実施料率(イニシャルペイメ
ントなし)の平均値は,昭和63年から平成3年までが6.6%,平成4年
から平成10年までが6.8%とされている(甲39・129頁)。
したがって,本件発明等について,第三者に実施許諾した場合の実施料率
は,6.7%を下らない。
本件発明等の中心的技術分野が「成形」であるというのは根拠がない。
むしろ,被告が主張する調査研究報告書によるとしても,バイオ・製薬関
係のロイヤリティ率6%とするのが相当である。
【被告の主張】
平成21年度特許庁産業財産権制度問題調査研究報告書「知的財産の価値評
価を踏まえた特許等の活用の在り方に関する調査研究報告書~知的財産(資産)
価値及びロイヤルティ料率に関する実態把握~」(乙36)によると,技術分類
別ロイヤリティ料率(国内アンケート調査)のうち,「成形」の実施料率は3.
4%である。
したがって,本件発明等の実施料率は3.4%と解すべきである。
5争点1-5(使用者の貢献度)について
【原告の主張】
(1)本件発明等1について
本件発明等1のテーマの選定は被告が行い,開発は原告の職務の遂行上行
われたものであり,被告社内で被告の施設を用いて行われ,特許申請や維持
などの権利化,実施化についても被告が関与している。
しかしながら,血小板保存用バッグの素材及び加工に関する技術は,従前
被告には存在しなかった。
これらを考慮すると,被告の本件発明等1への貢献度は50%を上回らな
い。
本件発明等2について
本件発明等2の開発は原告の職務の遂行上行われたものであり,被告社内
で被告の施設を用いて行われ,特許申請や維持などの権利化,実施化につい
ても被告が関与している。
しかしながら,本件発明等2は,原告が社外の化学製品の会社の技術者と
の協議・会合によりヒントを得て発明したもので,細胞培養用バッグの素材
(本件発明2-1)は,それ以前は被告に存在せず,技術の蓄積はなかった。
また,製造方法(本件発明2-2)についても,原告が社外の国立がんセン
ターの研究者との対談を元に構成したものであり,意匠(本件創作意匠2)
についても,被告社内にはポリエチレン(PE)製の薄膜バッグの製品も類
似品も存在しなかった。なお,本件発明2-1,2-2について,P6博士
からは,ユーザーとしての立場からの開発の要望があっただけであり,具体
的な教示はなかった。
これらを考慮すると,被告の本件発明等2への貢献度は50%を上回らな
い。
(3)本件発明等3について
本件発明等3の開発は主に藤沢薬品工業からの要請で共同開発としてスタ
ートし,原告の職務の遂行上行われたものであり,被告社内で被告の施設を
用いて行われ,特許申請や維持などの権利化,実施化についても被告が関与
している。
しかしながら,原告は,①連通順序を制御するための,ユニークな形状の
ハブを考え(本件発明3-1),②独自のカプセルキャップ形状・機構を発
明しており(本件発明3-2。甲65,66,67の1~3),特に,被告
は独自のハブによる連通順序の制御を本件実施品3のセールスポイントとし
て売り込みをしている。また,被告社内に一体型キットの類似品はなく技術
の蓄積はなかった。
これらを考慮すると,被告の本件発明等3への貢献度は50%を上回らな
い。
(4)本件発明等4について
本件発明等4の開発テーマは被告社内で持ち上がったもので,開発は原告
の職務の遂行上行われたものであり,被告社内で被告の施設を用いて行われ,
特許申請や維持などの権利化,実施化についても被告が関与している。
しかしながら,原告は,被告社内で示された製品についての要求項目に基
づく製品の全体形状を構成し(本件発明4-1。甲71の2・3),独自の
着想で滅菌方法を発明している(本件発明4-2)。また,被告社内はもち
ろん,日本国内にも類似品はなく,被告社内に技術の蓄積はなかった。
これらを考慮すると,被告の本件発明等4への貢献度は50%を上回らな
い。
(5)本件発明等5について
本件発明等5の開発は藤沢薬品工業からの要請により共同開発としてスタ
ートし,開発は原告の職務の遂行上行われたものであり,被告社内で被告の
施設を用いて行われ,特許申請や維持などの権利化,実施化についても被告
が関与している。
しかしながら,原告は独自に二色成形による弱シール破断方式のユニーク
な連通構造を提案したもので,その連通構造は,それによって部品点数が簡
素化し,容器自体も小型化するなど,本件実施品5のセールスポイントに直
結している。また,被告社内に二色成型に関する類似品はなく,技術の蓄積
はなかった。
これらを考慮すると,被告の本件発明等5への貢献度は50%を上回らな
い。
(6)本件発明等6について
本件発明等6の開発は原告の職務の遂行上行われたものであり,被告社内
で被告の施設を用いて行われ,特許申請や維持などの権利化,実施化につい
ても被告が関与している。
しかしながら,本件発明6-1,6-2及び6-4の開発テーマは被告社
内で持ち上がったものであるが,本件発明6-3は,原告独自に開発テーマ
を見出して発明をしたものである。
また,本件発明6-1,6-2については,本質的部分である複室容器の
構成は,原告の着想である。
これらを考慮すると,被告の本件発明等6への貢献度は50%を上回らな
い。
【被告の主張】
本件発明等の経緯
被告は,蓄積された技術力,ノウハウを最大限に用いた誠心誠意の丁寧な
物づくり,販売にあたっては誠意を尽くした販売対応と可能な限りの安価な
提供をモットーとしており,本件発明等がされた頃は,被告に対し,顧客は
もとより同業者からも大きな信用が寄せられていた。
本件発明等1,2は,このような被告に対する信用を基に,日本赤十字社
や国立がんセンターの医師らからの協力要請を発端とし,こうした医師らか
らの貴重な情報提供と技術的課題の提供,これの解決手段のヒントに関する
情報提供等の貴重かつ重要な協力によってされたものである。
本件発明等3,5は,同業者であると共に顧客としての立場も有する藤沢
薬品工業からの開発協力を発端としているが,これも被告の誠実な製品製造
と丁寧高度な技術力,販売対応にあたっての誠実さに伴う信用力が評価され
てのことである。
本件発明等4は,汎用的なキット製品として,技術的には上記のキット製
品である本件発明等3,5の技術の発展上にあり,これに国の厚生行政とい
う立場で技術を見て来た被告社員のP4の視点(甲69参照)が加わり,開
発されるようになったものである。
本件発明等6は,キット製品を更に発展させた技術というべきものである
ところ,主として営業の立場から広く業界に目を配っていた被告社員のP5
(甲92)の発案によって開発が始まったものであり,製造現場での研究試
行を経て,本件発明6-1,6-2を越えた技術に到達してこれを実施して
いるものである。
(2)実施品の製造販売について
本件実施品1については,液漏れ,バリ,イボ破れなど製品としての本質
的欠陥が生じたため,被告において,その品質向上のために費用を惜しまぬ
努力をしたが(乙10の1~5参照),それでも,最終的には約1000万円
を越える赤字で国内販売中止となったものである。原告は,この損害を全く
負担していない。
また,本件発明2-2は,被告は,製品開発の助言・指導を行ったP6博
士の知らない間に,原告を発明者として特許出願を行ったものであり,その
ことが発覚してからは,P6博士の関連企業に対し,実施料を支払っている
(乙12の2)。
(3)小括
以上のとおり,本件発明等は,被告の信用力を基礎として,日本赤十字社
の医師(本件発明等1),国立がんセンターのP6博士(本件発明等2),藤
沢薬品工業の技術者(本件発明等3,5)等の技術的教示や協力により可能
となったものである。また,本件発明等4,6は,被告の営業・経営全般の
観点からの発案を技術的基点としてされたものである。
これらの点を考慮すれば,被告の本件発明等への貢献した割合は,いずれ
も95%を下らないというべきである。
6争点1-6(共同発明者間における原告の貢献度)について
【原告の主張】
(1)本件発明等1
本件発明1-1,1-2は単独発明,本件発明1-5は被告社員2名の共
同発明であるが,本件発明等1を全体としてみれば,共同発明者間における
原告の貢献割合は90%を下らない。
(2)本件発明等2
本件発明2-1,本件発明2-2は単独発明であり,本件創作意匠2は被
告社員2名の共同創作意匠であるが,本件発明等2を全体としてみれば,共
同発明者間における原告の貢献割合は95%を下らない。
(3)本件発明等3
ア本件発明3-1,3-2,本件創作意匠3は被告社員3名及び藤沢薬品
工業の社員3名の共同発明又は共同創作意匠,本件発明3-3は被告社員
3名の共同発明である。
本件特許権3-1,3-2,本件意匠権3は,被告と藤沢薬品工業の共
有であるが,藤沢薬品工業は,製薬会社で被告と競合する医療用具メーカ
ーではなく,被告が本件実施品3を藤沢薬品工業に販売するにあたって,
藤沢薬品工業に実施料を支払う必要はない。このことからすれば,本件実
施品3について本件発明等3の実施により被告が受けるべき利益の額に
ついての共同発明者の貢献は,被告の社員3名についてのみ認められるべ
きである。なお,被告は,本件発明等3について,藤沢薬品工業の技術者
の貢献が大であると主張するが,基本的には,藤沢薬品工業側は商品コ
ンセプトの立案(課題の提供)を行い,被告側が具体的な材質,形状,
構造などの開発(課題の解決)を行うという関係であって,重要な役割
を果たしたのは被告側である。
イ本件発明3-1,3-2,本件創作意匠3は3名,本件特許3-3は2
名の共同でされたものであるが,本件実施品3の最大の特徴である連通機
構の制御構造(本件発明3-1)は原告のアイデアによるものである(甲
65,66,67の1~3,196の2)。被告は,そのアイデアが,P
7の製図した図面(甲126の4,196の3~5)に記載されているこ
とから,同人の発案によるものであると主張するが,発案者は製図者と一
致するものではなく,理由がない。
ウ以上を踏まえて,本件発明等3を全体としてみれば,共同発明者間にお
ける原告の貢献割合は40%を下らない。
(4)本件発明等4
ア本件発明4-1は被告社員4名の共同発明,本件発明4-2,本件考案
4は被告社員3名の共同発明又は共同考案である。
イ本件発明4-1は,原告が主にアイデアを出し(甲71の3。ここには
ガイド棹は記載されていないものの,両頭針やその係止部は既に記載され
ている。),原告の部下であるP8が製図や報告書作成などの実務を行っ
たものである(甲127,乙15の2・3)。
ウ以上を踏まえて,本件発明等4を全体としてみれば,共同発明者間にお
ける原告の貢献割合は25%を下らない。
(5)本件発明等5
ア本件発明5,本件創作意匠5は被告社員3名及び藤沢薬品工業の社員3
名の共同発明又は共同創作意匠である。
本件発明等3の場合と同様に,本件特許権5,本件意匠権5は,被告と
藤沢薬品工業の共有であるが,藤沢薬品工業は,製薬会社で被告と競合す
る医療用具メーカーではなく,被告が本件実施品5を藤沢薬品工業に販売
するにあたって,藤沢薬品工業に実施料を支払う必要はない。このことか
らすれば,本件実施品5について本件発明等5の実施により被告が受ける
べき利益の額についての共同発明者の貢献は,被告の社員3名についての
み認められるべきである。なお,被告は,本件発明等5について,藤沢薬
品工業の技術者の貢献が大であると主張するが,基本的には,藤沢薬品工
業側は商品コンセプトの立案(課題の提供)を行い,被告側が具体的な
材質,形状,構造などの開発(課題の解決)を行うという関係であって,
重要な役割を果たしたのは被告側である。
イ本件発明5の2色成形による弱溶着の技術については,原告の発案であ
る(乙16)。
ウ以上を踏まえて,本件発明等5を全体としてみれば,共同発明者間にお
ける原告の貢献割合は33%を下らない。
(6)本件発明等6
ア本件発明6-1,6-2は被告社員2名の共同発明,本件発明6-3,
本件考案6は単独発明又は単独考案,本件発明6-4は被告社員4名の共
同発明である。
イ被告は,本件発明6-1,6-2を具体的に行ったのはP9(甲93)
及びP10(甲95の3,96。)であると主張するが,P9は当時入社
間もない新人であったし,P10はP9の後任として関係書類の整理等に
関与したにすぎない。
ウ以上を踏まえて,本件発明等6を全体としてみれば,共同発明者間にお
ける原告の貢献割合は50%を下らない。
【被告の主張】
(1)本件発明等1,2について
本件発明等1,2の技術に関しては原告の発明の技術の貢献が大きく,ま
た,共同発明者中で原告の貢献が大であると解される。
(2)本件発明等3について
ア本件発明等3の技術に関しては,藤沢薬品工業の技術者の貢献が大であ
ることはもとより,被告においても,P11,P7,P12などの若い技
術者の活躍が大きい。
連通機構の制御構造(本件発明3-1)については,P7の作成図面に
示されているところ(甲126の4,196の3~5),原告の技術(甲
126の2,196の1・2)によっては,当該構造に到達できない。
また,バイアルを確実に押し下げる構成(本件発明3-2)についても,
藤沢薬品工業のP3が口紅からヒントを得て案出したものである。
イ共同発明者間において,等分の寄与として計算すると,本件発明等3に
おける原告の貢献割合は,平均して18分の5である。
(3)本件発明等4について
ア本件発明等4の技術については,P8,P7,P13の貢献が実質的に
は大きい。原告は,これらの若い技術者の上司として助言を与え,まとめ
役をつとめたにすぎない。これらの事実は,本件発明4-1の「ガイド棹」
が,原告が作成したとされる図面(甲71の3)ではなく,むしろ,P8
が作成した図面(甲127,乙15の2・3)に明確に書き込まれている
こと,本件考案4の「天面の扁平な倒立台」を具備する枠部材は,原告が
作成したとされる図面(甲71の3)には示されておらず,P8が作成し
た図面(甲127,乙15の2)に「ゴム栓」と指示されていることから
も明らかである。
イ共同発明者間において,等分の寄与として計算すると,本件発明等4に
おける原告の貢献割合は,平均して10分の1である。
(4)本件発明等5について
ア本件発明等5の技術に関しては,藤沢薬品工業の技術者の貢献が大であ
ることはもとより,被告においても,P14,P15などの若い技術者の
活躍が大きい(乙38の1・2)。
イしかしながら,共同発明者間において,等分の寄与として計算すると,
本件発明等5における原告の貢献割合は,平均して6分の1である。
(5)本件発明等6について
ア本件実施品6に用いられている中心的技術は,P10,P9によって開
発された本件発明等6以外の技術であり,実施されている本件発明6-4
の技術は10分の1の貢献をしているにすぎない。また,本件発明6-4
については,P10,P16の貢献が重要であり,原告,P17の貢献は
比較的名目的な関与にすぎない。
イしかしながら,共同発明者間において,等分の寄与として計算すると,
本件発明等6における原告の貢献割合は,平均して40分の1である。
7争点1-7(相当の対価額)について
【原告の主張】
上記3ないし6の各【原告の主張】を踏まえると,相当の対価額は,以下の
とおりである。
(1)計算式
相当の対価額の計算式は,以下による。
ア使用者が受けるべき利益の額
=被告売上高合計(A)×超過実施分(B)×想定実施料率(C)
イ相当な対価の額
=使用者が受けるべき利益の額×原告の貢献度(D)×共同発明貢献割合(E)
(2)平成20年までの相当な対価の額
上記(1)の計算式によれば,平成20年までの相当な対価の額は以下のとお
りであり,小計●●●●●●●●●●●円である。
ア本件発明等1(Lバッグ/プレトバッグ)●●●●●●●●●円
●●●●●●
X=●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
イ本件発明等2(Cバッグ/カルチャーバッグ)●●●●●●●●●円
●●●●●
X=●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
ウ本件発明等3(FNB)●●●●●●●●●円
●●●●●
X=●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
エ本件発明等4(ハーフキット)●●●●●●●●●●●円
●●●●●
X=●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
オ本件発明等5(FNB-Ⅳ)●●●●●●●●●円
●●●●●
X=●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
カ本件発明等6(PLW)●●●●●●●●●●●円
●●●●●
X=●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
(3)平成21年以降の相当な対価の額
上記(1)の計算式によれば,平成21年以降の相当な対価の額は以下のとお
りであり,小計●●●●●●●●●●●円である。
ア本件発明等1(Lバッグ/プレトバッグ)●●●●●●●円
●●●●●
X=●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
イ本件発明等2(Cバッグ/カルチャーバッグ)●●●●●●●●●円
●●●●●
X=●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
ウ本件発明等3(FNB)●円
エ本件発明等4(ハーフキット)●●●●●●●●●円
●●●●●
X=●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
オ本件発明等5(FNB-Ⅳ)●●●●●●●●●円
●●●●●
X=●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
カ本件発明等6(PLW)●●●●●●●●●●●円
●●●●●
X=●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
(4)相当な対価の額総合計
相当な対価の額総合計は,上記(2),(3)の小計を合算した●●●●●●●●
●●●●円である。
【被告の主張】
本件特許権等による超過売上高は,それぞれの製品に関する複数の権利全
部を合わせてもゼロであり,相当の対価額はゼロである。
なお,仮に,超過売上高を5%としても,平成20年までの相当な対価の
額は以下のとおりである(ただし,後記9【被告の主張】の消滅時効を考慮
した上での計算である。)。
ア本件発明等1(Lバッグ・プレトバッグ)●●●円
●●●●●
X=●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
イ本件発明等2(Cバッグ・カルチャーバッグ)●●●●●●円
●●●●●
X=●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●
ウ本件発明等3(FNB)●●●●●●円
●●●●●
X=●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●
エ本件発明等4(ハーフキット)●●●●●●●円
●●●●●
X=●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●
オ本件発明等5(FNB-Ⅳ)●●●●●●円
●●●●●
X=●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●
カ本件発明等6(PLW)●●●●●●円
●●●●●
X=●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●
8争点2(原告による放棄の意思表示の有無)について
【被告の主張】
原告による放棄の意思表示について
ア原告退職時における被告の発明考案取扱規定(乙1の5。平成20年1
月1日実施。以下「平成20年規定」という。)の第12条には,「第8条
~第10条(注:出願補償・登録補償・実績補償)の規定は,補償金の支
給時に会社に在籍している従業員等に対してのみ適用される」と規定され
ており,退職時以降は職務発明対価請求権を認めないとされている。
これに基づき,原告は,その退職願(乙2)において,「在職中の発明
考案等に係わる補償金の受給権は全て放棄いたします」との約束している
のであるから,職務発明の対価請求権をすべて放棄したものである。
イ原告は,退職願(乙2)の上記文言は,平成20年規定(乙1の5)
第12条の規定を再確認(遵守することを誓約)したものにすぎないと
主張する。
しかしながら,上記文言は,単に平成20年規定の12条に定める受
給権の不存在を確認するにとどまらず,積極的に,仮に何らかの権利が残
存するとしてもこれを放棄する旨を約したものである。
原告の主張に対する反論
ア強迫による意思表示は存在しないこと
被告は,原告にあっせん申請の取下げを強要したことはなく,また平成
16年以降の異動において原告を冷遇したこともない。
原告は,使用者である被告に対し,自己が主張すべきと考える権利主張
については,遠慮なくしていたのであり,退職時にそれができない理由は
ない。
原告は,退職願(乙2)に署名押印するに当たっては,この文書を自宅
に持ち帰り十分検討しており,自由な意思に基づいて,放棄の意思表示を
したことは明らかである。
イ特許法35条3項に照らして無効であるとの主張について
原告の主張は趣旨不明といわざるを得ない。
ウ錯誤無効ではないこと
退職願(乙2)における放棄の意思表示は,自らの有する受給権は全て
放棄し退職後には請求しないという極めて単純明快なものであり,平成2
0年規定の第12条の定める受給権取得とは異なる場面の問題である。
したがって,原告が,前者を後者の内容と混同して錯誤に陥るというこ
とは考えられず,仮に錯誤に陥ったとしても,放棄の意思表示は,動機の
錯誤であるところ,そのような内容の表示はされていないし,原告には単
純明快な日本語の内容を誤解したという重大な過失があったというべき
である。
なお,原告は,強迫による意思表示であるとの主張をして,放棄の意思
表示が有効であることは認めていることから,この点について,自白が成
立する。
【原告の主張】
(1)退職願の放棄条項の解釈について
ア原告の退職願(乙2)における放棄条項は,「退職に際しては就業規
則および発明考案取扱規定に定める下記の記載事項を遵守いたします」
との記載の下に設けられていることから,平成20年規定(乙1の5)
第12条の規定を再確認(遵守することを誓約)したものにすぎない。
すなわち,平成20年規定の第12条は,被告においては,職務発明
の出願補償金,登録補償金,実績補償金は,在職中の従業員についてし
か適用されず,発明考案をなした従業員が退職した場合には,発明考案
の対価として出願補償金,登録補償金,実績補償金を請求する権利がな
いことを定めたものであるが,従業員の在職中の発明考案等に係わる補
償金の受給権・発明考案等の対価請求権の一切を放棄する旨を定めたも
のではない(実際に原告はそのように認識していた。)。
イまた,従業員等が対価請求権を有効に放棄するなど,特段の事情のない
限り,従業員等は,使用者等の算出した額に拘束されることなく,特許法
に基づく「相当な対価」を使用者等に請求することができるものと解すべ
きである(東京高裁平成13年5月22日判決・判例時報1753号23
頁,オリンパス事件控訴審判決参照)。
しかるところ,本件では,上記退職願の文言に加え,平成9年,平成
13年,平成15年の補償金申請において,原告が被告からの補償金額
の通知を受けて不服申立て(甲115の1~6),滋賀労働局へのあっ
せん申請(甲116)をしていたこと,退職願(乙2)は,退職金の支
給を受けるために署名押印しなければならない書類であったことから
すれば,原告において,対価請求権を有効に放棄するなどの特段の事情
がないことは明らかである。
ウしたがって,上記文言によって,原告が在職中の職務発明の対価請求
権を放棄したということはできない。
(2)強迫による意思表示の取消し
ア原告が上記のとおり不服申立て及びあっせん申請をしたのに対し,被
告のP18社長は,平成16年3月頃,被告の内部事情をあからさまに
したとして原告を叱責し,あっせん申請を取り下げるよう強要した。そ
の後,平成16年4月から,原告は事実上左遷され,パート従業員と同
じグループとして扱われ,専用回線も与えられず,仕事を割り振られな
いなど冷遇・差別的待遇を受けた。これらの被告の一連の行為は強迫行
為といえ,原告は,このような継続した脅迫行為により,もし退職願の
記載に異議を述べたら,退職金の不支給を含む経済上の不利益を科せら
れるものと畏怖して,これに署名をしたのである。
イ被告による上記脅迫行為は,原告に,発明考案取扱規定についての異
議を述べさせず,ひいては,退職に先立って職務発明等の対価請求権を
放棄させることを意図したものである点において,特許法35条3項の
趣旨に照らして違法な目的である上,原告から事実上仕事を奪い,意欲
を減退させるということは,原告の人格権を毀損・侵害するものである
から,手段に違法性があることも明らかである。
したがって,原告は,被告の強迫行為に基づいて,放棄条項を含む退
職願(乙2)に署名させられたものであるから,民法96条1項に基づ
き,同退職願(乙2)の「在職中の発明考案等に係わる補償金の受給権
は全て放棄する」との意思表示を取り消す。
(3)退職願の放棄条項は,特許法35条3項に照らして無効であること
ア特許法35条3項は強行法規,もしくは強行性のある規定であるか
ら,使用者の側が一方的に職務発明の対価請求権を従業員に放棄させる
ことは特許法35条3項に違反して無効である。
イ特許法35条3項の趣旨は,従業員等の利益保護を図り,従業員等に
インセンティブを与えるためのものである。
したがって,使用者が従業員との契約で,職務発明の対価請求権を放
棄させた場合,放棄の意思表示の効力を肯定するには,労働者の自由な
意思に基づくところが明確でなければならず,自由な意思に基づいてさ
れたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在しなけ
ればならないというべきである(退職金債権の放棄に関する最高裁昭和
48年1月19日判決・判例時報695号参照)。
本件では,上記(2)のとおり,原告が自由な意思に基づき放棄条項を
含む退職願に署名押印したものではないことは明らかである。加えて,
原告の退職は定年退職であり,被告側が書き入れている退職願(乙2)
の原告の退職金計算式をみても,原告の退職金に何ら減額されている点
はなく,退職に際して,原告には何ら負債や落ち度はなかったのである
から,原告が職務発明の対価請求権を放棄する合理的理由は客観的に存
在しない。
ウよって,退職願(乙2)に基づく職務発明の対価請求権を放棄する意
思表示は無効である。
(4)錯誤無効
ア原告は,退職願(乙2)に署名押印する際,「退職に際しては就業規
則および発明考案取扱規定に定める下記の記載事項を遵守いたします」
との文言があり,その記載事項のうち4項に「在職中の発明考案等に係
わる補償金の受給権は全て放棄いたします。」との記載があることをみ
て,この記載に基づく意思表示は,平成20年規定第12条(「実績補
償金の規定は,補償金の支給時に会社に在籍している従業員等に対して
のみ適用される」)と同じことを記載し,その内容を確認させるもので,
原告が在職中になした発明考案等にかかる被告に対する職務発明等の
対価請求権の一切を放棄するとの意思表示をなすものではないと錯誤
に陥って署名押印したものである(甲168・13頁)。
イもし,退職願(乙2)への署名押印が,原告の在職中の職務発明等の
対価の一切について放棄する意思表示を個別に被告へ対してなすもの
であると知っていたら,原告は退職願(乙2)に署名するはずがなく(因
果関係),かつ,在職中の職務発明等の対価が相当な金額になる可能性
があるにもかかわらず,退職願の署名のみで職務発明の対価を放棄しな
いことは一般社会通念に照らして至当であるから(重要性),このよう
な錯誤は,要素の錯誤といえる。
ウまた,①退職願は,退職者が一律に署名押印する書類であること,②
退職願の主眼は退職の意思表示であること,③原告は退職願(乙2)に
署名押印するにあたって,放棄条項の説明を受けていないこと,④原告
は,職務発明等に係る実施品の売上額について開示を受けたこともなく,
放棄する対象となる権利が明確ではないこと,⑤退職願(乙2),平成
20年規定第12条の文言から,新たな放棄の意思表示とは考え難いこ
となどからすれば,原告が上記錯誤に陥ったことはやむを得ないことで
あり,重大な過失はない。
なお,原告は退職願(乙2)を自宅で十分に検討したことはない。
エ以上により,退職願(乙2)の文言が,被告主張のように,原告が在
職中になした職務発明等についての被告への対価請求権の一切を放棄
するとの意思表示をなしたものとみなされるとしても,その意思表示は
錯誤により無効である(民法95条)。
9争点3(消滅時効の成否)について
【被告の主張】
本件訴訟の訴状が送達されたのは平成21年4月であることから,原告の請
求権のうち,平成11年3月末までに履行期が到来したものについては,既に
消滅時効が完成している。被告はこれを援用する。
したがって,本件各実施品の国内売上額のうち,平成11年4月以降に係る
分のみが,対象となる。
【原告の主張】
(1)消滅時効の起算日について
ア民法167条1項は,「消滅時効は,権利を行使することができる時
から進行する」とされ,職務発明の対価請求権については「勤務規則等
に対価の支払い時期が定められているときは,勤務規則等の定めによる
支払時期が到来するまでの間は,相当の対価の支払いを受ける権利の行
使につき法律上の障害があるものとして,その支払いを求めることがで
きないというべきである。そうすると,勤務規則等に,使用者等が従業
員等に対して支払うべき対価の支払時期に関する条項がある場合には,
その支払時期が相当の対価の支払を受ける権利の消滅時効の起算点と
なっていると解するのが相当である」とされている(最高裁平成15年
4月22日判決・民集57巻4号477頁,オリンパス事件最高裁判決。
以下「最高裁平成15年判決」という。)。
イ平成3年規定の第10条(実績補償金)では,実績補償金について「3
年間の純利益額を基準」とされている。しかしながら,発明考案者とし
ては,発明の実施品の販売開始から3年を経過しても,すぐに売上高や
純利益があったかどうかというのは分からず,販売開始から3年を経過
して,同条にいう3年ごとの評価の時期が到来したとしても,発明考案
者がすぐに実績補償金の支給申請をすることは事実上不可能である。
このため,被告では,平成3年規定の解釈運用として,発明考案者が
発売後,初めて実績補償金を申請する場合には,過去3年以上前から製
造・販売している場合に,製造・販売当初からの実績を加味して申請す
ることができるとされている(甲181の1)。
したがって,被告では,発明考案者は,発明考案の実施品が発売され
て3年以上を経過して相当な売上実績とこれに基づく純利益が上がっ
たことが判明して初めて実績補償金の申請が可能となるのであるから,
発明の実施品に対する実績補償金の支払い時期は,売上実績が上がって
3年間以上が経過し,その後に到来した実績補償金の申請時期に,発明
考案者が初めての実績補償金の申請をすることを条件として,発明考案
者が最初の申請をした当該実績補償金の支払時期に初めて到来し,この
時期が時効の起算点となるというべきである。
ウ被告は,本件各実施品の売上げ時期が,職務発明の対価請求権の履行期
(すなわち消滅時効の起算日)と主張するようであるが,それは誤りであ
る。
(2)時効の中断について
原告は,平成20年11月18日到達の内容証明郵便で被告に催告書兼
提訴予告通知書を送付し,その催告書到達日から6か月以内に提訴してい
る(甲107の1・2)。
したがって,時効の中断は平成20年11月18日の催告日に遡る(民
法153条)。
(3)本件発明等の消滅時効の成否
ア本件発明等1について
(ア)原告は,本件実施品1について,発売当初(平成元年)は必ずし
も純利益が上がっていないと聞いており,初めて実績補償金の申請を
したのは平成15年のことで(甲115の4),このときの申請は,
平成11年度以前の売上げに基づく純利益も対象に含まれていた。同
補償金の支払時期は,平成16年3月25日と予定されていた(甲1
81の1)。
以上より,本件実施品1の発売日(平成元年)から平成11年まで
の売上高に対する実績補償金の支払時期は平成16年3月25日で
あり,同日が時効の起算点である。
(イ)したがって,原告の催告書の到達日平成20年11月18日にお
いて消滅時効の期間10年は経過していない。
イ本件発明等2について
(ア)原告が,本件実施品2について,初めて実績補償金の申請をした
のは平成9年のことで(甲182の1),同補償金の支払時期は,平
成10年11月25日であった(甲165の1)。同日支払われた実
績補償金は,発売日(平成2年)から平成8年までの売上げに基づく
純利益が対象となっていた(甲182の2)。
以上より,本件実施品2の発売日(平成2年)から平成8年までの
売上げに対する実績補償金の支払時期は平成10年11月25日で
あり,同日が時効の起算点である。
(イ)したがって,原告の催告書の到達日平成20年11月18日にお
いて消滅時効の期間10年は経過していない。
ウ本件発明等3について
(ア)原告が,本件実施品3について,初めて実績補償金の申請をした
のは平成9年のことで(甲165の2),同補償金の支払時期は,平
成10年11月25日であった(甲165の1)。同日支払われた実
績補償金は,発売日(平成2年)から平成8年までの売上げに基づく
純利益が対象となっていた(甲165の2)。
以上より,本件実施品3の発売日(平成2年)から平成8年までの
売上げに対する実績補償金の支払時期は平成10年11月25日で
あり,同日が時効の起算点である。
(イ)したがって,原告の催告書の到達日平成20年11月18日にお
いて消滅時効の期間10年は経過していない。
エ本件発明等4について
(ア)原告が,本件実施品4について,初めて実績補償金の申請をした
のは平成13年のことで(甲183の1),同補償金の支払時期は,
平成14年3月25日であった(甲183の2)。同日支払われた実
績補償金は,平成9年以前及び平成10年から平成12年までの売上
げに基づく純利益が対象となっていた(甲183の1)。
以上より,本件実施品4の発売日(平成6年)から平成12年まで
の売上げに対する実績補償金の支払時期は平成14年3月25日で
あり,同日が時効の起算点である。
(イ)したがって,原告の催告書の到達日平成20年11月18日にお
いて消滅時効の期間10年は経過していない。
オ本件発明等5,6について
本件実施品5及び本件実施品6については,発売時期,実績補償金の
支払時期からみて,消滅時効の期間が経過していないことは明らかであ

10争点4(控除すべき金額)について
【被告の主張】
原告は,本件発明等の補償金として受領した金額は合計166万0557円
であり,同金額は控除されるべきである。
そのほか,原告は,被告から報奨金・技術賞などの名目で合計24万166
6円を受領しているところ(後記【原告の主張】参照),これらの金員は,その
名目を問わず,職務発明の対価に包含されるものであり,同金額も控除される
べきである。
【原告の主張】
原告が,本件発明等の補償金として受領した合計166万0557円は,控
除されるべきであるが,その他の名目にかかる分は,以下のとおり控除される
べきではない。
(1)本件発明等1について
ア本件実施品1の開発に関連する2名共同での改善提案に関し,原告が,
報奨金として,3000円(4級の額の2分の1),1万円(3級の額
の2分の1)及び1万円(3級の額の2分の1)を受領した事実はある
(甲35)。
しかし,同改善提案の報奨金は,提案報奨規程に基づき「従業員の創
意工夫による改善意見」(同規程第1条)に対して支払われるもので,
特許等の登録の有無に関係なく支払われることから,職務発明等の対価
ではない。
イ本件実施品1の開発に関連する原告の貢献について,賞罰運用細則に
基づき,原告が,技術賞として10万円を受領した事実はある(甲36)。
しかし,技術賞は,「技術の革新その他業務遂行上,きわめて有益な
発明・改良,もしくは工夫考案などにより会社に貢献した者に与える表
彰」(同細則第5条)であって,これも特許登録の有無に関係なく,開
発に関与し会社に貢献した者全般に与えられるものであり,職務発明等
の対価ではない。
(2)本件発明等2について
ア本件実施品2の開発に関連する改善提案に関し,原告が,報奨金とし
て,6000円(4級)を受領した事実はある(甲47)。
しかし,これが職務発明等の対価でないことは,上記(1)アと同様で
ある。
イ本件実施品2の開発に関連する改善提案に関し,同じく提案報奨規定
に基づく特別報奨のうちの技術賞特5級として,5万円を受領した事実
はある。
しかし,提案報奨規定による特別報奨・技術賞は,「採用した提案の
実施後その効果がとくに優秀であると認められた」(同規定第17条)
ことによるものであって,特許等の登録の有無に関係なく支払われるも
のであることから,職務発明等の対価ではない。
(3)本件発明等3について
ア本件実施品3の開発に関連する2名共同での改善提案に関し,原告が,
報奨金として1万円(3級の額の2分の1)を受領した事実はある(甲
62)。
しかし,これが職務発明等の対価でないことは,上記(1)アと同様で
ある。
イ本件実施品3の開発に関連する原告の貢献について,賞罰運用細則に
基づき,原告が,技術賞として2万円(10万円の一部)を受領した事
実はある。
しかし,これが職務発明等の対価でないことは,上記(1)イと同様で
ある。
(4)本件発明等4について
本件実施品4の開発に関連する3名共同での改善提案に関し,原告が,報
奨金として1万6666円(2級の額の3分の1)を受領した事実はある。
しかし,これが職務発明等の対価でないことは,上記(1)アと同様である。
(5)本件発明等6について
ア本件実施品6の開発に関連する改善提案に関し,原告が,報奨金とし
て6000円(4級)を受領した事実は認める(甲94の1・2)。
しかし,これが職務発明等の対価でないことは,上記(1)アと同様で
ある。
イ本件実施品6の開発に関連する改善提案に関し,同じく提案報奨規定
に基づく特別報奨のうちの技術賞特1級として1万円(100万円の一
部)を受領した事実は認める。
しかし,これが職務発明等の対価でないことは,上記イと同様である。
第4当裁判所の判断
1事実関係
掲記の各証拠及び弁論の全趣旨によれば,原告の職務内容及び本件発明等に
ついて,以下の事実関係が認められる。
原告の職務内容
原告は,被告に入社した後,継続的にディスポーザブル医療器具や医薬品
容器等の開発に携わってきた。
原告は,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●となった。
本件発明等は,おおむね原告が●●●●●●●●●●●●●●●●●●に
所属している間にされたものである。
本件発明等1について
ア技術分野
ア本件発明等1は,いずれも血小板保存バッグ又はそれを用いた複合
バッグ(血液成分を分離する親バッグと分離した血液成分を貯蔵する子
バッグとこれらを連結するチューブからなるもの。)に関するものであ
る。
イ血小板保存バッグは,成分献血(血漿,血小板の分離採取)におい
て,分離した血小板を貯蔵し,保存するバッグである。
成分献血では,親バッグに採取された血液は,同バッグの中で遠心分
離によって血漿,血小板,赤血球等に分離され,その後,各成分ごとに
別々の子バッグに分けて貯蔵されるが,血小板保存用バッグは,血小板
を貯蔵し,保存する子バッグである。同バッグの血液出入り口用チュー
ブは,無菌状態を保つためにプロテクターで被包された上,溶着等の手
段により血液バッグと密封され,輸血の際には,プロテクターを開封し
て使用される(乙40の1)。
ウ血小板保存バッグは,血小板の品質がバッグのガス透過性及び可塑
剤溶出の影響を受けるため,①ガス透過性がよいこと(滅菌に用いるエ
チレンオキサイドガス(EOG)が残留しないこと),可塑剤の溶出が
少ないことが要求される。また,バッグの基本性能として,②強度,柔
軟性,透明性,耐熱性,耐寒性,水蒸気透過性,シール性,排液性など
が要求される。さらに,保存した血小板を患者に安全かつ衛生的に輸血
するために,③血液バッグ又は輸液バッグの規格に適合すること,④有
機物,異物,微粒子などの溶出が検出されないことなどが要求される(甲
24)。
イ本件発明等1の経緯
ア本件発明等1に至る経緯
a日本では,昭和61年に成分献血(血漿,血小板の分離採取)が開
始され,これに伴い,血小板を72時間保存する研究が行われるよう
になった。なお,当時の血小板保存バッグの素材には,可塑剤である
フタル酸エステル(DEHP)を含有する軟質ポリ塩化ビニル樹脂(P
VC)が用いられていたが,同バッグでは,血小板の保存期間は2日
間が限界とされていた。
当業者間では,新規のガス透過性の高い素材を用いれば,血小板保
存期間を3~5日に延長できると認識されていたが,血小板の保存に
最適の素材を選定し,その素材を血小板保存用に加工製造する技術は
確立されていなかった(甲24)。
bこのような状況の中,被告では,昭和60年8月に,営業担当のP
19が開発テーマ申請書を提出し,5日間保存可能な血小板保存用バ
ッグの新規開発が開発テーマとされた(甲28)。
イ本件発明等1の経緯
原告は,同年9月頃から,多種多様な材料につき,フタル酸エステル
(DEHP)溶出度,ガス透過性,抗血栓性などの項目ごとの性能試験,
比較検討を行い,臨床試験評価を経て,昭和63年3月頃までに本件発
明1-1を完成させた(甲28~31,32の5)。
ウ本件発明等1の内容
ア本件発明1-1(請求項1~3)について
本件発明1-1は,血小板保存用バッグ及びそれを用いた複合バッグ
の素材に関する発明である。
a従来技術
(a)特公昭62-19461号の発明(乙5も同じ。以下「従来技術1-1①」
という。)
従来技術1-1①は,血液バッグ等についての発明で,相溶化剤
として,本件発明1-1で用いられているエチレンアクリル酸エス
テル共重合体(EEA)ではなく,①スチレン-エチレン-ブチレ
ン-スチレン共重合体(SEBS),②ポリプロピレン(PP),③
エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)を用いていた。
従来技術1-1①は,可塑剤を含有しないために,添加物質が血
小板中に滲出する欠点は解消されたが,高温領域における弾性率が
低く,高圧蒸気滅菌の際にバッグが軟化変形する欠点があった。ま
た,エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)を用いているために,
成形の際の熱分解や高圧蒸気滅菌の際の加水分解で酢酸が発生,遊
離して血小板濃厚液中に混入し,血小板濃厚液を酸性にする欠点が
あった。
なお,バクスター社(アメリカ)の「PL732」は,従来技術
1-1①の実施品であるが,同製品は,国外のみで販売されており,
日本国内では販売されていない。
(b)カワスミ社の塩ビバッグ
カワスミ社が日本国内で販売していた「塩ビバッグ」は,素材に
ポリ塩化ビニル樹脂(PVC)を用いていた。
同バッグでは,酸素透過不足を補うために,面積をより広く形成
する必要があった(甲202・4,5頁)。
c本件発明1-1(請求項1~3)の特徴
本件発明1-1(請求項1~3)は,素材に①ポリエチレンブチレ
ンポリスチレンブロック共重合体,②ポリプロピレン(PP),③エチ
レンアクリル酸エステル共重合体(EEA)によるポリマーアロイを
使用することにより,血小板中に化学物質の滲出がなく,高温又は低
温における変形が少なく,ガス透過性がよく,長期間の保存を可能と
するものである(甲2の2)。
イ本件発明1-2(請求項1)について
本件発明1-2は,血小板保存用バッグの内面の素材及び形状に関す
る発明である。
本件発明1-2(請求項1)は,ポリ(エチレンブチレン)ポリスチ
レンブロック共重合体を含有する重合体からなるシートを2枚重ね合
わせ,その周辺部が熱溶着されたバッグの内面を粗面にすることによっ
て,バッグ内面に血小板がほとんど粘着せず,バッグ内の血小板をほと
んど完全に排出することができ,ガス透過性,柔軟性の優れたバッグを
実現するものである(甲3の2)。
もっとも,血液バッグにおいて,バッグを構成する2枚のシートの内
面にエンボス加工による凹凸を形成すること自体は,従来から行われて
いた(乙6[従来の技術],乙47の1参照)。
ウ本件発明1-5について
本件発明1-5は,プロテクターの開封線に関する発明である。
a従来技術
密封保護のためのプロテクターに開封線を設けること自体は従来技
術であるところ(乙6参照),この開封線は,従来ヒートカッターや高
周波カッター等で形成されていた。
しかしながら,これらの方法による場合,開封線の両縁がヒートカ
ッターや高周波カッターの熱で肉盛りされ,シートがその箇所で収縮,
変形したりするために,プロテクターを手でバッグ上方に引き裂いた
際,必ずしも開封線に沿って引き裂かれなかった。また,開封線の切
断箇所の切断幅がかなり広いために空気中の雑菌が開封線の切断部
分の底に溜まり,プロテクターを開封した際,チューブが汚染される
危険があった。
b本件発明1-5の特徴
本件発明1-5は,開封線を超音波カッターで形成することにより,
プロテクターが開封線に沿って引き裂かれ,切断部分の底に空気中の
雑菌が溜まらないようにしたものである(甲6の2)。
もっとも,超音波カッター自体は公知の技術であり(乙47の2),
本件発明1-5は,上記プロテクターの開封線に超音波カッターを用
いて上記効果を奏するところに特徴がある。
エ被告による特許権等の取得
被告は,昭和63年3月11日に本件発明1-2,平成元年1月9日に
本件発明1-1,同年7月24日に本件発明1-5について出願し,特許
権を取得した。
オ本件発明等1に関する原告の処遇
被告は,平成元年,本件実施品1の製造方法について改善提案の3級及
び4級の評価をして,原告及びP20に対し,合計4万6000円を授与
した(原告の取り分は2万3000円であった。)。また,被告は,平成
2年,本件実施品1の開発について,原告に対し,技術賞及び賞金10万
円を授与した(甲35,36,争いのない事実)。
カ本件実施品1(血小板保存用バッグ)の競合品
アテルモ社は,平成5年頃,ポリ塩化ビニル樹脂(PVC)を用いた
血小板保存バッグを開発し,販売している(甲209)。
(イ)カワスミ社は,平成9年以降,「カワスミ分離バッグPO」を販売
している。
もっとも,「カワスミ分離バッグPO」には,相溶化剤として,本件
発明1-1のエチレンアクリル酸エステル共重合体(EEA)ではなく,
直鎖状低密度ポリエチレン(L-LDPE)が使用されているが,エチ
レンアクリル酸エステル共重合体(EEA)の方が強度,透明性におい
て優れたポリマーアロイが得られる。
キ本件実施品1の販売実績
ア血小板保存用バッグについては,本件実施品1以前は,国内ではカ
ワスミ社の「塩ビバッグ」(上記ウアb参照)などが販売されていた。
イ本件実施品1は,平成元年11月の販売開始以降,日本赤十字社の
血液センターで採用され,成分献血用バッグのみでみれば,平成3年頃
には,日本全国の赤十字血液センターの9割で使用されるなどした(甲
32の5,33)。
ウしかしながら,本件実施品1については,遅くとも平成3年以降,
販売先から液漏れが生じる旨のクレームがあり,被告は,販売先に補償
するなどした(乙7,8)。なお,液漏れの原因は,本件実施品1のう
ちポート部分を含むバッグの素材は本件発明1-1のポリマーアロイ
であったのに対し,チューブの素材はバッグ需要者からの要望もあり従
来どおりポリ塩化ビニル樹脂(PVC)であったことから,両者の接着
加工に不具合が生じたことによるものであり,本件発明1-1に伴って
必然的に生じるものであったとまでは認められない。
また,平成5年頃,テルモ社がポリ塩化ビニル樹脂(PVC)を用い
た血小板保存バッグ(上記カ(ア)参照)を開発し,販売するようになっ
た。
その結果,本件実施品1の売上げは,平成4年を頂点に後退すること
となり(なお,血小板製剤の供給量自体は,平成3年から平成14年に
かけて,ほぼ横ばいで推移している。),被告は,遅くとも平成9年3
月頃,国内での本件実施品1を含む血液事業関連製品の製造から撤退す
るに至った(乙9。なお,本件実施品1の国内販売は,平成11年度ま
で継続されている。)。
本件発明等2について
ア技術分野
ア本件発明等2は,いずれも細胞培養用バッグ(カルチャーバッグと
もいう。)又はこれを含む医療用バッグに関するものである。
イ細胞培養用バッグは,高度先進医療の一つである活性化自己リンパ
球による養子免疫療法でのリンパ球の培養(甲50,51)等に用いら
れる(弁論の全趣旨)。
従来,ほ乳動物の付着細胞や懸濁細胞などについて生体外での培養は
ガラス製容器の中で行われていたが,ガラス製容器では,酸素の流通が
悪いため,古くなった培地を頻繁に交換する必要があり,培養環境もそ
の都度pHが変わるなど一定にならないという欠点があった。細胞培養
用バッグは,このような欠点を克服するものとして用いられるようにな
った(甲7の2)。
ウ一般に,医療用バッグの素材としては,ポリ塩化ビニル樹脂(PV
C)に可塑剤であるフタル酸エステル(DEPH)を添加し,滅菌方法
としてエチレンオキサイドガス(EOG)が用いられることが多い。
しかしながら,細胞培養用バッグの場合,培養した細胞を最終的に人
体に注入するため,これら可塑剤フタル酸エステル(DEPH)やエチ
レンオキサイドガス(EOG)を用いない方が望ましい。
また,細胞培養用バッグは,細胞を培養することから酸素ガス透過性
が高いことが必要であり,さらに,細胞培養中に顕微鏡でバッグ内を観
察するために透明性の高さが要求される(甲42)。また,培地充填済
みの細胞培養用バッグについては,保存性が高く,高強度の素材とする
必要がある一方,強度を保ちながらも加工性が高く,排出時に残液が少
なくなるような柔軟性も必要である(甲47の1)。
イ本件発明等2の経緯
ア本件発明等2に至る経緯
原告は,平成元年7月頃,本件発明等1の試験を行う過程で紹介を受
けた国立がんセンター研究所のP6博士から,細胞培養用バッグについ
て,デュポン社(アメリカ)の「ステリセル」は価格が高いので,安く
てガス透過性の高いバッグを検討しているとの話を聞いた。
原告は,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●が分かった(甲40)。
これを受けて,原告は,新たに細胞培養用バッグとして最適の素材を
検討選定する研究開発に着手した。
イ本件発明等2の経緯
a●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●(甲41),●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●ということに至り(甲42~44),本件発
明2-1を完成させた。
bまた,原告は,平成元年9月26日頃,P6博士から,あらかじめ
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●と打合せを行った(甲45)。
なお,コージンバイオ社は,これに先立つ同年11月30日,発明
者をP6博士,発明の名称を「保存兼組織培養用容器」とする発明に
ついて特許出願を行っていた(乙12の1。「コージンバイオ社発明」)。
同発明は特許査定され,被告も,本件実施品2の製造販売に関して実
施料を支払っている(乙12の2)。
その後,原告は,培地充填済みバッグを無菌的に製造する技術であ
る本件発明2-2を完成させた。
ウ本件発明等2の内容
ア本件発明2-1について
本件発明2-1は,細胞培養用バッグ(カルチャーバッグ)の素材に
関する発明である。
a従来技術
(a)特開昭60-160881号の発明(以下「従来技術2-1①」という。)
従来技術2-1①は,ガラス製培養容器の欠点を改良し,細胞培
養にプラスチック容器を使用する方法であり,容器の素材に特定の
イオノマー樹脂を使用していた。
しかしながら,この容器は,強度が十分でないため破れやすく,
また,同容器の樹脂は,重金属や蒸発残留物が多く,樹脂中のカチ
オン金属によっては細胞に対して毒性を有するものもあるなどの欠
点があった(甲7の2)。
(b)特開昭63-202378号の発明(乙33。以下「従来技術2-1②」
という。)
従来技術2-1②も,容器の素材に,可塑剤フタル酸エステル(D
EPH)を用いず,ポリエチレン系のイオノマー樹脂を用いたもの
である。
しかしながら,これには透明性が低いという難点があり,より透
明度が高く,高強度の素材が求められた。
なお,バクスター社(アメリカ)の「ステリセル」は,従来技術
2-1①の実施品であるが,同製品は,国外のみで販売されており,
日本国内では販売されていない。
b本件発明2-1の特徴
本件発明2-1は,素材にエチレンと炭素数6~8のαオレフィン
の共重合体からなる線状低密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンを
特定の配合比で組成することによって,フィルムの強度・透明性・酸
素透過性などの点を考慮して,最も好ましいポリマーアロイを実現し
たものである(甲7の2)。
イ本件発明2-2(請求項1)について
本件発明2-2は,培地充填済み(液体培地入り)の細胞培養用バッ
グの製造方法(滅菌方法)に関する発明である。
本件発明2-2(請求項1)は,培地充填済みバッグの製造の過程で,
バッグと培地を一体で滅菌するのではなく,バッグ・2次包材について
はγ線による滅菌,液体培地については濾過滅菌をそれぞれ別々に行い,
それらを無菌の状態で製品に仕上げるものであり,これによって滅菌の
難しい液体培地が放射線(γ線)の照射を受けずに済むことになる。
なお,培地充填済みバッグは,上記コージンバイオ社発明以前には見
当たらない(乙12の1参照)。
ウ本件創作意匠2について
本件創作意匠は,採血バッグ用チューブ接続具に係る意匠である。
バッグ内部には二本の突起部により空間が確保されていることから,
バッグのフィルムは完全に密着することにはならず,流れ不良が生じる
のを防止することができる。
エ被告による特許権等の取得
被告は,平成2年3月26日に本件発明2-1,同年4月12日に本件
創作意匠2,同年7月12日に本件発明2-2について出願し,特許権及
び意匠権を取得した。
オ本件発明等2に関する原告の処遇
被告は,平成2年,本件実施品2について改善提案の4級の評価をして,
原告に対し,6000円を授与した。また,被告は,平成3年,本件実施
品2について,原告に対し,技術賞及び賞金5万円を授与した(甲47の
1~3,48,争いのない事実)。
カ本件実施品2(細胞培養用バッグ)の競合品
アコージンバイオ社は,空バッグと培地充填済みバッグの双方を販売
している(乙41・3,4頁)。
もっとも,コージンバイオ社の製品は,素材にエチレン-酢酸ビニル
共重合体(EVA)が使用されており,滅菌の方法は不明である。
イまた,コアフロント社も,培地充填済みバッグを販売している(乙
41・4頁)。
キ本件実施品2の販売実績
ア空バッグについて
a空バッグは,本件実施品2-1以前,国内で一般には販売されてい
なかった。
b本件実施品2-1は,平成2年9月に販売開始され,平成13年当
時,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●であった(甲53,54の1・
2,169)。
本件実施品2-1は,平成13年以降もその売上げを伸ばしている
ことが認められる(後記5参照)。
イ培地充填済みバッグについて
a培地充填済みバッグが国内で一般に販売されるようになったのは,
コージンバイオ社発明以後である。
b本件実施品2-2は,平成2年に販売開始され,●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●であった(甲5
3,54の1・2,169)。
本件実施品2-2は,平成13年以降もその売上げを伸ばしたが,
平成17年度に製造が中止された。一方,平成14年度には本件実施
品2-3が販売開始され,その後売上げを伸ばしている(後記5参照)。
本件発明等3について
ア技術分野
ア本件発明等3は,いずれも機能性容器のうち一体型キット又はこれ
を含む輸液容器に関するものである。
イ一体型キットは,複数の医薬品の組合せ(抗生物質などの粉末医薬
品と溶解液又は希釈液等)を単一の容器内にセットし,コネクターを介
して連通させることで混合できるようにしたキット製品である(弁論の
全趣旨)。薬効分類別でみると,抗生物質製剤において特に多く用いら
れている(甲203・3頁)。
ウ従来(本件発明等3より以前),日本国内において,抗生物質製剤
の一体型キットは販売されておらず,抗生物質製剤と点滴用の輸液(生
理食塩水)は別々に販売されていた。この場合,病院等の医療機関では,
バイアル等の容器に入った粉末薬剤等(抗生物質製剤)を溶解し,輸液
として点滴注射に用いる際,上記薬剤の入った容器と溶解液の入った容
器とを両頭針あるいは連結管等の接続用具を用いて接続し,溶解液を薬
剤の入った容器に移して薬剤を溶解していた。
ところが,これらの操作は煩雑で時間もかかる上,外気中で薬剤の入
った容器に接続用の穴を開ける操作を行うので,中の薬剤が汚染される
可能性があった。
一体型キットは,このような操作の煩雑性,外気による薬剤の汚染可
能性の問題を解消するものであり,複数の医薬品を組み合わせて使用す
る場合の利便性を高めるものであるといえる。
イ本件発明等3の経緯
ア本件発明等3に至る経緯
藤沢薬品工業は,一体型キットについて,既に「アイバッグ」(後記ウ
アa参照)を開発していたバクスター社と共同開発することを計画し
ていたが,これを断念して,被告に共同開発の話を持ちかけ,昭和62
年,被告と藤沢薬品工業が共同して,一体化キットの開発をすることと
なった(甲56の1~3)。
(イ)本件発明等3の経緯
a一体化キットの構造については,藤沢薬品工業から「アイバッグ」
の構造についての改良意見が出され,これを踏まえて,具体的な検討
がされた(甲56の3)。
(a)連通手段である「中空の穿刺針」(本件発明3-1)は,原告が
昭和63年1月5日に作成した図面に記載されている(甲126の
2)。また,連通順序を制御する「掛止部」(本件発明3-1)の
具体的構造は,原告が同年2月頃に作成した図面(甲196の2)
への記載は認められないが,P7が同年3月17日に製図をし,原
告が点検をした図面には記載されている(甲126の4)。
(b)また,連通機構におけるバイアル押し下げキャップのカム機構と
部材の構造(本件発明3-2)は,藤沢薬品工業のP3の「口紅あ
るいは固形のり〈回転により押し込む機構〉のようなもの」という
発案に基づき,その具体的な構成について,原告を含む開発担当者
が議論の上,本件発明3-2が完成したものである(争いのない事
実)。
bまた,輸液バッグの素材については,原告がテストを重ね(甲57
~59),研究・検討の結果,本件発明3-3が完成した(本件発明
3-3については,藤沢薬品工業の社員との共同発明ではない。)。
ウ本件発明等3の内容
(ア)本件発明3-1(請求項1~3)について
本件発明3-1は,一体型キットの連通手段に関する発明である。
a従来技術
特表昭61-501129号の発明(以下「従来技術3-1」という。なお,
以下の番号は,本件発明3-1の特許明細書〔甲10の2〕記載の番
号である。)は,薬剤容器であるバイアル101を収納するカプセル102
と,薬液取出口を有する溶解液の入った可撓性容器103とが,チュー
ブ104で接続されたものである。使用に際しては,まず,①カプセル
102上部キャップ107を指で押してバイアル101を押し下げ,穿刺針
105でバイアル101のゴム栓108を貫き,可撓性容器103とバイアル
101とをまず連結する。次いで,②チューブ104内の破断部材106を
手で折り曲げ,それによりチューブ104内の通路を開通させ,薬剤と
溶解液とを混合するようになっていた。
従来技術3-1は,通路を開けるために,破断部材を手で折る手間
を要した。また,穿刺針によるバイアルのゴム栓の刺通と破断部材を
手で折ることの先後を誤り,その場合,カプセル内に溶解液が漏れる
可能性があった。さらに,破断部材106の折れ方が不完全な場合は,
液が通りにくく,溶解に時間がかかるという問題があった(乙42参
照)。
なお,バクスター社(アメリカ)の「アイバッグ」は,従来技術3
-1の実施品であるが,同製品は,国外のみで販売されており,日本
国内では販売されていない。
b本件発明3-1(請求項1~3)の特徴
本件発明3-1(請求項1~3)は,制動手段により,最初に薬剤
容器の栓が刺通された後,可撓性容器の閉鎖膜が刺通されるため,先
に閉鎖膜が刺通され,可撓性容器内の溶解液や希釈液がカプセル内に
漏洩するという不都合が生じない。また,中空の穿刺針が連通手段と
して用いられており,穿刺針が薬剤容器の栓と可撓性容器の液体通路
部の閉鎖膜とを刺通することによって直ちに連通することとなり,中
空の穿刺針による連通であるので,液体の移動が妨げられることがな
く,連通後の薬剤と溶解液の混合を短時間で行うことができる(甲1
0の2)。
(イ)本件発明3-2(請求項1)について
本件発明3-2は,一体型キットのキャップの構造に関する発明であ
る。
a従来技術
(a)特表昭61-501129号の発明(以下「従来技術3-2①」という。)
従来技術3-2①(以下の番号は,本件発明3-2の特許明細書
〔甲11の2〕記載の番号である。)では,カプセル122の上部には
可撓性部材からなるキャップ127がシール性を保ちつつ取り付けら
れている。この可撓性部材は人手による下降運動を可能とするよう
に実質上変形自在である。使用に際しては,カプセル122上部のキ
ャップ127の平坦な中央部材を指で押してバイアル121を押し下げ,
穿刺針125でバイアル121のゴム栓128を貫き可撓性容器123とバ
イアル121とを先ず連結する(甲11の2・図24参照)というバ
イアルと穿刺針(可撓性容器と連結されたチューブに取り付けられ
た中空の穿刺針)との連結方法が採られていた。
しかし,従来技術3-2①では,キャップ127を下方へ移動させ
てバイアル121を押し下げるため,連通操作時にカプセル122の内
圧が上昇し,連通操作をスムーズに行うことができない場合があり,
押し下げた穿刺針を貫通したバイアルのゴム栓が穿刺針から外れる
可能性もあった(甲67・102頁参照)。また,キャップ127を
指で下方へ押す際に爪でキャップ127を傷つけてしまうと,キャッ
プ127が破れて無菌性が破壊されるおそれもあった(乙42参照)。
なお,バクスター社(アメリカ)の「アイバッグ」は,従来技術
3-2①の実施品であるが,同製品は,国外のみで販売されており,
日本国内では販売されていない。
(b)実開昭63-46148号の考案(以下「従来技術3-2②」という。)
一方,従来技術3-2②(以下の番号は,本件発明3-2の特許
明細書〔甲11の2〕記載の番号である。)では,甲11の2・図2
5の薬剤Lが収容されている容器本体101の首部102に甲11の
2・図26に示されるような溝が形成されており,使用前にあって
は蓋103の凸部104は溝105と嵌合させられている。そして,使用
に際しては,蓋103の凸部104を上記溝105から一旦はずし,次い
で同じく首部102に形成された別のらせん状の溝106に嵌め,蓋103
を回転することにより当該蓋103を容器本体101の方向へと移動さ
せる。これにより,鋭角に形成された薬液流出筒107の下端部108
が容器本体101の口部に溶着された薄膜109を突き破って外部との
連結状態が得られる。
しかし,従来技術3-2②では,薬剤容器の使用時,すなわち容
器内部の薬液と外部とを連通状態にするときに,いったん蓋をはず
して,再度別の溝に嵌めねばならず,薄膜109や薬剤流出筒107の
鋭利な部分などが大気中の細菌に汚染され,この細菌が薬液中に混
入するおそれがあった。また,蓋自身が下方へ移動するため連通操
作時に容器の内圧が上昇し,連通操作をスムーズに行うことができ
ない場合があった。
b本件発明3-2(請求項1)の特徴
本件発明3-2(請求項1)は,キャップ頂部の下面に形成された
カムと,薬剤容器の底部に嵌められた押え部材とを用いて,キャップ
の回転運動を押え部材の下降運動へと転換させており,しかもこの転
換は,キャップを被冠したままで行うことができるので,細菌の侵入
を完全に防止することができる。また,キャップ自身は回転運動を行
うだけで下方に移動することがないので,連通操作時に容器の内圧が
上昇することはない(甲11の2)。
(ウ)本件発明3-3(請求項1)について
本件発明3-3は,一体型キットを含む輸液バッグの素材に関する発
明である。
a従来技術
(a)特開昭62-44256号の発明(以下「従来技術3-3①」という。)
従来技術3-3①では,内外層が低密度ポリエチレン,中間層が
エチレンと1-オレフィンとの共重合体の三層フィルムからなる医
療用袋が紹介され,単体フィルム製容器の欠点を解消しようとして
いる。
しかしながら,メルトフローレートの相違による流れムラのため
に成形性が悪く,高圧蒸気滅菌を施した際,袋のシート表面に皺が
生じる欠点がある。
(b)特公昭62-19461号の発明(「従来技術1-1」)
従来技術1-1では,上記のような積層フィルムからなるバッグ
と異なり,ポリプロピレンとエチレンプロピレン共重合体とポリ(エ
チレンブチレン)ポリスチレン共重合体との組成物からなるバッグ
が紹介されている。
このバッグは溶出性成分を含まないので,薬液の貯蔵には好適で
あるが,バッグ内の薬液を排出する際に内面に液滴が付着するため,
見かけの透明性が悪く,排液が終了しても薬液がバッグ内面に付着
して残留する欠点があった。また,このバッグは高温領域における
弾性率が低く,高圧蒸気滅菌をした際,バッグが軟化変形する欠点
を有していた。さらに,このバッグはバッグ内の薬液を排出する際,
薬液が排出し終わったバッグ上部のシート内面同士が密着しながら
薬液を排出するので,薬液はバッグを構成するシートの両端部から
排出し,中央部が遅れて排出することになり,排出量を正確に把握
できない欠点があった。
b本件発明3-3(請求項1)の特徴
従来技術3-3①②は,成形性が悪く,高圧蒸気滅菌を施した際,
袋のシート表面に皺が生じる(以上につき上記3-3①),又は,バ
ッグ内の薬液を排出する際バッグ内面に液滴が付着するために,見か
けの透明性が悪く,排液が終了しても薬液がバッグ内面に付着して残
留する,高圧蒸気滅菌をした際,バッグが軟化変形する(以上につき
上記3-3②)などの欠点があった。
本件発明3-3(請求項1)は,分岐状低密度ポリエチレンに異な
る分子構造をした直鎖状低密度ポリエチレンを混合することによっ
て,透明性,耐熱性に優れたシートを作ることができる。このシート
から製造されたバッグは高圧蒸気滅菌にも変形しないし,滅菌中にバ
ッグから輸液中に微粒子が滲出することも少ない。また,このバッグ
は,バッグ内部のシート同士が密着しないで薬液を排出することがで
きる。さらに,バッグ内面を所定の転落角にしたり,多数の凸条の線
状を付与したりすることによって,薬液の排出状況を一層良好にする
ことができる。
(エ)本件創作意匠3について
本件創作意匠3は,粉末薬剤等を容器内で溶解し,輸液とすると共に
そのまま輸液バッグとして用いることができる輸液容器に係る意匠で
ある。
エ被告による特許権等の取得等
被告及び藤沢薬品工業は,昭和63年10月17日に本件創作意匠3,
平成元年3月15日に本件発明3-1,同3-2について出願し,意匠権
及び特許権を取得した。
被告は,平成元年6月28日に本件発明3-3について出願し,特許権
を取得した。
オ本件発明等3に関する原告の処遇
被告は,平成元年,本件実施品3の連通機構について改善提案の3級の
評価して,原告ら2名に対し,2万円を授与した(原告の取り分は1万円
であった。)。また,被告は,平成3年,本件実施品3の開発と商品化に
ついて,原告ら5名に対し,技術賞及び功労賞並びに賞金10万円を授与
した(原告の取り分は2万円であった。甲48,62の3,争いのない事
実)。
カ本件実施品3(一体型キット)の競合品
大塚製薬は,平成6年,一体型キットを開発した。
また,被告は,平成7年頃,一体型キット「NIS-1」を販売した(甲
160の1~5)。
ウその後,大塚製薬は,平成8年,ダブルバッグタイプの一体型キッ
ト「OMCキット」の販売を開始した。
キ本件実施品3の販売実績
ア一体型キットの抗生物質製剤は,本件実施品3の販売以前,国内で
は一般に販売されていなかった。
イ本件実施品3は,平成2年に藤沢薬品工業に販売され,藤沢薬品工
業から一体型キットの抗生物質製剤として医薬品市場に販売された。
ウ平成6年に,武田薬品工業から,大塚製薬の一体型キットを容器と
した抗生物質製剤「パンスポリンキット」が,平成7年に,同じく武田
薬品工業から,大塚製薬の一体型キットを容器とした抗生物質製剤「フ
ァーストシンキット」がそれぞれ販売開始され,平成10年には,一体
型キットの抗生物質製剤は,合成ペニシリン製剤を含めて14社25品
目が上市されていた(甲203・18,57頁)。
一体型キットの抗生物質製剤の売上高は,平成10年には365億円
であり,そのうち,大塚製薬の「OMCキット」を使用したもの(製剤
名「パンスポリン」,「ホスミシン」,「スルペラゾン」,「ファーストシン」,
「オーツカCEZ注-MC」,「チエナム」)が209億円(51%),被
告の「NIS-1」を使用したもの(製剤名「バンコマイシン」,「ペン
トシリン」)が70億円(19%),本件実施品3を使用したもの(製剤
名「セファメジン」,「エポセリン」)が81億円(22%)であった(甲
203・75頁,弁論の全趣旨)。平成10年の抗生物質製剤の全売上
高は1164億円であり,そのキット化率は31.4%であった(甲2
03・75頁)。
なお,本件発明3-1,3-2,本件創作意匠3は,いずれも藤沢薬
品工業との共同開発契約に基づくものであり,被告は,藤沢薬品工業の
許諾なくして,本件実施品3を第三者に販売することはできない。
エ被告及び藤沢薬品工業は,平成11年に本件実施品5を開発し,同
実施品の販売を開始したため,これに伴い,本件実施品3の販売は終了
した。
本件発明等4について
ア技術分野
ア本件発明等4は,いずれも機能性容器のうちハーフキットに関する
ものである。
イハーフキットは,一体型キット同様に,複数の医薬品の組合せ(抗
生物質などの粉末医薬品と溶解液又は希釈液等)について,コネクター
を介して連通させることによって,混合できるようにしたキット製品で
あるが,一体型キットは,溶解液と両頭針(連通針)と薬剤容器(バイ
アル)を一体化しているのに対し,ハーフキットは,薬剤容器(バイア
ル)を一体化しておらず,市場に流通する広範なバイアルに適合できる
という違いがある(弁論の全趣旨)。
ハーフキットについても,一体型キットと同様に,複数の医薬品を組
み合わせて使用する場合の利便性を高めるものであるといえる
イ本件発明等4の経緯
ア本件発明等4に至る経緯
被告は,平成3年から,医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構の
融資事業として,「注射剤投与システムの試験研究」として新たなキッ
ト製品の開発を進めており,その中では,バイアルに滅菌封入された抗
生剤などの医薬品を,使用時に安全,迅速かつ容易に溶解調整できる生
食液キット(ハーフキット)の開発に重点がおかれていた(甲69,7
0)。
これは,一体型キットでは被告に遅れをとった大塚製薬が(上記(4)
カキ参照),ハーフキット製品を開発したとの情報が入ったことによる
ものであった。
イ本件発明等4の経緯
a開発にあたっては,営業部門との協議において,①溶解液の容器に,
薬剤を連通する入り口と点滴する入り口を別々に設ける2ポートの形
状とすること,②ビン側でもボトル側でも自立する形状とすること,
③連通手段にはダブル針(2穴)を使用すること,④バイアルのサイ
ズを問わないようにすること,⑤ボトルに吊り具を付けること,⑥低
コストにすることなどが要求された(甲71の2)。
連通順序を制御する「ガイド棹」(本件発明4-1)の構造,輸液
容器の栓体の「ゴム栓」(本件考案4)は,原告が作成した図面(甲
71の3)には明確に記載されているとはいえず,むしろP8が平成
4年5月15日頃に製図した図面に明確に記載されている(乙15の
2)。
b一方,輸液ボトルの滅菌方法については,原告は,従前からの滅菌
方法の検討を重ねていたところ(本件発明6-3等参照),本件発明
4-2に至った。
ウ本件発明等4の内容
ア本件発明4-1について
本件発明4-1は,ハーフキットの連通手段に関する発明である。
a従来技術
実開昭63-135642号の考案(以下「従来技術4-1」という。)の輸
液用容器は,溶解液容器の口部のシール部に筒状の適宜取り外し可能
なサポートリングを設け,このサポートリングに上下スライド自在に
両頭針を取り付けたものであり,両頭針を下方にスライドさせたとき
に,下部針体が溶解液容器の口部のシール部に穿刺するようにしたも
のである。
従来技術4-1は,操作が比較的容易で,部品点数が少なく輸液用
容器全体をコンパクトにできるなどの利点がある。しかしながら,一
方で,連通に比較的大きな力を要し,薬剤と溶解液を混合した後にサ
ポートリング及び両頭針を取り外し,両頭針を抜き取った後の溶解液
容器の口部のシール部に輸液セットなどを接続する必要があるため
(1ポートタイプ),操作に手間がかかり,両頭針抜取時に混合された
薬液が漏れるおそれがあるなどの欠点があった。
b本件発明4-1の特徴
本件発明4-1では,輸液容器からキャップを外し,ガイドカプセ
ルの開放端に,薬剤容器をその口部を先頭にして挿着し,これを下方
に押し下げると,まず,口部のゴム栓が両頭針の上部穿刺針で刺通さ
れる。そして同時に薬剤容器の口部によってガイドカプセルのガイド
棹が外側に押し広げられるので,係止溝から両頭針の係合部が外れ,
両頭針は薬剤容器とともに下方に移動してその下部穿刺針によって溶
解液容器の閉鎖膜が刺通され,薬剤容器と溶解液容器が連通する。次
に,薬剤容器を下にして,これに溶解液容器から溶解液を導入し,薬
剤容器内に収容されている乾燥薬剤と溶解液を混合して薬液を調製で
きる。調製された薬液は輸液容器の薬液取出口に輸液セットなどを接
続して,そのまま点滴治療などに用いることができる(2ポートタイ
プ)。
本件発明4-1は,このような構成により,操作が容易で手間がか
からず,混合された薬液が漏れるおそれがなく,部品点数が少なく,
無菌的に薬剤と溶解液を混合できる輸液容器を提供することを目的と
する(甲14の2)。
(イ)本件発明4-2(請求項1)について
本件発明4-2(請求項1)は,ハーフキットを含むプラスチックボ
トルに収容された薬液の滅菌方法に関する発明である。
a従来技術
従来技術の滅菌方法では,槽内の高温でボトルの形成材料が軟化し
て変形したり,急激な温度変化や熱水衝突の衝撃でボトル形成材料か
ら発生する微粒子の量が増加したり,軟化したボトルに熱水が当たり
続けることでボトルが変形したりすることがあった。
b本件発明4-2(請求項1)の特徴
本件発明4-2(請求項1)の滅菌方法では,プラスチックボトル
は,互いに接触しないように間隔を空けてトレーに配置され,例えば
台車に複数段積み重ね,台車ごと熱水スプレー式レトルト殺菌装置内
に搬入される。そして,シャワーから熱水が注がれるが,熱水はカバ
ーによって遮られるので,プラスチックボトルに直接当たることはな
い。カバーによって遮られた熱水は,カバーに穿設された熱水注入孔
からトレー内に注入され,それぞれのトレーに溜まる。水位がオーバ
ーフロー孔に達すると,熱水はオーバーフロー孔から流れ出てること
となり,熱水の水位はプラスチックボトルに収容された薬液の液位と
略同位置に維持され,また,熱水は水抜孔とオーバーフロー孔から常
時入れ換え循環される。したがって,トレー内の熱水の温度は所定の
温度に維持されるとともに,高温高圧による薬液及び熱水の膨張と液
圧とがプラスチックボトルの壁面を通して内外で常時相殺され,プラ
スチックボトルの内外の圧力は均衡することとなる。
(ウ)本件考案4について
本件考案4は,ハーフキットを含む輸液容器の栓体の形状に関する考
案である。
a従来技術
従来技術では,栓体を下にして輸液容器を倒立させておくことがで
きないため,多くの輸液容器を一度に使用することができず,また,
栓体の外部から輸液容器の内部にエアーが進入するリークが生じやす
いという問題があった。
b本件考案4の特徴
本件考案4では,枠部材とゴム栓と支持部材と倒立台が一体に設け
られており,枠部材の固着部を輸液容器の口部に適宜の手段で固着す
ることにより気密に取り付けられる。そして,取り付けた状態で,倒
立台を下に向けて置くと,その天面が扁平なので輸液容器を倒立状態
で自立させることができる。
また,本件考案4の栓体を成形する金型は,栓体の構造上,倒立台
より上の部分の上型と下の部分の下型を用い,下型は左右に分離する
構造とした上で,上型は上方に抜き,一対の下型は左右に離すことと
なるが,金型の抜き動作によって,スコアライン又はねじり切り用薄
肉部を形成した接続部に,無理な力がかからないので,エアーのリー
クの原因となる破れが生じない。
エ被告による特許権等の取得
被告は,平成4年6月5日に本件発明4-1,平成5年4月1日に本件
考案4,同月16日に本件発明4-2について出願し,特許権及び実用新
案権を取得した。
オ本件発明等4に関する原告の処遇
被告は,平成元年,本件実施品4の開発に関連して改善提案の2級の評
価をして,原告ら3名に対し,5万円を授与した(原告の取り分は1万6
666円であった。争いのない事実)。
カ本件実施品4(ハーフキット)の競合品
(ア)大塚製薬は,平成4年,ハーフキット「大塚生食注TN」の販売を
開始した(乙43の1・9頁)。
「大塚生食注TN」(甲73・116頁表3,図5参照)は,ポート
口が一つの1ポートタイプで,バイアルを両頭針に差し込んだあと,一
度バイアルを取り外してから点滴用の輸液セットに接続する構造であ
った(従来技術4-1と同様)。
(イ)また,大塚製薬は,平成16年,「大塚生食注TN」の2ポートタイ
プの販売を開始した(乙43の1・9頁)。
キ本件実施品4の販売実績
(ア)ハーフキットについては,本件実施品4以前から,上記「大塚生食
注TN」(1ポートタイプ)等が販売されていた。
(イ)本件実施品4は,平成6年に販売開始された。
(ウ)平成10年には,ハーフキットは,輸液メーカーの大手4社(大塚
製薬,テルモ社,扶桑薬品工業,菱山製薬)を中心に9品目が上市され
ていた(甲203・3,33頁)。
平成10年以降のハーフキットの売上個数は,別紙抗生物質キット医
薬品及びハーフキットの売上個数記載の「2ハーフキット」のとおり
である。
(6)本件発明等5について
ア技術分野
本件発明等5は,いずれも機能性容器のうち一体型キット(上記(4)ア
参照)に関するものである。
イ本件発明等5の経緯
(ア)本件発明等5に至る経緯
平成7年頃,藤沢薬品工業から,被告に対し,本件実施品3のイメー
ジを残した新製品についての共同開発の提案があり(甲80の1・2,
83・2枚目等),これを受けて,被告では,同年4月25日に,医療推
進部のP14が開発テーマ申請書を提出し,本件実施品3の改良品が開
発テーマとされた(甲82)。
(イ)本件発明等5の経緯
本件実施品の改良品の構造については,藤沢薬品工業から,具備すべ
き要件についての具体的な意見(①薬剤と薬液の溶解,調整操作がより
迅速なもの,②大きさがコンパクトであること,③使用後にバイアルを
分別廃棄する必要がないことなど。甲80の1・2)が出され,これを
踏まえた検討がされた。
当初は,藤沢薬品工業のP3の発案による折れ棒方式が検討されたが,
その後,原告が発案した二色成形による連通棒方式によって進めること
となった(乙16・2枚目)。
原告とP15は,平成7年頃から平成10年頃にかけて,薬剤収納室
と突出片を構成する素材について試作と検証を繰り返し(甲86の1~
5),平成11年頃,薬剤収納室をポリプロピレン(PP)),突出片を
高密度ポリエチレン(HDPE)とポリプロピレン(PP)の混合物(ブ
レンド)で構成することが最適であるとの結論に達し,本件発明5に至
った。
ウ本件発明等5の内容
(ア)本件発明5(請求項1,8,9)について
本件発明5は,一体型キットの連通手段やキャップの構造等に関する
発明である。
a本件発明5(請求項1,8,9)の特徴
(a)輸液と薬剤と混合するための連通機構(請求項1)
本件発明5では,薬剤収納室と溶解液室との間に連通孔(2穴)
が形成され,この連通孔は,仮止め状態(剥離可能)に樹脂接着さ
れた突出片(なお,突出片の底面はやや丸みを帯び,バタフライ状
になっている。)によって塞がれ,密封されている。突出片の突出
側端部は,蓋部(キャップ)に装着されたゴム栓に係合している。
蓋部をゴム栓と共に回転させると,キャップ部材の回転操作によ
って上記突出片が上記キャップ部材の回転軸と直交する平面上で移
動して上記薬剤収納室の底部から剥離し,突出片の仮止め状態が解
除されて連通孔が解放される(以下この機構を「弱シール破断方式」
と略称する。)。これによって,薬剤収納室に収納された粉末薬剤
と溶解液とを混合して輸液とすることができる。
(b)弱シール破断方式の構成部材の素材(請求項8,9)
上記突出片は,ねじられたときに容易に連通孔を形成できるよう
に,あえて薬剤収納室(の底部)の形成材料と相溶性の悪い材料で
形成し,脆弱となりやすい接合部分で切断させるようにするのが好
ましい。
本件発明5は,薬剤収納室はポリプロピレン,突出片はポリエチ
レンとポリプロピレンとの混合物,ポリエチレンの共重合体又はグ
ラフト化物を主成分として,それぞれ形成し(二色成形),上記のよ
うな課題を解決している。
b本件実施品3(本件発明等3)との比較
本件発明5は,二色成形を用いた連通構造により,薬剤と輸液の連
通操作を,より安全,正確に,短時間で行うことが可能となった。ま
た,バイアルや両頭針を使用せず,複雑な連通機構を簡素化して部品
点数の削減ができるようになったため,キット全体が小型化,軽量化
し,保管の省スペース化と廃棄コストの節減を可能とした。さらに,
バイアルを使用しないため溶解液の逆流の可能性がなく,また,分別
廃棄を必要としないために分別廃棄時のけが,薬液の飛散,接触の危
険もなく,すべて焼却処分することが可能となった(甲87,91参
照)。
イ本件創作意匠5について
本件創作意匠5は,本件発明5の請求項1の構成を備える,部品点数
が少なくコンパクトな輸液容器の形状に関する意匠である。
エ被告による特許権等の取得
被告は,平成8年2月9日に本件発明5,同年10月18日に本件創作
意匠5について出願し,特許権及び意匠権を取得した。
オ本件発明等5に関する原告の処遇
被告は,平成13年,本件実施品5の開発と販売について,器材開発事
業部医療推進部(代表P21)に対し,技術賞及び賞金50万円を授与し
た(甲88の1~3)。
カ本件実施品5(一体型キット)の競合品
本件実施品5は,一体型キットの抗生物質製剤であり,その競合品は,
は,上記カのとおりである。
キ本件実施品5の販売実績
ア本件実施品5は,平成11年に本件実施品3に代わって藤沢薬品工
業に販売され,藤沢薬品工業から一体型キットの抗生物質製剤として医
薬品市場に販売された。
イ平成10年における一体化キットの抗生物質製剤の市場の概況は上
記キのとおりである。
平成10年以降の一体化キットの抗生物質製剤の売上個数は,別紙抗
生物質キット医薬品及びハーフキットの売上個数記載の「1抗生物質
キット医薬品」のとおりである。
なお,本件発明等5は,いずれも藤沢薬品工業との共同開発契約に基
づくものであり,被告は,藤沢薬品工業の許諾なくして,本件実施品5
を第三者に販売することはできない(乙14・6条2項参照)。
本件発明等6について
ア技術分野
本件発明等6は,いずれも機能性容器である一体型キットのうちダブル
バッグタイプ(ブロー成形するプラスチックボトルを用いず,キット全体
をプラスチックフィルム(シート)で構成したもの。)に関するものであ
る。
ダブルバッグタイプの一体型キットは,ワンタッチで簡便に抗生物質と
と溶解液を混合することができるものであり,一体型キットの中でも利便
性が高いものである。
イ本件発明等6の経緯
ア本件発明6-1,6-2,6-4に至る経緯
被告では,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●(甲9
2)。
イ本件発明6-1,6-2,6-4の経緯
原告は,共同発明者とともに,従来技術にない新しい容器構造,製法
のダブルバッグタイプの一体型キットを開発するに至った(本件発明6
-1,6-2。甲95)。
なお,被告は,本件発明6-4については,P10,P16の貢献が
重要で,原告,P17の貢献は比較的名目的な関与にすぎないと主張す
るが,これを認めるに足りる証拠はなく,被告の主張は認められない。
(ウ)本件発明6-3,本件考案6について
なお,本件発明6-3,本件考案6は,上記経緯以前に別途されたも
のである。
本件発明6-3は,平成3年7月頃,原告が1000ミリリットルの
輸液ボトルの開発に従事し,株式会社日阪製作所でシャワー式滅菌機を
用いて,ボトルの変形をできる限り少なくするための条件・方法を実験
していた過程でされたものである。
ウ本件発明等6の内容
ア本件発明6-1(請求項1)について
本件発明6-1は,ダブルバッグタイプの一体型キットの製造方法に
関する発明である。
a従来技術
特開平4-364850の発明,特開平4-364851の発明,及び特開平
6-014975の発明(以下併せて「従来技術6-1」という。)の複室容
器は,いずれも,薬剤収容室と薬液収容室を一体に成形した上で,薬
液収容室に薬液を充填し,薬液収容室に栓体を取り付けてシールし,
蒸気滅菌をした後,薬剤収容室に薬剤を収容してシールし,薬剤収容
室部分を水分及びガスに対してバリアー性を有する包材(外壁)で被
覆したものであった。
従来技術6-1は,①薬剤収容室と薬液収容室を別々に滅菌するこ
とができない,②薬液収容部に薬液を充填して一度滅菌,乾燥した後,
薬剤収容部のシール部分を切断して無菌的に薬剤を収容する必要が
あるため製造に手間がかかる,③蒸気滅菌の際に薬剤収容部に水蒸気
が入らないようにシールする必要があるためこの部分の滅菌が不完
全になるおそれがあるなどの欠点があった。
b本件発明6-1(請求項1)の特徴
本件発明6-1は,上記の事情に鑑みてされたもので,薬剤収容室
と薬液収容室を別々に滅菌することができ,製造に手間を要しない複
室容器の製造方法を提供したものである(甲114の1参照)。
すなわち,本件発明6-1(請求項1)は,1辺が弱シールされた
第1および第2のバッグを形成する工程と,該第1のバッグと第2の
バッグを夫々の弱シール部分同士で溶着して流体密に接続する工程を
含んでなり,第1のバッグの弱シール部分と第2のバッグの弱シール
部分を夫々剥離した時に,第1のバッグと第2のバッグが液体連通す
るようにしてなる複室容器の製造方法である。
本件発明6-1(請求項1)を採用することにより,薬剤収容室(第
1のバッグ)と薬液収容室(第2のバッグ)を別々に滅菌することが
できるため薬剤収容室の確実な滅菌が可能になり,また,薬剤を収容
する際の余分な作業が省略されるため製造の手間が省けてコストも低
減することができるなどの効果が得られる。
イ本件発明6-2(請求項1)について
本件発明6-2は,ダブルバッグタイプの一体型キットに関する発明
である。
本件発明6-2(請求項1)は,本件発明6-1の製造方法,構成に
より乾燥薬剤を収容する第1の室と薬液を収容する第2の室からなる
容器であって,第1の室と第2の室が,1辺が弱シールされた第1およ
び第2の容器を夫々の弱シール部分同士で溶着して容易に剥離可能な
弱シール部を形成することにより流体密に区画形成されてなる複室容
器である。
本件発明6-2(請求項1)を採用することにより,薬剤収容室(第
1の室)と薬液収容室(第2の室)を別々に滅菌することができるため
薬剤収容室の確実な滅菌が可能になり,また,薬剤を収容する際の余分
な作業が省略されるため製造の手間が省けてコストも低減することが
できるなどの効果が得られる。
ウ本件発明6-3について
本件発明6-3は,ダブルバッグタイプの一体型キットを含む薬液容
器の滅菌方法に関する発明である。
本件発明6-3は,薬液容器を横たえて底面又は側面に穴のあいたト
レーに置き,トレーに滅菌用水をためて薬液容器の浮力を発生させた状
態で,薬液容器を滅菌するに際し,滅菌用水の水位を薬液容器の上面位
置よりも低く,薬液容器内の薬液の水位よりも高くさせて滅菌すること
を特徴とする薬液容器の高圧蒸気滅菌方法である。
この滅菌方法により,プラスチック製薬液容器は,滅菌時に融点に近
い高温にさらされて軟化するが,トレー内の水位を適当な範囲でコント
ロールすることによって,容器の重さと浮力をバランスさせて自重によ
る変形やトレーに押しつけられることによる変形,あるいは透明性の低
下(容器表面の肌荒れ)を最小限に抑えることができる。また,薬液容
器の変形を最小限に抑えることができるため,滅菌温度を従来よりも上
げることができ,滅菌に要する時間が短くなって製造効率が向上する。
エ本件発明6-4について
本件発明6-4は,ダブルバッグタイプの一体型キットを含む輸液バ
ッグを構成する耐熱性シートの素材に関する発明である。
従来,医療容器に好適なフィルムとして開発されていた素材,例えば,
メタロセン触媒系低密度ポリエチレンでは,115℃の滅菌温度にする
とフィルムが変形するという欠点があった。
本件発明6-4は,不溶性微粒子の発生が少なく耐熱性のよい密度0.
928g/cm3以上のメタロセン触媒系直鎖状ポリエチレン,溶融時
の粘度が高く透明性のよい高圧法低密度ポリエチレン,柔軟性・耐衝撃
性の優れた密度0.91g/cm3以下のメタロセン触媒系直鎖状ポリ
エチレンという,特性の異なる3つのポリエチレンを適当に組み合わせ
ることにより,耐熱性がよく,不溶性微粒子が少なく,透明性及び耐衝
撃性,柔軟性の優れた輸液バッグ材料が得られるものである。
オ本件考案6について
本件考案6は,ダブルバッグタイプの一体型キットを含む医療用バッ
グのポートの形状に関する考案である。
本件考案6は,ダブルバッグタイプの一体型キットに使用するポート
について,プラスチックフィルムをシールした際に,シール部分からの
液漏れが少なく(薬液通路部に扁平部分を設け,プラスチックフィルム
をシールした際に,液漏れが少なくなるように工夫されている。),ま
た,抜き型により製造できるようにするものである。
エ被告による特許権等の取得
被告は,昭和63年3月28日に本件考案6,平成3年8月29日に本
件発明6-3,平成7年2月10日に本件発明6-1,同年3月23日に
本件発明6-2,平成12年6月22日に本件発明6-4について出願し,
実用新案権及び特許権を取得した。
オ本件発明等6に関する原告の処遇
被告は,平成14年,本件実施品6の開発と販売について,器材開発事
業部医療推進部(代表P5)に対し,技術賞及び賞金100万円を授与し
た(原告の取り分は1万円であった。甲95の1~3)。
また,被告は,平成4年,輸液ボトルの滅菌方法について提案賞4級の
評価をして,原告に対し,6000円を授与した(甲94の1・2,争い
のない事実)。
カ本件実施品6(一体型キット)の競合品
本件実施品6は,一体型キットの抗生物質製剤であり,その競合品は,
は,上記カのとおりである。
キ本件実施品6の販売実績について
ア本件実施品6は,平成12年に販売開始された。
イ平成10年における一体化キットの抗生物質製剤の市場の概況は上
記キのとおりである。
平成10年以降の一体化キットの抗生物質製剤の売上個数は,別紙抗
生物質キット医薬品及びハーフキットの売上個数記載の「1抗生物質
キット医薬品」のとおりである。
被告の本件発明6-1ないし6-3及び本件考案6の実施の有無(争点
1-1)
ア本件発明6-1について
(ア)問題の所在について
本件発明6-1・請求項1の特許請求の範囲は,「1辺が弱シールさ
れた第1および第2のバッグを形成する工程と,該第1のバッグと第2
のバッグを夫々の弱シール部分同士で溶着して流体密に接続する工程
を含んでなり,第1のバッグの弱シール部分と第2のバッグの弱シール
部分を夫々剥離した時に,第1のバッグと第2のバッグが液体連通する
ようにしてなる複室容器の製造方法。」である。
被告は,本件実施品6は「第1のバッグと第2のバッグを夫々の弱シ
ール部分同士で溶着」する構成を有しないとして,本件実施品6は,本
件発明6-1の実施品ではないと主張する。
(イ)「夫々の弱シール部分同士で溶着」の意義
a本件特許6-1明細書には,以下の記載がある。
(a)段落【0005】(【課題を解決するための手段】)
「ここで,弱シール部分は,バッグを構成するプラスチックシー
トの間に弱シール部形成シートを挟んで溶着することにより形成
することができる。」
(b)段落【0008】(【実施例】)
「第1のバッグ1(ここでは便宜的に薬剤収容バッグとして説明
する)の製造は図1の各工程により行われる。…この時,弱シール
部形成用シート12とシート11,13との溶着部分およびシート
11,12の帯状部分14より外側の溶着されていない部分が弱シ
ール部分19になる。」
(c)段落【0010】(【実施例】)
「一方,第2のバッグ2(ここでは便宜的に薬液収容バッグとし
て説明する)の製造は図2の各工程により行われる。…弱シール部
形成用シート22と筒状シート21の溶着部分および開口部分端縁
23より突出した弱シール部形成用シート22が弱シール部分29
になる。」とされている。
(d)段落【0011】(【実施例】)
「…この場合,第1のバッグ1の2枚のプラスチックシート部分
と第2のバッグ2の弱シール部形成用シート22の溶着部分は弱シ
ールされるが,第1のバッグ1の2枚のプラスチックシート部分と
第2のバッグ2の筒状シート21の溶着部分は強固に溶着される。」
(e)段落【0011】(【実施例】)
「…尚,第2のバッグ2の弱シール部分29の,第1のバッグ1
の弱シール部形成用シートシール部分19の溶着されていない2枚
のプラスチックシート部分への挿着は,第1のバッグ1の弱シール
部形成用シート12と第2のバッグ2の弱シール部形成用シート2
2が隣接するようにするのがよく,弱シール部分(19,29,3
の一部)を剥離した時に,薬液のリークが起こらないように,例え
弱シール部形成用シート12と21が離間するような場合でも,第
1のバッグ1の弱シール部分19の溶着されていない2枚のプラス
チックシートの間に第2のバッグ2の筒状シート21の少なくとも
一部が重なるようにしなければならない(図4および図5参照)」
b本件発明6-1の特許請求の範囲の記載によれば,「弱シール部分」
とは,第1のバッグと第2のバッグそれぞれの互いに接続する部分に
設けられ,両バッグを流体密に接続した後は,剥離して両バッグが液
体連通するようになる部分であると認められる。
また,その形成方法については,上記a(a)のとおり,バッグを構成
するプラスチックシートの間に弱シール部形成シートを挟んで溶着す
ることにより形成することができるとされているが,それ以上に,特
段の限定は付されていない。
したがって,「弱シール部分」とは,上記のとおり,第1バッグ及
び第2バッグにおいて,バッグを構成するプラスチックシートの間に
弱シール部形成シートを挟んで溶着することなどにより形成される部
分であり,接続後は,剥離して両バッグが液体流通するようになる部
分を指すものと解される。そして,「夫々の弱シール部分同士で溶着」
とは,第1バッグと第2バッグの溶着方法として,それぞれの弱シー
ル部分を溶着することを意味すると解される。
(ウ)本件実施品6が本件発明6-1を実施していること
a本件実施品6の製造方法は,以下のとおりと認められる(弁論の全
趣旨)。
「●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●)
b本件発明6-1・請求項1は溶着方法について,「該第1のバッグと
第2のバッグを夫々の弱シール部分同士で溶着して」とされており,
「弱シール部分」の意義については,上記(イ)のとおりである。
本件実施品6についても,●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●に該当し,これら同士を溶着しているといえ
る。
したがって,本件実施品6は,本件発明6-1の「夫々の弱シール
部分同士で溶着」を充足し,その製造方法は,同発明の技術的範囲に
属すると認められる。
(エ)被告の主張について
a被告は,本件実施品6は「●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●と主張する。
bしかしながら,被告の主張は,●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●と解されるが,本件発明6-1の「弱シール
部分同士で溶着」について,●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●から,被告の主張には理由がない。
確かに,被告の主張するとおり,●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●必要があり,この点について本件特許6-1明細書に表れ
ていない技術を用いることは十分にあり得るが,当該技術を用いたと
しても,本件発明6-1の製造方法を使用していることには変わりな
く,本件発明6-1の実施を否定する理由にはならないというべきで
ある。
(オ)小括
以上のとおり,被告は,本件実施品6において,本件発明6-1を実
施していると認められる。
イ本件発明6-2について
本件発明6-2は,本件発明6-1の製造方法を用いた複室容器につい
ての発明であるところ,上記(1)と同様の理由により,本件実施品6は,
本件発明6-2の技術的範囲に属すると認められる。
したがって,被告は,本件実施品6において,本件発明6-2を実施し
ていると認められる。
ウ本件発明6-3について
(ア)本件発明6-3の特許請求の範囲は,「薬液容器を横たえて底面又
は側面に穴のあいたトレーに置き,トレーに滅菌用水をためて薬液容器
の浮力を発生させた状態で,薬液容器を滅菌するに際し,滅菌用水の水
位を薬液容器の上面位置よりも低く,薬液容器内の薬液の水位よりも高
くさせて滅菌することを特徴とする薬液容器の高圧蒸気滅菌方法」であ
る。
(イ)上記のとおり,本件発明6-3においては,薬液容器の浮力を発生
させる程度にトレーに滅菌用水をためる必要があるところ,被告が本件
実施品6の薬液容器の滅菌に使用するトレー(乙39)をみると,底面
や側面に大きな穴があり,減菌用水を溜める構造になっているとは認め
られない(なお,原告は,同トレーが本件実施品6の薬液容器の滅菌に
使用されていること自体を争うが,具体的な立証はされていない。)。
(ウ)原告は,本件実施品6についての実績補償金の支給手続の際,本件
発明6-3が実施されている旨を記載したのに,被告からは何らの訂正
もなかったこと,本件実施品6の海外展開に関する会議の資料に関連特
許として本件発明6-3が記載されていたことを指摘するが,いずれに
おいても本件発明6-3は複数の特許発明のうちの一つとして記載され
ていたにすぎないことからすれば,上記事情をもって,本件発明6-3
の実施の根拠とすることはできない。
(エ)したがって,本件実施品6において,本件発明6-3は実施されて
いるとは認められない。
エ本件考案6について
(ア)本件考案6・請求項1の特許請求の範囲は,「全体が熱可塑性樹脂
で管状に形成されており,ポートキャップとの溶着面を有するフランジ
状の口部と,外径が該口部の外径よりも小径であり横断面形状が円形の
薬液通路部,とからなる医療用バッグの口部材において,前記薬液通路
部のバッグを構成するフィルムとの溶着部分が扁平に,かつ該扁平な溶
着部分の外径が該薬液通路部の円形部分の外径以下の大きさに形成さ
れたことを特徴とする医療用バッグのポート。」である。
(イ)原告は,「前記薬液通路部のバッグを構成するフィルムとの溶着部
が扁平に」との構成は,明細書の図3に記載の舟形やヒレ付きと同趣旨
のものであり,本件実施品6のポート部の形状は,上記考案の技術的範
囲に属すると主張する。
しかしながら,ポート部のフィルムとの溶着部分の形状については,
扁平すなわち,平たい面であることが必要であるところ,本件実施品6
のポート部の形状(別紙本件実施品6図面記載の図D)は,先がとがっ
た「ヒレ付き」に近い形状であり,平たい面となる部分は見当たらない。
したがって,本件実施品6は,本件考案の技術的範囲に属するとは認
められない(なお,原告は,本件実施品6は,本件考案6の均等物であ
るとも主張するが,具体的にこれを認めるに足りる主張及び立証はなく,
採用できない。)。
オ小括
以上のとおり,本件発明6-1,6-2については実施が認められるが,
本件発明6-3,本件考案6について実施は認められない。
2「相当の対価」の算定方法について
(1)「相当の対価」について
勤務規則等により職務発明について特許を受ける権利等を使用者等に承
継させた従業者等は,当該勤務規則等に,使用者等が従業者等に対して支払
うべき対価に関する条項がある場合においても,これによる対価の額が法3
5条4項の規定に従って定められる対価の額に満たないときは,同条3項の
規定に基づき,その不足する額に相当する対価の支払を求めることができる
と解するのが相当である(最高裁平成15年判決)。
法35条4項は,同条3項所定の「相当の対価」の額について「その発明
により使用者等が受けるべき利益の額及びその発明がされるについて使用
者等が貢献した程度を考慮して定めなければならない」旨規定している。し
たがって,特許を受ける権利の承継についての相当の対価を定めるに当たっ
ては,「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」及び「その発明が
されるについて使用者等が貢献した程度」という2つの要素を考慮すべきで
あるが,使用者等が特許を受ける権利を承継して特許を受けた結果,現実に
利益を受けた場合には,使用者等が現実に受けた利益の額及び上記利益を受
けたことについて使用者等が貢献した程度,すなわち,具体的には発明を権
利化し,独占的に実施し又はライセンス契約を締結するについて使用者等が
貢献した程度その他証拠上認められる諸般の事情を総合的に考慮して,相当
の対価を算定することができるものというべきである(この点,職務考案及
び職務創作意匠についても同じである。)。
(2)「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」について
ア算定方法について
(ア)法35条1項によれば,従業者等の職務発明について使用者等は無
償の通常実施権を取得するのであるから,特許を受ける権利の承継の対
価の算定に当たって考慮すべき「その発明により使用者等が受けるべき
利益」とは,使用者等が,従業者等から特許を受ける権利を承継して特
許を受けた場合には,特許発明の実施を排他的に独占することによって
得られる利益をいうものである。
使用者は,特許を受ける権利を承継しない場合であっても通常実施権
を有することとの対比からすれば,上記使用者が特許を受ける権利を承
継して特許を受け特許発明を自ら実施している場合は,これにより上げ
た利益のうち,当該特許の排他的効力により第三者の実施を排除して独
占的に実施することにより得られたと認められる利益の額をもって「そ
の発明により使用者等が受けるべき利益」というべきである。
すなわち,自社実施の場合,当該発明の実施品の売上高のうち,同発
明につき第三者の実施を排除して独占的に実施することにより得られ
たと認められる利益の額,すなわち法定の通常実施権に基づく実施を超
える部分(以下「超過売上高」という。)について,第三者に発明の実
施を許諾した場合の実施料率(以下「仮想実施料率」という。)を乗じ
て算定した金額を「その発明により使用者等が受けるべき利益」と認め
るのが相当である(この点,職務考案及び職務創作意匠についても同じ
である。)。
(イ)被告においては,本件発明等(ただし,本件発明6-3,本件考案
6を除く。)を自社実施して本件実施品1ないし6を製造販売しており,
いずれについても,これを第三者に実施許諾して実施料を得ているわけ
ではない。
したがって,上記のとおり,「その発明により使用者等が受けるべき
利益」は,超過売上高に仮想実施料率を乗じることにより算定すること
ができる。
イ算定対象期間について
(ア)使用者が職務発明について特許を受ける権利を承継した場合は,特
許を受ける前においても実施する権利を黙示に許諾されているという
ことができる。この場合において,実施により上げた利益が通常実施権
によるものを超えるときには,当該発明が貢献した程度を勘案して「そ
の発明により使用者等が受けるべき利益」を定めることができる。すな
わち,法35条の職務発明は,特許発明(特許法2条2項)に限定され
てはいないから,発明であれば特許登録されるか否かにかかわらず法3
5条が適用され,特許を受ける権利を使用者に譲渡することにより相当
の対価の請求権を取得するのである(この点,職務考案及び職務創作意
匠についても同じである。)。
もっとも,特許権については,設定登録前は,使用者の排他的独占権
はなく(特許法66条,68条),使用者が通常実施権に基づいて実施
していると認められる場合には,その範囲内で実施している限り,特許
を受ける権利の承継により使用者が受けるべき利益はないことになる。
他方,特許権の設定登録の前であっても,特許出願人は,出願公開後は,
発明を実施した第三者に対し一定の要件の下に補償金を請求すること
ができるから(特許法65条),出願公開後に事実上当該発明を独占し,
第三者の実施を排除して独占的に実施したことにより通常実施権に基
づくものを超える利益を上げたときは,当該発明が貢献した程度を勘案
して「その発明により使用者等が受けるべき利益」を定めることができ
る。
一方,実用新案権及び意匠権については,設定登録前は,使用者の排
他的独占権はなく(実用新案法14条,16条,意匠法20条,23条),
特許法上の補償金請求のような制度も設けられていないことから,この
時点では独占的な実施を観念することはできず,当該考案,意匠を独占
し,第三者の実施を排除して独占的に実施したことによる通常実施権に
基づくものを超える利益を観念できるのは,設定登録後ということがで
きる(ただし,実用新案権については,平成5年法律第26号による改
正前の実用新案法13条の3により,平成6年1月1日よりも以前にお
いては,特許法上の補償金請求と同様の制度が設けられていた。)。
(イ)以上によれば,本件発明等については,それぞれにつき,別紙超過
売上高算定対象期間記載の「超過売上高算定対象期間」欄の期間を対象
として,同期間内における実施品の販売について,「その発明により使
用者等が受けるべき利益」を算定するのが相当である。
(3)「その発明がされるについて使用者等が貢献した程度」について
法35条4項には「その発明がされるについて使用者等が貢献した程
度」を考慮すべきである旨規定されているが,上記(1)のとおり,特許を
受ける権利の承継後に使用者が現実に得た利益をもって「その発明により
使用者等が受けるべき利益の額」として「相当の対価」を算定する場合に
おいては,考慮されるべき「使用者等が貢献した程度」には,「その発明
がされるについて」貢献した程度のほか,使用者等がその発明により利益
を受けるについて貢献した程度も含まれるものと解するのが相当である。
すなわち,「使用者等が貢献した程度」として,具体的には,その発明が
されるについての貢献度のほか,その発明を出願し権利化し,さらに特許
を維持するについての貢献度,実施品の売上げを得る原因となった販売体
制についての貢献度,発明者への処遇その他諸般の事情が含まれるものと
解するのが相当である(この点,職務考案及び職務創作意匠についても同
じである。)。
3被告による実施品の売上高について(争点1-2)
(1)本件実施品1について
ア平成20年度までの分について
(ア)本件実施品1の平成20年度までの売上高は,別紙本件実施品売上
高1(本件実施品1,3~6)記載の「本件実施品1」欄のとおりであ
る(争いのない事実)。
(イ)ところで,本件実施品1は国内のみならず,国外にも販売されてい
るが,本件発明等1について,外国特許等は取得されておらず,外国市
場については,特許の排他的効力により第三者の実施を排除して独占的
に実施することで利益を得たとは認められない。したがって,本件実施
品1の売上高のうち国外販売分については,相当の対価額の計算の基礎
には含めるべきではない。
この点,原告は,国外販売分についても,日本国内での生産や,輸出
業者に対する譲渡について,特許権の実施が行われているため,相当の
対価額の計算の基礎に含めるべきである旨主張するが,日本国内におけ
るこれらの行為が禁止されたとしても,外国での生産,譲渡に特許権の
効力が及ばないことからすれば,結局のところ,外国市場においては,
本件発明等1の実施品の販売は自由であって,被告に,特許発明の実施
を排他的に独占することによる利益が生じているとはいえない。したが
って,原告の主張には理由がない。
イ平成21年度以降の分について
上記のとおり,本件実施品1の売上高のうち国外販売分については相当
の対価額の計算の基礎に含めるべきではないところ,国内販売分について
は,平成21年度以降の売上高は認められない。
(2)本件実施品2について
ア平成20年度までの分について
原告は,本件実施品2の売上高について,被告の主張が信用できないと
して,別紙本件実施品売上高2(本件実施品2・当事者の主張)記載の【原
告の主張】欄のとおり主張するが,当該金額については何ら立証されてい
ない。
したがって,本件実施品2の売上高は,別紙本件実施品売上高2(本件
実施品2・当事者の主張)記載の【被告の主張】の限度で認める。
イ平成21年度以降の分について
本件実施品2の平成21年度以降の売上高(ただし,平成22年7月1
2日まで。)については,平成16年度ないし平成20年度の売上高の平
均に基づき,別紙本件実施品売上高4(本件実施品2・平成21年度以降)
記載のとおりと認める。
本件実施品3ないし6について
ア平成20年度までの分について
本件実施品3ないし6の平成20年度までの売上高は,別紙本件実施品
売上高1(本件実施品1,3~6)記載の「本件実施品3」ないし「本件
実施品6」の各欄のとおりである(争いのない事実)。
イ平成21年度以降の分について
本件実施品3ないし6の平成21年度以降の売上高は,別紙本件実施品
売上高3(平成21年度以降・原告の主張)記載の「本件実施品3」ない
し「本件実施品6」の各欄のとおり推定するのが相当である
4超過売上高(争点1-3)について
本件発明等1について
ア平成5年度までについて
ア上記1で認定したとおり,被告は,平成元年以前,血小板保存用
バッグの分野において実績を有していなかったにもかかわらず,平成元
年度から平成5年度までは,本件実施品1の販売により,同市場におい
て大きなシェアを有するに至っている。
その理由としては,本件発明等1のうち,本件発明1-1の血小板保
存用バッグの素材により,血小板の長期間保存が可能となったことによ
る技術的優位性にあったというべきである。これに対し,本件発明1-
2(血小板保存用バッグの内面の形状),本件発明1-5(プロテクタ
ーの開封線)については,血小板保存用バッグの製品としての利便性や
価値を一定程度高めたものであるということはできるものの,血小板保
存用バッグに必須の構成ではなく,それだけとしてみると,従来技術と
比較して市場における他社の参入を困難とするような技術的優位性が
あるとまでは認められない。
イそうすると,本件特許権1-1の超過売上高算定対象期間内の平成
2年1月5日から平成5年度までは,被告が本件特許権1-1を有する
ことにより,市場における他社の新規参入を困難にしていた効果を否定
することはできないところであり,これらの事情を総合的に判断すると,
平成2年1月5日から平成5年度までの本件実施品1の売上高のうち,
超過売上高は40%と認めるのが相当である。
イ平成6年度以降について
ア他方,平成6年度以降は,血小板製剤の供給量自体はほぼ横ばいで
推移しているにもかかわらず,本件実施品1の売上げは顕著に減少して
おり(平成6年度の売上高は,平成5年度の売上高の約5割強であり,
その後も減少している。),平成9年に本件実施品1の製造販売を中止す
るに至っている。
その理由としては,平成5年にテルモ社がポリ塩化ビニル樹脂(PV
C)を用いた血小板保存用バッグを販売開始したことがあり,同製品の
製造販売により,本件発明1-1の市場における他社の新規参入を困難
にする効果は,それ以前よりも低下したといえる(なお,被告は,売上
げの減少は本件実施品1に液漏れの問題が生じたためと主張するが,こ
の問題はその後解決して,国外に対する販売が継続されていることから
すれば,売上げ減少の理由は,むしろ,テルモ社製品の販売開始にある
とみるのが相当である。)。
イそうすると,平成6年度から平成11年度までの本件実施品1の売
上高のうち,超過売上高は20%と認めるのが相当である。
本件発明等2について
ア上記1で認定したとおり,被告は,平成2年以前,細胞培養用バッグ
の分野において実績を有していなかったにもかかわらず,平成2年度以降
は,本件実施品2の販売により,同市場(空バッグ及び培地充填済みバッ
グ)において大きなシェアを有するに至っており,平成13年には空バッ
グ(本件実施品2-1)及び培地充填済みバッグ(本件実施品2-2)の
双方で80%のシェアを有するほか,その後も平成20年度に至るまでお
おむね売上げを伸ばしていると認められる。
その理由としては,まずもって,原告が,先発メーカーとして細胞培養
用バッグ(空バッグ及び培地充填済みバッグ)の販売を開始したことにあ
るといえるが,競合品の存在にもかかわらず,本件実施品2がシェア及び
売上げを伸ばした背景には,本件発明2-1の細胞培養用バッグの素材が,
フィルムの強度・透明性・酸素透過性などの点で従来技術よりも優れてい
ることによる技術的優位性にあるというべきである。これに対し,本件発
明2-2(培地充填済みの細胞培養用バッグの滅菌方法)については,そ
もそも培地充填済みバッグの製造自体はコージンバイオ社発明(乙12の
1)に依拠するもので,培地充填済みバッグの製造に関する排他的効力は,
むしろ同発明について生じているというべきものである(この点は,被告
自身,本件実施品2-2,2-3の製造販売に当たり,コージンバイオ社
に実施料を支払っていることからも明らかである。)。そして,本件発明2
-2はその滅菌方法についての発明であり,培地充填済みバッグの製造に
不可欠の発明とまではいえないことからすれば,それ自体に市場における
他社の参入を困難とするような意義があったとまでは認められない。また,
本件創作意匠2(採血バッグ用チューブ接続具に係る意匠)についても,
同意匠による流れ不良防止の効果自体は他の意匠によっても達成できるこ
とからすれば,それだけとしてみると,従来技術と比較して市場における
他社の参入を困難とするような技術的優位性があるとまでは認められない。
イそうすると,本件特許権2-1の超過売上高算定対象期間の平成3年1
2月9日から平成22年3月26日までは,被告が本件特許権2-1を有
することにより,市場における他社の新規参入を困難にしていた効果を否
定することはできないところであり,これらを総合的に判断すると,上記
期間の本件実施品2の売上高のうち,超過実施高は40%と認めるのが相
当である。
なお,本件発明2-1は,細胞培養用バッグの素材に関する発明である
ところ,本件実施品2-2,2-3のうちバッグを除いた培地は,本件発
明2-1の技術とは特段関連しない。したがって,本件実施品2-2,2
-3の売上高としては,培地相当分を除き,バッグ相当分である5分の1
に限って,相当の対価額計算の基礎とするのが相当である。
本件発明等3について
ア一体型キットについて
上記1ウのとおり,抗生物質製剤は,従前,抗生物質製剤と点滴用の
輸液(生理食塩水)とは別々に販売されていたところ,平成2年,藤沢薬
品工業から,本件実施品3を用いた抗生物質製剤の販売が開始され,その
後,一体型キットによる抗生物質製剤も販売されるようになった。
一体型キットは,同製剤について利便性に係る付加価値を生じさせるも
のに過ぎず,抗生物質製剤の製造販売に不可欠なものではない。また,藤
沢薬品工業が本件実施品3の販売を開始した後,他社も一体型キットの抗
生物質を販売するようになったが,平成10年においても,抗生物質製剤
のうち,一体型キットを含むキット製品の割合は31.4%にとどまって
いる。これらの点からすれば,抗生物質製剤の販売に当たって一体型キッ
トにするか否かは,各製薬業者の営業方針に委ねられており,医薬品容器
の製造業者等が一体型キットを製造販売するか否かも各製薬業者の営業
方針による影響が大きいものといえる。
そうすると,一体型キットの抗生物質製剤については,仮に売上高,売
上げ個数が多く,同種製品において大きなシェアを占めるとしても,それ
は必ずしも当該製品における技術的優位性を反映したものということま
ではできず,各製薬業者の営業方針や営業力,販売力,中身として使用さ
れる薬剤の選好性等の影響があることも考慮しなければならないという
べきである。
イ平成7年度までについて
ア上記1で認定したとおり,被告は,平成2年に,藤沢薬品工業と
の共同開発により抗生物質製剤に用いる一体型キットを開発し,本件実
施品3を藤沢薬品工業に販売し,藤沢薬品工業はこれを一体型キットの
抗生物質製剤として販売し,同年度から武田薬品工業の「パンスポリン
キット」が販売開始される直前の平成5年度までは,一体型キットの抗
生物質製剤について,本件実施品3を用いた抗生物質製剤がほぼ10
0%のシェアを有していたと認められる。
その理由としては,まずもって,藤沢薬品工業が,先発メーカーとし
て一体型キットの抗生物質製剤の販売を開始したことにあるといえる
が,その背景には,本件発明3-1の連通順序が規制される構造や中空
の穿刺針といった手段を採用したことによって,従来技術と比較して利
便性が向上したことによる技術的優位性があったというべきである。こ
れに対し,本件発明3-2(キャップの構成),3-3(素材),本件創
作意匠3(形状)には,それだけとしてみると,従来技術と比較して市
場における他社の参入を困難とするような技術的優位性があるとまで
は認められない。
一方,平成6,7年には,武田薬品工業から一体型キットの抗生物質
製剤「パンスポリンキット」,「ファーストシンキット」の販売が開始さ
れるようになったところ,その後,平成10年には,本件実施品3を用
いた「セファメジン」,「エポセリン」のキット売上高はそれぞれ78億
円,3億円であるのに対し,「パンスポリン」,「ファーストシン」のキ
ット売上高はそれぞれ115億円,27億円となっており(甲203・
75頁),本件実施品3を超える売上げを上げている。平成6,7年以
降,本件実施品3については,その代替品が普及しつつある状況にあっ
たということができる。
イそうすると,本件特許権3-1の超過売上高算定対象期間内の平成
2年度から平成7年度までは,本件特許権3-1の技術的優位性によっ
て,市場における他社の新規参入を困難にしていた効果を否定すること
はできないところであるが,上記のとおり,一体型キットは抗生物質製
剤の製造販売に不可欠なものではなく,本件実施品3の上記シェアにつ
いては,本件特許権3-1のみならず,各製薬会社の営業方針等も多分
に影響しているといえること,平成6,7頃からは,代替品が普及しつ
つある状況にあったこと等を総合的に判断すると,本件実施品3の上記
期間の売上高のうち,超過売上高は20%と認めるのが相当である。
ウなお,被告は,本件発明等3は,藤沢薬品工業との開発協力契約に
基づいて開発されたものであり,本件実施品3は藤沢薬品工業に対して
のみ販売できたものであることから,被告に特許権者らしい優越的地位
は生じていないと主張する。
しかしながら,本件特許権3-1,3-2は藤沢薬品工業以外の他社
に対しては,同特許権に係る発明の実施を排除する効力を有しており,
被告と藤沢薬品工業との契約内容は,特許を受ける権利の承継とは無関
係の事情であるから,これによって被告の特許権者としての優越的地位
を全く否定することはできないというべきであり,被告と藤沢薬品工業
との関係は,藤沢薬品工業の営業方針に関する事情として考慮すれば足
りるというべきである。
イ平成8年度以降について
ア他方,一体型キットについては,平成6年に大塚製薬,平成7年に
被告自身が新たな一体型キットを開発し,これを利用した抗生物質製剤
が販売されるようになり,平成8年には,大塚製薬が「OMCキット」
を開発し,これを利用した抗生物質製剤が販売されるようになった。
そして,平成10年には,一体型キットの抗生物質製剤としては14
社25品目が上市されるに至っており,その売上高のうち,一体型キッ
トに「OMCキット」を使用したものが51%を占めるのに対し,本件
実施品3を使用したものについては,当初のシェアは大きく低下し2
2%を占めるにすぎない(なお,この間,藤沢薬品工業が,一体型キッ
トの抗生物質製剤の販売を縮小する方針であったような事情も見当た
らない。)。
イ「OMCキット」は,ダブルバッグタイプの一体型キットであると
ころ,被告自身,本件実施品3を開発した後に,ダブルバッグタイプの
一体型キットの開発をしていること(本件発明等6参照)からも明らか
なとおり,ダブルバッグタイプの一体型キットは,本件発明等3を技術
的に代替し得るものであるということができる。
以上のような事情を踏まえ,上記販売実績も考慮した場合,平成8年
度以降については,本件発明3-1は,その利便性において,他の製品
に比べて格別に顕著な差を有していたということはできず,他方,その
代替技術が市場に存在していたということができる。
ウそうすると,平成8年度以降については,被告又は藤沢薬品工業と
競合する他社は,一体型キットについて,本件発明3-1と技術的に同
等以上の代替技術を使用して,本件発明3-1を使用することなく同様
の製品を製造販売することができたというべきであり,被告が,本件特
許権3-1を有していたことによって,すなわち他社に対する禁止権の
効果として,超過売上高を得たという関係を認めることはできない。
本件発明等4について
ア上記1で認定したとおり,ハーフキットについては,平成4年から「大
塚生食注TN」が販売されていたところ,被告は,平成6年に本件実施品
4の販売を開始し,その後,平成8年には,テルモ社,扶桑薬品工業が新
たなハーフキットを販売開始した。そして,平成10年には,ハーフキッ
トとしては4社9品目が上市されるに至っている。平成6年度から平成2
0年度までの間のハーフキットの売上げ個数についてみると,平成6年度
から平成14年度までは「大塚生食注TN」が最も多く,平成15年度か
ら平成19年度までは,本件実施品4が最も多かったものの,その後,本
件実施品4の売上げ個数は減少し,平成20年度は,「大塚生食注TN」が
再び多くなっている。なお,平成17年頃には,「大塚生食注」2ポートの
販売も開始されている。
このように本件実施品4の売上げ個数は,販売開始から8年が経った後
に「大塚生食注TN」の売上げ個数を超えるに至ったが,その後再び,同
製品よりも少なくなっている。
イ本件発明4-1は,2ポートタイプであり,1ポートタイプである従来
技術4-1と比較して,操作が容易で手間がかからず,混合された薬液が
漏れるおそれがないこと,部品点数が少ないことなどの点で技術的優位性
は認められるものの,いずれにも複数の医薬品についてコネクターを介し
て連通することのみで混合できるというハーフキットとしての基本的な利
便性があることを前提にした場合,その技術的優位性は格別のものとはい
えない(この点は,甲74において,本件実施品4と「大塚生食注TN」
の両方の有用性が確認されていることからも認められる。)。
また,本件発明4-2の薬液の滅菌方法は,従来技術と比較して,ボト
ル形成材料から発生する微粒子の増加や,ボトルの変形を防ぐことができ
るなどの利点があり,本件考案4についても,従来技術と比較して,輸液
容器を倒立状態で自立させることができ,成型時に接続部に無理な力がか
からないなどの利点があるが,これについても,いずれもハーフキットと
しての基本的な利便性を有することを前提にした場合,技術的優位性は格
別のものとはいえない。
これらに加えて,上記のような販売実績も考慮した場合,本件発明等4
は,その利便性において,従来技術及び他の製品に比べて格別に顕著な差
を有していたということはできず,他方,その代替技術は市場に存在して
いたということができる。
ウそうすると,被告と競合する他社は,ハーフキットについて,本件発明
等4と技術的に同等以上の代替技術を使用して,本件発明等4を使用する
ことなく同様の製品を製造販売することができたというべきであり,被告
が本件特許権等4を有していたことによって,すなわち他社に対する禁止
権の効果として,超過売上高を得たという関係を認めることはできない。
本件発明等5について
ア一体型キットについては,平成10年には,一体型キットの抗生物質製
剤としては14社25品目が上市されるに至っており,その売上高のうち,
「OMCキット」を使用したものが51%を占めるのに対し,本件実施品
3を使用したものは22%を占めるにすぎなかったところ,被告は,平成
11年に,藤沢薬品工業との共同開発により本件実施品5を開発し,本件
実施品5を藤沢薬品工業に販売し,藤沢薬品工業はこれを一体型キットの
抗生物質製剤として販売していた。
平成10年度から平成20年度までの一体型キットの抗生物質製剤の売
上げ個数についてみると,いずれの時期においても大塚製バッグを使用し
た抗生物質製剤が最も多くなっている(なお,平成10年における一体型
キットの抗生物質製剤のシェア等からすると,使用されていた大塚製バッ
グの大半は「OMCキット」であると認められる。)。
イ本件発明5は,本件実施品3と比較して,薬剤と輸液の連通操作がより
簡単で,安全に短時間で可能であること,キット全体が小型化,軽量化し
たこと,溶解液の逆流の可能性がなく,分別廃棄を必要としないことなど
の点で技術的優位性は認められるものの,これらの優位性は,平成8年に
販売開始された大塚製薬の「OMCキット」も有しているといえ,同製品
と比較した場合,その技術的優位性は格別のものとはいえない。また,本
件創作意匠5は,そもそも本件発明5の構造を採用する場合に問題となる
ものに過ぎず,それだけとしてみると,従来技術と比較して市場における
他社の参入を困難とするような技術的優位性があるとまでは認められな
い(なお,原告は,本件実施品5の「セファメジン」は,同一粉剤を使用
し,「OMCキット」を容器とした「セファゾリン」に対し,平成12
年頃売上高で追いつき,平成13年以降その2倍以上の売上高を上げて
いると主張するが,そのような事実があったとしても,当該売上高の差
が,技術的優位性によるものと認めるに足りる根拠はない。)。
これらに加えて,上記販売実績も考慮した場合,本件発明等5は,その
利便性において,他の製品に比べて格別に顕著な差を有していたというこ
とはできず,他方,その代替技術は市場に存在していたということができ
る。
ウそうすると,被告又は藤沢薬品工業と競合する他社は,一体型キットに
ついて,本件発明等5と技術的に同等以上の代替技術を使用して,本件発
明等5を使用することなく同様の製品を製造販売することができたとい
うべきであり,被告が本件特許権等5を有していたことによって,すなわ
ち他社に対する禁止権の効果として,超過売上高を得たという関係を認め
ることはできない。
本件発明等6について
ア一体型キットの販売状況については,上記アのとおりであるところ,
被告は,平成12年に本件実施品6の販売を開始した。
平成10年度から平成20年度までの一体型キットの抗生物質製剤の売
上げ個数についてみると,いずれの時期においても大塚製バッグを使用し
た抗生物質製剤が最も多くなっている(なお,平成10年における一体型
キットの抗生物質製剤のシェア等からすると,使用されていた大塚製バッ
グの大半は「OMCキット」であると認められる。)。
イ本件発明6-1,6-2は,従来技術6-1と比較して,薬剤収容室の
確実な滅菌が可能になる,コストを低減できるという点で技術的優位性は
認められるものの,いずれにもワンタッチで簡便に抗生物質と溶解液を混
合することができるというダブルバッグタイプの一体型キットとしての
基本的な利便性があることを前提にした場合,その優位性は格別のものと
はいえない。
また,本件発明6-4は,従来技術と比較して,耐熱性が良く,不溶性
微粒子が少なく,透明性および耐衝撃性,柔軟性において優れているとい
う利点があるが,これについても,技術的優位性は格別のものとはいえな
い。
これらに加えて,上記販売実績も考慮した場合,本件発明6-1,6-
2,6-4は,その利便性において,従来技術及び他の製品に比べて格別
に顕著な差を有していたということはできず,他方,その代替技術は市場
に存在していたということができる。
ウそうすると,被告と競合する他社は,一体型キットについて,本件発明
6-1,6-2,6-4と技術的に同等以上の代替技術を使用して,本件
発明6-1,6-2,6-4を使用することなく同様の製品を製造販売す
ることができたというべきであり,被告が本件特許権6-1,6-2,6
-4を有していたことによって,すなわち他社に対する禁止権の効果とし
て,超過売上高を得たという関係を認めることはできない。
5仮想実施料率について(争点1-4)
本件発明等は,血液,培地,輸液等の容器に関するものであり,その技術
分野は「成形」というべきであって,その実施料率は3.4%と認めるのが
相当である(乙36)。
原告は,本件発明等1ないし6の技術分野は,発明協会研究センター編の
「実施料率」(甲39)における「精密機械器具」(医療用機械器具が含まれ
ている。)であるとして,実施料率は6.7%である旨主張するが(甲39),
「精密機械器具」として列挙されているのはほかに,測量機械器具や光学機
械器具・レンズ製造技術等であることから明らかなように,本件発明等1な
いし6の容器がこれに含まれるとは解されない。
6使用者の貢献度について(争点1-5)
被告は,医療器具や医薬品容器の製造販売等を事業内容としており,これ
らに関する研究については,滋賀県草津市に総合研究所を置いて研究体制を
整えているところ,本件発明1-1,2-1,3-1は,いずれも,被告の
上記事業内容に関するもので,上記研究所における研究体制においてされた
ものである。
そして,それぞれの発明に関する開発テーマについては,本件発明1-1
については,上記1イアのとおり,成分献血が開始されることに伴い,
被告の営業担当職員によって,開発テーマ申請書が提出されているのであっ
て,被告の主導によって,開発テーマが決定されたといえる。また,本件発
明2-1については,上記1イアのとおり,原告が本件発明等1の試験
を行う過程で,P6博士から提案を受けたことがきっかけとなっているが,
上記試験自体は,原告が被告の従業員として行っていたものであることから
すれば,開発テーマの決定における被告の貢献を軽くみることはできない。
また,本件発明3-1については,上記1イアのとおり,藤沢薬品工業
から一体化キットの共同開発の話があったことがきっかけとなっているが,
これについても,やはり被告の主導で開発テーマが決定されている。
また,被告は,上記1エ,エ,エのとおり,本件発明1-1,2
-1,3-1についての権利化を行っている上,これらの実施品である本件
実施品1ないし3の販売についても,被告又は被告と共同開発した藤沢薬品
工業の営業力,販売力を背景にされたものといえ,また,被告はその販売の
リスクも負担していたのであるから(弁論の全趣旨),被告の貢献は大きいも
のといえる。
そして,原告は,上記1のとおり,被告の総合研究所において研究業務
に従事し,その職務として本件発明1-1,2-1,3-1をしており,上
記1オ,オ,オのとおり,本件実施品1ないし3の販売等に関する
功績で表彰され,本件実施品1については合計12万3000円,本件実施
品2については合計5万6000円,本件実施品3については合計3万円を
それぞれ受領している。
そうすると,本件発明1-1,2-1,3-1に関し被告が貢献した程度
は,95%を下回るものではないと認められる。
7共同発明者間における原告の貢献度について(争点1-6)
職務発明が,共同発明である場合には,各共同発明者が発明に当たってい
かなる寄与をしたのか,また上記発明により被告が利益を得た場合には,そ
の利益獲得に当たっていかなる寄与をしたのかについて,客観的な事実関係
に基づく諸般の事情を考慮して,裁判所がその寄与度を認定できるというべ
きである。
そこで,共同発明である本件発明3-1について,原告の貢献度を検討す
る。
ア藤沢薬品工業側社員と被告側社員間の貢献割合について
ア本件発明3-1については,上記1イイaのとおり,藤沢薬品
工業側社員が,バクスター社のアイバッグの構造についての改良方向の
意見を出し,これを踏まえて,主に被告側社員が中心となって,本件発
明3-1の連通手段を開発している。
この点,藤沢薬品工業側社員の改良方向の意見は,主に,検討すべき
方向性を指摘するものではあるものの,具体的なものではなく,また,
本件発明3-1は,制動手段により最初に薬剤容器の栓が刺通された後,
可撓性容器の閉鎖膜が刺通される点,破断部材ではなく中空の穿刺針を
用いる点に特徴があるが,これらに関する改良の方向性については,必
ずしも具体的には示されていない(甲56の3)。一方,被告側社員は,
藤沢薬品工業側社員の示した意見を踏まえて,具体的な解決方針を着想
すると共に,上記具体的な構成を発案している。
これらの事情からすれば,本件発明3-1の完成に対する藤沢薬品工
業側社員の貢献割合は25%であり,被告側社員の貢献割合は75%と
解するのが相当である。
イなお,原告は,藤沢薬品工業が被告と競合する会社ではないこと,
被告は同社に実施料を支払う必要がないことをもって,藤沢薬品工業側
社員の貢献については考慮する必要がないと主張するが,いずれも発明
の完成に対する原告の寄与の度合いを検討するに当たって,藤沢薬品工
業社員を除外する理由とはいえず,その主張は採用できない。
イ原告とP11,P7との貢献割合について
ア本件発明3-1については,総合研究所の主任研究員であった原告
と,医療推進部の課長代理であったP11(甲60等),同部に所属す
るP7(甲64等)が,それぞれの立場で関与して行ったものとして,
被告側社員間における本件発明3-1の完成に対する貢献割合につい
ては,これを案分して33.3%と解するのが相当である。
イ原告は,本件発明3-1の連通機構は原告の発案であると主張する
ところ,上記1イaのとおり,「中空の穿刺針」については,原告
が昭和63年1月5日に作成した図面に記載されているものの,連通順
序を制御する「掛止部」については,P7が同年3月17日に製図をし
た図面に記載され,原告はこれを点検したにすぎないといえる。
これらの点からすれば,本件発明3-1の連通機構について,直ちに
原告のみが発案したものであるとはいえないのであって,原告の主張は
採用できない。
ウ小括
以上によれば,本件発明3-1の完成に対する原告の貢献割合は,発明
者全体に占める原告,P11及びP7の貢献割合の合計である75%に,
原告,P11及びP7の間における原告の貢献割合である33.3%を乗
じることにより,25%となる。
8相当の対価額(争点1-7)について
(1)本件発明1-1について
本件発明1-1の相当の対価額としては,平成2年1月5日から平成11
年度までの本件実施品1の売上げを基礎として,合計●●●●●●●円と認
められる(なお,平成2年1月5日から同年3月31日まで(86日間)の
売上げについては,平成元年度の売上げを日割り計算した●●●●●●●●
円を相当と認める。)。
(計算式)
ア平成元年度から平成5年度までについて
【売上額】【超過売上高】
●●●●●●●●●●●円×40%
【仮想実施料率】【1-使用者貢献度】【共同発明者間の割合】
×3.4%×(100%-95%)×100%
=●●●●●●●円
イ平成6年度から平成11年度までについて
【売上額】【超過売上高】
●●●●●●●●●円×20%
【仮想実施料率】【1-使用者貢献度】【共同発明者間の割合】
×3.4%×(100%-95%)×100%
=●●●●●●円
ウ合計
●●●●●●●円+●●●●●●円=●●●●●●●円
(2)本件発明2-1について
本件発明2-1の相当の対価額としては,平成2年度から平成22年3月
26日(本件特許権2-1に係る存続期間満了日)までの本件実施品2の売
上げ(バッグ相当額)を基礎として,合計●●●●●●円と認める(なお,
平成21年4月1日から平成22年3月26日まで(360日間)の売上げ
については,平成21年度の売上げ(バッグ相当額分。平成16年度から平
成20年度までの売上高の平均)を日割り計算した●●●●●●●●●円を
相当と認める。)。
(計算式)
【売上額】【超過売上高】
●●●●●●●●●●●円×40%
【仮想実施料率】【1-使用者貢献度】【共同発明者間の割合】
×3.4%×(100%-95%)×100%
=●●●●●●●円
(3)本件発明3-1について
本件発明3-1の相当の対価額としては,平成2年度から平成7年度まで
の本件実施品3の売上げを基礎として,合計●●●●●●●円と認める。
(計算式)
【売上額】【超過売上高】
●●●●●●●●●●●●円×20%
【仮想実施料率】【1-使用者貢献度】【共同発明者間の割合】
×3.4%×(100%-95%)×25%
=●●●●●●●円
9原告による放棄の意思表示の有無について(争点2)
(1)退職届(乙2)の表記等について
ア原告の平成20年6月18日付け退職願(乙2)には,「退職に際して
は就業規則および発明考案取扱規定に定める下記の記載事項を厳守い
たします」として,その下に,4点の厳守事項が記載されており,その中
に「4在職中の発明考案等に係わる補償金の受給権は全て放棄いたしま
す」との記載がある。なお,4点の厳守事項は,囲み枠の中にポイントを
落とした文字で表記されている。
イその当時に実施されていた被告の発明考案取扱規程(平成20年1月1
日実施のもの。乙1の5。以下「平成20年規定」という。)では,補償
金の支給対象について,第12条で「第8条~第10条の規定は,補償金
の支給時に会社に在籍している従業員等に対してのみ適用される。」と規
定されていた。なお,同規定の第8条ないし第10条は,出願補償金,登
録補償金及び実績補償金の支給要件及び支給額を規定したものである(た
だし,実績補償金の詳細は,別途細則で定められている。)。
同条項は,退職者の増加に伴って,補償金等の支払を会社に在籍してい
る従業員に対してのみ適用するため,平成11年2月27日の発明考案規
程(平成3年規定)の一部改訂において設けられたものである(乙1の4,
32)。
放棄文言の解釈
以上を踏まえて検討するに,上記退職届の文言からは,厳守事項は,飽く
までも就業規則及び発明考案取扱規程に定められた事項であることが前提で
あることから,厳守事項のうち「4在職中の発明考案等に係わる補償金の
受給権は全て放棄いたします」についても,就業規則及び発明考案取扱規程
に定められた事項の範囲内で解釈される必要がある(この点,被告社員も,
退職に当たり,就業規則及び発明考案取扱規程12条の内容を改めて認識し
てもらう趣旨であることを認めている。乙32・2頁)。
そこで,これに関する発明考案取扱規程第12条をみるに,同条は,同規
定第8条ないし第10条の出願補償金,登録補償金及び実績補償金の支給要
件及び支給額に関する社内規定が在籍している従業員にしか適用されないこ
とを規定したものであり,当該社内規定による支給額を超える職務発明等の
対価が生じていると思料する場合の当該対価請求権の権利行使については,
何ら規定していない。
そうすると,厳守事項4については,退職により,社内規定による補償金
(出願補償金,登録補償金及び実績補償金)の受給については,上記規定が
適用されないことを確認したものにとどまり,社内規定によらない職務発明
の対価請求権の行使については,何ら規定するものではないと解するのが相
当である。
原告が補償金の支給に不満をもっていたこと
なお,原告は,平成15年12月3日,本件実施品1ほかの製品について,
実績補償金の対象ではないとされたことについて,発明考案取扱規程(乙1
の4)15条に基づく不服申立てを行い(甲115の3・5),その後,平成
16年3月5日,実績補償金の支給に対する不満等を含めて,滋賀労働局に
対し,あっせん申請書を提出するなどしており(甲116),在職中から,補
償金の支給に不満を持っていたことは明らかである。
そして,原告は,退職後,平成20年11月18日到達の内容証明郵便
で被告に催告書兼提訴予告通知書を送付していることからすれば,退職時
に,職務発明の対価請求権を放棄する意思までは有していなかったと推認
できる。
(4)小括
以上のとおり,本件において,原告による職務発明の対価請求権を放棄
する旨の意思表示があったとまでは認められない。
10消滅時効の成否について(争点3)
(1)消滅時効の起算点
ア職務発明について特許を受ける権利等を使用者等に承継させる旨を定め
た勤務規則等がある場合においては,従業者等は,当該勤務規則等により,
特許を受ける権利等を使用者等に承継させたときに,相当の対価の支払を
受ける権利を取得する(法35条3項)。対価の額については,同条4項
の規定に従って,勤務規則等による額が同項により算定される額に満たな
いときは同項により算定される額に修正されるのであるが,対価の支払時
期についてはそのような規定は設けられていない。したがって,勤務規則
等に対価の支払時期が定められているときは,勤務規則等の定めによる支
払時期が到来するまでの間は,相当の対価の支払を受ける権利の行使につ
き法律上の障害があるものとして,その支払を求めることができないとい
うべきである。そうすると,勤務規則等に,使用者等が従業者等に対して
支払うべき対価の支払時期に関する条項がある場合には,その支払時期が
相当の対価の支払を受ける権利の消滅時効の起算点となると解するのが
相当である(最高裁平成15年判決参照)。
イ本件では,勤務規則等において,相当の対価につき,特許権の存続期間
中,一定の期間ごとに特許発明の実施の実績に応じた額を使用者等から従
業者等に支払う旨の定めがされている。このような場合には,相当の対価
のうち,各期間における特許発明の実施に対応する分については,それぞ
れ当該期間の特許発明の実施の実績に応じた額の支払時期が到来するまで
その支払を求めることができないのであるから,各期間の特許発明の実施
の実績に応じた額の支払時期が,相当の対価の支払を受ける権利のうち,
当該期間における特許発明の実施に対応する分の消滅時効の起算点となる
と解するのが相当である。
ウ本件において,上記第2,1イのとおり,原告は,被告に対し,本件
発明等に係る特許等を受ける権利を承継させた。
被告においては,平成3年4月1日に実施された平成3年規定の第10
条では「会社は特許権等が実施されることにより会社の業績に顕著に寄与
したものと認められるときは,発明考案者の申請に基づき,…実績補償金
を発明考案をした者に支給する。但し実績補償は一の対象物件あるいは
対象方法につき,3年間の純利益総額を基準にして3年ごとに評価して
支給する」と定めている(乙1の2)。これに基づき,例えば,平成1
5年度でみると,同年10月1日から同月30日までが実績補償金申請
書の提出期間で,承認された場合は,平成16年3月25日が支給日と
されている(甲181の1)。
なお,平成3年規定に経過規定はないものの,被告においては,平成
3年3月31日以前に原告から被告に特許等を受ける権利が承継され
た発明等(本件発明等1~3,本件考案6)についても,同年4月1日
以降,平成3年規定に基づく取扱いがされていることが認められること
から(甲115の3,甲182の1・2等),かかる発明等についても,
実績補償金の支払時期については,上記のとおりと認められる。
エ以上を総合すると,原告が,実績補償金について権利行使することが
できるのは,本件発明等が特許等として登録され,かつその後の被告の
3年間の利益が算定可能となった後の年度末(3月31日)と解するの
が相当である。
そして,その後に生じる被告の利益についても,3年ごとに評価すべ
き旨定められていることからすると,ある年度の実績に対応する実績補
償金の支払時期は,遅くとも当該年度の3年後の年度末(3月31日)
には権利行使可能ということができる。
また,本件発明等が特許等として登録される以前に実施され,これに
よって被告が利益を受けた部分についても,権利登録後の実績補償金と
併せて行使すべきとされていることから(甲181の1),特許等の登
録前に独立して行使されることは予定されておらず,権利を行使し得る
時期は,上記実績補償と同様と認められる。
オ本件において,発明の相当の対価として超過売上高が認められるのは,
本件発明1-1(ただし,国内販売分に限る。),2-1,3-1(ただ
し,平成7年度までの実施分に限る。)に限られるところ,それぞれの
権利行使可能時期は以下のとおりである。
(ア)本件発明1-1については,平成8年4月25日に特許登録がさ
れ,平成元年度から平成11年度にかけて本件実施品1の売上げが生
じていることから,原告は,平成8年度から平成10年度までの売上
げに対する実績補償金につき,平成12年3月31日に権利行使可能
であったことになり,特許登録前の平成元年度から平成7年度までの
売上げに対応する分についても同様である。
また,平成11年度の売上げに対する実績補償金については,平成
15年3月31日に権利行使可能であったことになる。
(イ)同様に,平成9年5月2日に特許登録された本件発明2-1につ
いては,平成2年度から平成11年度までの売上げに対する実績補償
金につき,平成13年3月31日に,その余はその後に権利行使可能
となり,平成7年12月20日に特許登録された本件発明3-1につ
いては,平成2年度から平成7年度までの売上げに対する実績補償金
につき,平成11年3月31日に権利行使可能となる。
カなお,原告は,被告において,発明考案者が発売後,初めて実績補償
金を申請する場合には,過去3年以上前から製造・販売している場合に,
製造・販売当初からの実績を加味して申請することができるとされてい
ることから(甲181の1),実績補償金の支払時期は,売上実績が上
がって3年間以上が経過し,その後に到来した実績補償金の申請時期に,
発明考案者が初めての実績補償金の申請をすることを条件として,発明
考案者が最初の申請をした当該実績補償金の支払時期に初めて到来し,
この時期が時効の起算点となるというべきであると主張する。
しかしながら,特許権等が登録され,かつ実施もされてから3年が経
過していれば,発明考案をした従業者が申請を行うことついて何ら法律
上の障壁はないことから,当該申請を前提とした支払時期を「権利を行
使しうる時」と解すべきであって,消滅時効の起算日を従業者の意思に
かからしめる原告の主張は採用できない。
(2)時効の中断について
原告は,平成20年11月18日到達の内容証明郵便で被告に催告書兼
提訴予告通知書を送付し,その催告書到達日から6か月以内に提訴してい
る(甲107の1,2)。
したがって,時効の中断は平成20年11月18日の催告日に遡る(民
法153条)。
(3)消滅時効の成否
以上によれば,発明の相当の対価として超過売上高が認められるのは,
本件発明1-1(ただし,国内販売分に限る。),2-1,3-1(ただし,
平成7年度までの実施分に限る。)に限られるところ,本件発明1-1(平
成2年1月5日から平成11年度までの実施分),2-1(平成2年度か
ら平成22年3月26日までの実施分)及び,3-1(平成2年度から平
成7年度までの実施分)についての相当の対価については,いずれも消滅
時効完成前に時効の中断がされており,消滅時効は成立していない。
11控除すべき金額について(争点4)
補償金について
原告は,本件特許権1-1について,出願時補償として5000円,登録
時補償として2万円の合計2万5000円を受領している。
原告は,本件特許権2-1について,出願時補償として5000円,登録
時補償として2万円,実績補償金として11万0232円の合計13万52
32円を受領している。
原告は,本件特許権3-1について,出願時補償として1666円,登録
時補償として6666円,実績補償金として72万1802円の合計73万
0134円を受領している(なお,実績補償金については,平成8年度以降
の売上げに対応するものについても,本件特許権3-1の実績補償として支
払われたものである以上,職務発明の相当の対価の一部として支払われた金
額に含まれるものと解する。)。
これらについては,本件発明1-1,2-1,3-1の各対価として受領
しているものであることから,上記相当の対価額からそれぞれ控除するのが
相当であり,本件発明1-1については24万1617円,本件発明2-1
については32万9461円の限度で理由があることになる。
その他の金員について
なお,被告は,原告が報奨金・技術賞などの名目で受領した金額について
も,職務発明の対価であり控除されるべきと主張するが,これらの金額は,
原告の会社に対する貢献に対して支払われているものの,発明の対価として
支払われたものではないことから,控除するのは相当ではない。
第5結論
以上によれば,本件において,原告の請求は,被告に対し,57万1078
円及びこれに対する平成20年11月19日から支払済みまで民法所定の年5
分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余の請求は
理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官谷有恒
裁判官松川充康
裁判官網田圭亮
別紙一覧表
別紙1本件特許権等目録1
別紙2本件特許権等目録2
別紙3本件特許権等目録3
別紙4本件特許権等目録4
別紙5本件特許権等目録5
別紙6本件特許権等目録6
別紙7意匠公報1(本件創作意匠2)
別紙8意匠公報2(本件創作意匠3)
別紙9意匠公報3(本件創作意匠5)
別紙10発明考案取扱規程
別紙11本件実施品売上高1(本件実施品1,3~6)
別紙12本件実施品売上高2(本件実施品2・当事者の主張)
別紙13本件実施品売上高3(平成21年度以降・原告の主張)
別紙14本件実施品売上高4(本件実施品2・平成21年度以降)
別紙15本件実施品6図面
別紙16補償金計算書
別紙17別紙抗生物質キット医薬品及びハーフキットの売上個数
別紙18超過売上高算定対象期間
(別紙7ないし9,16,18は添付を省略。別紙10ないし15,17は閲覧等
制限対象部分)
(別紙1)
本件特許権等目録1
●●●●特許権特許権特許権特許権
1111本件特許権本件特許権本件特許権本件特許権1111----1111
特許番号第2048623号
発明の名称血小板保存用バッグおよびそれを用いた複合バッグ
出願年月日平成1年1月9日(特願平1-2339)
出願公開日平成2年1月5日(特開平2-1279)
登録日平成8年4月25日
特許権者被告
発明者原告
特許請求の範囲
【請求項1】(a)ポリエチレンブチレンポリスチレンブロック共重合体25~
60重量%(b)ポリプロピレン20~40重量%(c)エチレンアク
リル酸エステル共重合体5~35重量%の組成からなる重合体混
合物であって,(a)のブロック共重合体のポリスチレンセグメント
が結晶化配列した部分を少なくとも2個以上有し,前記(a)~(c)
の重合体の分子鎖が網目状に絡み合ったポリマーアロイから形成
されてなる血小板保存用バッグ。
【請求項2】供血者の血液を収容し,血液成分を分離する親バッグと,分離
した血液成分を貯蔵する子バッグと,親バッグと子バッグとを連
通し,分離した血液成分を輸送するためのチューブからなる複合
バッグであって,前記子バッグが請求項1記載の材料からなる複
合バッグ。
【請求項3】親バッグの材料がジオクチルフタレートを含有するポリ塩化ビ
ニルである請求項2記載の複合バッグ。
2222本件特許権本件特許権本件特許権本件特許権1111----2222
特許番号第1894200号
発明の名称血小板保存用バッグ
出願年月日昭和63年3月11日(特願昭63-57656)
出願公開日平成1年9月13日(特開平1-230361)
登録日平成6年12月26日(平成9年3月30日不納消滅)
特許権者被告
発明者原告
特許請求の範囲
【請求項1】ポリ(エチレンブチレン)ポリスチレンブロック共重合体を含
有する重合体からなる医療用バッグにおいて,バッグ内面が粗面
である2枚のシートが重ね合わされ,その周辺部が熱溶着されて
形成されてなることを特徴とする血小板保存用バッグ。
【請求項2】略
3333((((欠番欠番欠番欠番))))
4444((((欠番欠番欠番欠番))))
5555本件特許権本件特許権本件特許権本件特許権1111----5555
特許番号第2766517号
発明の名称血液バッグの血液出入り口用チューブを密封保護するプロ
テクター
出願年月日平成1年7月24日(特願平1-190798)
出願公開日平成3年3月8日(特開平3-55063)
登録日平成10年4月3日(平成13年4月3日不納消滅)
特許権者被告
発明者原告,P20
特許請求の範囲
【請求項1】血液バッグに取りつけられた血液出入り口用チューブを密封保
護するプロテクターであって,2枚のシートからなるプロテクタ
ーの袋部分に,切り込み部から超音波カッターによってシート断
面の一部が切断されたほぼ直線状の開封線が設けられてなる血液
バッグの血液出入り口用チューブを密封保護するプロテクター。
【請求項2】シート材料がポリオレフィンである請求項1記載の血液バッグ
の血液出入り口用チューブを密封保護するプロテクター。
※なお、本件特許権1-3,1-4という語を使用するときは,以下の特許権
を指す(これらに係る発明を被告が実施していないことについて争いはなく,
原告は,これらに基づく職務発明の対価請求権に基づく請求は取り下げてい
る。)。
(1)本件特許権1-3
特許番号第1874850号
発明の名称血液バッグの出入口プロテクターの製造装置およびそれ
を用いた製法
出願年月日平成1年3月27日(特願平1-74597)
出願公開日平成2年10月11日(特開平2-252457)
登録日平成6年9月26日(平成8年12月22日不納消滅)
特許権者被告
発明者原告,P19
(2)本件特許権1-4
特許番号第1923169号
発明の名称医療用バッグのポート取付方法および装置
出願年月日平成1年5月26日(特願平1-133478)
出願公開日平成3年1月7日(特開平3-64)
登録日平成7年4月25日
特許権者被告
発明者P19,原告
(別紙2)
本件特許権等目録2
●●●●特許権特許権特許権特許権
1111本件特許権本件特許権本件特許権本件特許権2222----1111
特許番号第2643003号
発明の名称細胞培養用バツグ
出願年月日平成2年3月26日(特願平2-76181)
出願公開日平成3年12月9日(特開平3-277268)
登録日平成9年5月2日
特許権者被告
発明者原告
特許請求の範囲
【請求項1】(a)エチレンと炭素数6~8のαオレフインの共重合体から
なる線状低密度ポリエチレン70~95重量%(b)低密度ポリ
エチレン30~5重量%の組成のフイルムからなる細胞培養用バ
ツグ。
2222本件特許権本件特許権本件特許権本件特許権2222----2222
特許番号第2854394号
発明の名称液体培地入りカルチヤーバツグの製造方法
出願年月日平成2年7月12日(特願平2-185079)
出願公開日平成4年3月6日(特開平4-71482)
登録日平成10年11月20日
特許権者被告
発明者原告
特許請求の範囲
【請求項1】ガス透過率の大なるフイルムからなり,γ線で滅菌したカルチ
ヤーバツグに濾過滅菌を施した液体培地を無菌的に充填し,その
充填口を無菌的にシールした後,ガス透過率が小さくγ線で滅菌
した2次包材で無菌的に包装することを特徴とする液体培地入り
カルチヤーバツグの製造方法。
【請求項2】略
●●●●意匠権意匠権意匠権意匠権
本件創作意匠本件創作意匠本件創作意匠本件創作意匠2222
登録番号第863940号
意匠に係る物品採血バッグ用チューブ接続具
出願年月日平成2年4月12日(意願平2-12588)
登録日平成4年12月25日(平成19年12月25日満了消滅)
意匠権者被告
創作者原告,P20
登録意匠別紙意匠公報1(本件創作意匠2)記載のとおり
(別紙3)
本件特許権等目録3
●●●●特許権特許権特許権特許権
1111本件特許権本件特許権本件特許権本件特許権3333----1111
特許番号第2004020号
発明の名称輸液容器
出願年月日平成1年3月15日(特願平1-64400)
出願公開日平成2年1月5日(特開平2-1277)
登録日平成7年12月20日
特許権者被告,アステラス製薬株式会社
発明者P22,P23,P3,原告,P11,p7
特許請求の範囲
【請求項1】(a)内部に溶解液または希釈液が収納され,上端に閉鎖膜で
閉鎖された液体通路部を有する可撓性容器と,(b)該可撓性容
器に連結されたカプセルと,(c)口部が刺通可能な栓で密封さ
れており,前記カプセル内に保持される薬剤容器と,(d)前記
可撓性容器の内部と薬剤容器の内部とを連通する連通手段からな
り,(e)前記連通手段が,中間にハブを有し両端に刃先を有す
る中空の穿刺針と,該穿刺針の一方の刃によって薬剤容器の栓が
刺通された後,穿刺針の他方の刃によって可撓性容器の閉鎖膜が
刺通されるように連通順序を制御する制御手段とからなることを
特徴とする輸液容器。
【請求項2】前記薬剤容器が,薬剤バイアルである請求項1記載の輸液容器。
【請求項3】前記制動手段が,前記穿刺針のハブに設けられており,該制動
手段はカプセルの壁に設けられた掛止部によって係止されてお
り,薬剤バイアルが下方に移動され,該薬剤バイアルの栓が穿刺
針によって確実に刺通される位置まで移動したとき,前記制動手
段が前記掛止部から脱出して,穿刺針の下方移動が可能となるよ
うに構成されてなる請求項2記載の輸液容器。
【請求項4~14】略
2222本件特許権本件特許権本件特許権本件特許権3333----2222
特許番号第1915895号
発明の名称輸液容器
出願年月日平成1年3月15日(遡及日)(特願平3-150277)
出願公開日平成4年9月9日(特開平4-253863)
登録日平成7年3月23日
特許権者被告,アステラス製薬株式会社
発明者P22,P23,P3,原告,P11,P7
特許請求の範囲
【請求項1】(a)内部に溶解液または希釈液が収納され,上端に閉鎖膜で
閉鎖された液体通路部を有する可撓性容器と,(b)該可撓性容
器に連結されており,その内面にガイドが形成されたカプセルと,
(c)口部が刺通可能な栓で密封されており,前記カプセル内に
保持される薬剤容器と,(d)前記可撓性容器の内部と薬剤容器
の内部とを連通する連通手段と,(e)前記カプセルに気密に被
冠された,前記薬剤容器を下降させるためのキャップと,(f)
前記カプセルのガイドの溝に嵌まるガイド棒を備えており,かつ
薬剤容器の底部に嵌められた押え部材とからなり,前記キャップ
の頂部下面に円弧状の板からなる一対のカムが軸対称に形成され
ており,前記押え部材とカムとが係合しており,キャップの回転
により前記カムが押え部材を介して薬剤容器を下方へ移動させ,
前記連通手段によって薬剤容器の内部と可撓性容器の内部とが連
通されるように構成されたことを特徴とする輸液容器。
【請求項2】略
3333本件特許権本件特許権本件特許権本件特許権3333----3333
特許番号第2752703号
発明の名称輸液バッグ
出願年月日平成1年6月28日(特願平1-165767)
出願公開日平成3年2月7日(特開平3-29659)
登録日平成10年2月27日
特許権者被告
発明者原告,P12
特許請求の範囲
【請求項1】α-オレフィンがブテン-1を主成分とするエチレン/α-オ
レフィン共重合体である直鎖状低密度ポリエチレン15~60重
量%,α-オレフィンがオクテン-1を主成分とするエチレン/
α-オレフィン共重合体である直鎖状低密度ポリエチレン15~
60重量%および分岐状低密度ポリエチレン10~40重量%の重合
体混合物からなる輸液バッグ。
【請求項2,3】略
●●●●意匠権意匠権意匠権意匠権
本件創作意匠本件創作意匠本件創作意匠本件創作意匠3333
登録番号第780294号
意匠に係る物品輸液容器
出願年月日昭和63年10月17日(意願昭63-40744)
登録日平成1年10月27日(平成11年10月27日不納消滅)
意匠権者藤沢薬品工業株式会社(現アステラス製薬株式会社),被告
創作者P22,P23,P3,原告,P11,P7
登録意匠別紙意匠公報2(本件創作意匠3)記載のとおり
(別紙4)
本件特許権等目録4
●●●●特特特特許権許権許権許権
1111本件特許権本件特許権本件特許権本件特許権4444----1111
特許番号第3070044号
発明の名称連通手段を備えた輸液容器
出願年月日平成4年6月5日(特願平4-171930)
出願公開日平成5年12月21日(特開平5-337163)
登録日平成12年5月26日
特許権者被告
発明者原告,P8,P7,P13
特許請求の範囲
【請求項1】薬剤容器との連通口と薬液取出口とをその両端に有する押圧変
形可能な合成樹脂製の溶解液容器と,上下両側に穿刺針を有しハ
ブに係合部が設けられた両頭針と,開放端と前記溶解液容器の連
通口外壁との結合部および該開放端側と結合部を隔てる隔壁を有
し,該隔壁の上面に軸方向の複数の可撓性ガイド棹を設けた,前
記両頭針を下方向スライド可能に収容するガイドカプセル,およ
び該ガイドカプセルの開放端を密封するキャップから構成されて
なり,前記両頭針が係合部でガイドカプセルのガイド棹と係合し
ており,薬剤容器の口部をガイドカプセルに挿着した時にガイド
棹が口部によって拡げられて外側に撓み,該棹から両頭針の係合
部が外れ,両頭針がガイド棹に沿って下方移動されるようにして
なる連通手段を備えた輸液容器。
【請求項2】ガイドカプセルのガイド棹が軸対称に配置され,その上端部お
よび中間部にそれぞれ傾斜面および係止溝が設けられるととも
に,両頭針の係合部がハブの外縁にコの字状に形成されており,
該係合部がガイド棹を挟持するように配置され,係合部の底で係
止溝の下方の段部と係合している請求項1に記載の輸液容器。
【請求項3】ハブの係合部の先端にガイドカプセルの内壁と接触する係止片
を設けてなる請求項1または2に記載の輸液容器。
【請求項4】溶解液容器の連通口側の肩部に突起を設け,ガイドカプセルの
結合部の外側に該突起と結合する結合脚を設けてなる請求項1~
3のいずれかに記載の輸液容器。
2222本件特許権本件特許権本件特許権本件特許権4444----2222
特許番号第3239347号
発明の名称プラスチツクボトルに収容された薬液の滅菌方法,装置,並
びにこれに用いる加熱滅菌用トレー
出願年月日平成5年4月16日(特願平5-113904)
出願公開日平成6年10月25日(特開平6-298228)
登録日平成13年10月12日
特許権者被告
発明者原告,P8,P7
特許請求の範囲
【請求項1】熱水スプレー式レトルト殺菌装置内で,薬液を収容した複数個
のプラスチックボトルを,互いに接触しないように離間させてカ
バー付き水槽型トレー内に配置し,シャワーからの熱水をカバー
の天面に噴出させて,該噴出させた熱水をカバーの天面に設けら
れた熱水注入口を通してトレー内に注入することにより,シャワ
ーからの熱水が直接前記プラスチックボトルに当らないようにす
るとともに,該トレーの水位を前記プラスチックボトル内の薬液
の液位と略同位置に維持しながら,トレー内の熱水を水抜き孔と
オーバーフロー孔によって常時入れ換え循環させることにより,
該トレー内の熱水の温度を所定の温度に維持するとともに,プラ
スチックボトルの内外の圧力を均衡させることを特徴とするプラ
スチックボトルに収容された薬液の滅菌方法。
【請求項2,3】略
●●●●実用新案権実用新案権実用新案権実用新案権
本件実用新案本件実用新案本件実用新案本件実用新案4444
登録番号第2581474号
考案の名称輸液容器の栓体
出願年月日平成5年4月1日(実願平5-22136)
出願公開日平成6年10月25日(実開平6-75496)
登録日平成10年7月10日(平成20年4月1日満了消滅)
実用新案権者被告
考案者P8,P7,原告
実用新案登録請求の範囲
【請求項1】輸液容器の口部を気密に密封するため該口部に固着される栓体
であって,その基端部に前記輸液容器の口部との固着部を有し,
その先端部にゴム栓嵌着部を有する両端の開口した円筒状枠部材
と,該枠部材のゴム栓嵌着部に嵌着されたゴム栓と,前記枠部材
の先端部内周に嵌着されるリブ,および前記ゴム栓嵌着部に嵌着
されたゴム栓を枠部材の基端部側から支持するための薄膜部とか
らなる支持部材と,前記枠部材の先端に,スコアラインまたは捩
切り用薄肉部を形成した接続部を介して接続された,前記枠部材
の先端開口を被覆する,天面の扁平な倒立台とが一体に設けられ
ていることを特徴とする輸液容器の栓体。
(別紙5)
本件特許権等目録5
●特許権特許権特許権特許権
本件特許権本件特許権本件特許権本件特許権5555
特許番号第3281388号
発明の名称輸液用容器
出願年月日平成8年2月9日(特願平8-524504)
出願公開日平成8年8月22日(WO96/25136)
登録日平成14年2月22日
特許権者被告,アステラス製薬株式会社
発明者P3,P24,P25,原告,P14,P15
特許請求の範囲
【請求項1】薬剤収納室と,この薬剤収納室の口部を密封するキャップ部材
と,薬剤収納室の底部に連設される溶解液室を備え,薬剤収納室
は,その底部に溶解液室との連通孔が設けられ,さらにこの連通
孔を薬剤収納室の底部に剥離可能に接着されて密封し,かつ薬剤
収納室内に突出する突出片を有し,キャップ部材は,前記突出片
の先端部に係合される係合部を有し,キャップ部材の回転操作に
より前記突出片が前記キャップ部材の回転軸と直交する平面上で
移動して,前記薬剤収納室の底部から剥離して連通孔を開放する
よう構成したことを特徴とする輸液用容器。
【請求項2】キャップ部材が,刺通可能な栓体と任意にこの栓体に被着され
る蓋部とからなり,その栓体が突出片の先端部に係合される係合
部を有する請求の範囲第1項の輸液用容器。
【請求項3】連通孔が,軸対称に形成された2つの孔からなり,かつ突出片
がそれらの孔を開放移動可能に密封する底部分を有する請求の範
囲第1項の輸液用容器。
【請求項4】略
【請求項5】突出片の底部分が,連通孔の形状に形成して形成され,キャッ
プ部材の回転に伴う摺動移動によって連通孔に開口する開口部又
は切欠きを有する請求の範囲第3項または第4項の輸液用容器。
【請求項6】突出片が,薬剤収納室の底部における連通孔の周縁部分に,キ
ャップ部材の回転操作によって剥離しうる脆弱部を介して薬剤収
納室に一体に突出する請求の範囲第1項の輸液用容器。
【請求項7】突出片が,薬剤収納室の中心から偏心して設けられ,係合部が
それに対応して栓体の底面部分に形成され突出片の先端部を係入
する係合孔である請求の範囲第2項の輸液用容器。
【請求項8】突出片が,薬剤収納室の形成材料に対して相溶性の悪い材料で
形成され,かつキャップ部材の回転操作によってねじり取り可能
に連通孔に溶着された請求の範囲第1項の輸液用容器。
【請求項9】薬剤収納室がポリプロピレンを主成分とし,突出片がポリエチ
レンとポリプロピレンとの混合物,ポリエチレンの共重合体また
はグラフト化物を主成分とし,両者が溶着されてなる請求の範囲
第8項の輸液用容器。
【請求項10~12】略
【請求項13】キャップ部材が,容器を自立した状態に保持可能な自立手段
を具備してなる請求の範囲第1項の輸液用容器。
【請求項14】溶解液室が,その下端にキャップ部材側を下にして吊り下げ
可能な吊り下げ支持部を有する請求の範囲第1項の輸液用容器。
【請求項15~17】略
●●●●意匠権意匠権意匠権意匠権
本件意匠権本件意匠権本件意匠権本件意匠権5555
登録番号第1002627号
意匠に係る物品薬液容器
出願年月日平成8年10月18日(意願平8-31268)
登録日平成9年10月31日
意匠権者被告,アステラス製薬株式会社
創作者P3,P24,P25,原告,P14,P15
登録意匠別紙意匠公報(本件創作意匠5)記載のとおり
(別紙6)
本件特許権目録6
●●●●特許権特許権特許権特許権
1111本件特本件特本件特本件特許権許権許権許権6666----1111((((被告被告被告被告によるによるによるによる実施実施実施実施のののの有無有無有無有無についてについてについてについて争争争争いありいありいありいあり。)。)。)。)
特許番号第3016347号
発明の名称複室容器の製造方法
出願年月日平成7年2月10日(特願平7-22538)
出願公開日平成8年8月27日(特開平8-215285)
登録日平成11年12月24日
特許権者被告
発明者原告,P9
特許請求の範囲
【請求項1】1辺が弱シールされた第1および第2のバッグを形成する工程
と,該第1のバッグと第2のバッグを夫々の弱シール部分同士で
溶着して流体密に接続する工程を含んでなり,第1のバッグの弱
シール部分と第2のバッグの弱シール部分を夫々剥離した時に,
第1のバッグと第2のバッグが液体連通するようにしてなる複室
容器の製造方法。
【請求項2】弱シール部分が,バッグを構成するプラスチックシートの間に
弱シール部形成用シートを挟んで溶着することにより形成された
請求項1に記載の複室容器の製造方法。
【請求項3】第1のバッグの弱シール部分を,弱シール部形成用シートを2
枚のプラスチックシートの中に所定長埋没するように挿着してプ
ラスチックシートと弱シール部形成用シートとの重なり部分を溶
着することにより形成するとともに,第2のバッグの弱シール部
分を,弱シール部形成用シートを筒状プラスチックシートの外に
所定長突出するように挿着してプラスチックシートと弱シール部
形成用シートとの重なり部分を溶着することにより形成し,第1
のバッグの溶着されていない2枚のプラスチックシート部分に第
2のバッグの弱シール部分を挿着して,第1のバッグの弱シール
部形成用シートと第2のバッグの弱シール部形成用シーが隣接
し,かつ第1のバッグの溶着されていない2枚のプラスチックシ
ートの間に第2のバッグの弱接着部分の少なくとも一部が重なる
ようにして,第1のバッグの溶着されていない2枚のプラスチッ
クシート部分と第2のバッグの弱シール部分の重なり部分を溶着
する請求項2に記載の複室容器の製造方法。
【請求項4】弱シール部形成用シートが,バッグを構成するプラスチックシ
ートの内層を形成するプラスチックと該プラスチックと相溶性を
有しないプラスチックとをブレンドした材料で形成された請求項
3に記載の複室容器の製造方法。
2222本件特許権本件特許権本件特許権本件特許権6666----2222((((被告被告被告被告によるによるによるによる実施実施実施実施のののの有無有無有無有無についてについてについてについて争争争争いありいありいありいあり。)。)。)。)
特許番号第3016348号
発明の名称複室容器
出願年月日平成7年3月23日(特願平7-63740)
出願公開日平成8年10月8日(特開平8-257102)
登録日平成11年12月24日
特許権者株式会社ニッショー
発明者P1,P9
特許請求の範囲
【請求項1】乾燥薬剤を収容する第1の室と薬液を収容する第2の室からな
る容器であって,第1の室と第2の室が,1辺が弱シールされた
第1および第2の容器を夫々の弱シール部分同士で溶着して容易
に剥離可能な弱シール部を形成することにより流体密に区画形成
されてなる複室容器。
【請求項2】第1の容器の弱シール部分を,弱シール部形成用シートを2枚
のプラスチックシートの中に所定長埋没するように挿着してプラ
スチックシートと弱シール部形成用シートとの重なり部分を溶着
することにより形成するとともに,第2の容器の弱シール部分を,
弱シール部形成用シートを筒状プラスチックシートの外に所定長
突出するように挿着してプラスチックシートと弱シール部形成用
シートとの重なり部分を溶着することにより形成し,第1の容器
の溶着されていない2枚のプラスチックシート部分に第2の容器
の弱シール部分を挿着して,第1の容器の弱シール部形成用シー
トと第2の容器の弱シール部形成用シーが隣接し,かつ第1の容
器の溶着されていない2枚のプラスチックシートの間に第2の容
器の弱接着部分の少なくとも一部が重なるようにして,第1の容
器の溶着されていない2枚のプラスチックシート部分と第2の容
器の弱シール部分の重なり部分を溶着してなる請求項1に記載の
複室容器。
【請求項3】弱シール部形成用シートが,容器を構成するプラスチックシー
トの内層を形成するプラスチックと該プラスチックと相溶性を有
しないプラスチックとをブレンドした材料で形成された請求項2
に記載の複室容器。
3333本件特許権本件特許権本件特許権本件特許権6666----3333((((被告被告被告被告によるによるによるによる実施実施実施実施のののの有無有無有無有無についてについてについてについて争争争争いいいいありありありあり。)。)。)。)
特許番号第3104215号
発明の名称薬液容器の高圧蒸気滅菌方法
出願年月日平成3年8月29日(特願平3-244563)
出願公開日平成5年3月9日(特開平5-57000)
登録日平成12年9月1日
特許権者被告
発明者原告
特許請求の範囲
【請求項1】薬液容器を横たえて底面又は側面に穴のあいたトレーに置き,
トレーに滅菌用水をためて薬液容器の浮力を発生させた状態で,
薬液容器を滅菌するに際し,滅菌用水の水位を薬液容器の上面位
置よりも低く,薬液容器内の薬液の水位よりも高くさせて滅菌す
ることを特徴とする薬液容器の高圧蒸気滅菌方法。
4444本件特許権本件特許権本件特許権本件特許権6666----4444
特許番号第3799970号
発明の名称耐熱性シート及びこれを用いた輸液バッグ
出願年月日平成12年6月22日(特願2000-187338)
出願公開日平成13年6月26日(特開2001-172441)
登録日平成18年5月12日
特許権者被告
発明者P10,P16,原告,P17
特許請求の範囲
【請求項1】密度0.928g/cm3以上のメタロセン触媒系直鎖状ポリ
エチレン45~75重量%と,高圧法低密度ポリエチレン5~3
5重量%と,密度0.91g/cm3以下のメタロセン触媒系直
鎖状ポリエチレン15~45重量%を含む重合体組成物から形成
されてなる耐熱性シート。
【請求項2】密度0.928g/cm3以上のメタロセン触媒系直鎖状ポリ
エチレン50~70重量%と,高圧法低密度ポリエチレン10~
30重量%と,密度0.91g/cm3以下のメタロセン触媒系
直鎖状ポリエチレン20~40重量%を含む重合体組成物から形
成されてなる,請求項1記載の耐熱性シート。
【請求項3】請求項2のシートを用いてバッグの本体の壁を構成してなる,
耐熱性に優れた輸液バッグ。
●●●●実用新案権実用新案権実用新案権実用新案権
本件実用新案権本件実用新案権本件実用新案権本件実用新案権6666((((被告被告被告被告によるによるによるによる実施実施実施実施のののの有無有無有無有無についてについてについてについて争争争争いありいありいありいあり。)。)。)。)
登録番号第1982623号
考案の名称医療用バッグのポート
出願年月日昭和63年3月28日(実願昭63-40604)
出願公開日平成1年10月3日(実開平1-144037)
登録日平成5年8月27日(平成14年11月13日満了消滅)
実用新案権者被告
考案者原告
実用新案登録請求の範囲
【請求項1】全体が熱可塑性樹脂で管状に形成されており,ポートキャップ
との溶着面を有するフランジ状の口部と,外径が該口部の外径よ
りも小径であり横断面形状が円形の薬液通路部,とからなる医療
用バッグの口部材において,前記薬液通路部のバッグを構成する
フィルムとの溶着部分が扁平に,かつ該扁平な溶着部分の外径が
該薬液通路部の円形部分の外径以下の大きさに形成されたことを
特徴とする医療用バッグのポート。
【請求項2】略

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